(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和アルコールを、グリコシダーゼの存在下で糖と反応させることによるエチレン性不飽和グリコシドを製造する方法に関する。
【0002】
糖の残基を含むポリマー(糖のコポリマー)は、良好な水溶性、高い電解質安定性、熱湯中でのコロイド安定性、綿などの表面への強い相互作用および非毒性などの典型的な糖類の性質を共有し得る。これらの特有の性質は、そのようなポリマーの多様な用途に通ずる。したがって、十分に特定された糖類のコポリマーおよびそれらの各モノマーを費用効率的に製造する方法を開発することに、強い関心がもたれている。そのようなモノマーは、糖とエチレン性不飽和アルコールとのグリコシド結合により得られる重合可能なエチレン性不飽和グリコシドであってもよい。そのようなグリコシドの合成には、いくつかの課題がある。糖の異なるヒドロキシル基が結合形成に関与する位置異性体の形成の多くの可能性が存在する。さらに、異なるアノマー型の形成の可能性がある。したがって、糖の残基を有するほとんどのモノマーの化学合成は、一般的に実現可能ではなく、かつ所望とされるモノマーの低い収率を招く。
【0003】
グリコシドモノマーの製造のための他のアプローチとして、酵素の適用が検討されてきた。化学合成に対し、保護されていない糖の酵素触媒反応は、それらの高い立体選択性に基づき、通常、より一層構造的に均一な生成物をもたらす。
【0004】
一般的に、グリコシドの酵素的合成には2つのアプローチが使用され、そのアプローチとは、熱力学的に制御される加水分解の逆反応(reverse hydrolysis)および動力学的に制御されるグリコシル転移である。酵素的に触媒化されたグリコシル転移による、第一級ヒドロキシル基を有する糖ではない化合物へのグリコシル単位の転移は、例えば、S. Matsumura他による、Makromol. Chem., Rapid Commun. 14:55-58, 1993に示されている。加水分解の逆反応によるグリコシド合成のための、生体内でグリコシドの加水分解を触媒するグリコシダーゼを使用するアプローチもある(例えば、I. GillおよびR.Valivetyによる、Angew. Chem. Int. Ed. 39(21):3804-3808, 2000参照)。
【0005】
グリコシダーゼに触媒されるグリコシドの合成の方法の開発において、最適な溶媒条件を見出すことの困難性に直面する。一方、熱力学的に制御される加水分解の逆反応においては、含水量、より正確には熱力学的な水分活性a
wを最小化させることを必要とする。一方、通常、容易に水に溶解し得る糖類は、たいてい有機媒体にはほとんど溶解しない。水に代えて中程度の極性の無水溶媒とすることが両方の要求を満たす手段として提案されてきた。しかしながら、一般に用いられるグリコシダーゼは、活性をとどめるために少なくともいくらかの水を必要とするであろうことが示された(F.van Rantwijk et al., J.Mol. Catalysis B: Enzymatic 6:511-532, 1999)。これらの異なる溶媒要件を満たすことは困難である。このことは、酵素的なグリコシド合成のための公知の方法が一般に必要とする高温かつ長い反応時間に反映される。
【0006】
したがって、本発明の課題は、エチレン性不飽和グリコシドを酵素的に製造するより効率的な方法を開発することであった。これは、反応速度の増大および/またはグリコシド合成に優勢な反応平衡の移動により達成され得る。それ故、一定の反応時間後および/または平衡に達した場合に、より多くの量の生成物が得られる。
【0007】
目下予期せぬことに、本発明者らは、非反応性な、水混和性有機溶剤を、糖、エチレン性不飽和アルコール、グリコシダーゼおよび水を含む反応混合物への添加が、一定の反応時間後に得られるエチレン性不飽和グリコシドの量を著しく増やすことができることを見出した。
【0008】
それ故、本発明は、式I:
【化1】
[式中、
nは、1、2または3であり;
Aは、C
2−20アルキレンまたは−R
6−O−[−R
6−O−]
x−C
2−20アルキレンであり;
Xは、−O−、−NH−および−NR
5−からなる群から選択され;
R
3は、−HおよびC
1−10アルキルからなる群から選択され;
R
4は、−H、−COOHおよび−COO
−M
+からなる群から選択され;
R
5は、C
1−10アルキルであり;
R
6は、Hまたは−CH
3であり;
M
+は、Li
+、Na
+、K
+およびNH
4+からなる群から選択され;かつ
xは、0〜200までの整数である]のエチレン性不飽和グリコシドを製造する方法であって、式II:
【化2】
のエチレン性不飽和アルコールと、式III:
【化3】
の糖とを、グリコシダーゼの存在下で、
(i)式IIのエチレン性不飽和アルコール対式IIIの糖の初期のモル比が、2:1〜30:1、例えば15:1〜25:1であり;
(ii)水ならびに第一級アルコールまたは第二級アルコールではない水混和性有機溶剤の、水対有機溶剤の質量比が0.1:1〜9:1、例えば1:1〜3:1の溶剤混合物の存在下であり;かつ
(iii)溶剤混合物対糖の初期の質量比が3:1〜30:1、例えば10:1〜20:1で反応させる工程を含む、前記エチレン性不飽和グリコシドを製造する方法を提供する。
【0009】
定義
本発明において使用されている「単糖」の用語は、5つの炭素原子と1つの酸素原子の六員環を含む構造で、分子間にヘミアセタールを形成しているポリヒドロキシアルデヒドの単一の単位を指す。単糖は、例えば、αもしくはβアノマー、およびDもしくはL異性体などの種々のジアステレオマ型で存在していてもよい。「オリゴ糖」は、短鎖の、共有結合された単糖の単位からなる。オリゴ糖類は、2つの単糖の単位を含む二糖類ならびに3つの単糖の単位を含む三糖類を含む。「多糖」は、長鎖の、共有結合された単糖の単位からなる。
【0010】
「グリコシド結合」または「グリコシド連鎖(glycosidic linkage)」の用語は、糖もしくは糖誘導体(グリコン)のアノマーのヒドロキシル基と、他の糖のヒドロキシル基もしくは例えばアルコールなどの糖ではない有機化合物(アグリコン)のヒドロキシル基との間で形成される型の化学結合あるいは連鎖である。二糖または多糖の還元末端は、その構造の最後のアノマー炭素に対して位置しており、その末端は、反対方向で存在する。
【0011】
本発明において使用されている「酵素的に触媒化された」方法または「生体触媒の」方法は、前記方法が、酵素、特にグリコシダーゼの触媒作用下で実施されることを意味している。該方法は、単離された(精製された、濃縮された)形態もしくは粗製の形態における前記グリコシダーゼの存在下で実施され得る。
【0012】
「グリコシダーゼ」の用語は、グリコシダーゼの変異体、突然変異体および酵素的な活性部位も含んでいる。
【0013】
酵素の触媒量は、「U」(「Unit」もしくは「unit」)で表現され、その際、1Uは、特定の条件下(通常、37℃かつpH7.5)で1分あたり1μmolの基質の反応を触媒する酵素の量と等しい。それ故、10Uグリコシダーゼは、1分あたり10μmolの糖の基質の反応に必要とされる酵素の触媒量と等しい。マルトース生成アミラーゼの触媒量は、「MANU」(Maltogenic Amylase Novo Unit)で表現させることができ、その際、1MANUは、標準条件下(10mg/ml マルトトリオース、37℃、pH5.0、30分の反応時間)で1分あたり1μmolのマルトトリオースの反応に必要とされる酵素の触媒量と等しい。酵素の触媒量は、当該技術分野でよく知られた方法によって測定され得る。
【0014】
「アルキル」の用語は、1〜10の炭素原子を有する直鎖のまたは分岐した基であるC
1−10アルキル基を含む。それらの例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、2−ブチル、イソブチルもしくはtert−ブチル、ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、ヘプチル、オクチル、ノニル、およびデシル、ならびに2−エチルヘキシルなどのそれらの構造異性体である。
【0015】
「アルキレン」の用語は、1〜20の炭素原子を有する直鎖のまたは分岐した二価基であるC
2−20アルキレン二価基を含む。
【0016】
「エチレン性不飽和」の用語は、芳香族ではない、C=C二重結合を有する化合物に関する。特に、本発明に使用されている「エチレン性不飽和グリコシド」は、エチレン性不飽和アルコールにグリコシド結合されている糖からなるグリコシドを指す。
【0017】
「水混和性有機溶剤」とは、水対使用される有機溶剤の質量比で水と一緒に均質な混合物を形成する有機溶剤を意味すると理解される。
【0018】
有機溶剤は、第一級アルコールまたは第二級アルコールではなく、それ故、糖に対して非反応性である。一般的に、有機溶剤は、アルカノン、アルキルニトリル、第三級アルコールおよび環状エーテル、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0019】
好ましい溶剤は、アセトン、アセトニトリル、t−ペンタノール、t−ブタノール、1,4−ジオキサンおよびテトラヒドロフラン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。1,4−ジオキサンが特に好ましい。
【0020】
式IIのエチレン性不飽和アルコールは、
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;あるいは
マレイン酸のモノ(ヒドロキシアルキル)エステルまたはそれらの塩から選択される。
【0021】
他の実施形態において、式IIのエチレン性不飽和アルコールは、エトキシ化された、プロポキシ化された、あるいはエトキシ化されかつプロポキシ化された上述のエチレン性不飽和アルコールの誘導体である。
【0022】
好ましくは、式IIのエチレン性不飽和アルコールは、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、マレイン酸水素(2−ヒドロキシエチル)エステルから選択される。
【0023】
一実施形態において、nは1;AはC
2−6アルキレン;Xは−O−;およびR
3は−Hもしくは−CH
3である。
【0024】
糖は、グルコース、ガラクトースもしくはマンノースなどの単糖;マルトース、ラクトースもしくはセロビオースなどの二糖;マルトトリオースなどの三糖;またはそれらの混合物であってもよい。本発明の方法は、糖が、例えば、糖の1位の炭素原子(C−1)にエーテル結合を介して結合されるアルキルまたはo−ニトロフェニル基の存在により活性化されていることを必要とするものではない。糖は、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースおよびそれらの混合物からなる群から選択されることが適切である。
【0025】
本発明の方法において、糖とエチレン性不飽和アルコールとの反応は、グリコシドヒドロラーゼとしても知られている酵素のタイプである、グリコシダーゼによって触媒される。典型的には、酵素は、触媒する反応、つまり、その反応に関与する基質に関して高い特異性を示す。グリコシダーゼは、O−グリコシド化合物およびS−グリコシド化合物の加水分解を触媒できる酵素である。さらに、グリコシダーゼは、反応の平衡位置が逆転されている加水分解の逆反応を通じたグリコシド結合の形成、あるいは、グリコシド部位が、1つのグリコシド、すなわち、ドナーグリコシド(donor glycoside)から、他のグリコシド、すなわち、アクセプターグリコシド(acceptor glycoside)に転移されるグリコシル転移を触媒し、新たなグリコシドを形成するために使用され得る。グリコシダーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.xに割り当てられている。
【0026】
グリコシダーゼは、精製された形態でか、高められた濃縮物としてか、または粗製の酵素調製物として使用されていてもよい。
【0027】
本発明の方法において存在するグリコシダーゼは、アミラーゼ、セルラーゼ、グルコシダーゼおよびガラクトシダーゼからなる群から選択されることが適切である。
【0028】
α−アミラーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.1を有する酵素であり、グリコゲナーゼ、エンドアミラーゼ、タカ−アミラーゼAまたは1,4−α−D−グルカングルカノヒドロラーゼとしても知られている。α−アミラーゼは、例えば、デンプンおよびグリコゲンなどの、3またはそれより多い(1→4)−α−結合されているD−グルコース単位を含む多糖類中の(1→4)−α−D−グルコシド連鎖の内部加水分解を触媒し、それにより、α−配置における還元基を離すことができる。
【0029】
β−アミラーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.2に割り当てられている酵素であり、サッカロゲンアミラーゼ、グリコゲナーゼまたは1,4−α−D−グルカンマルトヒドロラーゼとしても知られている。β−アミラーゼは、例えば、デンプンおよびグリコゲンなどの多糖類中の(1→4)−α−D−グルコシド連鎖の加水分解を触媒し、それにより、多糖類鎖の非還元末端から逐次β−マルトース単位を離すことができる。
【0030】
セルラーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.4に割り当てられている酵素であり、エンド−1,4−β−D−グルカナーゼ、β−1,4−グルカナーゼ、β−1,4−エンドグルカンヒドロラーゼ、セルラーゼA、セルロシンAP、エンドグルカナーゼD、アルカリセルラーゼ、セルラーゼA3、セルデキストリナーゼ、9.5セルラーゼ、アビゼラーゼ、パンセラーゼSSまたは1,4−(1,3;1,4)−β−D−グルカン4−グルカノヒドロラーゼとしても知られている。セルラーゼは、セルロース、リケニンおよび穀類のβ−D−グルカンの(1→4)−β−D−グルコシド結合、ならびに1,3−結合も含むβ−D−グルカン中の1,4−結合の内部加水分解を触媒することができる。
【0031】
α−グルコシダーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.20に割り当てられている酵素であり、マルターゼ、グルコインベルターゼ、グルコシドスクラーゼ、マルターゼグルコアミラーゼ、α−グルコピラノシダーゼ、グルコシドインベルターゼ、α−D−グルコシダーゼ、α−グルコシドヒドロラーゼまたはα−1,4−グルコシダーゼとしても知られている。α−グルコシダーゼは、非還元(1→4)−結合された末端のα−D−グルコース残基の加水分解を触媒し、それにより、α−D−グルコースを離すことができる。
【0032】
β−グルコシダーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.21に割り当てられている酵素であり、ゲンチオビアーゼ、セロビアーゼ、エムルシン、エラテラーゼ、アリール−β−グルコシダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、β−グルコシドグルコヒドロラーゼ、アルブチナーゼ、アミグダリナーゼ、p−ニトロフェニルβ−グルコシダーゼ、プリメベロシダーゼ、アミグダラーゼ、リマラーゼ、サリチリナーゼまたはβ−1,6−グルコシダーゼとしても知られている。β−グルコシダーゼは、末端の非還元β−D−グルコシル残基の加水分解を触媒し、それにより、β−D−グルコースを離すことができる。
【0033】
α−ガラクトシダーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.22に割り当てられている酵素であり、メリビアーゼ、α−D−ガラクトシダーゼ、α−ガラクトシダーゼAまたはα−ガラクトシドガラクトヒドロラーゼとしても知られている。α−ガラクトシダーゼは、ガラクトースのオリゴ糖およびガラクトマンナンを含む、α−D−ガラクトシド中の末端の非還元α−D−ガラクトース残基の加水分解を触媒することができる。
【0034】
β−ガラクトシダーゼは、酵素分類番号EC3.2.1.23に割り当てられている酵素であり、ラクターゼ、β−ラクトシダーゼ、マキシラクト、ヒドロラクト、β−D−ラクトシダーゼ、S2107、lactozym、トリラクターゼ、β−D−ガラクタナーゼ、oryzatymまたはsumiklatとしても知られている。β−ガラクトシダーゼは、β−D−ガラクトシド中の末端の非還元β−D−ガラクトース残基の加水分解を触媒することができる。
【0035】
本発明の方法に適切であるグリコシダーゼの粗製の形態は、果実の種子のひき割り粉(meal)である。果実の種子のひき割り粉は、強力で再利用可能な触媒であり、簡単かつ効率的な方法で製造され得る。調合および果実の種子のひき割り粉の特定の触媒活性は、Lu他による、Practical methods for Biocatalysts, Ehittall and Satton (eds.) Wiley, 2010, chapter 7.3, pages 236-239に記載されている。本発明の方法に使用され得る果実の種子のひき割り粉は、Prunus dulcis(アーモンド)の仁(kernel)のひき割り粉、Prunus persica(モモ)の仁のひき割り粉、Prunus armeniaca(アンズ)の仁のひき割り粉、Malus pumila(リンゴ)の種子のひき割り粉およびEriobotrya Japonica(ビワ)の種子のひき割り粉を含む。好ましくは、使用される果実の種子のひき割り粉は、Prunus dulcisの仁のひき割り粉、Prunus persicaの仁のひき割り粉およびMalus pumilaの種子のひき割り粉からなる群から選択される。
【0036】
酵素は、反応混合物中に溶解されていてもよく、あるいは該反応混合物と接触する固体担体上に固定されていてもよい。酵素を固定する場合、酵素は不活性担体に付着させる。適切な担体材料は、当該技術分野において知られている。適切な担体材料の例として、粘土、粘土鉱物、例えば、カオリナイト、珪藻土、パーライト、シリカ、アルミナ、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、陰イオン交換材料、合成高分子、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、ならびにポリオレフィン、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンが挙げられる。担体に結合された酵素を製造するために、担体材料は、通常、微粉の形態で使用され、その際、多孔質形態が好ましい。担体材料の粒度は、通常、5mmを超えず、特に2mmを超えない。さらに、適切な担体材料は、アルギン酸カルシウムおよびカラゲナンである。酵素は、グルタルアルデヒドによって直接結合されていてもよい。固定化の方法は、当該技術分野において広く知られている(例えば、J. Lalonde and A. Margolin "Immobilization of Enzymes" in K. Drauz und H. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol. III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheim)。
【0037】
酵素的な触媒反応は、バッチ式、半バッチ式または連続的に実施され得る。反応物は反応の開始時に供給させてもよく、あるいは順次、半連続的もしくは連続的のいずれかで供給させてもよい。本発明の方法で必要とするグリコシダーゼの触媒量は、温度、溶剤および基質などの反応条件の量に依存する。
【0038】
反応は、上述したような水および水混和性有機溶剤の溶剤混合物中で行われる。反応混合物は、6.0〜9.0の値のpH、例えば、6.5〜8.0の範囲、7.0〜7.8の範囲などに調整するために適切な緩衝液を含んでいてもよいが、必ずしも必要とするものではない。適切な緩衝液は、酢酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(「トリス」)およびリン酸塩の緩衝液を含むが、これらに限定されるものではない。
【0039】
反応物、すなわち、糖およびエチレン性不飽和アルコールの濃度は最適な反応条件に順応され得る。例えば、初期の糖の濃度は、100mM〜3000mM、例えば、200mM〜500mMの範囲であってもよい。1つの反応物、すなわち、エチレン性不飽和アルコールは、反応の平衡を生成物側へ移動させるためにモル過剰で使用される。
【0040】
反応温度は、適用される特定の酵素に依存し得る最適な反応条件に順応させることができる。反応は、適切には、反応混合物の凝固点および酵素の変性温度の間の温度で行われ得る。変性温度に達すると、酵素の触媒活性は失われる。例えば、反応は、0℃〜80℃の範囲、例えば、40℃〜60℃または約50℃の温度で実施させることができる。
【0041】
そのプロセスは、反応物と生成物との間で平衡に達するまで進行させることができるが、早い段階で停止させることもできる。通常の、プロセス時間は、6時間〜96時間の範囲であり、例えば、約24時間である。
【0042】
本発明の方法は、製造されたエチレン性不飽和グリコシドを回収する工程をさらに含むことができる。「回収」の用語は、反応混合物から該化合物を抽出、採取、単離または精製することを含む。該化合物の回収は、慣例的な樹脂による処理(例えば、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂など)、慣例的な吸着剤による処理(例えば、活性炭、ケイ酸、シリカゲル、セルロース、アルミナなど)、pHの変更、溶剤抽出(例えば、アルコール、エチルアセテート、ヘキサンなどの慣例的な溶剤を用いる)、蒸留、透析、濾過、濃縮、結晶化、再結晶化、pH調整、凍結乾燥などを含む当該技術分野で知られているあらゆる慣例的な単離または精製方法によって実施し得るが、これらに限定されるものではない。
【0043】
単離された生成物の性質および純度は、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、分光分析(例えば、IR、UV、NMR分光法)、カラー方式、NIRSまたは酵素分析法などの公知の技術により測定させることできる。
【0044】
本発明の実施例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1:D−グルコースから2−(β−グルコシルオキシ)−エチルアクリレートのβ−グルコシダーゼ触媒合成
1.0gのD(+)−グルコースを2mlの水に溶解させた。12mlの2−ヒドロキシエチルアクリレート(200ppmのMEHQを含む)および1mlの1,4−ジオキサンをグルコース溶液に添加した。反応は、アーモンドからのβ−グルコシダーゼ0.070g(364U)の添加によって開始した。反応混合物を、50℃で24時間攪拌した。生成物を、薄層クロマトグラフィー(TLC)(クロロホルム/メタノール 4/1(v/v)、Rf0.55)によって検出し、かつカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:クロロホルム/メタノール 7/1(v/v))によって精製した。目的とする生成物を含むフラクションを貯留し、溶剤を回転蒸発によって除去した。収量:0.459g(46%)。純度:99%。
【0046】
【0047】
【0048】
ESI−MS(pos):計算値:301.0894(C11H18O8Na);実測値:301.2500。
【0049】
実施例2:D−グルコースから2−(β−グルコシルオキシ)−エチルメタクリレートのβ−グルコシダーゼ触媒合成
1.0gのD(+)−グルコースを2mlの水に溶解させた。12mlの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(200ppmのMEHQを含む)および1mlの1,4−ジオキサンをグルコース溶液に添加した。反応は、アーモンドからのβ−グルコシダーゼ0.070g(364U)の添加によって開始した。反応混合物を、50℃で24時間攪拌した。生成物を、TLC(クロロホルム/メタノール 4/1(v/v)、Rf0.59)によって検出し、かつカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:クロロホルム/メタノール 7/1(v/v))によって精製した。目的とする生成物を含むフラクションを貯留し、溶剤を回転蒸発によって除去した。収量:0.514g(51%)。純度:97%。
【0050】
【0051】
【0052】
実施例3:D−グルコースから4−(β−グルコシルオキシ)−ブチルアクリレートのβ−グルコシダーゼ触媒合成
1.0gのD(+)−グルコースを2mlの水に溶解させた。12mlの4−ヒドロキシブチルアクリレート(200ppmのMEHQを含む)および1mlの1,4−ジオキサンをグルコース溶液に添加した。反応は、アーモンドからのβ−グルコシダーゼ0.070g(364U)の添加によって開始した。反応混合物を、50℃で24時間攪拌した。生成物を、TLC(クロロホルム/メタノール 4/1(v/v)、Rf0.69)によって検出し、かつカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出液:クロロホルム/メタノール 7/1(v/v))によって精製した。目的とする生成物を含むフラクションを貯留し、溶剤を回転蒸発によって除去した。収量:0.310g(31%)。純度:(>85%)。
【0053】
【0054】
【0055】
ESI−MS(pos):計算値:329.1207(C13H22O8Na);実測値:329.1188。