特許第5931125号(P5931125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931125
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160526BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20160526BHJP
   B29K 29/00 20060101ALN20160526BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B29C55/06
   B29K29:00
   B29L7:00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-114831(P2014-114831)
(22)【出願日】2014年6月3日
(62)【分割の表示】特願2009-196489(P2009-196489)の分割
【原出願日】2009年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-167654(P2014-167654A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】磯▲ざき▼ 孝徳
【審査官】 居島 一仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−313808(JP,A)
【文献】 特開2003−050313(JP,A)
【文献】 特開2002−028971(JP,A)
【文献】 特開2008−287254(JP,A)
【文献】 特開2005−049698(JP,A)
【文献】 特開2002−333523(JP,A)
【文献】 特開2004−061565(JP,A)
【文献】 特開2003−098344(JP,A)
【文献】 特開2002−182035(JP,A)
【文献】 特開2007−122050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法であって、当該一軸延伸は、ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液中で行われ、前記水溶液はほう酸とヨウ化カリウムのみを成分として含み、延伸倍率が7倍以上8倍以下であり、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを、ほう酸を2.0質量%を超える濃度で含む水溶液と接触させないことを特徴とする、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液がヨウ化カリウムを0.01〜10質量%含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムが、ポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して可塑剤を3〜20質量部含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記偏光フィルム中のほう素原子の含有率が前記偏光フィルムの質量に基づいて0.1〜2.0質量%である請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムの厚みに対する前記偏光フィルムの厚みの割合が0.35以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムの面積に対する前記偏光フィルムの以下で定義される有効面積が2.75倍以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
有効面積:偏光フィルムのTD(幅方向)の長さのうち最も短い長さと、MD(延伸方向)の長さとの積。
【請求項7】
偏光フィルムの厚みが10〜40μmである請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記一軸延伸がほう酸を0.1〜1.8質量%含む水溶液中で行われる請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶表示装置を構成する偏光板を製造するための材料として好ましく使用することができる偏光フィルムおよび偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)は、開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器用途のみならず、液晶テレビ、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器など広範な用途に用いられている。そして、特に液晶テレビや液晶モニターなどでは大画面化や薄型化の進行および使用環境や使用状況の多様化に伴って、液晶表示装置およびそれを構成する各部材の一層の薄型化が求められている。加えて、液晶表示装置の用途の拡大や使用量の増加に伴って、上記各部材の低コスト化が求められており、これらの各部材を製造する際における一層のコスト削減が必要になっている。また、大量の液晶表示装置が廃棄される際には環境への悪影響も懸念されることから、廃棄時において環境への影響が少ないことも求められている。
【0003】
光の透過機能および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶などと共に液晶表示装置を構成する重要な部材である。そして、上記したような状況下、偏光板に対しても、透過度や偏光度などの光学特性に優れることに加えて、一層の広面積化、薄型化および低コスト化が求められている。
【0004】
偏光板は、多くの場合、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸することにより製造された偏光フィルムに、三酢酸セルロース(TAC)膜などからなる保護膜を貼り合わせた構成を有する。そして、光学特性に優れるとともに一層の広面積化、薄型化および低コスト化が達成されたポリビニルアルコール系重合体フィルムを使用することにより、偏光板に対する上記要求を満足することが可能となる。
【0005】
ところで、耐熱性、耐湿熱性等に優れた偏光フィルムを製造する方法として、偏光素子(二色性染料等)を吸着させたポリビニルアルコール系フィルムを、低濃度(5重量%未満;具体例としては3.0重量%)のほう酸水溶液中で一軸延伸し、次いで、これを高濃度のほう酸水溶液中に保持した後、加熱処理する方法が知られている(特許文献1参照)。
また、高いコントラストの偏光フィルムを製造する方法として、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式の熱ロール等を使用して一軸延伸したのちヨウ素または二色性染料を吸着配向させ、次いで水100重量部あたりほう酸を2〜18重量部(具体例としては7.5重量部)含有するほう酸水溶液に浸漬しながら1.1〜1.8倍に延伸する方法が知られている(特許文献2参照)。
さらに、ヨウ素含有量の高い偏光子(偏光フィルム)を製造する方法として、浴温度の異なる2つのヨウ素染色浴を用いる方法が知られている(特許文献3参照)。特許文献3には、架橋工程を延伸工程とともに行うことができること、および、架橋工程において濃度が0.1〜13重量%程度(具体例としては、3重量%)のホウ酸水溶液が用いられることが記載されている。
【0006】
しかしながら、ほう素原子の含有率が低減された偏光フィルムはこれまで知られておらず、また、高い透過度および偏光度を有していて光学特性に優れ、一層の広面積化、薄型化および低コスト化が達成された偏光フィルムを得るためには、さらなる検討が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−337311号公報
【特許文献2】特開平11−49878号公報
【特許文献3】特開2009−9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い透過度および偏光度を有していて光学特性に優れるにも拘らず、ほう素原子の含有率が低くて廃棄時などに環境への影響が小さい偏光フィルム、および、当該偏光フィルムを効率的に製造することができる偏光フィルムの製造方法であって、多量のほう酸を必要とせず、しかも幅広で薄い偏光フィルムを高い延伸倍率および高い収率で製造することができ、コスト削減に寄与することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを特定のほう酸濃度を有する延伸槽中において高い延伸倍率で延伸すると、ネックイン現象(幅方向が短くなる現象)の程度が小さくなり、薬品費も低減できるようになり、光学特性に優れるにも拘らず、幅広で薄く、しかもほう素原子の含有率が低い偏光フィルムを収率よく低コストで製造することができることを見出した。加えて、当該偏光フィルムはほう素原子の含有率が低いことに起因して廃棄時などに環境への影響を小さくすることができることも見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法であって、当該一軸延伸は、ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液中で行われ、前記水溶液はほう酸とヨウ化カリウムのみを成分として含み、延伸倍率が7倍以上8倍以下であり、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを、ほう酸を2.0質量%を超える濃度で含む水溶液と接触させないことを特徴とする、偏光フィルムの製造方法、
[2]ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法であって、当該一軸延伸は、ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液(但し、ジカルボン酸を含むものを除く)中で行われ、延伸倍率が7倍以上8倍以下であり、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを、ほう酸を2.0質量%を超える濃度で含む水溶液と接触させないことを特徴とする、偏光フィルムの製造方法、
[3]前記ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液がヨウ化カリウムを0.01〜10質量%含む上記[1]または[2]の製造方法、
[4]前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムが、ポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して可塑剤を3〜20質量部含む上記[1]〜[3]のいずれか1つの製造方法、
[5]前記偏光フィルム中のほう素原子の含有率が前記偏光フィルムの質量に基づいて0.1〜2.0質量%である上記[1]〜[4]のいずれか1つの製造方法、
[6]前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムの厚みに対する前記偏光フィルムの厚みの割合が0.35以下である上記[1]〜[5]のいずれか1つの製造方法、
[7]前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムの面積に対する前記偏光フィルムの以下で定義される有効面積が2.75倍以上である上記[1]〜[6]のいずれか1つの製造方法、
有効面積:偏光フィルムのTD(幅方向)の長さのうち最も短い長さと、MD(延伸方向)の長さとの積。
[8]偏光フィルムの厚みが10〜40μmである上記[1]〜[7]のいずれか1つの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の偏光フィルムは、高い透過度および偏光度を有していて光学特性に優れるにも拘らず、ほう素原子の含有率が低くて廃棄時などに環境への影響が小さい。また本発明の製造方法は、上記偏光フィルムを効率的に製造することができ、多量のほう酸を必要とせず、しかも幅広で薄い偏光フィルムを高い延伸倍率および高い収率で製造することができて、コスト削減に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系重合体[以下、「ポリビニルアルコール系重合体」を「PVA」と略記する場合がある]フィルムを染色および一軸延伸して得られる。当該PVAフィルムを構成するPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(HC=CH−O−CO−)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
【0013】
上記のポリビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0014】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステル系重合体は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0015】
上記のポリビニルエステル系重合体に占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に、上記他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるPVAの水溶性を促進する単量体単位となり得る単量体である場合には、PVAフィルムから偏光フィルムを製造する際などにおいて水溶液中での処理時にフィルムが溶解したり溶断したりするのを防止するために、ポリビニルエステル系重合体におけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明において使用されるPVAフィルムを構成するPVAとしては、グラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができるが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、PVAは1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステル系重合体およびそれをけん化することにより得られるPVAのうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル系重合体またはPVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体またはPVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明において使用されるPVAフィルムを構成するPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また本発明のPVAフィルムを構成するPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0018】
本発明において使用されるPVAフィルムを構成するPVAの重合度は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から、2000以上であることが好ましい。PVAの重合度が2000以上であることにより、PVAフィルムから得られる偏光フィルムの偏光性能が良好になり、光漏れが大きくなるのを抑制することができるため、特にテレビ用途などの液晶ディスプレイ用途に好適なものとなる。PVAの重合度が高い方が得られる偏光フィルムの偏光性能が良好になるため、重合度を高くすることは光漏れ低減にある程度の効果を有する。しかしながら、PVAの重合度があまりに高すぎると、PVAの製造コストの上昇や、製膜時における工程通過性の不良などにつながる傾向があるので、PVAの重合度は2000〜10000の範囲内であることがより好ましく、2000〜8000の範囲内であることがさらに好ましく、2200〜5000の範囲内であることが特に好ましい。なお、本明細書でいうPVAの重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0019】
さらに、本発明において使用されるPVAフィルムを構成するPVAのけん化度は、99.0モル%以上であることが好ましく、99.9モル%以上であることがより好ましく、99.95モル%以上であることがさらに好ましい。
なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0020】
本発明において使用されるPVAフィルムは、PVAと共に可塑剤を含んでいてもよい。PVAフィルムが可塑剤を含むことにより、PVAフィルムから偏光フィルムを製造する際の延伸性の向上を図ることができる。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、PVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでも、PVAフィルムの延伸性がより良好になることからグリセリンが好ましい。
【0021】
PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して、3〜20質量部であることが好ましく、4〜18質量部であることがより好ましく、5〜15質量部であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して3質量部以上であることによりPVAフィルムの延伸性が向上し、偏光フィルムを高面積で採取し易くなる。一方、可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して20質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVAフィルムの取り扱い性が低下したり、延伸性が低下したりするのを抑制することができる。
【0022】
また、PVAフィルムを後述するPVAフィルムを製造するための原液を用いて製造する場合には、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に金属ロールやベルトを使用した際、これらの金属ロールやベルトからのPVAフィルムの剥離が容易になることから、当該原液中に界面活性剤を配合することが好ましい。そして、界面活性剤が配合された原液からPVAフィルムを製造した場合には、当該PVAフィルム中には界面活性剤が含有され得る。PVAフィルムを製造するための原液に配合される界面活性剤、ひいてはPVAフィルム中に含有される界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0023】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0024】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
PVAフィルムを製造するための原液中に界面活性剤を配合する場合、原液中における界面活性剤の含有量、ひいてはPVAフィルム中における界面活性剤の含有量は、原液またはPVAフィルムに含まれるPVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0026】
本発明において使用されるPVAフィルムは、PVAのみからなっていても、あるいはPVAフィルムと上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤など、上記したPVA、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明において使用されるPVAフィルムにおける、PVA、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明において使用されるPVAフィルムの厚みは特に制限されないが、あまりに薄すぎると偏光フィルムを製造するための一軸延伸時に延伸切れが発生し易くなる傾向があり、またあまりに厚すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸時に延伸斑が発生し易くなる傾向があることから、20〜120μmの範囲内であることが好ましく、30〜100μmの範囲内であることがより好ましく、40〜80μmの範囲内であることがさらに好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0028】
本発明において使用されるPVAフィルムの幅は特に制限されず、PVAフィルムから製造される偏光フィルムの用途などに応じて決めることができる。近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行しており、かかる点からPVAフィルムの幅を3m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方、PVAフィルムの幅が広すぎると、実用化されている装置で偏光フィルムを製造する際に一軸延伸自体を均一に行うことが困難になり易いので、PVAフィルムの幅は6m以下であることが好ましい。
【0029】
本発明において使用されるPVAフィルムの製造方法は特に限定されないが、PVAフィルムを構成する上記したPVA、および、必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤等の成分が溶剤中に溶解した原液を用いて製造することができる。
【0030】
原液の調製に使用される上記溶剤としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
【0031】
製膜に用いる原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される溶媒などの揮発性成分の、原液中における含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによって異なるが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVAフィルムの製造が容易になる。一方、原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVAフィルムの製造が容易になる。
【0032】
上記した原液を用いてPVAフィルムを製造する際の製膜方法としては、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、乾式による流延製膜法、押出製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は、1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でも、押出製膜法が、膜の厚みおよび幅が均一で物性の良好なPVAフィルムが得られることから好ましい。PVAフィルムには、必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0033】
PVAフィルムを製膜する具体的な方法としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いたり、キャスト製膜法を採用したりするなどして、製膜用の原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)の周面上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出または流延された膜の他方の面を回転する加熱した第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
PVAフィルムを適切な状態に調整するためには、熱処理装置;調湿装置;各ロールを駆動するためのモータ;変速機等の速度調整機構などが付設されることが望ましい。
PVAフィルムの製造工程での乾燥処理における乾燥温度は、偏光フィルムを製造する際の延伸性や染色性に優れ、しかも得られる偏光フィルムの偏光性能や耐久性が良好となるPVAフィルムが得られることから、50〜150℃の範囲内であることが好ましく、60〜140℃の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
上記したPVAフィルムを染色および一軸延伸することにより本発明の偏光フィルムを製造することができる。偏光フィルムの製造に際しては、染色や一軸延伸の他、必要に応じて、水分調整、洗浄、乾燥処理、熱処理等の処理をさらに施すことができる。
【0035】
染色は、例えば、ヨウ素を用いて行うことができる。染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時および一軸延伸後のうちのいずれの段階であってもよい。ヨウ素を用いた染色は、PVAフィルムをヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(好ましくは水溶液)中に浸漬させることにより行うことができる。上記溶液中におけるヨウ素の濃度は、0.01〜0.5質量%の範囲内であることが好ましく、上記溶液中におけるヨウ化カリウムの濃度は、0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。また、上記溶液の温度は、20〜50℃の範囲内であることが好ましく、25〜40℃の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
一軸延伸は、ほう酸を0.1〜2.0質量%含む水溶液中で行うことができる。当該水溶液中におけるほう酸の含有率が0.1質量%未満であると、得られる偏光フィルムの偏光度や耐久性が低下する傾向がある。一方、当該含有率が2.0質量%を超えると、ほう酸の使用量が多くなり偏光フィルムの製造コストが上昇するとともに、得られる偏光フィルム中におけるほう素原子の含有率が高くなる傾向がある。当該水溶液中におけるほう酸の含有率は1.0〜2.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.8質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
一軸延伸において使用される、ほう酸を含む上記水溶液の温度(延伸温度)は、30〜90℃の範囲内であることが好ましく、40〜80℃の範囲内であることがより好ましく、50〜70℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、上記水溶液はヨウ化カリウムを含有していてもよく、その濃度は0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0038】
一軸延伸する際の延伸倍率は、偏光性能に優れ、広面積の偏光フィルムが得られることから、一軸延伸前のPVAフィルムの長さに対する得られた偏光フィルムの長さとして、5倍以上であることが好ましく、6倍以上であることがより好ましく、6.5倍以上であることがさらに好ましく、7倍以上であることが特に好ましい。一方、延伸倍率の上限は特に制限されないが、均一に延伸することができることから、上記延伸倍率は10倍以下であることが好ましく、8倍以下であることがより好ましい。
【0039】
得られた偏光フィルムの厚みについて、使用されるPVAフィルムの厚みに対する偏光フィルムの厚みの割合は、0.35以下であることが好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.315以下であることがさらに好ましく、0.31以下であることが特に好ましい。当該割合は、延伸倍率の程度を調整することにより制御することができる。なお、当該割合は低ければ低いほど、より薄い偏光フィルムが得られることから好ましいが、取り扱い性の観点から、当該割合は0.1以上であることが好ましい。
【0040】
また、得られた偏光フィルムの有効面積について、使用されるPVAフィルムの面積に対する偏光フィルムの有効面積は、2.75倍以上であることが好ましく、2.90倍以上であることがより好ましく、2.93倍以上であることがさらに好ましく、2.95倍以上であることが特に好ましい。ここで、上記有効面積とは、得られた偏光フィルムのTD(幅方向)の長さのうち最も短い長さ(幅が最も狭い部分の長さ)と、MD(延伸方向)の長さとの積を意味する。上記倍率は、延伸倍率の程度を調整することにより制御することができるが、本発明の製造方法においては、より高倍率で延伸してもネックイン現象の程度を小さくすることができ、より広い有効面積を有する偏光フィルムを得ることができる。なお、上記倍率の上限値としては、例えば4倍が挙げられる。
【0041】
一軸延伸後のPVAフィルムを乾燥することにより偏光フィルムを得ることができる。乾燥処理における温度は、30〜150℃の範囲内であることが好ましく、50〜150℃の範囲内であることがより好ましい。
また、偏光フィルムの製造に際しては熱処理を行うことが好ましい。熱処理の具体的な方法としては、例えば、上記乾燥処理によりフィルムの水分率を10質量%以下とした後、当該フィルムに張力を掛けた状態で、熱処理として80〜120℃の範囲内の温度で1〜5分間処理する方法が挙げられる。当該方法によれば、寸法安定性、耐久性などに一層優れる偏光フィルムを得ることができる。
【0042】
PVAフィルムを用いて偏光フィルムを製造する際には、製造工程全体を通して、各工程通過前、通過中および通過後のPVAフィルムが、ほう酸を2.0質量%を超える濃度で含む水溶液と接触させないことが好ましく、これにより、偏光フィルムの製造コストをより一層削減することができるとともに、ほう素原子の含有率の低い偏光フィルムを容易に製造することができる。
【0043】
本発明の偏光フィルム中のほう素原子の含有率は、当該偏光フィルムの質量に基づいて、0.1〜2.0質量%の範囲内であり、0.2〜1.8質量%の範囲内であることが好ましく、0.4〜1.6質量%の範囲内であることがより好ましい。偏光フィルム中のほう素原子の含有率が上記範囲にあることにより、廃棄時などに環境への影響を小さくすることができる。偏光フィルム中のほう素原子の含有率が0.1質量%未満であると、偏光フィルムの偏光度が極端に悪くなり、耐久性も悪化する。なお、偏光フィルム中のほう素原子の含有率は、ICP発光分析装置を用いて測定することができる。
【0044】
本発明の偏光フィルムの厚みは薄ければ薄いほど好ましいが、偏光フィルムの取り扱い性も考慮すると、10〜40μmの範囲内であることが好ましく、14〜30μmの範囲内であることがより好ましく、18〜24μmの範囲内であることがさらに好ましい。偏光フィルムの厚さが上記範囲内であることにより、液晶表示装置等の部材のさらなる薄型化に寄与することのできる偏光フィルムとなる。なお、偏光フィルムの厚みは任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0045】
本発明の偏光フィルムは、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板とすることができる。保護膜としては、例えば、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを使用することができる。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、なかでもPVA系接着剤が好適である。
【0046】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置を構成する部材として好ましく使用することができる。この際、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどをさらに貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0047】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお以下の製造例、実施例および比較例において採用された、PVAフィルムの熱水切断温度および膨潤度、偏光フィルムの透過度(T)、偏光度(V)および有効面積(S)ならびに偏光フィルム中のほう素原子の含有率の各測定方法を以下に示す。
【0048】
PVAフィルムの熱水切断温度の測定:
5mm(TD)×30mm(MD)にカットしたPVAフィルムの長手方向先端から、そこより長手方向に5mmの部分にかけて、クリップにより重りを取り付けた。重りの質量はクリップの質量も含めて、PVAフィルムの膜厚1μmあたり0.05gとなるようにした。続いて、クリップにより重りを取り付けた部分も含め、PVAフィルムのクリップを取り付けた側の端から長手方向に10mmまでを40℃の蒸留水中に浸漬させた。次いで蒸留水の温度を3℃/分の昇温速度で上昇させて、フィルムが切断する温度を熱水切断温度(℃)とした。
【0049】
PVAフィルムの膨潤度の測定:
PVAフィルムを1.5g以上となるようにカットし、30℃の1000gの蒸留水中に浸漬した。30分浸漬後にPVAフィルムを取り出し、ろ紙で表面の水を吸い取った後、質量「A」を測定した。続いてそのPVAフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「B」を測定し、以下の式により膨潤度を算出した。
膨潤度(質量%)=A/B×100
【0050】
偏光フィルムの透過度(T)の測定:
偏光フィルムの透過度(T)は、紫外可視分光光度計「U−4100」(日立製作所製)を用いて以下のようにして測定した。なお、測定にあたっては、日本電子機械工業規格に基づく波長依存の重率関数が乗された380〜780nmにおける積分値(Y値)を測定した。
作製した偏光フィルムの中心部をTD(幅方向)×MD(延伸方向)=4cm×8cmのサイズに切り取り、切り取ったフィルムをMDの中央部でさらに2つに切り、偏光フィルムサンプル2枚(4cm×4cm)を得た。このうちの1枚の偏光フィルムサンプルを用いて、そのMD(延伸方向)が分光器に対して任意の角度に設定したときの透過度と、これを入射光に垂直な平面上で90°回転させたときの透過度とを測定し、これらの平均値を偏光フィルムの透過度(T)(単位:%)とした。
【0051】
偏光フィルムの偏光度(V)の測定:
上記偏光フィルムの透過度(T)の測定において作製した2枚の偏光フィルムサンプルをMDが互いに平行になるように重ねたときの透過度(T)(単位:%)を、1枚の偏光フィルムサンプルを用いた上記偏光フィルムの透過度(T)の測定と同様にして、任意の角度に設定したときの透過度と90°回転させたときの透過度との平均値として求めた。また、上記2枚の偏光フィルムサンプルをMDが直交するように重ねたときの透過度(T)(単位:%)を、上記と同様にして、任意の角度に設定したときの透過度と90°回転させたときの透過度との平均値として求めた。得られたTとTを用いて、以下の式により偏光フィルムの透過度(V)(単位:%)を算出した。
V(%)=[(T−T)/(T+T)]1/2×100
【0052】
偏光フィルムの有効面積(S)の測定:
偏光フィルムの有効面積(S)は、TDの長さのうち最も短い長さ(幅が最も狭い部分の長さ)を「a」、およびMDの長さを「b」として、以下の式により算出した。
S=a×b
【0053】
偏光フィルム中のほう素原子の含有率の測定:
偏光フィルム中のほう素原子の含有率の測定は、ICP発光分析装置「IRIS AP」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて行った。なお、測定サンプルは、偏光フィルムを10mg秤量後、吸収液にイオン交換水20mLを用いて酸素フラスコ燃焼を行い、0.45μmフィルターでろ過して調製した。
【0054】
[製造例1]
PVAフィルムのサンプルの製造:
平均重合度2400、けん化度99.95モル%のポリビニルアルコール100質量部と可塑剤としてグリセリン12質量部とを含み、ポリビニルアルコールの濃度が10質量%である水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥して、厚みが75μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを枠に固定して、140℃で3分間熱処理をした。得られた熱処理後のフィルムの熱水切断温度は68.2℃であり、膨潤度は200質量%であった。
また、上記熱処理後のPVAフィルムをカットしてサンプルを得た。サンプルのサイズは、一軸延伸される部分に対応する幅10cm×長さ4cmの部分と、一軸延伸する際の固定部分とを考慮し、幅10cm×長さ14cmとした。なお、サンプルの幅はPVAフィルム製造時のTD(長手方向に対して垂直方向)に対応し、長さはPVAフィルム製造時のMD(長手方向)に対応するようにした。
【0055】
[実施例1]
製造例1で得られたPVAフィルムのサンプル2枚を30℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素を0.05質量%、ヨウ化カリウムを2.5質量%およびほう酸を1質量%の割合で含有する30℃の水溶液(染色浴)に2.5分間浸漬してヨウ素を吸着させた。次いで、ほう酸を2質量%、ヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する52.5℃の水溶液(延伸浴)中において、上記2枚のサンプルを並列させた状態で同時に一軸延伸したところ、延伸倍率7.5倍のときに一方のサンプルが破断したため延伸を止めた。その後、破断しなかった方の一軸延伸後のフィルムを50℃で4分間乾燥することにより偏光フィルムを得た。
この偏光フィルムの透過度(T)は44.5%、偏光度(V)は99.4%、TDの長さのうち最も短い長さは4.1cm、MDの長さは30.0cm(有効面積(S)は123.0cm;使用したサンプルの一軸延伸される部分の面積に対して3.1倍)、厚みは23μm(使用したサンプルの厚みに対して0.31倍)であった。また偏光フィルム中のほう素原子の含有率は1.2質量%であった。
【0056】
[実施例2]
製造例1で得られたPVAフィルムのサンプル2枚を30℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素を0.05質量%、ヨウ化カリウムを2.5質量%およびほう酸を1質量%の割合で含有する30℃の水溶液(染色浴)に3.5分間浸漬してヨウ素を吸着させた。次いで、ほう酸を1質量%、ヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する52.5℃の水溶液(延伸浴)中において、上記2枚のサンプルを並列させた状態で同時に一軸延伸したところ、延伸倍率7.5倍のときに一方のサンプルが破断したため延伸を止めた。その後、破断しなかった方の一軸延伸後のフィルムを50℃で4分間乾燥することにより偏光フィルムを得た。
この偏光フィルムの透過度(T)は44.4%、偏光度(V)は99.6%、TDの長さのうち最も短い長さは4.0cm、MDの長さは30.0cm(有効面積(S)は120.0cm;使用したサンプルの一軸延伸される部分の面積に対して3.0倍)、厚みは22μm(使用したサンプルの厚みに対して0.29倍)であった。また偏光フィルム中のほう素原子の含有率は0.8質量%であった。
【0057】
[比較例1]
製造例1で得られたPVAフィルムのサンプル2枚を30℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素を0.05質量%、ヨウ化カリウムを2.5質量%およびほう酸を1質量%の割合で含有する30℃の水溶液(染色浴)に2.5分間浸漬してヨウ素を吸着させた。次いで、ほう酸を4質量%、ヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する52.5℃の水溶液(延伸浴)中において、上記2枚のサンプルを並列させた状態で同時に一軸延伸したところ、延伸倍率6.0倍のときに一方のサンプルが破断したため延伸を止めた。その後、破断しなかった方の一軸延伸後のフィルムを50℃で4分間乾燥することにより偏光フィルムを得た。
この偏光フィルムの透過度(T)は44.5%、偏光度(V)は99.6%、TDの長さのうち最も短い長さは4.4cm、MDの長さは24.0cm(有効面積(S)は105.6cm;使用したサンプルの一軸延伸される部分の面積に対して2.6倍)、厚みは28μm(使用したサンプルの厚みに対して0.37倍)であった。また偏光フィルム中のほう素原子の含有率は3.2質量%であった。
【0058】
[比較例2]
製造例1で得られたPVAフィルムのサンプル2枚を30℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素を0.05質量%、ヨウ化カリウムを2.5質量%およびほう酸を1質量%の割合で含有する30℃の水溶液(染色浴)に2.5分間浸漬してヨウ素を吸着させた。次いで、ほう酸を3質量%、ヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する52.5℃の水溶液(延伸浴)中において、上記2枚のサンプルを並列させた状態で同時に一軸延伸したところ、延伸倍率6.6倍のときに一方のサンプルが破断したため延伸を止めた。その後、破断しなかった方の一軸延伸後のフィルムを50℃で4分間乾燥することにより偏光フィルムを得た。
この偏光フィルムの透過度(T)は44.8%、偏光度(V)は99.1%、TDの長さのうち最も短い長さは4.3cm、MDの長さは26.4cm(有効面積(S)は113.5cm;使用したサンプルの一軸延伸される部分の面積に対して2.8倍)、厚みは25μm(使用したサンプルの厚みに対して0.33倍)であった。また偏光フィルム中のほう素原子の含有率は2.8質量%であった。
【0059】
以上の結果を以下の表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1および2では、高い延伸倍率での延伸が可能でより広い有効面積を有する偏光フィルムを得ることができ、しかも、得られた偏光フィルムは厚みが薄く、ほう素原子の含有率も低かった。一方、比較例1および2では、高い延伸倍率での延伸が困難であり、有効面積の狭い偏光フィルムが得られ、しかも、得られた偏光フィルムの厚みが厚くほう素原子の含有率も高かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の偏光フィルムは、液晶テレビ、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などの液晶表示装置を構成する部材となる偏光板を製造するための材料として好ましく使用することができる。中でも、薄型化や軽量化が要求されるノートパソコンや携帯電話、さらには大画面化が要求される液晶テレビや液晶モニターなどに使用される液晶表示装置を構成する偏光板を製造するための材料として特に有効に使用することができる。