(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の形状に曲げ成形された複数枚のガラス板と、該複数枚のガラス板の間に設けられる中間膜とを有し、前記複数枚のガラス板のうちの少なくとも2枚のガラス板の板厚が異なる厚いガラス板と薄いガラス板とを有する合わせガラスにおいて、
前記板厚が異なる2枚のガラス板は、厚いガラス板の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板が薄いガラス板よりも低い粘度を有し、
前記板厚が異なる2枚のガラス板は、
室温における、前記厚いガラス板の板厚(t1)と、前記薄いガラス板の板厚(t2)との比をx(x=t2/t1)とし、
前記厚いガラス板の徐冷点における、前記厚いガラス板の粘度の対数値(log10η1)と、前記薄いガラス板の粘度の対数値(log10η2)との比をy(y=log10η2/log10η1)とし、
前記厚いガラス板の軟化点における、前記厚いガラス板の粘度の対数値(log10η3)と、前記薄いガラス板の粘度の対数値(log10η4)との比をz(z=log10η4/log10η3)として、
1<y<(1.22−0.206×x)の式、および、1<z<(1.15−0.131×x)の式を満たすことを特徴とする、合わせガラス。
前記合わせガラスは、車両用窓ガラスであって、前記合わせガラスを構成するガラス板の枚数が2枚であり、前記合わせガラスの凸曲面が、板厚の厚いガラス板の凸曲面で構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合わせガラス。
複数枚のガラス板を軟化点近傍まで加熱して、所定の形状に曲げ成形する成形工程と、曲げ成形された複数枚の前記ガラス板を、中間膜を介して積層する積層工程と、積層した前記ガラス板と前記中間膜を圧着して合わせガラスを形成する圧着工程とを有し、前記合わせガラスを構成する複数枚のガラス板のうちの少なくとも2枚のガラス板の板厚が異なる、合わせガラスの製造方法において、
前記板厚が異なる2枚のガラス板は、厚いガラス板の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板が薄いガラス板よりも低い粘度を有し、
前記板厚が異なる2枚のガラス板は、
室温における、前記厚いガラス板の板厚(t1)と、前記薄いガラス板の板厚(t2)との比をx(x=t2/t1)とし、
前記厚いガラス板の徐冷点における、前記厚いガラス板の粘度の対数値(log10η1)と、前記薄いガラス板の粘度の対数値(log10η2)との比をy(y=log10η2/log10η1)とし、
前記厚いガラス板の軟化点における、前記厚いガラス板の粘度の対数値(log10η3)と、前記薄いガラス板の粘度の対数値(log10η4)との比をz(z=log10η4/log10η3)として、
1<y<(1.22−0.206×x)の式、および、1<z<(1.15−0.131×x)の式を満たすことを特徴とする、合わせガラスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0019】
例えば、本発明の合わせガラスの実施形態のガラス板の種類は、ソーダライムガラスであるが、本発明のガラス板の種類に制限はなく、例えば、無アルカリガラスであっても良い。
本実施形態における合わせガラスを構成する薄いガラス板と厚いガラス板は、具体的には、下記酸化物換算の質量%表示で、以下のような第1の態様及び第2の態様のガラス組成を有することが好ましい。
(第1の態様)
薄いガラス板は、
Al
2O
3 :0〜3.5質量%、
Na
2OとK
2Oの合計 :12.0〜14.5質量%、
を含む組成を有し、
厚いガラス板は、
Al
2O
3 :0〜2.0質量%、
Na
2OとK
2Oの合計 :13.0〜15.5質量%
を含む組成を有する、ソーダライムガラス板。
(第2の態様)
薄いガラス板は、
SiO
2 :68.0〜75.0質量%、
Al
2O
3 :0〜3.5質量%、
CaO :7.0〜13.0質量%、
MgO :0〜 7.0質量%、
Na
2O :12.0〜15.0質量%、
K
2O :0〜 3.0質量%、
Na
2 OとK
2Oの合計 :12.0〜14.5質量%、
Na
2 OとK
2 Oの合計が 13.0〜15.5質量%、
含む組成を有し、
厚いガラス板は、
SiO
2 :68.0〜75.0質量%、
Al
2O
3 :0〜2.0質量%、
CaO :7.0〜13.0質量%、
MgO :0〜 7.0質量%、
Na
2O :12.0〜15.0質量%、
K
2O :0〜 3.0質量%、
Na
2OとK
2Oの合計 : 13.0〜15.5質量%
を含む組成を有する、ガラス板。
【0020】
Al
2O
3は、耐候性を確保する成分であり、好ましくは1.7質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上である。また、4.0質量%を超えると、粘性が高くなり、溶融が困難になるおそれがある。この観点で、より好ましくは3.5質量%以下、特に好ましくは3.3質量%以下である。
Na
2Oは、溶融性を向上する成分であり、12.6質量%より少ないと、溶融性が低下するおそれがある。より好ましくは12.8質量%以上、特に好ましくは13.0質量%以上である。また、15.0質量%を超えると、耐候性が低下するおそれがある。より好ましくは14.8質量%以下、特に好ましくは13.8質量%以下である。
K
2Oは、溶融性を向上する成分であり、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.9質量%以上である。また、2.0質量%を超えると、耐候性が低下するおそれがあり、またガラス板のコストも高くなる。より好ましくは1.8質量%以下、特に好ましくは1.6質量%以下である。
上記した第1の態様に係るソーダライムガラス板とは、SiO
2、CaO、Na
2O、及びK
2Oを主成分として含有するソーダライムガラスであって、SiO
2を、65〜75質量%、CaOを7〜14質量%を少なくとも含有し、かつ上記した範囲のAl
2O
3、Na
2O、及びK
2Oとを含有するガラス板を指す。
上記した数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
【0021】
(合わせガラスの製造方法)
図1および
図2は、本発明の一実施形態による合わせガラスの製造方法の説明図である。
図1は成形工程の説明図であって、加熱炉の縦断面図である。
図2は積層工程の説明図である。
図3は、本発明の一実施形態によるガラス積層体の側面図である。
図4は、本発明の一実施形態による合わせガラスの側面図である。
合わせガラスの製造方法は、成形工程と、積層工程と、圧着工程とを有し、合わせガラスを構成する複数枚のガラス板のうちの少なくとも2枚のガラス板の板厚が異なる。複数枚のガラス板のそれぞれの板厚やガラス組成、複数枚のガラス板の板厚比は、成形工程などの各工程の前後において、ほとんど変化しない。
【0022】
成形工程は、複数枚の板厚の異なるガラス板を、軟化点の高い方のガラス板、すなわち薄いガラス板の軟化点付近まで加熱して、所定の形状に曲げ成形する工程である。成形工程では、例えば、ガラス板をリング型上に載置して加熱炉に通し、加熱して軟化させ、重力によって所定の形状に曲げ成形する重力成形法が用いられる。重力によって予備成形したガラス板を、リング型とプレス型との間に挟んで加圧して本成形するプレス成形法が用いられても良い。
【0023】
これらとは別に、加熱炉内に設けられる複数のロール上を水平に搬送されながら所定の温度に加熱されたガラス板を、リング型で持ち上げて、曲げ型に近づけ、曲げ型に沿った形状に成形する方法が用いられても良い。
【0024】
成形工程では、例えば、
図1に示すように、離型剤を介して重ねた複数枚のガラス板2、4を、リング型20に載せ、同時に曲げ成形することが経済的である。リング型20上に載置された複数枚のガラス板2、4は、上下方向に並んでおり、隣り合うガラス板の間には、離型剤が配される。
【0025】
離型剤は、隣り合うガラス板を離間して、成形後に容易に分離できるようにする。離型剤としては、例えばガラス板と反応したり、高温で溶融したりすることのないセラミックス粉末などが好適に用いられる。
【0026】
重力成形法におけるリング型20上に載置される複数枚のガラス板2、4は、板厚が異なる2枚のガラス板を含み、板厚が厚いガラス板ほど下方に配置されても良い。リング型20上に載置されるガラス板の枚数が3枚以上であって、板厚が同じガラス板が存在する場合、板厚が同じガラス板は、隣り合わせに配置される。
【0027】
一方で、リング型20上に載置される複数枚のガラス板2、4は、板厚が薄いガラス板ほど下方に配置されても良い。この場合、曲げ成形されたガラス板12、14の上下位置を入れ換えて積層することで、ガラス板14のリング型20との接触痕の凹凸が外部に露出するのを防止できる。また、複数枚のガラス板2、4の成形性に若干の差異が生じる、又は意図的に成形性の差異を残した場合であっても、ガラス板の2、4の上下位置を任意に変えることにより、複数枚のガラス板の曲がり易さから最適な成形手順を選択することができる。
【0028】
成形工程では、複数枚のガラス板2、4を1枚ずつ別のリング型20に載せ、別々に曲げ成形することも可能であり、この場合、離型剤は不要である。この場合、従来は、ガラス板の板厚に合わせて、加熱炉30内の温度分布を変えたり、異なるリング型20を使用したりする必要があるが、本実施形態においては、不要である。詳しくは後述するが、板厚の厚い板と板厚の薄い板の成形温度域における曲げ性が略同じためである。
【0029】
リング型20は、リング状に形成され、複数枚(例えば2枚)のガラス板2、4を下方から支持する支持型である。リング型20は、加熱炉30の内部をレールに沿って所定方向に案内される。加熱炉30の内部は、ガラス板を予熱する予熱ゾーン32、ガラス板を曲げ成形する成形ゾーン34、ガラス板を徐冷する徐冷ゾーン36などの複数のゾーンに区画されている。各ゾーンには、各ゾーンの温度を制御するため、加熱ヒータなどが設けられている。
【0030】
リング型20は、予熱ゾーン32、成形ゾーン34、徐冷ゾーン36をこの順で通過する。成形ゾーン34の温度は、ガラス板の曲げ成形に適した温度(通常、550〜650℃)に設定されており、成形ゾーン34において、ガラス板がリング型20に沿った形状に曲げられる。
【0031】
リング型20は、枠状に形成されており、ガラス板の周縁部を支持している。リング型20は、一体物であっても良いが、周方向で分割されていても良く、後者の場合、リング型を構成する複数の分割体を、所定の形状を得るため必要に応じて、相対的に移動または回動させても良い。また、部分的に曲率の違うリング型を並行に重複させ、ガラス板の曲げの程度に合わせて支持するリングを入れ替えても良い。
【0032】
このようにして、成形工程では、複数枚の平板状のガラス板2、4を曲げ成形して、所定の形状の複数枚のガラス板12、14を得る。得られた複数枚のガラス板12、14は、十分に冷却された後、必要に応じて(例えば、離型剤を除去するため)、洗浄され、積層工程に供される。
【0033】
積層工程は、
図2に示すように、曲げ成形された複数枚のガラス板12、14を、中間膜40を介在させて積層する工程である。この工程によって、
図3に示すように、ガラス積層体(未圧着体)50が得られる。ガラス積層体50は、板厚が異なる2枚のガラス板12、14を含んでいる。本明細書において、ガラス積層体とは、複数枚のガラス板を、中間膜を介して積層した状態であって、まだ圧着工程前の未圧着積層体を称し、圧着工程を経て得られた合わせガラスとは区別する。
【0034】
中間膜40は、ポリビニルブチラール(PVB)などの樹脂で構成され、隣り合うガラス板12、14の間に設けられる。中間膜40は、後述の合わせガラス60が割れたときに、割れたガラスが飛び散るのを防止する。
【0035】
積層工程では、曲げ成形された複数枚のガラス板の中から、形状の合う複数枚(例えば2枚)のガラス板12、14を選定して積層しても良い。例えば、1つのリング型20上で同時に曲げ成形された複数枚のガラス板12、14を、それぞれ、異なるペアのガラス板と圧着して、合わせガラスの作製に用いても良い。
【0036】
積層工程では、ガラス板12、14と中間膜40との間からの脱気をし易くし、ガラス板と中間膜の圧着不良の発生を防止するため、積層する2枚のガラス板12、14を、曲率半径が大きいガラス板12の凹曲面と、曲率半径が小さいガラス板14の凸曲面とが向かい合うように積層することが望ましい。ここで、「凸曲面」とは、ガラス板の凸の曲面をいい、「凹曲面」とは、ガラス板の凹んだ曲面をいう。2枚のガラス板12、14の曲率半径の差は、僅かである。
【0037】
積層工程では、複数枚の板厚の異なるガラス板12、14を、板厚が厚いガラス板ほど、ガラス積層体50の凸曲面寄りに配置されるように上下に並べて積層する。これによって、合わせガラス60を自動車用窓ガラスとして車体に取り付けたとき、厚いガラス板ほど車外寄りに配置されるので、飛び石など車外からの衝撃に対する耐久性を向上できる。
【0038】
圧着工程は、積層したガラス板12、14と中間膜40とを圧着して、
図4に示すように、合わせガラス60を形成する工程である。合わせガラス60は、積層工程で得られたガラス積層体50をオートクレーブ内に入れ、加熱・圧着することで得られ、所定の湾曲形状を備える。
【0039】
合わせガラスの製造方法は、上記成形工程や積層工程、圧着工程の他、ガラス板の表面に機能材層8(
図1参照)を形成する形成工程をさらに有して良い。機能材としては、特に限定されないが、例えば、金属材などの導電材、耐熱顔料などの加飾材が挙げられる。
【0040】
前記形成工程では、機能材の他に、バインダーや溶剤を含むインクを、ガラス板の表面に塗布し、乾燥させることで、機能材層8を形成する。1枚のガラス板の表面に、複数種類の機能材層8を形成しても良い。機能材層8は、所定のパターンで形成される。
【0041】
形成工程は、成形工程の前に実施されて良く、この場合、平面状のガラス表面にインクを塗布でき、塗布作業性が良い。インクの塗布方法としては、例えばスクリーン印刷法、ダイコート法などがある。
【0042】
機能材層8は、焼成されると、ガラス板の表面に焼き付けられ、機能材を含む機能膜18(
図1参照)となる。機能膜18は、例えば、導電材を含む導電膜、また導電線条であって、TV放送、AM/FM放送、PHSなどの電波を受信するアンテナ、凍結防止用の熱電線などを構成する。あるいは、機能膜18は、加飾材を含む加飾膜であって、黒色の耐熱顔料を含み、外部からの視認を制限したり、太陽光の透過を制限する。
【0043】
(合わせガラスの製造方法の詳細)
本実施形態では、合わせガラス60を構成する複数枚のガラス板12、14のうちの少なくとも2枚のガラス板12、14の板厚が異なる。
図3、4に示した例は、2枚のガラス板を有する合わせガラスであり、板厚が異なる2枚のガラス板12、14(即ち、ガラス板2、4)は、異なる粘度を有しており、厚いガラス板12の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板12は、薄いガラス板14よりも低い粘度を有する。
【0044】
ここで、「徐冷点」とは、ガラスの粘度が10
13dPa・sとなる温度をいい、ガラスの組成などで定まる。ソーダライムガラスの徐冷点は、代表的には、550℃程度である。徐冷点よりも低い温度では、ガラス板はほとんど熱変形しない。
【0045】
また、「軟化点」とは、ガラスの粘度が10
7.65dPa・sとなる温度をいい、ガラスの組成などで定まる。ソーダライムガラスの軟化点は、代表的には、750℃程度である。ガラス板の曲げ成形温度は、軟化点と同じ温度、または、軟化点よりも若干低い温度に設定される。
【0046】
ガラスの粘度は、ガラスの温度が同じ場合、ガラスの組成及び水分含水量を表すβ‐OH値(mm
−1)などに依存する。ソーダライムガラスの場合、例えば、ガラス中のアルカリ金属酸化物(Na
2OやK
2Oなど)の含有量が少なくなるほど、β−OH値(mm
−1)が小さくなるほど粘度は高くなる。
なお、β−OH値(mm−1)は、ガラス中の水分含有量の指標であり、ガラスのβ−OH値は、ガラス試料について波長2.75〜2.95μmの光に対する吸光度を測定し、その最大値βmaxを該試料の厚さ(mm)で割ることで求めることができる。
また、ガラス板のβ−OH値(mm
−1)は、原料中の水分量、原料を溶解する熱源の種類(たとえば、重油、LNG、電気等)、溶解槽中の水蒸気濃度、および溶解槽における溶融ガラスの滞在時間などにより変化し、ガラス原料として酸化物の代わりに水酸化物を用いる方法(例えば、マグネシウム源として酸化マグネシウム(mgo)の代わりに水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を用いる)を用いるなどによって調整されることが好ましい。
本実施態様においてガラス板中の水分含有量は、β−OH値(mm
−1)で0.1〜0.4、好ましくは0.2〜0.3となる。
【0047】
ガラスの粘度は、ガラスの組成が同じ場合、ガラスの温度が上昇するほど、低下する。ガラスの粘度は、ガラスの組成が同じ場合、下記の式(1)で表される。下記の式(1)は、一般に、Fulcherの式と呼ばれる。
【0048】
【数1】
式(1)において、ηはガラスの粘度(dPa・s)、Tはガラスの温度(℃)を表す。また、A、η
0(dPa・s)、B(℃)、およびT
0(℃)は、それぞれ、ガラスの組成などに応じて定まる定数を示す。
【0049】
図5は、Fulcherの式に基づき計算される、ガラスの粘度と温度との関係を模式的に示すグラフである。
図5において、縦軸はガラスの粘度の値ηの対数値(10を底とする)であり、横軸はガラスの温度の値Tである。
図5に示すように、ガラスの組成が同じ場合、Tが高くなるほど、ηが低くなる。
【0050】
所定の温度におけるガラスの粘度は、所謂、Beam Bending法(以下、「BB法」という)によって測定される。BB法は、徐冷点と軟化点との間の所定温度における粘度を測定するのに適した測定方法である。
【0051】
図6は、BB法による粘度測定の説明図である。
図6に示すように、BB法による粘度測定では、3点曲げ試験機100を用いる。長さ50mm、板厚2mmの試験片110を2つの支持点(間隔L=20mm)で水平に支持し、所定温度に加熱する。その後、試験片110の長手方向中央に一定の荷重(40g)を加え、試験片の長手方向中央の撓み速度を測定する。ここで、「撓み速度」とは、上下方向における変位速度を意味する。次いで、撓み速度の測定結果などを下記の式(2)に代入して、所定温度におけるガラスの粘度を算出する。
【0052】
【数2】
式(2)において、ηはガラスの粘度(dPa・s)、Gは重力加速度(cm/sec
2)、Lは2つの支持点の間隔(cm)、Iは試験片の断面2次モーメント(cm
4)、vは試験片中央の撓み速度(cm/min)、Mは試験片の長手方向中央に加える荷重(g)、ρはガラスの密度(g/cm
3)、Sは試験片の断面積(cm
2)を表す。
【0053】
式(2)式を変形すると、下記の式(3)が得られる。
【0054】
【数3】
式(3)に示すように、ガラスの粘度が低くなるほど、ガラスの撓み速度が速くなる。
【0055】
本実施形態では、上述の如く、板厚が異なる2枚のガラス板12、14(即ち、ガラス板2、4)は、異なるガラス粘度を有しており、厚いガラス板12の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板12が薄いガラス板14よりも低い粘度を有する。そのため、粘度差によって板厚差を補償でき、板厚が異なる2つのガラス板12、14を精度良く容易に曲げ成形できる。
板厚がt(mm)のガラス板の曲げやすさを表す指標として、
図6に示す3点曲げ試験機100を用いて、板厚がt(mm)の試験片110に一定の荷重(50gf)を加えた状態で、試験片110を400℃から630℃まで昇温したときの、試験片110の総撓み量を使用可能である。この総撓み量をD(cm)とすると、Dは下記の式(4)から算出される。試験片110の昇温開始温度を400℃としたのは、400℃以下の温度では、試験片の熱変形が無視できる程小さいからである。試験片とガラス板とは、同じガラス組成を有し、同じA(η
0)、B、T
0を有する。
【0056】
【数4】
式(4)において、Tは試験片の温度を示す。Eは、試験片の400℃から630℃までの昇温速度(℃/min)を示し、10(℃/min)とする。vは、試験片の撓み速度(cm/min)を示し、Tを変数とする関数であって、下記の式(5)で表される。
【0057】
【数5】
式(5)は、式(3)に式(1)を代入して得られるものであって、LおよびIはtなどにて定まる。LおよびIは、温度に対する依存性が無視できるほど小さいので、室温での値を用いる。
【0058】
厚い試験片(t=t
1)におけるDおよびT
0の値をD
1およびT
1とし、薄い試験片(t=t
2<t
1)におけるDおよびT
0の値をD
2およびT
2としたとき、D
1=D
2を満たすΔT(ΔT=T
2−T
1)を表1に示す。また、2つの試験片の板厚比をxとし、厚い試験片(t=t
1)の徐冷点における、2つの試験片の粘度の対数値同士の比をyとし、厚い試験片(t=t
1)の軟化点における、2つの試験片の粘度の対数値同士の比をzとすると、D
1=D
2を満たす、x、yおよびzの組み合わせを表1に示す。yおよびzの値は、表1に示すΔTなどを式(4)(詳細には式(5))に代入して算出される。
【0059】
【表1】
表1において、2つの試験片におけるAおよびBの値は、ソーダライムガラスの代表値とし、具体的には、A=1.525、B=4144(℃)とした。また、厚い試験片(t=t
1)におけるT
1の値は、ソーダライムガラスの代表値とし、具体的には、T
1=270.6(℃)とした。このように、AおよびBの値を一定とし、T
0のみを調節したのは、AおよびBは、T
0に比べて、ガラス組成に対する依存性が小さいからである。
表1において、xの値は、室温における、厚い試験片の板厚(t
1)と、薄い試験片の板厚(t
2)との比(t
2/t
1)を示す。yの値は、厚い試験片の徐冷点における、厚い試験片の粘度の対数値(log
10η
1)と、薄い試験片の粘度の対数値(log
10η
2)との比(log
10η
2/log
10η
1)を示す。zの値は、厚い試験片の軟化点における、厚い試験片の粘度の対数値(log
10η
3)と、薄い試験片の粘度の対数値(log
10η
4)との比(log
10η
4/log
10η
3)を示す。
【0060】
図7は、D
1=D
2を満たす、xとyとの関係を示すグラフである。
図8は、D
1=D
2を満たす、xとzとの関係を示すグラフである。
【0061】
図7に示すように、D
1=D
2を満たすxとyとは、ほぼ比例関係を有する。最小二乗法により求められるxとyとの関係は、y=1.20−0.206×xで表される。
【0062】
図8に示すように、D
1=D
2を満たすxとzとは、ほぼ比例関係を有する。最小二乗法により求められるxとzとの関係は、z=1.13−0.131×xで表される。
【0063】
そうすると、板厚が異なる2枚のガラス板12、14(即ち、ガラス板2、4)は、成形工程における曲げ性を合わせるため、下記の式(6)および式(7)を満たすことが望ましい。
【0065】
【数7】
式(6)および式(7)において、x、yおよびzは、表1と同様の意味であって、xは室温における2枚のガラス板12、14の板厚比を示し、yは厚いガラス板12の徐冷点における、2枚のガラス板12、14の粘度の対数値同士の比を示し、zは厚いガラス板12の軟化点における、2枚のガラス板12、14の粘度の対数値同士の比を示す。
式(6)および式(7)において、b
1=1.22、c
1=1.15である。y≧b
1−0.206×x、または/および、z≧c
1−0.131×xの場合、成形工程における、厚いガラス板の曲げ量が、薄いガラス板の曲げ量よりも過大となる。そのため、厚いガラス板の凹曲面と、薄いガラス板の凸曲面とが対向するように、2枚のガラス板を積層すると、2枚のガラス板の間に圧着不良が生じやすい。b
1は、好ましくは1.21、より好ましくは1.20である。c
1は、好ましくは1.14、より好ましくは1.13である。
【0066】
板厚が異なる2枚のガラス板は、上記の式(6)および式(7)に加えて、下記の式(8)および式(9)を満たすことがさらに望ましい。但し、式(8)は、xがある程度小さいときのみ有効に用いられ、具体的には1≦b
2−0.206×xのときにのみ有効に用いられる。同様に、式(9)は、xがある程度小さいときのみ有効に用いられ、具体的には1≦c
2−0.131×xのときにのみ有効に用いられる。
【0068】
【数9】
式(8)および式(9)において、b
2=1.11、c
2=1.06である。y>b
2−0.206×x、および、z>c
2−0.131×xとすることで、xが小さい場合でも、成形工程における、2枚のガラス板の曲げ量を十分に整合できる。b
2は、好ましくは1.12、より好ましくは1.13である。c
2は、好ましくは1.07、より好ましくは1.08である。
【0069】
図9は、式(6)および式(8)を満たすxとyとの関係を示すグラフである。
図9において、式(6)および式(8)を満たす領域を斜線で示す。また、
図9において、表1に示すxとyとの関係をプロットする。
図9に示すように、式(8)は、xがある程度小さいときのみ有効である。
【0070】
図10は、式(7)および式(9)を満たすxとzとの関係を示すグラフである。
図10において、式(7)および式(9)を満たす領域を斜線で示す。また、
図10において、表1に示すxとzとの関係をプロットする。
図10に示すように、式(9)は、xがある程度小さいときのみ有効である。
【0071】
表1との比較のため、x、yおよびzの組合せが式(6)〜式(9)の少なくとも1つの式を満たさないときのD
2/D
1、およびΔTを表2に示す。
【0072】
【表2】
表2において、b
1=1.20、c
1=1.13、b
2=1.13、c
2=1.08である。
【0073】
板厚が異なる2枚のガラス板12、14(即ち、ガラス板2、4)は、0.3≦x≦0.9の式を満たすことが望ましい。xを0.9以下とすることで、厚いガラス板12(車外側のガラス板)の強度や耐飛び石性能を維持しつつ、合わせガラス60を十分に薄板化できる。また、xを0.3以上とすることで、薄いガラス板14の強度を十分に確保できる。薄板化による軽量化と、先進国の安全基準を満たし飛び石などに対する車外側ガラス板の強度のバランスから、0.3≦x≦0.76がより好ましく、0.33≦x≦0.66がさらに好ましい。このときの、一般の自動車用窓ガラスに用いられるソーダライムガラスであれば、合わせガラスの車外側に配置されるガラス板の板厚は1.6mmより厚いことが好ましく、1.8mm以上がさらに好ましい。また、車内側に配置されるガラス板の板厚は1.6mmより薄いことが好ましく、1.3mmより薄いことがさらに好ましく、1.1mmより薄いことが特に好ましい。一方で、0.7mmよりも厚いとガラス板の取り扱いが容易になり、1mmよりも厚ければ既存の自動車用窓ガラスの生産設備とへの適合性が高く好ましい。
また、厚い板と薄い板の板厚差は、0.5mm以上が好ましく、0.65mm以上がさらに好ましい。強度や飛び石性能を確保したまま軽量化が可能になるためである。
また、yの値は、1.017≦yが好ましく、1.02≦yがより好ましく、1.03≦yがさらに好ましい。
【0074】
合わせガラス60は、車両用窓ガラスであって、例えば
図4に示すように、合わせガラス60を構成するガラス板12、14の枚数が2枚であっても良く、合わせガラス60の凸曲面が、板厚の厚いガラス板12の凸曲面で構成される。この合わせガラス60を車両に取り付けると、板厚の厚いガラス板12が車外側に配置されるので、小石などの飛来物が外部から自動車に衝突する場合に、合わせガラス60が割れにくい。
【0075】
なお、上記実施形態では、合わせガラスは、2枚のガラス板を含むとしたが、合わせガラスのうちの2枚のガラス板の板厚が異なる限り、3枚以上のガラス板を含んで良い。この場合、上記2枚のガラス板以外の残りのガラス板は、上記2枚のガラス板の両方と異なる板厚であっても良いし、いずれか一方と同じ板厚であっても良い。前者の場合、板厚が異なる2枚のガラス板の組合せ全てにおいて、2枚のガラス板は、厚いガラス板の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板が薄いガラス板よりも低い粘度を有することが望ましい。後者の場合、板厚が同じガラス板は、同じガラス粘度を有することが望ましい。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
実施例1では、平板状の2枚のガラス板(ソーダライムガラス)を用意する。この2枚のガラス板は、異なる板厚を有しており、厚いガラス板の板厚は2.0mmであり、薄いガラス板の板厚は1.1mmである。また、この2枚のガラス板は、異なる組成を有しており、蛍光X線分析を用いて各ガラス板の組成を調べた結果、厚いガラス板は、薄いガラス板よりも高いNa
2O含有量を示す。
【0078】
次いで、各ガラス板と同組成の試験片を用いて、
図6に示すBB法により複数の温度における粘度を調べ、モデル式である式(1)との差が最小となるように、最小二乗法で式(1)中のA、B、T
0を求める。その結果、厚いガラス板と同組成の試験片では、A=1.525、B=4144、T
0=270.8である。また、薄いガラス板と同組成の試験片では、A=1.525、B=4144、T
0=290.8である。これらのA、B、T
0の組み合わせに基づいて算出されるyおよびzの組合せは、y=1.921、z=1.056である。ちなみに、xは0.55である。
【0079】
次いで、薄いガラス板の表面に、ガラスフリット、黒色の耐熱顔料、および有機ビヒクルを混ぜたインクを塗布し、乾燥させて加飾材層を形成する。
【0080】
次いで、加飾材層が薄いガラス板の上面に配置されるように、
図1に示すリング型上に、厚さ2.0mmのガラス板、および厚さ1.1mmのガラス板をこの順で重ねて載せる。なお、2枚のガラス板を重ねる前に、2枚のガラス板の間に、セラミックス粉末を含む離型剤を設ける。
【0081】
次いで、2枚のガラス板を重ねて載せたリング型を、加熱炉の入口から予熱ゾーンを経て、成形ゾーンに移動させることで、軟化した2枚のガラス板を重力によってリング型に沿った形状に曲げると共に、加飾材層を脱バインダーのための加熱処理し、次いで焼成して加飾膜を形成する。この状態では、薄いガラス板の凸曲面と、厚いガラス板の凹曲面とが互いに対向している。次いで、リング型を、成形ゾーンから徐冷ゾーンに移動させた後、加熱炉の出口から搬出する。
【0082】
その後、リング型上で、2枚のガラス板を十分に冷却した後、リング型から取り外し、洗浄によって離型剤を除去し、各ガラス板の外観を目視で観察する。その結果、離型剤に含まれるセラミックス粉末の凹凸に起因する欠点は認められず、見栄えに問題はない。
【0083】
続いて、厚いガラス板の凹曲面と、薄いガラス板の凸曲面とを互いに向かい合わせて、ポリビニルブチラール(PVB)からなる中間膜を介して、2枚のガラス板を積層し、ガラス積層体(未圧着体)とする。ガラス積層体は、オートクレーブ内で加熱・圧着され、所定の湾曲形状を備えた合わせガラスを得る。
得られた合わせガラスを目視で観察すると、隣り合うガラス板の間に圧着不良は見られず、クラックも確認されない。
【0084】
[実施例2]
実施例2では、薄いガラス板の板厚を1.6mmとし、薄いガラス板のガラス組成を変更する他は、実施例1と同様にして合わせガラスを作製する。
【0085】
成形工程の前に、実施例2の薄いガラス板と同組成の試験片を用いて、
図6に示すBB法により複数の温度における粘度を調べ、モデル式である式(1)との差が最小となるように、最小二乗法で式(1)中のA、B、T
0を求める。その結果、薄いガラス板と同組成の試験片では、A=1.525、B=4144、T
0=278.6である。このA、B、T
0の組み合わせに基づいて算出されるyおよびzの組合せは、y=1.826、z=1.022である。ちなみに、xは0.8である。
【0086】
成形工程の後、リング型上で、2枚のガラス板を十分に冷却した後、リング型から取り外し、洗浄によって離型剤を除去し、各ガラス板の外観を目視で観察する。その結果、離型剤に含まれるセラミックス粉末の凹凸に起因する欠点は認められず、見栄えに問題はない。
また、圧着工程の後、得られた合わせガラスを目視で観察すると、隣り合うガラス板の間に圧着不良は見られず、クラックも確認されない。
【0087】
[実施例3]
実施例3では、薄いガラス板および厚いガラス板の組成を表3の通りに変更する他は、実施例1と同様にして合わせガラスを作製する。
成形工程の前に、実施例3の薄いガラス板と厚いガラス板とそれぞれ同組成の試験片を用いて、
図6に示すBB法により複数の温度における粘度を調べ、モデル式である式(1)との差が最小となるように、最小二乗法で式(1)中のA、B、T
0を求める。その結果、表3に記載の通り、薄いガラス板と同組成の試験片では、A=2.158、B=4791、T
0=243.6であり、厚いガラス板と同組成の試験片では、A=1.617、B=4230、T
0=261.6である。
【0088】
成形工程の後、リング型上で、2枚のガラス板を十分に冷却した後、リング型から取り外し、洗浄によって離型剤を除去し、各ガラス板の外観を目視で観察する。その結果、離型剤に含まれるセラミックス粉末の凹凸に起因する欠点は認められず、見栄えに問題はない。
また、圧着工程の後、得られた合わせガラスを目視で観察すると、隣り合うガラス板の間に圧着不良は見られず、クラックも確認されない。
【0089】
[実施例4]
実施例4では、薄いガラス板および厚いガラス板の組成を表3の通りに変更する他は、実施例1と同様にして合わせガラスを作製する。
成形工程の前に、実施例4の薄いガラス板と厚いガラス板とそれぞれ同組成の試験片を用いて、
図6に示すBB法により複数の温度における粘度を調べ、モデル式である式(1)との差が最小となるように、最小二乗法で式(1)中のA、B、T
0を求める。その結果、表3に記載の通り、薄いガラス板と同組成の試験片では、A=1.270、B=4119、T
0=274.3であり、厚いガラス板と同組成の試験片では、A=−0.110、B=2976、T
0=312.0である。
【0090】
成形工程の後、リング型上で、2枚のガラス板を十分に冷却した後、リング型から取り外し、洗浄によって離型剤を除去し、各ガラス板の外観を目視で観察する。その結果、離型剤に含まれるセラミックス粉末の凹凸に起因する欠点は認められず、見栄えに問題はない。
また、圧着工程の後、得られた合わせガラスを目視で観察すると、隣り合うガラス板の間に圧着不良は見られず、クラックも確認されない。
【0091】
【表3】
【0092】
[比較例1]
比較例1では、薄いガラス板のガラス組成を変更し、厚いガラス板のガラス組成と同一とする他は、実施例1と同様にして合わせガラスを作製する。
成形工程の後、リング型上で、2枚のガラス板を十分に冷却した後、リング型から取り外し、洗浄によって離型剤を除去し、各ガラス板の外観を目視で観察する。その結果、離型剤に含まれるセラミックス粉末の凹凸に起因する欠点が観察され、透視歪みが見られる。
また、圧着工程の後、得られた合わせガラスを目視で観察すると、隣り合うガラス板の間に圧着不良が認められ、クラックも確認される。