(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、ポルトランドセメント等の水硬性セメント(以下、単にセメントという)は、その構成成分であるクリンカーに含まれる3CaO・SiO
2、2CaO・SiO
2、3CaO・Al
2O
3等の鉱物が水和することにより硬化する。これら鉱物の中でも3CaO・Al
2O
3は水和が極めて早いため、セメントには石膏が加えられ、その水和反応の遅延が図られている。この際、用いる石膏が半水石膏ではセメントに偽凝結を生じさせることが分かっているため、通常は二水石膏が用いられる。
【0003】
このようなセメントを使用した硬化性組成物においては、高流動、高強度のモルタルあるいはコンクリート等の製造を目的として、しばしば高性能減水剤、高性能AE減水剤等のセメント分散剤を添加することが行われている。
【0004】
上記のセメント分散剤は様々なものが実用化されているが、近年では、低い水セメント比においても高い分散効果および流動性の保持性を発揮するセメント分散剤として、ポリカルボン酸系のものが広く使用されるようになってきている。また、上記セメント分散剤のうち、高性能AE減水剤に関しては、季節に応じてセメントの硬化時間を調整できるように標準形、遅延形に分類されている。
【0005】
このようなポリカルボン酸系セメント分散剤を使用した場合、3CaO・Al
2O
3の水和反応が活発になることが知られており、特に溶解速度が二水石膏よりも低いII型無水石膏を用いた場合には、3CaO・Al
2O
3の水和を充分に抑制できず激しい反応が起き(例えば、非特許文献1参照)、著しい流動性の低下に繋がる。換言すれば、ポリカルボン酸系の分散剤を使用する場合には、石膏として二水石膏を使用しなければ十分な流動性が得られない傾向にあった。なおナフタレン系減水剤では上記のような現象は発生しない。
【0006】
一方、セメントと水とポリカルボン酸系セメント分散剤とを含むペーストにおいて、ペースト中の硫酸イオン濃度が高くなると、該ポリカルボン酸系セメント分散剤による粒子分散性が阻害され、良好なペースト流動性を得るためには該ポリカルボン酸系セメント分散剤の添加量を増加させることが必要となることも知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高温環境下においては上記クリンカー中の鉱物の水和反応が促進され、モルタルあるいはコンクリート等の流動性が低下するために、所望の流動性を得るために必要なセメント分散剤の添加量が著しく増加し、そのためモルタル及びコンクリート等の製造費が著しく増加するという問題を有していた(ポリカルボン酸系セメント分散剤は高価である)。また、遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤を使用した場合には、標準形のものに比べて経時に伴い流動性が大きく低下するという問題を有していた。
【0009】
従って、本発明は、セメントクリンカー、石膏、骨材、ポリカルボン酸系セメント分散剤及び水を使用した硬化性組成物において、高温環境下で流動性の経時的な変化が小さく、安定した流動特性の達成を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた。そしてII型無水石膏の溶解速度が二水石膏よりも遅いため、石膏として一部でもII型無水石膏が使用可能であれば、ペースト中の硫酸イオン濃度をその分だけ抑制できる点に着目し、更に研究を進めた結果、3CaO・Al
2O
3量が少ないクリンカーであればII型無水石膏に由来する悪影響も低減できるため、石膏として無水石膏と二水石膏とを併用することにより、練り混ぜ直後における流動性を維持しながら分散剤必要量を減少させることが可能であることを見出した。更に驚くべきことに、石膏としてII型無水石膏と二水石膏を併用した場合には、二水石膏を単独で使用した場合と逆に、ポリカルボン酸系セメント分散剤として遅延形のものを使用することにより、流動性の経時変化が抑制可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ボーグ式で算出される2CaO・SiO
2量が30質量%以上かつ3CaO・Al
2O
3量が2質量%以上、8質量%以下のクリンカーと石膏とを混合・粉砕してセメント組成物を得る工程、該セメント組成物とポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材及び水を混合する工程を含む硬化性組成物を製造する方法において、
前記石膏として、無水石膏と二水石膏の混合物を用いること及び、前記ポリカルボン酸系セメント分散剤として、遅延形のものを用いることを特徴とする硬化性組成物の製造方法である。
【0012】
また他の発明は、ボーグ式で算出される2CaO・SiO
2量が30質量%以上かつ3CaO・Al
2O
3量がクリンカー、石膏、ポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材及び水を含む硬化性組成物であって、
前記石膏として、II型無水石膏と二水石膏の
混合物を用い、かつ前記ポリカルボン酸系セメント分散剤が遅延形のものであることを特徴とする硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下において優れた流動性を有すると共に、流動性の保持能力にも優れるという、従来の硬化性組成物に無い優れた特性を発揮する硬化性組成物を製造することができ、その工業的価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明におけるクリンカーの鉱物組成は、定法により求めたクリンカーの化学成分の組成比からボーグ式により算出されたものを表す。
【0015】
本発明において、クリンカーに含まれる2CaO・SiO
2量(含有率)は、30質量%以上であることが重要である。上記2CaO・SiO
2量が30質量%より少ない場合、コンクリートの水和反応が早く進むために流動性が低下する傾向がある。
【0016】
本発明においてクリンカーに含まれる2CaO・SiO
2量は、30質量%以上であれば特に限定されるものではないが、好ましくは30〜63質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。
【0017】
本発明において、クリンカーに含まれる3CaO・Al
2O
3量(含有率)は、2質量%以上、8質量%以下であることが重要である。セメント中に後述するポリカルボン酸系セメント分散剤を配合した場合、3CaO・Al
2O
3は無添加の場合に比較して水和反応が活発となる。従って、上記3CaO・Al
2O
3量が8質量%より多い場合、コンクリートの水和反応が早く進むために流動性が低下する傾向がある。一方、3CaO・Al
2O
3量が2質量%未満の場合、上述した活発な水和反応が殆ど起きないため、本発明の如く石膏の種類を限定する必要性が無い。
【0018】
本発明におけるクリンカー中の他の鉱物組成は特に限定されるものではなく、一般的なポルトランドセメント同様、ボーグ式で示される3CaO・SiO
2(C
3S)、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
4AF)等が含まれていても良い。好ましい鉱物組成の範囲は、C
3Sが30〜63質量%、C
4AFが5〜20質量%程度である。
【0019】
本発明においては、上記クリンカーと石膏とを混合・粉砕する。クリンカーと石膏とは、混合後に粉砕してもよいし、粉砕機へ別々に投入し、その中で混合しつつ粉砕してもよい。
【0020】
本発明においては、上記混合・粉砕によりセメント組成物が得られる。当該セメント組成物のブレーン値は特に制限されるものではないが、3000〜4000cm
2/gに調整されることが特に望ましい。3000cm
2/gより大きいことによって実用上の強度が得られやすくなる。一方、初期の水和反応が抑えられ流動性が高くなる点で4000cm
2/g以下であることが好ましい。
【0021】
本発明において、水硬性組成物中の石膏配合量はセメントクリンカーの量100質量%に対して、SO
3換算で1〜5質量%とすることが好ましい。すなわち、石膏配合量を1質量%以上とすることにより添加効果である遅延効果が十分に発揮され、3CaO・Al
2O
3の水和が抑制でき、流動性を確保することができ、十分な施工時間を確保することが容易となる。一方、石膏配合量を5質量%以下とすることにより、3CaO・Al
2O
3と石膏との過剰な反応が抑制され十分な流動性を確保しやすい。
【0022】
本発明における最大の特徴は上記石膏について、II型無水石膏と二水石膏とを併用すると共に、ポリカルボン酸系セメント分散剤として遅延形のものを使用することにある。II型無水石膏のみを用いた場合、II型無水石膏は溶解速度が遅いためにポリカルボン酸系セメント分散剤の存在下における3CaO・Al
2O
3の水和反応を十分に抑制できず流動性が低下するという問題がある。また、高温環境下においては3CaO・Al
2O
3の反応がより活発となるため、流動性の低下が著しくなる。そのため本発明においては、II型無水石膏を用いた場合の悪影響を低減するため、前述した3CaO・Al
2O
3量が8質量%以下のクリンカーを用いると共に、二水石膏をも併用する。
【0023】
一方、溶解速度の速い二水石膏のみを用いた場合には、ペースト中の硫酸イオン濃度が高くなりすぎ、より多量のポリカルボン酸系セメント分散剤が必要となる。高温環境下においてはクリンカーの水和反応が活発となるため、所望の流動性を得るためのセメント分散剤の必要量が更に増加する。そのため、本発明においては石膏の一部に溶解速度の遅い無水石膏を併用することにより、セメント分散剤の添加量を削減することを可能としている。
【0024】
ここで、高温環境下ではクリンカーの活発な水和が継続するため、標準形のポリカルボン酸系セメント分散剤を使用する場合は経時に伴う流動性の低下が大きくなってしまう。本発明においては、クリンカーの水和遅延効果を有する遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤を使用することにより、流動性の保持性能を向上させることが可能となる。
【0025】
なお、二水石膏のみを用いた場合においては、遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤を使用することにより、所望の初期流動性を得るためのセメント分散剤の添加量は相対的に少量でも可能である。しかしながら経時的に流動性が低下してしまい、初期の流動性の保持が困難である。
【0026】
本発明において上記II型無水石膏と二水石膏の使用割合は限定されるものではないが、好ましくはII型無水石膏の含有率が、SO
3換算でII型無水石膏と二水石膏の総量の30〜70質量%であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0027】
本発明においてII型無水石膏と二水石膏の併用の仕方としては、例えば、事前に無水石膏と二水石膏とを所定の割合で混合し、これをクリンカーと混合後に粉砕機に投入する方法またはクリンカーと石膏とを各々粉砕機に投入する方法、あるいはクリンカー、II型無水石膏及び二水石膏を各々粉砕機に投入する方法などが挙げられる。
【0028】
本発明においては上記の如くして得たセメント組成物と、遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材及び水を混合し硬化性組成物を製造する。
【0029】
本発明において、ポリカルボン酸系セメント分散剤とは、ポリカルボン酸塩、ポリカルボン酸エーテル、ポリエーテルカルボン酸塩、カルボン酸共重合物等が挙げられ、実用上は、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤と称される。ポリカルボン酸系セメント分散剤は、その他の高性能AE減水剤であるナフタレン系、メラミン系等のセメント分散剤と比較して、分散効果及び流動性の保持能力が優れる。また、遅延形のセメント分散剤とは、クリンカーの水和反応を遅延させる効果を有するセメント分散剤であり、標準形のセメント分散剤よりもコンクリートの流動性保持能力が優れる。
【0030】
本発明において骨材は、モルタルやコンクリートの骨材として公知のもの、例えば砂などの細骨材、砂利などの粗骨材等を特に制限無く使用できる。また、水もモルタルやコンクリートの調整用として公知の水が特に制限無く使用できる。具体的には、工水、水道水等である。
【0031】
本発明において、前期セメント組成物に対する上記セメント分散剤及び水の配合量は特に制限されるものではない。好適な組成を例示すれば、セメント分散剤は、クリンカーと石膏の総量に対して0.1〜5.0質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%が、また、水は水/セメント組成物の質量比(以下、水セメント比という)で15〜45%、好ましくは20〜40%である。また、骨材の量も限定されるものではなく適宜設定すればよいが、通常はコンクリート1m
3あたりの粗骨材量が800〜1000kg、細骨材量が600〜800kg程度である。
【0032】
本発明の硬化性組成物は、上記クリンカー、II型無水石膏、二水石膏、遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材及び水のほかに、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、空気量調整剤、凝結促進剤、防錆剤、増粘剤、膨張剤、鉱物質微粉末等を添加配合しても構わない。
【0033】
本発明において、セメント組成物と、遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤、骨材及び水の混合方法は特に制限されない。例えば、全部を同時に混合する方法、セメント組成物を、水と遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤との混合溶液と混合する方法などが挙げられる。また、上記の混合には、公知の混合器が特に制限無く使用される。
【0034】
かかる硬化性組成物は、高流動コンクリート、高強度コンクリート等のコンクリートなどを構成した場合に前記の優れた性能を発揮し、それぞれの用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の構成及び効果を説明するが、本発明が実施例に限定されるというものではない。
【0036】
実施例1
2CaO・SiO
2含有率35質量%、3CaO・Al
2O
3含有率4.6質量%のクリンカーに、石膏中の無水石膏含有率がSO
3換算で無水石膏と二水石膏の総量の50質量%である石膏を、SO
3換算でクリンカーと石膏の総量の2.1±0.2質量%となるように配合し、ブレーン値3360cm
2/gとなるように粉砕されたセメント組成物に水、細骨材、粗骨材及び遅延形のポリカルボン酸系セメント分散剤(日本シーカ株式会社製シーカメント1100NTR)を表1に示す割合で配合した水セメント比27%の組成物(コンクリート)を、34±1℃の環境において、コンクリートミキサーにより練り混ぜ、練り混ぜ直後から90分までの流動性の経時変化を測定した。コンクリートの流動性は、JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に基づきスランプフロー値を測定し、評価した。結果を表2に示す。
【0037】
比較例1
2CaO・SiO
2含有率35質量%、3CaO・Al
2O
3含有率4.6質量%のクリンカーに、石膏中の無水石膏含有率がSO
3換算で無水石膏と二水石膏の総量の50質量%である石膏を、SO
3換算でクリンカーと石膏の総量の2.1±0.2質量%となるように配合し、ブレーン値3360cm
2/gとなるように粉砕されたセメント組成物に水、細骨材、粗骨材及び標準形のポリカルボン酸系セメント分散剤(日本シーカ株式会社製シーカメント1100NT)を使用し、実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0038】
比較例2
実施例で使用したものと同一のクリンカーに、SO
3換算でクリンカーと石膏の総量の2.1±0.2質量%となるように二水石膏を配合し、ブレーン値3400cm
2/gとなるように粉砕されたセメント組成物に水、細骨材、粗骨材及び標準形のポリカルボン酸系セメント分散剤(日本シーカ株式会社製シーカメント1100NT)を使用し、実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0039】
比較例3
実施例で使用したものと同一のクリンカーに、SO
3換算でクリンカーと石膏の総量の2.1±0.2質量%となるように二水石膏を配合し、ブレーン値3400cm
2/gとなるように粉砕されたセメント組成物に水、細骨材、粗骨材及び遅延形のポリカルボン酸系のセメント分散剤(日本シーカ株式会社製シーカメント1100NTR)を使用し、実施例1と同様にして組成物を得、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】