特許第5930971号(P5930971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5930971
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】表面改質された押出成形フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/16 20060101AFI20160526BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160526BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20160526BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20160526BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160526BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C08L33/16
   C08J5/18CEY
   C08F220/22
   C08F220/20
   C08L101/00
   C08F4/04
【請求項の数】28
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-546934(P2012-546934)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077805
(87)【国際公開番号】WO2012074055
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-268817(P2010-268817)
(32)【優先日】2010年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】原口 将幸
(72)【発明者】
【氏名】松山 元信
(72)【発明者】
【氏名】上杉 理
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−228633(JP,A)
【文献】 特開2003−335956(JP,A)
【文献】 特許第4009700(JP,B2)
【文献】 国際公開第2009/151071(WO,A1)
【文献】 特開2010−275491(JP,A)
【文献】 特許第5749246(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00 − 33/26
C08F 220/00 − 220/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することによって得られる表面改質された押出成形フィルムであって、
前記モノマーAのモル数に対して5〜300モル%の量の前記モノマーBを用いる、押出成形フィルム
【請求項2】
前記モノマーAがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、請求項1に記載の押出成形フィルム。
【請求項3】
前記モノマーAがジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、請求項2に記載の押出成形フィルム。
【請求項4】
前記モノマーAがエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、請求項3に記載の押出成形フィルム。
【請求項5】
前記モノマーBがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、請求項1乃至請求項4のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項6】
前記モノマーBが下記式[1]で表される化合物である、請求項1乃至請求項5のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素原子数2〜12のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項7】
前記モノマーBが下記式[2]で表される化合物である、請求項に記載の押出成形フィルム。
【化2】
(式中、R1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、Xは水素原子又はフッ素原
子を表し、mは1又は2を表し、nは0〜5の整数を表す。)
【請求項8】
前記重合開始剤Cがアゾ系重合開始剤である、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項9】
前記重合開始剤Cが2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルである、請求項に記載の押出成形フィルム。
【請求項10】
前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有量が、前記(b)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01乃至20質量部である、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項11】
前記(b)熱可塑性樹脂がポリメチルメタクリレートである、請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項12】
フィルムの内部に比べて、該フィルムの表面部において前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有割合がより高いことを特徴とする、請求項1乃至請求項11のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項13】
フィルムの厚さが0.01〜2.0mmである、請求項1乃至請求項12のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項14】
(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することによって得られる表面改質された押出成形フィルムであって、
前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有量が、前記(b)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01乃至20質量部である、押出成形フィルム
【請求項15】
前記モノマーAがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、請求項14に記載の押出成形フィルム。
【請求項16】
前記モノマーAがジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、請求項15に記載の押出成形フィルム。
【請求項17】
前記モノマーAがエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、請求項16に記載の押出成形フィルム。
【請求項18】
前記モノマーAのモル数に対して5〜300モル%の量の前記モノマーBを用いて得られる、請求項14乃至請求項17のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項19】
前記モノマーBがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、請求項14乃至請求項18のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項20】
前記モノマーBが下記式[1]で表される化合物である、請求項14乃至請求項19のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【化3】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素原子数2〜12のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項21】
前記モノマーBが下記式[2]で表される化合物である、請求項20に記載の押出成形フィルム。
【化4】
(式中、R1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、Xは水素原子又はフッ素原
子を表し、mは1又は2を表し、nは0〜5の整数を表す。)
【請求項22】
前記重合開始剤Cがアゾ系重合開始剤である、請求項14乃至請求項21のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項23】
前記重合開始剤Cが2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルである、請求項22に記載の押出成形フィルム。
【請求項24】
前記(b)熱可塑性樹脂がポリメチルメタクリレートである、請求項14乃至請求項23のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項25】
フィルムの内部に比べて、該フィルムの表面部において前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有割合がより高いことを特徴とする、請求項14乃至請求項24のうち何れか一項
に記載の押出成形フィルム。
【請求項26】
フィルムの厚さが0.01〜2.0mmである、請求項14乃至請求項25のうち何れか一項に記載の押出成形フィルム。
【請求項27】
(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、該モノマーAのモル数に対して5〜300モル%の量の、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することを特徴とする、表面改質された押出成形フィルムの製造方法。
【請求項28】
(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形し、且つ前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有量が、前記(b)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01乃至20質量部であることを特徴とする、表面改質された押出成形フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキル基含有高分岐ポリマーを添加した樹脂組成物を押出成形することで得られる、表面改質された押出成形フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー(高分子)材料は、近年、多分野でますます利用されている。それに伴い、それぞれの分野に応じて、マトリクスとしてのポリマーの性状とともに、その表面や界面の特性が重要となっている。例えば、表面エネルギーの低いフッ素系化合物を表面改質剤として用いることにより、撥水・撥油性、防汚性、非粘着性、剥離性、離型性、滑り性、耐磨耗性、反射防止特性、耐薬品性などの表面・界面制御に関する特性の向上が期待され、種々提案されている。
【0003】
押出成形により成形されたフィルム・シートをフッ素系ポリマーで表面処理する方法として、アクリル樹脂とポリフッ化ビニリデンの共押出成形により、表面がフッ素系ポリマーで処理されたシートを得る方法(特許文献1)、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、溶剤に溶解したフッ素系ポリマーを塗布する方法(特許文献2)が知られている。このようにして得られたフィルムは、屋内・屋外用の粘着シートの基材、被覆用シート、プリント配線板の離型フィルムなどに用いられる。
また、ポリカーボネートに表面エネルギーの低いフルオロアルキル基を含有するポリカーボネートオリゴマーを少量添加し、押出成形することにより、表面改質されたポリカーボネートフィルムを得る方法が開示されている(特許文献3)。しかし、この方法では、ポリカーボネートフィルムの表面近傍への含フッ素オリゴマーの局在化の割合が低く、未だ十分な表面改質が得られにくい。しかも、この文献は、ポリカーボネートフィルムの表面改質のためにフルオロアルキル基を含有するポリカーボネートオリゴマーの配合を提案するにとどまる。
一方、ポリマーの表面改質方法の一つとして、線状ポリマーからなるマトリクスポリマーに分岐ポリマーを添加し、該分岐ポリマーを該マトリクスポリマー表面に濃縮させる方法が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−329255号公報
【特許文献2】特開2008−162222号公報
【特許文献3】特表2007−514710号公報
【特許文献4】国際公開第2007/049608号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、押出成形フィルムにおける種々の表面改質方法が提案されているが、特許文献1及び特許文献2に示す手法では、共押出成形や表面改質剤の塗布が必要であることから、工程が煩雑となり工業的に不利であった。また、特許文献3に示す手法では、簡便な工程で押出成形フィルムを表面改質できるものの、その透明性付与において、付与される透明度の程度について具体的には開示されていない。
すなわち、撥水・撥油性に優れ、さらに透明性を有し、しかも簡便に製造できる表面改質された押出成形フィルムが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することによって得られる押出成形フィルムが、撥水・撥油性に優れ、透明性を有し、さらに簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、第1観点として、(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することによって得られる表面改質された押出成形フィルムに関する。
第2観点として、前記モノマーAがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、第1観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第3観点として、前記モノマーAがジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、第2観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第4観点として、前記モノマーAがエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、第3観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第5観点として、前記モノマーAのモル数に対して5〜300モル%の量の前記モノマーBを用いて得られる、第1観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第6観点として、前記モノマーBがビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、第5観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第7観点として、前記モノマーBが下記式[1]で表される化合物である、第6観点に記載の押出成形フィルムに関する。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素原子数2〜12のフルオロアルキル基を表す。)
第8観点として、前記モノマーBが下記式[2]で表される化合物である、第7観点に記載の押出成形フィルムに関する。
【化2】
(式中、R1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、Xは水素原子又はフッ素原子を表し、mは1又は2を表し、nは0〜5の整数を表す。)
第9観点として、前記重合開始剤Cがアゾ系重合開始剤である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の押出成形フィルムに関する。
第10観点として、前記重合開始剤Cが2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチルである、第9観点に記載の押出成形フィルムに関する。
第11観点として、前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有量が、前記(b)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01乃至20質量部である、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の押出成形フィルムに関する。
第12観点として、前記(b)熱可塑性樹脂がポリメチルメタクリレートである、第1観点乃至第11観点のうち何れか一項に記載の押出成形フィルムに関する。
第13観点として、フィルムの内部に比べて、該フィルムの表面部において前記(a)含フッ素高分岐ポリマーの含有割合がより高いことを特徴とする、第1観点乃至第12観点のうち何れか一項に記載の押出成形フィルムに関する。
第14観点として、フィルムの厚さが0.01〜2.0mmである、第1観点乃至第13観点のうち何れか一項に記載の押出成形フィルムに関する。
第15観点として、(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することを特徴とする、表面改質された押出成形フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
含フッ素高分岐ポリマーは、積極的に枝分かれ構造を導入しているため、線状高分子と比較して分子間の絡み合いが少なく、微粒子的挙動を示し樹脂に対する分散性が高い。このため、マトリクスである樹脂中において、含フッ素高分岐ポリマーの凝集を防ぎ、さらに、表面に移動しやすく、樹脂表面に活性を付与しやすい。従って、炭素鎖が短いフルオロアルキル基を使用した場合でも、高い効果で表面改質を行うことができる。すなわち、含フッ素高分岐ポリマーを樹脂組成物に添加することで、該樹脂組成物の押出成形フィルムに撥水・撥油性及び透明性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】合成例1で合成された高分岐ポリマー1の1H NMRスペクトルを示す図である。
図2】合成例1で合成された高分岐ポリマー1の13C NMRスペクトルを示す図である。
図3】合成例2で合成された高分岐ポリマー2の1H NMRスペクトルを示す図である。
図4】合成例2で合成された高分岐ポリマー2の13C NMRスペクトルを示す図である。
図5】合成例3で合成された直鎖状ポリマー1の1H NMRスペクトルを示す図である。
図6】合成例3で合成された直鎖状ポリマー1の13C NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の押出成形フィルムは、(a)分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマー、及び(b)熱可塑性樹脂、を含む樹脂組成物を押出成形することによって得られる。
【0010】
[(a)含フッ素高分岐ポリマー]
上記(a)含フッ素高分岐ポリマーは、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られるポリマーである。また(a)含フッ素高分岐ポリマーは、いわゆる開始剤断片組込み型含フッ素高分岐ポリマーであり、その末端に重合に使用した重合開始剤Cの断片を有している。
【0011】
<モノマーA>
モノマーAは、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーであり、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有することが好ましく、特にジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
なお、本発明では(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0012】
前記モノマーAとしては、例えば、以下の(A1)〜(A7)に示す有機化合物が挙げられる。
(A1)ビニル系炭化水素:
(A1−1)脂肪族ビニル系炭化水素;イソプレン、ブタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等
(A1−2)脂環式ビニル系炭化水素;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン等
(A1−3)芳香族ビニル系炭化水素;ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフルオレン、ジビニルカルバゾール、ジビニルピリジン等
(A2)ビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルケトン:
(A2−1)ビニルエステル;アジピン酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、イソフタル酸ジビニル、イタコン酸ジビニル、ビニル(メタ)アクリレート等
(A2−2)アリルエステル;マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、アリル(メタ)アクリレート等
(A2−3)ビニルエーテル;ジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等
(A2−4)アリルエーテル;ジアリルエーテル、ジアリルオキシエタン、トリアリルオキシエタン、テトラアリルオキシエタン、テトラアリルオキシプロパン、テトラアリルオキシブタン、テトラメタリルオキシエタン等
(A2−5)ビニルケトン;ジビニルケトン、ジアリルケトン等
(A3)(メタ)アクリル酸エステル:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシチタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイルオキシ−3−メタクリロイルオキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ウンデシレノキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[2−(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート等
(A4)ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物:
ポリエチレングリコール(分子量300)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)ジ(メタ)アクリレート等
(A5)含窒素ビニル系化合物:
ジアリルアミン、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルシアヌレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスマレイミド等
(A6)含ケイ素ビニル系化合物:
ジメチルジビニルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザン、ジエトキジビニルシラン等
(A7)含フッ素ビニル系化合物:
1,4−ジビニルパーフルオロブタン、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン、1,8−ジビニルパーフルオロオクタン等。
【0013】
これらのうち好ましいものは、上記(A1−3)群の芳香族ビニル系炭化水素、(A2)群のビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル及びビニルケトン、(A3)群の(メタ)アクリル酸エステル、(A4)群のポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物、並びに(A5)群の含窒素ビニル系化合物である。
より好ましいのは、(A1−3)群に属するジビニルベンゼン、(A2−2)群に属するフタル酸ジアリル、(A3)群に属するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート並びに(A5)群に属するメチレンビス(メタ)アクリルアミドである。
これらの中でもジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましく、特にエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0014】
<モノマーB>
前記モノマーBは、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーであって、好ましくはビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有することが好ましく、特に下記式[1]又は式[2]で表される化合物が好ましい。
【化3】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素原子数2〜12のフルオロアルキル基を表す。)
【化4】
(式中、R1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、Xは水素原子又はフッ素原子を表し、mは1又は2を表し、nは0〜5の整数を表す。)
【0015】
前記モノマーBとしては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
本発明において、前記モノマーAと前記モノマーBを共重合させる割合は、反応性や表面改質効果の観点から、好ましくは前記モノマーAのモル数に対して前記モノマーB 5〜300モル%、より好ましくは10〜150モル%であり、さらに好ましくは20〜100モル%である。
【0017】
<重合開始剤C>
前記重合開始剤Cとしては、好ましくはアゾ系重合開始剤が用いられる。アゾ系重合開始剤としては、例えば、以下の(1)〜(6)に示す化合物を挙げられる。
(1)アゾニトリル化合物:
2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等;
(2)アゾアミド化合物:
2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等;
(3)環状アゾアミジン化合物:
2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2'−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等;
(4)アゾアミジン化合物:
2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート等;
(5)その他:
2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸);
(6)フルオロアルキル基含有アゾ系重合開始剤:
4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸2−(パーフルオロメチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸2−(パーフルオロブチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸2−(パーフルオロヘキシル)エチル)等。
【0018】
前記アゾ系重合開始剤の中でも、得られる含フッ素高分岐ポリマーの表面エネルギーの観点から、極性の比較的低い置換基を有するものが望ましく、特に2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル又は2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が好ましい。
【0019】
前記重合開始剤Cは、前記モノマーAのモル数に対して、5〜200モル%の量で使用され、好ましくは15〜200モル%、より好ましくは15〜170モル%、最も好ましくは20〜100モル%の量で使用される。
【0020】
<含フッ素高分岐ポリマーの製造方法>
前記含フッ素高分岐ポリマーは、上記モノマーAと上記モノマーBとを、該モノマーA対して所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させることで得られ、該重合方法としては公知の方法、例えば、溶液重合、分散重合、沈殿重合、及び塊状重合等が挙げられ、なかでも溶液重合又は沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から、有機溶媒中での溶液重合によって反応を実施することが好ましい。
このとき用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒、並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系又はエステルエーテル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等であり、特に好ましいものはトルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等である。
【0021】
上記重合反応を有機溶媒の存在下で行う場合、重合反応物全体における有機溶媒の含量は、上記モノマーAの1質量部に対し、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは5〜50質量部である。
重合反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常圧下で行うのが好ましい。また、N2等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
重合反応の温度は、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは70〜150℃である。
より好ましくは、重合反応の温度は上記重合開始剤Cの10時間半減期温度より20℃以上高い温度で実施され、より具体的には、上記モノマーA、上記モノマーB、上記重合開始剤C及び有機溶媒を含む溶液を、該重合開始剤Cの10時間半減期温度より20℃以上高い温度に保たれた該有機溶媒中へ滴下することにより、重合反応を行うことが好ましい。
また、さらにより好ましくは反応圧力下での前記有機溶媒の還流温度で重合反応を実施することが好ましい。
重合反応の終了後、得られた含フッ素高分岐ポリマーを任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行う。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。
【0022】
得られた含フッ素高分岐ポリマーの重量平均分子量(以下、Mwと略記)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で好ましくは1,000〜200,000、さらに好ましくは2,000〜100,000、最も好ましくは5,000〜60,000である。
【0023】
[熱可塑性樹脂]
前記熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)などのポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などのポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等が挙げられる。
なかでもポリメチルメタクリレート樹脂又はポリ乳酸樹脂が好ましい。
【0024】
[樹脂組成物]
前記樹脂組成物において、前記(b)熱可塑性樹脂100質量部に対して(a)含フッ素高分岐ポリマーの配合量は、好ましくは0.01〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜20質量部であり、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。
【0025】
前記樹脂組成物には、熱可塑性樹脂と共に一般に添加される添加剤、例えば、帯電防止剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光剤、加工助剤、架橋剤、分散剤、発泡剤、難燃剤、消泡剤、補強剤、顔料などを併用してもよい。
【0026】
[押出成形フィルム]
本発明の押出成形フィルムは、上記(a)含フッ素高分岐ポリマー及び(b)熱可塑性樹脂を配合して溶融混練し、場合によってはその他の所望の成分も配合して溶融混練し、そして公知の押出成形法により得ることができる。
【0027】
前記押出成形フィルムの厚さは特に限定されないが、通常0.01〜2.0mm、好ましくは0.01〜1.5mmであり、より好ましくは0.01〜1.0mmである。
【0028】
本発明の押出成形フィルムは、前述の通り、フィルムの内部(深部)に比べて、フィルムの表面(界面)部に上記含フッ素高分岐ポリマーが多く存在した状態にある。このため、本発明の押出成形フィルムは、フィルム等の他の樹脂フィルムに対する剥離性、さらには撥水・撥油性及び透明性に優れたフィルムとなる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0030】
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:Shodex(登録商標) KF−804L、KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(2)1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトル
装置:日本電子データム(株)製 JNM−ECA700
溶媒:CDCl3
内部標準:テトラメチルシラン
(3)イオンクロマトグラフィー(F定量分析)
装置:日本ダイオネクス(株)製 ICS−1500
溶媒:(2.7mmol Na2CO3 + 0.3mmol NaHCO3)/L水溶液
検出器:電気伝導度
(4)スピンコーター
装置:ミカサ(株)製 MS−A100
(5)エリプソメトリー(屈折率及び膜厚測定)
装置:J.A.Woollam社製 EC−400
(6)接触角測定
装置:AST Products社製 VCA Optima
測定温度:20℃
(7)ガラス転移温度(Tg)測定
装置:PerkinElmer社製 Diamond DSC
測定条件:窒素雰囲気下
昇温速度:5℃/分(25〜160℃)
(8)5%重量減少時温度(Td5%)測定
装置:(株)リガク製 TG8120
測定条件:空気雰囲気下
昇温速度:10℃/分(25〜500℃)
(9)簡易混練機
装置:(株)東洋精機製作所製 ラボプラストミル
(10)二軸混練押出機
装置:(株)テクノベル製 KZW−15TW(L/D=45)
(11)ヘイズメーター(濁度測定)
装置:日本電色工業(株)製 NDH5000
【0031】
また、略記号は以下の意味を表す。
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート[新中村化学工業(株)製 1G]
C6FA:2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート[ユニマテック(株)製 FAAC−6]
MAIB:2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル[大塚化学(株)製 MAIB]
MMA:メチルメタクリレート[和光純薬工業(株)製]
PMMA:ポリメチルメタクリレート[クラレ(株)製 パラペットG(MFR=8.0g/10分)]
THF:テトラヒドロフラン
MEK:メチルエチルケトン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0032】
[合成例1]高分岐ポリマー1の合成
200mLの反応フラスコに、トルエン32gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込み、内液が還流するまで(およそ温度110℃)加熱した。
別の100mLの反応フラスコに、EGDMA 4.0g(20mmol)、C6FA 4.2g(10mmol)、MAIB 2.3g(10mmol)及びトルエン32gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込むことにより窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却を行った。
前述の200mLの反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、EGDMA、C6FA及びMAIBが仕込まれた前記100mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、1時間熟成させた。
次に、この反応液をヘキサン/トルエン(質量比4:1)277gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、THF 36gを用いて再溶解し、このポリマーのTHF溶液をヘキサン277gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー1)4.9gを得た(収率48%)。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルを図1及び図2に示す。また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は2.2であった。
【0033】
[合成例2]高分岐ポリマー2の合成
200mLの反応フラスコに、トルエン44gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込み、内液が還流するまで(およそ温度110℃)加熱した。
別の100mLの反応フラスコに、EGDMA 4.0g(20mmol)、C6FA 4.2g(10mmol)、MAIB 2.8g(12mmol)及びトルエン44gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込むことにより窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却を行った。
前述の200mLの反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、EGDMA、C6FA及びMAIBが仕込まれた前記100mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、1時間熟成させた。
次に、この反応液からロータリーエバポレーターを用いてトルエン75gを留去後、ヘキサン278gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー2)4.4gを得た(収率43%)。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルを図3及び図4に示す。また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは6,800、分散度:Mw/Mnは1.9であった。
【0034】
[合成例3]直鎖状ポリマー1の合成
100mLの反応フラスコに、MMA 8.0g(80mmol)、C6FA 8.4g(20mmol)、MAIB 0.92g(4mmol)及びMEK 27gを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込むことにより窒素置換を行った後、液温80℃で7時間撹拌した。
次に、この反応液をヘキサン662gに添加してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした。残った沈殿物を、THF 54gを用いて再溶解し、このポリマーのTHF溶液をヘキサン662gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(直鎖状ポリマー1)6.6gを得た(収率40%)。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルを図5及び図6に示す。また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは21,000、分散度:Mw/Mnは2.0であった。
【0035】
合成例1〜3で得られた高分岐ポリマー1及び2並びに直鎖状ポリマー1の重量平均分子量Mw、分散度:Mw/Mn、13C NMRからのフッ素モノマー導入量、フッ素定量分析からのフッ素原子含有量を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
[参考例1]各ポリマーの物性評価
合成例1〜3で得られた高分岐ポリマー1及び2並びに直鎖状ポリマー1の各0.25gを、表2に記載の溶媒4.75gに溶解させてフィルタろ過を行い、各高分岐ポリマー溶液又は直鎖状ポリマー溶液を調製した。この高分岐ポリマー溶液又は直鎖状ポリマー溶液をシリコンウェハー上にスピンコーティング(slope5秒間、次いで2,000rpm30秒間、さらにslope5秒間)し、100℃にて30分間の熱処理を行うことにより溶媒を蒸発させて、成膜した。
得られた薄膜の波長633nmにおける屈折率、並びに水及びジヨードメタンの接触角の評価を行った。また接触角の結果から表面エネルギーを算出した。さらに、各高分岐ポリマー粉末又は直鎖状ポリマー粉末のガラス転移温度(Tg)及び5%重量減少温度(Td5%)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
[実施例1]高分岐ポリマー添加PMMAマスターバッチの作製
高分岐ポリマー1又は高分岐ポリマー2 10gと、PMMA40gとを、簡易混練機を用いて温度230℃、回転数50rpmで5分間混練し、高分岐ポリマー濃度20質量%のPMMAマスターバッチを作製した。
【0040】
[実施例2〜19]高分岐ポリマー添加PMMA押出成形フィルムの作製
二軸混練押出機に、高分岐ポリマー含有PMMA中の高分岐ポリマー濃度が表3に示す濃度になるように、実施例1で作製したマスターバッチ及びPMMAを投入し、スクリュー回転数100rpm、吐出量2g/分、ダイ幅20mm、ダイリップ間隔0.8mm、及びそれぞれ表3に示す条件で押出成形フィルムを作製した。
得られたフィルムの水及びヘキサデカンの接触角の評価を行った。得られた結果を、表3に合わせて示す。
【0041】
[比較例1]直鎖状ポリマー添加PMMAマスターバッチの作製
実施例1と同様にして、直鎖状ポリマー濃度20質量%のPMMAマスターバッチを作製した。
【0042】
[比較例2〜6]直鎖状ポリマー添加PMMA押出成形フィルムの作製
高分岐ポリマーに替えて直鎖状ポリマーを使用した以外は実施例2と同様に操作し、押出成形フィルムを作製した。
得られたフィルムの水及びヘキサデカンの接触角の評価を行った。得られた結果を、表3に合わせて示す。
【0043】
[比較例7]PMMA押出成形フィルムの作製
高分岐ポリマーを添加しなかった以外は実施例2と同様に操作し、押出成形フィルムを作製した。
得られたフィルムの水及びヘキサデカンの接触角の評価を行った。得られた結果を、表3に合わせて示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3に示す通り、高分岐ポリマーを添加したPMMAフィルム(実施例2〜19)は、水の接触角が81.5〜101.9度、ヘキサデカンの接触角が35.2〜57.0度といずれも高い接触角を示した。この結果から、PMMA押出成形フィルムに高分岐ポリマーを添加することで、PMMA押出成形フィルムに撥液性が付与されたことが明らかとなった。
【0046】
[PMMA押出成形フィルムの透明性評価]
実施例2,9,11,13,15〜18、及び比較例2〜5,7で作製した各押出成形フィルムの濁度(haze値)を測定し、以下の基準により透明性を評価した。得られた結果を表4に示す。
[濁度の評価基準]
○: haze値<10
△:10≦haze値<50
×:50≦haze値
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示す通り、直鎖状ポリマー添加PMMA押出成形フィルム(比較例2〜5)は、透明性が低かった。これに対し、高分岐ポリマー添加PMMA押出成形フィルム(実施例13〜18)は、透明性が優れていた。この結果から、PMMA押出成形フィルムに高分岐ポリマーを添加しても、PMMA押出成形フィルム本来の透明性が損なわれないことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6