特許第5932206号(P5932206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932206
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】細胞培養方法及びスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20160526BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20160526BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160526BHJP
【FI】
   C12N5/073
   C12M3/04 A
   C12Q1/02
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-552516(P2009-552516)
(86)(22)【出願日】2009年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2009051990
(87)【国際公開番号】WO2009099152
(87)【国際公開日】20090813
【審査請求日】2012年2月1日
【審判番号】不服2015-2635(P2015-2635/J1)
【審判請求日】2015年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2008-26384(P2008-26384)
(32)【優先日】2008年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鄭 允文
(72)【発明者】
【氏名】田崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】小坂 知子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】福田 始弘
【合議体】
【審判長】 田村 明照
【審判官】 飯室 里美
【審判官】 長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/149926(WO,A1)
【文献】 特開2006−191809(JP,A)
【文献】 Biomaterials、2006、Vol.27、p.6032−6042
【文献】 J.cell.Bbiochem.、2005、Vol.95、p.243−255
【文献】 Lab.Chip、2007、Vol.7、p.786−794
【文献】 第123回日本薬学会年会要旨集、2003、p.99、28[P2]I−56
【文献】 J.Hepatol.、1998、Vol.28、p.480−490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5/00
C12M3/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された微小空間内において、肝実質細胞へ分化する増殖能を有する未分化細胞を重層化した状態で培養し、分化細胞を得る細胞培養方法であって、
前記未分化細胞は肝幹細胞及び肝前駆細胞のうちの少なくとも1つであり、
前記区画された微小空間が、表面にマイクロ容器を有する細胞培養容器における当該マイクロ容器であり、
前記マイクロ容器の底面積が9×10−4mm〜9×10−2mm、側壁の高さが15μm〜300μmであり、
前記マイクロ容器の底面に孔が開いていないことを特徴とする、
細胞培養方法
【請求項2】
前記未分化細胞が胎児肝組織から得られる未分化細胞であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養方法。
【請求項3】
前記未分化細胞がヒト細胞であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養方法。
【請求項4】
前記細胞培養容器は前記表面に複数の前記マイクロ容器を有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項5】
前記マイクロ容器の側壁の高さが15μm〜150μm、側壁の幅が3μm〜15μmであることを特徴とする請求項4に記載の細胞培養方法。
【請求項6】
前記細胞培養容器における前記マイクロ容器が形成された領域が透明性を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の細胞培養方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の培養方法で培養した細胞を複数配置し、化合物をスクリーニングするスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項4〜6いずれか1項に記載の培養方法で培養した細胞を複数配置し、化合物をスクリーニングするスクリーニング方法であって、
前記細胞培養容器が、複数の前記マイクロ容器からなる区画化されたスポットを複数有することを特徴とするスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養方法及びスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織から単離した細胞を試験、検査に用いる手法は、バイオテクノロジー関連分野では欠かせない方法となっている。疾病、病態の診断、新薬の探索及び薬効の判定、あるいは動物検査、植物検査、環境汚染物質の試験などに幅広く用いられている。そのため、バイオテクノロジー分野で使用される細胞類は、極めて多様化してきている。
【0003】
単離した細胞は、直ちに浮遊状態にて試験に用いられる場合もあるが、多くの場合、培養皿に接着させた状態で培養し、種々の試験、検査に用いられる。細胞培養に用いられる初代細胞、株化細胞には、生体内での試験いわゆるin vivo試験と同様の薬剤感受性、毒性反応などを示すことが要求される。すなわち、細胞培養容器上で生体内類似の細胞機能が必要とされる。また、初代細胞を得るための単離操作が煩雑であること、細胞培養試験に用いられる細胞培養株は高額であることから、少ない細胞数での試験方法が望まれている。
【0004】
近年、創薬開発では、臨床試験段階での開発中断が問題となっている。これは、薬物動態試験段階での動物種差に起因する。これまで、前臨床段階における薬物動態試験では、ラット、イヌ、サル等の動物を用い、薬物の体内動態を予測してきた。しかし、ヒトを用いる臨床試験では、その予測が事実上成立しないことが分かってきている。従って、薬物動態等のヒトへの予測は、ヒト試料を用いることが最も有効かつ簡便な方法であり、効率的な医薬品開発や安全な臨床試験の実施のために重要である。
【0005】
薬物の体内動態を調べる薬物動態試験では、主に肝臓での吸収、代謝、排泄であり、用いられるヒト試料は、肝臓スライス、肝細胞、肝ミクロソーム等である。この中で肝臓スライスは、入手が困難であり、肝ミクロソームは限られた代謝酵素のみでの代謝試験しか行えない。そのため、肝細胞の使用が最も効果的であると考えられている。
【0006】
スクリーニングにおいて、使用される培養皿は樹脂製シャーレや、6ウェル、12ウェル、48ウェル、96ウェルの各プレートである。これらは、一般に、プレート全体の大きさはほぼ同じであり、ウェル数が大きくなるほど、1ウェルのサイズが小さくなる。この1ウェルが1培養皿に相当する。また、最近の微量化への流れから、更に小口径で多数の培養皿からなる384ウェルプレートも使用され始めており、目的のスクリーニング方法に適応したものが使用されている。これらの培養皿の底部は平坦な平板状であり、この底面を培養面として用いている。
【0007】
しかしながら、組織細胞の培養に従来の培養容器を用いると、本来の機能を消失させ脱分化してしまう場合や、未分化細胞が分化しない場合があり、目的の細胞機能を発現しないことが問題となっている。例えば、ヒト新鮮肝細胞は通常の平板プレート上で培養すると単離された際の代謝酵素の機能を1日程度で著しく低下させてしまうため、プレートへ細胞播種後4時間以内に薬物の代謝試験を行うことがある。すなわち、長時間の培養を行いながら試験に用いることができない問題、長時間の代謝安定性が検討できない問題がある。
【0008】
上記問題を解決するため、ヒトあるいは動物由来の生体物質(糖タンパク質、タンパク質等)を培養容器表面へコーティングする試み(特許文献1参照)や、高分子ゲル中で培養する試み(特許文献2参照)や、マイクロ容器内で肝細胞塊を形成させる試み(特許文献3参照)がなされている。
【特許文献1】特開平8−319317号公報
【特許文献2】特開平8−308562号公報
【特許文献3】国際公開第2008/130025号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、コーティングする生体物質が特殊であるため高コストとなること、培養容器内において均一な細胞集合体の形成が困難であること、生体内機能を長期間維持できないことなどの問題がある。特許文献2に開示された方法でも、細胞集合体の大きさが制御できないこと、顕微鏡観察が容易にできないこと、スクリーニング基板として操作性が煩雑であることなどの問題がある。更に、上記の両方法も、市販のディッシュやプレートを支持容器として用いるため、必要最小細胞数での効率的なスクリーニングが困難である。特許文献3に開示された方法でも、培養初期の肝細胞代謝活性の向上は可能なものの、2週間以上の代謝活性維持は困難である。
【0010】
本発明は、生体内機能を長期間維持でき、かつ、必要最小細胞数での培養が可能な細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る細胞培養方法は、区画された微小空間内において、未分化細胞を重層化した状態で培養し、分化細胞を得るものである。ここで、重層化とは2層以上に細胞の積層化が起ることをいう。医薬品をスクリーニングする場合には、肝細胞、腸上皮細胞、神経細胞、心筋細胞、血管内皮細胞に分化する未分化細胞が好ましい。特に、薬物動態等のヒトへの予測を行う場合は、未分化細胞はヒト細胞であることが好ましい。前記未分化細胞は、幹細胞、前駆細胞などが好ましい。
【0012】
また、前記区画された微小空間が、表面に複数のマイクロ容器を有する細胞培養容器における当該マイクロ容器であることが特に好ましい。ここで、前記マイクロ容器の底面積が9×10−4mm〜9×10−2mm、側壁の高さが15μm〜300μm、側壁の幅が3μm〜15μmであることが好ましい。さらに、顕微鏡観察を容易にするため、前記細胞培養容器におけるマイクロ容器が形成された領域が透明性を有することが好ましい。
【0013】
本発明に係るスクリーニング方法は、上記の培養方法で培養した細胞を複数配置し、化合物をスクリーニングするものである。また、必要最小細胞数で培養するため、前記細胞培養容器が、複数の前記マイクロ容器からなる区画化されたスポットを複数有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生体内機能を均一に長期間維持でき、かつ、必要最小細胞数での培養が可能な細胞培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1に係る細胞培養方法に用いる細胞培養容器の構成を示す平面図である。
図2】実施例1に係る細胞培養方法に用いる細胞培養容器の構成を示す断面図である。
図3】実施の形態に係るスクリーニング方法に用いる細胞培養容器の構成を示す平面図である。
図4】実施の形態に係るスクリーニング方法に用いる細胞培養容器の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0016】
10 細胞培養部
11 マイクロ容器
12 マイクロ容器の側壁
13 スポット
14 スポットの側壁
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、肝幹細胞等の未分化細胞を、区画された微小空間であるマイクロ容器内で均一な大きさに重層化した状態で培養する。本発明において特に重要な点は、増殖能を有する未分化細胞を用いること、区画された微小空間内で培養すること及び重層化して培養することである。これにより、例えば、分化した肝実質細胞を含有する細胞塊を形成させ、機能向上を図ることができる。更に、肝幹細胞は未分化増殖するため、細胞の機能維持が可能である。本発明は、このような培養方法およびそれを用いたスクリーニング方法である。
【0018】
本発明に係る培養方法及びスクリーニング方法で用いる培養容器の表面には、凹凸パターンすなわち複数のマイクロ容器すなわち培養空間が形成されている。このマイクロ容器を仕切る側壁(凸部)の幅及び高さを最適化することで、マイクロ容器内のみで細胞を培養し、均一な分化状態を維持させることができる。なお、マイクロ容器に代えてゲルからなる区画された培養空間を形成することも考えられる。
【0019】
側壁により囲まれたマイクロ容器の寸法は、細胞を培養するために最適な範囲とする必要がある。マイクロ容器の底面面積が大きすぎると、平板上での培養と同様、部分的に細胞は薄く伸び、均一な重層化状態を形成しない。一方、マイクロ容器の底面面積が小さすぎると、細胞を収容できなくなる。従って、空間の寸法は、培養する細胞種に応じて、複数個〜数十個が収容できる範囲とすることが好ましい。
【0020】
また、マイクロ容器の側壁も細胞を培養するために最適な範囲とする必要がある。側壁の幅が広すぎると、側壁の上面へ細胞が接着してしまい、培養に適さない。側壁の幅が狭すぎると、作製が困難となる。側壁の高さは低すぎると、細胞が側壁を乗り越えてしまい、培養に適さない。側壁の高さが高すぎると、作製が困難な上、物質拡散がしにくくなり培養環境が悪化してしまう。
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0022】
実施の形態
実施の形態に係る細胞培養に用いる細胞培養部のマイクロ容器の構成について図1、2を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係るマイクロ容器の構成を示す平面図であり、図2図1のII−II断面図である。図1に示すように、細胞培養部10はマイクロ容器11、側壁12を備える。細胞培養部10の培養面には、複数の側壁12が網目状に形成されており、この側壁12に四方を囲われた空間がマイクロ容器11となる。
【0023】
図1において、マイクロ容器11の底面の幅a、マイクロ容器11を区画するための側壁12の幅b、高さcを示した。ここで、3μm≦b≦15μm、かつ、c/b≧2とする必要がある。側壁12の幅bが15μmを越えると、側壁の上面へ細胞が接着してしまい、培養に適さない。一方、側壁12の幅bが3μm未満では、作製が困難となる。側壁の高さは低すぎると、細胞が側壁を乗り越えてしまい、培養に適さない。側壁12の高さcが側壁12の幅bの2倍未満であると、マイクロ容器11で培養する細胞が乗り上げ隣接するマイクロ容器11へ移動してしまう。また、具体的には、1辺100μmの四角形のマイクロ容器内でヒト胎児肝細胞を重層化させる場合、側壁12の高さcは15μm〜300μmが好ましく、50μm〜150μmがさらに好ましい。ここで、側壁の高さcが高すぎると、作製が困難な上、物質拡散がしにくくなり培養環境が悪化してしまう。側壁12は多段階形状であってもよい。
【0024】
マイクロ容器11の底面形状は特に制限されるものではなく、正方形、円、多角形以外にも種々の形状を採用することができる。この底面面積は、9×10−4mm〜9×10−2mmが好ましい。また、等方的形状が好ましく、底面が矩形状の場合、長辺が短辺の1〜1.5倍であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いる細胞培養部は、必要な細胞数を最小にするために、図3及び4に示すように、1つのスクリーニングに必要なだけの複数のマイクロ容器からなる区画されたスポットを有していても良い。例えば、分化効率が高い1辺200μmの正方形で高さ50μmのマイクロ容器を用い、スクリーニングに必要な最小細胞数が約1000個であった場合、9個のマイクロ容器が必要となるため、9個のマイクロ容器を区画化するスポットを設け、更に複数のスポットを設けることで同時に複数の試薬や医薬品を検査できるハイスループットスクリーニングが可能となる。
【0026】
ここで、図3は、本実施の形態に係る他の細胞培養部の構成を示す平面図であり、図4図3のIV−IV断面図である。図3には、複数のマイクロ容器を区画化する側壁14とその区画化されたスポット13を示した。側壁14の高さdは、培養液や反応液等の上清液が乾燥せず保持できる容量であればよく、便宜設定すればよい。
【0027】
本発明の細胞培養部の凹凸パターンを作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、モールドを用いた転写成形、3次元光造形、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等の方法が挙げられる。細胞培養容器の用途、要求される加工精度、コスト等を考慮してこれらの製造方法を適宜選択することが好ましい。
【0028】
モールドを用いて転写成形方法の具体例としては、金属構造体を型として樹脂成形で凹凸パターンを形成する方法が挙げられる。この方法は金属構造体の形状を高い転写率で樹脂へ凹凸パターンに再現することが可能であり、また汎用の樹脂材料を使用することにより材料コストを低くできるので好ましい。このような金属構造体の型を用いる方法は、低コストであり、高い寸法精度を満足できる点で優れている。
【0029】
上記金属構造体の製造方法としては、例えば、フォトリソグラフィによって作製されたレジストパターンや3次元光造形によって作製された樹脂パターンへのメッキ処理、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等が挙げられる。用途、要求される加工精度、コスト等を考慮して適宜選択すればよい。
【0030】
上記で得られた金属構造体を型として用いて樹脂へ凹凸パターンを成形する方法としては、例えば、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写等の方法を挙げることができる。生産性及び型転写性の観点から射出成形を採用することが好ましい。
【0031】
本発明のスクリーニングチップを構成する材料としては、自己支持性を有するものであれば特に制限されず、例えば、合成樹脂、シリコン、ガラス等が挙げられる。コスト面や顕微鏡観察による細胞視認性の観点から、透明な合成樹脂を材料とすることが好ましい。
【0032】
透明な合成樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、シクロオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のエステル系樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。このような樹脂には、透明性を損なわない範囲で着色剤、拡散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
本発明のスクリーニングチップは、表面の親水性、生体適合性、細胞親和性等を向上させることを目的として、凹凸パターン表面側に表面処理を行い、改質層及び/又はコーティング層が配されていてもよい。
【0034】
上記改質層を設ける方法としては、自己支持性を失う方法や100μm以上の極端な表面荒れを起こす方法でなければ特に制限はないが、例えば、薬品処理、溶剤処理、表面グラフト重合によるグラフトポリマーの導入等の化学的処理、コロナ放電、オゾン処理、プラズマ処理等の物理的処理等の方法が挙げられる。
【0035】
また、コーティング層を設ける方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、スパッタ、蒸着等のドライコーティング、無機材料コーティング、ポリマーコーティング等のウェットコーティング等の方法が挙げられる。
【0036】
凹凸パターン上には、気泡の混入することなく培養液を注入するために親水性を付与することが望ましく、均一な親水性膜を形成させる方法として、無機蒸着が好ましい。
【0037】
また、細胞親和性を考慮した場合には、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン等の細胞親和性タンパク質をコーティングすることがより好ましい。コラーゲン水溶液等を均一にコートするために、上述の親水性膜を形成させた後、コートすることが好ましい。通常、細胞培養においては、生体内環境を模倣して細胞外マトリックス表面での培養が望ましいため、上記のように均一な親水性無機膜を配した後に、培養細胞に適した細胞外マトリックスからなる有機膜を配することが特に好ましい。
【0038】
本発明の培養方法及びスクリーニング方法で培養する細胞は未分化細胞であることが好ましく、肝幹細胞、肝前駆細胞、腸幹細胞、腸上皮前駆細胞、間葉系幹細胞、心筋前駆細胞、胚性幹細胞等が挙げられ、スクリーニングの目的により細胞種を便宜選択すれば良い。例えば、医薬品の肝臓での代謝反応を想定したスクリーニングを目的とする場合には、肝細胞に分化する肝幹細胞等を用いる。特に、ヒトでの医薬品の代謝反応を目的とする場合には、ヒト肝幹細胞を用いる。
【0039】
本発明のスクリーニング法は、細胞を培養するマイクロ容器のみに細胞を配置させ、その空間内で生体内に類似した機能を発現させるため、適切な細胞数を播種する必要がある。細胞播種密度は、1.0×10〜5.0×10細胞/cmが好ましい。例えば、マイクロ容器が正方形で、1辺が100μmの場合、1.0×10〜1.0×10細胞/cmが好ましい。
【0040】
重層化する細胞が肝細胞又は腸上皮細胞である場合、遺伝子発現量、代謝酵素活性、トランスポーター活性などを測定してスクリーニングするのが好ましい。
また、重層化する細胞が神経細胞又は心筋細胞である場合、遺伝子発現量、酵素活性活動電位などを測定してスクリーニングするのが好ましい。
重層化する細胞が血管内皮細胞である場合、血管新生を視認してスクリーニングするのが好ましい。
【実施例】
【0041】
次に本発明に係る細胞培養方法の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<胎児肝細胞の培養方法>
ヒト胎児肝細胞の凍結ストックをタイプIVコラーゲンコートディッシュ(BD製)上に播種し、10日間程度培養し、増殖させた。その後、0.03%タイプIVコラーゲン(新田ゼラチン製)コートした凹凸パターン基材上に、1個のマイクロ容器に5細胞入る割合(3.8×10細胞/cm)で肝細胞を播種し、5%CO、37℃で3週間培養した。使用した培養液の組成は、DMEM/F12培地に10% ウシ胎児血清、1μg/ml インシュリン、1×10−7M デキサメタゾン、10mM ニコチンアミド、2mM L−グルタミン、50μm β−メルカプトエタノール、5mM HEPES、59μg/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンを添加したものであり、播種後1日目から、上記培養液に更に25ng/ml HGF、20ng/ml EGF、10ng/ml オンコスタチンMを添加して使用した。同組成の新鮮培地0.5mLを用い、数日毎に培地交換を行った。
【0042】
<遺伝子発現解析>
肝臓の表的な薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)の遺伝子発現は、所定日数培養した細胞からRNAを回収し、cDNA合成後、リアルタイムPCRを行うことで評価した。
【0043】
[実施例1]
図1に示す凹凸パターン形状であって、a=100μm、b=10μm、c=50μmのパターンをフォトリソグラフィにより作製し、Ni電解メッキを行い、対応する凹凸形状を有する金型を得た。その金型を用い、ホットエンボス成形によりポリスチレン上にパターン転写を行い、前記寸法の樹脂基材を作製した。その樹脂基材表面へ真空蒸着により二酸化ケイ素膜を100nm形成させ、γ線滅菌を行い、凹凸パターン基材を得た。その凹凸基材上にIV型コラーゲンをコーティング後、ヒト胎児肝細胞を培養した。
【0044】
[比較例1]
市販(ベクトン・ディッキンソン製、ファルコン(登録商標))のγ線滅菌済み平面状24ウェル培養プレートを用い、IV型コラーゲンをコーティング後、ヒト胎児肝細胞を培養した。
【0045】
表1には、実施例1及び比較例1における培養3週間後のCYP3A4、CYP2D6、CYP2C9の遺伝子発現量を示す。表中、比較例1の3週間後の各CYP発現量を1とした値を示している。実施例1では、いずれのCYPにおいても比較例1よりも発現量が高く、3週間の培養においてもその機能を維持していた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、組織から単離した細胞を培養する細胞培養方法に適用することができる。
図1
図2
図3
図4