(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、自然エネルギの利用の一環として太陽電池あるいは太陽光発電システムの利用が進められている。太陽電池システムでは、太陽光を電気エネルギに変換するために太陽電池セル(光電気化学セル)が用いられる。
光電気化学セルについては、その光電変換効率の向上に向けて研究開発が進められており、近年では色素増感型光電気化学セルが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図5において、特許文献1の色素増感型光電気化学セル90は、多孔質金属製の基板91の表面に色素付きの多孔質半導体製の薄膜92を形成した受光側電極93を有する。この受光側電極93の裏面には、スペーサ94を介して、所定間隔で平行に対極95が設置されている。スペーサ94の間の空間には電解質96が充填されるとともに、これらの外周は透明な光透過性膜97で被覆されている。
このような色素増感型光電気化学セル90では、受光側電極93で受光された光により、電解質96を挟んで対向された受光側電極93と対極95との間に起電力が生じ、この起電力を各電極93,95に接続された導線98で取り出すことができる。
【0004】
ここで、従来の光電気化学セルにおいては、受光側電極93として、導電性ガラス等による電極基板の表面に、金属酸化物製の透明電極膜を形成した構成を用いていた。
これに対し、特許文献1の色素増感型光電気化学セル90では、多孔質金属製の基板の表面に、色素付きの多孔質半導体製の薄膜を形成して多孔質半導体製の受光側電極93を形成している。
このような特許文献1の受光側電極では、従来のガラス製基板および透明電極膜を用いた電極に比べて、光電気化学セルとしての製造コストの低減、電気抵抗の軽減、軽量化および柔軟性の確保を図ることができる。
【0005】
特許文献1の色素増感型光電気化学セル90では、受光側電極93を製造するにあたり、多孔質金属製の基板91の表面に色素付きの多孔質半導体製の薄膜92を形成するために、薄膜92となるべき多孔質半導体をスラリー状にして基板91の表面に塗布することが行われている。
図6において、受光側電極93は、多孔質金属製の基板91の表面に多孔質半導体製の薄膜92を塗布して構成される。
基板91は、金属の粒子91Aを焼結などにより板状に成形した多孔質の導電性自立基板であり、粒子91Aの間には空隙が形成され、その一部は基板91の表裏を貫通する細孔91Bとされている。
薄膜92は、色素を有する多孔質半導体を基板91に塗布して薄膜状に形成される。具体的には、スラリー状にした多孔質半導体粒子(例えば多孔質半導体の前駆体を含む溶液またはペースト)を、多孔質金属製基板の表面に塗布したうえ、加熱することにより多孔質半導体薄膜を形成し、この多孔質半導体薄膜に色素を含有させて前述した薄膜92とする。
【0006】
前述した通り、特許文献1においては、受光側電極93の製造にあたって多孔質金属製の基板91に薄膜92となるべき多孔質半導体粒子のスラリーを塗布する。
ここで、多孔質半導体粒子のスラリーを基板91に塗布した際には、多孔質半導体粒子のスラリーが基板91の表面に拡がることがあるとともに、スラリーの粒子92Aの一部が多孔質の基板91の細孔91B内に侵入することがある。
特許文献1では、多孔質半導体粒子のスラリー(前述した溶液またはペースト)を基板91の表面に塗布する際には、このような多孔質半導体粒子のスラリーの塗布時の拡がり方や、形成される膜厚、細孔への侵入度合い等を調整するために、溶液またはペーストの粘度を調整することが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前述した特許文献1の色素増感型光電気化学セル90における受光側電極93では、多孔質金属製の基板91の細孔91Bに粒子92Aが入り込むことで、多孔質半導体製の薄膜92の厚みが変動することになる。すなわち、細孔91Bのある部分では、細孔91Bに入り込んだ粒子92Aの分だけ、他の部分より薄膜92の厚みが大きくなる。このような薄膜92の厚みの変動があると、特に厚みの大きな部分で電子の拡散が生じにくく、光電変換効率が低下する可能性がある。
【0009】
このような細孔91Bへの侵入を回避するために、薄膜92とするために塗布する多孔質半導体粒子のスラリーの粘度を高めることが考えられる。粘度調整以外の方法として、多孔質半導体粒子のスラリーを多孔質金属製の基板91の下面側から塗布することも考えられるが、重力と反対向きのスラリーの塗布が困難であるばかりか、毛細管現象によりスラリーが細孔91B内に侵入することが避けられず、粘度調整が最も現実的な対応といえる。
【0010】
しかし、細孔91Bへの侵入を回避するためにスラリーの粘度を高めた場合、細孔91Bへの侵入が抑止されるだけでなく、基板91の表面での拡散性が低下し、全体として塗膜が厚くなることがあり、これらの性能を総合的に満足するような粘度調整は難しいという問題があった。
また、塗布にあたって多孔質半導体粒子のスラリーの粘度を常に一定に維持することは難しく、細孔91Bへのスラリー侵入の回避が不十分になり、薄膜92の厚みが変動する可能性があった。
さらに、粘度を高めるためにスラリーに高沸点の高分子化合物を添加することがあるが、このような場合には、多孔質半導体製の薄膜を形成した後の多孔質半導体の表面に高分子化合物の残渣あるいはこれの分解物などの炭素化合物が付着することがあり、例えば、色素増感太陽電池としたときの性能を低下させる原因となることが考えられる。
【0011】
本発明の目的は、粘度調整に依存せずに多孔質半導体薄膜を一定膜厚とすることができる多孔質半導体電
極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表裏を貫通する細孔を有する多孔質半導体製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成して構成される多孔質半導体電
極の製造方法であって、前記基板の裏面側に加圧流体を接触させ、前記細孔内の圧力を前記基板の表面側雰囲気より高めておき、前記細孔内の圧力を高めた状態で、前記基板の表面側に前記薄膜となる多孔質半導体を塗布することを特徴とする。
【0013】
このような本発明では、前記基板の表面側に前記薄膜となる多孔質半導体を塗布する際に、前記基板の裏面側に接触された加圧流体によって前記細孔内の圧力が前記基板の表面側雰囲気より高められているため、前記薄膜となる多孔質半導体が前記細孔内に侵入することが抑制される。その結果、基板の表面に形成された薄膜は細孔がある部分でも他の部分と同様な膜厚となり、粘度調整に依存せずに多孔質半導体薄膜を一定膜厚とすることができる。
なお、加圧流体としては、圧縮空気あるいは加圧した不活性ガスを用いることができる。また、気体に限らず、不活性な液体などであってもよく、揮発性の液体であれば、薄膜形成後に速やかに揮発させることで除去を容易に行うことができる。
また、基板の表面側への多孔質半導体の塗布において、前記基板の細孔への前記多孔質半導体の侵入の程度は、多孔質半導体の種類(粘度、比重)や塗布厚み等により大きく相違する。
よって、実際の塗布に先立ち、前記細孔内の圧力を前記基板の表面側雰囲気の圧力よりも高くした種々の圧力として試験を行い、その結果により多孔質半導体が細孔に侵入しない適正圧力を選択し、この圧力を設定して実際の塗布を実施すればよい。
【0014】
本発明において、上面が開口された加圧保持室を用い、前記開口を覆うように前記基板を配置し、前記加圧保持室内に加圧流体を供給して前記基板の裏面側から加圧し、この状態で前記基板の表面側に前記薄膜となる多孔質半導体を塗布することが望ましい。
【0015】
本発明において、前記開口に沿って移動可能な塗布装置を用い、前記塗布装置を前記基板に対して移動させることで塗布を行うことができる。
この場合、基板を開口に配置し、加圧保持室に対して固定した状態とし、この状態で塗布装置を基板に対して移動させることで塗布を行うことができる。なお、基板における塗布領域が狭い場合など、移動可能な塗布装置であってもこれを移動させずに塗布を行ってもよい。
本発明において、前記開口に対向する塗布装置を用い、前記開口と前記塗布装置との間に前記基板を送ることで塗布を行うとしてもよい。
このような本発明では、何れの場合も、多孔質半導体を塗布する際に、多孔質半導体が塗布される領域に、基板の裏面側から加圧流体を適切に供給することができる。
【0016】
本発明において、前記基板の裏面側からの前記加圧流体により前記細孔内の圧力を高めた状態のまま、前記基板の表面側に塗布された前記多孔質半導体を加熱して乾燥させることが望ましい。
本発明において、前記基板の裏面側からの前記加圧流体として、加熱された流体を用いることが望ましい。
このような本発明では、薄膜となる多孔質半導体を基板に塗布したのち、直ちに加熱して乾燥させることで、基板表面の薄膜を安定して得ることができる。
とくに、加圧流体自体を加熱しておくことで、効率のよい塗布ないし加熱乾燥を行うことができ、製造装置の簡略化も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から
図3には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1において、本実施形態では、基板11の表面に薄膜12を形成して多孔質半導体電極13を製造するために、基板11を固定した状態で薄膜12となるスラリーSを塗布する製造装置20を用いる。本実施形態では、基板11としてチタン焼結体による多孔質金属基板を用い、薄膜12として二酸化チタン多孔質半導体の塗膜を形成する。
【0020】
製造装置20は、基礎上に固定された加圧保持室21を有する。加圧保持室21は内部が空洞23とされた筐体であり、その上面側には開口22が形成されている。加圧保持室21の開口22以外の部分は、内外が機密状態となるようにシール等が施されている。
製造装置20においては、製造にあたって前述した基板11を載置することで開口22が塞がれ、加圧保持室21の内部の空洞23が閉空間とされる。
【0021】
加圧保持室21は、側面に接続されたパイプ24を介して加圧流体供給手段24Aに接続されており、この加圧流体供給手段24Aから加圧流体Gが供給される。加圧流体供給手段24Aとしては、既存の加圧ポンプと圧力タンクとを有するアキュムレータ等が利用できる。
空洞23内には、パイプ24よりも開口22の近くに、整圧用のスリット25が開口22と平行に設置され、パイプ24からの加圧流体Gはスリット25で圧力を均等にされたうえで開口22に向けて送られるようになっている。
【0022】
本実施形態においては、整圧用のスリット25がヒータを兼ねており、基板11に適用される加圧流体Gは予め加熱されている。
スリット25をヒータとして用いるために、スリット25に電熱線を設置してもよく、スリット25の内部に温水通路等を設けてもよい。
このようなヒータ兼用のスリット25では、加圧流体Gを加熱するだけでなく、スリット25からの輻射熱により基板11の裏面側を加熱するものとしてもよい。
なお、他の実施形態として、スリット25とは別個に加圧流体Gを加熱するヒータまたは基板11を加熱するヒータを設けてもよい。例えば、加圧流体供給手段24Aにヒータを設けて加圧流体Gを加熱したうえでパイプ24へと供給してもよく、加圧流体供給手段24Aからのパイプ24の途中にヒータを設けてもよい。
【0023】
加圧保持室21のスリット25よりも開口22に近い側には、圧力計26が設置され、開口22に適用される加圧流体Gの圧力を監視することができる。前述した加圧流体供給手段24Aからの加圧流体Gの供給は、圧力計26で検出される圧力に基づいて制御される。
なお、加圧流体供給手段24Aからの加圧流体Gは、本実施形態では圧縮空気である。
【0024】
開口22の外側周辺には、基板11を所定位置に固定するためのクランプ27が設置されている。このクランプ27により、基板11は、薄膜12を塗布すべき中間部分が開口22に対応した位置に維持され、開口22を通して裏面側に加圧流体Gが適用され、加圧される。
開口22の上方には、開口22に沿って移動可能な塗布装置28が設置されている。塗布装置28は、本実施形態ではノズルを用いたスプレー式であり、ノズルから基板11の表面に向けて薄膜12となるべき二酸化チタン多孔質半導体のスラリーSがスプレー塗布される。
この際、塗布装置28のスプレーノズルは複数設置してもよい。複数設置することで、塗布速度の向上、複数種のスラリーの同時塗布等が可能になる。
なお、塗布装置28としては、他の機構例えばダイコート式、ロールコート式、スキージ式、スクリン印刷式等の塗布を行うものを採用してもよい。
【0025】
このような本実施形態においては、次のような手順で多孔質半導体電極13を製造する。
先ず、基板11を加圧保持室21の上面に載置し、開口22を覆うようにしたうえでクランプ27により固定する。
また、加圧流体供給手段24Aから加圧保持室21内へと加圧流体Gを供給し、この加圧流体Gをスリット25で整圧しつつ加熱し、開口22を覆う基板11の裏面側に適用する。
図2に示すように、基板11は、金属材料の粒子11Aを焼結などにより板状に成形した多孔質の導電性自立基板であり、粒子11Aの間には基板11の表裏を貫通する細孔11Bとされている。
このため、基板11の裏面側に適用された加圧流体Gは、基板11の細孔11Bを通って基板11の表面側に抜け、大気へと発散される(
図2の右側部分参照)。
【0026】
次に、基板11の上方に塗布装置28を配置し、塗布装置28を移動させながら、基板11の表面に向けて薄膜12となるべき二酸化チタン多孔質半導体12AのスラリーSをスプレー塗布する(
図2の左側部分参照)。
なお、本実施形態において、スプレーの拡散面積に対して基板11の寸法が小さい場合や、基板11に対してスポット的に塗布する場合は、塗布装置28を移動させなくてもよい。
スプレー塗布されたスラリーSは、基板11を構成する金属材料の粒子11Aの表面側に積層される。この際、スラリーSの一部は細孔11B内に侵入しようとするが、細孔11Bには裏面側から表面側へ抜ける加圧流体Gが流れている。従って、スラリーSが細孔11B内に侵入することが防止される。
さらに、加圧流体Gが加熱されているため、基板11の表面に塗布されたスラリーSは急速に乾燥し、二酸化チタン多孔質半導体12Aの薄膜12が形成される。
【0027】
図3に示すように、前述のようにして基板11の表面にスラリーSを塗布してゆくことで、基板11の表面に二酸化チタン多孔質半導体12Aの薄膜12が形成された多孔質半導体電極13が得られる。
この際、スラリーSの塗布にあたって、加圧流体GによってスラリーSの細孔11Bへの侵入が防止され、その結果、二酸化チタン多孔質半導体12Aの薄膜12は厚さTでの安定した膜厚を得ることができる。
また、加圧流体Gによる加熱乾燥が行われるため、塗布されたスラリーSは急速に定着され、この点でも細孔11Bへの侵入が防止されるとともに、別途の乾燥工程が必要なくなる。
【0028】
〔第2実施形態〕
図4には、本発明の第2実施形態が示されている。
本実施形態も、前記第1実施形態と同様に、基板11の表面に薄膜12を形成して多孔質半導体電極13を製造するものであり、基板11としてチタン焼結体による多孔質半導体基板を用い、薄膜12として二酸化チタン多孔質半導体の塗膜を形成する。
但し、前記第1実施形態では、基板11を固定した状態でスラリーSを塗布する製造装置20を用いたが、本実施形態では、基板11を移動させつつ連続的にスラリーSを塗布する製造装置20Aを用いる。
【0029】
製造装置20Aは、基板11を搬送する搬送装置29Aを有する。搬送装置29Aは、基板11を載置しつつ回転するローラ29を配列したローラコンベアとすることができる。他の実施形態では、ベルトコンベアなど他の機構による搬送装置を用いてもよい。
搬送装置29Aの途中には、搬送装置29Aで搬送される基板11の裏面側に接触する加圧保持室21Aが設置されている。加圧保持室21Aは内部が空洞とされた筐体であり、その上面側には開口22Aが形成されている。開口22Aの周囲は、搬送装置29Aで搬送される基板11の裏面側に密着するが互いに摺動可能である。なお、開口22Aの周囲と基板11の裏面側との間は、必ずしも気密状態である必要はなく、後述する加圧流体Gが少々漏れ出す状態でも利用可能である。
【0030】
加圧保持室21Aは、側面に接続されたパイプ24を介して加圧流体供給手段24Aに接続されているとともに、圧力計26が設置されている。
加圧流体供給手段24Aは、前述した第1実施形態と同様なものであり、かつ加熱手段を有し、この加圧流体供給手段24Aから加圧保持室21Aへと加熱された加圧流体Gが供給される。
圧力計26も、前述した第1実施形態と同様なものであり、加圧流体供給手段24Aからの加圧流体Gの供給は、圧力計26で検出される圧力に基づいて制御される。
【0031】
加圧保持室21Aの上方には、基板11の表面に向けて薄膜12となるべき二酸化チタン多孔質半導体12AのスラリーSをスプレー塗布する塗布装置28が設置されている。
塗布装置28は、前述した第1実施形態と同様なものである。
ここで、塗布装置28からスプレー塗布されたスラリーSが基板11の表面に拡がる領域A1は、加圧保持室21Aの開口22Aの領域A2よりも小さく設定され、基板11に塗布されたスラリーSは必ず開口22Aの範囲内に塗布されるように設定されている。
なお、本実施形態において、基板11を間欠的に搬送させる事で、塗布装置28として他の機構、例えばダイコート式、ロールコート式、スキージ式、スクリン印刷式等の塗布を行うものを採用してもよい。
【0032】
このような本実施形態においては、次のような手順で多孔質半導体電極13を製造する。
先ず、基板11を搬送装置29Aのローラ29上に載置し、
図4の右手側から左向きに搬送する。
基板11の先端(
図4の左側の端部)が加圧保持室21Aに到達し、基板11で開口22Aが覆われたら、加圧流体供給手段24Aから加圧保持室21A内へと加圧流体Gを供給し、この加圧流体Gを基板11の裏面側に適用する。
この状態で、塗布装置28からスラリーSをスプレーし、基板11の表面側に塗布する。塗布装置28は、加圧保持室21Aに対向配置されており、スラリーSが基板11の表面側に塗布される領域A1は、基板11の裏面側において加圧保持室21Aからの加圧流体Gが適用される領域A2の内側にある。
【0033】
従って、本実施形態においても、前述した第1実施形態と同様に、基板11の裏面側に適用された加圧流体Gが、基板11の半導体材料の粒子11Aの間の細孔11Bを通って基板11の表面側に抜け、大気へと発散される(
図2の右側部分参照)。
このため、塗布装置28により基板11の表面側にスラリーSをスプレー塗布した際には、スラリーSの一部が細孔11B内に侵入しようとしても、加圧流体GによりスラリーSの侵入が防止される(
図2の左側部分参照)。
さらに、加圧流体Gが加熱されているため、基板11の表面に塗布されたスラリーSは急速に乾燥し、二酸化チタン多孔質半導体12Aの薄膜12が形成される(
図3参照)。
【0034】
図4に戻って、前述のようにして、搬送装置29Aで搬送される基板11は、加圧保持室21Aと塗布装置28との間で表面側に薄膜12を形成され、多孔質半導体電極13として送り出される。
本実施形態において、基板11の寸法が大きい場合は、塗布装置28のスプレーノズルを複数設置し、広い領域をカバーするようにしてもよい。さらに、塗布装置28において、スプレーノズルは、基板11の移動方向に対して垂直に移動させてもよく、各ノズルからのスプレー範囲の変更等に利用することができる。
【0035】
前述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様、安定した膜厚の薄膜12を得ることができるとともに、加圧流体Gによる加熱乾燥が行われるため、塗布されたスラリーSは急速に定着させることができる。
さらに、搬送装置29Aで基板11を搬送しつつ加圧保持室21Aと塗布装置28との間で薄膜12を形成することで、長尺の多孔質半導体電極13を連続的に製造することができる。
このため、連続した長尺の基板11を用いて多孔質半導体電極13を連続製造することもできる。あるいは、連続した長尺の保持シートに複数の基板11を保持した状態で、搬送装置29Aを送ることで、短尺の基板11を用いた複数の多孔質半導体電極13を連続して製造することもできる。
【0036】
〔変形例〕
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれるものである。
例えば、加圧流体Gを加熱しておくことは必須ではなく、製造装置20,20Aにおいて他の手段で薄膜12の加熱乾燥を行ってもよく、さらに加熱すること自体も必須ではない。
前述した実施形態に拘わらず、基板11および薄膜12に用いる材料は適宜選択すればよく、加圧流体Gも空気に限らず、窒素ガスその他の不活性ガス等を用いてもよい。
塗布装置28および搬送装置29Aの機構は、前述した実施形態に拘わらず、同様の機能が得られる他の機構を用いてもよい。
【0037】
以上に説明した第1実施形態および第2実施形態に係る多孔質半導体電極は、表裏を貫通する細孔を有する多孔質金属製の基板11と、基板11の裏面側に接触させた加圧流体により細孔11B内の圧力を基板11の表面側雰囲気より高めた状態で基板11の表面に塗布された多孔質半導体製の薄膜12と、を有することから、薄膜12となる多孔質半導体が細孔11B内に侵入することが抑制される。この抑制の度合いは、スラリーSの塗布条件、加熱乾燥条件等により制御することができる。そして、これらの調整は、実施にあたって適宜選択できるものである。