【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
また、得られた重合体ラテックスのラテックス安定性(Lx安定性)及びラテックス凝固性(Lx凝固性)並びにラテックス中の重合体の重合率、質量平均分子量(Mw)及びTgについて以下の方法により評価した。
【0028】
更に、ラテックスを凝析して得られた重合体粉体を使用した樹脂組成物の溶融流動性、その成形物を得る際の滞留劣化性並びに得られた成形品の荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度について以下の方法により評価した。
【0029】
(1)Lx安定性
ラテックス300gを採取し、50℃に加熱した後、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー MARK II 2.5型)にて12,000rpmで攪拌を開始し、凝集して攪拌できなくなるまでの時間を測定し、下記基準でLx安定性を評価した。
○:10秒以上。
×:10秒未満。
【0030】
(2)Lx凝固性
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を94℃に加温した。この水溶液を攪拌しながら、この中にラテックス400部を徐々に投入した。投入終了後、撹拌しながら液を97℃に加温して5分間保持し、凝析を完了させ、スラリーを得た。
得られたスラリーを透明な容器に採取し、10分放置後の重合体粉体の凝集物と水との分離性により下記基準でLx凝固性を評価した。
○:重合体粉体の凝集物と水が2層に分離し、Lx凝固性は良好である。
×:重合体粉体の凝集物と水が2層に分離せず、Lx凝固性は不良である。
【0031】
(3)重合率
重合体の重合率を以下の手順により算出した。
(あ)アルミ皿を精密天秤に載せ、アルミ皿の質量(x)を0.1mgの単位まで測定する。
(い)アルミ皿にラテックス約1.0gを取り、その質量(y)を0.1mgの単位まで測定する。
(う)ラテックスを入れたアルミ皿を180℃±2℃の乾燥機に入れ、45分間乾燥する。
(え)ラテックスを入れたアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケータに移して室温まで冷却後、質量(z)を0.1mgの単位まで測定する。
(お)以下の式にて、ラテックスの固形分を算出する。
(z−x)/(y−x)×100(%)
(か)算出したラテックスの固形分を、重合時に仕込んだ単量体の総量で割り、重合体の重合率を算出した。
【0032】
(4)Mw
重合体のMwを、ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレンによる検量線
から求めた。溶媒としてはクロロホルムを使用した。また、測定は以下の条件で実施した。
カラム :TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製)
測定温度 :40℃
溶離液 :クロロホルム
溶離液速度:0.6ml/分
検出器 :RI
【0033】
(5)Tg
示差走査熱量測定(DSC)を用い、重合体のTgをJIS K7121に準じて測定した。中間点ガラス転移温度の数値をTgとして用いた。
昇温速度 :10℃/分
温度範囲 :0〜150℃
環境条件 :窒素気流下
【0034】
(6)溶融流動性
樹脂組成物のスパイラルフロー長さを射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))を用いて測定し、溶融流動性を評価した。
尚、成形温度は280℃、金型温度は80℃、射出圧力は50MPaとし、成形品は、厚さ2mm、幅15mmとした。
【0035】
(7)荷重たわみ温度
成形品の荷重たわみ温度を測定し、耐熱性を評価した。荷重たわみ温度の測定は、成形品(試験片)を150℃で2時間アニール処理したものについて実施した。
荷重たわみ温度はISO75−2に準拠して測定した。荷重は1.82MPaとした。
【0036】
(8)シャルピー衝撃強度
成形品のシャルピー衝撃強度は、成形品(試験片)にISO2818に準拠したType Aのノッチを刻んでISO179−1に準拠して測定した。
【0037】
(9)滞留劣化性
樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))のシリンダー内に280℃で20分間滞留させた後、長さ80mm、幅10mm及び厚さ4mmの成形品(試験片)を得た。
その試験片について、荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度を測定し、滞留劣化性を評価した。
【0038】
(10)嵩比重
重合体粉体の嵩比重を、JIS K6720−2に準じて測定した。
十分にかき混ぜた重合体粉体を試料とする。試料 約120mlを、嵩比重測定装置のダンパーを差し込んだ漏斗に入れた後、速やかにダンパーを引き抜き、試料を受器に落とす。受器から盛り上がった試料は、ガラス棒ですり落とした後、試料の入った受器の質量を0.1gのけたまで正確にはかり、次式によって嵩比重を算出した。
Sa=(C−A)/B
Sa:嵩比重、A:受器の質量(g)、B:受器の内容積(ml)、C:試料の入った受器の質量(g)
【0039】
[製造例1] <分散剤(α)の製造>
セパラブルフラスコに下記の化合物(1)を投入し、内温を60℃に設定して攪拌溶解した。内温を50℃に下げて3時間以上保持しても、析出物は見られなかった。
このセパラブルフラスコに下記の化合物(2)をゆっくりと投入した後、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー
MARK II 2.5型)で12,000rpm×1分間攪拌し、分散剤(α)を得た。
【0040】
化合物(1):
IRGASTAB MBS11 化合物(b1) 50.0部
(2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、
融点:25℃以下 80%及び
オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃ 20%の混合物、
チバ・ジャパン(株)製)
IRGANOX 1076 化合物(b1) 50.0部
(オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃、
チバ・ジャパン(株)製)
オレイン酸 9.3部
【0041】
化合物(2):
イオン交換水 100.0部
水酸化カリウム 2.2部
分散剤(α)中に含まれる化合物(b1)の内、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率は60質量%である。
【0042】
[製造例2] <分散剤(β)の製造>
化合物(1)を変更したこと以外は、製造例1と同様にして、分散剤(β)を得た。化合物(1)の溶解物は、セパラブルフラスコの内温を50℃に下げて3時間以上保持しても、析出物は見られなかった。
化合物(1):
IRGASTAB MBS11 化合物(b1) 100.0部
(2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、
融点:25℃以下 80%及び
オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃ 20%の混合物、
チバ・ジャパン(株)製)
オレイン酸 9.3部
【0043】
化合物(2):
イオン交換水 100.0部
水酸化カリウム 2.2部
分散剤(β)中に含まれる化合物(b1)の内、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率は20質量%である。
【0044】
[実施例1] <重合体(A1)粉体の製造>
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を入れて攪拌し、窒素雰囲気下で、内温を60℃まで加熱した。次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に添加した。
乳化剤混合物:
エマール20C 2.5部
(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム
の25%水溶液)
イオン交換水 300.0部
【0045】
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
イオン交換水 4.17部
【0046】
このセパラブルフラスコ内に、下記の単量体混合物を180分かけて滴下した後に内温を80℃まで加熱し、更に60分間攪拌して重合を終了し、重合体(A1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
スチレン 100.0部
n−オクチルメルカプタン 0.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0047】
得られた重合体(A1)ラテックスの温度を50℃以下に下げ、これに、製造例1で得た分散剤(α)を水溶液として1.5部配合し、分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックスを得た。
得られた分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックスのLx安定性は50秒であった。
【0048】
次いで、酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を94℃に加温して保持した。この水溶液を攪拌しながら、この中に上記で得られた分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックス400部を温度25℃に設定して、徐々に投入した。
重合体(A1)ラテックスの投入終了後、撹拌しながら重合体(A1)ラテックスが添加された液を97℃に加温して5分間保持し、凝析を完了させてスラリーを得た。得られたスラリーのLx凝固性は良好であった。
上記のスラリーを濾布で濾過して湿粉を回収し、湿粉の10倍量の水で洗浄し、80℃×48時間乾燥して重合体(A1)粉体を得た。得られた重合体(A1)の重合率は99.5%、Mwは50,000及びTgは91℃であった。
【0049】
[実施例2〜6] <重合体(A2)〜(A6)粉体の製造>
単量体混合物、乳化剤混合物、化合物(B)、ラテックスの投入温度として、表1に示すものを使用した。それ以外は実施例1と同様にして重合体ラテックス、スラリー及び重合体粉体を得た。重合体ラテックス及び重合体粉体についての各種評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1,2] <重合体(A7),(A8)粉体の製造>
乳化剤混合物として表1に示すものを使用し、化合物(B)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして重合体(A7)及び(A8)粉体を得た。重合体(A7)及び(A8)ラテックス、重合体(A7)及び(A8)粉体についての各種評価結果を表1に示す。
尚、比較例2については、得られたスラリーのLx凝固性が不良だったため、スラリーを、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー MARK II 2.5型)により12,000rpmで攪拌して凝集物を得た後に、濾布で濾過して湿粉を回収し、湿粉の10倍量の水で洗浄し、80℃×
48時間乾燥して重合体(A8)粉体を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
尚、表1中の化合物は以下のものを示す。
IRGASTAB MBS11:前記の化合物(1)の項目を参照
IRGANOX PS−800:
(ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、融点:40℃、チバ・ジャパン(株)製)
【0053】
表1から明らかなように、本発明の化合物(B)を配合した重合体(A)のラテックスは、Lx安定性に優れ、且つ、Lx凝固性に優れることが確認された。Lx安定性に優れることから、移液中にラテックスの凝集による配管詰まり等が生じ難く、Lx凝固性に優れることから、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く重合体粉体を回収することができる。
ラテックスの投入温度を25℃(実施例4)から50℃(実施例5)とすることにより、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く、嵩密度の高い重合体粉体を回収することができた。
【0054】
分散剤(α)は、化合物(b1)の内、室温で固体であるオクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](融点:50〜55℃)の含有率が60質量%である。分散剤(β)は、20質量%である。
分散剤(α)は、分散剤(β)を用いた場合に比較して、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く、嵩密度の高い重合体粉体を回収することができる。
【0055】
比較例1では、重合体(A)のラテックスに化合物(B)を配合してなく、重合体(A)の重合には、乳化力の弱い乳化剤(RS−610NA)を用いている。乳化力の弱い乳化剤を用いていることから、Lx凝固性は良好であるが、Lx安定性が悪いため、移液中にラテックスの凝集による配管詰まり等を生じ易い。
比較例2では、重合体(A)のラテックスに化合物(B)を配合してなく、重合体(A)の重合には、乳化力の強い乳化剤(エマール20C)を用いている。乳化力の強い乳化剤を用いていることから、Lx安定性は良好であるが、Lx凝固性が悪いため、重合体粉体の微粉が発生し、重合体粉体の回収率が低下する。
【0056】
[実施例7〜10及び比較例3,4]
実施例1,3,4,6で得られた重合体(A)粉体及び芳香族ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製、タフロンFN−1500(商品名))を表2に示す割合で配合したものを2軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−35(商品名))に供給し、280℃で溶融混練して芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を得た。
得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))により成形温度280℃で成形し、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの成形品を得た。
得られた樹脂組成物の溶融流動性、成形品の荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度、滞留劣化性についての評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
尚、表2中のPCは以下のものを示す。
PC:タフロンFN−1500
芳香族ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製、商品名)
【0059】
表2から明らかなように、本発明の重合体(A)粉体を配合した、実施例7〜10の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂が滞留劣化することがなかった。これは、本発明の重合体(A)粉体は、微粉の発生が抑制されており、乳化剤等を充分に洗浄できていることによる。
Lx凝固性の悪かった重合体(A8)粉体を配合した、比較例4の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂に滞留劣化が見られた。これは、重合体(A8)粉体が微粉のため、乳化剤等を充分に洗浄することができず、残留した乳化剤等が芳香族ポリカーボネート樹脂に影響を与えていることによる。