【文献】
M.J.G. Jak, E.M. Kelder, S.J. Everstein, J. Schoonman,Influence of synthesis parameters on the electrical and structural properties of nanostructured BPO4-Li2O,Journal of Power Sources,Elsevier Sciences S.A.,1999年,Vol.81-82,pp.808-812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1または請求項2に記載の固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池。
前記圧力付与工程において、エアロゾルデポジション法により前記原料粒子に圧力を付与することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体電解質材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、LBPOがLiイオン伝導性を示すことは知られているが、LBPOは、他の高Liイオン伝導性の固体電解質材料(例えばLATP)に比べて、Liイオン伝導度が劣る材料であると認識されている。一方で、電池の高出力化の観点から、固体電解質材料にはLiイオン伝導性の向上が求められている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、Li元素、B元素、PO
4構造を有し、Liイオン伝導性の高い固体電解質材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料のLiイオン伝導性を向上させるためには、従来とは全く逆のアプローチを採用することが有効であるとの知見を得た。詳細については後述するが、一般的に、結晶粒内のLiイオン伝導性と、結晶粒界のLiイオン伝導性とを比較すると、粒界抵抗のない結晶粒内のLiイオン伝導性が高いと考えられている。そのため、Liイオン伝導性の向上には、結晶(厳密には結晶子)のサイズを大きくすることが有効であると考えられている。これに対して、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料では、意外にも、結晶子のサイズを小さくすることがLiイオン伝導性の向上に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明においては、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料であって、結晶子サイズが50nm以下であることを特徴とする固体電解質材料を提供する。
【0011】
本発明によれば、結晶子サイズが所定の値以下であることから、Liイオン伝導性の高い固体電解質材料とすることができる。
【0012】
上記発明においては、理論密度に対する相対密度が、80%以上であることが好ましい。よりLiイオン伝導度が向上するからである。
【0013】
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した固体電解質材料を含有することを特徴とする全固体電池を提供する。
【0014】
本発明によれば、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層の少なくとも一つが、上述した固体電解質材料を含有することで、高出力な電池とすることができる。
【0015】
また、本発明においては、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料の製造方法であって、上記固体電解質材料の原料粒子に圧力を付与することで、結晶子サイズを50nm以下にする圧力付与工程を有することを特徴とする固体電解質材料の製造方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、圧力付与工程において結晶子サイズを所定の値以下にすることで、Liイオン伝導性の高い固体電解質材料を得ることができる。
【0017】
上記発明では、上記圧力付与工程において、上記原料粒子に500MPa以上の圧力を付与することが好ましい。
【0018】
上記発明では、上記圧力付与工程において、エアロゾルデポジション法により上記原料粒子に圧力を付与することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の固体電解質材料は、Liイオン伝導性が高いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の固体電解質材料、全固体電池および固体電解質材料の製造方法について、詳細に説明する。
【0022】
A.固体電解質材料
まず、本発明の固体電解質材料について説明する。本発明の固体電解質材料は、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料であって、結晶子サイズが50nm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明によれば、結晶子サイズが所定の値以下であることから、Liイオン伝導性の高い固体電解質材料とすることができる。ここで、LBPOと、従来の固体電解質材料とのLiイオン伝導機構の違いについて、
図1を用いて説明する。なお、従来の固体電解質材料の一例としてLATPを挙げる。LATPは、Li、Al、Ti、PO
4構造を有する固体電解質材料(例えばLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3)である。
図1において、Gは結晶粒内を意味し、GBは結晶粒界を意味し、σはLiイオン伝導度を意味する。
図1(a)のように結晶子サイズが大きい(粒界密度が低い)固体電解質材料Aと、
図1(b)のように結晶子サイズが小さい(粒界密度が高い)固体電解質材料Bとを比較すると、LATPのような通常の固体電解質材料では、σ
A>>σ
Bとなる。これは、Liが通過するチャンネルの大きさが一定である結晶粒内GにおけるLiイオン伝導度σ
Gが、結晶粒界GBにおけるLiイオン伝導度σ
GBよりも圧倒的に高いからである。
【0024】
すなわち、通常の固体電解質材料では、結晶粒界がLiイオン伝導の律速となるため、Liイオン伝導性の向上には、結晶子サイズを大きくすること(究極的には単結晶とすること)が有効であると考えられている。なお、例えば、Kai-Yun Yang et al., “Roles of lithium ions and La/Li-site vacancies in sinterability and total ionic conduction properties of polycrystalline Li
3xLa
2/3-xTiO
3 solid electrolytes(0.21<3x<0.50)”, Journal of Alloys and Compounds 458 (2008) 415-424には、焼結温度を上げ結晶子サイズを大きくすることで、粒界が減少し、粒界抵抗が低くなることが開示されている。
【0025】
これに対して、LBPOでは、後述する実施例に記載するように、意外にもσ
A<<σ
Bとなる。その理由は必ずしも明らかではないが、LBPOは、通常の固体電解質材料とは異なり、結晶粒界GBにおけるLiイオン伝導度σ
GBが、結晶粒内GにおけるLiイオン伝導度σ
Gよりも高いからであると考えられる。すなわち、従来、Liイオン伝導の律速と考えられていた結晶粒界の方が、実際には結晶粒内よりもLiイオン伝導度が高く、Liイオン伝導機構が全く異なることが示唆される。結晶粒界のLiイオン伝導度が高くなる理由は、おそらく、結晶粒界でのLiイオン濃度の増加、結晶粒界での弱く結合した原子の構造(半固体のような構造、アモルファスライク構造)による影響が考えられる。このような特有な性質により、本発明の固体電解質材料は、Liイオン伝導性が高い材料となると考えられる。
【0026】
一方、非特許文献1〜4には、LBPOについて開示されているものの、結晶子サイズを小さくすることにより、Liイオン伝導度が向上することについて記載も示唆もされていない。本発明者等は、後述するAD法を用いた実験を行った結果、LBPOは結晶子サイズが小さいほどLiイオン伝導度が高くなるという知見を得た。多結晶の固体電解質材料のLiイオン伝導度は、主に密度および結晶子サイズに大きく依存するが、従来の方法では、密度を一定とし結晶子サイズを変化させることは困難である。これに対して、AD法では、後述する常温衝撃固化現象を利用して緻密な膜を形成できるため、密度をほぼ一定とした条件で、結晶子サイズの違いによるLiイオン伝導度の変化を確認できた。このような知見は、AD法に精通した本発明者等であるからこそ得られたものである。
【0027】
本発明の固体電解質材料は、Li元素、B元素、PO
4構造を有するものである。本発明の固体電解質材料の組成としては、例えばxLi
2O−BPO
4(0.5≦x≦1.5)、Li
xB
1−x/3PO
4(0.75≦x<3)等を挙げることができる。また、Bに対するLiの割合(mol基準)は、1以上であることが好ましい。また、本発明の固体電解質材料は、Li元素、B元素、PO
4構造のみから構成されるものであっても良く、Li元素、B元素、O元素、PO
4構造のみから構成されるものであっても良く、Li、B、P、Oの少なくとも一つの元素が、他の元素で一部置換されたものであっても良い。
【0028】
本発明においては、固体電解質材料の結晶子サイズが特定の範囲にあることを大きな特徴とする。ここで、結晶子とは、単結晶とみなせる最大の集まりをいい、
図2に示すように、複数の結晶子によって粒子(多結晶粒子)が構成される。なお、
図2では粒子を例示しているが、本発明の固体電解質材料は膜状であっても良い。固体電解質材料の結晶子サイズは通常50nm以下であり、Liイオン伝導性の向上という観点からは、より小さいことが好ましい。具体的には、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。結晶子サイズは、XRDのピークの半値全幅(FWHM)から求めることができる。具体的には、固体電解質材料に対して、CuKα線を用いてXRD測定を行い、2θ=24.7°付近のピークのFWHM(°)を求める。このFWHMの値を下記式(Scherrer式)に代入することで、結晶サイズDを算出できる。
D=Kλ/(βcosθ)
K:Scherrer定数、λ:波長、β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり、θ:回折角2θ/θ
また、本発明の固体電解質材料は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=24.7°、39.9°、48.8°の位置にピークを有することが好ましい。なお、上記ピークの位置は±0.5°の範囲内で前後していても良い。
【0029】
本発明の固体電解質材料の相対密度は、特に限定されるものではないが、例えば80%〜99%の範囲内であることが好ましく、90%〜99%の範囲内であることがより好ましい。固体電解質材料の相対密度が高すぎると(例えば100%を超えると)、固体電解質材料に歪みが生じる可能性があり、固体電解質材料が低すぎると、固体電解質材料が緻密にならず、十分なイオン伝導性を得ることができない可能性があるからである。固体電解質材料の相対密度は、固体電解質材料の実際の密度を、固体電解質材料の理論密度で除することにより求めることができる。なお、固体電解質材料の実際の密度は、例えば固体電解質材料の面積および膜厚から固体電解質材料の体積を求め、固体電解質材料の重量をその体積で除することにより、求めることができる。
【0030】
本発明の固体電解質材料は、常温(25℃)でのLiイオン伝導度が高いことが好ましい。Liイオン伝導度は、例えば1×10
−6S/cm以上であることが好ましく、1×10
−5S/cm以上であることがより好ましく、1×10
−4S/cm以上であることがさらに好ましく、1×10
−3S/cm以上であることが特に好ましい。Liイオン伝導度は、交流インピーダンス法により求めることができる。
【0031】
また、本発明の固体電解質材料の形状は、特に限定されるものではなく、膜状であっても良く、粒子状であっても良い。膜状の固体電解質材料は、後述するように、例えばエアロゾルデポジション法を用いることにより得ることができる。一方、粒子状の固体電解質材料は、例えば膜状の固体電解質材料を粉砕することにより得ることができる。
【0032】
B.全固体電池
次に、本発明の全固体電池について説明する。本発明の全固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した固体電解質材料を含有することを特徴とするものである。
【0033】
図3は、本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図3における全固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された固体電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有するものである。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.固体電解質材料」に記載した固体電解質材料を含有することを大きな特徴とする。
【0034】
本発明によれば、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層の少なくとも一つが、上述した固体電解質材料を含有することで、高出力な電池とすることができる。
以下、本発明の全固体電池について、構成ごとに説明する。
【0035】
1.正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。正極活物質としては、例えば、酸化物活物質等を挙げることができる。上記酸化物活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、Li
1+xMn
2−x−yM
yO
4(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znから選ばれる一種以上、0≦x+y≦2)で表わされる組成の異種元素置換Li−Mnスピネル、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム(LiMPO
4、MはFe、Mn、Co、Niから選ばれる一種以上)、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化モリブデン(MoO
3)を挙げることができる。
【0036】
本発明における正極活物質層は、固体電解質材料を含有していても良い。固体電解質材料の添加により、正極活物質層のLiイオン伝導性を向上させることができる。中でも、正極活物質層に含まれる固体電解質材料は、上記「A.固体電解質材料」に記載した固体電解質材料であることが好ましい。高出力な電池を得ることができるからである。特に、本発明における正極電解質層は、上述した粒子状の固体電解質材料を含有することが好ましい。また、正極活物質層は、導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、正極活物質層は、結着材を含有していても良い。結着材の種類としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
2.負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。また、負極活物質として、酸化物活物質を用いても良い。酸化物活物質としては、Li、TiおよびOを含有する化合物(例えばLi
4Ti
5O
12)等を挙げることができる。
【0038】
本発明における負極活物質層は、固体電解質材料を含有していても良い。固体電解質材料の添加により、負極活物質層のLiイオン伝導性を向上させることができる。中でも、負極活物質層に含まれる固体電解質材料は、上記「A.固体電解質材料」に記載した固体電解質材料であることが好ましい。高出力な電池を得ることができるからである。特に、本発明における負極電解質層は、上述した粒子状の固体電解質材料を含有することが好ましい。また、負極活物質層に含まれる導電化材および結着材については、上記「1.正極活物質層」に記載した内容と同様である。負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
3.固体電解質層
本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。固体電解質層を構成する固体電解質材料としては、Liイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、上記「A.固体電解質材料」に記載した固体電解質材料であることが好ましい。高出力な電池を得ることができるからである。特に、本発明における固体電解質層は、上述した膜状の固体電解質材料から構成されていることが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
4.その他の構成
本発明の全固体電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0041】
5.全固体電池
本発明の全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、二次電池であることが好ましい。例えば車載用電池として有用だからである。本発明の全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0042】
C.固体電解質材料の製造方法
次に、本発明の固体電解質材料の製造方法について説明する。本発明の固体電解質材料の製造方法は、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料の製造方法であって、上記固体電解質材料の原料粒子に圧力を付与することで、結晶子サイズを50nm以下にする圧力付与工程を有することを特徴とするものである。
【0043】
本発明によれば、圧力付与工程において結晶子サイズを所定の値以下にすることで、Liイオン伝導性の高い固体電解質材料を得ることができる。
【0044】
本発明における圧力付与工程は、Li元素、B元素、PO
4構造を有する固体電解質材料の原料粒子に圧力を付与する工程である。この工程により、結晶子サイズを50nm以下とする。なお、結晶子サイズの好ましい範囲については、上記「A.固体電解質材料」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0045】
本発明に用いられる原料粒子は、通常、Li元素、B元素、PO
4構造を有するものである。原料粒子の組成は、上述した固体電解質材料の組成と同様の組成であることが好ましい。また、原料粒子においては、Bに対するLiの割合(mol基準)は、1以上であることが好ましい。Liが揮発した場合でも、良好なLiイオン伝導性を有する固体電解質材料を得ることができるからである。本発明においては、熱処理により、予め原料粒子の結晶性を向上させても良い。予め結晶性を向上させることで、所望の結晶子サイズを有する固体電解質材料を作製しやすくなるからである。また、本発明においては、予め原料粒子の平均粒径を微細化しても良い。予め微細化することで、所望の結晶子サイズを有する固体電解質材料を作製しやすくなるからである。微細化する方法としては、例えばボールミル等のメカニカルミリングを挙げることができる。さらに、微細化した原料粒子に対して、所定の分級を行っても良い。原料粒子の平均粒径D
50は、特に限定されるものではないが、例えば0.4μm〜4μmの範囲内であることが好ましく、0.6μm〜2μmの範囲内であることがより好ましい。原料粒子の結晶子サイズは、特に限定されるものではないが、例えば10nm〜80nmの範囲内であることが好ましく、10nm〜50nmの範囲内であることがより好ましい。
【0046】
また、本発明においては、原料粒子に圧力を付与する。原料粒子に付与する圧力は、所望の結晶子サイズが得られる程度に高いことが好ましく、具体的には500MPa以上であることが好ましく、1GPa以上であることがより好ましく、1.2GPa以上であることがさらに好ましい。
【0047】
原料粒子に圧力を付与する圧力付与方法としては、所望の結晶子サイズが得られる方法であれば特に限定されるものではないが、原料粒子を積極的に加熱しない方法であることが好ましい。加熱により粒成長が生じて結晶子サイズが大きくなることを防止できるからである。また、圧力付与方法は、基板との衝突により原料粒子に圧力を付与する方法であっても良く、圧力媒体により原料粒子に圧力を付与する方法であっても良い。
【0048】
基板との衝突により原料粒子に圧力を付与する方法の一例としては、エアロゾルデポジション法(AD法)を挙げることができる。AD法では、「常温衝撃固化現象」(原料粒子に機械的な衝撃力を与えるだけで、加熱することなく常温で高密度に固化する現象)を用いて、緻密で密着性の高い膜を得ることができる。さらに、膜の材質にもよるが、成膜速度は従来の薄膜形成技術の数十倍以上であるという利点がある。また、基板のごく限られた領域にだけ高圧がかかるため、基板へのダメージが小さく、熱による相互拡散も生じないという利点がある。
【0049】
図4は、エアロゾルデポジション法(AD法)を説明する模式図である。
図4において、チャンバー11の内部には、台座12が設置され、その台座12上には基板13が配置されている。また、チャンバー11の内部の圧力は、ロータリーポンプ14により任意の減圧状態に制御可能である。一方、原料粒子16は、エアロゾル発生器17の内部で、ガスボンベ15から供給される搬入ガスによってエアロゾル化される。さらに、エアロゾル化した原料粒子は、チャンバー11の内部に配置されたノズル18から基板13に向かって噴射される。基板13の表面上では、粒子の破壊変形(微粒化)とともに堆積が生じ、薄膜が成膜される。
【0050】
AD法による成膜時のチャンバー内圧力Pは、所望の密度を得ることができる圧力であれば特に限定されるものではないが、例えば100Paより高いことが好ましく、120Pa以上であることがより好ましく、150Pa以上であることがさらに好ましい。成膜時の圧力が低すぎると、活物質層の密度が大きくなりすぎる可能性があるからである。一方、上記圧力Pは、例えば400Pa以下であることが好ましく、350Pa以下であることがより好ましい。成膜時の圧力が高すぎると、緻密な活物質層を得ることが困難になる可能性があるからである。
【0051】
AD法における搬送ガスの種類としては、特に限定されるものではないが、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)等の不活性ガス、および、ドライエア等を挙げることができる。また、搬送ガスのガス流量は、所望のエアロゾルを維持できる流量であれば特に限定されるものではないが、例えば3L/min.〜8L/min.の範囲内であることが好ましい。
【0052】
また、基板との衝突により原料粒子に圧力を付与する方法の他の例としては、コールドスプレー法等を挙げることができる。
【0053】
一方、圧力媒体により原料粒子に圧力を付与する方法としては、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間等方圧プレス)、CUP(Cold Uniaxial Pressing、冷間一軸プレス)等を挙げることができる。また、圧力付与方法の他の例としては、磁気パルス圧縮(Magnetic Pulse Compaction)等を挙げることができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0056】
[実施例1]
(原料粒子の調製)
まず、LBPO(1molのBPO
4に対して1.1molのLiを有する粒子、平均粒径D
50=50μm)に対して、大気雰囲気、600℃、6時間の条件で熱処理を行い、結晶性を向上させた。得られたLBPOを遊星型ボールミルの容器に入れ、台盤回転数250rpm、2時間の条件で処理を行い、原料粒子(平均粒径D
50=0.8μm)を得た。なお、原料粒子の結晶子サイズは50nmであった。
【0057】
(固体電解質膜の作製)
得られた原料粒子を用いてAD法により固体電解質膜を作製した。基板には、Al合金(A5052、厚さ0.5mm)を用いた。成膜条件は以下の通りである。
<成膜条件>
・温度 常温
・チャンバー内の圧力 600Pa
・ガス He
・ガス流量 2L/min.(アシストガス3L/min.)
・スキャン速度 2.5mm/sec.
・基板ノズル間距離 20mm
このようにして、基板上に固体電解質膜を得た。さらに、固体電解質膜上に、スパッタリング法によりAu薄膜(集電部)を形成し、評価部材を得た。
【0058】
[実施例2]
固体電解質膜の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価部材を得た。
<成膜条件>
・温度 常温
・チャンバー内の圧力 200Pa
・ガス He
・ガス流量 1.5L/min.(アシストガス3.5L/min.)
・スキャン速度 2.5mm/sec.
・基板ノズル間距離 15mm
【0059】
[実施例3]
固体電解質膜の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価部材を得た。
<成膜条件>
・温度 常温
・チャンバー内の圧力 100Pa
・ガス O
2
・ガス流量 1.5L/min.(アシストガス7.0L/min.)
・スキャン速度 2.5mm/sec.
・基板ノズル間距離 15mm
【0060】
[評価1]
(SEM観察)
実施例1で用いた原料粒子、および、実施例1で作製した固体電解質膜(断面)について、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果を
図5に示す。
図5(a)に示すように実施例1で用いた原料粒子は粒子であり、
図5(b)に示すように、実施例1で作製した固体電解質膜は、微粒化した原料粒子が緻密に堆積した膜(厚さ15.9μm)であることが確認された。
【0061】
(密度測定)
実施例1〜3で作製した固体電解質膜の密度を算出した。まず、固体電解質膜の面積および膜厚から、固体電解質膜の体積を求めた。次に、固体電解質膜の重量を測定し、その重量を固体電解質膜の体積で除することにより、固体電解質膜の密度を求めた。この値を理論密度で除することにより、相対密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0062】
(結晶子サイズ測定)
実施例1〜3で作製した固体電解質膜に対して、CuKα線によるX線回折(XRD)測定を行った。その結果、2θ=24.7°、39.9°、48.8°にピークが見られた。また、
図6に示すように、2θ=24.7°のピークの半値全幅(FWHM)から、結晶子サイズを算出した。結晶子サイズは、上述したScherrer式を用いて算出した。
【0063】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1〜3で得られた評価部材に対して、Liイオン伝導度測定を行った。測定は、交流インピーダンス法により行った。その結果を
図7および表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図7および表1に示されるように、実施例1〜3では、結晶子サイズが小さくなるほど、Liイオン伝導度が向上することが確認された。
【0066】
[比較例1]
(原料粒子の調製)
まず、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3(平均粒径D
50=1.0μm)に対して、大気雰囲気、700℃、4時間の条件で熱処理を行い、結晶性を向上させた。得られたLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3を遊星型ボールミルの容器に入れ、台盤回転200rpm、1時間の条件で処理を行い、原料粒子(平均粒径D
50=0.8μm)を得た。
(固体電解質膜の作製)
得られた原料粒子を用いてAD法により固体電解質膜を作製した。基板には、実施例と同じAl合金(A5052)を用いた。成膜条件は以下の通りである。
<成膜条件>
・温度 常温
・チャンバー内の圧力 約1Torr
・ガス He
・ガス流量 1L/min.〜10L/min
・スキャン速度 0.1mm/sec.〜10mm/sec.
このようにして、基板上に固体電解質膜を得た。さらに、固体電解質膜上に、スパッタリング法によりAu薄膜(集電部)を形成し、評価部材を得た。
【0067】
[比較例2]
まず、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3(平均粒径D
50=1.0μm)に対して、100MPaにて一軸成型した。次に、150MPaでCIPを行った。その後、900℃で6時間焼成することによりペレットを作製した。このペレットを用いて評価部材を得た。
【0068】
[評価2]
比較例1、2で得られた評価部材に対して、結晶子サイズ測定およびLiイオン伝導度測定を行った。測定方法は上述した通りである。その結果を
図8に示す。
図8に示すように、結晶子サイズが大きくなるほど、Liイオン伝導度が向上することが確認され、LBPOとは全く逆の傾向を示すことが確認された。