(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932656
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】ニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/00 20060101AFI20160526BHJP
C07C 255/46 20060101ALI20160526BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20160526BHJP
【FI】
C07C253/00
C07C255/46
!C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-539670(P2012-539670)
(86)(22)【出願日】2011年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2011073140
(87)【国際公開番号】WO2012053372
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-237746(P2010-237746)
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】三好 慶
(72)【発明者】
【氏名】宇治田 克爾
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 五朗
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−213975(JP,A)
【文献】
H. M. MESHRAM,Dehydration of Aldoximes to Nitriles with Clay,SYNTHESIS,1992年10月,No.10,p.943-944
【文献】
B. P. BANDGAR et al.,Microwave Activation in Organic Synthesis: Natural Indian Clay, EPIC EPZG and EPZ10 as Novel Heterog,SYNTHETIC COMMUNICATIONS,1999年,Vol.29, No.19,p.3409-3413
【文献】
BEJOY Thomas et al.,Dehydration of Aldoximes Over H-zeolites: A Convenient and Highly Atom Economic Method for the Prepa,CHEMICAL ENGINEERING JOURNAL,2007年 9月15日,Vol.133, Issues1-3,p.59-68
【文献】
Shoichiro SUEOKA et al.,Supported Monomeric Vanadium Catalyst for Dehydration of Amides to Form Nitriles,CHEMICAL COMMUNICATIONS,2010年 9月28日,Vol.46, No.43,p.8243-8245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/00
C07C 255/46
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるオキシムを、ハイドロタルサイト及び遷移金属化合物(ただし、ハイドロタルサイトに担持されている遷移金属化合物を除く)の存在下に脱水反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるニトリルの製造方法。
R−CH=NOH (1)
(式中、Rは、炭素数3〜20の鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素数3〜20の鎖状若しくは環状のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。)
R−C≡N (2)
(式中、Rは前記定義のとおりである。)
【請求項2】
ハイドロタルサイトの使用量が、一般式(1)で表されるオキシムに対して0.1〜50質量%である、請求項1に記載のニトリルの製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるオキシムが、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムである、請求項1又は2に記載のニトリルの製造方法。
【請求項4】
遷移金属化合物がバナジウム化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のニトリルの製造方法。
【請求項5】
遷移金属化合物がメタバナジン酸ナトリウムである、請求項1〜4のいずれかに記載のニトリルの製造方法。
【請求項6】
ハイドロタルサイトと遷移金属化合物との質量比(ハイドロタルサイト:遷移金属化合物)が、1:0.01〜1:1である、請求項1〜5のいずれかに記載のニトリルの製造方法。
【請求項7】
脱水反応の温度が30〜200℃であり、かつ反応の進行に伴い生成する水を除去する、請求項1〜6のいずれかに記載のニトリルの製造方法。
【請求項8】
生成する水の除去が、水と共沸する溶媒を存在させ、共沸により水を反応系外へ留去させる方法により行われる、請求項7に記載のニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穏和な条件で、高収率かつ高選択率でニトリルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルは、官能基変換が可能で、医薬、農薬、香料、染料等の精密化学品の合成原料等として有用な有機化合物である。
かかるニトリルの製造方法としては、例えば、第一級アミドの脱水反応による方法や、オキシムの脱水反応による方法が知られている。
第一級アミドの脱水反応によるニトリルの製造方法としては、ジブチルスズオキシド触媒を用いる方法(例えば、非特許文献1参照)、ルテニウム触媒を用いる方法(例えば、非特許文献2参照)、パラホルムアルデヒド−蟻酸法(例えば、非特許文献3参照)、レニウムオキソ錯体触媒を用いる方法(例えば、非特許文献4参照)等が知られている。
しかしながら、これらの方法は、触媒活性が充分でなかったり、有機スズ化合物等の毒性の高い触媒や希少金属の触媒を用いたり、第一級アミドに対して1当量以上の脱水剤を必要としたり、又はニトリル合成後の精製や、触媒の分離等の後工程が煩雑となる等の問題点を有する。
【0003】
一方、オキシムの脱水反応によるニトリルの製造方法としては、例えば、無水酢酸、塩化チオニル、五酸化リン、五塩化リン等を用いて脱水する方法(例えば、非特許文献5参照)、酸触媒を用いて脱水する方法(例えば、特許文献1参照)、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を用いて脱水する方法(例えば、特許文献2参照)、七価のレニウム化合物を用いて脱水する方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2−59144号公報
【特許文献2】特開2000−344723号公報
【特許文献3】特開2003−252845号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Org.Chem.,64,p1713,(1999)
【非特許文献2】J.Mol.Cat.,58,p87,(1990)
【非特許文献3】J.Org.Chem.,61,p6486,(1996)
【非特許文献4】Angew.Chem.Int.Ed.,41,p29,(2002)83.
【非特許文献5】「第四版 実験化学講座20」、日本化学会編、丸善株式会社発行、有機合成II、p.451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オキシムの脱水反応によるニトリルの製造方法において、非特許文献5の方法では、大量の脱水剤を必要とし、大量の廃棄物が発生するうえ、反応条件も過酷である。
特許文献1の方法は、強い酸性条件下であるため、高沸副生物が生じて収率が低下するうえ、装置等の腐食が問題となる。
特許文献2の方法は、強いアルカリ性条件下で脱水反応を行うため、アルカリ性条件下で不安定な官能基を持たないオキシムを用いる必要がある。
特許文献3の方法は、レニウムが希少な金属であり、高価であるという問題がある。
本発明は、上記の実情に鑑み、オキシムを原料として、穏和な条件で脱水反応を行い、大量の廃棄物の排出がなく、高収率かつ高選択率で、工業的に有利なニトリルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、オキシムの脱水反応によりニトリルを製造するに際し、ハイドロタルサイト又はハイドロタルサイトと遷移金属化合物の存在下に脱水反応を行うことにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるオキシム(以下、オキシム(1)と称する。)を、ハイドロタルサイトの存在下に脱水反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるニトリル(以下、ニトリル(2)と称する。)の製造方法である。
R−CH=NOH (1)
(式中、Rは、炭素数3〜20の鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素数3〜20の鎖状若しくは環状のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。)
R−C≡N (2)
(式中、Rは前記定義のとおりである。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医薬、農薬、香料、染料等、精密化学品の合成原料等として有用なニトリル(2)を、オキシム(1)を原料として、穏和な条件で脱水反応を行い、大量の廃棄物の排出がなく、高収率かつ高選択率で、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、オキシム(1)を、ハイドロタルサイトの存在下に脱水反応させることを特徴とする、ニトリル(2)の製造方法である。
【0011】
上記一般式(1)及び(2)において、Rが表す、炭素数3〜20の鎖状アルキル基としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えばn−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基等が挙げられる。中でも、炭素数3〜17の鎖状アルキル基がより好ましく、炭素数5〜12の鎖状アルキル基が更に好ましい。なお、ここで、「各種」とは、直鎖又は分岐鎖状異性体基を意味する。
Rが表す、炭素数3〜20の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、アダマンチル基等が挙げられる。中でも、炭素数3〜12の環状アルキル基がより好ましく、炭素数5〜10の環状アルキル基が更に好ましい。
【0012】
Rが表す、炭素数3〜20の鎖状アルケニル基としては、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えばアリル基、プロペニル基、各種ブテニル基、各種ヘキセニル基、各種オクテニル基、各種デセニル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種オクタデセニル基等の各種アルケニル基が挙げられる。なお、ここで、「各種」とは、直鎖異性体基又は分岐鎖状異性体基を意味する。中でも、炭素数3〜17の鎖状アルケニル基がより好ましく、炭素数5〜12の鎖状アルケニル基が更に好ましい。
Rが表す、炭素数3〜20の環状アルケニル基としては、例えばシクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基、シクロデセニル基、シクロドデセニル基等が挙げられる。中でも、炭素数3〜12の環状アルケニル基がより好ましく、炭素数5〜10の環状アルケニル基が更に好ましい。
【0013】
Rが表す、炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Rが表す炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
なお、Rが表す上記してきた基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えばシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0014】
オキシム(1)の具体例としては、アセトアルデヒドオキシム、プロパナールオキシム、ブタナールオキシム、ペンタナールオキシム、ヘキサナールオキシム、デカナールオキシム、2−メチルペンタナールオキシム、2−エチルペンタナールオキシム、2−メチルヘキサナールオキシム、2−エチルヘキサナールオキシム、3−メトキシプロパナールオキシム、4−エトキシブタナールオキシム、3−アセチルプロパナールオキシム、4−アセチルブタナールオキシム、3−エトキシカルボニルプロパナールオキシム、4−メトキシカルボニルブタナールオキシム、3−フェニルプロパナールオキシム、2−フェニル−2−プロペナールオキシム、4−ナフチルブタナールオキシム、2−ブテナールオキシム、2−ペンテナールオキシム、2−ヘキセナールオキシム、3,7−ジメチルオクタ−6−エナールオキシム、3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエナールオキシム、シクロプロパンカルボアルデヒドオキシム、シクロブタンカルボアルデヒドオキシム、シクロペンタンカルボアルデヒドオキシム、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム、アダマンタン−1−カルボアルデヒドオキシム、アダマンタン−2−カルボアルデヒドオキシム、(2−メチル)アダマンタン−1−カルボアルデヒドオキシム、8−(2′,6′,6′−トリメチル−1′−シクロヘキセン−1′−イル)−2,6−ジメチル−1,3,5,7−オクタテトラエンカルボアルデヒドオキシム、ベンズアルデヒドオキシム、2−メチルベンズアルデヒドオキシム、3−メチルベンズアルデヒドオキシム、4−メチルベンズアルデヒドオキシム、2,4,6−トリメチルベンズアルデヒドオキシム、2−アセチルベンズアルデヒドオキシム、3−アセチルベンズアルデヒドオキシム、4−アセチルベンズアルデヒドオキシム、2−メトキシカルボニルベンズアルデヒドオキシム、3−メトキシカルボニルベンズアルデヒドオキシム、4−メトキシカルボニルベンズアルデヒドオキシム、2−メトキシベンズアルデヒドオキシム、3−メトキシベンズアルデヒドオキシム、4−メトキシベンズアルデヒドオキシム、フェニルアセトアルデヒドオキシム、2−メチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、3−メチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、4−メチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、2−アセチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、3−アセチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、4−アセチルフェニルアセトアルデヒドオキシム、2−メトキシカルボニルフェニルアセトアルデヒドオキシム、3−メトキシカルボニルフェニルアセトアルデヒドオキシム、4−メトキシカルボニルフェニルアセトアルデヒドオキシム、2−メトキシフェニルアセトアルデヒドオキシム、3−メトキシフェニルアセトアルデヒドオキシム、4−メトキシフェニルアセトアルデヒドオキシム等が挙げられる。中でも、得られるニトリルの用途の観点から、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムが特に好ましい。
本発明の製造方法において、原料として用いるオキシム(1)は、アルデヒドのオキシム体を意味する。かかるオキシム(1)は、対応するアルデヒド類とヒドロキシルアミンの無機塩とを常法に従って反応させることにより得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法では、反応系中にハイドロタルサイトを存在させ、かかるハイドロタルサイトは脱水触媒としての役割を担う。ハイドロタルサイトは、天然に産出する粘土鉱物の1種であり、例えば、下記一般式(3)で表される構造を有するもの(以下、ハイドロタルサイト(3)と称する。)を好適に用いることができる。
M
2+1−xM
3+x(OH
−)
2+x−y(A
n−)
y/n (3)
(式中、M
2+は2価の金属イオン、M
3+は3価の金属イオンを示し、A
n−はn価の陰イオンを示す。xは0.1≦x≦0.5の範囲の正数、yは0.1≦y≦0.5の範囲の正数であり、nは1又は2である。)
【0016】
ハイドロタルサイト(3)における2価の金属イオン(M
2+)としては、例えば、Mg
2+、Ca
2+、Fe
2+、Zn
2+及びCu
2+等の1種又は2種以上が挙げられる。なお、M
2+は、1種の金属イオンから構成されていてもよいし、2種以上の金属イオンから構成されていてもよい。
ハイドロタルサイト(3)における3価の金属イオン(M
3+)としては、例えば、Al
3+及び/又はFe
3+が挙げられる。また、M
2+と同様に、M
3+も1種の金属イオンから構成されていてもよいし、また2種以上の金属イオンから構成されていてもよい。
ハイドロタルサイト(3)における陰イオン(A
n-)としては、CO
32-、Cl
-、OH
-、NO
2-、NO
3-及びSO
42-等が挙げられる。A
n-も、1種から構成されていてもよいし、また2種以上の任意の組み合わせで構成されていてもよい。
なお、本発明において、ハイドロタルサイトは、水和物であってもよく、無水物であってもよい。
【0017】
ハイドロタルサイトの市販品としては、協和化学工業株式会社製「キョーワード500SH」、和光純薬工業株式会社製「ハイドロタルサイト(CAS No.12304−65−3)」等を用いることができる。
本発明の製造方法において、ハイドロタルサイトが脱水触媒として作用する理由は未解明であるが、ハイドロタルサイトは層構造を有しており、この層構造へオキシム(1)がキレーションされることで活性化され、またその層に存在するCO
32-等によって、オキシムが穏和な条件で脱水されると推定している。
【0018】
本発明の製造方法においては、前記ハイドロタルサイトと共に、さらに遷移金属化合物を存在させてもよい。これにより、オキシム(1)の脱水反応によるニトリル(2)の生成を円滑に進行させることができる。
使用できる遷移金属化合物としては、周期表第5族、第6族及び第7族に属する遷移金属の化合物が好ましく、周期表第5族に属する遷移金属の化合物がより好ましく、バナジウム化合物が特に好ましい。
バナジウム化合物としては、例えば五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化二バナジウム、塩化バナジウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化硫酸バナジウム(硫酸バナジル)、塩化酸化バナジウム、臭化酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトネート等の1種又は2種以上が挙げられる。
バナジウム化合物を遷移金属化合物として存在させた場合、5価のバナジウムであるのが好ましく、例えば、メタバナジン酸ナトリウム等が挙げられる。
前記のハイドロタルサイトと遷移金属化合物との使用割合は、脱水反応を円滑に進行させる観点から、質量比でハイドロタルサイト:遷移金属化合物=1:5以下であることが好ましく、1:0.01〜1の範囲内であることがより好ましく、1:0.05〜0.8の範囲内であることがより好ましく、1:0.1〜0.6の範囲内であることが更に好ましい。
【0019】
〔反応条件〕
本発明の製造方法においては、ハイドロタルサイト、又はハイドロタルサイトと遷移金属化合物(好ましくはバナジウム化合物)の存在下に、オキシム(1)の脱水反応を行うが、この際、ハイドロタルサイト(3)の使用量は、脱水反応を円滑に進行させる観点から、オキシム(1)に対して0.1〜50質量%の範囲であることが好ましく、1〜30質量%の範囲であることがより好ましく、1〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1〜10質量%の範囲であることが更に好ましい。
また、脱水反応の温度は、オキシム(1)の種類により異なるが、通常30〜200℃の範囲が好ましく、80〜170℃の範囲がより好ましい。
該脱水反応においては、反応の進行に伴い生成する水を除去しながら反応を行なうことが好ましい。反応により生成した水を除去する方法に特に制限はない。例えば、(i)水と共沸する溶媒を存在させ、反応条件下にて共沸により水を反応系外へ留去させる方法、(ii)高沸点溶媒を使用し、反応条件を減圧とすることにより、水を系外へ留去させる方法等が挙げられる。操作性の観点からは、(i)の方法が好ましい。この際、水と共沸する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素を用いることができる。
反応時間は、反応温度、原料や溶媒の種類等の条件によるが、通常2〜15時間、好ましくは4〜10時間である。
このようにして、ニトリル(2)を、高収率かつ高選択率で得ることができる。
【0020】
ニトリル(2)の具体例としては、アセトニトリル、プロパンニトリル、ブタンニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンニトリル、デカンニトリル、2−メチルペンタンニトリル、2−エチルペンタンニトリル、2−メチルヘキサンニトリル、2−エチルヘキサンニトリル、3−メトキシプロパンニトリル、4−エトキシブタンニトリル、3−アセチルプロパンニトリル、4−アセチルブタンニトリル、3−エトキシカルボニルプロパンニトリル、4−メトキシカルボニルブタンニトリル、3−フェニルプロピオノニトリル、2−フェニルアクリロニトリル、4−ナフチルブタンニトリル、2−ブテンニトリル、2−ペンテンニトリル、2−ヘキセンニトリル、3,7−ジメチルオクタ−6−エンニトリル、3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエンニトリル、シクロプロパンカルボニトリル、シクロブタンカルボニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、アダマンタン−1−カルボニトリル、アダマンタン−2−カルボニトリル、(2−メチル)アダマンタン−1−カルボニトリル、8−(2′,6′,6′−トリメチル−1′−シクロヘキセン−1′−イル)−2,6−ジメチル−1,3,5,7−オクタテトラエンカルボニトリル、ベンゾニトリル、2−メチルベンゾニトリル、3−メチルベンゾニトリル、4−メチルベンゾニトリル、2,4,6−トリメチルベンゾニトリル、2−アセチルベンゾニトリル、3−アセチルベンゾニトリル、4−アセチルベンゾニトリル、2−メトキシカルボニルベンゾニトリル、3−メトキシカルボニルベンゾニトリル、4−メトキシカルボニルベンゾニトリル、2−メトキシベンゾニトリル、3−メトキシベンゾニトリル、4−メトキシベンゾニトリル、フェニルアセトニトリル、2−メチルフェニルアセトニトリル、3−メチルフェニルアセトニトリル、4−メチルフェニルアセトニトリル、2−アセチルフェニルアセトニトリル、3−アセチルフェニルアセトニトリル、4−アセチルフェニルアセトニトリル、2−メトキシカルボニルフェニルアセトニトリル、3−メトキシカルボニルフェニルアセトニトリル、4−メトキシカルボニルフェニルアセトニトリル、2−メトキシフェニルアセトニトリル、3−メトキシフェニルアセトニトリル、4−メトキシフェニルアセトニトリル等が挙げられる。中でも、用途の観点から、シクロヘキサンカルボニトリルが特に好ましい。
【0021】
本発明の製造方法で得られたニトリル(2)は、通常、有機化合物の単離・精製に一般的に用いられる方法で単離・精製することができる。例えば、反応混合物をろ過してハイドロタルサイト(3)を除去した後、ろ液を濃縮する。濃縮物を必要に応じてさらに蒸留・再結晶等により精製し、純度の高いニトリル(2)を得ることができる。
なお、上記でろ過により回収したハイドロタルサイト(3)は、必要に応じてその少なくとも一部又は全部を、再び本発明の製造方法において使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により、なんら限定されるものではない。
なお、ハイドロタルサイトA及びハイドロタルサイトBとして、下記のものを使用した。
・ハイドロタルサイトA:和光純薬工業株式会社製「ハイドロタルサイト(CAS No.12304−65−3)」
・ハイドロタルサイトB:協和化学工業株式会社製「キョーワード500SH」
【0023】
実施例1
窒素置換し、ディーンスターク水分離装置を備えた内容積200mLの三口フラスコに、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム16.6g(0.130mol、0.47gのシクロヘキサンカルボニトリルを含有する)、トルエン54.7g、及びハイドロタルサイトA0.93gを仕込み、165℃に加熱して生成する水を除去しながら5時間攪拌した。反応終了後にハイドロタルサイトAをろ過して除去し、得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて定量したところ、11.8g(0.108mol)のシクロヘキサンカルボニトリルを得た。転化率は99.3%、収率は80.2%、選択率は80.8%であった。
なお、仕込みシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムに対するハイドロタルサイトAの割合は5.6質量%であった。
【0024】
実施例2
実施例1と同様の装置を用い、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム18.2g(0.143mol、0.52gのシクロヘキサンカルボニトリルを含有する)、トルエン64.9g、ハイドロタルサイトA0.93g、及びメタバナジン酸ナトリウム0.30gを仕込み、140℃に加熱して生成する水を除去しながら5時間攪拌した。反応終了後にハイドロタルサイトAをろ過して得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて定量したところ、14.9g(0.145mol)のシクロヘキサンカルボニトリルを得た。転化率は100%、収率は97.2%、選択率は97.2%であった。
なお、仕込みシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムに対するハイドロタルサイトAの割合は5.1質量%であり、ハイドロタルサイトA:メタバナジン酸ナトリウムの質量比は約3:1(1:約0.33)であった。
【0025】
実施例3
実施例1と同様の装置を用い、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム17.9g(0.140mol、0.51gのシクロヘキサンカルボニトリルを含有する)、キシレン105.9g、ハイドロタルサイトA0.93g、及びメタバナジン酸ナトリウム0.30gを仕込み、140℃に加熱して生成した水を除去しながら5時間攪拌した。反応終了後にハイドロタルサイトAをろ過して除去し、得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて定量したところ、14.9g(0.137mol)のシクロヘキサンカルボニトリルを得た。転化率は99.5%、収率は92.6%、選択率は93.1%であった。
なお、仕込みシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムに対するハイドロタルサイトAの割合は5.2質量%であり、ハイドロタルサイトA:メタバナジン酸ナトリウムの質量比は約3:1(1:約0.33)であった。
【0026】
実施例4
実施例1と同様の装置を用い、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム18.7g(0.147mol、0.36gのシクロヘキサンカルボニトリルを含有する)、キシレン137.9g、ハイドロタルサイトB0.56g、及びメタバナジン酸ナトリウム0.17gを仕込み、140℃に加熱して生成する水を除去しながら5時間攪拌した。反応終了後にハイドロタルサイトAをろ過して除去し、得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて定量したところ、15.6g(0.143mol)のシクロヘキサンカルボニトリルを得た。転化率は99.6%、収率は95.2%、選択率は95.6%であった。
なお、仕込みシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムに対するハイドロタルサイトBの割合は3.0質量%であり、ハイドロタルサイトB:メタバナジン酸ナトリウムの質量比は約3:1(1:約0.33)であった。
【0027】
比較例1
実施例1と同様の装置を用い、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム16.8g(0.132mol、0.53gのシクロヘキサンカルボニトリルを含有する)、トルエン50.5g、及び硫酸0.93gを仕込み、165℃に加熱して生成した水を除去しながら5時間攪拌した。反応終了後、水洗して得られた有機層をガスクロマトグラフィーにて定量したところ、4.72g(0.043mol)のシクロヘキサンカルボニトリルを得た。転化率は92.6%、収率は31.6%、選択率は34.1%であった。
なお、仕込みシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムに対する硫酸の割合は5.5質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によれば、医薬、農薬、香料、染料等の精密化学品の合成原料等として有用なニトリルを、オキシムを原料として、穏和な条件で脱水を行い、高収率かつ高選択率で、工業的に有利に製造することができる。