特許第5928468号(P5928468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928468ガラスセラミックス体、発光素子搭載用基板、および発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928468
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス体、発光素子搭載用基板、および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/22 20060101AFI20160519BHJP
   H01L 33/48 20100101ALI20160519BHJP
【FI】
   C04B35/22
   H01L33/00 400
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-527995(P2013-527995)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2012069751
(87)【国際公開番号】WO2013021921
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-172889(P2011-172889)
(32)【優先日】2011年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正道
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−100517(JP,A)
【文献】 特開平09−071472(JP,A)
【文献】 特開2004−186163(JP,A)
【文献】 特開2002−111210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
H01L 23/13
H01L 23/15
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマトリックス中に扁平フィラーが分散されたガラスセラミックス体であって、
前記ガラスマトリックスが結晶化しておらず、
前記扁平フィラーは、個々の厚さ方向が略同一方向となるように前記ガラスマトリックス中に分散されており、
前記ガラスセラミックス体における前記扁平フィラーの厚さ方向に沿った断面において、前記扁平フィラーの扁平方向の長さが0.5〜20μm、かつ前記扁平フィラーの厚さ方向の長さが0.02〜0.25μmである扁平フィラーの占有面積が当該断面の単位面積当たり30〜48%であることを特徴とするガラスセラミックス体。
【請求項2】
前記扁平フィラーの占有面積のうち、平均断面粒子アスペクト比が25以上である扁平フィラーの占有面積が30〜48%である請求項1に記載のガラスセラミックス体。
【請求項3】
前記扁平フィラーの占有面積のうち、平均断面粒子アスペクト比が25〜80である扁平フィラーの占有面積が30〜48%である請求項1又は2に記載のガラスセラミックス体。
【請求項4】
前記扁平フィラーは、アルミナ、マイカ、シリカ、および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種からなる請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体。
【請求項5】
前記ガラスセラミックス体は、厚み300μmの平板状としたときの波長460nmでの反射率が83%以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体。
【請求項6】
前記ガラスセラミックス体の曲げ強度が180MPa以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体。
【請求項7】
前記ガラスマトリックスは、酸化物基準表示でCaOを15〜40mol%含有するSiO−B系ガラスからなる請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体。
【請求項8】
前記ガラスセラミックス体は、ZrO粒子を含有しており、厚み300μmの平板状としたときの波長460nmでの反射率が90%以上であり、曲げ強度が180MPa以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体。
【請求項9】
発光素子を搭載するための発光素子搭載用基板であって、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のガラスセラミックス体を有することを特徴とする発光素子搭載用基板。
【請求項10】
請求項に記載の発光素子搭載用基板と、
前記発光素子搭載用基板に搭載された発光素子と
を有することを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス体、発光素子搭載用基板、および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード素子等の発光素子を有する発光装置の高輝度、白色化に伴い、携帯電話や液晶TVのバックライト等に発光素子を有する発光装置が用いられている。このような発光装置における基板には、熱伝導性が高く、発光素子から発生する熱を速やかに放散できるとともに、反射率が高く、生産性が良好なことが求められている。
また、発光素子の実装時に、基板にかかる応力による欠けや破断等を防止する必要があることから、所定の強度も求められる。
【0003】
このような要求に対応し、発光装置の基板にガラスセラミックス基板を用いることが検討されている。ガラスセラミックス基板は、ガラス粉末とアルミナ粉末等のセラミックス粉末とからなり、ガラスとセラミックスとの屈折率差が大きく、かつこれらの界面が多いことから、従来のセラミックス基板に比べて高い反射率が得られる。しかし、発光素子搭載用基板として用いるためには、より高い反射率が求められる。
また、ガラスセラミックス基板については、各種特性のばらつき、例えば、反射率、強度等のばらつきを少なくする観点から、焼成時の収縮抑制も求められている。
【0004】
ガラスセラミックス基板の反射率を高めるために、アルミナ粒子よりも高い屈折率を有するセラミックス粒子、すなわち高屈折率粒子を含有させることが検討されている。しかし、高屈折率粒子を含有させたものでは、アルミナやシリカ(SiO)等のフィラーを含有させたものと比べて焼結性が低下しやすい。その結果、フィラーの含有量を多くできないか、またはガラスの組成が制限され、設計の自由度が低下する。そこで、ガラス組成を広い範囲から選択できるように、ガラスとの焼結性が良好なアルミナ粒子を用いて、反射率を高くするとともに、焼成収縮を少なくすることが求められている。
【0005】
ガラスセラミックス基板の焼成収縮を抑制する方法として、セラミックス粒子としてアスペクト比が5の扁平状のものを所定方向に配向させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、強度を向上させる方法として、アスペクト比が4以上10以下のセラミックス粒子を分散・含有させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1および2に記載された方法では、いずれの場合も、発光素子搭載用基板として十分に高い反射率は得られなかった。
【0007】
特許文献3では、ガラスとセラミックス粒子とを含有するガラスセラミックス基板で反射率を向上させる方法が記載されている。ここには、0.3〜1.0μmの粒子径を有するセラミックス粒子の粒子群の占有面積を、当該ガラスセラミックス基板の上方からみた断面において、10〜70%とした高反射率の光反射体が提案されている。
【0008】
特許文献3に記載の光反射体では、粒子径が0.3〜1.0μmという微細なセラミックス粒子をガラス中に所定量含有させることで、高い反射率を得ている。しかし、このような微細なセラミックス粒子をガラス中に多量に含有させた場合、ガラスセラミックス体の焼結性が低下しやすく、基板の強度低下や、基板表面における空孔の生成が生じやすくなる。
このようなガラスセラミックス体を発光素子搭載用基板に用いた場合、発光素子の実装時に基板にかかる応力による欠けや、分割後の個片上での破断等が生じやすくなり、歩留まりの低下を招くおそれがある。
【0009】
また、上述した特許文献3のガラスセラミックス体では、結晶化度が50%以上とされており、焼成時において、ガラス成分の結晶化により流動性、焼結性が低下しやすく、基板内や基板表面に空孔が生じやすくなる。
基板内に空孔が生じた場合、反射率が若干高まるものの、基板強度が低下し、またメッキ処理に用いるメッキ液が、空孔から基板内部に侵入しやすくなる。このため、発光素子搭載後において、接続不良等の不具合を生じ、信頼性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本特開平9−71472号公報
【特許文献2】日本特開2002−111210号公報
【特許文献3】日本特開2007−121613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、基板を透過して入射方向以外に漏れる(すなわち、出射する)光が低減されるとともに、基板表面や基板内部の空孔が少なく、発光素子搭載時における欠けや、分割時における破断等を抑制できるガラスセラミックス体の提供を目的とする。
また、本発明は、このようなガラスセラミックス体を用いた発光素子搭載用基板、発光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガラスセラミックス体は、ガラスマトリックス中に扁平フィラーが分散されたガラスセラミックス体であって、前記ガラスマトリックスが結晶化しておらず、前記扁平フィラーは、個々の厚さ方向が略同一方向となるように前記ガラスマトリックス中に分散されており、前記ガラスセラミックス体における前記扁平フィラーの厚さ方向に沿った断面において、前記扁平フィラーの扁平方向の長さが0.5〜20μm、かつ前記扁平状のセラミックス粒子の厚さ方向の長さが0.02〜0.25μmである扁平フィラーの占有面積が当該断面の単位面積あたり30〜48%であることを特徴とする。
上記した数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
【0013】
本発明の発光素子搭載用基板は、発光素子を搭載するための発光素子搭載用基板であって、上記した本発明のガラスセラミックス体を利用することを特徴とする。
【0014】
本発明の発光装置は、上記した本発明の発光素子搭載用基板と、前記発光素子搭載用基板に搭載された発光素子とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラスセラミックス体によれば、厚さ方向の断面において、所定形状の扁平フィラーを、所定範囲の量で含有させることで、表面および内部における空孔生成が抑制され強度の低下を防げる。また、内部に空孔が少ない状態でも、高反射率が可能となる。
また、このようなガラスセラミックス体を適用することで、十分な発光輝度を得られ、また発光素子搭載時における欠けや、分割時における破断を抑制され、さらに基板内へのメッキ液の侵入による接続不良等の不具合の発生が抑制された発光素子搭載用基板、発光装置とできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態のガラスセラミックス体を示す模式的断面図。
図2】本発明のガラスセラミックス体における扁平状のアルミナ粒子の厚さ方向に沿った断面を示す模式的断面図。
図3】本発明の実施形態の発光装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態の説明図であり、扁平状のセラミックス粒子12(本明細書では、扁平状のセラミックス粒子を扁平フィラーとも記載する。)が、板状に配向している面での模式断面図を示す。なお、図中の扁平フィラーは模式的に平行四辺形の板状として表している。図2は、図1の断面とは法線方向の関係にある断面での模式図を示す(扁平フィラーの厚さ方向の断面図に相当)。図中、ガラスセラミックス体10は、扁平フィラー12が、個々の厚さ方向が略同一方向となるようにガラスマトリックス11中に分散されている。
【0019】
すなわち、扁平フィラー12は、それぞれの粒子の扁平面が一定の平面と平行となるように分散している。例えば、ガラスセラミックス体10を発光素子搭載用基板21(以下、単に基板と記載することもある。)に適用する場合、扁平フィラー12の扁平面が発光素子搭載用基板の主面である搭載面と平行となるように分散している。なお、扁平フィラー12における厚さ方向とは、例えば図2に示す場合については図中、上下方向であり、扁平方向(すなわち、長さ方向)とは、この厚さ方向に垂直な方向(図2中の左右方向)である。
【0020】
ガラスマトリックス11としては、特に限定されないが、焼成後に結晶化していないもの、すなわち、非晶質であることが好ましい。
ガラスマトリックス11が結晶化していないとは、原料粉末としてのガラス粉末に由来するガラスから析出した結晶が存在しないことを意味する。ガラスマトリックス11が結晶化していないことの確認は、X線回折により行うことができる。この判定は、X線回折スペクトルにおけるアルミナ粒子等のセラミックス粒子に由来するピークの最高強度(絶対値)を100としたとき、絶対値が10以上の強度を有するガラス由来のピークが現出しないものを結晶化していないとする。
【0021】
このようなガラスセラミックス体10によれば、焼成時にガラスマトリックス11に結晶が析出しないことから、焼成収縮のばらつきを抑制できる。これにより、各種特性のばらつき、例えば、反射率、強度等のばらつきを抑制できる。また、結晶が析出しないことから、熱膨張係数の変化が抑制され、反り等の発生も抑制できる。さらに、結晶が析出することによるガラスの減少を抑制できることから、扁平フィラー12を含むセラミックス粒子の導入量を増やすことができる。
【0022】
本発明のガラスセラミック体では、図2のような断面を実体顕微鏡で観察したとき、扁平フィラー12は、個々の厚さ方向が略同一方向となるようにガラスマトリックス11に分散されている。扁平フィラー12は、扁平方向(図2中の左右方向)の長さが0.5〜20μm、厚さ方向(図2中の上下方向)の長さが0.02〜0.25μmである。略同一方向とは、実体顕微鏡で観察したときに、同一方向と視認できることをいう。
このため、扁平度の小さいセラミックス粒子が分散された基板と比べて、入射光がガラスとセラミックス粒子との界面に衝突する回数が増大する。界面に衝突した光は、ガラスとセラミックス粒子との屈折率の違いにより反射あるいは屈折を繰り返すため、基板を厚さ方向に透過して上方以外に漏れる(すなわち、出射する)光が低減される。したがって、基板の上方に戻る反射光量を増大させることができる。
【0023】
また、扁平フィラー12を使用し、かつ個々の厚さ方向を略同一方向とすることで、その扁平方向における焼成収縮を抑制でき、高い寸法精度を実現できる。このようなものについては、扁平フィラー12の扁平方向の大きさを調整することで、同方向における焼成収縮を制御できる。
【0024】
なお、上記した扁平方向の平均長さ、厚さ方向の平均長さは、ガラスセラミックス体10を図2のような厚さ方向に沿った平面で切断し、走査型顕微鏡(SEM)、画像解析装置を用いて、その任意の断面100μmにおける個々の扁平フィラー12の扁平方向の長さ、厚さ方向の長さを少なくとも20点以上測定して得られた値の平均である。また、ガラスセラミックス体がドクターブレード法からなるグリーンシートを焼成して得られる場合には、その切断方向は、ドクターブレード法の成形方向と略平行な方向とする。本明細書において、特に断りのない限り、略平行とは、目視レベルで平行と視認できることをいう。
【0025】
以下、扁平フィラー12の厚さ方向に沿ったガラスセラミックス体10の断面において、扁平フィラー12の扁平方向(図2中、左右方向)の長さを『長径』とも記し、厚さ方向(図2中、上下方向)の長さを『短径』とも記す。
【0026】
ガラスセラミックス体10は、長径が0.5〜20μm、短径が0.02〜0.25μmである扁平フィラー12を含有している。そして、図2で示すように扁平フィラーの厚さ方向に沿った断面において、長径および短径の長さが上記範囲を満たす扁平フィラー12は、当該断面の単位面積あたりの占有面積が30〜48%となるように分散して含有されている。より好ましくは35〜45%である。
扁平フィラー12の割合を30%以上とすることで、厚さ方向での扁平フィラー12の層数が増え、入射光がガラスマトリックス11と扁平フィラー12との界面に衝突する回数を増加させて高い反射率が得られるとともに、焼成収縮を抑制できる。
一方、扁平フィラー12の割合を48%以下とすることで、ガラスマトリックス11の割合が低下することによる焼結性の低下も抑制できる。扁平フィラー12の割合が48%を超えると、ガラスと扁平フィラー12との焼結性が低下し、基板の表面や内部に空孔が生じやすくなり、基板強度が低下する。
【0027】
なお、上記した扁平フィラー12の面積についても、上記した長径や短径を求める場合と同様に、ガラスセラミックス体10を切断し、走査型顕微鏡(SEM)、画像解析装置を用いて、その任意の断面100μmにおいて、長径及び短径の長さが上記の範囲を満たすものについて、その個々の扁平フィラー12の面積を測定し、合計して算出できる。上記範囲を満足する扁平フィラーであれば、例えば、アルミナとマイカのように化学組成が異なる扁平フィラーを用いる場合であっても全て合算するものとする。
【0028】
上記した長径及び短径を得るための扁平フィラー12の大きさとしては、原料粉末としての扁平フィラー12自体の大きさとして、長径の最大長さの平均である平均最大長さが0.5〜20μm、短径の平均値である平均長さが0.02〜0.25μmのものが好ましい。また、この平均長さに対する平均最大長さの割合である平均アスペクト比(平均最大長さ/平均長さ)が25〜80のものが好ましい。後述するように、この平均アスペクト比は、断面粒子アスペクト比とも称する。
【0029】
なお、原料粉末としての扁平フィラー12は、平均アスペクト比が異なるものを混合して使用できる。この場合、個々の扁平フィラー12の平均アスペクト比とその存在割合とをかけた値の合計値を、みかけ上の平均アスペクト比とする。
【0030】
上記した面積を得るための原料粉末としての扁平フィラーの配合割合としては、ガラス粉末と扁平フィラーとの合計量に対して、扁平フィラーを35〜60質量%とすることが好ましい。扁平フィラーのより好ましい配合割合は40〜58質量%であり、さらに好ましくは45〜55質量%である。扁平フィラーの割合を35質量%以上とすることで、入射光がガラスマトリックス11と扁平フィラー12との界面に衝突する回数を増加させて高い反射率が得られるとともに、焼成収縮を抑制できる。一方、扁平フィラーの割合を60質量%以下とすることで、ガラスマトリックス11の割合が低下することによる焼結性の低下も抑制できる。
【0031】
また、ガラスセラミックス体10は、図2で示すような断面において、長径が0.5〜20μm、短径が0.02〜0.25μmである扁平フィラー群の占有面積の中で、アスペクト比(以下、断面粒子アスペクト比という)が25以上である扁平フィラーの占有面積が30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが特に好ましい。
なお、扁平フィラー12の断面粒子アスペクト比は、短径に対する長径の割合であり、(長径/短径)で表わされる値である。扁平フィラー12の断面粒子アスペクト比が25〜80であることが好ましい。
【0032】
扁平フィラー12としては、例えば、アルミナ、マイカ、シリカ、および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種からなるセラミックスからなるものが好ましく用いられる。これらの中でも、アルミナ、マイカが好適に使用される。アルミナとしては、水熱合成で得られたアルミナ(例えば、キンセイマテック社製、商品名;セラフ)などが好ましいものとして例示される。
【0033】
また、上記に代表される扁平フィラー12の一部を、Al、SiO、ZrO、TiO、MgO、ムライト、AlN、Si、SiC、フォルステライト、コージライト等のアスペクト比が3以下の扁平ではない粒状(以下、不定形と記載する)のフィラー(セラミック粒子)で置換してもよい。不定形のフィラーの置換量は、ガラスセラミックス体全体の23質量%を占める量までである。
【0034】
ガラスセラミックス体10は、図2で示すような断面を観察したとき、扁平フィラー12の長径の平均長さは0.5〜20μmであることが好ましく、短径の平均長さは0.02〜0.25μmであることが好ましい。また、この短径の平均長さに対する長径の平均長さの割合である平均アスペクト比(長径の平均長さ/短径の平均長さ)を本明細書では平均断面粒子アスペクト比といい、これが25〜80であることが好ましい。
【0035】
ガラスマトリックス11を構成するガラスは、焼成時の焼成温度域で結晶を生じないものであれば必ずしも限定されないが、扁平フィラー等のセラミックス、特にアルミナとの屈折率差が0.15以上のものが好ましい。すなわち、ガラスの屈折率をa、アルミナの屈折率をbとしたとき、(b−a)の絶対値は0.15以上が好ましく、0.17以上がより好ましく、0.19以上が特に好ましい。ガラスとアルミナとの屈折率差を0.15以上とすることで、界面での散乱を良好とし、反射率を高くできる。
【0036】
このようなガラスとしては、SiO−B系のガラスが好ましく、SiO−B−MO系(M:アルカリ土類)のガラスがより好ましく、SiO−B−Al−MO系(M:アルカリ土類)のガラスが特に好ましい。
【0037】
このようなガラスの屈折率はアッペンの係数を用いて算出することができる。アルカリを含むケイ酸塩ガラスにおける各成分の加成性因子(係数)を表1に示す。(出典:ア.ア.アッペン:ガラスの化学、日ソ通信社(1974)PP.318)
【0038】
【表1】
【0039】
上記した各系のガラスにおいて、ガラスのネットワークフォーマーとなるSiOやB、ガラスの安定性、化学的耐久性、および強度を高めるAlは、屈折率が低いガラスを作製するためにも一定割合以上含有させることが好ましい。SiO、B、およびAlの合計含有量は、57mol%以上が好ましく、より好ましくは62mol%以上、さらに好ましくは67mol%以上である。
【0040】
ガラスセラミックス体10における反射率を高めつつ、強度低下を抑制する観点から、ガラスのBの含有量は10mol%以上とすることが好ましい。
一般に、ZrOフィラーは高屈折率を有するものの、ガラスとの焼結性に劣るため、これをガラスマトリックス11に配合した場合、ガラスとZrOフィラーとの焼結不足により、基板の強度を低下したり、基板の内部に空孔を生じたりすることがある。
の含有量を10mol%以上とすることで、ガラスとZrOフィラーとの焼結性が高められるため、セラミックス粒子としてZrOフィラーを用いた場合でも、空孔の生成や強度の低下が生じ難いものとできる。
【0041】
アルカリ土類金属酸化物は、ガラスの安定性を高めるとともに、ガラス溶融温度やガラス転移点(Tg)を低下させ、焼結性を向上させるために添加される。扁平フィラーを使用する場合、アルカリ土類金属酸化物としては、ガラスセラミックス体10の焼結性を良好にできることから、特にCaOが好ましい。アルカリ土類金属酸化物の含有量は、ガラスの安定性、ガラス溶融温度、ガラス転移点(Tg)、焼結性等の観点から、15〜40mol%が好ましい。アルカリ土類金属酸化物の含有量を15mol%以上とすることで、ガラス溶融温度の過度な上昇を抑制できる。一方、アルカリ土類金属酸化物の含有量を40mol%以下とすることで、ガラスの屈折率が過度に大きくなることを抑制し、セラミックス粒子との屈折率差を大きくして反射率を高くできる。アルカリ土類金属酸化物の含有量は、より好ましくは18〜38mol%、さらに好ましくは20〜35mol%である。
【0042】
ガラス転移点(Tg)を低下させるKO、NaOなどのアルカリ金属酸化物は、0〜10mol%の範囲で添加できる。これらのアルカリ金属酸化物は、アルカリ土類金属酸化物と比較して屈折率を上昇させる度合いが著しく低いことから、低屈折率のガラスを作製する観点からは含有させることが好ましい。しかし、KOおよびNaOの合計した含有量が10mol%を超える場合、化学的耐久性、特に耐酸性が低下するおそれがあり、電気的絶縁性も低下するおそれがある。KOおよびNaOの合計した含有量は、1〜8mol%が好ましく、より好ましくは1〜6mol%である。
【0043】
ZnO、TiO、SnOは、アルカリ土類金属酸化物と同様に軟化点を低下させる目的で添加することができる。しかし、これらの成分は他の添加成分と比較して屈折率を上昇させる度合いが大きいことから、20mol%以下が好ましい。
ガラスマトリックスのガラスの代表的な例として、酸化物基準表示でCaOを15〜40mol%含有するSiO−B系ガラスが挙げられる。このガラスにおいて、SiOは、38〜60mol%であり、Bは、13〜25mol%であるのが好ましい。
【0044】
なお、ガラスは、必ずしも上記成分からなるものに限定されず、屈折率差等の諸特性を満たす範囲で他の成分を含有できる。他の成分を含有する場合、その合計した含有量は10mol%以下が好ましく、5mol%以下が好ましい。
【0045】
扁平フィラー12として、例えば扁平状のアルミナ粒子は、水酸化アルミニウムの水熱合成により扁平状のベーマイト粒子を製造し、このベーマイト粒子を熱処理する方法により製造されたものが好ましい。このような方法によれば、ベーマイト粒子の熱処理、特に熱処理温度を調整することにより、結晶構造を調整できる。以下、具体的に製造方法を説明する。
【0046】
まず、水酸化アルミニウムを含む反応原料と水をオートクレーブ内に充填し、加圧加温し、無撹拌下または低速撹拌下にて水熱合成を行う。この水熱合成により得られた反応生成物を洗浄、濾過、乾燥し、ベーマイト粒子を得る。
【0047】
反応原料には、pH値を8以上、好ましくは11以上に調整するためpH調整剤を必要に応じて加えればいい。pH調整剤として、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類の水酸化物、もしくはバリウム、カルシウム、およびストロンチウム等のアルカリ土類金属類の水酸化物、又はこれらのアルミン酸塩が例示される。
【0048】
pH調整剤を反応原料に添加し、アルカリ性の反応系とすることで、原料である水酸化アルミニウムの溶解度が増し、反応時間の短縮を図ることができるとともに、無添加の場合と比較して得られるベーマイト粒子のサイズを大きくできる。
【0049】
反応原料として投入される水の量は、水酸化アルミニウムに対して質量比で2〜25倍とすることが好ましい。この質量比が2倍未満では反応原料を充分に反応させることができず、一方、25倍を超えると無駄な水の量が増加して製造コストが高くなるとともに生産性が低下するおそれがある。
【0050】
また、反応原料に(メタ)アクリル酸エステル系の単量体または重合体を添加することが好ましい。これにより扁平状のベーマイト粒子、すなわち扁平状のアルミナ粒子が得やすくなるからである。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル系の単量体とは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを示しており、これらを総称して(メタ)アクリル酸エステルと記す。(メタ)アクリル酸エステルをより具体的に例示すると、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ヘキサデシル等が挙げられる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル系の重合体とは、上記した(メタ)アクリル酸エステルの単一種からなる重合体の他に、これらの共重合体、さらには(メタ)アクリル酸エステルと、エチレン、スチレン等といった異なる単量体とからなる重合体または共重合体を含むものとする。
【0053】
水熱合成時のオートクレーブ内の温度は110〜300℃が好ましい。110℃未満では反応生成物としてベーマイト粒子を得ることが困難であり、300℃を超えるとその温度を維持するのに大量のエネルギーが消費され原価面で不利である。
【0054】
反応時間は、撹拌または静置下のそれぞれの状況に応じて加熱時間は異なるが、好ましくは4〜24時間である。4時間未満では水酸化アルミニウムが未反応となるおそれがある。一方、24時間を超えて反応させると生産性が低下し、原価面で不利となる。
【0055】
アルミナ粒子は、上述の方法で得られるベーマイト粒子を、例えば、電気炉等で450〜1500℃の温度で焼成することによって製造できる。このとき、450〜900℃ではγ−アルミナ型の結晶構造、900〜1100℃ではδ−アルミナ型の結晶構造、1100〜1200℃ではθ−アルミナ型の結晶構造、1200〜1500℃ではα−アルミナ型の結晶構造が主に得られる。
【0056】
ベーマイト粒子を焼成して得られるアルミナ粒子は、焼成前のベーマイト粒子の形状を保持しており、これはアルミナの種類によらない。従って、ベーマイト粒子として扁平状のものを用いることで、扁平状のアルミナ粒子を得ることができる。
【0057】
焼成時間は、好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは1.5〜3.5時間である。1時間未満では焼成が不十分となってアルミナ粒子を得ることが困難である。また、4時間以内でアルミナ化がほぼ完了するので4時間を超える焼成は経済的でない。
【0058】
アルミナ粒子の製造方法としては、上記方法が好ましいものとして挙げられるが、必ずしも上記した方法に限られず、所定の結晶構造や形状が得られるものであれば公知の製造方法を適宜採用できる。
【0059】
以上、本発明のガラスセラミックス体10について説明したが、上述したように、セラミックス粒子としては、必ずしもその全てが扁平フィラーである必要はなく、必要に応じて、かつ本発明の目的に反しない限度において、不定形のフィラーを含有させることができる。
【0060】
ガラスセラミックス体10の平均曲げ強度は、180MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であることがより好ましい。
【0061】
ガラスセラミックス体10は、厚み300μmの平板状としたときの、波長460nmでの反射率が83%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ガラスセラミックス体10にZrOフィラーを含有させた場合、より高い反射率を得られるため好ましい。
【0062】
次に、ガラスセラミックス体10を適用した発光素子搭載用基板、および発光装置について説明する。
【0063】
図3は、本発明のガラスセラミックス体10を適用した発光装置20を示す断面図である。
発光装置20は、少なくとも一部がガラスセラミックス体10からなる発光素子搭載用基板21を有する。基板21には、例えば2個の発光素子22が搭載され、ボンディングワイヤ23によって電気的に直列に接続されるとともに、これら発光素子22とボンディングワイヤ23とを覆うように封止層24が設けられて発光装置20とされる。
【0064】
基板21は、例えば、略平板状の基板本体211と、この基板本体211の発光素子22の搭載面となる表面に設けられる枠体212で構成される。基板本体211の搭載面には一対の素子接続端子213が設けられ、裏面には外部回路と電気的に接続される一対の外部接続端子214が設けられる。基板本体211の内部には、これら素子接続端子213と外部接続端子214とを電気的に接続する一対の貫通導体215が設けられている。なお、本明細書において、略平板状とは、目視レベルで平板と視認できることをいう。
【0065】
このような基板21については、例えば、素子接続端子213、外部接続端子214、および貫通導体215等の導体部分を除いた部分が、本発明のガラスセラミックス体10とされる。なお、ガラスセラミックス体10とされる部分は、導体部分以外の少なくとも一部であればよく、例えば、基板本体211における導体部分以外であってもよい。
【0066】
また、このような基板21については、扁平フィラー12は、通常、その厚さ方向が基板21の厚さ方向と一致するように、言い換えれば、扁平フィラーの扁平面が基板21の搭載面および裏面と略平行となるように分散される。
【0067】
次に、発光素子搭載用基板20の製造方法について説明する。
【0068】
まず、ガラス粉末と扁平フィラーとを少なくとも含むガラスセラミックス組成物に、バインダーと、必要に応じて可塑剤、溶剤、レベリング剤、分散剤等を添加してスラリーを調製する。これをドクターブレード法等によりシート状に成形し、乾燥させることで、グリーンシートを製造する。
【0069】
ガラス粉末は、上記したようなガラス成分を含有するガラスを溶融法によって製造し、乾式粉砕法や湿式粉砕法によって粉砕して得られる。湿式粉砕法の場合、溶媒として水を用いることが好ましい。粉砕は、例えばロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機が使用できる。
【0070】
ガラス粉末の粒径は、50%粒径(D50)で0.5〜3μmが好ましい。ガラス粉末の50%粒径が0.5μm未満の場合、ガラス粉末が凝集しやすく、取り扱いが困難となるばかりでなく、均一に分散させることが困難となる。一方、ガラス粉末の50%粒径が3μmを超える場合には、ガラス軟化温度の上昇や焼結不足が発生するおそれがある。粒径は、例えば粉砕後に必要に応じて分級により調整できる。なお、本明細書中で示される粉末の粒径は、レーザ回折・散乱法による粒子径測定装置(日機装社製、商品名:MT3100II)により得られるものである。
【0071】
一方、扁平フィラーとしては、図2で示すような断面において、扁平フィラー12の長径が0.5〜20μm、かつ短径が0.02〜0.25μmである。
【0072】
このようなガラス粉末と扁平フィラーとからなるガラスセラミックス組成物に、バインダーを配合し、必要に応じて溶剤(有機溶剤)、可塑剤等を添加することにより、スラリーが得られる。
扁平フィラーの配合割合としては、ガラス粉末と扁平フィラーとの合計量に対して、扁平フィラーを35〜60質量%、より好ましくは40〜58質量%とすることが好ましい。
【0073】
バインダーとしては、例えばポリビニルブチラール、アクリル樹脂等を好適に使用できる。可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等を使用できる。また、溶剤としては、トルエン、キシレン、ブタノール等の芳香族系またはアルコール系の有機溶剤を使用できる。芳香族系の溶剤とアルコール系の溶剤を混合して用いることが好ましい。さらに、分散剤やレべリング剤を併用することもできる。
【0074】
スラリーの組成は、例えば、固形分(ガラス粉末+アルミナ扁平フィラー)を54.1質量%、有機溶剤(トルエンとキシレンとイソプロピルアルコール(2−プロパノール)および2−ブタノールの混合溶剤)を36.5質量%、分散剤を0.8質量%、可塑剤を3.2質量%、バインダーである樹脂を5.4質量%とする。
【0075】
スラリーの調製では、有機溶剤に必要に応じてレベリング剤と分散剤を混合した混合溶剤に、ガラス粉末とアルミナ粉末とを少なくとも加え、ZrOをメディアとしたボールミルで撹拌する。そこに、バインダーである樹脂を有機溶剤に溶解させたビヒクルを添加し、プロペラ付き撹拌棒で撹拌した後、メッシュフィルターを用いてろ過する。真空引きしながら撹拌することで、内部に閉じ込められた気泡を脱泡できる。
【0076】
次いで、得られたスラリーを、離形剤が塗布されたPETフィルム上に、例えばドクターブレードを用いて塗布してシート状に成形し、乾燥させることで、グリーンシートを製造する。扁平フィラーは、このグリーンシートの成形により、個々の短径が略同一方向となるように配向させることができる。
【0077】
すなわち、ドクターブレード法による塗布の際に、ガラス粉末と扁平フィラー等を含むスラリーは、ドクターブレード装置のブレード部の先端とフィルムの表面とによって形成される間隙を通過することから、スラリーの流れ(流線)がフィルムの搬送方向に沿うこととなる。このとき、スラリー中に分散された扁平フィラーもスラリーの流れに沿うように前記間隙を通過する。そのため、グリーンシート内における扁平フィラーは、扁平面の方向がシートの面方向に平行になるように配向される。
【0078】
グリーンシートには、未焼成素子接続端子213、未焼成外部接続端子214、未焼成貫通導体215等の未焼成導体を形成する。未焼成導体の形成方法は、特に限定されるものではなく、スクリーン印刷法により導体ペーストを塗布する。導体ペーストとしては、例えば銅、銀、金、アルミニウム等のいずれかを主成分とする金属粉末に、エチルセルロース等のビヒクル、必要に応じて溶剤等を添加してペースト状としたものを使用できる。その中でも、銀粉末や銅粉末が好ましい。
【0079】
次いで、上記したようなグリーンシートを位置合わせしつつ複数枚重ね合わせた後、熱圧着により一体化する。その後、バインダー等を分解・除去するための脱脂を行った後、焼成を行ってガラスセラミックス組成物を焼結させ、基板21を得る。
【0080】
脱脂は、例えば500〜600℃の温度で1〜10時間保持して行う。脱脂温度が500℃未満または脱脂時間が1時間未満の場合には、バインダー等を十分に分解・除去できないおそれがある。脱脂温度を600℃程度とし、脱脂時間を10時間程度とすれば、十分にバインダー等を除去できるが、この時間を超えるとかえって生産性等が低下するおそれがある。
【0081】
焼成は、例えば850〜900℃の温度で20〜60分保持して行い、特に860〜880℃の温度で行うことが好ましい。焼成温度が850℃未満であるか、または焼成時間が20分未満の場合には、緻密な焼結体が得られないおそれがある。焼成温度を900℃程度とし、焼成時間を60分程度とすれば、十分に緻密なものが得られ、これを超えるとかえって生産性等が低下するおそれがある。また、銀を主成分とする金属粉末を含有する導体ペーストを用いた場合、焼成温度が900℃を超えると、軟化し過ぎるために所定の形状を維持できなくなるおそれがある。
【0082】
前記した扁平フィラーがグリーンシートの面方向に平行に配向した状態で焼成すると、扁平フィラーの配向はそのままでガラスのみが溶融する。このとき、溶融したガラスが扁平フィラーの間の隙間を埋めるが、面方向に平行に配向した扁平フィラーは面方向の動きが拘束されているので、扁平フィラー間の面方向の隙間(寸法)は保持され、厚さ方向の隙間寸法のみが減少する。そのため、グリーンシートの焼成の際に厚さ方向にのみ収縮が生じ、面方向の収縮は抑制される。このように、外部からの圧力を加えなくても面方向の焼成収縮率が低減されるので、寸法精度の高いガラスセラミック体が得られる。
【0083】
このような製造方法によれば、扁平度が高い扁平フィラーを用いるとともに、個々の厚さ方向を略同一方向として焼成することで、基板を厚さ方向に透過して上方以外に漏れる(すなわち、出射する)光を低減して反射率を高くでき、また、その扁平方向の焼成収縮を抑制できる。
【0084】
また、このような扁平フィラーを、ガラスマトリックスに所定の含有量となるように配合することで、焼結性の低下を抑制でき、強度低下や基板での空孔の生成を抑制できる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を参照して具体的に説明する。
【0086】
(実施例;例1〜19、比較例;例20〜21)
表2に示す割合のガラスとなるように各ガラス原料を配合、混合して原料混合物とし、この原料混合物を白金ルツボに入れて1200〜1500℃で60分間溶融後、溶融物を流し出し冷却した。そして、冷却物をアルミナ製ボールミルにより水を溶媒として10〜60時間粉砕し、分級して各組成のガラス粉末G1〜G13を得た。
【0087】
別途、水酸化アルミニウムから水熱合成により扁平状のベーマイト粉末を製造し、このベーマイト粉末を焼成して扁平アルミナフィラーを得た。すなわち、まず水酸化アルミニウム、pH調整剤としての水酸化ナトリウムまたは炭酸カルシウム、および水をオートクレーブ中に充填した。ここで、pHは8以上に調整し、水の配合比は質量比で水酸化アルミニウムの量の5倍以上とした。そして、150〜200℃、自然加圧下で2〜10時間反応させた。その後、水洗濾過洗浄し、扁平状のベーマイト粒子を得た。
【0088】
その後、ベーマイト粉末を800〜1300℃で焼成し、長径の最大長さの平均である平均最大長さが2〜3.5μm、短径の平均値である平均長さが0.08〜0.2μm、平均断面粒子アスペクト比(平均最大長さ/平均長さ)が25〜50である扁平アルミナフィラーを得た。
なお、平均アスペクト比等の調整は扁平状のベーマイト粉末の製造時の平均アスペクト比等の調整により行った。
【0089】
次いで、表3〜5に示すように、ガラス粉末と、セラミック粉末としての、扁平アルミナフィラー、扁平マイカフィラー、不定形アルミナフィラー、または不定形ジルコニアフィラーとを所定の割合で配合し、混合した。表3〜5においては、ガラス粉末とセラミック粉末との混合割合として、セラミック粉末の割合を質量%で表示してある。従って、各例におけるガラス粉末の割合は、100質量%からセラミック粉末の質量%を引いた値となる。
不定形アルミナフィラーとしては、50%粒径(D50)が2μm、比表面積が4.5m/gであるアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名:AL−45H)を用い、不定形ジルコニアフィラーとしては、50%粒径(D50)が0.5μm、比表面積が8.0m/gであるジルコニア(ZrO)粉末(第一稀元素化学社製、商品名:HST−3F)を用いた。
扁平マイカフィラーとしては、50%粒径(D50)が6.0μmであるマイカ粉末(トピー工業製、商品名:PDM−5B)を用いた。
【0090】
この混合粉末(ガラスセラミックス組成物)50gに、有機溶剤(トルエン、キシレン、2−プロパノール、2−ブタノールを質量比4:2:2:1で混合したもの)15g、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)2.5g、バインダーとしてのポリビニルブチラール(デンカ社製、商品名:PVK#3000K)5g、および分散剤(ビックケミー社製、商品名:BYK180)0.5gをそれぞれ配合し、混合してスラリーとした。このスラリーをPETフィルム上にドクターブレード法により塗布し乾燥させた後切断し、厚さが0.2mmで40mm角(縦40mm×横40mm)のグリーンシートを製造した。
【0091】
次に、このグリーンシート6枚を重ね合わせ、80℃で10MPaの圧力をかけて一体化した。その後、焼成炉に550℃で5時間保持することでバインダー樹脂を分解・除去した後、870℃で1時間保持して焼成を行った。こうして、厚さ500μmのガラスセラミックス体を得た。このガラスセラミックス体について、以下に示すように強度、吸水率等を測定した。なお、このガラスセラミックス体について、X線回折によりガラスの結晶化度を調べたところ、いずれも結晶化していないことが確認された。
【0092】
(平均曲げ強度)
上記したガラスセラミックス体について、JIS C2141に準拠する3点曲げ強さ試験を行った。すなわち、ガラスセラミックス体の一辺を2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置に徐々に加重を加えて、ガラスセラミックス体に切断が生じたときの荷重を測定し、これに基づいて3点曲げ強度(MPa)を算出した。当該曲げ強度を30点測定して平均値(平均曲げ強度)を求めた。結果を表3〜5に示す。
【0093】
(吸水率)
上記したガラスセラミックス体について、JIS R 2205に準拠する吸水率測定を行った。すなわち、ガラスセラミックス体の乾燥質量、真空法による飽水基板の質量を測定し、これらに基づいて吸水率を算出した。結果を表3〜5に示す。なお、吸水率の値が低いほど、開気孔が少ない。
【0094】
別途、反射率を測定するための反射率測定用のガラスセラミックス体(以下、反射率測定用基板という。)を作製した。すなわち、上記したガラスセラミックス体の作製に用いたものと同様のグリーンシートを重ね合わせ、一体化した後、焼成後の膜厚が300μmとなるものとした。その後、上記したガラスセラミックス体と同様の条件でバインダー樹脂の分解・除去、及び焼成を行い、反射率測定用基板を得た。
【0095】
(反射率)
この反射率測定用基板について表面の反射率を測定した。反射率の測定には、オーシャンオプティクス社の分光器USB2000と小型積分球ISP−RFを用い、460nmの反射率(単位:%)として算出した。結果を表3〜5に示す。
【0096】
(粒子形状)
上記したガラスセラミックス体を厚さ方向、かつドクターブレードの成形方向と略平行な方向に切断し、その断面を鏡面研磨した。走査型顕微鏡(SEM)、画像解析装置を用いて、断面100μmにおける個々の粒子の長径および短径を測定し、それらを平均して粒子の長径の平均長さ、短径の平均長さを求めた。また、同断面における粒子の面積を測定し、単位面積当たりの粒子の面積割合を求めた。結果を表3〜5に示す。
なお、扁平アルミナフィラー及び扁平マイカフィラーの面積比は、上記断面100μmにおいて、長径(扁平方向の長さ)が0.5〜20μm、短径(厚さ方向の長さ)が0.02〜0.25μmである粒子の面積を測定し、算出したものである。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
表3〜5から明らかなように、ガラスセラミックス体の所定の断面において、長径が0.5〜20μm、短径が0.02〜0.25μmである扁平フィラーの単位面積での占有面積が30〜48%である例1〜19の基板については、83%以上と高い反射率が得られるとともに、180MPa以上と高い平均曲げ強度を得ることができた。また、例1〜19の基板については、吸収率が1.5%以下であり、基板の空孔の生成が抑制されていた。
一方、このような扁平状セラミックス粒子を、所定の断面において、その単位面積での占有面積が48%を超えて含有する例20、21の基板では、吸水率が3.1%以上と高くなっており、基板に空孔が生成していることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、厚さ方向の断面において、所定形状の扁平フィラーを、所定範囲の量で含有させることで、表面および内部における空孔生成が抑制され強度の低下が抑えられ、また、内部に空孔が少なく、高反射率のガラスセラミックス体を提供することが可能となる。
また、このようなガラスセラミックス体を適用することで、十分な発光輝度を得られ、また発光素子搭載時における欠けや、分割時における破断を抑制され、さらに基板内へのメッキ液の侵入による接続不良等の不具合の発生が抑制された発光素子搭載用基板、また発光装置を提供することができる。
なお、2011年8月8日に出願された日本特許出願2011−172889号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0103】
10…ガラスセラミックス体、11…ガラスマトリックス、12…セラミックス粒子、20…発光装置、21…発光素子搭載用基板、22…発光素子、23…ボンディングワイヤ、24…封止層、211…基板本体、212…枠体、213…素子接続端子、214…外部接続端子、215…貫通導体
図1
図2
図3