【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0068】
はじめに実施例1〜8で共通して用いた材料及び方法について纏めて説明する。
【0069】
<ハダニ増殖用植物の栽培とハダニ類の大量増殖>
園芸用培土(クレハ園芸培土)を入れた4個の黒ポット(直径9cm)にインゲンマメ種子(品種:ナガウズラマメ)をポット当たり3〜5粒播種し、水を入れたバット(30×22×4.5cm)内に設置し、恒温室内(23±2℃、1000〜3500ルクス、16L8D)で栽培した。播種後約2〜3週間のインゲンマメ植物体にナミハダニ寄生インゲンマメ葉を数枚乗せ、別の恒温室内(23±2℃、1000〜3500ルクス、16L8D)において2〜3週間隔離飼育することで次世代個体を得た(
図2(a))。この手順を繰り返して、ナミハダニを効率的に大量飼育した(
図2(b))。
【0070】
<天敵昆虫飼育用植物の栽培>
園芸用培土(クレハ園芸培土)を入れた黒ポット(直径9cm)に、コマツナ(品種:楽天、ポット当たり1〜4粒)、チンゲンサイ(品種:青帝チンゲンサイ、青軸パクチョイ、ポット当たり1〜3粒)、ダイコン(品種:関白、ポット当たり1〜3粒)、ハクサイ(品種:耐病六十日、ポット当たり1〜3粒)、ホウレンソウ(品種:ソロモン、ポット当たり1〜2粒)、又はレタス(品種:サニーレタス、ポット当たり1〜2粒)の種子を播種し、水を入れたバット内に設置し、恒温室内(23±2℃、8000〜10000ルクス、16L8D)で約2週間栽培後、温室内(23±3℃)でさらに約3〜4週間栽培した。
【0071】
<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>
上記<天敵昆虫飼育用植物の栽培>の方法で得たポット植えのコマツナ(播種後5〜6週間)を水を入れたバット内に設置し、コマツナ植物体にナミハダニ寄生インゲンマメ葉を数枚乗せ、恒温室内(25±1℃、2000〜5000ルクス、16L8D)において1〜3日間維持した後に、枯れたインゲンマメ葉を除去することで、多数のナミハダニ(ポット当たり、雌成虫100〜400匹、全発育ステージでその5〜10倍)が寄生した状態のポット植えのコマツナ(以下、「ハダニ寄生コマツナ」という)を得た(
図2(c))。なお、ナミハダニ寄生インゲンマメ葉は、上記<ハダニ増殖用植物の栽培とハダニ類の大量増殖>の記載にしたがって得た。そして、後述する天敵飼育容器内にハダニ寄生コマツナを1〜2ポット設置した。チンゲンサイ、ダイコン、ハクサイ、ホウレンソウ及びレタスについても、コマツナと同様の手順で行った。
【0072】
<天敵昆虫の飼育>
天敵昆虫(キアシクロヒメテントウ(
図2(d))、ハダニアザミウマ(
図2(e))、ヒメハダニカブリケシハネカクシ、ハダニカブリケシハネカクシ、又はハダニタマバエ(
図2(j))を、上記ハダニ寄生コマツナを設置した天敵飼育容器内に導入して、飼育した。天敵飼育容器として、
図1に示す飼育容器10を用いた。飼育容器10は、アクリル樹脂製で、下筒部2の外寸高さが約180mm、上筒部1の外寸高さが約210mm、上面3及び底面4は何れも直径約300mmの円盤状で、開口3aは約200mm×150mmの角穴である。また、メッシュ8としてテトロンゴース製のプランクトンネット(東レ スターナイト ♯6000、目の大きさは0.04mm)を用いた。なお、飼育容器10の上面3、底面4、側面9a・9bの厚みはそれぞれ約5mmである。また、段差部5・6の高さはそれぞれ約5mmであり、厚みは約2.5mmである。開口7は下筒部2の上辺から20mm下に位置し、直径8.2mmの円穴である。
【0073】
天敵昆虫導入後は天敵飼育容器内の餌量に応じて7〜10日毎にハダニ寄生コマツナを1〜2ポット追加し、数日毎にコマツナに給水した(
図2(f))。なお、古いポットは、追加したポットの数量に応じて適宜取り除いた(すなわち新旧のポットを交換した)。ケシハネカクシ類については、成虫(
図2(g))、卵及び幼虫がコマツナポット上に生息するのに対して、蛹(
図2(h))は土壌中で繭を形成し発育する必要があるため、天敵飼育容器の底に湿らせたバーミキュライトを5cm程度敷き、ハダニ寄生コマツナを設置した(
図2(i))。ハダニタマバエについては、幼虫はハダニ捕食性であるのに対して成虫は花蜜等を摂食するため、50%蜂蜜液を染み込ませた脱脂綿をメッシュ8上に設置(
図2(k))するか、メッシュ8又は飼育容器10の上筒部1の内部壁面等に蜂蜜液等を塗布(
図2(j))し、成虫の餌とした。ハダニ寄生コマツナの追加・交換及び天敵昆虫の導入・回収等は、天敵飼育容器の上段の容器を傾けた状態で行った。天敵昆虫導入から約2週間〜1ヶ月の期間中に天敵昆虫の次世代成虫が多数出現するため、一部を回収し、新たな天敵飼育容器内で増殖させた。以上の手順を繰り返して、天敵昆虫を飼育した。チンゲンサイ、ダイコン、ハクサイ、ホウレンソウ及びレタスについても、コマツナと同様の手順で行った。
【0074】
より具体的な方法・条件は、下記の実施例の中で個々に説明する。
【0075】
<実施例1:ハダニ寄生コマツナを用いたテントウムシの累代飼育>
野外のクズ葉上に生息するキアシクロヒメテントウ成虫・幼虫を約20匹採集し、上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナを設置した天敵飼育容器を用いて、恒温室内(25±1℃、16L8D)で4ヶ月間にわたり累代飼育した。累代飼育の方法は、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従った。本条件下では約1ヶ月毎にキアシクロヒメテントウの次世代成虫を得ることができたため、1ヶ月毎に容器内のすべてのテントウムシ成虫を回収し、新たな天敵飼育容器内に導入した(容器当たり成虫数は最大で200匹)。
【0076】
その際のキアシクロヒメテントウの増殖パターンを
図3に示す。4ヶ月後(4世代飼育)には、導入時の80倍にあたる約1600匹のキアシクロヒメテントウ成虫を得ることができた。本試験の調査対象外である他の発育ステージ(卵・幼虫・蛹)を含めると、さらに多くのキアシクロヒメテントウを飼育できたことを示唆している。
【0077】
<実施例2:ハダニ寄生コマツナを用いた際のテントウムシの増殖率>
本試験では、キアシクロヒメテントウ成虫を一定期間産卵させた飼育容器当たりの次世代成虫数を指標に増殖率を評価した。キアシクロヒメテントウ成虫(200匹、雌雄はほぼ同数)を、上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナを設置した天敵飼育容器内に導入し、7日間産卵させた後で導入成虫をすべて除去後、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従って飼育試験を開始した。試験開始後は、孵化した幼虫にハダニ寄生コマツナを適宜与えて飼育し、羽化成虫数を調査した(反復は1回)。その他の飼育条件・方法等は実施例1と同様である。
【0078】
その結果を
図4に示す。試験開始後15〜21日の期間中に合計420匹の次世代成虫を得ることができ、ハダニ寄生コマツナによる本天敵昆虫の増殖率は高いことが示唆された。
【0079】
<実施例3:ハダニ寄生コマツナを用いた際のテントウムシの飼育効率>
本試験では、キアシクロヒメテントウの幼虫が成虫にまで発育できる割合を評価指標として、テントウムシの飼育効率を評価した。上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナにキアシクロヒメテントウ幼虫(1〜2齢、400匹)を小筆で接種し、天敵飼育容器に設置した。そして、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従って、ハダニ寄生コマツナを適宜交換しながら飼育し、羽化成虫数を調査した(反復は2回)。なお、ハダニ寄生コマツナは、天敵飼育容器内で、水を入れたバット(直径11cm)に設置されている。その他の飼育条件・方法等は実施例1と同様である。
【0080】
その結果を
図5に示す。試験は2反復実施したが、いずれの場合も試験開始後8〜24日の期間中に接種数の88.8%(各355匹)の羽化成虫を得た。この結果は、ハダニ寄生コマツナが、キアシクロヒメテントウ幼虫及び蛹の発育に好適であることを示唆している。
【0081】
<実施例4:各種ポット植え植物を用いたテントウムシの飼育状況>
上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得た各種ハダニ寄生植物体(コマツナ、ダイコン、ホウレンソウ及びレタス)を天敵飼育容器に設置した。次いで、キアシクロヒメテントウ雌成虫を天敵飼育容器当たり3匹導入し、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従って、導入時と同様の、ハダニ類が寄生した各種ハダニ寄生植物体を適宜交換しながら、天敵昆虫の飼育を行った。そして、天敵昆虫の飼育を開始してから1ヶ月後の次世代天敵数を比較した。
【0082】
また、上記コマツナ、及びダイコンに代えて、参考例としてのインゲンマメ、及びリママメについても、この方法に準じてキアシクロヒメテントウを飼育した。インゲンマメ、及びリママメ(品種:Sieva)は、上記<ハダニ増殖用植物の栽培とハダニ類の大量増殖>の欄の記載に従い約2〜3週間栽培した後に、上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の欄の記載に準じてナミハダニを寄生させたものである。
【0083】
その結果を表1に示す。コマツナ、ダイコン、ホウレンソウ及びレタスを用いた試験(反復は各1回)では、1ヶ月後には次世代成虫が35〜94匹、その他の個体も約110匹回収され、成虫数では導入時の12〜30倍程度にまで増加した。これらの結果は、ポット植えのアブラナ科、アカザ科及びキク科の野菜にナミハダニを接種することでキアシクロヒメテントウを容易に増殖できることを示唆している。
【0084】
これに対して、インゲンマメ及びリママメを用いた試験(反復は各4回)では天敵昆虫が全滅、又はほとんど増殖しなかった。これは、インゲンマメ及びリママメにナミハダニを多数接種すると植物が枯死してしまい、天敵飼育容器内でカビが生えやすいこと、さらには両者の葉上に密生するカギ状の毛茸に天敵昆虫(特に幼虫)がひっかかり、死亡すること等の理由によるものであった。以上の結果は、従来の天敵昆虫の飼育に用いられてきた、ハダニ類と植物との組み合わせではキアシクロヒメテントウを十分に増殖できないことを示唆している。
【0085】
【表1】
【0086】
<参考例1:従来の手法・材料を用いたハダニアザミウマ飼育法の問題点>
本試験では、従来の飼育法における問題点を検討した。インゲンマメ葉片(5×5cm、葉表又は葉裏)を丸形スチロール容器(直径9cm、高さ4.5cm)内の湿らせた脱脂綿上(7×7cm)に設置し、ナミハダニ雌成虫100匹を2日間接種後、試験に用いた。ハダニアザミウマ雌成虫10匹をハダニ寄生インゲンマメ葉片上に接種し、3日間の生存率の推移を調査した(反復は、葉表・葉裏で各20回)。
【0087】
その結果を
図6に示す。インゲンマメ葉片の葉表における生存率は、試験開始1日後には79.3%で、2日後には70%、3日後には52.7%に減少した。死亡要因としては、葉片上に密生するカギ状の毛茸にひっかかり死亡したケースと、脱脂綿上で水死したケースが観察された。インゲンマメ葉片の葉裏における生存率は、試験開始1日後には52.7%と低く、2日後には34%、3日後には24%と急激に減少した。
【0088】
クズ葉片(直径8cm、葉表又は葉裏)(
図7(a))についても、成虫10匹を接種し、同様の手順・条件により調査した(反復は、葉表・葉裏で各5回)。
【0089】
その結果を
図7(b)に示す。クズ葉片の葉表における生存率は、試験開始3日後には30%で、脱脂綿上での水死個体の割合は70%であった。クズ葉片の葉裏における生存率は、試験開始3日後には40%で、水死個体の割合は60%であった。いずれの場合もひっかかりに伴う死亡は観察されなかった。
【0090】
以上の結果は、従来の材料及び方法を用いた際には、葉片の種類及び葉の表裏に関係なく、ハダニアザミウマ雌成虫が頻繁に死亡するために、ハダニアザミウマを十分に増殖できないことを示唆している。
【0091】
<実施例5:ポット植えのコマツナ及びその他の植物体を用いたハダニアザミウマの飼育>
上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナ(播種後5〜6週間の植物体にハダニ類を寄生させたもの、以下「播種後5〜6週間」という)を、天敵飼育容器内に1ポット設置後、ハダニアザミウマ雌成虫を5匹又は20匹導入した(反復は各4回)。そして、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従って、ハダニ寄生コマツナを適宜追加しながら天敵昆虫の飼育を行い、天敵昆虫導入後1ヶ月の次世代数を発育ステージ毎に調査した。各試験の手順及び条件等は実施例1と同様とした。
【0092】
また、播種後の経過日数が異なるハダニ寄生コマツナ(播種後3〜4週間、又は播種後7〜8週間の植物体にハダニ類を寄生させたもの、以下「播種後3〜4週間」又は「播種後7〜8週間」という)を用いた以外は同様の条件で、ハダニアザミウマ雌成虫を5匹導入した試験も行った(反復は各2回)。また、播種後7〜8週間のハダニ寄生コマツナに、ハダニアザミウマ雌成虫を20匹導入した試験も行った(反復は2回)。播種後3〜4週間、又は播種後7〜8週間のハダニ寄生コマツナは、上記<天敵昆虫飼育用植物の栽培>の方法において、恒温室内(23±2℃、8000〜10000ルクス、16L8D)で約2週間栽培後、温室内(23±3℃)でそれぞれさらに約1〜2週間、又は5〜6週間栽培したポット植えの植物体に、上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法でハダニ類を寄生させたものである。
【0093】
さらに、上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生ダイコン(播種後5〜6週間)にハダニアザミウマ雌成虫4匹を導入した試験(反復は1回)、ハダニ寄生チンゲンサイ(播種後5〜6週間)に雌成虫5匹を導入した試験(反復は3回)、ハダニ寄生ハクサイ(播種後5〜6週間)に雌成虫4匹を導入した試験(反復は1回)、ハダニ寄生ホウレンソウ(播種後5〜6週間)に雌成虫4匹を導入した試験(反復は1回)、及びハダニ寄生レタス(播種後5〜6週間)に雌成虫4匹を導入した試験(反復は1回)も同様に行った。
【0094】
さらに、比較として、上記実施例4と同様の方法で得たハダニ寄生リママメ(播種後2〜3週間)にハダニアザミウマ雌成虫5匹を導入した試験(反復は1回)も同様に行った。
【0095】
その結果を表2に示す。ハダニ寄生コマツナ(播種後5〜6週間)に天敵昆虫を5匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が169〜229匹、その他の個体も約200〜500匹回収され、雌成虫数では導入時の34〜46倍程度にまで増加した。ハダニ寄生コマツナ(播種後5〜6週間)に天敵昆虫を20匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が394〜564匹、その他の個体も約100〜2000匹回収され、雌成虫数では導入時の20〜28倍程度に増加した。
【0096】
一方、ハダニ寄生コマツナ(播種後3〜4週間)に天敵昆虫を5匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が70〜88匹、その他の個体も約140〜370匹回収され、雌成虫数では導入時の14〜18倍程度にまで増加した。また、ハダニ寄生コマツナ(播種後7〜8週間)に天敵昆虫を5匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が64匹、その他の個体も約60〜100匹回収され、雌成虫数では導入時の13倍程度にまで増加した。ハダニ寄生コマツナ(播種後7〜8週間)に天敵昆虫を20匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が122〜172匹、その他の個体は約30〜40匹回収され、雌成虫数では導入時の6〜9倍程度に増加した。
【0097】
以上の結果は、播種後3〜8週間のポット植えのコマツナにナミハダニを接種することでハダニアザミウマを容易に増殖できること、さらに播種後5〜6週間のコマツナにナミハダニを接種することが最も好ましいことを示唆している。その理由は、播種後5〜6週間のコマツナは、多数のナミハダニを接種しても食害ストレスにより耐性を示し、かつ古い葉の劣化もより起こりにくいためと推定される。
【0098】
ハダニ寄生ダイコンにハダニアザミウマ雌成虫4匹を導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が174匹、その他の個体も約140匹回収され、雌成虫数では導入時の約43倍に増加した。ハダニ寄生チンゲンサイに雌成虫5匹を導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が91〜224匹、その他の個体が約70〜380匹回収され、雌成虫数では導入時の18〜45倍程度にまで増加した。ハダニ寄生ハクサイに雌成虫4匹を導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が76匹、その他の個体が約150匹回収され、雌成虫数では導入時の19倍に増加した。ハダニ寄生ホウレンソウに雌成虫4匹を導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が67匹回収され、雌成虫数では導入時の17倍に増加した。ハダニ寄生レタスに雌成虫4匹を導入した試験区では、1ヶ月後には次世代雌成虫が39匹回収され、雌成虫数では導入時の10倍に増加した。以上の結果は、ポット植えのアブラナ科、アカザ科及びキク科の野菜にナミハダニを接種することでハダニアザミウマを容易に増殖できることを示唆している。
【0099】
比較対象であるポット植えのハダニ寄生リママメにハダニアザミウマ雌成虫5匹を導入した試験では、1ヶ月後の次世代雌成虫で14匹しか回収されず、ほとんど増殖しなかった。このことは、従来の天敵昆虫の飼育に用いられてきた、ハダニ類と植物との組み合わせではハダニアザミウマを十分に増殖できないことを示唆している。
【0100】
【表2】
【0101】
<実施例6:ハダニ寄生コマツナ及びその他の植物体を用いたケシハネカクシ類の飼育>
上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナ(播種後5〜6週間)を用いて、2種類のケシハネカクシを対象に飼育試験を実施した。実験条件及び手順は実施例1と同様であるが、上述のとおり、ケシハネカクシの蛹は土壌中で発育するため、天敵飼育容器の底に湿らせたバーミキュライトを敷いた。ヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を天敵飼育容器当たり4匹導入した(反復は2回)。同様に、近縁種であるハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を天敵飼育容器当たり4匹導入した(反復は2回)。また、上記実施例4と同様の方法で得たハダニ寄生ホウレンソウ(播種後5〜6週間)、及びハダニ寄生レタス(播種後5〜6週間)にヒメハダニカブリケシハネカクシ又はハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を天敵飼育容器当たり4匹導入した(反復は各1回)。さらに、比較として、上記実施例4と同様の方法で得たハダニ寄生リママメにヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を天敵飼育容器当たり4匹導入した(反復は1回)。
【0102】
その結果を表3に示す。ハダニ寄生コマツナにヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を導入した試験区では、導入1ヶ月後には次世代成虫が162〜167匹、幼虫が101匹回収され、成虫数で導入時の約40倍に増加した。近縁種であるハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を導入した試験区では、導入1ヶ月後には次世代成虫が109〜141匹回収され、成虫数で導入時の約27〜35倍に増加した。また、ハダニ寄生ホウレンソウにヒメハダニカブリケシハネカクシ又はハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を導入した試験区では、導入1ヶ月後には次世代成虫が67〜104匹回収され、成虫数で導入時の17〜26倍程度に増加した。ハダニ寄生レタスにヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫を導入した試験区では、導入1ヶ月後には次世代成虫が89匹回収され、成虫数で導入時の22倍程度に増加した。これらの結果は、ポット植えのアブラナ科、アカザ科及びキク科の野菜にナミハダニを接種することでケシハネカクシ類を容易に増殖できることを示唆している。
【0103】
比較対象であるハダニ寄生リママメを用いた試験区では、ヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫導入1ヶ月後に70匹の成虫を回収したが、リママメ葉上に密生するカギ状の毛茸に引っかかり死亡した幼虫も多数観察された。また、成虫の大半は植物体上に定着せずに飼育容器の内壁部分に分布し、植物体から脱出したハダニを餌として生息していた。以上の結果は、従来の天敵昆虫の飼育に用いられてきた、ハダニ類と植物との組み合わせでは、ケシハネカクシ類の幼虫が十分に発育できず、成虫も植物体上に十分に定着しないため、ケシハネカクシ類を十分に増殖できないことを示唆している。
【0104】
【表3】
【0105】
<実施例7:ハダニ寄生コマツナを用いたハダニタマバエの飼育>
上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生コマツナ(播種後5〜6週間)を、天敵飼育容器(上述のとおり、50%蜂蜜液を染み込ませた脱脂綿をメッシュ上に設置、又は飼育容器上筒部の内部壁面等に蜂蜜液を塗布)内に1ポット設置後、ハダニタマバエ幼虫15匹(反復は4回)又は成虫50匹(反復は2回)を導入した。そして、上記<天敵昆虫の飼育>の方法に従って、ハダニ寄生コマツナを適宜追加しながら天敵昆虫の飼育を行い、天敵昆虫導入から1ヶ月後の次世代成虫数を調査した。各試験の手順及び条件等は実施例1と同様とした。
【0106】
その結果を表4に示す。ハダニ寄生コマツナにハダニタマバエ幼虫を15匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代成虫数が51〜88匹回収され、成虫数では導入時の3〜6倍程度に増加した。ハダニ寄生コマツナにハダニタマバエ成虫を50匹導入した試験区では、1ヶ月後には次世代成虫数が224〜245匹回収され、成虫数では導入時の4〜5倍程度に増加した。また、成虫の餌である蜂蜜液の供試方法はハダニタマバエの増殖率には影響しなかった。
【0107】
以上の結果は、播種後5〜6週間のポット植えのコマツナにナミハダニを接種し、成虫の餌である蜂蜜液等を与えることで、ハダニタマバエを容易に増殖できることを示唆している。
【0108】
【表4】
【0109】
<実施例8:ハダニ寄生ホウレンソウを用いたハダニタマバエの飼育>
上記<天敵昆虫飼育用植物へのハダニ類の寄生>の方法で得たハダニ寄生ホウレンソウ(播種後4〜6週間)を、実施例7と同様に用意した天敵飼育容器内に1ポット設置後、ハダニタマバエ成虫30匹を導入した(反復は2回)。そして、天敵昆虫導入から2週間後の次世代成虫数を調査した。各試験の手順及び条件等は実施例1と同様とした。
【0110】
その結果を表5に示す。ハダニ寄生ホウレンソウ(播種後4〜6週間)にハダニタマバエ成虫30匹を導入した試験区では、2週間後には次世代成虫数が71〜97匹回収され、成虫数では導入時の3倍程度に増加した。また、成虫の餌である蜂蜜液の供試方法はハダニタマバエの増殖率には影響しなかった。
【0111】
以上の結果は、播種後4〜6週間のポット植えのホウレンソウにナミハダニを接種し、成虫の餌である蜂蜜液等を与えることで、ハダニタマバエを容易に増殖できることを示唆している。
【0112】
【表5】