【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
(実施例1) 重合体(A)と無機材料(C)からなる培養機材(重合体(B)を含まない)例。
[メトキシエチルアクリレート(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)3.2g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
【0037】
[重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液の調整]
溶媒(F)として、メタノール9.8g、重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(2)を調製した。
【0038】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L1)を作製した。
【0039】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0040】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に、上記複合体(X)の分散液(L1)を入れ、スピンコーターを用いて該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材1を得た。
【0041】
[血液由来単核細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材1を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地としてリンパ球増殖基本培地(LGM-3)を適量入れ、ヒト末梢血液由来の単核細胞(TakaraCC-2072、タカラバイオ株式会社)を2.0×10
6個/Dish播種して、5%二酸化炭素中、37℃で4日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核細胞を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、培養基材の表面に接着、増殖されたほぼすべての接着性細胞が培養基材1の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された接着性細胞の数、及び培養基材表面から剥離せず残留した細胞の数をそれぞれ数えて、下記式(3)より、細胞の回収率を求めた。自然剥離された細胞数は6.4×10
4個で、剥離せず基材に残留した細胞数は1.1×10
4個、回収率は85%であった。
上記培養基材1で培養された接着性細胞の総数(7.5×10
4個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)を用いた場合(2.3×10
4個)の3.3倍であった。
(3)
【0042】
この実施例より、重合体(A)と無機材料(C)からなる培養基材(重合体(B)を含まない)が、通常のティッシュカルチャデイッシュに比べ、細胞培養性が高く、また、培養基材表面と細胞間の接着性が低く、低温処理のみで細胞が容易に剥離できることが理解できる。
【0043】
(実施例2) 重合体(A)、(B)と無機材料(C)からなる培養基材例。
[N−イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液の調製]
N―イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.7g、水10g、溶液(2)140μl、を混合した後、該溶液を入れるガラス容器の周りを冷却しながら(約20℃)、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し、N-イソプロピルアクリルアミドを重合させた後、更に水を5g添加し、重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を調製した。DIGITAL VISCOMATE粘度計(MODEL VM-100A、山一電機株式会社製)を用いてこの溶液の粘度を測定して、粘度は511mPa・sであった。測定時の溶液温度は20℃であった。
【0044】
また、Shodex GPC System−21装置(昭和電工株式会社製)で測定した結果、このポリN―イソプロピルアクリルアミドの重量平均分子量Mwは3.40×10
6であった。測定時の溶媒として10mmol/LのLiBrを含有するN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を使用した。分子量の計算に使用したポリスチレン標準物質としては、STANDARD SH−75とSM−105キット(昭和電工株式会社製)を使用した。
【0045】
[メトキシエチルアクリレート(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)3.2g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(2)を調製した。
【0046】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(2)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L2)を作製した。
【0047】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0048】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
上記分散液(L2)全量に、N-イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を7g添加し、均一に混合した後、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ43016)に入れ、スピンコーターを用いて該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材2を得た。
【0049】
[血液由来単核細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞群の培養を行い、低温処理による接着性細胞の回収を行った。自然剥離された接着性細胞の数は6.7×10
4個で、剥離せず基材に残留した細胞数は3×10
3個、回収率は96%であった。
上記培養基材2で培養された接着性細胞の総数(7×10
4個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)を用いた場合(2.3×10
4個)の3倍であった。
【0050】
この実施例より、重合体(A)と無機材料(C)に温度応答性を有する重合体(B)を配合させた培養基材が、通常のティッシュカルチャデイッシュに比べ、細胞培養性が高く、低温処理のみで細胞が容易に剥離できることが理解できる。
【0051】
(実施例3)
[メトキシエチルアクリレート(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)3.2g、無機材料(C)としてコロイダルシリカ20質量%水溶液(商品名スノーテックス20、日産化学工業株式会社製)1g(SiO
2=0.2g)、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(3)を調製した。
【0052】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(3)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L3)を作製した。
【0053】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0054】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
上記分散液(L3)全量に、N-イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を1g添加し、均一に混合した後、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に入れ、スピンコーターを用いて該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材3を得た。
【0055】
[血液由来単核細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材3を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞群の培養を行い、低温処理による接着性細胞の回収を行った。自然剥離された接着性細胞の数は4.4×10
4個で、剥離せず基材に残留した細胞数は1.1×10
4個、回収率は80%であった。
上記培養基材3で培養された接着性細胞の総数(5.5×10
4個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)を用いた場合(2.3×10
4個)の2.4倍であった。
【0056】
この実施例より、無機材料(C)としてシリカを用いた場合の培養基材3が良好な培養性と自然剥離による高い回収率を有することが理解できる。
【0057】
(比較例1)
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)をそのまま用いて、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞群の培養を行った後、低温処理による接着細胞の回収を行ったところ、細胞は殆ど剥離しなかった。更にD-PBSと0.25% Trypsin−EDTAで処理し、細胞を回収し、細胞の数は2.3×10
4個であった。自然剥離による細胞の回収率は10%以下であった。
【0058】
この比較例より、通常のポリスチレン製セルカルチャデイッシュでは、ヒト末梢血液由来の単核細胞に対する培養(増殖)性が低く、培養された細胞もディッシュ表面に強く接着し、薬剤(トリプシン)を使用しない場合、容易に剥離することができないことが理解できる。
【0059】
(比較例2)
フィブロネクチン(354008、日本ベクトン・ディッキンソン株式会)の水溶液を5μg/cm
2になるようにポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)にコートしたものを用いて、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞群の培養を行った後、低温処理による接着性細胞の回収を行ったところ、細胞は殆ど剥離しなかった。更にD-PBSと0.25% Trypsin−EDTAで処理し、細胞を回収し、細胞の数は1.1×10
4個であった。自然剥離による細胞の回収率は10%以下であった。
【0060】
この比較例より、通常細胞の接着、伸展、及び増殖を促進するフィブロネクチンをコートした培養シャーレでは、ヒト末梢血液由来の単核細胞群中の接着性細胞に対する培養(増殖)性が低く、培養された接着性細胞もディッシュ表面に強く接着し、薬剤(トリプシン)を使用しない場合、容易に剥離することができないことが理解できる。
【0061】
(比較例3) 重合体(A)のみの(無機材料(C)を含まない)基材の例
[メトキシエチルアクリレート(a)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)3.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(3’)を調製した。
【0062】
実施例1と同様にして基材(3’)を製造した。実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞群を播種し、4日間培養したが、基材(3’)の表面に接着する細胞は殆ど見当たらなかった。
【0063】
この比較例より、無機材料(C)を含まない、重合体(A)のみの基材では、細胞との接着性が低過ぎて、細胞が増殖できないことが理解できる。