特許第5932691号(P5932691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井造船株式会社の特許一覧

特許5932691リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法
<>
  • 特許5932691-リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法 図000004
  • 特許5932691-リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5932691
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20160526BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160526BHJP
   C01B 25/37 20060101ALI20160526BHJP
   C01B 25/08 20060101ALI20160526BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20160526BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160526BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/62 Z
   C01B25/37 Z
   C01B25/08 Z
   H01M10/0562
   H01M10/052
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-55115(P2013-55115)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-182885(P2014-182885A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(72)【発明者】
【氏名】富田 紘貴
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−519451(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150889(WO,A1)
【文献】 P. SUBRAMANYA HERLE ET AL.,Nano-network electronic conduction in iron and nickel olivine phosphates,nature materials,2004年 2月22日,Vol.3,pp.147-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C01B 25/00−25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極と、電解質とを備えるリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用正極材料であって、
LiNiPO及びNiPを含むことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料。
【請求項2】
CuKαを使用した粉末X線回折装置により算出される、前記LiNiPOの25.9±0.5°の110/201回折ピークに対する、前記NiPの16.0±0.5°の110回折ピーク強度比が0.002以上であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記110回折ピーク強度比が0.006以上であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項4】
全固体型のリチウム二次電池用正極材料であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項5】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極と、電解質とを備えるリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用正極材料の製造方法であって、
リチウム原料と、当該リチウム原料と反応して得られるLiNiPO化学量論比よりも過剰量のリン原料と、前記リチウム原料と反応して得られるLiNiPO化学量論比よりも過剰量のニッケル原料と、を混合し、酸化性雰囲気で熱処理させることで、少なくともLiNiPO及びNiPを生成させる工程を含むことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム二次電池用正極材料が、全固体型のリチウム二次電池用正極材料であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法に関し、より詳しくは、リン酸ニッケルリチウムを含むリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
限りある石油資源の枯渇防止や二酸化炭素排出による地球温暖化防止の観点から、船舶等の動力源として、電力が注目されている。このような船舶等においては、リチウム二次電池等の二次電池に蓄電された電力を用い、搭載されているモータが駆動される。そして、モータに接続された回転翼等が駆動されることで、船舶等が航行可能になっている。
【0003】
二次電池は、正極及び負極を備えている。正極や負極の作製は、二次電池の種類等に応じて、様々な方法により行うことができる。例えば、二次電池の中でもリチウム二次電池における正極は、正極合剤を集電板表面に塗布して乾燥させることで製造可能である。
【0004】
リチウム二次電池の正極作製に適用可能な正極合剤には、リチウムイオンを吸蔵及び放出させる正極活物質が含まれている。正極活物質として、様々な種類のものが知られている。具体的には、例えば特許文献1には、正極活物質として、リン酸鉄リチウムが記載されている。
【0005】
しかしながら、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いたリチウム二次電池においては、充放電電圧の改善は困難である。そこで、例えば非特許文献1や非特許文献2には、より高い充放電電圧を達成可能な正極活物質として、リン酸ニッケルリチウムが記載されている。この材料においては、5V以上での酸化還元反応が起こることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−171827号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Power Sources, pp.389〜390, 142(2005)
【非特許文献2】Nature Materials, pp.147〜152, 3(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リン酸ニッケルリチウムを用いたリチウム二次電池は、各種正極活物質を用いた電池の中でも、特に高い充放電電圧を示す。従って、リン酸ニッケルリチウムを用いたリチウム二次電池は、より高い充放電電圧において好適な、有機電解液の代わりに固体電解質を用いた、所謂全固体電池(全固体型の二次電池)であることが好ましい。
【0009】
しかしながら、全固体電池においては、有機電解液を用いたリチウム二次電池とは異なり、リチウムイオンの拡散が生じにくい。従って、より高い充放電電圧特性を示すことが可能なリン酸ニッケルリチウムの特性を最大限活かすことができないことがある。
【0010】
さらには、リン酸ニッケルリチウム等のオリビン系リン酸リチウム金属化合物の電気伝導率は、通常、それほど大きくない。そのため、電気伝導率を高め、十分な充放電容量を得るためには、リン酸ニッケルリチウムの電気伝導率を向上させることが好ましい。
【0011】
この観点のもと、電気伝導率向上の方法として、例えばリン酸ニッケルリチウム粒子を炭素等の電気伝導性材料で被覆することが考えられる。しかしながら、炭素等でリン酸ニッケルリチウム粒子が被覆されると、リン酸ニッケルリチウム粒子と外部との間で、リチウムイオンの授受が行われにくくなることがある。即ち、前記の場合と同様、リチウムイオンの拡散が生じにくくなり、リン酸ニッケルリチウムの特性を最大限活かすことができないことがある。これに加えて、リン酸ニッケルリチウムを電気伝導性材料で被覆すること自体が困難なこともある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑み為されたものである。本発明は、高い充放電電圧と充放電容量とを兼ね備えたリチウム二次電池を製造可能な、リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は前記課題を解決するべく、鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を見出した。即ち、本発明の要旨は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極と、前記正極と前記負極との間に担持される固体電解質とを備えるリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用正極材料であって、LiNiPO及びNiPを含むことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料に関する。
【0014】
また、本発明の別の要旨は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極と、前記正極と前記負極との間に担持される固体電解質とを備えるリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用正極材料の製造方法であって、リチウム原料と、当該リチウム原料と反応して得られるLiNiPO化学量論比よりも過剰量のリン原料と、前記リチウム原料と反応して得られるLiNiPO化学量論比よりも過剰量のニッケル原料と、を混合し、酸化性雰囲気で熱処理させることで、少なくともLiNiPO及びNiPを生成させる工程を含むことを特徴とする、リチウム二次電池用正極材料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い充放電電圧と充放電容量とを兼ね備えたリチウム二次電池を製造可能な、リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の断面図である。
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極近傍の様子を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明するが、本実施形態は以下の内容に何ら制限されず、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で任意に変更して実施可能である。
【0018】
本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法は、リチウム二次電池に適用されれば、当該リチウム二次電池の具体的な構成はどのようなものであってもよい。例えば、これらは、負極として金属以外の材料を用いる所謂「リチウムイオン二次電池」に適用することができるし、負極として例えば金属リチウムやリチウム−アルミニウム合金等を用いる「リチウム二次電池」に適用することもできる。
【0019】
また、本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料を用いて作製された電池は、電解液として非水電解液を用いるリチウム二次電池であってもよく、固体電解質を用いる全固体リチウム二次電池であってもよい。ただし、本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料を用いて作製された電池は、高い充放電電圧において特に好適に使用可能である。この点を考慮すれば、本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料は、全固体型のリチウム二次電池用正極材料(全固体リチウム二次電池用正極材料)であることが好ましい。
【0020】
そこで、以下の本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法の説明として、リチウム二次電池として全固体リチウム二次電池を例に挙げて、これらの説明を以下において行うものとする。ただし、前記のように、本実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法を適用可能なリチウム二次電池は、リチウムイオン二次電池に何ら限られず、どのようなリチウム二次電池であってもよい。
【0021】
[1.リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100(以下、単に「二次電池100」という)は、図1に示すように、正極10と、負極20と、正極10と負極20との間に担持される固体電解質30と、を備えてなるものである。即ち、二次電池100は、全固体型のリチウムイオン二次電池である。
【0022】
〔正極10〕
二次電池100を構成する正極10は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものである。正極10は、例えば、アルミニウム等の集電板に対して、正極活物質や溶剤等を含む正極材料(詳細は、[2.リチウムイオン二次電池100の製造方法]において後記する)が塗布及び乾燥されてなる。従って、正極10は、正極材料中の揮発性成分(溶剤等)以外の各成分を含んで構成される。
【0023】
本実施形態においては、正極10には、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルが含まれている。ここで、リン酸ニッケルリチウムは、通常、正極活物質と機能するものである。リン酸ニッケルリチウムが正極10に含まれることで、二次電池100の充放電電圧を高いものとすることができる。また、全固体リチウム二次電池の場合、正極10には、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルのほか、通常は、ポリフッ化ビニリデン等のバインダ樹脂、アセチレンブラックやカーボンブラック等の導電助剤等、固体電解質、なども含まれている。
【0024】
正極10に含まれる正極活物質としては、正極活物質として通常機能するリン化ニッケルリチウムのほか、例えばリン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、コバルト酸リチウム等の任意の正極活物質を含んでいてもよい。また、正極活物質は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、例えば炭素材料等の電気伝導性材料で被覆されていてもよい。
【0025】
正極10に含まれるリン化ニッケルは、正極10に含まれるリン酸ニッケルリチウム等の正極活物質の電気伝導性を向上させるために用いられる。リン酸ニッケルリチウムの電気伝導性は通常はそれほど大きくない。そこで、リン酸ニッケルリチウムが含まれる正極10中にリン化ニッケルを共存させることで、特にリン酸ニッケルリチウムの電気伝導性を高めることができる。これにより、正極10を有する二次電池100の充放電容量を大きくすることができる。
【0026】
リン化ニッケルには、組成式NiPで示される化合物や、組成式NiPで示される化合物等、幾つかの化合物が包含されている。二次電池100を構成する正極10を作製するために用いられる正極材料には、どのようなリン化ニッケルが含まれていてもよいが、中でも、組成式NiPで示されるリン化ニッケルを含むことが好ましい。これにより、詳細は後記するが、リン酸ニッケルリチウム調製時に併せて容易に調製することができる。
【0027】
正極10に含まれるリン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルの量は特に制限されない。ただし、特にリン酸ニッケルリチウムの電気伝導性を高め、二次電池100の充放電容量を大きくすることができるという観点から、リン化ニッケルの含有量は多いことが好ましい。具体的には、リン化ニッケルの含有量について例えばCuKα線を使用した粉末X線回折装置を用いて測定(算出)する場合、リン酸ニッケルリチウムの25.9±0.5°の110/201回折ピークに対して、前記リン化ニッケルの16.0±0.5°の110回折ピーク強度比が、0.002以上であることが好ましく、0.006以上であることが特に好ましい。この範囲とすることで、二次電池100の充放電容量を特に大きくすることができる。なお、前記の粉末X線回折装置としては、例えばリガク社製 RINT2000を用いることができる。
【0028】
なお、回折ピーク強度比を算出するにあたって、リン化ニッケルを含まない所謂バックグラウンドに相当する試料を調製して分析を行うことにより、リン化ニッケルに起因する回折ピーク強度比(即ち、リン化ニッケルの回折ピーク強度比)を算出することができる。
【0029】
図2は、二次電池100を構成する正極10近傍を拡大して示す図である。なお、図2においては、図示の簡略化のために、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルのみ図示している。
【0030】
図2に示すように、正極10は、正極板1の表面に、リン酸ニッケルリチウム2やリン化ニッケル3等が、バインダ樹脂(図2では図示しない)により固定されてなる。即ち、個々のリン酸ニッケルリチウム2は、リン化ニッケル3により、電気的に接合されているといえる。このように、リン酸ニッケルリチウム2が固定されている正極10に、さらにリン化ニッケル3を固定させることで、リン化ニッケルリチウム2の電気伝導性を向上させることができる。
【0031】
また、リン酸ニッケルリチウム2は、リン化ニッケル3により完全に被覆されているわけではない。従って、リン化ニッケルリチウム2からのリチウムイオンの拡散が阻害されにくく、充放電容量の低下を抑制することができる。
【0032】
〔負極20〕
二次電池100を構成する負極20は、正極10と同様、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものである。負極20は、任意の構成とすることができる。例えば、負極20は、銅もしくはアルミニウム等の集電板に対して、炭素粉末等の炭素材料やリチウム含有合金などの金属元素含有合金正極10と同様のバインダ樹脂や溶剤、導電助剤等を含む負極材料を塗布及び乾燥して、作製することができる。
【0033】
〔固体電解質30〕
二次電池100を構成する固体電解質30は、正極10と負極20との間でリチウムイオン等の授受を媒介するものである。固体電解質30の種類は特に制限されないが、例えば、Li10GeP12、La0.5Li0.5TiO等を用いることができる。これらは一種が単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0034】
[2.リチウムイオン二次電池100の製造方法]
次に、前記したリチウムイオン二次電池100の製造方法(以下、単に「二次電池100の製造方法」という)について説明する。二次電池100は、正極10及び負極20を作製し、これらの間に固体電解質30を担持させることで作製することができる。
【0035】
本実施形態の二次電池100の製造方法においては、正極10の作製は、リチウム原料と、化学量論比よりも過剰量のリン原料と、化学量論比よりも過剰量のニッケル原料と、を混合し、熱処理させることで、少なくともリン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを生成させる工程(リン化ニッケル生成工程)を少なくとも含んで行われる。
【0036】
なお、「化学量論比」に関して、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)において、リン、ニッケル及びリチウムは、いずれも1モルずつ含まれている。従って、「化学量論比よりも過剰量」とは、例えばリン原料であれば、リチウム元素1モルに対して、リン元素が1モルより多い量ということを意味する。
【0037】
正極10は、前記のリン化ニッケル生成工程を経て得られたリン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを用いて作製される。具体的には、これらと溶剤、バインダ樹脂、導電助剤等を混合して集電板に塗布及び乾燥させることで、正極10が作製される。
【0038】
リン化ニッケル生成工程において、リチウム原料としては、リチウムを含む材料である限りどのようなものを用いてもよく、例えば、炭酸リチウムや水酸化リチウム等を用いることができる。リチウム原料は、複数種併用してもよい。中でも、酸化性雰囲気化で熱処理しても窒素酸化物を発生させないという観点から、水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0039】
また、リン原料としては、リンを含む材料である限りどのようなものを用いてもよく、例えば、リン酸水素アンモニウム、リン酸、ピロリン酸等を用いることができる。リン原料は、複数種を併用してもよい。
【0040】
さらに、ニッケル原料としては、ニッケルを含む材料である限りどのようなものを用いてもよく、例えば、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、シュウ酸ニッケル等を用いることができる。ニッケル原料は、複数種を併用してもよい。
【0041】
また、リン及びニッケルの両方が含まれる化合物を用いてもよい。具体的には例えばピロリン酸ニッケル等であり、この場合、ピロリン酸ニッケルは、リン原料及びニッケル原料に相当する。他にも、リン及びリチウムを両方含む化合物(リン原料及びリチウム原料に相当)、ニッケル及びリチウムを両方含む化合物(ニッケル原料及びリチウム原料に相当)、及び、リン、リチウム及びニッケルの全てを含む化合物(リン原料、リチウム原料及びニッケル原料に相当)等を適宜用いてもよい。
【0042】
リチウム原料、リン原料及びニッケル原料の使用量は特に制限されない。ただし、本実施形態においては、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)の組成比において、リン原料及びニッケル原料の使用量が、前記のように、リチウム原料の使用量よりも過剰になる量を使用するものとする。即ち、リン酸ニッケルリチウムは、1モルのリチウム元素と、1モルのニッケル元素と、1モルのリン元素を含んで構成されている。従って、例えば、1モルのリチウム元素を含むリチウム原料に対して、1.1モルのリン元素を含むリン原料と、1.1モルのニッケル元素を含むニッケル原料とを併用することができる。また、例えば、1モルのリチウム元素を含むリチウム原料に対して、1.1モルのリン元素と、1.1モルのニッケル元素とを併用するようにしてもよい。
【0043】
前記の使用量でリチウム原料、リン原料及びニッケル原料を混合した後、混合物に対して熱処理が行われることで、リン酸ニッケルリチウムに加えてリン化ニッケルを生成させることができる。即ち、通常は化学量論比通りに原料(リチウム原料、リン原料及びニッケル原料)を仕込んで熱処理が行われるが、本実施形態においては、敢えてリン原料及びニッケル原料を化学量論比において過剰量となるように仕込んでいる。このように、原料の使用量を化学量論比通りの量から変更することで、リン化ニッケルを生成させることができる。これにより、容易に、リン酸ニッケルリチウムの電気伝導率を向上させることができる。
【0044】
熱処理時の条件は特に制限されない。例えば、300℃以上500℃以下で2時間以上12時間以下の仮焼成した後、600℃以上800℃以下で2時間以上12時間以下の本焼成することで熱処理を行うことができる。ただし、より確実にリン化ニッケルリチウム及びリン化ニッケルの混合物を得るという観点から、600℃以上700℃以下の温度で本焼成を行うことが好ましい。また、必要に応じて、仮焼成を行わなくてもよい。
【0045】
熱処理時の雰囲気も特に制限されず、酸化性雰囲気(例えば大気中)、不活性雰囲気(例えば窒素ガスやアルゴンガス中)等、どのような雰囲気であってもよい。ただし、熱処理槽を小型化でき、容易に熱処理可能という観点から、酸化性雰囲気において熱処理することが好ましい。また、酸化性雰囲気で熱処理を行うことで、原料中の例えば炭素原子等を一酸化炭素や二酸化炭素として外部に排出することができ、熱処理後の産物中への不純物の生成や残留を抑制することができる。これにより、電気伝導率の向上がいっそう促される。
【0046】
熱処理後、得られたリン化ニッケルリチウム及びリン化ニッケルの混合物に対して、溶剤のほか、前記の正極10を構成する材料を添加し、集電板に塗布して乾燥させることで、正極10が作製できる。
【0047】
一方で、負極20の作製方法は特に制限されず、負極20を構成する材料を溶剤に適宜混合し、集電板に塗布して乾燥させることで、負極20が作製できる。そして、得られた正極10及び負極20の間に固体電解質30を担持させることで、二次電池100を作製することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0049】
〔実施例1〕
リチウム原料としての水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)8.46gと、リン原料及びニッケル原料としてのピロリン酸ニッケル(Ni・6HO)41.53gとを十分に混合した。そして、得られた混合物について、空気中で、500℃で6時間仮焼成して粉砕後、700℃で6時間本焼成を行った。これにより、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケル(本実施例ではNiP)が生成し、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを含む混合物が得られた。
【0050】
得られた混合物におけるリン化ニッケルの含有量を測定した。具体的には、CuKα線を使用した粉末X線回折装置(リガク社製 RINT2000)を用いて、リン酸ニッケルリチウムの25.9±0.5°の110/201回折ピークに対する、前記リン化ニッケルの16.0±0.5°の110回折ピーク強度比を算出した。その結果、算出された回折ピーク強度比は0.021であることがわかった。なお、回折ピーク強度比が大きければ大きいほど、リン化ニッケルの含有量が多いことになる。
【0051】
また、得られた混合物について、電気伝導率を測定した。測定は、測定装置としてケミカルインピーダンスメータ3532−80(日置電気株式会社製)を用い、圧力を100MPaで四端子法により行った。その結果、電気伝導率は1.7×10−6S/cm(=170×10−8S/cm)であった。
【0052】
〔実施例2〕
仮焼成を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを含む混合物を得た。
【0053】
得られた混合物について、実施例1と同様にして回折ピーク強度比を算出したところ、算出された回折ピーク強度比は0.043であった。また、得られた混合物について、実施例1と同様にして電気伝導率を測定したところ、1.5×10−6S/cm(=150×10−8S/cm)であった。
【0054】
〔実施例3〕
仮焼成を行わず、かつ、本焼成時の温度を800℃に代えたこと以外は実施例1と同様にして、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを含む混合物を得た。
【0055】
得られた混合物について、実施例1と同様にして回折ピーク強度比を算出したところ、算出された回折ピーク強度比は0.017であった。また、得られた混合物について、実施例1と同様にして電気伝導率を測定したところ、1.7×10−7S/cm(=17×10−8S/cm)であった。
【0056】
〔比較例1〕
リチウム原料として水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)1.65g、ニッケル原料として水酸化ニッケル(Ni(OH))3.83g、リン原料としてリン酸二水素アンモニウム(NHPO)4.52gを乳鉢で粉砕・混合後、350℃で6時間、大気中で仮焼きした。その後、乳鉢で粉砕後、700℃で6時間本焼成することで、リン酸ニッケルリチウムを調製した。
【0057】
得られた混合物について、実施例1と同様にして回折ピーク強度比を算出したところ、算出された回折ピーク強度比は0.015であった。また、得られた混合物について、実施例1と同様にして電気伝導率を測定したところ、3.4×10−8S/cm)であった。
【0058】
〔検討〕
実施例1〜3並びに比較例1の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0059】
表1に示すように、リン化ニッケルを含まない比較例1においても、回折ピーク強度比が算出された。この回折ピーク強度比はバックグラウンドであると考えられる。そこで、実施例1〜3の各値から比較例1の値を引き、このバックグラウンドを考慮した評価結果を、表2に示す。即ち、表2に示す回折ピーク強度比が、リン化ニッケルに起因する回折ピーク強度比である。
【表2】
【0060】
表2に示すように、リン酸ニッケルリチウムが含まれることにより、電気伝導率が向上していた(実施例1〜実施例3)。即ち、リン化ニッケルが含まれると(例えば、回折ピーク強度比が0.002以上)、電気伝導率が向上していた。特に、リン化ニッケルの回折ピーク強度比が0.006以上であることにより、リン化ニッケルが含まれていない場合(比較例1)と比較して、電気伝導率は45〜50倍程度まで向上した(実施例1及び実施例2)。
【0061】
このように、リン化ニッケルを含ませることで、電気伝導率を向上させることができることがわかった。特には、例えばCuKα線を使用した粉末X線回折装置を用いて算出可能なリン化ニッケルの回折ピーク強度比を0.006以上とすることで、電気伝導率を飛躍的に向上させることができることがわかった。
【0062】
また、実施例3においても、回折ピーク強度比が比較的小さい値にもかかわらず、電気伝導率が5倍程度まで増大していた。ただし、実施例3の電気伝導率は、実施例1や実施例2の電気伝導率よりは低かった。これは、実施例3での本焼成温度は800度とやや高く、これにより、リン酸リチウム等の結晶相と焼結してしまい、リン酸ニッケルリチウムが多く生成するためであると考えられる。具体的な化学反応を簡潔に示せば、LiPO+NiP+O→LiNiPOとなる。そして、この結果、電気伝導率が、実施例1や実施例2よりも低くなったものと考えられる。
【0063】
実施例1〜実施例3において示したように、リン原料及びニッケル原料を過剰量含ませて熱処理を行うことにより、リン化ニッケルを容易に生成させることができる。即ち、これらの原料の使用量を変更することで容易にリン化ニッケルを生成させることができ、これにより、電気伝導率を向上させることができる。特に、例えばニオブやモリブデン等の金属を別途用いることなく電気伝導率を向上させることができるため、限りある資源を有効利用することができる。
【0064】
また、リン酸ニッケルリチウムを被覆せずに電気伝導率を向上させることができるため、被覆によるリチウムイオンの拡散を抑制することができる。そのため、正極活物質であるリン酸ニッケルリチウムの高電気伝導性とリチウムイオンの高拡散性とを両立させることができる。これらにより、リチウムイオン二次電池の充放電容量を増大させることができる。
【0065】
また、本実施例において調製した正極にはリン酸ニッケルリチウムが含まれており、この正極を備えるリチウムイオン二次電池は、高い充放電電圧特性を奏する。従って、リン酸ニッケルリチウム及びリン化ニッケルを含む正極材料を用いれば、高い充放電電圧と充放電容量とを兼ね備えたリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 集電板
2 リン酸ニッケルリチウム
3 リン化ニッケル
4 正極材料
10 正極
図1
図2