(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931022
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】DNA結合ドメインを含むポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20160526BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20160526BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20160526BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20160526BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
C12N15/00 AZCC
C40B40/08ZNA
C07K19/00
C07K14/195
C12N9/22
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-166768(P2013-166768)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-33365(P2015-33365A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2015年7月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.第46回日本発生生物学会の予稿集が公開されたウェブサイトアドレス http://www.jsdb.jp/kaisai/jsdb2013/authparticipator.php?id=TW01−4&sk− 掲載日:平成25年5月15日 2.第46回日本発生生物学会 開催日:平成25年5月28日〜31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100140497
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 信宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】落合 博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 伸也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 達雄
【審査官】
濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−529083(JP,A)
【文献】
特開2013−94148(JP,A)
【文献】
Tetsushi Sakuma et al.,Advanced methods for the construction, evaluation and application of TALENs,Joint Meeting of The 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & The 6,2012年 4月27日,p. 303, JYSS2-22(P1-128)
【文献】
Tetsushi Sakuma and Takashi Yamamoto,Platinum Gate TALEN: Establishment of highly-active TALEN construction system,第46回日本発生生物学会予稿集,2013年 5月15日,TW01-4,URL,tt
【文献】
Satoshi Ota et al.,Efficient identification of TALEN-mediated genome modifications using heteroduplex mobility assays,Genes to Cells,2013年 6月,Vol. 18, No. 6,p. 450-458
【文献】
Jeffrey C Miller et al.,A TALE nuclease architecture for efficient genome editing,Nature Biotechnology,2011年,Vol. 29,p. 143-148
【文献】
Thomas Gaj et al.,ZFN, TALEN, and CRISPR/Cas-based methods for genome engineering,Trends in Biotechnology,2013年 7月,Vol. 31, No. 7,p. 397-405
【文献】
Tomas Cermak et al.,Efficient design and assembly of custom TALEN and other TAL effector-based constructs for DNA target,Nucleic Acids Research,2011年,Vol. 39, No. 12,e82
【文献】
Tetsushi Sakuma et al.,Repeating pattern of non-RVD variations in DNA-binding modules enhances TALEN activity,Scientific Reports,2013年11月29日,Vol. 3,Article number: 3379
【文献】
Jens Boch and Ulla Bonas,Xanthomonas AvrBs3 Family-Type III Effectors: Discovery and Function,Annual Review of Phytopathology,2010年,Vol. 48,p. 419-436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/00
C07K 19/00
C12N 9/00
C40B 40/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA結合ドメインおよびDNA切断ドメインを含むTALENポリペプチドであって、
ここで、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインは、40〜50のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、34のアミノ酸からなる16〜20のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1〜5の自然数である、ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のTALENポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターであって、DNA結合ドメインのN末端側に隣接する領域(TALEN−N’)のアミノ酸数が153であり、DNA結合ドメインのC末端側とDNA切断ドメインに挟まれた領域(TALEN−C’)のアミノ酸数が47である、ベクター。
【請求項3】
請求項2に記載のベクターを作製するためのベクターライブラリーであって、
ここで、ベクターライブラリーは、5’末端から順に、第1の制限酵素切断部位、4つのDNA結合モジュールをコードするポリヌクレオチド、および第2の制限酵素切断部位を有する複数のベクターによって構成され、
ここで、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せは、A型の制限酵素切断部位およびB型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せ、B型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、C型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、ならびにD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せのいずれかであり、ここで、A型の制限酵素切断部位〜E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、いずれも、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、
4つのDNA結合モジュールのうち、
5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、および5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なる、ベクターライブラリー。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターライブラリーを作製するためのベクターセットであって、
ここで、ベクターセットは、5’末端から順に、1番目の制限酵素切断部位、DNA結合モジュール、および2番目の制限酵素切断部位を含む複数のベクターを含み、
1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、
ここで、1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、請求項3に記載のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位を切断する制限酵素によって切断されない部位であり、
DNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、4つの異なる組合せのいずれかである、ベクターセット。
【請求項5】
請求項2に記載のベクターを細胞(ヒト個体中の細胞を除く)に導入して発現させることを特徴とする、ゲノム上に変異が導入された細胞の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドに関する。また、本発明は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターに関する。さらに、本発明は、当該ベクターを作製するためのベクターライブラリーに関する。また、本発明は、当該ベクターライブラリーを作製するためのベクターセットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA結合ドメインと機能ドメインからなるヌクレアーゼサブユニットを複数含むポリペプチドとして、TALEN(TALE Nuclease)やZFN(Zinc Finger Nuclease)などが知られている(特許文献1〜4、非特許文献1〜5)。例えば、機能ドメインとしてDNA切断ドメインを用いる人工ヌクレアーゼが知られている。これらの人工ヌクレアーゼは、DNA結合ドメインの結合部位において複数のDNA切断ドメインが近接して多量体を形成することによって、DNAの二本鎖切断を引き起こす。DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールを繰り返して含み、それぞれのDNA結合モジュールが、DNA鎖中の特定の塩基対を認識するため、DNA結合モジュールを適切に設計することによって、目的とする配列の特異的な切断を行うことができる。配列特異的な切断の修復の際に生じるエラーや組換えを利用すれば、ゲノムDNA上の遺伝子の欠失、挿入、変異導入が可能であり、これらのヌクレアーゼは、ゲノム編集などの様々な遺伝子改変に応用することができる(非特許文献6参照)。
【0003】
非特許文献1は、DNA結合ドメインと機能ドメインとが47アミノ酸のリンカーによって接続されたポリペプチドを開示している。非特許文献1には、DNA結合モジュールにおけるDNA認識部位のアミノ酸以外の特定の部位の1つのアミノ酸を、用いる4つのDNA結合モジュールごとに周期的に変化させたヌクレアーゼが記載されている。しかしながら、非特許文献1には、用いたポリペプチドが機能ドメインによる所望の機能の高さとDNA結合ドメインの配列認識特異性の高さを両立させるものであるとの記載はなく、また、DNA結合モジュールにおける複数のアミノ酸を周期的に変化させることの記載はなく、周期的な変化についての意義や目的に関する記載はない。
【0004】
非特許文献2は、DNA結合ドメインと機能ドメインが63アミノ酸のリンカーによって接続されたポリペプチドを開示している。また、非特許文献2には、DNA結合モジュールにおけるDNA認識部位のアミノ酸以外のアミノ酸を、用いる4つのDNA結合モジュールごとに周期的に変化させたポリペプチドが記載されている。しかしながら、非特許文献2には、用いたポリペプチドが、機能ドメインによる所望の機能の高さとDNA結合ドメインの配列認識特異性の高さを両立させるものであるとの記載はなく、また、4つのDNA結合モジュールごとの周期的な変化の目的や意義については何らの言及もない。
【0005】
非特許文献3は、DNA結合ドメインと機能ドメインが47アミノ酸のリンカーによって接続されたポリペプチドを開示している。また、非特許文献3には、DNA結合モジュールにおけるDNA認識部位のアミノ酸以外のアミノ酸を、用いるDNA結合モジュールごとにランダムに変化させたポリペプチドが記載されている。しかしながら、非特許文献3には、用いたポリペプチドが、機能ドメインによる所望の機能の高さとDNA結合ドメインの配列認識特異性の高さを両立させるものであるとの記載はなく、ランダムに変化させることの目的や意義に関する記載はなく、また、DNA結合モジュールごとに周期的に変化させることの記載はない。
【0006】
非特許文献4は、DNA結合ドメインと機能ドメインが63アミノ酸のリンカーによって接続されたポリペプチドを開示している。また、非特許文献5は、DNA結合ドメインと機能ドメインが47アミノ酸のリンカーによって接続されたポリペプチドを開示している。しかしながら、非特許文献4にも非特許文献5にも、用いたポリペプチドが、機能ドメインによる所望の機能の高さとDNA結合ドメインの配列認識特異性の高さを両立させるものであるとの記載はなく、DNA結合モジュールごとに周期的な変化を持たせることの記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2011/072246号
【特許文献2】国際公開第2011/154393号
【特許文献3】国際公開第2011/159369号
【特許文献4】国際公開第2012/093833号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nucleic Acids Res.2011 Nov;39(21):9283−93.
【非特許文献2】Nat Biotechnol.2011 Aug 5;29(8):697−8.
【非特許文献3】Nat Biotechnol.2011 Feb;29(2):143−8.
【非特許文献4】Nature. 2012 Nov 1;491(7422):114−8.
【非特許文献5】Genes Cells.2013 Apr;18(4):315−26.
【非特許文献6】Cell.2011 Jul 22;146(2):318−31.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DNA結合ドメインを含むポリペプチドとして、機能ドメインによる機能を高く示すものを用いれば、所望の結果が得られる効率が向上すると期待される。たとえば、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼの場合には、DNA切断活性を高く示すものを用いることによって、DNA切断が起こる確率が向上し、目的とする遺伝子改変の生じた細胞を取得できる効率も向上すると期待される。しかしながら、従来のDNA結合ドメインを含むポリペプチドにおいては、機能ドメインによる活性を高く示すものは、DNA結合ドメインによる標的塩基配列以外の部分においても高い機能を発揮し、安全性などの観点から十分とはいえないという傾向があった。このように、DNA配列に対する認識特異性の高さと機能ドメインによる機能の高さの両立は困難であった。また、DNA結合ドメインを含むポリペプチドの調製には、標的配列に対応したDNA結合モジュールの繰り返しをベクターに導入するなどの煩雑な操作が必要であり、より簡便な操作で迅速に作製することができるポリペプチドが求められている。
【0010】
したがって、本発明は、機能ドメインによる機能の高さとDNA配列に対する認識特異性の高さを両立し、所望の機能を高確率で安全に発揮させることができ、しかも、簡便な操作で作製することができるポリペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討したところ、DNA結合ドメインと機能ドメインが、35〜55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続され、かつ、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールにおける2つの特定の位置のアミノ酸が、4つのDNA結合モジュールごとに異なる繰り返し様式を呈するポリペプチドは、機能ドメインによる機能の高さとDNA配列に対する認識特異性の高さを両立することができることを見出した。当該ポリペプチドを発現させるためのベクターは、特定の特徴を有するベクターセット、および特定の特徴を有するベクターライブラリーを用いることによって簡便に作製することができた。
【0012】
すなわち、本発明は、第1の態様において、
DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドであって、
ここで、DNA結合ドメインと機能ドメインは、35〜55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1〜10の自然数であり、xは、1〜40の自然数であり、yは、1〜40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、
ポリペプチド
を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、第2の態様において、機能ドメインがDNA切断ドメインである、第1の態様に記載のポリペプチドを提供するものである。
【0014】
また、本発明は、第3の態様において、第1の態様または第2の態様に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクターを提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、第4の態様において、
第3の態様に記載のベクターを作製するためのベクターライブラリーであって、
ここで、ベクターライブラリーは、5’末端から順に、第1の制限酵素切断部位、4つのDNA結合モジュールをコードするポリヌクレオチド、および第2の制限酵素切断部位を有する複数のベクターによって構成され、
ここで、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せは、A型の制限酵素切断部位およびB型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せ、B型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、C型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、ならびにD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せのいずれかであり、ここで、A型の制限酵素切断部位〜E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、いずれも、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、
4つのDNA結合モジュールのうち、
5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、
5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、および5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、xは、1〜40の自然数であり、yは、1〜40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、
ベクターライブラリーを提供するものである。
【0016】
さらに、本発明は、第5の態様において、
第4の態様に記載のベクターライブラリーを作製するためのベクターセットであって、
ここで、ベクターセットは、5’末端から順に、1番目の制限酵素切断部位、DNA結合モジュール、および2番目の制限酵素切断部位を含む複数のベクターを含み、
1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、
DNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、4つの異なる組合せのいずれかであり、
ここで、xは、1〜40の自然数であり、yは、1〜40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、
ベクターセットを提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリペプチドは、機能ドメインによる高い機能を実現すると同時に、DNA配列に対する高い認識特異性を実現するため、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入することによって、安全に、かつ高確率で、所望の結果を実現することができる。また、本発明のベクターライブラリーを用いれば、機能ドメインによる高い機能とDNA配列に対する高い認識特異性を両立するポリペプチド発現用ベクターを、簡便かつ迅速に調製することができる。さらに、本発明のベクターセットを用いれば、本発明のベクターライブラリーを簡便に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明のベクターセット、ベクターライブラリー、およびベクターの構造的特徴、および作製方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のベクターセット、ベクターライブラリー、およびベクターに含まれるDNA結合モジュールのアミノ酸配列および塩基配列の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明のベクターに含まれるアミノ酸配列および塩基配列の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例3、および比較例1〜3の方法によって作製したベクターの構造的特徴を示し(
図4Aおよび
図4B)、各種のベクターの組合せにより発現されるヌクレアーゼの配列特異性の高さを比較する(
図4C)ものである。
【
図5】
図5は、実施例3、および比較例1〜3の方法によって作製するベクターの設計を示し(
図5A)、それらのベクターにより発現されるヌクレアーゼのDNA切断活性の高さを比較する(
図5B)ものである。
【
図6】
図6は、実施例3、および比較例1〜3の方法によって作製するベクターの設計を示し(
図6A)、それらのベクターにより発現されるヌクレアーゼのDNA切断活性の配列特異性を比較する(
図6B)ものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様において、本発明は、DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドを提供する。DNA結合ドメインの由来としては、植物病原菌XanthomonasのTALE(Transcription Activator−Like Effector)、ジンクフィンガー(Zinc finger)などが挙げられる。
【0020】
機能ドメインとしては、酵素、転写調節因子、レポータータンパク質などをコードするドメインが挙げられる。酵素としては、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、リガーゼ、キナーゼ、フォスファターゼなどのDNA修飾酵素;ラクタマーゼなどのその他の酵素が挙げられる。本明細書においては、ヌクレアーゼをコードするドメインを、DNA切断ドメインと称する。転写調節因子としては、アクチベーター、リプレッサーなどが挙げられる。レポータータンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト化ウミシイタケ緑色蛍光タンパク質(hrGFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)、増強青色蛍光タンパク質(eBFP)、増強シアン蛍光タンパク質(eCFP)、増強黄色蛍光タンパク質(eYFP)、赤色蛍光タンパク質(RFPまたはDsRed)、mCherryなどの蛍光タンパク質;ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質;アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼなどの化学発光基質を変換する酵素などが挙げられる。DNA切断ドメインは、好ましくは、他のDNA切断ドメインと接近して多量体を形成し、向上したヌクレアーゼ活性を取得するものである。このようなDNA切断ドメインとしては、FokIに由来するものなどが挙げられる。
【0021】
本発明の第1の態様のポリペプチドにおいて、DNA結合ドメインと機能ドメインは、35〜55、好ましくは、40〜50、より好ましくは、45〜49、最も好ましくは、47のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されている。DNA結合ドメインと機能ドメインを接続するポリペプチドとしては、例えば、配列番号34の754番目から801番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられ、また、配列番号34の754番目から801番目のアミノ酸配列と、85%、90%、95%、または97%の同一性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0022】
本発明の第1の態様のポリペプチドにおいて、DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含む。1つのDNA結合モジュールは、1つの塩基対を特異的に認識する。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの数は、機能ドメインの機能の高さとDNA配列認識特異性の高さの両立性の観点から、好ましくは、8〜40、より好ましくは、12〜25、さらにより好ましくは、15〜20である。DNA結合モジュールとしては、たとえば、TALエフェクターリピート(effector repeat)などが挙げられる。1つのDNA結合モジュールの長さとしては、例えば、20〜45、30〜38、32〜36、または34などが挙げられる。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、全てのDNA結合モジュールに関して同一である。DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドにおける12番目のアミノ酸と13番目のアミノ酸が、順にH、Dである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてCを認識し、順にN、Gである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてTを認識し、順にN、Iである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてAを認識し、順にN、Nである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてGを認識する。また、DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列と、85%、90%、95%、または97%の同一性を有し、1つの塩基対を認識する機能を実質的に保持するポリペプチドが挙げられる。
【0023】
本発明の第1の態様のポリペプチドにおいて、N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一である。また、N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一である。また、N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一である。また、N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一である。ここで、nは、1〜10の自然数、好ましくは、1〜7の自然数、より好ましくは、1〜5の自然数である。nは、好ましくは、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの全てを指し示すに足りる自然数である。また、xは、1〜40の自然数、好ましくは、1〜10の自然数、より好ましくは、2〜6の自然数、さらにより好ましくは、3〜5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1〜40の自然数、好ましくは、25〜40の自然数、より好ましくは、30〜36の自然数、さらにより好ましくは、31〜33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。xおよびyの数値は、用いるDNA結合モジュールの長さによって異なりうる。xは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける
4番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。yは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける32番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。
【0024】
本発明の第1の態様のポリペプチドにおいて、N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なる。ここで、nは、1〜10の自然数、好ましくは、1〜7の自然数、より好ましくは、1〜5の自然数である。nは、好ましくは、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの全てを指し示すに足りる自然数である。また、xは、1〜40の自然数、好ましくは、1〜10の自然数、より好ましくは、2〜6の自然数、さらにより好ましくは、3〜5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1〜40の自然数、好ましくは、25〜40の自然数、より好ましくは、30〜36の自然数、さらにより好ましくは、31〜33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。好ましくは、N末端から4n−3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n−2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、それぞれ、xとyの順にDとDの組合せ、EとAの組合せ、DとAの組合せ、およびAとDの組合せからなる群から選ばれる。
【0025】
本発明は、第2の態様において、機能ドメインがDNA切断ドメインである、第1の態様のポリペプチドを提供する。
【0026】
本発明は、第3の態様において、第1の態様または第2の態様のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクターを提供する。ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、酵母人工染色体ベクター(YAC)、細菌人工染色体ベクター(BAC)、P1人工染色体ベクター(PAC)、マウス人工染色体ベクター(MAC)、ヒト人工染色体ベクター(HAC)が挙げられる。また、ベクターの成分としては、DNA、RNAなどの核酸、GNA、LNA、BNA、PNA、TNAなどの核酸アナログなどが挙げられる。ベクターは、糖類などの核酸以外の成分によって修飾されていてもよい。
【0027】
本発明の第3の態様のベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、本発明の第1の態様または第2の態様のポリペプチドを調製することができる。また、本発明の第3の態様のベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、細胞内において、DNA組換え、DNA切断などのDNA修飾;転写調節などのその他の酵素活性の発現;レポータータンパク質によるDNA領域の標識化などの機能ドメインに応じた所望の機能を発揮させることができる。機能ドメインがDNA切断ドメインである場合には、複数の、好ましくは、2つの本発明の第3の態様のベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、ベクターを導入した細胞のゲノムDNA上において塩基配列特異的な二本鎖切断を生じさせることができ、細胞のゲノム上に変異を導入することができる。本発明の第3の態様のベクターを導入する細胞の由来としては、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウスなどの哺乳類などの動物、シロイヌナズナなどの植物、ES細胞、iPS細胞などの培養細胞などが挙げられる。
【0028】
本発明は、第4の態様において、第3の態様のベクターを作製するためのベクターライブラリーを提供する。本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、複数のベクターによって構成される。ベクターライブラリーは、第3の態様のベクターを作製するのに有用なベクターを、4つのDNA結合モジュールの組合せが認識する4つの塩基の組合せに関して網羅的に含むことが好ましいが、第3の態様のベクターの作製が可能であるかぎり、含まれるベクターは網羅的でなくてもよい。本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、たとえば、6〜9個、10〜13個、14〜17個、または18〜21個のDNA結合モジュールを含む本発明の第1の態様または第2の態様のポリペプチドを網羅的に構築するためのベクターを含み、好ましくは、14〜21個のDNA結合モジュールを含む本発明の第1の態様または第2の態様のポリペプチドを網羅的に構築するためのベクターを含む。本発明の第1の態様または第2の態様のポリペプチドは、14〜21のDNA結合モジュールを含む場合において、認識特異性の高さと機能ドメインによる機能の高さの両立性が特に優れているため、このようなベクターライブラリーは、構成するベクターが少ないながらも、効果の高い本発明の第1の態様または第2の態様のポリペプチドを簡便に作製することができ、優れている。
【0029】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成する全てのベクターは、5’末端から順に、第1の制限酵素切断部位、4つのDNA結合モジュールをコードするポリヌクレオチド、および第2の制限酵素切断部位を有する。
【0030】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せは、A型の制限酵素切断部位およびB型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せ、B型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、C型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、ならびにD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せのいずれかである。制限酵素切断部位についてのA型〜E型は、制限酵素切断部位の性質の相違を示すために本明細書において便宜的に設定した表記である。型が異なる場合には、制限酵素切断部位の性質が互いに異なり、および型が同一である場合には、制限酵素切断部位の性質が共通であることを示す。本発明の第4の態様のベクターライブラリーにおいて、A型の制限酵素切断部位〜E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素によって切断されるものである。また、A型の制限酵素切断部位〜E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、いずれも、互いに異なる切断末端を生じさせるものである。このような制限酵素切断部位としては、制限酵素による認識部位に隣接する任意の部位を切断する制限酵素(たとえば、BsaI、BbsI、BsmBIなど)による切断部位が挙げられる。
【0031】
図1のSTEP2に示されるように、18〜21のDNA結合モジュールを含む本発明の第3の態様のベクターを作製することを目的とする場合には、本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがA型の制限酵素切断部位およびB型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがB型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがC型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、ならびに第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せであるベクターを、好ましくは、DNA結合モジュールによる認識塩基に関して網羅的に含む。
【0032】
また、
図1のSTEP2に示されるように、14〜17のDNA結合モジュールを含む本発明の第3の態様のベクターを作製することを目的とする場合には、本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがA型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがC型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、ならびに第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せであるベクターを、好ましくは、DNA結合モジュールによる認識塩基に関して網羅的に含む。
【0033】
さらに、
図1のSTEP2に示されるように、10〜13のDNA結合モジュールを含む本発明の第3の態様のベクターを作製することを目的とする場合には、本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがA型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せであるベクター、ならびに第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せであるベクターを、好ましくは、DNA結合モジュールによる認識塩基に関して網羅的に含む。
【0034】
さらに、
図1のSTEP2に示されるように、6〜9のDNA結合モジュールを含む本発明の第3の態様のベクターを作製することを目的とする場合には、本発明の第4の態様のベクターライブラリーは、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せがA型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せであるベクターを、好ましくは、DNA結合モジュールによる認識塩基に関して網羅的に含む。
【0035】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターは、DNA結合モジュールを含む。1つのDNA結合モジュールの長さとしては、例えば、30〜38、32〜36、または34などが挙げられる。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、ベクターライブラリーを構成する全てのベクターに関して同一である。また、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、ベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる4つのDNA結合モジュールの全てに関して同一である。DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。また、DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列と、85%、90%、95%、または97%の同一性を有し、1つの塩基対を認識する機能を実質的に保持するポリペプチドが挙げられる。
【0036】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる4つのDNA結合モジュールのうち、5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。同様に、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。また、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。また、5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。ここで、xは、1〜40の自然数、好ましくは、1〜10の自然数、より好ましくは、2〜6の自然数、さらにより好ましくは、3〜5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1〜40の自然数、好ましくは、25〜40の自然数、より好ましくは、30〜36の自然数、さらにより好ましくは、31〜33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。xおよびyの数値は、用いるDNA結合モジュールの長さによって異なりうる。xは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける
4番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。yは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける32番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。
【0037】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる4つのDNA結合モジュールのうち、5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、および5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なる。ここで、xは、1〜40の自然数、好ましくは、1〜10の自然数、より好ましくは、2〜6の自然数、さらにより好ましくは、3〜5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1〜40の自然数、好ましくは、25〜40の自然数、より好ましくは、30〜36の自然数、さらにより好ましくは、31〜33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。xおよびyの数値としては、例えば、前述と同様の数値が挙げられる。好ましくは、5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、xとyの順にDとDであり、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、xとyの順にEとAであり、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、xとyの順にDとAであり、かつ、5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、xとyのAとDである。
【0038】
本発明の第4の態様のベクターライブラリーを用いれば、本発明の第3の態様のベクターを、簡便に作製することができる。具体的には、本発明の第3の態様のベクターに含まれるDNA結合モジュールの配列に対応するベクターを、本発明の第4の態様のベクターライブラリーから選択し、選択したベクターを、A型の制限酵素切断部位〜E型の制限酵素切断部位を切断する制限酵素によって消化して、消化によって得られたベクター断片を接続することによって本発明の第3の態様のベクターを作製することができる。本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成する全てのベクターは、同一の制限酵素によって切断される制限酵素切断部位を2つ有し、かつ、その制限酵素切断部位は、当該酵素による切断によって互いに異なる切断末端を生じさせる。したがって、本発明の第3の態様のベクターの作製において、選択したベクターの消化、およびベクター断片の接続は、それぞれ、同一の反応液において行うことができる。そのため、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを用いれば、極めて簡便に、本発明の第3の態様のベクターを作製することができる。
【0039】
本発明は、第5の態様において、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを作製するためのベクターセットを提供する。
【0040】
本発明の第5の態様のベクターセットは、複数のベクターを含む。ベクターセットは、第4の態様のベクターライブラリーを作製するのに有用なベクターを網羅的に含むことが好ましいが、第4の態様のベクターライブラリーの作製が可能なかぎり、含まれるベクターは網羅的でなくてもよい。
【0041】
本発明の第5の態様のベクターセットに含まれる全てのベクターは、5’末端から順に、1番目の制限酵素切断部位、DNA結合モジュール、および2番目の制限酵素切断部位を含む。1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位を切断する制限酵素によって切断されない部位であることが好ましい。この場合、第4の態様のベクターライブラリーから第3の態様のベクターを、より簡便に作製することができる。
【0042】
本発明の第5の態様のベクターセットに含まれるベクターに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、ベクターセットに含まれる全てのベクターに関して同一である。DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。また、DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、または32の1番目から34番目のアミノ酸配列と、85%、90%、95%、または97%の同一性を有し、1つの塩基対を認識する機能を実質的に保持するポリペプチドが挙げられる。
【0043】
本発明の第5の態様のベクターセットに含まれるベクターに含まれる1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素によって切断されるものである。また、1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、互いに異なる切断末端を生じさせるものである。このような制限酵素切断部位としては、制限酵素による認識部位に隣接する任意の部位を切断する制限酵素(たとえば、BsaI、BbsI、BsmBIなど)による切断部位が挙げられる。
【0044】
本発明の第5の態様のベクターセットに含まれるベクターに含まれるDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、4つの異なる組合せのいずれかである。x番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の4つの異なる組合せとしては、例えば、xとyの順に、DとDの組合せ、EとAの組合せ、DとAの組合せ、およびAとDの組合せが挙げられる。ここで、xは、1〜40の自然数、好ましくは、1〜10の自然数、より好ましくは、2〜6の自然数、さらにより好ましくは、3〜5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1〜40の自然数、好ましくは、25〜40の自然数、より好ましくは、30〜36の自然数、さらにより好ましくは、31〜33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。xおよびyの数値は、用いるDNA結合モジュールの長さによって異なりうる。xは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける
4番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。yは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける32番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。
【0045】
本発明の第5の態様のベクターセットに含まれるベクターとしては、1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位の組合せが、α型の制限酵素切断部位およびβ型の制限酵素切断部位の組合せであり、DNA結合モジュールが、塩基A、T、G、またはCを認識するもの;1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位の組合せが、β型の制限酵素切断部位およびγ型の制限酵素切断部位の組合せであり、DNA結合モジュールが、塩基A、T、G、またはCを認識するもの;1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位の組合せが、γ型の制限酵素切断部位およびδ型の制限酵素切断部位の組合せであり、DNA結合モジュールが、塩基A、T、G、またはCを認識するもの;1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位の組合せが、δ型の制限酵素切断部位およびε型の制限酵素切断部位の組合せであり、DNA結合モジュールが、塩基A、T、G、またはCを認識するものを例示することができる。ここで、制限酵素切断部位についてのα型〜ε型は、制限酵素切断部位の性質の相違を示すために本明細書において便宜的に設定した表記である。型が異なる場合には、制限酵素切断部位の性質が互いに異なり、および型が同一である場合には、制限酵素切断部位の性質が共通であることを示す。本発明の第5の態様のベクターセットは、好ましくは、上で例示した全てのベクターを含む。この場合、あらゆる態様の本発明の第4の態様のベクターライブラリーを作製することができる。
【0046】
本発明の第5の態様のベクターセットを用いれば、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを簡便に作製することができる。具体的には、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを構成するベクターに含まれる4つのDNA結合モジュールの組合せに基づき、本発明の第5の態様のベクターセットに含まれるベクターを4つ選択し、選択されたベクターを、1番目の制限酵素切断部位および2番目の制限酵素切断部位を切断する制限酵素によって消化し、消化によって得られたベクター断片を、接続することによって、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを作製することができる。本発明の第5の態様のベクターセットに含まれる全てのベクターは、同一の制限酵素によって切断される制限酵素切断部位を2つ有し、かつ、その制限酵素切断部位は、当該酵素による切断によって互いに異なる切断末端を生じさせる。したがって、本発明の第4の態様のベクターライブラリーの作製において、選択したベクターの消化、およびベクター断片の接続は、それぞれ、同一の反応液において行うことができる。そのため、本発明の第5の態様のベクターセットを用いれば、極めて簡便に、本発明の第4の態様のベクターライブラリーを作製することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 ベクターセットの作製:
図2に示した塩基配列の両端に制限酵素BsaIの認識サイトを付加した配列を、人工遺伝子合成により作製し、pBluescript SK vectorに挿入して、
図1のSTEP1に用いるベクターセット(p1HD−p4HD、p1NG−p4NG、p1NI−p4NI、p1NN−p4NN)を作製した。
【0049】
実施例2 ベクターライブラリーの作製:
pFUS_B6ベクター(Addgene)を鋳型とし、In−Fusionクローニング(クロンテック)によって、
図1のSTEP1に示すpFUS2ベクターを作製した。
図1のSTEP1に示すように、作製したpFUS2ベクターと、実施例1において作製したベクターセットを用いて、Golden Gate反応を行い、ベクターライブラリーを作製した。
【0050】
実施例3 TALEN発現ベクターの作製:
pTALEN_v2およびpcDNA−TAL−NC2(共にAddgene)を用いて、In−Fusionクローニングによって、作製した後、モジュールを組込むBsmBIサイト周辺配列をIn−Fusionクローニングによって調製し、更に開始コドンの上流にglobin leader配列をIn−Fusionクローニングによって挿入して、
図1のSTEP2に示すptCMVベクターを作製した。作製したptCMVベクター、実施例2において作製したベクターライブラリー、およびGolden Gate TALEN and TAL Effector Kit、Yamamoto Lab TALEN Accessory Pack(共にAddgene)に含まれるベクター類を用いて、
図1のSTEP2に示すように、Golden Gate法によって、DNA結合ドメインを挿入し、TALEN発現ベクターを作製した。ptCMVベクターとしては、DNA結合ドメインのN末端側に隣接する領域(TALEN−N’)のアミノ酸数が153であり、DNA結合ドメインのC末端側とDNA切断ドメインに挟まれた領域(TALEN−C’)のアミノ酸数が47であるものを用いた。作製したTALENの塩基配列ならびにアミノ酸配列の一例を、
図3に示す。
図3に示すように、実施例3のTALEN発現用ベクターにおけるDNA結合モジュール(全34アミノ酸)の4番目および32番目のアミノ酸は、4n−3番目、4n−2番目、4n−1番目、および4n番目(nは自然数)のDNA結合モジュールにおいて、それぞれ異なっていた。また、4n−3番目(nは自然数)のDNA結合モジュールにおける4番目および32番目のアミノ酸は、それぞれのDNA結合モジュールにおいて共通であった。このことは、4n−2番目、4n−1番目、および4n番目(nは自然数)のDNA結合モジュールにおいても、同様であった。このように、実施例1のベクターセットおよび実施例2のベクターライブラリーを用いることによって、4つのDNA結合モジュールごとに繰り返し様式を呈するTALEN発現ベクターを作製することができた。
【0051】
比較例1 TALEN発現ベクターの作製:
実施例1において作製したベクターセットの代わりに、Golden Gate TALEN and TAL Effector Kit(Addgene)に含まれるpHD1−6、pNG1−6、pNI1−6、pNN1−6を使用し、また、反応に使用するpFUSベクターとして、Yamamoto Lab TALEN Accessory Pack(Addgene)を使用した他は、実施例2と同様にGolden Gate反応を行い、ベクターライブラリーを作製した。作製したベクターライブラリーを用いて、実施例3と同様の方法によってGolden Gate反応を行い、TALEN発現ベクターを作製した。
【0052】
比較例2 TALEN発現ベクターの作製:
ptCMVベクターとして、DNA結合ドメインのN末端側に隣接する領域(TALEN−N’)のアミノ酸数が136でありDNA結合ドメインのC末端側とDNA切断ドメインに挟まれた領域(TALEN−C’)のアミノ酸数が63であるものを用いた他は、実施例3と同様の方法を行い、TALEN発現ベクターを作製した。
【0053】
比較例3 TALEN発現ベクターの作製:
ptCMVベクターとして、DNA結合ドメインのN末端側に隣接する領域(TALEN−N’)のアミノ酸数が136でありDNA結合ドメインのC末端側とDNA切断ドメインに挟まれた領域(TALEN−C’)のアミノ酸数が63であるものを用いた他は、比較例1と同様の方法を行い、TALEN発現ベクターを作製した。
【0054】
試験例1 TALENの認識特異性の評価:
図4Bに示すとおりの部位を認識するTALEN発現ベクター(L14〜L20、およびR14〜R20)を、実施例3、または比較例1〜3と同様の方法によって作製した。作製したL14〜L20から1種と、R14〜R20から1種とを、
図4Cの表に示すように組み合わせて左右のTALEN発現ベクターとし、
図4Bに示す配列をTALENの標的配列として用いて、HEK293T細胞を用いたシングル・ストランド・アニーリングアッセイ(非特許文献5参照)によって、TALEN活性評価を行った。
シングル・ストランド・アニーリングアッセイは、具体的には、以下のようにして行った。まず、CMVプロモーターの下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子を分断化して連結したレポーターベクター(pGL4−SSA;Addgene)に、目的のTALENの標的配列を挿入したレポーターベクターを作製した。この際、TALENの標的配列は、合成オリゴをアニーリングして作製し、BsaI処理したpGL4−SSAベクターにLigation−Convenience Kit(ニッポンジーン)を用いて挿入した。その後、作製したレポーターベクターを、TALEN発現ベクター、およびウミシイタケルシフェラーゼの発現ベクターであるpRL−CMVベクター(プロメガ)と共に、96ウェルプレート上で、リポフェクション法によってHEK293T細胞に導入し、24時間培養した後、Dual−Glo Luciferase Assay System(プロメガ)を用いてレポーター活性を測定した。導入したDNA量は、左右のTALEN発現ベクターは、それぞれ200ng、レポーターベクターが100ng、pRL−CMVベクターが20ngである。化学発光の計測にはTriStar LB 941 plate reader(ベルトールド)を用いた。
実施例3、および比較例1〜3における各左右のTALEN発現ベクターの組合せのそれぞれの場合について、比較例1のL20およびR17の組合せの場合と比較したレポーター活性の相対値を
図4Cに示す。各左右のTALENの組合せについての左右のTALENの認識部位に挟まれるスペーサー領域の長さ(塩基数)を、
図4Bの表に示す。
図4Cに示すように、実施例3および比較例1の場合には、スペーサー領域が、12〜15などの限られた場合において、特異的に高い活性が得られ、限られたスペーサー領域に対する特異的な切断が可能であることが分かる。これに対して、比較例2および比較例3の場合には、活性の高さは、スペーサー領域の長さと特に関係がなく、スペーサー配列の長さが異なる配列をも認識して切断する可能性が高いことが分かる。このことから、実施例3のTALEN発現ベクターを用いることによって、スペーサー領域の異なる配列に対する非特異的切断の少ない効果的なDNA切断を行うことができることが分かる。
【0055】
試験例2 TALENの活性の評価:
図5Aに示すとおりの部位を認識するTALEN発現ベクターの左右のペア(ATM(左としてL17、右としてR17)、APC(左としてL17、右としてR17)、およびeGFP(左としてL20、右としてR18))を、実施例3、または比較例1〜3と同様の方法によって作製した。それぞれの方法によって作製した左右のペアを左右のTALEN発現ベクターとして用いて、
図5Aに示す配列をTALENの標的配列として用いて、試験例1と同様の方法を用いて、HEK293T細胞を用いたシングル・ストランド・アニーリングアッセイ(非特許文献5)を行い、TALEN活性評価を行った。
結果を
図5Bに示す。
図5Bにおいて、縦軸の数値は、試験例1において作製した比較例1のL20およびR17の組合せの場合と比較したレポーター活性の相対値である。
図5Bに示すように、実施例3の場合には、ATM、APC、およびeGPFのいずれの場合においても、比較例1に比して高いTALENのDNA切断活性が観察された。このことから、DNA結合モジュールについての本発明の繰り返し構造を持たせることによって、TALENのDNA切断活性を向上させることができることが分かった。
【0056】
試験例3 TALENの認識特異性の評価:
図6Aに示すとおりの部位を認識するTALEN発現ベクターの左右のペア(左としてL19および右としてR18)を、実施例3、または比較例1〜3と同様の方法によって作製した。それぞれの方法によって作製した左右のペアを左右のTALEN発現ベクターとして用いて、
図6Aに示す配列(ミスマッチなし(no mismatches)、左1ミスマッチ右0ミスマッチ(L:1mismatch/R:0mismatch)、左1ミスマッチ右1ミスマッチ(L:1mismatch/R:1mismatch)、または左2ミスマッチ右2ミスマッチ(L:2mismatches/R:2mismatches))をTALENの標的配列として用いて、試験例1と同様の方法を用いて、HEK293T細胞を用いたシングル・ストランド・アニーリングアッセイ(非特許文献5)を行い、TALEN活性評価を行った。TALENの標的配列として
図6A中のそれぞれの配列を用いた場合には、
図6Aにおける小文字の部分においてミスマッチが生じるため、用いたTALENの標的配列についてTALEN活性評価の結果を比較することによって、用いたTALENの認識特異性の高さを比較することができる。
結果を
図6Bに示す。
図6Bの縦軸の数値は、ホタルルシフェラーゼ活性の測定値をウミシイタケルシフェラーゼ活性の測定値で割った相対活性を示す。
図6Bに示すように、比較例2のTALEN発現ベクターを用いた場合には、左2ミスマッチ右2ミスマッチの配列を用いた場合であっても、高い活性が観察され、比較例2のTALEN発現ベクターの認識特異性は、低かった。これに対して、実施例3のTALEN発現ベクターを用いた場合には、左2ミスマッチ右2ミスマッチの配列を用いた場合には、活性のほぼ完全な消失が観察された。このことから、実施例3のTALEN発現ベクターは、試験例2に示すような高い切断活性を保持しつつ、特異性の高いDNA切断を行うことができるものであり、実施例3のTALEN発現ベクターを用いることによって、目的とする標的DNAを高確率で安全に切断できることが分かった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]