特許第5931657号(P5931657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5931657
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/08 20060101AFI20160526BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20160526BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20160526BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20160526BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   H01L35/08
   H01L35/14
   H01L35/34
   H01L35/32 A
   H02N11/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-195703(P2012-195703)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2013-70044(P2013-70044A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2015年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-196426(P2011-196426)
(32)【優先日】2011年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】東平 知丈
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸一
(72)【発明者】
【氏名】地主 孝広
(72)【発明者】
【氏名】石島 善三
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−094131(JP,A)
【文献】 特開2010−129636(JP,A)
【文献】 特開2000−091649(JP,A)
【文献】 特開2006−332443(JP,A)
【文献】 特開2006−156993(JP,A)
【文献】 特開2009−038323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00−34
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の熱電素子と、
n型の熱電素子と、
金属電極と、を有し、
前記p型の熱電素子と前記金属電極とが中間層を介して接合され、さらに前記金属電極
と前記n型の熱電素子とが中間層を介して接合されており、
前記p型の熱電素子と前記n型の熱電素子は少なくともシリコン成分を含有し、
前記中間層は、少なくともアルミニウム成分及びシリコン成分とを含有する層であって、
前記中間層は、前記金属電極の界面近傍にアルミニウム成分よりも前記熱電素子の成分を多く含む部分を有する
ことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記p型の熱電素子または前記n型の熱電素子は、シリコン−ゲルマニウム熱電素子、
マグネシウムシリサイド系の熱電素子またはマンガンシリサイド系の熱電素子であること
を特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記電極は、モリブデン、銅、タングステン、チタンまたはニッケルを含有しているこ
とを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記p型の熱電素子または前記n型の熱電素子は、シリコン−ゲルマニウム系の熱電素子であって、
前記中間層は、ゲルマニウム成分とアルミニウム成分とシリコン成分とを有する層であって、アルミニウム成分よりもシリコン成分とゲルマニウム成分とを多く含む部分を有すること
ことを特徴とする請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記p型の熱電素子または前記n型の熱電素子は、マグネシウムシリサイド系の熱電素子であって、
前記中間層、マグネシウム成分とアルミニウム成分とシリコン成分とを有する層であって、アルミニウム成分よりもシリコン成分とマグネシウム成分とを多く含む部分を有すること
を特徴とする請求項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記p型の熱電素子または前記n型の熱電素子は、マンガンシリサイド系の熱電素子であって、
前記中間層は、マンガン成分とアルミニウム成分とシリコン成分とを有する層であって、アルミニウム成分よりもシリコン成分とマンガン成分とを多く含む部分を有すること
を特徴とする請求項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子と電極との接合信頼性を向上させた熱電変換モジュールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換モジュールは、駆動部がなく、無振動であり、構造が単純であるため、メンテナンスフリー等のメリットを持つ。一方で、熱電変換モジュールは、エネルギー変換効率が低いため、宇宙等用途が限られた場所で使用されてきた。しかしながら近年、環境問題に対する関心からこれまで廃熱として無駄に捨てられていた熱エネルギーを回収する方法として注目を浴び、自動車、工業炉、ごみ焼却炉等に用いられることが期待されており、熱電変換モジュールのコスト低減、耐久性の向上が望まれている。
【0003】
しかしながら、現在、実用化されている熱電変換モジュールは、例えば特許文献1に記載されているように、ビスマス−テルル系が主であり、使用温度域が300℃以下と低温に限られているため、上述した工業炉や自動車等への熱電変換モジュールの適用を考えると、ビスマス−テルル系よりもさらに高温で動作可能なシリコン−ゲルマニウム系、マグネシウムシリサイド系、マンガンシリサイド系等の熱電変換モジュールが必要となる。
【0004】
従来、ビスマス−テルル系熱電変換素子と電極は、一般に、はんだ等の軟ろう材により接合されていたが、上記のような高温系熱電変換素子を軟ろう材にて接合した場合、熱電変換モジュールの使用環境下で軟ろう材が溶融し、流出することによって、熱電変換素子と電極の接合信頼性が低下するおそれがあり、軟ろう材を使用する場合には、熱電変換モジュールの耐熱温度に限界があった。
【0005】
これに対して特許文献1には、ビスマス−テルル系又は鉛―テルル系のP型またはN型の導電形式を有する半導体の一部とCu電極との間に、Al,MgおよびTiから成るグループのうちの1又はそれらの合金である介在層を設けて、耐熱性の高い硬ろうを使用することにより、熱電変換モジュールの耐熱性を高め、電極材料のCuが半導体側へ拡散するのを防止して接合することが記載されている。
【0006】
一方、特許文献2には、軟ろう材を使用することに起因する不具合を解消するため、熱電変換素子端部が銀からなる介在層を介して電極材と熱電変換素子が硬ろう材により接合された熱電変換モジュールについて記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、P型コバルト−アンチモン系熱電変換素子と電極部材との間、及びn型コバルト−アンチモン系熱電変換素子と電極部材との間にそれぞれアルミニウムを主成分とする薄膜層を形成してそれぞれを接合することが記載されている。
【0008】
更に、特許文献4には、マグネシウムシリサイド(Mg−Si)系合金から成るP型熱電素子とN型熱電素子とをそれぞれ、チタン又はチタン合金層、又はチタン又はチタン合金層とアルミニウム又はアルミニウム合金層とを中間層として電極との間に挟み込んで接続した構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−293906号公報
【特許文献2】特開2005−317834号公報
【特許文献3】特開2003−304006号公報
【特許文献4】特開2006−49736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような熱電変換素子と電極との接合を行う場合は以下のような課題が挙げられる。
(1)はんだ接合
現在主流となっている鉛フリーはんだの場合は、はんだの融点がおおよそ220℃であり、高温系鉛フリーはんだにおいても融点はせいぜい400℃以下である。それに加えて、高温系鉛フリーはんだでは、はんだ材が脆い、低熱伝導、ぬれ性が悪い、高コスト等様々な課題がある。
(2)加圧、圧着
熱電素子と電極との接合形態が接触であるため、接触界面での接触熱抵抗により、熱電変換モジュールの変換効率の低下が懸念される。また、接触熱抵抗を軽減させるために、加圧力を高めた場合、熱電変換モジュールの使用環境下では、加圧力に加えて、熱応力も負荷されるため、熱電変換モジュールの信頼性が低下することが懸念される。
(3)硬ろう材による接合
硬ろう材は融点が概ね600〜800℃とはんだ材よりも融点が高く、接合材として高温環境下での適用が可能である。銀を主成分とした銀ろう、金を主成分としたものが金ろう等があるが、一般的に高温系モジュールの接合材として使用されるろう材は接合強度が5〜25MPa程度であり、接合強度が低く、さらに大気中での高温環境下では、酸化により接合部の劣化が激しく、接合信頼性がさらに低下してしまう問題がある。
(4)中間層を挟んだ接合
特許文献3及び4に記載されているように、熱電素子と電極との間にアルミニウム又はアルミニウムの合金を挟んで熱電素子と電極とを接続することが開示されている。しかし、特許文献3に記載されている方法では、接合時に525℃以上575℃以下に加熱した状態で300kg/cm以上700kg/cm以下の圧力をかけており、熱電素子にダメージを与えてしまい熱電素子と電極間の接合信頼性を低下させてしまう恐れがある。また、特許文献4に記載されている方法でも、接合時に600〜700℃に加熱した状態で数十MPa程度の圧力をかけており、熱電素子にダメージを与えてしまい熱電素子と電極間の接合信頼性を低下させてしまう恐れがある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、高温用の熱電素子と電極を接合する構造において、熱電素子と電極の接合強度が高く、高温環境下でも熱電素子および電極間の接合信頼性の低下を抑制することができる熱電変換モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明の熱電変換モジュールは、 p型の熱電素子と、n型の熱電素子と、金属電極と、を有し、p型の熱電素子と金属電極とが中間層を介して接合され、さらに金属電極とn型の熱電素子とが中間層を介して接合されており、p型の熱電素子とn型の熱電素子は少なくともシリコン成分を含有し、中間層は、少なくともアルミニウム成分及びシリコン成分とを含有する層であって、中間層は、金属電極の界面近傍にアルミニウム成分よりも熱電素子の成分を多く含む部分を有するように形成した。
【0014】
具体的には、前記p型の熱電素子とn型の熱電素子の少なくとも一方に、シリコン−ゲルマニウム系の熱電素子を用いた場合には、前記中間層は、アルミニウムとシリコンとゲルマニウムとの合金を含むようにした。 前記p型の熱電素子とn型の熱電素子の少なくとも一方に、マグネシウムシリサイド系の熱電素子を用いた場合には、アルミニウムとシリコンとマグネシウムとの合金を含むようにした。前記p型の熱電素子とn型の熱電素子の少なくとも一方に、マンガンシリサイド系の熱電素子を用いた場合には、前記中間層が、アルミニウムとシリコンとマンガンとの合金を含むようにした。
【0015】
上記した課題を解決するために、本発明の第一の熱電変換モジュールの製造方法は、 電極板の一方の面の側に、p型の熱電素子とn型の熱電素子とをそれぞれ中間層形成部材を挟んで設置する工程と、p型の熱電素子とn型の熱電素子とをそれぞれ電極板の一方の面の側に押し付けながら加熱して溶融させる工程と溶融された中間層形成部材を冷却しp型の熱電素子と電極板との間と、を接合し、n型の熱電素子と電極板とを接合する工程と、を有、p型の熱電素子とn型の熱電素子、成分としてシリコンを含有するものであり、中間層形成部材、アルミニウム、またはシリコン熱電素子の成分を含有させたアルミニウム合金からなるものであり、加熱は、中間層部材が溶融される温度で行うようにした。
【0016】
また、本発明の第二の熱電変換モジュールの製造方法は、p型の熱電素子n型の熱電素子の両端それぞれ中間層形成部材を介して電極板で挟んで設置する工程と、電極板をp型の熱電素子n型との熱電素子の側に押し付けながら加熱して中間層形成部材を溶融させる工程と溶融された中間層形成部材を冷却しp型の熱電素子と電極板との間と、を接合し、n型の熱電素子と電極板とを接合する工程と、を有し、p型の熱電素子とn型の熱電素子、成分としてシリコンを含有するものであり、中間層形成部材、アルミニウム、またはシリコン熱電素子の成分を含有させたアルミニウム合金からなるものであり、加熱は、中間層部材が溶融される温度で行うようにした。
【0017】
上記の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記中間層形成部材として、アルミニウム箔、アルミニウム中に少なくとも前記シリコンを成分として含有したアルミニウム合金箔、アルミニウム粉末、およびアルミニウム中に少なくとも前記シリコンを成分として含有したアルミニウム合金粉末のうちの少なくとも1種を用い、前記シリコンを成分として含有する熱電素子と電極の間に挟持して配置した。
【0018】
また、前記中間層形成部材として、前記シリコンを成分として含有する熱電素子の電極と接合する端部と、前記電極の前記シリコンを成分として含有する熱電素子と当接する部分のうち、少なくとも一方に、アルミニウム、およびアルミニウム中に少なくとも前記シリコンを成分として含有したアルミニウム合金の少なくとも1種からなる金属層を形成し、中間層形成部材とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明の特徴は、金属接合による高強度接合であること、高温環境下におかれても接合信頼性を確保できることである。
【0020】
これにより、高温環境下で使用される熱電変換モジュールにおいて、各部材の熱膨張率の差により接合部には熱応力が負荷されるが耐熱疲労性に優れた接合部を形成することができる。さらに、高温環境下で熱電変換モジュールが使用される場合、接合部の強度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る熱電変換モジュールの概略の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る熱電変換モジュール単体の正面図である。
図3A】本発明の第一の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極との間に金属箔を設置した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図3B】本発明の第一の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極とを間に挟んだ金属箔を介して加熱しながら互いに押し付け加圧している状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図3C】本発明の第一の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極とを加熱しながら互いに押し付け加圧して間に挟んだ金属箔を溶融させた後に加圧を解除して冷却させることにより合金を形成して接合した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図4A】本発明の第一の実施形態による接合部断面のSEM像である。
図4B】本発明の第一の実施形態による接合部断面のEDXによる各種元素の分布状況を示す図である。
図5】本発明の第一の実施形態による接合部断面の模式図である。
図6A】本発明の第一の実施形態の変形例で、金属箔に変えて熱電素子側に金属層を用いて熱電素子と電極とを加熱加圧して接合した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図6B】本発明の第一の実施形態の変形例で、金属箔に変えて電極側に金属層を用いて熱電素子と電極とを加熱加圧して接合した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図7】本発明の第二の実施形態による熱電変換モジュール単体の正面図である。
図8A】本発明の第二の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極との間に金属箔を設置した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図8B】本発明の第二の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極とを間に挟んだ金属箔を介して加熱しながら互いに押し付け加圧している状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図8C】本発明の第二の実施形態による熱電変換モジュールの製造方法において、熱電素子と電極とを加熱しながら互いに押し付け加圧して間に挟んだ金属箔を溶融させた後に加圧を解除して冷却させることにより合金を形成して接合した状態を模式的に示した熱電素子と電極との正面図である。
図9】本発明の第一の実施例による接合強度実験の結果として、高温放置時間とシェア強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る熱電変換モジュール100の外観の一例を示す。熱電変換モジュール100は、外部を覆うケース101の内部に、電極10とn型熱電素子21、p型熱電素子22とが交互に2次元並列されており、多数の電極10によりn型熱電素子21とp型熱電素子22とが電気的に直列に接続されている。多数の電極10は、それぞれケース101の内壁面1011に密着されており、ケース101の外壁面のうち上側の面1012は発熱体に接触し、下側の面1013は、図示していない冷却手段により冷却されている。ケース101の内部に2次元配列された電極10のうち端部に配置された電極10'には端子102が形成されていて、端子102にはケース101の外部に延びるリード線が接続されており、熱電変換モジュール100で発生させた電力を外部に出力する。
【0023】
図1に示した電極10とn型熱電素子21、p型熱電素子22とで構成される電熱変換モジュール単体について、本発明の第一の実施形態の熱電変換モジュールについて図2を用いて説明する。図2は、熱電変換モジュール単体を構成する電極10とn型熱電素子21、p型熱電素子22の組合せの一例を示す概略断面図である。図2において、1は熱電変換モジュール単体、10は電極、21はn型熱電素子、22はp型熱電素子、30は中間層である。
【0024】
n型熱電素子21は、n型半導体の特性を付与する1%以下のリン、アンチモン等の不純物を含有したシリコン−ゲルマニウム粉末を、p型熱電素子22は、p型半導体の特性を付与する1%以下のボロン、アルミニウム、ガリウム等の不純物を含有したシリコンとゲルマニウム粉末を、それぞれパルス放電法やホットプレス法等により焼結したシリコン−ゲルマニウム熱電素子である。また、n型熱電素子21とp型熱電素子22と(以下、これらを総称して熱電素子20と記す)は、マグネシウムシリサイド粉末をパルス放電法やホットプレス法等により焼結したマグネシウムシリサイド熱電素子、マンガンシリサイド粉末をパルス放電法やホットプレス法等により焼結したマンガンシリサイド熱電素子等としてもよい。以下、熱電素子20をシリコン−ゲルマニウム熱電素子として説明する。
【0025】
電極10はモリブデン、又は銅、タングステン、チタン、ニッケル単体、又はそれらを含む金属の合金、又は、それらの単体又は合金を重ねた複数層の構成からなるものであればよい。以下、電極10をモリブデン電極として説明する。
【0026】
中間層30は、熱電素子20がシリコンとゲルマニウムを主成分とすることから、アルミニウムとシリコンとゲルマニウムを含む層として形成される。
【0027】
図3A乃至図3C図2に示す本発明の第一の実施形態の熱電変換モジュール単体1の製造方法を示す概略説明図である。図3A乃至図3Cにおいて、10は電極、20は熱電素子、31は金属箔、30は接合の結果生成された中間層である。ここで、電極10はモリブデンを主成分とする金属、熱電素子20は、シリコン−ゲルマニウムを主成分とする半導体である。
【0028】
金属箔31は、アルミニウムまたは、アルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有したアルミニウム合金箔、または、アルミニウム、アルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有した粉末からなる箔粉等であればよく、厚さは、数μmから数10μmである。以下、金属箔31をアルミニウム箔として説明する。
【0029】
熱電変換モジュール単体1は複数を同時に形成されるが、その製造方法は、先ず、電極10を吸引吸着できる電極整列治具(図示せず)にモリブデンを主成分とする複数の電極10(以下、モリブデン電極10と記す)を搭載し、熱電素子20を吸引吸着できる素子整列治具(図示せず)にシリコン−ゲルマニウム熱電素子である複数の熱電素子20を吸着させ、図3Aのように、シリコン−ゲルマニウム熱電素子である熱電素子20とモリブデン電極10との間に中間層形成部材として金属箔31であるアルミニウム箔を設置する。その後、図3Bに模式的に示すように、シリコン−ゲルマニウム熱電素子(熱電素子20)の上部より、0.12kPa以上で加圧しながら、中間層形成部材が溶融する温度で加熱する。接合雰囲気は、非酸化性雰囲気であればよく、具体的に、真空雰囲気、窒素雰囲気、窒素水素混合雰囲気等を用いることができる。その後、室温まで冷却することで図3Cに示すように、シリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の間に中間層30が形成される。このため、中間層30は、アルミニウムとシリコンとゲルマニウムを含有する層として形成される。
【0030】
この中間層30には、金属箔31の成分であるアルミニウム中に熱電素子20を構成するシリコン−ゲルマニウムが溶解することで生じるアルミニウム、シリコン、ゲルマニウムを含む少なくとも1層又は複数の合金層が形成されてもよい。複数の合金層の場合、例えば、中間層30は、アルミニウム、シリコン、ゲルマニウムを含む合金層301と10質量%以下のアルミニウムを含むシリコンとゲルマニウムの合金層302を含む層構造となる。
【0031】
このようにして形成された複数の熱変換モジュール1を図1の筐体101の内部に組み込み、電極10'に固定されたリード線103を筐体101の外部に引き出し、筐体101を密閉させて熱電変換モジュール100が完成する。なお、熱電変換モジュールとして筐体101に収容しない形態のものも存在するため、そのような形態の熱電変換モジュールに適用する場合には、筐体に収容せずともよい。
【0032】
ここで、加圧力を0.12kPa以上としたのは、接合時に熱電素子20が傾くのを防止することと、熱電素子20とモリブデン電極10との密着性を高めること、接合時の溶融アルミニウム表面に形成されている酸化皮膜を破り、アルミニウムの新生面を熱電素子表面、モリブデン電極表面に接触させ良好な接合を得るためである。加圧力の上限は特に限定しないが、素子が破壊しない程度とする必要があるため素子の圧壊強さ未満とする。具体的には1000MPa程度以下であればよいが、本発明では、特許文献3及び4に記載されているように、接合時に300kg/cm以上700kg/cm以下の圧力をかけたり、数十MPa程度の圧力をかけたりすることなくても、数MPa程度の圧力で十分に効果を得ることができる。
【0033】
また、図3Bに示した加熱して加圧する工程において、接合温度580℃以上の温度とすると、金属箔31のアルミニウム中にシリコンとゲルマニウムを主成分とする熱電素子20からシリコンが拡散する。そのため、アルミニウム−シリコン合金の共晶温度である577℃で金属箔31のアルミニウムが溶融する。金属箔31のアルミニウムが溶融することで、熱電素子20の主成分であるシリコン−ゲルマニウムと金属箔31のアルミニウムが固相−液相状態となり、ゲルマニウムも拡散してゲルマニウムを含むシリコンとアルミニウムとの液相が形成される。ゲルマニウムを含むシリコンとアルミニウムの液相が生じた後、上記液相から熱電素子20を構成するシリコン−ゲルマニウム中へアルミニウムが拡散することで合金層301が形成され、上記液相の組成変化に伴い、シリコンとゲルマニウムを主成分とする合金層302が形成される。
【0034】
すなわち、中間層30の形成は一種の液相拡散接合法を利用した接合形態であり、シリコン、ゲルマニム、アルミニウムを含む液相からシリコン、ゲルマニウムよりも融点の低いアルミニウムが熱電素子20を構成するシリコン−ゲルマニウム中へ拡散することで、液相中のアルミニウムの濃度が減少し、液相の融点が上昇して等温凝固するものである。
【0035】
従って、接合後には、図3Cに示すように、シリコン−ゲルマニウムを主成分とする熱電素子20とモリブデン電極10の間には、中間層30として、熱電素子20の主成分であるシリコン−ゲルマニウムと金属箔31のアルミニウムとが拡散することにより形成されたアルミニウムとシリコンとゲルマニウムを含有する層として形成される。この中間層30は、接合強度が高く、かつ、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有するため耐酸化性、耐食性に優れており、大気中での高温環境下においても、接合部の劣化が生じ難いものである。
【0036】
また、接合温度、接合時間、加圧を調整することで金属箔31の成分であるアルミニウムの融点660℃に達する前にゲルマニウムを含むシリコンとアルミニウムとの液相が生じ、液相中のアルミニウムが熱電素子20を構成するシリコン−ゲルマニウム中へ拡散することで接合部は等温凝固するため、アルミニウムの融点660℃以下で接合でき、冷却時に素子および接合部に生じる熱応力を低減させることができる。合金層302は10質量%以下のアルミニウムを含むシリコンとゲルマニウムより構成されており、アルミニウムの融点である660℃よりも高い融点を有するため、耐熱性にも優れる。加えて、合金層302はシリコンとゲルマニウムを主成分としており、シリコン−ゲルマニウムで構成される熱電素子20とモリブデン電極10と同等の熱膨張率を有するため、熱電変換モジュール100の稼動時に温度差に起因して生じる素子および接合部の熱応力を抑制する作用を有する。
【0037】
さらに、中間層30は熱電素子20を構成するシリコンとゲルマニウムを含むため、熱電素子20とモリブデン電極の間でオーミック接触が可能となり、接触抵抗を低減できるため、良好な電気的接続を得ることができる。
【0038】
これらの作用により、アルミニウムとシリコンとゲルマニウムを含有する合金が形成される中間層30は、機械的および電気的に高い接合信頼性を長期に亘り発揮する。
【0039】
なお、接合温度の上限は熱電素子の性能が劣化しない温度であり、具体的には850℃以下とする。
【0040】
なお、上記の説明では金属箔としてアルミニウム箔を用いたが、アルミニウム箔に替えてアルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有したアルミニウム合金箔を用いてもよい。この場合、アルミニウム中に熱電素子の成分が含有されているため、固相拡散を経ずとも共晶液相が発生しやすくなる。また、アルミニウム箔とアルミニウム合金箔を積層して用いてもよい。
【0041】
さらに、金属箔に替えてアルミニウム粉末やアルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有したアルミニウム合金粉末を用いてもよい。この場合、単一の粉末として用いてもよく、各々の粉末から形成される層を積層してもよく、これらの混合粉末を用いてもよい。なお粉末を用いる場合、箔状の粉末もしくは扁平状の粉末を用いると、熱電素子と電極の間に配置しやすいため好ましい。このような粉末を用いる場合、粉末のみを圧粉成形した成形体を熱電素子と電極の間に配置してもよく、あるいは電極の端面に粉末を成型しておいてもよく、さらに樹脂等を用いてペースト化した粉末を熱電素子の端面あるいは電極の熱電素子と当接する部分に塗布することで配置してもよい。
【0042】
図2に示す熱電変換モジュールを製造する方法としては、例えば、電極10を吸引吸着できる電極整列治具(図示せず)、熱電素子20を吸引吸着できる素子整列治具(図示せず)を用いて、電極10および熱電素子20を所定の形状に整列する。次に、下部電極上に金属箔33を設置し、位置決め治具等を用いて熱電素子を金属箔31上に設置する。次に、整列された熱電素子上に位置決め治具(図示せず)等を用いて金属箔31を設置する。その後、吸引吸着整列治具(図示せず)および位置決め治具(図示せず)等を用いて上部電極を設置する。そして、上部電極に錘(図示せず)等を載置し、錘等の荷重により加圧しながら加熱して、接合する。
【0043】
上記のようにして熱電変換モジュールを製造することにより、上記のアルミニウムとシリコンとゲルマニウムとを含む合金層とシリコン、ゲルマニウムを主成分として少量のアルミニウムを含む合金層とを含む中間層30を得ることができる。図4Aは、12.5μm厚のアルミニウム箔を金属箔31として設置した場合の接合部断面のSEM像、図4Bの(a)〜(e)はEDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)分析装置による元素マッピング像である。図4Aは接合部断面SEM像、図4Bの(a)は全元素についての面分布を示す図、(b)はゲルマニウム(Ge)の面分布を示す図、(c)はアルミニウム(Al)の面分布を示す図、(d)はシリコン(Si)の面分布を示す図、(e)はモリブデン(Mo)の面分布を示す図である。この結果から、図4Aに示したSEM像内で、シリコン−ゲルマニウムで構成される熱電素子20側から、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有する合金層301、シリコン、ゲルマニウムと10質量%以下の少量のアルミニウムを含む合金層302の2層からなる中間層30が形成されていることがわかる。
【0044】
一方、設置するアルミニウム箔31の厚さが100μm程度以上の場合は、溶融するアルミニウムの体積が大きいため、接合部には中間層30’として、図5に模式的に示したように、シリコン−ゲルマニウムで構成される熱電素子20側には、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有する合金層303、モリブデン電極10の側には10質量%以下のシリコンおよびゲルマニウムを含むアルミニウムリッチな合金層304が形成される。
【0045】
図6A及び図6Bは、図3A乃至図3Cで説明した金属箔31に替えて金属層32を設けた場合の製造方法を示す概略説明図である。図6A及び図6Bにおいて、10は電極、20は熱電素子、32は金属層である。電極10は図3A乃至図3Cで説明したのと同様にモリブデンを主成分とする金属、熱電素子20は、シリコン−ゲルマニウムを主成分とする半導体である。金属層32は、蒸着法、スパッタ法、溶射法、エアロゾルデポジション法等の膜生成技術により、熱電素子20または電極10上に形成されたアルミニウム層である。
【0046】
図6Aに示すように熱電素子20側または、図6Bに示すように電極10側に蒸着法、スパッタ法、溶射法、エアロゾルデポジション法等の膜生成技術により、熱電素子20または電極10上にアルミニウム層を形成することができる。図2に示した熱電変換モジュール単体1を製造する方法としては、図3A乃至図3Cを用いて説明した熱電変換モジュール単体1を製造する方法と同様に、電極10を吸引吸着できる電極整列治具(図示せず)、熱電素子20を吸引吸着できる素子整列治具(図示せず)を用いて接合を実施するが、箔を設置する工程が省略されるため、製造プロセスをより簡易にすることができる。
【0047】
以上のように本実施例によれば、様々な効果があり、接合信頼性の高い接合構造を有する熱電変換モジュールを実現できる。
【0048】
なお、上記の中間層30は、熱電素子20の両端に形成してもよい。また、熱電変換モジュールとして使用される際に高温側に配置される電極10と熱電素子20の間のみに形成してもよい。この場合、低温側に配置される電極側は、はんだ接合や加圧、圧着等の従来から行われている技術により接合することができる。
【0049】
上記は熱電素子20をシリコン−ゲルマニウム熱電素子の例で説明したが、マグネシウムシリサイド熱電素子、マンガンシリサイド熱電素子等他の熱電素子を使用することもできる。すなわち、これらの熱電素子はいずれも成分としてシリコンを含有するものであり、上記のアルミニウムとシリコンの液相による接合が可能なものである。
【0050】
ここで、熱電素子20としてマグネシウムシリサイド熱電素子を用いた場合には、得られる中間層30は、シリコン、マグネシウム、アルミニウムを含む合金層と、シリコン、マグネシウムを主成分とする合金層を含む層構造とすることができる。
【0051】
このような中間層30を得るため、上記製造方法のアルミニウム箔31やアルミニウム層32に替えて、アルミニウム中にシリコン、マグネシウム等を含有したアルミニウム合金箔やアルミニウム中にシリコン、マグネシウム等を含有したアルミニウム合金層を用いてもよい。さらに、上記製造方法のアルミニウム粉末に替えてアルミニウム中にシリコン、マグネシウム等を含有したアルミニウム合金粉末を用いてもよい。
【0052】
ただし、熱電素子としてマグネシウムシリサイド熱電素子を用いた場合には、アルミニウムとマグネシウムの間で437℃で共晶液相が発生することから、接合温度は440℃以上とする。また、マグネシウムは高温でベーパし易いため、マグネシウムのベーパを避けるため接合温度上限を800℃とする。その他の製造条件については、上記のシリコン−ゲルマニウム熱電素子の場合と同様である。
【0053】
また、熱電素子20としてマンガンシリサイド熱電素子を用いた場合には、得られる中間層30は、シリコン、マンガン、アルミニウムを含む合金層と、シリコン、マンガンを主成分とする合金層を含む層構造とすることができる。
【0054】
このような中間層30を得るため、上記製造方法のアルミニウム箔31やアルミニウム層32に替えて、アルミニウム中にシリコン、マンガン等を含有したアルミニウム合金箔やアルミニウム中にシリコン、マンガン等を含有したアルミニウム合金層を用いてもよい。さらに、上記製造方法のアルミニウム粉末に替えてアルミニウム中にシリコン、マンガン等を含有したアルミニウム合金粉末を用いてもよい。
【0055】
熱電素子としてマグネシウムシリサイド熱電素子を用いた場合の各製造条件は、上記のシリコン−ゲルマニウム熱電素子の場合と同様である。
【0056】
上記の第一の実施形態の熱電変換モジュールにおいては、中間層30の形成のために熱電素子20からの成分元素(シリコン、ゲルマニウム)の拡散およびアルミニウムの熱電素子20中への拡散を利用した接合を実施している。熱電変換モジュール稼働時の熱により、アルミニウムが更に熱電素子20中へ拡散するが、使用する熱電素子20の体積に対して、アルミニウム箔31の体積が十分小さければ、出力低下や変換効率の低下は僅かなものとなる。具体的には熱電素子20中に含まれるリン、アンチモン、ボロン、ガリウム、亜鉛等の不純物の含有率よりもアルミニウムの含有率が十分小さければ、アルミニウムが熱電素子20中へ拡散することによる出力低下や変換効率の低下は僅かなものとなる。
【0057】
また、本発明の第二の実施形態の熱電変換モジュールは、熱電素子の出力低下や変換効率の低下を防止するため、熱電素子からの成分元素の拡散を防止するバリア層を熱電素子と中間層の間に設置したものである。
【0058】
図7は本発明の第二の実施形態の熱電変換モジュールの概略断面図である。図7において、800は熱電変換モジュール、810は電極、821はn型熱電素子、822はp型熱電素子、830は中間層、833はバリア層である。
【0059】
第二の実施形態の熱電変換モジュールで用いたn型熱電素子821とp型熱電素子822(以下、これらを総称して熱電素子820と記す)は、シリコンとゲルマニウム粉末をパルス放電法やホットプレス法等により焼結したシリコン−ゲルマニウム熱電素子、マグネシウムとシリコン粉末をパルス放電法やホットプレス法等により焼結したマグネシウムシリサイド熱電素子、マンガンとシリコン粉末をパルス放電法やホットプレス法等により焼結したマンガンシリサイド熱電素子等であればよい。第二の実施形態では、第一の実施形態と同様に熱電素子820をシリコン−ゲルマニウム熱電素子として説明する。
【0060】
第二の実施形態の熱電変換モジュールで用いた電極810は少なくともモリブデン、又は銅、タングステン、チタン、ニッケルの金属単体、又はそれらのうちの何れかを含む金属の合金、または、それらの単体金属又は合金を重ねた複数層の構成からなるものであればよい。第二の実施形態では、第一の実施形態と同様に電極810をモリブデン電極として説明する。
【0061】
第二の実施形態の熱電変換モジュールで形成された中間層830は、アルミニウムまたは、アルミニウムと液相を発生する成分を含むアルミニウム合金層であればよい。アルミニウムと液相を発生する成分としては、シリコン、マグネシウム、ゲルマニウム等が挙げられる。第二の実施形態では、中間層830をシリコンとアルミニウムを含む合金層として説明する。
【0062】
第二の実施形態で形成されたバリア層833はタングステン、チタン、クロム、ニッケル、パラジウム、モリブデン等であればよい。
【0063】
図8A乃至図8Cは、図7に示す第二の実施形態の熱電変換モジュール800の製造方法を示す概略説明図である。図8A乃至図8Cにおいて810はモリブデン電極、820はシリコン−ゲルマニウム熱電素子、830はシリコン、アルミニウムを含む中間層、831は金属箔、833はバリア層である。
【0064】
金属箔831は、アルミニウムまたは、アルミニウム中にシリコン等の共晶液相発生元素を含有したアルミニウム合金箔、または、アルミニウム粉末、アルミニウム中にシリコン等の共晶液相発生元素を含有した粉末からなる箔粉等であればよい。以下、金属箔831をアルミニウム中に11.6質量%のシリコンを含有したアルミニウム合金箔として説明する。
【0065】
バリア層833は、熱電素子820から熱電素子を構成する成分が中間層830等に拡散することを防止するため、熱電素子820と中間層830の間に設置される。バリア層833は、タングステン、チタン、ニッケル、パラジウム、モリブデンまたはこれらの金属のうちの何れかを含む合金より成る金属層であればよい。
【0066】
図8Aのように、バリア層833を蒸着法、スパッタ法、溶射法、エアロゾルデポジション等により、シリコン−ゲルマニウム熱電素子上にメタライズする。バリア層833が形成されたシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の間に中間層形成部材である金属箔831を設置する。その後、図8Bに示すようにシリコン−ゲルマニウム熱電素子上部より、第一の実施形態で説明した条件と同じ条件で加圧しながら、金属箔831として設置されたアルミニウム−シリコン合金が溶融する温度に加熱する。接合雰囲気は、真空雰囲気、窒素雰囲気、窒素水素混合雰囲気等の非酸化性雰囲気であればよい。
【0067】
上記の第一の実施形態と異なり、第二の実施形態では、熱電素子820から熱電素子820の成分元素(シリコンおよびゲルマニウム)の中間形成部材である金属箔831への拡散および金属箔831の成分元素(アルミニウム)の熱電素子820への拡散を、バリア層833が防止するが、中間層形成部材である金属箔831が予めシリコンを含有したアルミニウム合金として構成されているため、第一の実施形態の場合と同様に、アルミニウムとシリコンの共晶液相発生温度(577℃)で溶融する。その後、室温まで冷却することで図8Cに示すように、バリア層833が形成されたシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の間にアルミニウムとシリコンを含有する中間層830が形成される。この中間層830は、上記の第一実施形態と同様に、接合強度が高く、かつ、アルミニウム、シリコンを含有するため耐酸化性に優れており、大気中での高温環境下においても、接合部の劣化が生じ難いものである。また、中間層30にシリコンを含有しているため、中間層30の熱膨張率をシリコン−ゲルマニウムにより構成される熱電素子20とモリブデン電極10の熱膨張率に近づけることができ、熱電変換モジュール100の稼動時に温度差に起因して生じる素子および接合部の熱応力を減少させる作用を有する。これらの作用により、アルミニウムとシリコンを含有する合金が形成される中間層30は、高い接合信頼性を長期に亘り発揮する。
【0068】
図7に示した熱電変換モジュール800を製造する方法としては、第一の実施形態の熱電変換モジュールを製造する方法と同様に、例えば、電極810を吸引吸着できる電極整列治具(図示せず)、熱電素子820を吸引吸着できる素子整列治具(図示せず)、位置決め治具(図示せず)を用いて整列して接合する。
【0069】
金属箔831としてアルミニウム中にシリコン等の共晶液相発生元素を含有したアルミニウム合金箔を使用することで、従来のろう材よりも接合強度が向上する。また、熱電素子820であるシリコン−ゲルマニウム熱電素子上にバリア層833を設けることにより、素子中に金属箔831の成分が拡散することを防止し、熱電変換モジュールの変換効率を高めることができる。
【0070】
第二の実施形態の熱電変換モジュールにおいて、中間層形成部材である金属箔831としてアルミニウム箔等を使用することができる。この場合、加熱温度はアルミニウムの融点以上として行えばよく、冷却した後の中間層830は、アルミニウムから構成される。このアルミニウムからなる中間層830は、溶融して形成したことから接合強度が高く、かつ、耐酸化性に優れており、大気中での高温環境下においても、接合部の劣化が生じ難いものである。また、中間層30にシリコンを含有しているため、中間層30の熱膨張率をシリコン−ゲルマニウムにより構成される熱電素子20とモリブデン電極10の熱膨張率に近づけることができ、熱電変換モジュール100の稼動時に温度差に起因して生じる素子および接合部の熱応力を減少させる作用を有する。これらの作用により、アルミニウムからなる中間層30は、高い接合信頼性を長期に亘り発揮する。
【0071】
上記の第一の実施形態においては、熱電素子からの熱電素子の成分元素の中間層形成部材への拡散を利用して中間層形成部材の溶融するため、熱電素子としてアルミニウムと共晶液相を発生するシリコンを含有するものが必須であったが、第二の実施形態では、バリア層により熱電素子からの熱電素子の成分元素の中間層形成部材への拡散が防止されることから、熱電素子としてシリコンを含有するものに限定されず、従来から使用されている種々の熱電素子を利用することができる。
【実施例1】
【0072】
熱電素子20としてシリコン−ゲルマニウム熱電素子、マグネシウムシリサイド熱電素子、マンガンシリサイド熱電素子を用意し、縦3.7mm、横3.7mm、高さ4.0mmの四角柱とした。また、電極としてシリコン−ゲルマニウム熱電素子にはモリブデン電極、マグネシウムシリサイド熱電素子、マンガンシリサイド熱電素子にはニッケル電極を用意し、前記熱電素子20のサイズに合わせて縦4.5mm、横10mm、厚さ1mmとした。そして、金属箔として表1に示す厚さのアルミニウム箔を用意し、図3Aのように、シリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極又はマグネシウムシリサイド熱電素子とニッケル電極又はマンガンシリサイドとニッケル電極の間にアルミニウム箔を設置した。その後、図3Bのように、熱電素子20の上部より、表1に示す加圧圧力で加圧しながら、表1に示す温度および保持時間で表1に示す雰囲気中で加熱し、その後、室温まで冷却することで図3Cの中間層30を形成した熱電変換モジュールを作製した。
【0073】
表1にこれらの熱電変換モジュールの接合実験の結果を併せて示す。表1の接合状態の評価について、×は接合界面がほぼ未接状態であるもの、△は接合界面の一部が未接状態であるもの、○は良好な接合状態であるものとした。
【0074】
表1の試料番号01〜03はシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極を使用した場合の接合状態に及ぼす接合雰囲気の影響について示している。アルミニウム箔によるシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の接合は、真空雰囲気、窒素雰囲気、窒素水素混合雰囲気(「窒素+水素」と記載)いずれの場合についても良好な接合状態を達成することができる。
【0075】
表1の試料番号04〜07はシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極を使用した場合の接合状態に及ぼす保持温度の影響について示している。アルミニウム箔によるシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の接合は、試料番号07の保持温度が550℃の場合では、シリコンとアルミニウムの共晶液相が生じないため、接合不良となる。そのため、保持温度は共晶液相発生温度以上が望ましい。接合温度が630℃以上である試料番号04〜06では、未接領域も少なく、良好な接合状態を達成することができる。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の試料番号05、08、09はシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極を使用した場合の接合状態に及ぼす加圧の影響について示している。
前記試料より、加圧が6.1〜18.4kPaの範囲で良好な接合を達成することができる。
【0078】
表1の試料番号08、10、11はシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極を使用した場合の接合状態に及ぼすアルミニウム箔厚の影響について示している。前記試料より、アルミニウム箔厚が12.5〜110μmいずれの場合においても良好な接合状態を達成することができる。また、アルミニウム箔厚が12.5μmの試料番号11では、中間層30として、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有する合金層301、シリコン、ゲルマニウムと10質量%以下のアルミニウムを含む合金層302からなる中間層30が形成される。アルミニウム箔厚が110μmの試料では、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有する合金層303、10質量%以下のシリコンおよびゲルマニウムを含むアルミニウムリッチな層を含む合金層304からなる中間層30’が形成される。
【0079】
表1の試料番号13〜16はマグネシウムシリサイド熱電素子とニッケル電極を使用した場合の接合状態に及ぼすアルミニウム箔厚の影響について示している。前記試料よりアルミニウム箔厚が12.5〜110μmいずれの場合においても良好な接合状態を達成することができる。
【0080】
表1の試料番号17〜20はマンガンシリサイド熱電素子とニッケル電極を使用した場合の接合状態に及ぼすアルミニウム箔厚の影響について示している。前記試料よりアルミニウム箔厚が12.5〜110μmいずれの場合においても良好な接合状態を達成することができる。
【0081】
図9は、第一の実施例の接合強度試験の結果として、シリコン−ゲルマニウム高温放置時間とシェア強度との関係を表すグラフを示す。図9の●は従来のろう材で接続した場合のデータである。
【0082】
図9より、アルミニウム箔によるシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の初期接合強度は、従来のろう材による接合と比較して、二倍以上の強度を有しており、接合信頼性が高い。さらに、従来のろう材では550℃5時間の大気雰囲気中での高温放置後で接合強度を保つことができないのに対し、アルミニウム箔によるシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の接合では、550℃5時間の大気雰囲気中での高温放置後も従来のろう材の初期接合強度よりも高い強度を維持しており、耐熱性にも優れている。
【0083】
アルミニウム箔によるシリコン−ゲルマニウム熱電素子とモリブデン電極の接合では、金属結合となることで、接合強度が向上する。また、アルミニウム箔厚が12.5μmである試料番号11では、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムを含有する合金層301、シリコン、ゲルマニウムと10質量%以下のアルミニウムを含む合金層302からなる中間層30が高温放置後についても、組織が安定しているため、初期接合強度と同等の強度を有することができる。
【0084】
また、アルミニウム箔31の厚を50μm又は110μmにした場合では、大気雰囲気中での550℃5時間高温放置後にアルミニウムリッチな層において、拡散が進行し組織変化を生じるため、初期強度と比較して20%程度減少するが、大気雰囲気中での550℃5時間後の接合強度は従来のろう材の初期接合強度よりも高いため、いずれのアルミニウム箔厚でも、信頼性の高い接合部を形成することができる。
【実施例2】
【0085】
図7に示した構成の熱電変換モジュール単体800を、実施例1と同様な形状の熱電素子820とモリブデン電極810とを用い、実施例1と同様な条件で作成したものを用いて、表1に示した実施例1と同様な条件で加圧、加熱して熱電素子820とモリブデン電極810とを接合した。
【0086】
その結果、表1に示した実施例1の場合と同様な結果が得られた。
【0087】
以上のように本実施例によれば、様々な効果があり、接合信頼性の高い接合構造を有する熱電変換モジュールを実現できる。
【符号の説明】
【0088】
1,800・・・熱電変換モジュール単体 10,810・・・電極 20、820・・・熱電素子 21、821・・・n型熱電素子 22、822・・・p型熱電素子 30,830・・・中間層 31、831・・・金属箔 32、832・・・金属層 33、833・・・バリア層。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9