特許第5930338号(P5930338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930338
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】重合体粉体の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20160526BHJP
【FI】
   C08J3/16CET
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-188704(P2014-188704)
(22)【出願日】2014年9月17日
(62)【分割の表示】特願2010-47534(P2010-47534)の分割
【原出願日】2010年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-231614(P2014-231614A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2009-51943(P2009-51943)
(32)【優先日】2009年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松岡 新治
(72)【発明者】
【氏名】竹本 俊夫
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−001596(JP,A)
【文献】 特開昭64−016816(JP,A)
【文献】 特開2003−034754(JP,A)
【文献】 特開2000−212300(JP,A)
【文献】 特開2003−277513(JP,A)
【文献】 特開昭52−132061(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01536399(GB,A)
【文献】 ジラウリルチオジプロピオネート「DLTP「ヨシトミ」」[online],日本,三菱化学株式会社,2015年 9月10日,[平成27年 9月10日検索],インターネット,URL,http://www.m-kagaku.co.jp/grproduct/company/mcc/sp2/product/1195056_6261.html?category=chemical
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00;301/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が90℃以上の重合体(A)を含むラテックスを、ヒンダードフェノール系化合物(b1)又はヒンダードフェノール系化合物(b1)及びチオール化合物(b2)である化合物(B)の存在下で、凝析剤を用いて凝析する重合体粉体の回収方法であって、
ガラス転移温度が90℃以上の重合体(A)が、芳香族ビニル単量体(a1)単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)単位から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含有する重合体であり、
前記ヒンダードフェノール系化合物(b1)の融点が80℃以下である、重合体粉体の回収方法。
【請求項2】
前記重合体(A)と凝析剤とを含む凝固ラテックスを80℃以上で加熱することによりスラリーを形成する工程を含む請求項1に記載の重合体粉体の回収方法。
【請求項3】
チオール化合物(b2)の融点が80℃以下である請求項1又は2に記載の重合体粉体の回収方法。
【請求項4】
ガラス転移温度が90℃以上の重合体(A)を含むラテックスを、ヒンダードフェノール系化合物(b1)又はヒンダードフェノール系化合物(b1)及びチオール化合物(b2)である化合物(B)の存在下で、凝析剤を用いて凝析する重合体粉体の製造方法であって、
ガラス転移温度が90℃以上の重合体(A)が、芳香族ビニル単量体(a1)単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)単位から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含有する重合体であり、
前記ヒンダードフェノール系化合物(b1)の融点が80℃以下である、重合体粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体粉体の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合で得られるラテックス中に含まれる重合体を回収する方法としては、ラテックスを凝固して粒子化させる凝析法及び加熱又は機械的な凝集による造粒操作の方法が挙げられる。
凝析法により重合体粉体を回収する方法としては、例えば、重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」という。)付近においてラテックスに塩又は酸等の凝析剤を投入し、凝固ラテックスを形成させ、その後、重合体のTg以上に加熱してスラリー化させて凝固粒子を形成させ、脱水乾燥を経て粉体として回収する方法が挙げられる。
【0003】
上記の回収方法において、重合体のTgより低い温度で凝固ラテックスの形成及びスラリー化を実施すると、生成する凝固粒子の粒子間の二次凝集性が不十分となり、凝固粒子の機械的強度が低下する傾向があるため、大量の微粉が生成して、濾布の目詰まり等の工程トラブルの原因となることがある。
従って、Tgが高い重合体を含むラテックスについて、上記の凝析法により重合体の粉体を回収することは好ましいとはいえない場合がある。
【0004】
前記の問題を解決するために、以下のような方法が挙げられる。
例えば、乳化力の弱い乳化剤を使用して得られた重合体のラテックスを凝析する方法が挙げられる。しかしながら、この方法で得られたラテックスは機械的安定性が低くなる場合があり、移液中にラテックスの凝集による配管詰まり等が生じ易いことから、ポンプ、配管構造等の設備投資を考慮する必要がある。
また、特定溶媒を分散媒とし、重合体のラテックスを分散相とした分散液に凝固剤を添加して重合体を回収する方法が挙げられる(特許文献1)。しかしながら、この方法の場合、処理液中に有機溶媒が含まれるため、廃液処理や乾燥工程等で加工費が高くなるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−68285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、Tgの高い重合体を含むラテックスから重合体粉体を回収する際に、重合体が有する品質を低下させることなくラテックス凝固性を向上させ、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く重合体粉体を回収できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Tgが90℃以上の重合体(A)を含むラテックスを、ヒンダードフェノール系化合物(b1)又はヒンダードフェノール系化合物(b1)及びチオール化合物(b2)である化合物(B)の存在下で、凝析剤を用いて凝析する重合体粉体の回収方法であって、ガラス転移温度が90℃以上の重合体(A)が、芳香族ビニル単量体(a1)単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)単位から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含有する重合体であり、前記ヒンダードフェノール系化合物(b1)の融点が80℃以下である、重合体粉体の回収方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、Tgが高い重合体を含むラテックスであっても、重合体粉体の微粉の発生を抑制し、収率良く重合体粉体を回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用される重合体(A)はTgが90℃以上のものである。
本発明で使用される重合体(A)の具体例としては、芳香族ビニル単量体(a1)単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)単位から選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含有する重合体が挙げられる。
【0010】
芳香族ビニル単量体(a1)単位を構成するための原料として使用される芳香族ビニル単量体(a1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン及びビニルアントラセンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0011】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)単位を構成するための原料として使用される(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環式骨格含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、フタル酸2−メタクリロイルオキシエチル等の反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0012】
尚、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を示す。
【0013】
また、本発明においては、必要に応じて重合体(A)中にその他の単量体単位を含有させることができる。
その他の単量体単位を構成するための原料として使用されるその他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、1,3−ブチレンジメタクリレート等の多官能性単量体;酢酸ビニル、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド及びシクロヘキシルマレイミドが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0014】
本発明で使用されるラテックスは乳化重合によって得られたTgが90℃以上の重合体(A)を含む乳化状物である。
ラテックスを得るための乳化重合方法としては公知の方法が挙げられる。
【0015】
乳化重合に使用される乳化剤としては、例えば、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
これらの中で、得られるラテックスの安定性が良好であり、ラテックスの送液における配管詰まり等の問題のない良好な工程作業性を示す点で、ドデシルベンゼンスルホン酸ナ
トリウムが好ましい。
【0016】
乳化剤の添加量としては、残存乳化剤による品質劣化を抑制する点で、重合体(A)を構成するための原料として使用される単量体の全量100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましく、1〜2.5質量部がより好ましい。
また、本発明においては、必要に応じて、ラテックス中に紫外線吸収剤、安定剤等の各種添加剤を含有させることができる。これらの添加剤の添加時期としては、重合体(A)を得た後のラテックスに配合する場合又は重合体(A)の重合に際して添加する場合のいずれの場合でもよく、目的に応じて選択することができる。
【0017】
本発明で使用される凝析剤としては、例えば、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム及び硫酸が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0018】
本発明で使用されるヒンダードフェノール系化合物(b1)は、後述するラテックスの凝析の際にラテックスに配合する化合物(B)の1成分として使用することができる。
ヒンダードフェノール系化合物(b1)としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ベンゼンプロパン酸,3,5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−(ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,3−ビス[[3−[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド及び3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0019】
これらの中では、ラテックスに配合する際の作業性が良好であることから、融点80℃以下のものが好ましく、凝析工程での水への分散性が良好であることから、融点50℃以下のものがより好ましい。
具体的には、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール(融点:25℃以下)及びオクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](融点:50〜55℃)が好ましく、これらの混合物がより
好ましい。
【0020】
2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノールとオクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の混合物(100質量%)では、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率が25〜75質量%であることが好ましい。
オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率が25質量%以上であれば、得られる重合体粉体の嵩密度が高くなり、75質量%以下であれば、50℃以下の水中で容易に分散し、分散安定性が良好である。
【0021】
本発明で使用されるチオール化合物(b2)は、後述するラテックスの凝析の際にラテックスに配合する化合物(B)の1成分として使用することができる。
チオール化合物(b2)としては、例えば、ジドデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジオクタデシル−3,3’−チオジプロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、3−メルカプトプロピオン酸及びチオリンゴ酸が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0022】
これらの中では、ラテックスに配合する際の作業性が良好であることから、融点80℃以下のものが好ましく、凝析工程での水への分散性が良好であることから、融点50℃以下のものがより好ましい。
具体的には、ジドデシル−3,3’−チオジプロピオネート(融点:40℃)が好ましい。
【0023】
本発明で使用される化合物(B)は上述のヒンダードフェノール系化合物(b1)及びチオール化合物(b2)から選ばれる少なくとも1種で構成される化合物である。
本発明においては、化合物(B)はラテックスを凝析する際にラテックス中に存在すればよく、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば化合物(B)の添加時期は限定されるものではない。
化合物(B)の添加時期としては、例えば、重合体(A)を得る際の重合時に添加する場合及び得られたラテックスに配合する場合が挙げられるが、ヒンダードフェノールの重合防止効果を考慮すると、得られたラテックスに配合するのが好ましい。
【0024】
化合物(B)をラテックスに配合する場合、ラテックスへの化合物(B)の分散性が良好となることから、化合物(B)をオレイン酸カリウム等の脂肪酸塩を含有する水溶液中に分散させたものをラテックスに添加することが好ましい。
【0025】
化合物(B)の配合量は、重合体(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。重合体(A)100質量部に対する化合物(B)の配合量が0.1質量部以上であれば、重合体(A)ラテックスのラテックス凝固性を改良することができ、10質量部以下であれば、重合体(A)が有する品質を低下させることがない。
【0026】
本発明において、ラテックスの回収方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、凝析剤を含有する水相中にラテックスを噴霧又は投入し、凝固ラテックスを得る。次いで、得られた凝固ラテックスを80℃以上で加熱することによりスラリーを形成する。この後、得られたスラリーを水で充分に洗浄し、乾燥工程を得て重合体粉体を回収する。
凝析剤を含有する水相に投入するラテックスの温度は、得られる重合体粉体の微粉の発
生を抑制でき、収率良く重合体粉体を回収することができることから、40℃以上であることが好ましい。
尚、本発明においては、ラテックスを凝析する前に、凝析剤を含有する水相中に、必要に応じて分散剤等の各種添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
また、得られた重合体ラテックスのラテックス安定性(Lx安定性)及びラテックス凝固性(Lx凝固性)並びにラテックス中の重合体の重合率、質量平均分子量(Mw)及びTgについて以下の方法により評価した。
【0028】
更に、ラテックスを凝析して得られた重合体粉体を使用した樹脂組成物の溶融流動性、その成形物を得る際の滞留劣化性並びに得られた成形品の荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度について以下の方法により評価した。
【0029】
(1)Lx安定性
ラテックス300gを採取し、50℃に加熱した後、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー MARK II 2.5型)にて12,000rpmで攪拌を開始し、凝集して攪拌できなくなるまでの時間を測定し、下記基準でLx安定性を評価した。
○:10秒以上。
×:10秒未満。
【0030】
(2)Lx凝固性
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を94℃に加温した。この水溶液を攪拌しながら、この中にラテックス400部を徐々に投入した。投入終了後、撹拌しながら液を97℃に加温して5分間保持し、凝析を完了させ、スラリーを得た。
得られたスラリーを透明な容器に採取し、10分放置後の重合体粉体の凝集物と水との分離性により下記基準でLx凝固性を評価した。
○:重合体粉体の凝集物と水が2層に分離し、Lx凝固性は良好である。
×:重合体粉体の凝集物と水が2層に分離せず、Lx凝固性は不良である。
【0031】
(3)重合率
重合体の重合率を以下の手順により算出した。
(あ)アルミ皿を精密天秤に載せ、アルミ皿の質量(x)を0.1mgの単位まで測定する。
(い)アルミ皿にラテックス約1.0gを取り、その質量(y)を0.1mgの単位まで測定する。
(う)ラテックスを入れたアルミ皿を180℃±2℃の乾燥機に入れ、45分間乾燥する。
(え)ラテックスを入れたアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケータに移して室温まで冷却後、質量(z)を0.1mgの単位まで測定する。
(お)以下の式にて、ラテックスの固形分を算出する。
(z−x)/(y−x)×100(%)
(か)算出したラテックスの固形分を、重合時に仕込んだ単量体の総量で割り、重合体の重合率を算出した。
【0032】
(4)Mw
重合体のMwを、ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレンによる検量線
から求めた。溶媒としてはクロロホルムを使用した。また、測定は以下の条件で実施した。
カラム :TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製)
測定温度 :40℃
溶離液 :クロロホルム
溶離液速度:0.6ml/分
検出器 :RI
【0033】
(5)Tg
示差走査熱量測定(DSC)を用い、重合体のTgをJIS K7121に準じて測定した。中間点ガラス転移温度の数値をTgとして用いた。
昇温速度 :10℃/分
温度範囲 :0〜150℃
環境条件 :窒素気流下
【0034】
(6)溶融流動性
樹脂組成物のスパイラルフロー長さを射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))を用いて測定し、溶融流動性を評価した。
尚、成形温度は280℃、金型温度は80℃、射出圧力は50MPaとし、成形品は、厚さ2mm、幅15mmとした。
【0035】
(7)荷重たわみ温度
成形品の荷重たわみ温度を測定し、耐熱性を評価した。荷重たわみ温度の測定は、成形品(試験片)を150℃で2時間アニール処理したものについて実施した。
荷重たわみ温度はISO75−2に準拠して測定した。荷重は1.82MPaとした。
【0036】
(8)シャルピー衝撃強度
成形品のシャルピー衝撃強度は、成形品(試験片)にISO2818に準拠したType Aのノッチを刻んでISO179−1に準拠して測定した。
【0037】
(9)滞留劣化性
樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))のシリンダー内に280℃で20分間滞留させた後、長さ80mm、幅10mm及び厚さ4mmの成形品(試験片)を得た。
その試験片について、荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度を測定し、滞留劣化性を評価した。
【0038】
(10)嵩比重
重合体粉体の嵩比重を、JIS K6720−2に準じて測定した。
十分にかき混ぜた重合体粉体を試料とする。試料 約120mlを、嵩比重測定装置のダンパーを差し込んだ漏斗に入れた後、速やかにダンパーを引き抜き、試料を受器に落とす。受器から盛り上がった試料は、ガラス棒ですり落とした後、試料の入った受器の質量を0.1gのけたまで正確にはかり、次式によって嵩比重を算出した。
Sa=(C−A)/B
Sa:嵩比重、A:受器の質量(g)、B:受器の内容積(ml)、C:試料の入った受器の質量(g)
【0039】
[製造例1] <分散剤(α)の製造>
セパラブルフラスコに下記の化合物(1)を投入し、内温を60℃に設定して攪拌溶解した。内温を50℃に下げて3時間以上保持しても、析出物は見られなかった。
このセパラブルフラスコに下記の化合物(2)をゆっくりと投入した後、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー
MARK II 2.5型)で12,000rpm×1分間攪拌し、分散剤(α)を得た。
【0040】
化合物(1):
IRGASTAB MBS11 化合物(b1) 50.0部
(2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、
融点:25℃以下 80%及び
オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃ 20%の混合物、
チバ・ジャパン(株)製)
IRGANOX 1076 化合物(b1) 50.0部
(オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃、
チバ・ジャパン(株)製)
オレイン酸 9.3部
【0041】
化合物(2):
イオン交換水 100.0部
水酸化カリウム 2.2部
分散剤(α)中に含まれる化合物(b1)の内、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率は60質量%である。
【0042】
[製造例2] <分散剤(β)の製造>
化合物(1)を変更したこと以外は、製造例1と同様にして、分散剤(β)を得た。化合物(1)の溶解物は、セパラブルフラスコの内温を50℃に下げて3時間以上保持しても、析出物は見られなかった。
化合物(1):
IRGASTAB MBS11 化合物(b1) 100.0部
(2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、
融点:25℃以下 80%及び
オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ
フェニル)プロピオネート]、融点:50〜55℃ 20%の混合物、
チバ・ジャパン(株)製)
オレイン酸 9.3部
【0043】
化合物(2):
イオン交換水 100.0部
水酸化カリウム 2.2部
分散剤(β)中に含まれる化合物(b1)の内、オクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]の含有率は20質量%である。
【0044】
[実施例1] <重合体(A1)粉体の製造>
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を入れて攪拌し、窒素雰囲気下で、内温を60℃まで加熱した。次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に添加した。
乳化剤混合物:
エマール20C 2.5部
(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム
の25%水溶液)
イオン交換水 300.0部
【0045】
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
イオン交換水 4.17部
【0046】
このセパラブルフラスコ内に、下記の単量体混合物を180分かけて滴下した後に内温を80℃まで加熱し、更に60分間攪拌して重合を終了し、重合体(A1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
スチレン 100.0部
n−オクチルメルカプタン 0.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0047】
得られた重合体(A1)ラテックスの温度を50℃以下に下げ、これに、製造例1で得た分散剤(α)を水溶液として1.5部配合し、分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックスを得た。
得られた分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックスのLx安定性は50秒であった。
【0048】
次いで、酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を94℃に加温して保持した。この水溶液を攪拌しながら、この中に上記で得られた分散剤(α)を含有する重合体(A1)ラテックス400部を温度25℃に設定して、徐々に投入した。
重合体(A1)ラテックスの投入終了後、撹拌しながら重合体(A1)ラテックスが添加された液を97℃に加温して5分間保持し、凝析を完了させてスラリーを得た。得られたスラリーのLx凝固性は良好であった。
上記のスラリーを濾布で濾過して湿粉を回収し、湿粉の10倍量の水で洗浄し、80℃×48時間乾燥して重合体(A1)粉体を得た。得られた重合体(A1)の重合率は99.5%、Mwは50,000及びTgは91℃であった。
【0049】
[実施例2〜6] <重合体(A2)〜(A6)粉体の製造>
単量体混合物、乳化剤混合物、化合物(B)、ラテックスの投入温度として、表1に示すものを使用した。それ以外は実施例1と同様にして重合体ラテックス、スラリー及び重合体粉体を得た。重合体ラテックス及び重合体粉体についての各種評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1,2] <重合体(A7),(A8)粉体の製造>
乳化剤混合物として表1に示すものを使用し、化合物(B)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして重合体(A7)及び(A8)粉体を得た。重合体(A7)及び(A8)ラテックス、重合体(A7)及び(A8)粉体についての各種評価結果を表1に示す。
尚、比較例2については、得られたスラリーのLx凝固性が不良だったため、スラリーを、ホモミキサー(プライミクス(株)製、本体:T.K.ロボミックス、攪拌部:T.K.ホモミキサー MARK II 2.5型)により12,000rpmで攪拌して凝集物を得た後に、濾布で濾過して湿粉を回収し、湿粉の10倍量の水で洗浄し、80℃×
48時間乾燥して重合体(A8)粉体を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
尚、表1中の化合物は以下のものを示す。
IRGASTAB MBS11:前記の化合物(1)の項目を参照
IRGANOX PS−800:
(ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、融点:40℃、チバ・ジャパン(株)製)
【0053】
表1から明らかなように、本発明の化合物(B)を配合した重合体(A)のラテックスは、Lx安定性に優れ、且つ、Lx凝固性に優れることが確認された。Lx安定性に優れることから、移液中にラテックスの凝集による配管詰まり等が生じ難く、Lx凝固性に優れることから、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く重合体粉体を回収することができる。
ラテックスの投入温度を25℃(実施例4)から50℃(実施例5)とすることにより、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く、嵩密度の高い重合体粉体を回収することができた。
【0054】
分散剤(α)は、化合物(b1)の内、室温で固体であるオクタデシル−3−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](融点:50〜55℃)の含有率が60質量%である。分散剤(β)は、20質量%である。
分散剤(α)は、分散剤(β)を用いた場合に比較して、重合体粉体の微粉の発生を抑制でき、収率良く、嵩密度の高い重合体粉体を回収することができる。
【0055】
比較例1では、重合体(A)のラテックスに化合物(B)を配合してなく、重合体(A)の重合には、乳化力の弱い乳化剤(RS−610NA)を用いている。乳化力の弱い乳化剤を用いていることから、Lx凝固性は良好であるが、Lx安定性が悪いため、移液中にラテックスの凝集による配管詰まり等を生じ易い。
比較例2では、重合体(A)のラテックスに化合物(B)を配合してなく、重合体(A)の重合には、乳化力の強い乳化剤(エマール20C)を用いている。乳化力の強い乳化剤を用いていることから、Lx安定性は良好であるが、Lx凝固性が悪いため、重合体粉体の微粉が発生し、重合体粉体の回収率が低下する。
【0056】
[実施例7〜10及び比較例3,4]
実施例1,3,4,6で得られた重合体(A)粉体及び芳香族ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製、タフロンFN−1500(商品名))を表2に示す割合で配合したものを2軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−35(商品名))に供給し、280℃で溶融混練して芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を得た。
得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、IS−100(商品名))により成形温度280℃で成形し、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの成形品を得た。
得られた樹脂組成物の溶融流動性、成形品の荷重たわみ温度及びシャルピー衝撃強度、滞留劣化性についての評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
尚、表2中のPCは以下のものを示す。
PC:タフロンFN−1500
芳香族ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製、商品名)
【0059】
表2から明らかなように、本発明の重合体(A)粉体を配合した、実施例7〜10の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂が滞留劣化することがなかった。これは、本発明の重合体(A)粉体は、微粉の発生が抑制されており、乳化剤等を充分に洗浄できていることによる。
Lx凝固性の悪かった重合体(A8)粉体を配合した、比較例4の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂に滞留劣化が見られた。これは、重合体(A8)粉体が微粉のため、乳化剤等を充分に洗浄することができず、残留した乳化剤等が芳香族ポリカーボネート樹脂に影響を与えていることによる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の重合体粉体の回収方法によれば、Tgが高い重合体を含むラテックスであっても、ラテックス安定性が良好であり、且つ、ラテックス凝固性が良好な状態で、重合体粉体を回収することができる。得られる重合体粉体は、微粉の発生が抑制されており、収率良くラテックスから回収される。