【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず、金属粉末焼結体における緻密化の機構を再確認することから検討を行った。本発明者等による金属粉末焼結体からなる封止材は、焼結体として固化された後も加圧することで緻密性が更に増すようになっている。これは、適用される金属粉末の純度、粒径に基づく特性を利用したものである。この加圧による緻密化は、金属粉末焼結体を構成する金属粉末の塑性変形・結合と言った物理的な変化、及び、加圧と加熱により印加される熱的エネルギーによる再結晶による金属組織的な変化、のいずれかによる作用又はそれらが重畳的に作用して生じるものである。
【0012】
もっとも、金属粉末焼結体の塑性変形・結合は、圧力が一方向(垂直方向)に作用した状態を想定するものであり、そうであれば規則的な変形・結合の進展により隙間のない緻密化が生じる(
図1(a))。しかし、実際には、金属粒子の集合体からなる封止材の側面は拘束のない自由表面であるため、加圧力は横方向へ分断されることとなる(
図1(b))。この分断された加圧力により金属粒子間に隙間が生じ、これがボイドとして残留する可能性があるため、ボイド形成を防止するために過剰な加圧が必要であった。
【0013】
本発明者等は、以上のような金属粉末焼結体からなる封止材の緻密化の機構を想定し、加圧力を低減しつつ封止材にボイドを残留させないようにするためには、加圧力の横方向への分断を回避することが好適な方策であると考えた。そして、その具体的手段として、基板上に封止材より幅狭の突起を設け、この突起で封止材を選択的・優先的に加圧圧縮することが有効であることを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、少なくとも一方に封止材が形成された一対の基板を重ね合わせて接合することで、前記封止材により包囲された封止領域の内部を気密封止する工程を含むパッケージの製造方法において、前記封止材は、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末を焼結してなる焼結体より形成されたものであり、基板上に、断面形状において前記封止材の幅よりも狭い幅を有し、周囲から突出する芯材が少なくとも一つ形成されており、前記一対の基板を接合するとき、前記芯材が前記封止材を圧縮するようになっていることを特徴とするパッケージの製造方法である。
【0015】
本発明に係るパッケージ封止方法では、基板上に封止材よりも幅狭で突出した突起(芯材)を備える(
図2(a))。この芯材を備えた基板を、封止材を介して他方の基板に重ねて封止するとき、芯材と封止材との接触面が優先的に加圧される。このとき芯材と接触する金属粉末は、周囲の金属粉末の拘束を受けることで、ほぼ一方向の加圧力により圧縮される。そして、この選択的に加圧された金属粉末から変形を開始し、上述した塑性変形と再結晶とのいずれか一方又は双方の作用により緻密化された領域が形成される。本願ではこのように緻密化された領域を緻密化領域と称する(
図2(b))。緻密化領域は基板の加圧を継続することで拡大し、芯材の位置に対応した柱状の緻密化領域が形成される(
図2(c))。この柱状の緻密化領域は、その一部又は全部が再結晶しているか、再結晶していなくとも連続したボイド(空隙)のない十分に緻密化された組織を有するため、そこに囲まれた封止領域は高い気密性が確保されている。
【0016】
以上のような柱状の緻密化領域の形成にあたっては、上部の基板と封止材との接触が部分的なものとなっているため、封止材全面を加圧して全体を緻密化領域にしようとする従来法と比較すると低荷重で実行することができる。従って、本発明によれば、封止時の基板への荷重を低減しつつ、封止材に囲まれた領域を封止することができる。
【0017】
以下、本発明に係る方法について詳細に説明する。まず、本発明における基板とは、その表面上に少なくとも一つの封止領域を形成する必要のある部材であり、シリコンウエハ、金属ウエハの他、樹脂基板であっても良い。尚、基板には予め封止領域内に各種機能デバイス等が設置されていても良い。尚、本発明では封止領域を形成する基板として、一対の基板と表現しているが、それらの基板は同じ寸法である必要はない。
【0018】
本発明では、金属粉末焼結体からなる封止材を少なくともいずれか一方の基板に形成し、基板同士を接合することで封止領域を形成するものである。本発明における封止材とは、金属粉末の焼結体である。この封止材の形成方法は後に詳述するが、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属からなる金属粉末を焼結したものである。焼結体形成のための金属粉末の条件について、高純度の金属を要求するのは、純度が低いと粉末の硬度が上昇し、焼結体とした後の変形・再結晶化が進行しがたくなり、封止作用を発揮しないおそれがあるからである。また、後述の通り、焼結体形成には金属粉末と溶剤とからなる金属ペーストが適用され、これにはガラスフリットが含まれない。そのため、形成された封止材は、粉末と同様の高純度金属からなる。具体的には、純度99.9重量%以上の金属で構成される。
【0019】
また、封止材の密度は、その圧縮時における緻密化領域の形成可否に影響を及ぼす。封止材を構成する焼結体の密度が低い場合、圧縮を受けても金属粉末の塑性変形・結合が進行し難くなり、緻密化領域が形成されない、又は、封止効果を期待するのに十分な幅を形成できない。この封止材を構成する焼結体の相対密度については、構成する金属粒子のバルク体(鋳造、メッキ等により同一組成で製造されるバルク材)に対して、60%以上の密度であることが好ましい。特に、好ましくは70%以上であり、このようにバルク体の密度に近い焼結体を適用することで、芯材幅に近いサイズの緻密化領域を得ることができる。
【0020】
尚、封止材の形状としては、特に定められることはない。その断面形状の例として、矩形や台形等が挙げられる。尚、封止材が形成される基板に芯材を設置する場合、封止材は芯材の頂面を覆うことが要求されるが、この場合もその要求さえ具備すれば良く、形状について制限されることはない。
【0021】
そして、本発明は金属粉末焼結体からなる封止材を選択的・優先的に加圧圧縮するための突起である芯材を適用する。ここで、芯材と封止材の配置パターンは複数考え得る。即ち、封止材をいずれか一方の基板に形成する場合においては、封止材のない他方の基板に芯材を設置しても良いし(
図3(a))、封止材を形成する基板に芯材を設置しても良い(
図3(b))。また、封止材を双方の基板に形成することもでき、芯材を封止材が形成された基板の少なくともいずれか一方に形成することができる(
図3(c)、(d))。
【0022】
封止材を形成する基板に芯材を設置する場合(
図3(b)〜(d))、芯材の少なくとも頂面部分が封止材で覆われていることを要する。本発明では芯材が封止材を加圧することで緻密化を図るものであるから、芯材の頂面に封止材がなければ効果がないからである。封止材は少なくとも頂面を覆っていれば良いので、芯材全体を覆っても良いし、部分的なものでも良い。
【0023】
芯材の形態としては、基板上に凸状金属を積層させたものが挙げられる(
図4(a))。例えば、メッキ法(電解メッキ、無電解メッキ)、スパッタリング法、CVD法等により形成される金属層や非金属層を適用しても良い。また、芯材は基板を加工しても形成することができる。例えば、基板をエッチング等で局所的に減肉し、芯材両側に隣接する領域に凹部を形成することで、断面凸状の芯材を形成することができる(
図4(b))。このとき、芯材の頂面と基板表面とが面一になっていても良いし段差を生じさせても良い。
【0024】
芯材はバルク体であることを要する。加圧力を効果的に伝播し、封止材の緻密化を図るためである。構成材料としては、基板と同じでも良いし、封止材を構成する金属材料と同じでも良いし、それらとは相違する材質でも良い。また、芯材は、多層構造を有していても良い。上記のように、基板をエッチング加工して芯材を形成する場合、芯材と基板とは同材質となる。また、メッキ法等で金属を積層して芯材と形成する場合には、様々な材質の芯材を形成できる。メッキ法等による場合の芯材の材質は、銅、ニッケル、金、白金、銀等の導電性金属を適用するのが好ましい。
【0025】
芯材の形状は、その周囲から突出したものであれば良く、形状に制限はない。芯材の断面形状については、三角形、矩形、台形等が挙げられる。そして、芯材は、封止材を加圧するものであるから、封止材の形成パターンに対応して形成される。例えば、封止材をリング状(丸型、矩形)に形成してその領域内の封止を行う場合、その封止材のパターンと相似形のリング状パターンで芯材を形成する。このとき、芯材は少なくとも1つ必要であるが、封止材の幅の範囲内で複数形成しても良い(
図5)。
【0026】
芯材の幅(W´)は、封止材の幅(W)に対する比(W´/W)で0.05以上0.95以下とするのが好ましい。0.05未満では、緻密化される封止材の幅も細すぎて気密封止効果が疑わしくなる。また、0.95を超えると、加圧力の分断のない封止材の圧縮が困難となる。W´/Wは、0.1以上0.8以下がより好ましい。尚、芯材の幅とは頂面の幅とし、複数の芯材を形成したときはそれぞれの封止材の幅の合計となる。また、封止材の幅とは、その底面である基板との接触面の幅とする(
図6)。
【0027】
ここで、本発明においては、基板及び芯材の表面に、金、銀、パラジウム、白金、チタン、クロム、銅、タングステン、ニッケル、又は、これらの金属の合金から選択される一種以上のバルク状の金属膜が形成されていることが好ましい。本発明者等の検討によれば、封止材を構成する金属粉末の緻密化は、バルク体の芯材により加圧されることで進展するが、緻密化は当該バルク体との接合界面付近で困難となる。そこで、基板にバルク状の金属膜を形成し、その上に封止材を形成することで、基板と封止材との密着性を高め、緻密化を促進させることができる。この下地膜ともいうべき金属膜は、両方の基板に設定しておくと良い。これにより、封止材は芯材の金属膜と基板の金属膜の2つのバルク体に挟まれて加圧されるので、芯材と封止材との接合界面、及び、封止材と基板との界面の双方において良好な緻密化がなされる。また、一方の基板に芯材を形成し、他方の基板に封止材を形成するときには、当該他方の基板に封止材の下地膜として金属膜を形成することで2つの界面で緻密化を図ることができる。また、金属膜は双方の基板に形成しても良い。更に、芯材表面に金属膜を形成しても良い。芯材への金属膜の形成は、芯材の材質によっては有用である。
【0028】
金属膜の材質は、金、銀、パラジウム、白金、チタン、クロム、銅、タングステン、ニッケル、又は、これらの金属の合金のいずれかよりなるが、これは、封止材への密着性や導電性等を考慮したものである。金属膜は、メッキ法、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等により形成されたものが好ましい。尚、金属膜は、単層又は多層構造のいずれでも良いが封止材と接触する層の金属は金属粉末の金属と同材質の金属とするのが好ましい。金属膜の厚さとしては、0.01μm以上5μm以下とするのが好ましい。
【0029】
次に、本発明に係るパッケージの製造方法について、基板への芯材及び封止材の製造工程、及び、それらを形成した基板によるパッケージ封止工程の詳細について説明する。
【0030】
芯材の形成方法は、上記の通り、その形態により、平坦な基板の上に凸状に金属を積層させたものは、メッキ法、スパッタリング法、CVD法等により形成できる。また、芯材は基板の加工で形成することができ、基板をエッチング加工することでリム状の芯材を形成することができる。
【0031】
封止材の形成について説明すると、使用される金属ペーストは、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末と有機溶剤とからなるものである。金属粉末の純度を99.9%以上とするのは、上記の通り、焼結体としたときの変形能、再結晶化を考慮することに加え、導電性の確保も考慮するものである。また、金属粉末の平均粒径を0.005μm〜1.0μmとするのは、1.0μmを超える粒径の金属粉では、微小幅の封止材を設定すると隙間が埋まり易くなるからであり、0.005μm未満の粒径では、金属ペースト中で凝集しやすくなり取り扱い性が悪化するからである。
【0032】
金属ペーストで用いる有機溶剤としては、エステルアルコール、ターピネオール、パインオイル、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、カルビトール、イソボルニルシクロヘキサノール(製品名としてテルソルブMTPH: 日本テルペン化学株式会社製等がある)、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(製品名として日香MARS: 日本香料薬品株式会社製等がある)、ジヒドロ・ターピネオール(製品名として日香MHD: 日本香料薬品株式会社製等がある)が好ましい。
【0033】
塗布する金属ペーストの金属粉末と有機溶剤との配合割合については、金属粉末を80〜99重量%とし有機溶剤を1〜20重量%として配合するのが好ましい。かかる割合にするのは、金属粉末の凝集を防ぎ、封止材を形成するのに十分な金属粉末を供給できるようにするためである。
【0034】
尚、金属ペーストは、添加剤を含んでも良い。この添加剤としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキッド樹脂から選択される一種以上がある。例えば、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル重合体を、セルロース系樹脂としては、エチルセルロースを、アルキッド樹脂としては、無水フタル酸樹脂を、それぞれ挙げることができる。これらの添加剤は、金属ペースト中での金属粉末の凝集を抑制する作用を有し、金属ペーストを均質なものとする。添加剤の添加量は、金属ペーストに対して2重量%以下の割合とすることが好ましい。安定した凝集抑制効果を維持しつつ、金属粉含有量を貫通孔充填に十分な範囲内とすることができる。
【0035】
但し、本発明における金属ペーストは、電極・配線パターン形成等で広く用いられている一般的な金属ペーストと相違しガラスフリットを含まない。本発明で金属ペーストにガラスフリットを混合しないのは、微細で緻密な枠状の封止材を形成するためであり、緻密化を阻害しうる不純物を残留させないためである。尚、金属ペーストを構成する有機溶剤等の金属粉末以外の成分は、充填後の乾燥、焼結工程で消失するので、ガラスフリットのような阻害要因とはならない。
【0036】
封止材形成工程において、基板への金属ペーストの塗布方法については、特に限定はない。また、金属ペースト塗布後は、金属ペーストの乾燥を行うのが好ましい。乾燥温度は150〜250℃以下で行うのが好ましい。金属ペーストを焼結するときの加熱温度は150〜300℃とするのが好ましい。150℃未満では、金属粉末を十分に焼結できないからであり、300℃を超えると、焼結が過度に進行し、金属粉末間のネッキングの進行により硬くなり過ぎる。また、焼成時の雰囲気は、大気、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)、1〜5%の水素を混合した不活性ガス等が選択される。更に焼成時間は30分〜8時間とするのが好ましい。焼結時間が長すぎると、焼結が過度に進行し、金属粉末間のネッキングの進行により硬くなり過ぎるといった問題が生じるからである。
【0037】
以上の金属ペーストの塗布、焼結により金属粉末は焼結固化され、金属粉末焼結体からなる封止材が形成される。
【0038】
そして、上記のようにして芯材、封止材を形成した基板による封止方法は、一対の基板を封止材を介して重ねて配置し、加熱しつつ加圧して封止材を緻密化させるものである。
【0039】
このときの加熱・加圧条件としては、加熱温度は80〜300℃とするのが好ましい。基板や基板上の素子の損傷を抑制しつつ金属粉末の緻密化を進行させるためである。好ましくは、加熱温度は150〜250℃とする。
【0040】
この加熱・加圧処理の時間は、設定された加熱温度に到達してから0.5〜3時間とするのが好ましい。そして加熱・加圧処理により、封止材は、山部が潰れ、基部の山部直下付近において優先的に金属粉末の塑性変形、再結晶が生じて緻密化する。これにより形成される緻密化領域は上部の基板と封止材との接触が部分的なものとなっているため、封止材の全面を押圧して全体を緻密化させる従来法と比較すると低荷重で気密封止が確立される。
【0041】
以上の工程により製造されるパッケージは、封止材である金属粉末焼結体を介して一対の基板が接合されたものであり、その封止材の構成として金属粉末焼結体内部に芯材及び芯材の位置に対応して、断面柱状の緻密化領域を有するものである。この断面柱状の緻密化領域により、封止材で囲まれた領域の気密性が確保されている。尚、緻密化領域とは、上記したように、その一部又は全部が再結晶しているか、再結晶していなくとも連続したボイド(空隙)のない十分に緻密化された組織を有する金属相である。その密度は、同一組成のバルク状金属に対して98%以上100%以下の密度を有する。