特許第5928896号(P5928896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許5928896窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法
<>
  • 特許5928896-窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928896
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/584 20060101AFI20160519BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20160519BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   C04B35/58 102C
   C04B35/00 G
   H05K1/03 610D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-222253(P2012-222253)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-73937(P2014-73937A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加賀 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 純一
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−026553(JP,A)
【文献】 特開平04−187555(JP,A)
【文献】 特開2005−241037(JP,A)
【文献】 特開2000−256066(JP,A)
【文献】 特開2005−306628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584
C04B 35/622
H05K 1/03
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.1〜0.4mmであり、
前記粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されており、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率0.1〜4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8〜27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み、
絶縁破壊の強さが31kV/mm以上であることを特徴とする窒化珪素基板
【請求項2】
前記酸化物からなる焼結助剤がMgO及び希土類酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素基板。
【請求項3】
前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素基板。
【請求項4】
前記窒化珪素基板が回路基板用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素基板。
【請求項5】
窒化珪素粉末焼結助剤粉末と溶媒を混合し出発原料1〜N(Nは2以上の整数)を各々作製する調整工程を有し
前記出発原料1〜Nの各々にバインダを添加、混合して素スラリー1〜Nを作製する混練工程を有し
前記素スラリー1〜Nを混合して混合スラリーとするスラリー混合工程を有し
前記混合スラリーをシート成形法により成形速度600mm/min以下で成形した後、乾燥速度0.8wt%/min以下で乾燥して成形体を作製する成形工程を有し、
前記成形体を脱脂焼成して窒化珪素焼結体とする脱脂・焼成工程を有することを特徴とする窒化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記脱脂・焼成工程の前に、分離材をはさんで前記成形体を複数枚積層する積層工程を有することを特徴とする請求項5に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記窒化珪素焼結体にホーニング処理することにより窒化珪素基板と為すことを特徴とする請求項5又は6に記載の窒化珪素基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板またはそれを用いた大電力半導体モジュールに使用されるセラミックス基板に関し、セラミックス基板を形成するのに好適な窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HEVを初めとした自動車分野、車両用分野や電力分野の制御機器、産業機械分野または民生用機器等の制御用電装部品には、セラミックス基板に能動素子を実装した種々のセラミックス回路基板(以下、単に回路基板とも記す)が用いられている。回路基板に実装される素子(ダイオード、FWD、IGBT、GTO、MOS−FET)の実装密度の増加と、素子からの発熱量が増加する傾向を示すことから、能動素子が安定的に動作するように発生する熱を、回路基板を経由して放熱する働きと、能動素子を放熱部材と電気的に絶縁する働きをする。特にパワーモジュールや大電力用途に使用される回路基板では、回路基板の破損が無い事は勿論のこと、高温や熱衝撃の激しい過酷な稼動環境においても放熱性、絶縁性の保障が要求される。またセラミックス基板では動作電圧・電流や動作周波数増加の傾向を受けて低ノイズ化のために誘電損失の小さい材料であるアルミナや窒化アルミニウム、窒化珪素といった窒化物材が回路基板用のセラミックス基板として使用されている。特に強度・靭性に優れた窒化珪素基板は、高熱伝導化が達成できつつあることから、窒化アルミニウムやアルミナの代替材として今後の需要拡大が注目されている。
【0003】
前記セラミックス回路基板は、一般にセラミックス基板の一方の面に電気回路となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用の金属放熱板を接合した構造で使用される。また前記金属板には熱伝導性の良好な銅又はアルミニウムを主成分とした金属板が主に用いられ、ろう材による活性金属法や、拡散接合法、直接接合するいわゆるDBA法またはDBC法といった接合方法によりセラミックス基板と接合される。また金属回路板および/または金属放熱板には回路パターンがエッチング等により形成される。前記能動素子や外部との電気信号の授受を行うための端子やワイヤー等は金属回路板上に搭載または接続される。更に、金属放熱板は、ベース板や冷却フィン等の放熱部材に固着した状態や、金属放熱板が冷却フィンと兼用された形で一体接合された形でモジュール等に使用される。
【0004】
上記のようなセラミックス基板は、セラミックス粉末を混合後、シート状の成形体(グリーンシート)を成形し、焼成して製造される。このグリーンシートの成形方法としてはドクターブレード法、押し出し成形法またはプレス成形法で形成されるのが一般的である。ここで、セラミックス基板は放熱性と絶縁性の観点から焼結後の厚さが0.2〜1.5mm程度のものが使用される。1.5mmの厚い基板の用途は、主に高い絶縁破壊の強さが必要な場合や、基板の高剛性が必要な場合に適用される。
【0005】
半導体モジュールはあらゆる環境下において長期間にわたり設計通りの機能を発揮する必要があるため、それに用いるセラミックス回路基板には高い信頼性が求められる。セラミックス回路基板の信頼性評価には種々の項目があるが、その一つに金属回路板と金属放熱板との間の絶縁性評価(抵抗、絶縁破壊電圧)がある。セラミックス回路基板は金属回路板−セラミックス基板−金属放熱板の接合体であるから、その絶縁性はセラミックス基板そのものの絶縁性に大きく依存する。
【0006】
特許文献1は絶縁信頼性を大幅に向上させた窒化珪素セラミックス基板を提供する。この窒化珪素セラミックス基板は、空孔率が容量比で2.5%以下であり、粒界相中の最大空孔径が0.3μm以下であり、厚さが0.3〜1.5mmである窒化珪素焼結体から成る。この窒化珪素セラミックス基板に温度25℃、湿度70%の条件下で表裏間に1.5Kv−100Hzの交流電圧を印加したときの電流リーク値が1000nA以下であるとしている。
【0007】
しかし、近年では半導体モジュールの小型化、軽量化を図るためセラミックス基板もより薄くすることが求められており、厚さ0.3mm未満のセラミックス基板においても高い絶縁信頼性が必要とされている。特許文献2は基板を構成する焼結体中の気孔率を0.01%未満、すなわち実質的に気孔が存在しないことを特徴とする窒化珪素基板を開示し、この基板は厚さ0.1〜0.4mmと薄く形成してもリーク電流が少なく優れた絶縁性を示すことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3797905号公報
【特許文献2】特開2003−192445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、粉末原料から混合、成形、焼成の各プロセスを経て作製されるセラミックス焼結体において実質的に空孔が形成されない焼結体を作製することは極めて困難である。特許文献2では焼結工程後に焼結体を熱間静水圧(HIP)処理することにより焼結体の緻密化をさらに促進し、厚さ0.1〜0.4mmの薄い窒化珪素基板において実質的に空孔が無いとする空孔率0.01vol.%未満を達成している。しかし、焼結工程後にHIP処理を追加することは生産性を低下させ製造コストを増加させるため好ましくない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、厚さ0.1〜0.4mmの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することのできる窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板をHIP処理を含まない製造プロセスにより提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願第1の発明の窒化珪素焼結体は、窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素焼結体であって、該焼結体の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率0.1〜4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8〜30μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含むことを特徴とする。
【0012】
本願第2の発明の窒化珪素基板は、請求項1記載の窒化珪素焼結体から形成されることを特徴とする。
【0013】
本願第2の発明において、窒化珪素基板の厚さ0.1〜0.4mmであることが好ましい。
【0014】
本願第3の発明の窒化珪素焼結体の製造方法は、窒化珪素粉末を主成分とする原料粉末、焼結助剤および溶媒を混合し出発原料1、同様にして出発原料2〜N(Nは2以上の整数)を得る原料粉調整工程、前記出発原料1〜Nの各々にバインダを添加、混合して素スラリー1〜Nを作製する混練工程、これらの素スラリー1〜Nを混合して混合スラリーとするスラリー混合工程、前記混合スラリーをシート成形法により成形速度600mm/min.以下で成形した後、乾燥速度0.8wt%/min.以下で乾燥して成形体を作製する成形工程および前記成形体を脱脂および焼成して窒化珪素焼結体とする脱脂・焼成工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、厚さの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することのできる窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板をHIP処理を含まない製造プロセスにより提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の窒化珪素焼結体の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識にも基づいて、以下の実施形態に適宜変更、改良が加えられたものも本発明の範囲内に含まれる。
【0018】
最初に本発明の窒化珪素焼結体について述べる。一般的に窒化珪素焼結体内に空孔が存在する場合、空孔を介して電流がリークしやすいため焼結体の絶縁破壊の強さは低下する。しかしながら、本発明の窒化珪素焼結体は、焼結体内にある程度の空孔が存在する場合でも、該焼結体の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率0.1〜4%、好ましくは0.1〜3%であり、円相当径0.5μm以上の空孔が外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8〜30μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含む。ここで、外周間の最短距離は実際の空孔形状における外周間の距離を測定するものとする。
【0019】
本発明の窒化珪素焼結体の空孔率および空孔の外周間の最短距離は、焼結体の断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像を解析して求めることができる。焼結体が薄く視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)となる1又は2以上の視野の画像を解析して求めることができる。
【0020】
このような焼結体では焼結体の極一部の領域を占める空孔集合体内では電流がリークしやすいものの、それ以外の領域では空孔の割合が低いため電流のリークが起こりにくい。焼結体全体では絶縁破壊の強さの低下を抑制することができる。本発明の窒化珪素焼結体は、厚さ0.1〜0.4mm程度の薄い窒化珪素基板としても、31KV/mm以上、更には35KV/mm以上の絶縁破壊の強さを有する。
【0021】
空孔集合体は前記視野中に1個〜20個存在することが好ましい。空孔集合体がない場合は、空孔が焼結体内に均一に分散していると考えられ、絶縁耐圧が低下する。また、空孔集合体が20個より多い場合は、空孔集合体間で電流がリークする可能性があり、絶縁体耐圧が低下する。空孔集合体の前記視野中のより好ましい存在個数は1〜10個である。
【0022】
次に窒化珪素焼結体および窒化珪素基板の製造方法について図1に沿って述べる。尚、ここでは特定の原料や焼結工程で説明するが製造方法・製造条件は下記の例に限定されるものではない。
【0023】
[原料粉調整工程]
まず、窒化珪素粉末を主成分とする原料粉末および焼結助剤を所定の比率となるように調整して、溶媒および必要に応じて分散剤を用いて、ボールミルで混合し出発原料とする。ここで、焼結体において窒化珪素91〜95重量%、マグネシア1〜4重量%、希土類元素を酸化物に換算して2〜8重量%となるように調整し、溶媒として変性アルコール、1-ブタノール、MEKのうち何れか1種以上を用いることが好ましい。
【0024】
[混練工程]
次に、出発原料にバインダおよび必要に応じて溶媒を添加した後、ボールミルで混合して素スラリー1とする。素スラリー1と同様の工程でボールミルの混合を別ロットで行ったスラリーを素スラリー2とする。更に別ロットで作製したスラリーを素スラリーN(Nは2以上の整数)とする。ここで、出発原料100重量部に対してバインダとしてPVB5〜15重量部、溶媒として変性アルコール、1-ブタノール、MEKのうち何れか1種以上を用いることが好ましい。混合は3〜48時間とすることが好ましい。
【0025】
[スラリー混合工程]
次に、ボールミルもしくは攪拌機等の混練装置を用いて、素スラリー1,2,・・・,Nを統合混練して素スラリー1,2,・・・,Nが混合された混合スラリーとする。混練の際に、前記のバインダーおよび前記の溶媒を添加してもよい。
【0026】
上記のように2以上の混合ロットのスラリーとすることで、焼結体に空孔集合体を生成することができると推定される。理由は明確ではないが、2種以上の素スラリーの粘度や配合がほぼ同等であっても、2種類以上の素スラリーを混合した場合、混合後の混合スラリー中の原料粉とバインダや溶媒との分布にわずかに不均一な部分が生成し、この混合スラリーを成形、焼結することで焼結体内に空孔集合体が生成されると推定される。
【0027】
[成形工程]
次に、脱泡工程を経てスラリーの粘度を更に所定の範囲内に調整した後、スラリーをドクターブレード法または押し出し法により成形した後、乾燥して成形体を作製する。成形体を所定の大きさに切断しhBNを塗布してから乾燥し所定の厚さのセラミックスグリーンシート(以下、単に「シート」と表現することがある)を作製する。ここで、スラリーの成形速度は600mm/min.以下とすることが好ましく、乾燥速度は最大乾燥速度0.8wt.%/min.以下とすることが好ましい。
【0028】
ここで、シートの成形速度について説明する。スラリーがドクターブレード法のドクターブレードや押し出し法の金型を通過する際のせん断応力により、チクソトロピー性のスラリーの粘度の低下が起こる。成形速度が600mm/min.を超える場合、スラリーが容易に流動し空孔の要因となる泡を巻き込み易い。その結果、そのようなシートから作製した焼結体では多数の空孔が散在して形成され、空孔集合体が生成し難くなる。特に、2種類以上のスラリーを混合した場合に成形体内にわずかに不均一な部分が生成し、空孔集合体の元となる成形体内の空隙ができると推定されるが、この不均一性により生じる成形体内の空隙は、成形速度が600mm/min.を超える場合に成形体内に生成する泡と結合し、焼結後に多数の粗大な空孔となりやすい。特に円相当径5μm超の粗大な空孔は実質的に他の空孔と空孔集合体を形成しにくい。
【0029】
次に、シートの最大乾燥速度について説明する。成形後の乾燥が早い場合、溶媒の急激な揮発が起こる。乾燥速度が0.8wt%/min.を超えると、溶媒揮発によりシート内に気泡が生成し易い。その結果、このようなシートから作製した焼結体では多数の空孔が散在して形成され、空孔集合体が生成し難くなる。シートは乾燥ゾーンを通過させることで、徐々に昇温して乾燥させるために、乾燥過程における乾燥速度は一定ではなく変動する。そのため、乾燥速度は最大値を規定することとする。特に、2種類以上のスラリーを混合した場合には、成形速度が600mm/min.を超える場合と同様の理由で焼結後に多数の粗大な空孔となりやすい。
【0030】
[焼成工程]
作製したセラミックスグリーンシートを分離材を挟んで複数枚積層し脱脂したのち焼結炉にセットし、真空にした後昇温し、所定温度を超えた段階で窒素雰囲気を導入し更に焼成温度まで昇温して焼成する。例えば、セラミックスグリーンシートの積層数は10枚とし、温度1000℃を超えた段階で0.7〜0.9MPa窒素雰囲気を導入し1850〜1900℃の温度で3〜5時間焼成を行い窒化珪素焼結体(窒化珪素基板)を得る。ここで、得られた焼結体に対して熱間静水圧(HIP)処理を行う必要はない。
【0031】
窒化珪素焼結体の表面を清浄化と適度な粗さとすることを目的に液体ホーニング処理した。ホーニング処理は水中にアルミナ砥粒を適量添加し、例えば0.2〜0.5MPaの圧力で焼結体表裏に吹き付けて行うことができる。
【0032】
清浄化と液体ホーニング処理の後、窒化珪素焼結体の絶縁破壊の強さ(kV/mm)を常温にてJIS C2110に準拠して測定した。
【0033】
成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断した。切断面を研磨後、走査電子顕微鏡(1000−5000倍)により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測した。そして、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより視野面積に占める空孔率(%)として算出した。円相当径0.5μm未満の空孔は絶縁性に及ぼす影響が比較的小さいため計測から除外した。
【0034】
(実施例1〜11)
前述の窒化珪素焼結体の製造方法および評価方法にしたがって表1、表2に示す出発原料、混合、成形および焼成条件により窒化珪素焼結体を作製し、空孔の面積を画像解析により計測した。各ロットの出発原料の原料粉の総量は、それぞれ10kgとした。スラリーの混練ロット数を2以上とし、成形速度600(mm/min.)以下とし、成形体の乾燥速度を0.8(wt%/min.)以下とすることでHIP処理を含まない製造プロセスにより、表3に示す焼結体を得ることができた。空孔割合0.1〜4%であっても十分な絶縁破壊の強さを有する厚さ0.15〜0.25mmの窒化珪素基板を得ることができた。
【0035】
(比較例1)
混練ロット数を1としてスラリーを作製したため粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されずに本発明の焼結体は得られなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0036】
(比較例2)
混練ロット数を2としたものの成形速度が速過ぎるため多数の空孔が散在して形成された。その結果、得られた窒化珪素焼結体は視野面積に占める空孔割合が大き過ぎるものであり、かつ粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0037】
(比較例3)
混練ロット数を2としたものの最大乾燥速度が速過ぎるため多数の空孔が散在して形成された。その結果、得られた窒化珪素焼結体は視野面積に占める空孔割合が大き過ぎるものであり、かつ粗大な空孔が焼結体内に均一に分散し、空孔集合体が形成されなかった。厚さ0.25mmの窒化珪素基板の絶縁破壊の強さは不十分であった。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、セラミックス回路基板またはそれを用いた大電力半導体モジュールに使用されるセラミックス基板に関し、HIP処理を含まない製造プロセスにより作製され実質的に空孔を含む窒化珪素焼結体からなり厚さ0.1〜0.4mmの薄い窒化珪素基板においても高い絶縁信頼性を達成することができる。


図1