(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、樹脂組成物及びその製造方法、成形体、多層パイプ及びそれらの製造方法の順に説明する。
【0020】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、(A)エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、(B)酸化防止剤及び(C)分子量1000以下の共役ポリエン化合物を含有する。
【0021】
((A)EVOH)
(A)EVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する共重合体である。このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを共重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をけん化することにより得られ、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体をけん化して得られるものが代表的である。
【0022】
(A)EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)が多すぎる場合には、ガスバリア性が低下する傾向がある。一方、(A)EVOHの酸化劣化はビニルアルコール単位の水酸基を基点に生じるため、エチレン単位含有量が少ない(ビニルアルコール単位の含有量が大きい)ほど酸化劣化を生じやすくなる。このような観点から、エチレン単位含有量は10〜65モル%が好ましく、15〜60モル%がより好ましく、20〜50モル%が特に好ましい。
【0023】
(A)EVOHのけん化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)が小さいと、ガスバリア性が悪化するおそれがあり、また、高温下でカルボン酸の脱離反応が起き易くなる。このような観点から、けん化度は96モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましい。けん化度が99モル%以上であるEVOHは、ガスバリア性に優れた多層パイプを得ることができるため本発明で特に好適に用いられる。
【0024】
(A)EVOHは、本発明の効果を阻害しない範囲、一般的には5モル%以下の範囲で、他の重合性単量体単位を含んでいてもよい。このような重合性単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;アルキルビニルエーテル;N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド又はその4級化物、N−ビニルイミダゾール又はその4級化物、N−ビニルピロリドン、N,N−ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
(A)EVOHのメルトインデックス(MI;190℃、2160g荷重下で測定)は特に限定されないが、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜50g/10分であることがより好ましく、1.0〜30g/10分であることが特に好ましい。(A)EVOHのメルトインデックスを上記範囲の値とすることで、得られる樹脂組成物の溶融成形性が向上し、外観に優れた多層パイプを得ることができる。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0026】
((B)酸化防止剤)
(B)酸化防止剤は、酸化防止能を有する化合物である。(B)酸化防止剤の融点は必ずしも限定されるものではないが、170℃以下であることが好ましい。(B)酸化防止剤の融点が170℃を超える場合には、溶融混合により樹脂組成物を製造する際に、押出機内で溶融しないため(B)酸化防止剤が樹脂組成物中に局在化し、高濃度部分が着色するおそれがある。
【0027】
(B)酸化防止剤の分子量は300以上であることが好ましい。分子量が300未満の場合には、得られる成形体及び多層パイプの表面に酸化防止剤がブリードアウトして、成形体及び多層パイプの外観が不良となるおそれがあり、また、樹脂組成物の熱安定性も低下し易い。分子量は400以上がより好ましく、500以上が特に好ましい。一方、(B)酸化防止剤の分子量の上限は特に限定されないが、分散性の観点から、8,000以下が好ましく、6,000以下がより好ましく、4,000以下が特に好ましい。
【0028】
(B)酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール基を有する化合物が好適に用いられる。ヒンダードフェノール基を有する化合物は、それ自身が熱安定性に優れる一方で、酸化劣化の原因である酸素ラジカルを捕捉する能力があり、酸化防止剤として樹脂組成物に配合した場合、酸化劣化を防止する効果に優れるものである。
【0029】
ヒンダードフェノール基を有する化合物としては、通常市販されているものを用いることができ、例えば、以下の製品が挙げられる。
(1)BASF社製「IRGANOX 1010」:融点110−125℃、分子量1178、ペンタエリスリトール テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕
(2)BASF社製「IRGANOX 1076」:融点50−55℃、分子量531、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(3)BASF社製「IRGANOX 1098」:融点156−161℃、分子量637、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕
(4)BASF社製「IRGANOX 245」:融点76−79℃、分子量587、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(5)BASF社製「IRGANOX 259」:融点104−108℃、分子量639、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(6)住友化学工業株式会社製「Sumilizer MDP−s」:融点約128℃、分子量341、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)
(7)住友化学工業株式会社製「Sumilizer GM」:融点約128℃、分子量395、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート
(8)住友化学工業株式会社製「Sumilizer GA−80」:融点約110℃、分子量741、3,9−ビス〔2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン
【0030】
(B)酸化防止剤として、ヒンダードアミン基を有する化合物も好適に用いられる。ヒンダードアミン基を有する化合物は、(B)酸化防止剤として樹脂組成物に配合した場合、EVOHの熱劣化を防止するのみにとどまらず、EVOHの熱分解により生成するアルデヒドを捕捉する効果もあり、分解ガスの発生を低減することで成形時のボイドあるいは気泡の発生を抑制することができる。また、アルデヒドを捕捉する事により、本発明の樹脂組成物を食品包装容器として用いた際に、アルデヒドによる臭気が内容物の味覚を損ねるという問題も改善される。
【0031】
ヒンダードアミン基を有する化合物として好ましいものは、ピペリジン誘導体であり、特に4位に置換基を有する2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン誘導体が好ましい。その4位の置換基としては、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基が挙げられる。
【0032】
また、ヒンダードアミン基のN位にはアルキル基が置換していてもよいが、水素原子が結合しているものを用いる方が熱安定効果に優れ好ましい。
【0033】
ヒンダードアミン基を有する化合物としては、通常市販されているものを用いることができ、例えば、以下の製品を挙げることができる。
(9)BASF社製「TINUVIN 770」:融点81−85℃、分子量481、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート
(10)BASF社製「TINUVIN 765」:液状化合物、分子量509、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及び1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート(混合物)
(11)BASF社製「TINUVIN 622LD」:融点55−70℃、分子量3100−4000、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物
(12)BASF社製「CHIMASSORB 119FL」:融点130−140℃、分子量2000以上、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物
(13)BASF社製「CHIMASSORB 944LD」:融点100−135℃、分子量2000−3100、ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジリル)イミノ〕〕
(14)BASF社製「TINUVIN 144」:融点146−150℃、分子量685、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル〕メチル〕ブチルマロネート
(15)BASF社製「UVINUL 4050H」:融点157℃、分子量450、N,N’−1,6−ヘキサンジイルビス{N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−ホルムアミド}
【0034】
(16)BASF社製「UVINUL 5050H」:融点104−112℃、分子量約3500、下記構造式を有する化合物
【0036】
これらのヒンダードフェノール基又はヒンダードアミン基を有する化合物は単独で使用しても、また、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(B)酸化防止剤の含有量は(A)EVOH100質量部に対して0.001〜5質量部である。(B)酸化防止剤の含有量が0.001質量部未満であると本発明の効果が得られないおそれがある。一方、5質量部よりも多いと、(B)酸化防止剤の分散不良が生じて成形体及び多層パイプの外観が不良となり易い。(B)酸化防止剤の含有量は、(A)EVOH100質量部に対して0.01〜4質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
【0038】
((C)共役ポリエン化合物)
(C)共役ポリエン化合物は、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であっても良い。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形体及び多層パイプが着色する可能性があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエン化合物であることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も本発明の(C)共役ポリエン化合物に含まれる。さらに、共役二重結合に加えてその他の官能基、例えばカルボキシル基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基及びその塩、スルホニル基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の各種の官能基を有していてもよい。
【0039】
(C)共役ポリエン化合物の分子量は1000以下である必要がある。分子量が1000よりも大きいと、(C)共役ポリエン化合物のEVOH中への分散状態が悪く、溶融成形後の成形体及び多層パイプの外観が不良になる。分子量は500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましい。
【0040】
(C)共役ポリエン化合物の具体例としては、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエンなどが挙げられる。かかるポリエン化合物は2種類以上のものを併用することもできる。
【0041】
これらの中でも、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、β−ミルセン等のミルセン及びその混合物が好ましく、特にソルビン酸、ソルビン酸塩及びその混合物が、食品添加剤としても広く工業的に使用されており、衛生性や入手性の観点から好ましく、また高温での酸化劣化の抑制にも有効である点から好適である。
【0042】
(C)共役ポリエン化合物の含有量は(A)EVOH100質量部に対して0.00001〜0.3質量部である。(C)共役ポリエン化合物の含有量が0.00001質量部未満であると本発明の効果が充分に得られない。一方、0.3質量部よりも多いと、樹脂組成物のゲル化を促進して成形体及び多層パイプの外観が不良となり易い。(C)共役ポリエン化合物の含有量は、(A)EVOH100質量部に対して0.00005〜0.2質量部が好ましく、0.0001〜0.15質量部がより好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。
【0043】
((D)リン酸化合物)
本発明の樹脂組成物に、(D)リン酸化合物を配合すると、高温下でのEVOHの酸化劣化が抑制され、酸化劣化によるクラックの発生を低減することができるため好ましい。
【0044】
(D)リン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いる事ができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていても良く、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩である事が好ましい。中でもリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸水素二カリウムの形でリン酸化合物を添加する事が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムの形でリン酸化合物を添加する事がより好ましい。
【0045】
(D)リン酸化合物の含有量は、(A)EVOH100質量部に対して、リン酸根換算で、0.0001〜0.03質量部であることが好ましい。(D)リン酸化合物の含有量が0.0001未満であると、(D)リン酸化合物の添加による効果が十分に得られないことがある。一方、0.03質量部よりも大きいと、溶融成形の際にゲル等が発生するおそれがある。(D)リン酸化合物の含有量は、(A)EVOH100質量部に対して0.0003〜0.025質量部であることがより好ましく、0.0005〜0.02質量部であることがさらに好ましい。
【0046】
((E)ホウ素化合物)
本発明の樹脂組成物に、(E)ホウ素化合物を配合することも、高温下でのEVOHの酸化劣化が抑制され、酸化劣化によるクラックの発生を低減することができるため好ましい。
【0047】
(E)ホウ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などのホウ酸類;ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどのホウ酸エステル;上記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などのホウ酸塩;水素化ホウ素類等が挙げられる。これらの化合物の中でもオルトホウ酸が好ましい。
【0048】
(E)ホウ素化合物の含有量は(A)EVOH100質量部に対して、ホウ素元素換算で、0.002〜0.2質量部であることが好ましい。(E)ホウ素化合物の含有量が0.002質量部未満であると、(E)ホウ素化合物の添加による効果が十分に得られないことがある。一方、0.2質量部よりも大きいと、溶融成形性が悪化するおそれがある。(E)ホウ素化合物の含有量は(A)EVOH100質量部に対して、0.005〜0.1質量部であることがより好ましい。
【0049】
(滑剤)
本発明の樹脂組成物に、滑剤を添加することも、酸化劣化によるクラックの発生の低減に有効であるため好ましい。滑剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸;上記の各種高級脂肪酸のアルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩などの高級脂肪酸金属塩;上記の各種高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステルなどの高級脂肪酸エステル;ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミドなどの高級脂肪酸アミド;分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレンもしくは低分子量ポリプロピレン又はその酸変性品などの低分子量ポリオレフィン;高級アルコール;エステルオリゴマー;フッ化エチレン樹脂などが挙げられ、好適には高級脂肪酸及び/又はその金属塩、エステル、アミドが、より好適には高級脂肪酸金属塩及び/又は高級脂肪酸アミドが用いられる。これらの滑剤を2種以上を併用してもよい。
【0050】
滑剤の含有量は(A)EVOH100質量部に対して、0.00001〜1質量部であることが好ましい。滑剤の含有量が0.00001質量部未満であると、酸化劣化によるクラックの抑制効果が十分に得られないことがある。一方、1質量部よりも大きいと、樹脂組成物を溶融成形する際に滑剤が分離して様々な異常を生じるおそれがある。滑剤の含有量は(A)EVOH100質量部に対して、0.00005〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0051】
(その他の添加剤等)
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤などの各種添加剤又は他の高分子化合物を適量配合することも可能である。
【0052】
添加剤の具体的な例としては、以下のものが挙げられる。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
着色剤:酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等。
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等。
【0053】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、(A)EVOHの溶融成形時の熱安定性などの各種特性を改善するために、(A)EVOHのペレットに酢酸、乳酸等の有機酸や上記リン酸化合物及びホウ素化合物以外の無機酸、又はそれらの周期律表第1族、第2族もしくは第3族の元素との金属塩などを含有させてもよい。
【0054】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、(A)EVOH、(B)酸化防止剤及び(C)共役ポリエン化合物が均一にブレンドされる限り特に制限はないが、(A)EVOH、(B)酸化防止剤及び(C)共役ポリエン化合物の3成分を一度にドライブレンドして溶融混練する方法;(B)酸化防止剤又は(C)共役ポリエン化合物を予め(A)EVOHに配合して造粒したペレットを残りの成分とドライブレンドして溶融混練する方法;(B)酸化防止剤及び/又は(C)共役ポリエン化合物を(A)EVOHの一部に高濃度で配合して造粒したマスターバッチを作成し、それを残りの成分とドライブレンドして溶融混練する方法などが挙げられる。
【0055】
これらの中でも、(C)共役ポリエン化合物を予め(A)EVOHに配合して造粒したペレットを(B)酸化防止剤とドライブレンドして溶融混練する方法が、各成分を均一にブレンドさせることができるため好ましい。また、(C)共役ポリエン化合物を予め(A)EVOHに配合して造粒したペレットに(B)酸化防止剤を高濃度で配合して造粒したマスターバッチと、(B)酸化防止剤を配合していない上記ペレットとをドライブレンドして溶融混練する方法も、(B)酸化防止剤の分散性が良好となるため、好適である。
【0056】
上記の方法において、(C)共役ポリエン化合物を(A)EVOHに配合したペレットを得る方法としては、(A)EVOHを水/メタノール混合溶媒などの良溶媒に溶解させたものに(C)共役ポリエン化合物を溶解させ、その混合溶液をノズルなどから貧溶媒中に押出して析出及び/又は凝固させ、それを洗浄及び/又は乾燥してペレットを得る方法が、配合量が少なく(A)EVOH中に均一に分散させることが容易ではない(C)共役ポリエン化合物の分散性が良好となるため、特に好ましい。
【0057】
本発明の樹脂組成物を得るための各成分の混合手段としては、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサーなどが挙げられる。
【0058】
〔成形体〕
本発明の樹脂組成物は周知の溶融押出成形機などを使用して成形することができる。成形に際しての押出温度は、用いる樹脂の種類、分子量、組成物の配合割合又は成形機の種類などにより適宜選択されるが、多くの場合170〜350℃の範囲である。
【0059】
本発明の樹脂組成物から得られる成形体として、本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも一層備える多層構造体が、好適な態様である。この多層構造体の層構造としては、特に限定されないが、本発明の樹脂組成物から得られる層をE、接着性樹脂から得られる層をAd、熱可塑性樹脂から得られる層をTで表わした場合、以下の層構成が例示できる。ここで、接着性樹脂としては不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィンが好適に用いられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられ、これらの中でもポリエチレン、特に高密度ポリエチレンが好適である。
2層 Ad/E
3層 T/Ad/E、Ad/E/Ad、E/Ad/E
4層 T/Ad/E/Ad、Ad/E/Ad/E
5層 E/Ad/T/Ad/E、T/Ad/E/Ad/T、Ad/E/Ad/E/Ad、T/Ad/E/Ad/E
6層 T/Ad/E/Ad/E/Ad
7層 T/Ad/E/Ad/E/Ad/T
【0060】
またこのような多層構造体において、熱可塑性樹脂及び/又は接着性樹脂は、多層構造体のスクラップで代用することもできる。また他のポリオレフィン成形体のスクラップを混合して使用することもできる。
【0061】
この多層構造体を製造する方法としては、特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物から得られる成形体に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、本発明の樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂とを共射出する方法、本発明の樹脂組成物から成形された成形体と他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。
【0062】
〔多層パイプ〕
本発明の多層パイプは、上記樹脂組成物からなる層を有する。本発明の多層パイプは、上記樹脂組成物が主として(A)EVOHから構成されているため、ガスバリア性に優れており、また、高温下での(A)EVOHの酸化劣化が抑制されているため、長期間の高温での使用でも、上記樹脂組成物からなる層(EVOH層)に酸化劣化によるクラックが発生しにくい。このような特性を活かして、本発明の多層パイプは温水循環用パイプ及び地域冷暖房用の断熱多層パイプとして好適に使用される。
【0063】
多層パイプの層構成としては、上記多層構造体の層構成を採用することができる。多層パイプが温水循環用パイプとして用いられる場合には、上記樹脂組成物からなる層を最外層とするT/Ad/Eの3層構成が一般的に採用される。これは、既存の架橋ポリオレフィンなど単層パイプの製造ラインに、本発明の樹脂組成物と接着性樹脂の共押出コーティング設備を付加する事により、容易に本発明の多層パイプの製造ラインに転用でき、実際に多くのパイプメーカーがこの構成を採用しているためである。
【0064】
本発明の樹脂組成物からなる層の両側にポリオレフィン層などを設けて、該樹脂組成物層を中間層として使用することは、該樹脂組成物層の傷付き防止などに有効である。しかしながら、多層パイプを床暖房パイプなどの温水循環用パイプとして用いる場合には、通常床下に埋設されるため、物理的な衝撃による本発明の樹脂組成物からなる層の傷付きなどのリスクは比較的小さいため、むしろガスバリア性の観点から、該樹脂組成物層を最外層に配することが望ましい。(A)EVOHのガスバリア性は大きな湿度依存性を示し、高湿度条件下ではバリア性が低下する事から、本発明の樹脂組成物からなる層を最外層に配することにより、主として(A)EVOHから構成される本発明の樹脂組成物からなる層が水と接触するパイプ内表面より最も遠い場所に位置することとなり、多層パイプのバリア性能面からは最も有利な層構成となる。一方で、一般的にEVOH層を最外層に配する場合、空気と直接接触するため、酸化劣化の影響を受けやすい。このような環境下において、高温下でも酸化劣化しにくい本発明の樹脂組成物からなる層を最外層に配することにより、良好なバリア性を有しつつ酸化劣化によるクラックの発生を低減した多層パイプを提供するという本発明の効果がより有効に発揮される。
【0065】
本発明の多層パイプは、地域冷暖房などの断熱多層パイプに用いられる。このとき、上記樹脂組成物からなる層を熱可塑性樹脂層より内側に配するT/Ad/Eの3層構成(以下、積層体1と略称することがある)、もしくは該樹脂組成物層の傷付き防止の観点からT/Ad/E/Ad/Tの5層構成(以下、積層体2と略称することがある)を有することが好ましい。
【0066】
本発明の断熱多層パイプは、断熱発泡体層を有する。その構成は特に限定されないが、例えば、内側から、内管、内管の周りを覆う断熱発泡体層、そして外層として本発明の樹脂組成物からなる層を有する上記積層体1又は2の順で配置されることが好ましい。
【0067】
内管に使われるパイプの種類(素材)、形状及び大きさは、ガスや液体などの熱媒体を輸送できるものであれば特に限定はなく、熱媒体の種類や、配管材の用途及び使用形態等に応じて適宜選択することができる。具体的には、鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属、ポリオレフィン(ポリエチレン、架橋ポリエチレン(PEX)、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなど)、及び本発明の樹脂組成物からなる層を有する上記積層体1又は2などが挙げられ、これらの中でも架橋ポリエチレン(PEX)が好適に用いられる。
【0068】
断熱発泡体には、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、フェノールフォーム、ポリイソシアヌレートフォームを用いることができ、断熱性能向上の観点から、ポリウレタンフォームが好適に用いられる。
【0069】
断熱発泡体の発泡剤としてはフロンガス、各種代替フロン、水、塩化炭化水素、炭化水素、二酸化炭素等が用いられるが、発泡効果、環境への影響の観点から炭化水素、具体的にはn−ペンタン、シクロペンタンが好適に用いられる。
【0070】
断熱多層パイプの製造方法としては、例えば、熱媒体を輸送する内管を、パイプ状の外層の中に入れて内管をスペーサーで固定し二重管とした後、内管と外層の間隙部に各種発泡体原液を注入し、発泡及び固化させる方法が挙げられる。上記スペーサーの素材は特に限定されないが、スペーサーによる内管及び外層への傷を減らすため、ポリエチレン又はポリウレタンであることが好ましい。
【0071】
〔成形体及び多層パイプの製造方法〕
以下、多層パイプの製造方法について説明するが、この製造方法の一部又は全部は他の成形体(フィルム、シート等)にも適用することができる。
本発明の多層パイプは、上述のように架橋ポリオレフィンなどの単層パイプの上に本発明の樹脂組成物と接着性樹脂を共押出コーティングすることにより製造することができる。単層パイプ上に本発明の樹脂組成物と接着性樹脂の共押出コーティングを実施する際は、単純に単層パイプ上に本発明の樹脂組成物と接着性樹脂の溶融したフィルムをコートしても良いが、パイプとコート層の間の接着力が不十分な場合があり、長期間の使用中にコート層が剥離してガスバリア性を失う可能性がある。その対策としては、コート前にコートするパイプの表面をフレーム処理及び/又はコロナ放電処理することが有効である。
【0072】
多層パイプを製造するためのその他の多層成形方法としては、樹脂層の種類に対応する数の押出機を使用し、この押出機内で溶融された樹脂の流れを重ねあわせた層状態で同時押出成形する、いわゆる共押出成形により実施する方法が挙げられる。また、ドライラミネーションなどの多層成形方法も採用され得る。
【0073】
多層パイプの製造方法は、成形直後に10〜70℃の水で冷却を行う工程を含むとよい。すなわち、溶融成形後、本発明の樹脂組成物からなる層が固化する前に10〜70℃の水で冷却することにより、該樹脂組成物層を固化させることが望ましい。冷却水の温度が低すぎると、続く二次加工工程において多層パイプを屈曲させる場合に、屈曲部の本発明の樹脂組成物からなる層に歪みによるクラックが生じやすい。歪みによるクラックが生じやすくなる原因の詳細は明らかでないが、成形物中の残留応力が影響しているものと推測される。この観点から、冷却水の温度は15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、冷却水の温度が高すぎても、二次加工の際に屈曲部の本発明の樹脂組成物からなる層に歪みによるクラックを生じやすい。この原因の詳細も十分に解明されていないが、本発明の樹脂組成物からなる層の結晶化度が大きくなりすぎるためと推定される。この観点より冷却水の温度は60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0074】
上記の方法で得られた多層パイプを二次加工することにより、各種成形体を得ることができる。二次加工法としては、特に限定されず、公知の二次加工法を適宜用いることができるが、例えば、多層パイプを80〜160℃に加熱した後所望の形に変形させた状態で、1分〜2時間固定することにより加工する方法が挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の製造例において各成分の含有量は下記の方法にて定量した。
【0076】
(1)共役ポリエン化合物
乾燥EVOHペレットを凍結粉砕し、100メッシュのふるいによって粗大粒子を除去した。得られた粉末10gを、クロロホルム100mLを用いて48時間ソックスレー抽出した。この抽出液中を、高速液体クロマトグラフィーにて定量分析することで、共役ポリエン化合物の量を定量した。なお、定量に際しては、それぞれの共役ポリエン化合物の標品を用いて作成した検量線を使用した。
【0077】
(2)リン酸化合物及びホウ素化合物
乾燥EVOHペレットを凍結粉砕により粉砕した。得られた粉末0.5gに硝酸5mLを投入し、BERGHOF社製「Speedwave MWS−2」により湿式分解した。湿式分解後の液をイオン交換水で希釈して全液量を50mLとした。希釈液について、株式会社パーキンエルマージャパン社製ICP発光分光分析装置「Optima 4300 DV」を用いてリン元素及びホウ素元素の定量分析を行い、リン酸化合物の量に関してはリン酸根換算値として、ホウ素化合物の量についてはホウ素元素換算値として算出した。なお、定量に際してはそれぞれ市販の標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0078】
(製造例1[EVOHペレット(1)の製造])
エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.8モル%、水/フェノール=15/85(質量比)の混合液を溶媒として測定した時の極限粘度[η]phが0.112L/gのEVOH樹脂2kgを、18kgの水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し、完全に溶解させた。得られた溶液に共役ポリエン化合物として1gのソルビン酸(EVOH100質量部に対して0.05質量部)を添加し、更に1時間攪拌してソルビン酸を完全に溶解させ、ソルビン酸を含むEVOH溶液を得た。この溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=90/10(質量比)の凝固浴中に連続的に押出して、ストランド状にEVOHを凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して、多孔質のEVOHチップを得た。
【0079】
得られた多孔質のEVOHチップを酢酸水溶液とイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、リン酸二水素カリウム及び酢酸ナトリウムを含む水溶液で浸漬処理を行った。処理用の水溶液とEVOHチップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、更に100℃で16時間乾燥を行って、乾燥EVOHペレット(1)を得た。EVOHペレット(1)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppmであった。またEVOHペレット(1)のメルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0080】
(製造例2[EVOHペレット(2)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.01g(EVOH100質量部に対して0.0005質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(2)を得た。EVOHペレット(2)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0081】
(製造例3[EVOHペレット(3)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.2g(EVOH100質量部に対して0.01質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(3)を得た。EVOHペレット(3)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0082】
(製造例4[EVOHペレット(4)の製造])
共役ポリエン化合物として、ソルビン酸に替えてβ−ミルセンを使用した以外は、製造例1と同様にして、EVOHペレット(4)を得た。EVOHペレット(4)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0083】
(製造例5[EVOHペレット(5)の製造])
共役ポリエン化合物として、ソルビン酸に替えてソルビン酸カリウムを使用した以外は、製造例1と同様にして、EVOHペレット(5)を得た。EVOHペレット(5)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0084】
(製造例6[EVOHペレット(6)の製造])
EVOH樹脂として、エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.8モル%、水/フェノール=15/85(質量比)の混合液を溶媒として測定した時の極限粘度[η]phが0.092L/gのEVOH樹脂を用いた以外は製造例1と同様にして、多孔質のEVOHチップを得た。得られた多孔質のEVOHチップを酢酸水溶液とイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、リン酸二水素カリウム、酢酸ナトリウム及びホウ酸を含む水溶液に浸漬処理を行った。処理用の水溶液とEVOHチップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、更に100℃で16時間乾燥を行って、乾燥EVOHペレット(6)を得た。EVOHペレット(6)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素元素換算で170ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0085】
(製造例7[EVOHペレット(7)の製造])
EVOHチップを浸漬処理する際に、浸漬させる水溶液にリン酸二水素カリウムを添加しなかった以外は製造例1と同様にして、EVOHペレット(7)を得た。EVOHペレット(7)のリン酸化合物の含有量は0ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0086】
(製造例8[EVOHペレット(8)の製造])
ソルビン酸の配合量を6g(EVOH100質量部に対して0.3質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(8)を得た。EVOHペレット(8)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0087】
(製造例9[EVOHペレット(9)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.0002g(EVOH100質量部に対して0.00001質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(9)を得た。EVOHペレット(9)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0088】
(製造例10[EVOHペレット(10)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.001g(EVOH100質量部に対して0.00005質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(10)を得た。EVOHペレット(10)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0089】
(製造例11[EVOHペレット(11)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.002g(EVOH100質量部に対して0.0001質量部)とした以外は実例1と同様にして、EVOHペレット(11)を得た。EVOHペレット(11)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0090】
(製造例12[EVOHペレット(12)の製造])
ソルビン酸の配合量を2g(EVOH100質量部に対して0.1質量部)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(12)を得た。EVOHペレット(12)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0091】
(製造例13[EVOHペレット(13)の製造])
ソルビン酸の配合量を0.02g(EVOH100質量部に対して0.001質量部
)とした以外は実施例1と同様にして、EVOHペレット(13)を得た。EVOHペレット(13)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0092】
(製造例14[EVOHペレット(14)の製造])
共役ポリエン化合物を配合しなかった以外は、製造例1と同様にして、EVOHペレット(14)を得た。EVOHペレット(14)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0093】
(製造例15[EVOHペレット(15)の製造])
ソルビン酸の配合量を10g(EVOH100質量部に対して0.5質量部)とした以外は、製造例1と同様にして、EVOHペレット(15)を得た。EVOHペレット(15)のリン酸化合物の含有量はリン酸根換算で100ppm、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0094】
[参考例1]
EVOHペレット(1)に酸化防止剤としてN,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]をEVOH100質量部に対して0.5質量部の割合でドライブレンドし、30mmφの同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30N」)を用いて200℃の押出温度でブレンドペレット化し、樹脂組成物ペレットを得た。
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、(株)東洋精機製作所製20mm押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)にて以下の条件で単層製膜を行い、単層フィルムを得た。
【0095】
押出温度 :供給部/圧縮部/計量部/ダイ
=175/210/220/220℃
スクリュー回転数:90rpm
吐出量 :2.1kg/hr
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:0.9m/分
フィルム厚み :100μm
【0096】
[参考例2〜24]
表1に記載されているとおりのEVOHペレット及び酸化防止剤の種類、酸化防止剤の配合量を採用した以外は参考例1と同様にして、これらの参考例に係る樹脂組成物のペレット及びそれからなる単層フィルムを得た。
【0097】
(単層フィルムの評価方法)
参考例1〜24で得られた単層フィルムを以下の方法により評価した。
評価結果を各成分の種類及び割合と共に表1に示す。
【0098】
(1)耐酸化劣化性
得られた単層フィルムを、以下の評価条件にて加熱処理時間を変えた複数のサンプルを測定することにより、引張強伸度の経時変化を評価した。破断伸度が加熱処理を行っていないサンプルの1/4になる時間を求め、耐酸化劣化性の指標とした。
評価条件:
加熱処理 :所定の時間、140℃に設定した熱風乾燥機内で処理した後、取り出し。
調湿条件 :20℃の水中に5日間浸漬した後、表面水を拭き取って、20℃−65%RHの室内に2週間、放置。
引張強伸度測定:サンプル幅15mm、チャック間隔30mm、引張スピード50mm/分、測定雰囲気20℃−65%RH
【0099】
上記評価において、破断伸度が1/4以下になると酸化劣化によるクラックの発生に起因するEVOH層のガスバリア性の悪化が顕著になる事から、この破断伸度が1/4になる時間を、EVOHの高温での酸化劣化による寿命の指標の一つとして考える事ができる。この破断伸度が1/4になる時間はアレニウス型の温度依存性を示し、80℃において破断伸度が1/4になる時間(寿命)を100年以上にしようとすると、140℃において破断伸度が1/4になる時間を210時間以上にする必要がある。
【0100】
(2)外観
得られた単層フィルムの流れ斑、ストリーク、及びフィッシュアイの有無を目視にて確認した。単層フィルムの外観を、以下の基準に従って判断した。
A:流れ斑、ストリークがなく、フィッシュアイは存在しないか、存在しても少数であった。
B:流れ斑、ストリークがわずかにあり、フィッシュアイが少数存在した。
C:流れ斑、ストリークが著しく、フィッシュアイが多数存在した。
【0101】
【表1】
【0102】
[参考例25]
高密度ポリエチレン(三菱油化株式会社製「ユカロンハードBX−50」、密度0.952g/cc、MFRが0.5g/10分)100質量部、アセトンに溶解したビニルトリメトキシシラン2質量部及びジクミルパーオキサイド0.2質量部を混合した。その混合物を、一軸スクリューを用いて230℃でストランド状に押し出し、ビニルシランが1.5質量%付加された変性ポリエチレンのペレットを得た。次に、このペレット100質量部に対して、ジブチルスズラウレートを2質量%の割合で配合した上記高密度ポリエチレン5質量部を配合したものを1台目の押出機に、参考例1と同様にして得た樹脂組成物ペレットを2台目の押出機に、更に接着性樹脂として三井化学株式会社製「アドマーNF408E」を3台目の押出機に入れ、3種3層の円形ダイを用いて、外径20mmの多層パイプを押出成形し、直後に40℃に調整した冷却水槽を通して冷却して固化させた。多層パイプの層構成は樹脂組成物層が最外層であり、樹脂組成物層/接着性樹脂層/高密度ポリエチレン層=100μm/100μm/2000μmであった。得られたパイプを140℃の熱風乾燥機に入れ、216時間加熱処理を行った。加熱処理後の多層パイプを用いて下記の方法により溶存酸素増加速度を測定したところ、溶存酸素増加速度は24μg/L・hrであった。
【0103】
(溶存酸素増加速度の測定方法)
金属スズを充填した充填塔を用いて溶存酸素を除去した70℃の温水を多層パイプに循環し、20℃、65%RHの雰囲気下で該水中の溶存酸素濃度の増加速度を測定した。ここで、増加速度μg/L・hrとは、パイプ中の水1L当たりμg/hrの速度で溶存酸素の増加があることを示す。すなわち、パイプを含む装置全系の水の体積をV(cc)、上記パイプ内の水の体積をv(cc)とし、単位時間当たりの装置内循環水の酸素濃度増加量をBμg/L・hrとした場合、上記溶存酸素増加速度(Aμg/L・hr)とはA=B×(V/v)で計算される値を示す。
【0104】
[参考例26]
樹脂組成物ペレットの替わりにEVOHペレット(14)を用いた以外は参考例25と同様にして3種3層の多層パイプを得た。得られたパイプを140℃の熱風乾燥機に入れ、216時間加熱処理を行った。加熱処理後の多層パイプを用いて上記方法により溶存酸素増加速度を測定したところ、溶存酸素増加速度は90μg/L・hrであった。
【0105】
[参考例27]
高密度ポリエチレン(三菱油化株式会社製「ユカロンハードBX−50」、密度0.952g/cc、MFRが0.5g/10分)100質量部、アセトンに溶解したビニルトリメトキシシラン2質量部及びジクミルパーオキサイド0.2質量部を混合した。その混合物を、一軸スクリューを用いて230℃でストランド状に押し出し、ビニルシランが1.5質量%付加された変性ポリエチレンのペレットを得た。次に、このペレット100質量部に対して、ジブチルスズラウレートを2質量%の割合で配合した上記高密度ポリエチレン5質量部を配合したものを1台目の押出機に、参考例1と同様にして得た樹脂組成物ペレットを2台目の押出機に、更に接着性樹脂として三井化学株式会社製「アドマーNF408E」を3台目の押出機に入れ、3種3層の円形ダイを用いて、外径20mmの多層パイプを押出成形し、直後に40℃に調整した冷却水槽を通して冷却して固化させた。
多層パイプの層構成は樹脂組成物層が最外層であり、樹脂組成物層/接着性樹脂層/高密度ポリエチレン層=100μm/100μm/2000μmであった。得られた多層パイプを140℃の熱風乾燥機に10分間入れて加熱した後、外径150mmのステンレスパイプに沿わせて90°折り曲げて5分間固定して折り曲げ加工を行った。折り曲げ部の樹脂組成物層の表面を観察したところ、折り曲げ加工時の歪みによるクラックは見られなかった。折り曲げ加工後の多層パイプについて、上記に従い溶存酸素増加速度を測定したところ、溶存酸素増加速度は24μg/L・hrであった。
【0106】
[参考例28]
押出成形した直後の多層パイプが通る冷却水槽の温度を5℃に変更した以外は参考例27と同様にして、多層パイプを得た。得られた多層パイプを参考例27と同様にして折り曲げ加工を行い、折り曲げ部の樹脂組成物層の表面を観察したところ、折り曲げ加工時の歪みによる微細なクラックが僅かに観察された。また、折り曲げ加工後の多層パイプの溶存酸素増加速度を上記方法で測定したところ、溶存酸素増加速度は32μg/L・hrであった。
【0107】
[参考例29]
押出成形した直後の多層パイプが通る冷却水槽の温度を85℃に変更した以外は参考例27と同様にして、多層パイプを得た。得られた多層パイプを参考例27と同様にして折り曲げ加工を行い、折り曲げ部の樹脂組成物層の表面を観察したところ、折り曲げ加工時の歪みによる微細なクラックが僅かに観察された。折り曲げ加工後の多層パイプの溶存酸素増加速度を上記方法で測定したところ、溶存酸素増加速度は36μg/L・hrであった。
【0108】
[参考例30]
樹脂組成物ペレットの替わりにEVOHペレット(14)を用いた以外は参考例27と同様にして3種3層の多層パイプを得た。得られた多層パイプを参考例27と同様にして折り曲げ加工を行い、折り曲げ部の樹脂組成物層の表面を観察したところ、折り曲げ加工時の歪みによる微細なクラックが多数観察された。折り曲げ加工後の多層パイプの溶存酸素増加速度を上記方法で測定したところ、溶存酸素増加速度は76μg/L・hrであった。
【0109】
[実施例1]
上記高密度ポリエチレンを1台目の押出機に、参考例1と同様にして得た樹脂組成物ペレットを2台目の押出機に、更に接着性樹脂として三井化学株式会社製「アドマーNF408E」を3台目の押出機に入れ、3種3層の円形ダイを用いて、外径77mmの外層パイプを押出成形し、直後に40℃に調整した冷却水槽を通して冷却して固化させた。
この外層パイプの層構成は樹脂組成物層が最内層であり、樹脂組成物層/接着性樹脂層/高密度ポリエチレン層=100μm/100μm/2000μmであった。
この外層パイプの中に内管として外径20mmの鋼管パイプを挿入し、スペーサーを用いて固定した。そして、外層パイプと内管の隙間に、ポリオール(DIC株式会社製 スピノドール RD―4011P)100質量部に、シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング株式会社製「SF2937」)を3質量部、発泡剤としてシクロペンタン11質量部、アミン系ウレタン触媒としてトリエチレンジアミン1質量部及び1,2−ブチレンオキシド8質量部、並びに二酸化炭素固定化触媒として塩化亜鉛0.3質量部と臭化テトラブチチルアンモニウム5.7質量部を混合したポリオール組成物130質量部と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI)(日本ポリウレタン工業株式会社製 ミリオネート MR−200)115質量部の混合物を注入した。続いて、45℃で10分間加熱硬化させた後、室温下24時間放置して発泡ポリウレタンを形成し、内管、内管の周りを覆う断熱発泡体層、及び外層パイプの構成を有する地域冷暖房用の多層パイプを作製した。得られた多層パイプを90℃、150日間加熱処理した後に、耐衝撃試験としてISO3127:1994年に従い、−20℃の条件下、直径25mmの半球状の先端を有する3.0kgの錘を2mの高さから落下させたところ、クラックの発生は確認されなかった。
【0110】
[比較例1]
樹脂組成物ペレットの替わりにEVOHペレット(14)を用いた以外は実施例1と同様にして3種3層の外層パイプを得て、更に内管、内管の周りを覆う断熱発泡体及び外層パイプの構成を有する地域冷暖房用の多層パイプを作成した。得られた多層パイプを90℃、150日間加熱処理した後に、耐衝撃試験としてISO3127:1994年に従い、−20℃の条件下、直径25mmの半球状の先端を有する3.0kgの錘を2mの高さから落下させたところ、クラックの進行が確認された。