(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応始液として有価金属を含有する硫酸水溶液が供給され、硫化剤として硫化水素ガスと水硫化ナトリウムを含む水溶液とが供給され、硫化反応により有価金属の硫化物を生成する硫化反応容器と、
前記硫化反応容器から排出された反応終液が供給される反応終液貯留槽と、
前記硫化反応容器から排出された硫化水素ガスをナトリウム水溶液からなる吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成する第1ガス洗浄塔と、
前記反応終液貯留槽から排出された硫化水素ガスを前記吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成する第2ガス洗浄塔と、
前記第2ガス洗浄塔から排出された前記吸収液を前記水硫化ナトリウムを含む水溶液として前記硫化反応容器に供給する循環装置と、を備え、
前記第1ガス洗浄塔には、新規の前記吸収液が供給され、水硫化ナトリウムを含む前記吸収液が排出されており、
前記第2ガス洗浄塔には、前記第1ガス洗浄塔から排出された前記吸収液が供給され、水硫化ナトリウムを含む前記吸収液が排出されている
ことを特徴とする硫化物の製造設備。
反応始液としての有価金属を含有する硫酸水溶液に、硫化剤として硫化水素ガスと水硫化ナトリウムを含む水溶液とを供給して、硫化反応により有価金属の硫化物を生成し、
ナトリウム水溶液からなる新規の吸収液を第1ガス洗浄塔に供給し、
前記第1ガス洗浄塔において、前記硫化反応における未反応の硫化水素ガスを前記吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成し、
第2ガス洗浄塔において、前記硫化反応の反応終液から排出された硫化水素ガスを前記第1ガス洗浄塔から排出された吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成し、
前記第2ガス洗浄塔から排出された吸収液を前記水硫化ナトリウムを含む水溶液として前記反応始液に供給する
ことを特徴とする硫化物の製造方法。
前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記反応始液への供給量よりも多い場合には、余剰分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を水硫化ナトリウム貯留槽に貯留し、
前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記反応始液への供給量よりも少ない場合には、不足分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を前記水硫化ナトリウム貯留槽から前記反応始液に供給する
ことを特徴とする請求項3記載の硫化物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
不純物を含む硫酸水溶液に含有される有価金属を選択的に回収する方法として、硫酸水溶液に硫化剤を添加して、硫化反応によって有価金属を硫化物として沈殿させる方法が知られている。硫化剤としては、例えば、硫化水素ガスや硫化アルカリが用いられる。
【0003】
硫化剤として硫化水素ガスを用いる方法では、未反応の硫化水素ガスが排出される。硫化水素ガスは毒性ガスであるためその除害設備が必要となる。また、硫化水素ガスによる硫化反応は酸が生じるため、反応液のpHが低下する。反応液のpHが特定の値よりも低くなると、硫化物の再溶解が生じるため硫化反応が進まなくなる。そのため、効率よく硫化反応を進めるために、反応液の有価金属濃度を特定の濃度以下に調整することによってpHの低下を制御したり、発生する酸をアルカリの添加によって中和しながら硫化反応を進めたりすることが行なわれる。
【0004】
硫化剤として硫化アルカリ(例えば、水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム)を用いる方法では、硫化アルカリは化学的に安定であることから、大規模な除害設備を必要とせず簡便に使用することができる。また、硫化アルカリ自体がアルカリ性であるので、硫化水素ガスを用いる方法と異なり反応液のpHが低下せず、これに伴う硫化物の再溶解が生じないという利点を有する。そのため、硫化物を高収率で回収することができる。
【0005】
特許文献1には、ニッケル・コバルト混合硫化物の製造方法が開示されている。
図8に示すように、ニッケルおよびコバルトを含有する硫酸水溶液からなる反応始液101が反応容器109に導入される。硫化剤として硫化水素ガス102および水硫化ナトリウムを含む水溶液103が反応容器109に供給される。反応容器109ではニッケルおよびコバルトの硫化反応が生じ、ニッケル・コバルト混合硫化物を含む反応終液104が排出される。反応容器109から排出される排気ガス105には未反応の硫化水素ガスが含まれる。排気ガス105はガス洗浄塔107により処理され除害されたガスが大気放出108される。ガス洗浄塔107では吸収液として水酸化ナトリウム水溶液106が用いられており、排気ガス105中の硫化水素ガスが回収され水硫化ナトリウムを含む水溶液103が得られる。この水溶液103が硫化剤として反応容器109に繰り返される。これにより、硫化水素ガスの利用効率を向上させることができ、ニッケルおよびコバルトを高収率で回収することができる。
【0006】
しかし、上記従来の方法では、水硫化ナトリウムを含む水溶液103の全量を反応容器109に繰り返すことは現実的には困難であった。従来の方法では、水溶液103をガス洗浄塔107から反応容器109へ直接移送しているため、ガス洗浄塔107への硫化水素ガスの供給量が多く水溶液103の発生量が反応容器109への供給量よりも多い場合には、余剰分の水溶液103を系外の廃水処理工程へ送って液量を減らす必要があるためである。
【0007】
また、反応終液104に溶存している硫化水素は、反応容器109から排出されて温度や圧力が下がると一部がガスとして排出される。しかし、反応終液104から排出される硫化水素ガスの量は少ないため、再利用されることなく処理されていた。
このように、従来の方法では、硫化水素ガスの有効利用が十分にできていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、硫化水素ガスを有効利用して硫化水素反応効率を向上できる硫化物の製造設備および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の硫化物の製造設備は、反応始液として有価金属を含有する硫酸水溶液が供給され、硫化剤として硫化水素ガスと水硫化ナトリウムを含む水溶液とが供給され、硫化反応により有価金属の硫化物を生成する硫化反応容器と、前記硫化反応容器から排出された反応終液が供給される反応終液貯留槽と、前記硫化反応容器から排出された硫化水素ガスをナトリウム水溶液からなる吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成する第1ガス洗浄塔と、前記反応終液貯留槽から排出された硫化水素ガスを前記吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成する第2ガス洗浄塔と、前記第2ガス洗浄塔から排出された前記吸収液を前記水硫化ナトリウムを含む水溶液として前記硫化反応容器に供給する循環装置と、を備え、前記第1ガス洗浄塔には、新規の前記吸収液が供給され、水硫化ナトリウムを含む前記吸収液が排出されており、前記第2ガス洗浄塔には、前記第1ガス洗浄塔から排出された前記吸収液が供給され、水硫化ナトリウムを含む前記吸収液が排出されていることを特徴とする。
第2発明の硫化物の製造設備は、第1発明において、前記循環装置は、水硫化ナトリウム貯留槽を備え、前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記硫化反応容器への供給量よりも多い場合には、余剰分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を前記水硫化ナトリウム貯留槽に貯留し、前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記硫化反応容器への供給量よりも少ない場合には、不足分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を前記水硫化ナトリウム貯留槽から前記硫化反応容器に供給することを特徴とする。
第3発明の硫化物の製造方法は、反応始液としての有価金属を含有する硫酸水溶液に、硫化剤として硫化水素ガスと水硫化ナトリウムを含む水溶液とを供給して、硫化反応により有価金属の硫化物を生成し、ナトリウム水溶液からなる新規の吸収液を第1ガス洗浄塔に供給し、前記第1ガス洗浄塔において、前記硫化反応における未反応の硫化水素ガスを前記吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成し
、前記第2ガス洗浄塔において、前記硫化反応の反応終液から排出された硫化水素ガスを
前記第1ガス洗浄塔から排出された吸収液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成し、前記第2ガス洗浄塔から排出され
た吸収液を前記水硫化ナトリウムを含む水溶液として前記反応始液に供給することを特徴とする。
第4発明の硫化物の製造方法は、第3発明において、前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記反応始液への供給量よりも多い場合には、余剰分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を水硫化ナトリウム貯留槽に貯留し、前記第1ガス洗浄塔および前記第2ガス洗浄塔による前記水硫化ナトリウムを含む水溶液の発生量が前記反応始液への供給量よりも少ない場合には、不足分の前記水硫化ナトリウムを含む水溶液を前記水硫化ナトリウム貯留槽から前記反応始液に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、第1ガス洗浄塔から得られた吸収液を第2ガス洗浄塔で用いるので、ナトリウム水溶液の使用量を低減でき、ナトリウム原単位を低減できる。
第2発明によれば、水硫化ナトリウムを含む水溶液を一時貯留するため、水硫化ナトリウムの全量を硫化反応容器に繰り返すことができ、水硫化ナトリウムの供給量が増加するので硫化水素反応効率を向上できる。
第3発明によれば、第1ガス洗浄塔から得られた吸収液を第2ガス洗浄塔で用いるので、ナトリウム水溶液の使用量を低減でき、ナトリウム原単位を低減できる。
第4発明によれば、水硫化ナトリウムを含む水溶液を一時貯留するため、水硫化ナトリウムの全量を反応始液に繰り返すことができ、水硫化ナトリウムの供給量が増加するので硫化水素反応効率を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(湿式製錬)
まず、ニッケル酸化鉱石からニッケル・コバルト混合硫化物を得る湿式製錬を説明する。
リモナイト鉱等に代表される低品位ニッケル酸化鉱石からニッケル、コバルト等の有価金属を回収する湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法(HPAL: High Pressure Acid Leaching)である高温加圧硫酸浸出法が知られている。
【0014】
図2に示すように、高温加圧硫酸浸出法による湿式製錬には、前処理工程(1)と、高温加圧硫酸浸出工程(2)と、固液分離工程(3)と、中和工程(4)と、脱亜鉛工程(5)と、硫化工程(6)と、無害化工程(7)とが含まれる。
【0015】
前処理工程(1)では、ニッケル酸化鉱石を解砕分級して鉱石スラリーを製造する。高温加圧硫酸浸出工程(2)では、前処理工程(1)で得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、220〜280℃で撹拌して高温加圧酸浸出し、浸出スラリーを得る。固液分離工程(3)では、高温加圧硫酸浸出工程(2)で得られた浸出スラリーを固液分離して、ニッケルおよびコバルトを含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とを得る。
【0016】
中和工程(4)では、固液分離工程(3)で得られた粗硫酸ニッケル水溶液を中和する。脱亜鉛工程(5)では、中和工程(4)で中和した粗硫酸ニッケル水溶液に硫化水素ガスを添加して亜鉛を硫化亜鉛として沈殿除去する。硫化工程(6)では、脱亜鉛工程(5)で得られたニッケル回収用母液に硫化剤を添加してニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液とを得る。無害化工程(7)では、固液分離工程(3)で発生した浸出残渣と、硫化工程(6)で発生したニッケル貧液とを無害化する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る硫化物の製造設備および製造方法は、上記の湿式製錬における硫化工程に好ましく適用される。すなわち、ニッケル酸化鉱石を含むスラリーを硫酸浸出して得られた浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)から亜鉛等の不純物を除去して得られたニッケル回収用母液を反応始液として、この反応始液に硫化剤を添加して、硫化反応によって反応始液に含まれるニッケルおよびコバルトをニッケル・コバルト混合硫化物として沈殿させる。
【0018】
ニッケル回収用母液のニッケルとコバルトの合計濃度は特に限定されないが、通常2〜6g/Lである。ここで、ニッケル濃度は2〜5g/L、コバルト濃度は0.1〜0.6g/Lである。
【0019】
なお、反応始液はニッケル回収用母液に限定されず、ニッケルやコバルト等の有価金属を含有する硫酸水溶液であればよい。
【0020】
(製造設備、製造方法)
つぎに、本発明の一実施形態に係る硫化物の製造設備A、および製造設備Aによる硫化物の製造方法を説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る製造設備Aは、硫化反応容器1と、反応終液貯留槽2と、第1ガス洗浄塔3と、第2ガス洗浄塔4と、水硫化ナトリウム貯留槽5とを備えている。
【0021】
硫化反応容器1は耐圧性を有する加圧型の反応容器である。硫化反応容器1には反応始液11としてニッケル回収用母液(ニッケルおよびコバルトを含有する硫酸水溶液)が供給されている。また、硫化剤として硫化水素ガス12および水硫化ナトリウムを含む水溶液13が供給されている。
【0022】
なお、硫化反応容器1は1基のみとは限らず、複数基、例えば4基の硫化反応容器1を直列に接続して連続的に硫化反応を行う構成としてもよい。
【0023】
下記化1に示すように、反応始液11に硫化水素ガス12を供給すると、反応始液11中のニッケルおよびコバルトは、硫化水素(H
2S)の硫化反応によりニッケル硫化物およびコバルト硫化物となり沈殿する。また、化1の反応により硫酸(H
2SO
4)が生成される。
(化1)
MSO
4 + H
2S → MS + H
2SO
4 (式中のMはNi、Coを表す。)
【0024】
反応始液11に水硫化ナトリウムを含む水溶液13を供給すると、下記化2の中和反応により、化1の反応で生成された硫酸が水硫化ナトリウム(NaSH)により中和される。これと同時に下記化3の水硫化ナトリウムによる硫化反応により、反応始液11中のニッケルおよびコバルトがニッケル硫化物およびコバルト硫化物となり沈殿する。
(化2)
H
2SO
4 + 2NaSH → Na
2SO
4 + 2H
2S
(化3)
MSO
4 + 2NaSH → Na
2SO
4 + MS + H
2S (式中のMはNi、Coを表す。)
【0025】
反応始液11に水硫化ナトリウムを含む水溶液13を供給することにより、化1の反応で生成された硫酸が中和され、同時に水硫化ナトリウムによる硫化反応により硫化物を生成するので、pHの低下を抑制できる。その結果、ニッケル硫化物およびコバルト硫化物を高収率で回収することができる。これにより、97.5%以上のニッケル回収率を実現できる。
【0026】
このように、反応始液11に硫化水素ガス12および水硫化ナトリウムを含む水溶液13が供給されることで、硫化反応が生じニッケル・コバルト混合硫化物が生成される。
【0027】
なお、硫化反応容器1の圧力は特に限定されないが、ニッケルおよびコバルトの硫化反応を進行させるため、100〜300kPaであることが好ましい。また、硫化反応容器1は多段に連結して用いることが効率的であり、その場合には、第1段を250〜300kPaとし、徐々に圧力を降下させ、最終段では100〜150kPaとすることが好ましい。これにより、硫化水素ガスが効率的に硫化反応に用いられる。
【0028】
反応始液11のpHは特に限定されないが、ニッケルおよびコバルトの硫化反応を進行させるため、3.0〜3.8であることが好ましい。反応始液11のpHが3.0未満では、前段の中和工程で鉄、アルミニウム等を十分に除去できないからである。一方、反応始液11のpHが3.8を超えると、ニッケルやコバルトの水酸化物が生成される恐れがあるからである。
【0029】
反応始液11の温度は特に限定されないが、65〜90℃であることが好ましい。硫化反応自体は一般的に高温であるほど促進されるが、90℃を超えると昇温のためにコストがかかるという問題や、反応速度が速いため硫化反応容器1に硫化物が付着する恐れがあるという問題がある。
【0030】
硫化水素ガス12の供給量は特に限定されないが、所望の高収率でニッケルおよびコバルトを硫化物として回収するため、反応始液11に含まれるニッケルおよびコバルトを化1に従って硫化する際に必要とされる反応当量の1.0〜1.1倍程度が好ましい。これ以上の過剰の添加は、硫化反応容器1から排出される未反応の硫化水素ガスの増加につながる。
【0031】
硫化反応により生じたニッケル・コバルト混合硫化物を含む反応終液14は、硫化反応容器1から排出され、反応終液貯留槽2に供給されて一時的に貯留される。反応終液貯留槽2は気密性を有する容器である。反応終液貯留槽2において沈殿したニッケル・コバルト混合硫化物15、および上澄み液であるニッケル貧液16は、それぞれ分離して排出される。
【0032】
硫化反応容器1では、ニッケルおよびコバルトを硫化物として高収率で回収するために、硫化剤を必要理論当量よりも過剰に添加する。硫化反応における未反応の硫化水素ガスは硫化反応容器1から排出される。そのため、硫化反応容器1から排出される排気ガス17には硫化水素ガスが含まれている。
【0033】
硫化反応容器1から排出された排気ガス17(硫化水素ガス含む)は第1ガス洗浄塔3で除害された後、除害済み排気ガス18として系外に排出される。第1ガス洗浄塔3では、吸収液として水酸化ナトリウム水溶液19が用いられ、排気ガス17中の硫化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液19に吸収させる。
【0034】
下記化4に示すように、水酸化ナトリウム水溶液に硫化水素ガスを吸収させると、硫化水素(H
2S)と水酸化ナトリウム(NaOH)が反応することで水硫化ナトリウム(NaSH)を含む水溶液が生成される。これにより毒性ガスである硫化水素ガスが除去される。
(化4)
H
2S + NaOH → NaSH + H
2O
【0035】
水酸化ナトリウム水溶液19の濃度および供給量は、排気ガス17に含まれる硫化水素ガスの除害が十分に達成されるように調整される。例えば、濃度15〜25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いれば、濃度20〜35質量%の水硫化ナトリウムを含む水溶液が得られる。
【0036】
第1ガス洗浄塔3の内部では吸収液19が循環しており排気ガス17中の硫化水素ガスが吸収されている。また、第1ガス洗浄塔3には新規の吸収液19が供給されており、その代わりに硫化水素ガスが吸収された吸収液20が排出されている。この吸収液20には生成された水硫化ナトリウムと未反応の水酸化ナトリウムが含まれている。第1ガス洗浄塔3から排出された吸収液20(水硫化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液)は、第2ガス洗浄塔4に吸収液として供給される。
【0037】
反応終液貯留槽2に貯留されている反応終液14には硫化水素が溶存している。この硫化水素は硫化反応容器1から排出されて温度や圧力が下がると一部がガスとして排出される。そのため、反応終液貯留槽2から排出される排気ガス21には硫化水素ガスが含まれている。なお、反応終液貯留槽2から排出される硫化水素ガスの量は硫化反応容器1から排出される硫化水素ガスの量に比べて少ない。そのため、反応終液貯留槽2から排出される排気ガス21の硫化水素濃度は、硫化反応容器1から排出される排気ガス17の硫化水素濃度に比べて低い。
【0038】
反応終液貯留槽2から排出された排気ガス21(硫化水素ガス含む)は第2ガス洗浄塔4で除害された後、除害済み排気ガス22として系外に排出される。第2ガス洗浄塔4では、吸収液として第1ガス洗浄塔3から排出された吸収液20(水硫化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液)が用いられ、排気ガス21中の硫化水素ガスを吸収液20に吸収させる。硫化水素と水酸化ナトリウムが反応することで水硫化ナトリウムが生成される。ここで吸収液20に残存している未反応の水酸化ナトリウムが反応に寄与する。これにより毒性ガスである硫化水素ガスが除去される。
【0039】
第2ガス洗浄塔4の内部では吸収液20が循環しており排気ガス21中の硫化水素ガスが吸収されている。また、第2ガス洗浄塔4には吸収液20が供給されており、その代わりに硫化水素ガスが吸収された吸収液23が排出されている。第2ガス洗浄塔4から排出された吸収液23(水硫化ナトリウムを含む水溶液)は、水硫化ナトリウム貯留槽5に供給される。
【0040】
水硫化ナトリウム貯留槽5には、第2ガス洗浄塔4から排出された吸収液23、すなわち水硫化ナトリウムを含む水溶液13が一時的に貯留されている。水硫化ナトリウム貯留槽5と硫化反応容器1とは配管6で接続されており、配管6にはポンプ7が設けられている。そのため、ポンプ7の駆動により水硫化ナトリウム貯留槽5に貯留されている水硫化ナトリウムを含む水溶液13を硫化反応容器1に供給できる。すなわち、水硫化ナトリウムを含む水溶液13を一時貯留した後に反応始液11に供給する。
【0041】
なお、水硫化ナトリウム貯留槽5、配管6およびポンプ7が特許請求の範囲に記載の「循環装置」に相当する。循環装置は第2ガス洗浄塔4から排出された吸収液23を水硫化ナトリウムを含む水溶液13として硫化反応容器1に供給できればよく、その構成は特に限定されない。また、水硫化ナトリウム貯留槽5を備えない構成としてもよい。
【0042】
以上のように、第1ガス洗浄塔3および第2ガス洗浄塔4により、水酸化ナトリウム水溶液からなる吸収液19に、硫化反応における未反応の硫化水素ガス17および硫化反応の反応終液14から排出された硫化水素ガス21を吸収させて水硫化ナトリウムを含む水溶液13を得る。そして、得られた水硫化ナトリウムを含む水溶液13を反応始液11に供給する。
【0043】
このように、硫化反応における未反応の硫化水素ガス17に加えて、反応終液14から排出された硫化水素ガス21も水酸化ナトリウム水溶液19に吸収させ、水硫化ナトリウムを生成して硫化反応容器1に繰り返すので、硫化水素ガス17、21を有効利用できる。その結果、硫化反応容器1への水硫化ナトリウム13の供給量が増加するので硫化水素反応効率を向上できる。
【0044】
また、水硫化ナトリウムを含む水溶液13を水硫化ナトリウム貯留槽5に一時貯留するため、第1ガス洗浄塔3および第2ガス洗浄塔4による水硫化ナトリウムを含む水溶液13の発生量が硫化反応容器1(反応始液11)への供給量よりも多い場合には、余剰分を貯留することができる。一方、第1ガス洗浄塔3および第2ガス洗浄塔4による水硫化ナトリウムを含む水溶液13の発生量が硫化反応容器1(反応始液11)への供給量よりも少ない場合には、一時貯留した水硫化ナトリウムを含む水溶液13を硫化反応容器1(反応始液11)に供給することができる。その結果、従来は部分的に廃棄せざるを得なかった水硫化ナトリウムの全量を硫化反応容器1(反応始液11)に繰り返すことができ、水硫化ナトリウムの供給量が増加する。したがって、この効果によっても硫化水素反応効率を向上できる。
【0045】
さらに、第1ガス洗浄塔3から得られた吸収液20を第2ガス洗浄塔4で用いるので、水酸化ナトリウム水溶液19の使用量を低減できる。すなわち、第1ガス洗浄塔3において硫化水素ガスの除害に使われずに吸収液20に残存している未反応の水酸化ナトリウムを第2ガス洗浄塔4で有効利用できるため、硫化水素ガスを水硫化ナトリウムとして回収するのに必要な水酸化ナトリウムの使用量を低減でき、水酸化ナトリウム原単位を低減できる。その結果、運転コストを抑えることができる。
【実施例】
【0046】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
図1に示す製造設備Aを用いてニッケル・コバルト混合硫化物を回収した。なお、硫化反応容器1は4基を直列に接続して連続的に硫化反応を行った。反応始液11はニッケル回収用母液(ニッケルおよびコバルトを含有する硫酸水溶液)であり、ニッケル濃度4.2〜4.5g/L、コバルト濃度0.26〜0.34g/Lである。硫化反応容器1に対するニッケル負荷は1.9〜2.2kg/hour/m
3である。この操作において得られたニッケル貧液のpH、ニッケル回収率、硫化水素反応効率および水酸化ナトリウム原単位を評価した。
【0047】
(比較例1)
図3に示す製造設備Bを用いてニッケル・コバルト混合硫化物を回収した。製造設備Bは、製造設備Aにおいて、第1ガス洗浄塔3から排出された水硫化ナトリウムを含む水溶液13を直接硫化反応容器1に繰り返す構成である。第1ガス洗浄塔3から排出された水硫化ナトリウムを含む水溶液13のうち、余剰分20は系外の廃水処理工程に排出されている。第2ガス洗浄塔4には新規の水酸化ナトリウム水溶液19が供給され、第2ガス洗浄塔4から排出された水硫化ナトリウムを含む水溶液23は系外の廃水処理工程に排出されている。
【0048】
硫化反応容器1は4基を直列に接続して連続的に硫化反応を行った。反応始液11はニッケル回収用母液(ニッケルおよびコバルトを含有する硫酸水溶液)であり、ニッケル濃度4.2〜4.5g/L、コバルト濃度0.27〜0.37g/Lである。硫化反応容器1に対するニッケル負荷は1.9〜2.2kg/hour/m
3である。この操作において得られたニッケル貧液のpH、ニッケル回収率、硫化水素反応効率および水酸化ナトリウム原単位を評価した。
【0049】
実施例1および比較例1の評価結果を
図4から
図7に示す。
図4は水硫化ナトリウム添加比率とニッケル貧液pHとの関係を示すグラフ、
図5は水硫化ナトリウム添加比率とニッケル回収率との関係を示すグラフ、
図6は水硫化ナトリウム添加比率と硫化水素反応効率との関係を示すグラフ、
図7は水硫化ナトリウム添加比率と水酸化ナトリウム原単位との関係を示すグラフである。
【0050】
ここで、水硫化ナトリウム添加比率は下記数1で定義される。
(数1)
A = V
NaSH÷V
S
ここで、Aは水硫化ナトリウム添加比率、V
NaSHは水硫化ナトリウム水溶液の容積、V
Sは反応始液の容積である。
【0051】
硫化反応におけるニッケル硫化物およびコバルト硫化物としてのニッケル回収率は下記数2で定義される。
(数2)
R = (V
S×ρ
S-Ni−V
B×ρ
B-Ni)÷(V
S×ρ
S-Ni)
ここで、Rはニッケル回収率、V
Sは反応始液の容積、ρ
S-Niは反応始液のニッケル濃度、V
Bはニッケル貧液の容積、ρ
B-Niはニッケル貧液のニッケル濃度である。
【0052】
硫化水素反応効率は下記数3で定義される。
(数3)
E = ((V
S×ρ
S-Ni−V
B×ρ
B-Ni)÷Ar(Ni)+(V
S×ρ
S-Co−V
B×ρ
B-Co)÷Ar(Co))÷(V
H2S÷22.4)
ここで、Eは硫化水素反応効率、V
Sは反応始液の容積、ρ
S-Niは反応始液のニッケル濃度、ρ
S-Coは反応始液のコバルト濃度、V
Bはニッケル貧液の容積、ρ
B-Niはニッケル貧液のニッケル濃度、ρ
B-Coはニッケル貧液のコバルト濃度、Ar(Ni)はニッケル原子量、Ar(Co)はコバルト原子量、V
H2Sは硫化水素の使用容積である。
【0053】
水酸化ナトリウム原単位は下記数4で定義される。
(数4)
U = W
NaOH÷W
Ni
ここで、Uは水酸化ナトリウム原単位、W
NaOHは第1ガス洗浄塔3および第2ガス洗浄塔4における水酸化ナトリウム使用量、W
Niは硫化物として得られたニッケル量である。
【0054】
図4から分かるように、水硫化ナトリウム添加比率は、実施例1では平均0.50%であるのに対して、比較例1は平均0.37%である。すなわち実施例1は比較例1に比べて水硫化ナトリウム添加比率が約1.35倍に上昇している。これより、実施例1によれば、硫化反応容器1への水硫化ナトリウムの供給量が増加することが確認された。
【0055】
また、実施例1は比較例1に比べて、ニッケル貧液のpHが平均0.15高いことが分かる。これにより、実施例1によれば、硫化反応容器1への水硫化ナトリウムの供給量が増加したことにより、硫化反応によるpHの低下を抑制できることが確認された。
【0056】
図5から分かるように、実施例1のニッケル回収率は平均98.2%、比較例1のニッケル回収率は平均98.1%であり、同等のニッケル回収率を得ている。
【0057】
一方、
図6から分かるように、実施例1の硫化水素反応効率は平均93.7%であるのに対して、比較例1の硫化水素反応効率は平均89.9%であり、実施例1は硫化水素反応効率が高い。これより、実施例1によれば、硫化反応容器1への水硫化ナトリウムの供給量が増加したことにより、硫化反応において97.5%以上の高いニッケル回収率を維持しながら硫化水素の使用量を削減できることが確認された。
【0058】
図7から分かるように、実施例1の水酸化ナトリウム原単位は平均0.25(NaOH-t/Ni-t)であるのに対して、比較例1の水酸化ナトリウム原単位は平均0.29(NaOH-t/Ni-t)である。これより、実施例1によれば、第1ガス洗浄塔3における未反応の水酸化ナトリウムを第2ガス洗浄塔4で用いるため、水酸化ナトリウムの使用量を低減でき、水酸化ナトリウム原単位を低減できることが確認された。