(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
静電噴霧法は、比較的均一な径の液滴を発生させる手段として塗装や材料合成などの分野で用いられている他、質量分析計のイオン化インターフェイスとしても用いられている。例えば、静電噴霧を用いてポリマー微粒子を製造する方法が提案されている(特許文献1)。この方法では、
図12に示す静電噴霧装置を用いて、処理槽191内において、所定のポリマーを含む溶液をノズル細管193と対極電極195間に噴霧し、対極電極195上に沈着したポリマー微粒子を回収する。このような静電噴霧法は、微細化された液滴を作業面に均一に噴霧、塗布することができる方法として有効な方法であり、薬液の散布等のスプレー装置あるいは粉体塗装装置等に広く利用されている。
【0003】
このような静電噴霧は、一般に外気雰囲気下で行われているところ、微細加工技術の発達や高機能材料の需要に伴い、余計な不純物の混入を避けるためには、清浄条件下で行うことも考えられる。特に外気の影響、例えばバックグラウンド粒子や湿度等の影響を排除しようとすれば、静電噴霧を閉塞空間で行うことが考えられる。
【0004】
しかしながら、閉塞空間内ではスプレーが起こりにくいことが多く、またスプレーが得られたとしても次第に減衰し液滴が得られなくなるという問題があった。この傾向は噴霧ノズルに正電圧を印加した場合、負電圧を印加した場合の双方で見られるが、特に静電噴霧ノズルに負電圧を印加する場合に顕著となる。例えば、窒素雰囲気下でエタノールを静電噴霧した場合、印加電圧が−3kVから−4kVになると、噴霧量は1/10000に減少する。生体分子のような酸化されやすい物質を静電噴霧で基板にコーティングする場合は、ノズルに正電圧を印加するよりも負電圧を印加するほうが噴霧時に物質の変質が起こり難いが、噴霧の抑制や噴霧効率の低下についてのメカニズムは明らかになっていないため、閉塞空間での安定した静電噴霧は実現できていなかった。
【0005】
このような問題は、例えば質量分析計のような、噴霧量が比較的少なくて済む用途においては、実用上さほど問題とならない。しかしながら、より大きな噴霧量を要求される用途、例えば工業用の塗装装置や微粒子合成装置等の用途においては、安定的に静電噴霧を継続することが強く求められるため、上記の問題を無視できない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、静電噴霧装置及び静電噴霧の安定化方法を例示するものであって、以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
(実施の形態1)
【0018】
図1に、本発明の実施の形態1に係る静電噴霧装置100の模式図を示す。この図に示す静電噴霧装置100は、噴霧チャンバ1に静電噴霧を発生させるための静電噴霧発生手段を配置し、リング状の電極に対して静電噴霧を行う。また噴霧チャンバ1には、噴霧チャンバ1内部に雰囲気ガスを供給するための雰囲気ガス供給手段を接続している。この静電噴霧装置100は、静電噴霧発生手段として、原料溶液を供給する溶液供給手段12と、原料溶液を噴霧する噴霧手段10と、噴霧手段10に電圧を印加する電圧印加手段30とを備えている。
(噴霧手段10)
【0019】
噴霧手段10は、溶液供給手段12に接続されて原料溶液を供給し、原料溶液を静電噴霧する。このため噴霧手段10は、その先端に原料溶液を静電噴霧する噴射ノズル11を備えている。これにより、原料溶液をμmサイズ以下の液滴にして噴霧できる。噴霧される溶液の供給速度は任意の速度とできるが、一定速度に制御することにより、液滴サイズを好ましいサイズに制御することができる。また、噴霧手段10に溶液を供給するための溶液供給源としては、例えば任意の速度で溶液を供給可能なシリンジポンプが好適に利用できる。
(電圧印加手段30)
【0020】
噴射ノズル11は、電圧印加手段30に接続されて、噴霧対象物との間で電位差を与えられている。ここでは噴霧対象物をアースし、噴射ノズル11に負電圧を印加することで、原料溶液の液滴を負に帯電させて、両者が静電力によって引き合うようにしている。すなわち、噴射ノズル11から噴霧された負電荷を有するμmサイズの液滴が静電的相互作用によって噴霧対象物に到達することにより、静電噴霧が行われる。電圧印加手段30で印加される電位差は、例えば3kV〜20kVの範囲とできる。
図1の例では、噴霧対象物としてリング状の対向電極CEを使用している。この対向電極CEは、接地電極Gと接続してアースに落としている。ここで対向電極CEに代えて、例えば接地電極Gと接続した金属板を噴霧対象物とすれば、原料溶液の微粒子を金属板の表面に付着できる。原料溶液として、塗料を用いれば塗装が、また化合物を用いれば金属板表面のコーティングが、それぞれ実現できる。さらに噴霧対象物として、固体に限らず液体や気体を利用すれば、高分子材料合成にも利用できる。
(噴霧チャンバ1)
【0021】
このような静電噴霧発生手段は、既知の原料溶液の供給手段、噴射ノズル11に高電圧を印加する電圧印加手段30、接地電極G等を備えた噴霧技術が利用できる。これらの静電噴霧発生手段を、外気から隔離し閉塞系とするため、噴霧チャンバ1内に配置している。
【0022】
噴霧チャンバ1の材質は、金属製等導電性を備えることが好ましい。樹脂のような非導電性の場合は、電荷を帯びた生成物が付着して電荷が蓄積され、電界が攪乱されて静電噴霧に悪影響を及ぼすことが考えられるからである。また導電性の噴霧チャンバ1は、感電防止のため接地電極Gなどを介して接地されていることが望ましい。
(雰囲気ガス供給手段)
【0023】
噴霧チャンバ1には、任意のガスを噴霧チャンバ1内に満たすよう、雰囲気ガス供給手段を備えている。雰囲気ガス供給手段はチャンバ内に雰囲気ガスを供給する。雰囲気ガス供給手段は、ガス導入部およびガス排出部を設けており、任意のガスを噴霧チャンバ1内に供給して満たすことができる。また雰囲気ガス供給手段は、2種類以上の雰囲気ガスを供給することもできる。この雰囲気ガス供給手段は、後述する電子受容性付与手段60を兼ねている。ただ、電子受容性付与手段60は、雰囲気ガス供給手段と個別に設けることもできる。
【0024】
従来、静電噴霧を用いた噴霧装置は、一般に清浄な閉塞空間での実験が難しかったため、開放空間で行われていた。一方で、静電噴霧を利用した化学反応時に異物の混入を避けるべく、清浄空間内での反応を行おうとした場合は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが考えられる。しかしながら、不活性ガス雰囲気では、コロナ放電が生じる結果、静電噴霧に至らない場合が多い。特に負電圧印加でその傾向は顕著であった。その一方で、閉塞空間内に酸素を供給すれば、爆発のおそれがあるため、このような爆発性の気体は閉塞空間内に供給するものとしては選択されないのが通常であった。
【0025】
これに対して上記実施の形態1に係る方法では、閉塞空間で負電圧を印加して静電噴霧を行う際に、電子受容性付与手段60を用いて酸素などの電子受容性ガスをあえて低濃度で添加することで、自由電子を捕捉してコロナ放電を抑制させて、液体への電子移動を促して静電噴霧状態を安定化させ、液滴の発生を持続させている。
(電子受容性付与手段60)
【0026】
上述の通り、電子受容性付与手段60でもって噴霧チャンバ1内に電子受容性を備える気体を供給することで、発生した自由電子を逐次捕捉して、噴霧を持続させ、あるいは促進することができる。
(電子受容性ガス)
【0027】
電子受容性ガスとしては、酸素の他、電子受容性を有する気体が適宜利用できる。例えばSF
6やフロン、アンモニア等が利用できる。また気体に限らず、液体や水分でもよく、例えば水蒸気やアルコールを供給してもよい。
【0028】
このように、閉塞空間で静電噴霧を行うと共に、電子受容性ガスを供給することで、発生した自由電子を電子受容性気体分子で吸収させることが可能となり、コロナ放電の発生を抑制して化学反応を促進でき、持続的な静電噴霧反応を得ることができる。さらに、閉塞空間において静電噴霧の液滴発生量をガス交換により制御することもできる。例えば、噴霧チャンバ1内に酸素を添加しない状態で−5kVの電圧印加を行うと、エタノールの場合の噴霧量は100〜1000μm
3/Lであるが、酸素濃度を1%添加すると噴霧量は1桁増加し、酸素を2%添加するとさらに1桁増加する。酸素濃度を20%添加すると、噴霧量を10
6μm
3/Lまで増加させることができる。
【0029】
図1の静電噴霧装置100を用いて、生成された液滴のサイズ、電極の電流、および発光スペクトル計測を行った結果を、
図2から
図7のグラフに示す。ここでは、噴霧された液滴のサイズ分布を測定するために、光散乱カウンタPCを、
図1に示すように対向電極CEの背面側に配置した。ここでは光散乱カウンタPCとして、パーティクルアナライザ(Light House製Handheld3016)を用いて、液滴のサイズと個数を計数した。また静電噴霧によって負電荷に帯電された液滴が対向電極に到達して流れる電流値を測定するため、対向電極CEと接地電極Gとの間に電流計Aを接続した。さらに雰囲気ガスとして窒素を用いた場合の励起状態窒素からの発光スペクトルを測定するため、光ファイバFBを介して発光スペクトロメータESで測定した。ここでは発光スペクトロメータESとして、Ocean Optics製QE65000を使用した。
図2に、窒素雰囲気中で、エタノール−水混合溶液に対して負電圧を印加した静電噴霧を行い、発生した液滴の数濃度を光散乱カウンタPCで測定した結果を示す。この図に示すように、窒素雰囲気下における負電圧静電噴霧では、負の電圧の絶対値が高くなるほど、液滴の数が減少する傾向がみられる。また静電噴霧が起こりにくくなり、無理に電圧印加を続けるとコロナ放電が発生して周辺機材にダメージを与えてしまう。
【0030】
次に雰囲気ガスを、窒素:酸素=4:1の混合ガス雰囲気として、同様にエタノール−水混合溶液に対して負電圧を印加した静電噴霧を行い、発生した液滴の数濃度を測定した結果を
図3に示す。
図3に示すように、酸素が共存する条件では電圧を強くしても安定してスプレーが持続し、コロナ放電も発生しないことが確認された。
【0031】
次に、雰囲気ガスが窒素雰囲気と窒素−酸素混合雰囲気の場合とで、エタノールから静電噴霧により発生する液滴の総体積に対するノズル印加電圧の影響を測定した結果を、
図4に示す。この図では、窒素雰囲気を破線で、窒素−酸素混合雰囲気を実線で、それぞれ示している。この図に示すように、窒素雰囲気では−3kVよりも負の電圧を印加すると、静電噴霧の効率が急激に低下することが判明した。一方、酸素が存在する雰囲気下では、このような負電圧増大に伴う液滴生成量の低下は生じない。
【0032】
一般に、閉塞空間内で静電噴霧を行う場合は、引火のリスクを低減するため、不活性ガス雰囲気下で行われることが多い。すなわち、窒素雰囲気下で行うことが一般的であり、逆に酸素ガスを添加することは避けられてきた。これに対し本実施の形態では、敢えて酸素ガスを添加することで、放電抑制とスプレー安定に寄与することを見出した。
【0033】
さらに、発光スペクトルの計測を行った結果を
図5および
図6に、電流計測を行った結果を
図7に、それぞれ示す。
図5は、発光スペクトロメータESにより噴射ノズル11先端で観測された発光スペクトルを示している。ここでは、窒素100%雰囲気で、ノズル印加電圧を−6kVとし、試料液体はエタノールとした。また
図6は、エタノールを窒素雰囲気と窒素−酸素混合雰囲気において、それぞれ静電噴霧を行った際に観測される窒素分子の発光(337nm)とノズル印加電圧の関係を示している。この図においても、窒素雰囲気を破線で、窒素−酸素混合雰囲気を実線で、それぞれ示している。また窒素−酸素混合雰囲気は、窒素80%に対して酸素20%を添加している。さらに
図7は、同じくエタノールを窒素雰囲気と窒素−酸素混合雰囲気において、それぞれ静電噴霧を行った際に観測される電流値に対するノズル印加電圧の効果を示している。この図においても
図6と同様、窒素−酸素混合雰囲気は、窒素80%、酸素20%であり、また窒素−酸素混合雰囲気を実線で、窒素雰囲気を破線で、それぞれ示している。
【0034】
これらの図に示すように、窒素雰囲気下では−3kVよりも負の電圧を印加すると、窒素分子の励起状態からの発光が観測される。これに対して雰囲気中に酸素が存在すると、励起状態窒素の発光は観測されない。このことから、窒素の励起状態の生成は静電噴霧効率を抑制していることが確認できた。
【0035】
これらの結果から、コロナ放電はN
2の励起状態が基底状態に遷移するためであることが判明した。すなわち、噴射ノズル11から放出された自由電子がN
2と衝突してN
2+を生成し、そのN
2+が負極噴射ノズル11に引き寄せられ負極から電子を受け取り、N
2励起状態(N
2*)が生成し、N
2*が発光して失活する現象が連続的に起こる。この様子を
図8の模式図に示す。このため窒素雰囲気下では負極からN
2+への電子移動が優勢となり液体に電子が移動しないことが、静電噴霧が起こらなくなる理由であることが判明した。
【0036】
静電噴霧は、噴霧ノズルのカソード電極から原料溶液に電子が移動することにより、電荷をもった液滴が生成されることにより生じる。ここでN
2+の生成により、このような電子移動が抑制される。一方、酸素のような電子受容性ガスを供給すると、自由電子がO
2に捕捉されて上述のN
2+の生成と放電・発光が起こらなくなるため、負極から液体への電子移動が持続し、静電噴霧が安定する。すなわち酸素が自由電子を受け取って、O
2-、O
3-、NO
33-となり、コロナ放電を抑制する。
(放電抑制の下限酸素濃度)
【0037】
さらに放電抑制の下限酸素濃度を確認する試験を行った。この結果を
図9のグラフに示す。ここでは、静電噴霧に及ぼす酸素の添加効果について、放電抑制の下限酸素濃度を計測したグラフを示している。このグラフにおいて、横軸は酸素の濃度(%)、縦軸左側がアース電極に流れる電流、縦軸右側が発生する液滴の体積を、それぞれ示している。また印加電圧は−5kV(一定)であり、液体はエタノール100%である。
【0038】
酸素0%では、液滴の体積は1000μm
3/Lのオーダで電流が520μA流れているのに対し、酸素を2%添加すると液滴の体積が2桁増え、電流値が100μA以下にまで減少していることが判る。さらに酸素が4%になると、液滴の体積は維持され電流値はさらに低下する。このことから、静電噴霧の安定化効果は、少なくとも酸素濃度2%で得られるということができる。
【0039】
このように、静電噴霧安定化に繋がる放電抑制が極低い酸素濃度で実現できることが、実験の結果判明した。そして上述の通り酸素濃度を2%
以上とすることで、限界酸素濃度以下に抑制しつつも、さらに持続的で安定した放電抑制が実現される。
【0040】
以上の例では、噴霧ノズル側に、噴霧対象物よりも負の電位を印加する構成について説明した。ただ本発明はこの構成に限らず、噴霧ノズルに噴霧対象物よりも正の電位を印加する構成としてもよい。本発明者らが行った試験によれば、噴霧ノズルに正の電位を印加した場合でも、静電噴霧の持続効果が得られることが確認された。なお、負電位を印加する場合に比べると、効果は若干低下したが、実用上問題のないレベルであった。
【0041】
以上のように静電噴霧装置は、噴霧チャンバ1の閉塞空間内で静電噴霧により噴霧を行うとき、電子受容性の気体を閉塞空間に混入することでコロナ放電を抑制してスプレー状態を安定的に保持する。上述の通り閉塞空間における静電噴霧不安定化の要因は、高電圧印加時に電極から放出される自由電子と雰囲気ガス分子の衝突によって生ずる化学種にある。窒素雰囲気中では、自由電子と窒素分子の衝突によってN
2+が生じ、このN
2+が負極から優先的に電子を受け取ることによって液体への電子移動が妨げられ、静電噴霧が抑制される。そこで本実施の形態では、雰囲気ガスに酸素などの電子受容性の気体を添加することにより、自由電子を電子受容性の気体分子に捕捉させる自由電子捕捉型の静電噴霧装置とすることによって、液体への電子移動が促され、静電噴霧を安定して持続させることができる。
(実施の形態2)
【0042】
以上の例では、単一の噴霧手段を用いて静電噴霧を行う例を説明したが、本発明はこの構成に限られず、例えば複数の噴霧手段を用いて、異なる種類の原料溶液を噴霧し、これらを衝突させることでマイクロ反応場を形成する態様にも、好適に利用できる。このような例を実施の形態2として、
図10に示す。この図において、
図1と同じ構成部材については同一の符号を付して詳細説明を省略する。
図10に示すマイクロ反応場形成装置200は、第一噴霧手段10Aと、第二噴霧手段20と、電子受容性付与手段60と、回収手段40とを備える。第一噴霧手段10Aは、第一溶液供給源12Aに接続されて原料溶液を供給し、原料溶液を静電噴霧する。このため第一噴霧手段10Aは、その先端に原料溶液を静電噴霧する第一噴射ノズル11Aを備えている。同様に第二噴霧手段20は、第二溶液供給源22に接続されて第二溶液を供給され、第二溶液を静電噴霧する。このため第二噴霧手段20も、その先端に第二原料溶液をエレクトスプレーする第二噴射ノズル21を備えている。これにより、原料溶液と第二溶液は共にμmサイズ以下の液滴にして噴霧できる。噴霧される溶液の供給速度は任意の速度とできるが、一定速度に制御することにより、液滴サイズを好ましいサイズに制御することができる。
【0043】
第一噴射ノズル11Aと第二噴射ノズル21とは、互いに先端が交点を結ぶ姿勢に配置されている。これによって、第一噴射ノズル11Aから噴霧される霧状の原料溶液と、第二噴射ノズル21から噴霧される霧状の第二溶液とを静電的相互作用によって衝突・融合させ、これらを混合することができる。このように、原料溶液と第二溶液とが液滴状(ミスト状)のまま衝突・融合する反応空間RAを形成することができる。なお本明細書においてマイクロ反応場とは、液滴同士を衝突させることによって形成される微小な反応空間を意味する。反応空間RA内には、複数のマイクロ反応場が離散的に存在することができる。すなわち、第一噴霧手段10Aと第二噴霧手段20とで微細化され、電荷を帯びた液滴が、反応空間RAで静電的相互作用により衝突・融合した液滴内で化学反応が進行するマイクロ反応場を形成する。
【0044】
さらにマイクロ反応場形成装置200は、未反応の液滴を排除するフィルタ手段50を備えることもできる。噴霧チャンバ1内の空気の対流等によって、液滴同士が衝突せずに流される成分も存在し得る。このような場合に回収手段40で反応物を回収する際、未反応の液滴が混入すると回収率が低下する。そこで、回収手段40の前段にフィルタ手段50を設けて、未反応の液滴を除去することで、回収手段40には反応物のみを取り込むことができ、より高効率な回収が実現できる。特に、未反応の液滴は帯電しており、一方で反応後の生成物は電気的に中性となっている場合は、未反応の液滴をその電荷を利用して吸着することができる。よってこのようなフィルタ手段50としては、例えば電気的に中性の粒子を通過し、電荷を有する粒子を補足する静電フィルタが好適に利用できる。これによって粒子の凝集を防ぎ、生成された生成物のみを効率よく回収できる。またフィルタ手段50を設けることで、未反応ミストの滞留時間を長くして、反応性を高める効果も期待できる。
【0045】
なお、
図1及び
図10の例では雰囲気ガス供給手段が雰囲気ガス及び電子受容性ガスを、ガス導入部から供給し、ガス排出部から排出するフロー式としているが、この構成に限られず、雰囲気ガス供給手段は排出したガスを循環させて再利用する循環式とすることもできる。このような例を変形例として
図11に示す。この静電噴霧装置300の場合、循環される酸素が電子を捕捉する結果、このような酸素を再利用すれば電子が飽和する可能性があるため、ガス排出部からガス導入部までの間に、酸素分子の電荷を中和するフィルタを設けることが好ましい。このようなフィルタとしては、アメリシウム等の放射性物質や静電フィルタ等が好適に利用できる。これにより、循環型の雰囲気ガス供給手段を用いつつも電子受容性ガスが電子を奪う効果を持続させることができる。なお、
図11では
図1に示した雰囲気ガス供給手段を循環式とした例を示しているが、
図2の雰囲気ガス供給手段についても、同様の構成を採用できることはいうまでもない。