(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出部により検出される帯電電位における単位期間あたりの振幅の平均に対して水気を帯びた路面にすべきとして設定される閾値の上限と、当該平均に対して乾燥した路面にすべきとして設定される閾値の下限との差が5倍以上とされる
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
前記時間変化波形に出現する、帯電電位の変化量が単位期間あたりの振幅の平均値よりも大きなピークである特定ピークの数である特定ピーク数を単位期間毎に複数回計数する計数ステップを設け、
前記推定ステップでは、
前記特定ピーク数の出現頻度からタイヤが接している路面の状態を判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の路面状態推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)検出原理
本発明を実施するための形態を説明する前に、まずは、本発明の検出原理について説明する。
【0016】
本発明の検出原理は、路面状態を識別する指標として、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により車体に分布する帯電電位を検出しようとするものである。
【0017】
タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦によってタイヤと路面との間に帯電電位が生じること自体は、例えば、特開2011−225023号公報の背景技術などに記載されていることからも分かるように、周知事項である。
【0018】
ところが、タイヤと路面との間に生じる帯電電位を検出するといった先行技術は、本発明者らの知見にはない。このような背景として主に2つの要因があるからと本発明者らは考えている。
【0019】
1つ目の要因は、タイヤと路面との間に生じる帯電電位を直接的に得ることは困難と考えられていたということである。
【0020】
2つ目の要因は、水気を帯びた路面(以下、ウェット路面という)ではその水気を通じて大地に電荷が直ちに移動し、タイヤと路面との間に生じる帯電電位を検出できないと考えられていたということである。
【0021】
このため、タイヤと路面との間の電位をどのようにして検出するのかが課題の1つとなった。この点、タイヤと路面との間に生じる帯電電位は、当該路面がウェット路面であったとしても車体全体に膜のように分布し、僅かながらも車体表面に生じていることを本発明者らは見出した。これにより、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦によりそのタイヤと路面との間に生じる帯電電位を、車体表面上の空間から検出することに成功した。
【0022】
タイヤと路面との間に生じる帯電電位は、路面の材料や、タイヤと路面との間に介在する物体の種類などによって変動するパラメータであり、路面の状態を直接的に識別する指標となる。したがって、例えば、コンクリートに比べて滑り易い路面である鉄板の路面とウェット路面とは、物理法則的に識別可能となる。また、路面状態を識別する指標として加速度も加味すれば、路面状態を識別し得るバリエーションを増やすこともできる。
【0023】
このように本発明の検出原理は、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により車体に分布する帯電電位を検出するというものであり、路面状態を識別する指標として加速度を適用する場合に比べて、路面状態の識別精度を飛躍的に向上させることができる。
【0024】
(2)本発明を実施するための形態
実施形態1.
図1に示すように、本実施形態1の測定装置1は、車2に搭載されるものであり、検出部10と、データ処理部20とを含む構成とされる。
【0025】
検出部10は、検知電極11と、リファレンス電極12と、センサアンプ13とを主な構成要素として備える。
【0026】
検知電極11は車体2Aの外側表面に配置され、リファレンス電極12は車体2Aの外側表面から空間を隔てて配置される。
【0027】
本実施形態1の場合、検知電極11とリファレンス電極12とは同形同大の平板でなり、互いに平行に配置される。また、検知電極11は車体2Aにおける最も高い部位の外側表面に配置され、リファレンス電極12はその検知電極11の直上となる空間内に配置される。
【0028】
なお、リファレンス電極12は車2に固定される支持部材14によって支持される。この支持部材14の誘電率は低いほど好ましい。検知電極11とリファレンス電極12との間の電位を正確に得ることができるからである。低誘電率の材料にはアクリル、ウレタン又はガラスなどがある。
【0029】
本実施形態1の場合、支持部材14は底面を開放面とする容器とされ、振動吸収部材15を介して車体2Aの外側表面上に固定される。この容器の頂板側の外側表面にリファレンス電極12が貼り付けられ、当該容器内における車体2Aの外側表面に検知電極11が貼り付けられる。ただし、上述した支持部材14の形状や支持手法はあくまで一例であり、この実施形態に限定されるものではない。
【0030】
センサアンプ13は、FET(Field Effect Transistor)等の検知素子及びアンプを有しており、検知電極11とリファレンス電極12との間の電位を信号(以下、電位信号という)として検知し、当該電位信号を増幅する。なお、検知電極11とリファレンス電極12との間の電位は、主に、タイヤ2Bと路面3との接触、剥離及び摩擦によりそのタイヤ2Bと路面3との間を発生源として車体2A全体に分布した帯電電位である。
【0031】
このように検出部10は、タイヤ2Bと路面3との接触、剥離及び摩擦により車体に分布する帯電電位を検出する。
【0032】
データ処理部20は、車2の電子ユニットの筐体内に組み込まれ、あるいは、当該電子ユニットとは別の独立した筺体内に設けられており、ケーブルを通じてセンサアンプ13と結線される。なお、車2の電子ユニットとは別の独立した筺体内にデータ処理部20を設ける場合、当該筺体は車体2Aの外側表面に配置されていてもよく、車内に配置されていてもよい。
【0033】
このデータ処理部20は、
図2(A)に示すように、データ処理部20の制御を司るCPU(Central Processing Unit)21に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。例えば、ROM(Read Only Memory)22、CPU21のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)23及び記憶部24などがバス25を介して接続される。記憶部24には、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により生じる帯電電位を測定するプログラム(以下、測定プログラムという)などが格納される。
【0034】
CPU21は、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により生じる帯電電位を測定すべき命令を受けた場合、測定プログラムをRAM23に展開し、
図2(B)に示すように、A/D変換部31、フィルタ部32、計測部33及び監視部34として機能する。
【0035】
A/D変換部31は、センサアンプ13から出力される電位信号をデータ(以下、電位データという)に変換する。フィルタ部32は、A/D変換部31から出力される電位データにおける所定周波数帯域を抽出する。
【0036】
計測部33は、フィルタ部32から出力される電位データを記憶部24に記憶するとともに、監視部34に送出する。なお、計測部33は、記憶部24に記憶すべき電位データに対して、所定のデータ圧縮処理を施すようにしてもよい。
【0037】
監視部34は、計測部33から出力される電位データを用いて
図3に示すフローチャートにしたがった監視処理を実行し、路面状態を識別する。すなわち監視部34は、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により生じる帯電電位を測定すべき命令を受けると監視処理を開始し、第1ステップSP1に進む。
【0038】
監視部34は、第1ステップSP1では、基準よりもプラス側又はマイナス側で単位期間に出現する振幅ピークを計数する。
【0039】
監視部34は、第2ステップSP2では、第1ステップSP1で単位期間の振幅ピークが計数されるたびに、当該振幅ピークの平均を算出する。
【0040】
監視部34は、第3ステップSP3では、第2ステップSP2で振幅ピークの平均が算出されるたびに、路面状態を規定する閾値と比較し、その比較結果から路面状態を推定する。
【0041】
ウェット路面時に車体に分布する帯電電位の振幅と、乾燥した路面(以下、ドライ路面という)時に車体に分布する帯電電位の振幅との実測波形の開示はここでは控えるが、おおむね
図4に示す波形となる。この
図4から分かるように、ウェット路面時に車体に分布する帯電電位の振幅(
図4(A))と、ドライ路面時に車体に分布する帯電電位の振幅(
図4(B))とには大幅な差がある。
【0042】
具体的には、時速30[km]の車体に分布する帯電電位の振幅の平均はウェット路面では0.06[V]、ドライ路面では0.3[V]となり、5倍程度の電位差が生じるという実験結果が得られている。また、時速60[km] の車体に分布する帯電電位の振幅の平均はウェット路面では0.09[V]、ドライ路面では0.55[V]となり、6倍程度の電位差が生じるという実験結果が得られている。つまり、時速が速くなるほど、ウェット路面とドライ路面との違いが車体に分布する帯電電位の振幅差に大きく表われる。
【0043】
この実験結果として、ウェット路面とドライ路面との違いが車体に分布する帯電電位の振幅差に大きく表われたということが極めて重要である。なぜならば、ウェット路面とドライ路面との違いを識別できる程度に、当該違いを捉えるパラメータが現状では見出されていなかったからである。
【0044】
したがって、センサアンプ13により検出される電位における単位期間あたりの変化の程度を監視することで、少なくともウェット路面とドライ路面との相互間の変化を、従来に比べて鋭敏に捉えることができる。
【0045】
例えば、センサアンプ13により検出される電位における単位期間あたりの振幅の平均に対しウェット路面にすべきとして設定される閾値の上限と、当該平均に対しドライ路面にすべきとして設定される閾値の下限との差が5倍以上とすることができる。このような状態に設定された場合、時速30[km]以上で走行する際のウェット路面とドライ路面との相互間の変化を、従来に比べて鋭敏に捉えることができる。
【0046】
なお、ウェット路面及びドライ路面に対する閾値に代えて、あるいは、ウェット路面に加えて、様々な路面状態を規定する閾値を設定することができる。また、このような閾値数が多いほど、路面材料や、タイヤとの間に介在する物体の種類に応じた路面状態を識別することが可能となる。
【0047】
監視部34は、第4ステップSP4では、第3ステップSP3での比較結果に関連付けられた処理を実行する。例えば、第2ステップSP2で算出された振幅ピークの平均がウェット路面として設定される閾値の上限未満となる場合、監視部34は、当該振幅ピークが出現した電子データ部分がウェット路面であったことを示すフラグを記憶部24に記憶する。別例として、ウェット路面であるため走行に注意すべき旨の報知命令を車本体の電子ユニットに与える。
【0048】
このようにデータ処理部20は、タイヤ2Bと路面3との接触、剥離及び摩擦により車体に分布する帯電電位の振幅を監視し、当該帯電電位の振幅の程度に応じて路面状態を識別する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態1における測定装置1は、タイヤ2Bと路面3との接触、剥離及び摩擦により車体2Aに分布する帯電電位を検出する。
【0050】
したがって、この測定装置1は、タイヤ2Bと路面3との間に検出部10を配することなく、当該タイヤ2Bと路面3との間に生ずる帯電電位を正確に検出することができる。
【0051】
また、本実施形態1における測定装置1は、タイヤ2Bと路面3との接触、剥離及び摩擦により車体2Aに分布する帯電電位の振幅を監視する。
【0052】
上述したように、タイヤ2Bと路面3との間に生じる帯電電位は、路面3の材料や、タイヤ2Bと路面3との間に介在する物体の種類によっても変動するパラメータであり、路面3の状態を直接的に識別する指標となる。したがって、測定装置1は、帯電電位の振幅の程度に応じて路面状態を精度よく識別することができる。
【0053】
前記実施形態1では、車体2Aにおける最も高い部位の外側表面に検知電極11が配置された。しかしながら、検知電極11の配置部位はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、検知電極11の配置部位として、車体2Aの内側表面を採用することができる。別例として、車体2Aの底又は側方における部位、トランクパネル又はバックドア、あるいは、車体2Aに連結される導体部位を採用することができる。要するに、検知電極11は車体2Aの表面に配置されていればよい。
【0054】
なお、車体2A自体を検知電極に相当する導体とすることもできる。ただし、車体2A自体を検知電極に相当する導体とする場合、センサアンプ13に配線されるケーブルを車体2Aに接続することになるが、車体2Aには一般に塗装が施されている。したがって、ケーブルを接続すべき部位の塗装を製造時に省略しておくこと、あるいは、当該部位の塗装を剥がすことを要する。このようなことを要することなく、車体表面上に分布する電位を得る観点では、検知電極11を車体2Aにおける導体部位の表面(塗装面)に配置するほうが好ましい。また、車体2A自体を検知電極に相当する導体とする場合、センサアンプ13の感度を大きくするためには、ケーブルをある程度太くして車体2Aの金属部位の表面に対するケーブルの接触面積を大きくすることを要する。したがって、ケーブルを太くすることなくある一定のセンサアンプ13の感度を得る観点では、検知電極11を車体2Aにおける導体部位の表面(塗装面)に配置するほうが好ましい。
【0055】
また、前記実施形態1では、車体2Aにおける最も高い部位の直上となる空間にリファレンス電極12が配置された。しかしながら、リファレンス電極12の配置部位はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、リファレンス電極12の配置部位として、車体2Aの内側表面の上方となる空間位置を採用することができる。別例として、車体2Aの底又は側方における部位、あるいは、トランクパネルやバックドアの表面の上方となる空間位置を採用することができる。要するに、車体2Aの表面から空間を隔ててリファレンス電極12が配置されていればよい。ただし、車周囲の物体あるいは車の構成物品との静電結合量を低くする観点では、フロントガラスの上端と車体との境界を通る鉛直面よりも後方となる車体部位の外側表面の上方が好適であり、また、最も高い車体部位の外側表面よりも上方がより一段と好適である。
【0056】
ところで、
図5に示すように、リファレンス電極12を重心として正方形の各頂点となる関係にあり、隣り合う頂点では反転した極性の電荷を受ける4個の電極41〜44(以下、4重極子という)が設けられてもよい。この4重極子が設けられたリファレンス電極12では、隣り合う電極41−42,42−43,43−44,44−41から生じる電界が時間変化にかかわらず相互に打ち消しあう。また各電極41〜44から生じる電界の強さは距離に対して2
5(2
m+1:mは電極数)だけ減衰し、当該電界の範囲はごく近傍に限局した状態にあることから、当該電極41〜44に対する外部の結合範囲がごく近傍に限局される。このため、リファレンス電極12近傍における電界の強さは0[V/m]又はそれに近似する値となる。したがって、車体2Aの内側表面や、車体2Aの底部位の外側表面の上方となる空間位置がリファレンス電極12の配置部位とされた場合であっても、路面3や車2の構成物品等との静電結合量が大幅に低減される。このため、リファレンス電極12がより一段と安定化し、検知電極11とリファレンス電極12との間の電位をより一段と正確に得ることができることになる。このように4重極子を設けた場合には、車体2Aの表面に配されるリファレンス電極12の位置にかかわらず、検知電極11とリファレンス電極12との間の電位をより一段と正確に得ることができる。なお、このような電極構造は上述の4重極子に限られない。具体的には、正2n(nは2以上の偶数)角形の各頂点となる関係にあり、隣り合う頂点では反転した極性の電荷を受ける2n個の電極が適用可能である。正2n角形の重心から各頂点までの距離が一定であれば、nが大きくなるほど、隣り合う電荷間の距離(すなわち多角形の辺の長さ)が小さくなり、当該電極から生じる電界が打ち消しあう効率が向上する。したがって、nが大きい電極構造が採用されるほど、リファレンス電極12の安定化の程度を大きくすることができる。このような電極構造の詳細については本発明者が既に提案した特願2007−56954を参照されたい。
【0057】
上述の電極構造を設けない場合、車体2Aの外側表面から7.5[μm]以上の空間を隔ててリファレンス電極12が配置されるとよい。この7.5[μm]という値はシミュレーションから得たものであるが、当該シミュレーションに関して説明する。
【0058】
<シミュレーション方法>
ウェット路面時に車体外側表面に生じた電位を0.1[V]と仮定し、センサアンプに生じる熱雑音レベルの値を
図6に示す値と仮定して、車体2Aの表面からリファレンス電極12までの電位差が熱雑音レベル以上となる距離を求めた。
【0059】
0.1[V]という値は、セダン型の車体における屋根部位の外側表面に検知電極を配置し、その検知電極の直上となる空間内にリファレンス電極を配置した状態で、路面を濡らした走行路を走行したときに得られた実測値の平均である。
【0060】
図6は、熱雑音の大きさを表す一般式から1[Hz]〜1[GHz]の帯域における熱雑音レベルを算出したものである。なお、一般式は、26.85℃での熱雑音の大きさをP[dbm]とし、周波数をfとすると、P=−174+10log(Δf)となる。
【0061】
<シミュレーション条件>
シミュレーターは、情報数理研究所のEEM−STF Version2.0を用い、車体は1[m]×1[m]の電極と仮定し、その電極に前記0.1[V]を印加した。一方、リファレンス電極は1[m]×1[m]の無限遠方の電極と仮定し、その電極は0[V]とした。また、車体であると仮定した電極と、リファレンス電極であると仮定した電極との間の距離は1[m]とした。
【0062】
<シミュレーション結果>
このようなシミュレーションから得られた電極間距離と電極間電位差との関係を
図7に示す。1[Hz]〜1[GHz]の帯域における熱雑音レベルの最大値は、
図6に示すとおり14.1[μV]であり、この14.1[μV]以上の電位差を得るには、
図7に示すとおり7.5[μm]であった。上述したように、ウェット路面における車体に分布する帯電電位の振幅はドライ路面に比べて5分の1程度となる。したがって、リファレンス電極12に対して上述の電極構造を設けることなく、そのリファレンス電極12を車体2Aの外側表面から7.5[μm]以上の空間を隔てて配置した場合、1[Hz]〜1[GHz]の帯域では、ウェット路面時に車体外側表面に生じる電位以上の電位を検出することが可能となる。
【0063】
また、前記実施形態1では、検知電極11の直上となる空間内にリファレンス電極12が配置された。しかしながら、リファレンス電極12は、検知電極11の直上となる空間外に配置されていてもよい。なお、サンルーフ等のように、車体2Aにガラスやアクリル等の低誘電体が存在する場合、その低誘電体の直上となる空間内にリファレンス電極12を配置したほうがよい。このように配置すれば、リファレンス電極12の直下が車体2Aの金属部位である場合に比べて、当該リファレンス電極12と車体2Aとの静電結合量が低減されるため、リファレンス電極12がより一段と安定化される。したがって、検知電極11とリファレンス電極12との間の電位をより一段と正確に得ることができる。
【0064】
また、前記実施形態1では、検知電極11とリファレンス電極12とが同形同大の平板とされた。しかしながら、検知電極11とリファレンス電極12とは互いに異なる形状とされていてもよく、互いに異なる大きさとされていてもよい。また、検知電極11及びリファレンス電極12の形状は、平板状に限らず、様々な形状を採用することができる。
【0065】
また、前記実施形態1では、フィルタ部32の後段に計測部33が設けられ、当該計測部33の後段に監視部34が設けられた。しかしながら、フィルタ部32の後段に監視部34が設けられ、当該監視部34の後段に計測部33が設けられていてもよい。なお、計測部33は、電位データ全体を記憶部24に記憶したが一部を記憶部24に記憶するようにしてもよい。また、フィルタ部32又は監視部34は省略されていてもよい。さらに、データ処理部20が車2に搭載されている場合等では、検出部10を検出装置として車2に搭載することができる。
【0066】
実施形態2.
前記実施形態1の測定装置1では、検出部10により検出される帯電電位における単位期間あたりの振幅の平均から路面がウェット路面なのかドライ路面なのかを推定したが、単位期間毎に帯電電位の時間変化波形を抽出し、この抽出された複数個の時間変化波形のデータを用いて路面状態を推定するようにすれば、路面状態の推定精度を更に向上させることができる。
図8は、本実施形態2に係る路面状態推定装置50の構成を示す図で、路面状態推定装置50は、検知電極51と、リファレンス電極52と、センサアンプ53と、帯電波形抽出手段54と、RMS(Root Mean Square)値算出手段55と、ピーク計数手段56と、ピーク頻度分布作成手段57と、記憶手段58と、路面状態推定手段59とを備える。
検知電極51〜センサアンプ53までの各手段が、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦により生じる帯電電位を検出する検出部50Aを構成し、帯電波形抽出手段44が検出部50Aにより検出される帯電電位を監視する監視部50Bを構成し、RMS値算出手段55〜路面状態推定手段59までの各手段が推定部50Cを構成する。
監視部50Bと推定部50Cとは、実施形態1のデータ処理部20と同様に、ROMやRAMなどの記憶装置とマイクロコンピュータのプログラムとから構成される。
【0067】
検知電極51は平板状の電極で、車体2Aの外側表面に対して所定の空隙を隔てて配置され、車体2Aと容量結合される。本例では、車体2Aの外側表面と検知電極51との間の空隙に厚さが一定の板状の誘電体を介挿することで、車体2Aとの間の静電容量を大きくするとともに、前記空隙の大きさを確保するようにしている。
一方、リファレンス電極52も平板状の電極から成り、車体2Aの外側表面に設けられた防振台2a上に設けられた支持台2bの上端から突出するように取付けられたアクリル,ウレタン等の樹脂から成る棒状の支持棒2cの先端に取付けられる。支持台2bは、防振台2a側と支持棒2cに板状の木材等の絶縁部材が取付けられた筒状の部材である。
これにより、リファレンス電極52を帯電している車体2Aから遠く(例えば、100mm以上)に離すことができるとともに、リファレンス電極52と車体2Aとを電気的に絶縁できるので、リファレンス電極52を安定的に零電位に保つことができる。
車体2Aの帯電電位は、(+)側と(−)側とに周期的に変化するので、車体2Aと容量結合されている検知電極51の電位である帯電電位も時間的に正負に変化する。
また、車体2Aの帯電電位はタイヤ2Bと路面3との間の静電容量の変化に伴って変化するので、タイヤ2Bと路面3との間の静電容量も路面状態によって変化する。したがって、前記帯電電圧の変化を検出することで、路面状態の変化を検出できる。
センサアンプ53は、例えば、FET(Field Effect Transistor)を備えた増幅器で、検知電極51とリファレンス電極52との間の電圧(以下、帯電電圧という)を増幅して出力する。
【0068】
帯電波形抽出手段54は、センサアンプ53で増幅されて連続的に出力される帯電電圧の時間変化波形から、タイヤ1周分毎の帯電電圧の時間変化波形である帯電波形を順次抽出する。
図9(A),(B)は、帯電電圧の時間変化波形の一例を示す図で、(A)図はドライ路面にて停止している車両の時間変化波形、(B)図はドライ路面を走行中の車両の時間変化波形である。
停止中の時間変化波形と走行中の時間変化波形とを比較して分かるように、走行中の時間変化波形では振幅が必ずしも一定ではない。これは、路面凹凸などの影響により、タイヤが路面上の水気と接する形態が変化しているためである。
本実施形態2では、単位期間をタイヤ1周分とするとともに、帯電波形抽出手段54にて順次抽出されたタイヤN周分の帯電波形のデータを用いて路面状態を推定することで、精度を向上させるようにしている。
RMS値算出手段55は、抽出された帯電波形のRMS値を、タイヤ1周分毎に算出し、記憶手段58に記憶する。
【0069】
ピーク計数手段56は、ピーク抽出手段56aと、特定ピーク判定手段56bと、計数手段56cとを備え、帯電波形中に含まれる特定ピークの数を計数する。特定ピークについては後述する。
ピーク抽出手段56aは、帯電波形から(+)側のピークと(−)側のピークとを抽出する。
特定ピーク判定手段56bは、時間的に隣接する(+)側のピークの振幅値と(−)側のピークの振幅値との差であるピーク値差を算出するとともに、このピーク値差と記憶手段58に記憶されたRMS値とを比較し、ピーク値差がRMS値よりも大きい場合に、時間的に後ろ側にあるピークを特定ピークと判定する。
RMS値は路面の凹凸状態や車速により変化するので、本例のように、ピーク値差がRMS値よりも大きいピークを特定ピークと判定したほうが、振幅値差に対して閾値を設定し、振幅値差が前記閾値よりも大きなピークを特定ピークとするよりも、不要なピークを確実に排除することができる。
図10は、
図9(B)の拡大図で、同図の丸で囲ったピークが特定ピークである。
計数手段56cは、特定ピークの出現回数を計数する。出現回数の計数は、タイヤ1周分毎に行い、計数結果を記憶手段58に記憶する。出現回数の計数は、予め設定した回数であるN回、すなわち、N個の帯電波形についてそれぞれ行う。
【0070】
ピーク頻度分布作成手段57は、ヒストグラム作成手段57aと分布関数近似手段57bとを備える。
ヒストグラム作成手段57aは、記憶手段58に記憶されたタイヤ1回転毎の特定ピークの出現回数のデータを用いて特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムを作成する。
図11はヒストグラムの一例を示す図で、横軸は特定ピークの出現回数、縦軸は度数である。
ウェット路面走行時には、帯電波形の振幅が小さいので、特定ピークの出現回数の少ない度数が大きく、出現回数の多い度数が小さい頻度分布になることが予想される。
一方、ドライ路面走行時には特定ピークは必ず出現するので、特定ピークが、ある出現回数を中心にある程度の幅を持った出現回数の範囲で度数が大きい頻度分布になることが予想される。
【0071】
分布関数近似手段57bは、ヒストグラム作成手段57aで作成された特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムを、主に物体の破壊現象を統計的に表す場合に利用されるワイブル分布により近似し、下記の式(2)に示すワイブル分布の確率密度関数の尺度パラメータηと形状パラメータmとを算出する。
【数2】
【0072】
ワイブル分布の確率密度関数の形状パラメータmは分布の形状に関するパラメータで、
図12(A)に示すように、mが小さい場合、f(x)はピークを持たずxが増加するにつれて急激に減少し、mが大きい場合には、f(x)はピークを持つ。
尺度パラメータηはピークの位置と高さとに関するパラメータで、
図12(B)に示すように、ηが小さい場合にはピークの位置の座標が小さく高さが高い。また、ηが大きい場合にはピークの位置の座標が大きく高さが低い。
すなわち、特定ピークの出現回数の少ない度数が大きく、出現回数の多い度数が小さい頻度分布になることが予想されるウェット路面では、頻度分布をワイブル分布の確率密度関数で近似したときの形状パラメータmが小さく、特定ピークは必ず出現するドライ路面では形状パラメータmが大きいことが予想される。
本例では、後述するように、形状パラメータmにより路面の状態を推定する。
【0073】
記憶手段58は、上述したように、RMS値算出手段55で抽出したタイヤ1周分毎の帯電波形のRMS値と、計数手段56cで計測したタイヤ1周分毎の特定ピークの出現回数を記憶するとともに、路面状態と形状パラメータmとの関係を示すマップを記憶する。本例では、ドライ路面とウェット路面とを識別するための閾値としての、判定形状パラメータm
0を記憶する。
路面状態と形状パラメータmとの関係を示すマップは、予め実施の形態2の路面状態推定装置50を搭載した車両をドライ路面及びウェット路面を含む様々な路面で走行させて求めた、特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムのデータを用いて作成することができる。判定形状パラメータm
0は、このマップを用いて設定される。
なお、ウェット路面の形状パラメータmについては、水膜の厚さにより複数求めることが好ましい。
【0074】
路面状態推定手段59は、ピーク頻度分布作成手段57で求めたワイブル分布の確率密度関数の形状パラメータmと記憶手段58に記憶された判定形状パラメータm
0とを比較して走行中の路面がドライ路面なのかウェット路面なのかを推定する。
図13(A),(B)は、ドライ路面走行時の帯電電圧の時間変化波形と特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムで、
図14(A),(B)は、ウェット路面走行時の帯電電圧の時間変化波形と特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムである。
ドライ路面のヒストグラムとウェット路面のヒストグラムとをそれぞれ同図の太い曲線で示すワイブル分布に近似すると、ドライ路面では確率密度関数の形状パラメータmが大きい(m=1.99)のに対し、ウェット路面では形状パラメータmが小さい(m=0.98)。
したがって、形状パラメータmを、ドライ路面とウェット路面とを識別するための閾値として設定すれば、走行中の路面状態を精度よく推定することができる。
すなわち、m≧m
0ならドライ路面と推定し、m<m
0ならウェット路面と推定する。
なお、閾値を2つ(ただし、m
1>m
0>m
2)設けて、m≧m
1ならドライ路面と推定し、m≦m
2ならウェット路面と推定し、m
1>m>m
2なら、もう一度測定する指示を出すようにしてもよい。
【0075】
次に、路面状態推定装置50を用いて走行中の路面状態を推定する方法について、
図15のフローチャートを参照して説明する。
まず、走行中の車2のタイヤ2Bと路面3との間の静電容量の変化に伴って変化する車体2Aの帯電電位の変化を、車体2Aと容量結合されている検知電極51の帯電電圧の時間変化波形として検出(ステップS10)した後、この帯電電圧の時間変化波形から、タイヤ1周分毎の帯電電圧の時系列波形である帯電波形を順次抽出する(ステップS11)。
次に、抽出された帯電波形のRMS値を算出する(ステップS12)とともに、このタイヤ1周分の帯電波形中に含まれる特定ピークの個数である特定ピークの出現回数を計数する(ステップS13)。
そして、タイヤN回転分の特定ピーク出現回数の計数が終了したか否かを調べる(ステップS14)。
【0076】
N回転分の計数が終了していない場合には、ステップS11に戻って次の帯電波形を抽出して特定ピークの出現回数を計数する操作を継続する。
N回転分の計数が終了した後には、特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムを作成(ステップS15)した後、このヒストグラムをワイブル分布により近似して、ワイブル分布の確率密度関数の形状パラメータmを算出(ステップS16)する。
そして、この形状パラメータmと、ドライ路面とウェット路面とを識別するための閾値である判定形状パラメータm
0とを比較して、走行中の路面がドライ路面かウェット路面かを推定する(ステップS17)。
【0077】
図13(B)及び
図14(B)に示すように、ドライ路面のヒストグラムをワイブル分布で近似したときの確率密度関数の形状パラメータm
Dは、をワイブル分布で近似したときの確率密度関数の形状パラメータm
Wよりも大きいので、判定形状パラメータm
0を、例えば、m
0=1.5に設定すれば、走行中の路面がドライ路面かウェット路面かを確実に識別することができる。
このように帯電電圧の時間変化波形から特定ピークの出現回数の頻度分布を表わすヒストグラムを作成してワイブル分布の確率密度関数の形状パラメータmを求め、この形状パラメータmを用いて路面状態を推定することで、路面凹凸の影響や車速の影響を排除することができるので、路面状態の推定精度を更に向上させることができる。
【0078】
なお、前記実施の形態2では、検知電極51を車体2Aの外側表面に対して空隙を隔てて配置することで、車体2Aと容量結合したが、実施の形態1と同様に、車体2Aの外側表面に配置してもよい。
また、リファレンス電極52を、
図5に示すような4重極子の重心に設置すれば、リファレンス電極52を車体2Aの外表面だけでなく、内側表面に設置できるとともに、リファレンス電極52を安定化させることができる。
また、前記実施の形態2では、車体2Aの帯電電位の変化を検出することで、4個のタイヤ2Bの帯電電位を合成したものを検出したが、検知電極51を、例えば、各タイヤ2Bのタイヤハウス2C(
図8参照)に設けて、各タイヤ2B毎に路面状態を推定すれば、路面状態の推定精度を更に向上させることができる。
【0079】
また、前記実施の形態2では、形状パラメータmにより路面の状態を推定したが、尺度パラメータηと形状パラメータmとを用いてもよい。尺度パラメータηはピークの位置と高さとに関するパラメータで、
図12(B)に示すように、ηが小さい場合にはピークの位置の座標が小さく高さが高い。また、ηが大きい場合にはピークの位置の座標が大きく高さが低い。
尺度パラメータηは、走行している路面のバラつきの推定に用いる。すなわち、ηが小さい場合には特定ピークの出現回数の少ない度数が大きく、ηが大きい場合には特定ピークの出現回数の多い度数が大きいので、ηが小さい場合はウェット路面で、ηが大きい場合はドライ路面であると予想できる。
したがって、形状パラメータmと尺度パラメータηとを用いて、路面状態を推定すれば、路面状態の推定精度を更に向上させることができる。
【0080】
本発明の測定装置、路面状態検出装置、又は検出装置の構成要素は、上述の実施形態に示された内容以外に、適宜、組み合わせ、省略、周知技術の付加などをすることができる。