特許第5933134号(P5933134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5933134スパイスミックス、加熱調理用調味料及び揚げ物用衣材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5933134
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月8日
(54)【発明の名称】スパイスミックス、加熱調理用調味料及び揚げ物用衣材
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20160526BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20160526BHJP
   A23L 27/14 20160101ALI20160526BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20160526BHJP
【FI】
   A23L1/221 C
   A23L1/176
   A23L1/223
   A23L1/31 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-545568(P2015-545568)
(86)(22)【出願日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2015061338
(87)【国際公開番号】WO2015159841
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-84429(P2014-84429)
(32)【優先日】2014年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】前田 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 葉
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】西出 辰徳
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−360200(JP,A)
【文献】 特表2009−538616(JP,A)
【文献】 特開2005−168386(JP,A)
【文献】 特開2015−039311(JP,A)
【文献】 特開2015−027293(JP,A)
【文献】 特開平08−252074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 7/157
A23L 13/00
A23L 27/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FROSTI/FSTA(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末、フェンネル末、オニオン末、マジョラム末及びガーリック末からなる群から選択される1種以上を50〜90質量%、(2)ナツメグ末、セージ末及びオレガノ末からなる群から選択される1種以上を5〜30質量%、並びに(3)オールスパイス末及びクローブ末からなる群から選択される1種以上(ただし、前記(2)においてナツメグ末を選択する場合はオールスパイス末)を5〜30質量%含有するスパイスミックス。
【請求項2】
さらに、植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を、前記スパイスミックス中の全スパイス末100質量部に対して20〜200質量部含有する請求項1に記載のスパイスミックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパイスミックスを1〜80質量%含有する加熱調理用調味料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスパイスミックスを0.1〜10質量%含有する揚げ物用衣材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のスパイスミックス、請求項3に記載の加熱調理用調味料又は請求項4に記載の揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理する食品の製造方法。
【請求項6】
前記スパイスミックス、前記加熱調理用調味料又は前記揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間の50%〜95%は、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間である、請求項5に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理後時間が経過しても、風味の低下が少ないスパイスミックスに関する。詳細には、高温条件において香気成分が揮発飛散しにくく、調理中は元より、調理後に保温しながら長時間保存しても十分に香気を保持し、喫食する際に好ましい香味を食品に付与するスパイスミックス、並びにそれを含有する加熱調理用調味料及び揚げ物用衣材に関する。
【背景技術】
【0002】
肉類や魚介類を喫食する際、これらの食材が有する臭みを抑制し、風味を引き立てる目的で、ペッパー、ナツメグ、ジンジャー等の各種のスパイス類が用いられている。これらスパイスには揮発性の香気成分が含まれており、この香気成分は、常温から加熱条件下に揮発し、食材やソース等の風味と相俟って臭みを消し、食品を好ましい香味とすることができる。
【0003】
スパイスに含まれる香気成分は揮発しやすいため、スパイスは通常、ガスバリア性の容器等に密封されて保管されている。一方、スパイスを用いた調理済食品を密封することは通常殆どされておらず、該食品を調理後に密封せずに保管しておくと徐々に香りが飛散して減少してしまい、喫食する際には香味に乏しいか、バランスに劣るものになってしまう。しかしながら、食品の香味等を評価する主体は、調理直後は調理者、喫食時は喫食者であって、調理者と喫食者とが同一人でない場合が多いため、この調理済食品の香味等の減少は、これまであまり問題にされることはなかった。
【0004】
近年、食品小売において、調理済食品をホットウォーマー等で保温しながら販売する形態が普及してきている。本発明者らは、これらの調理済食品におけるスパイスの香気が調理時や保管時の高温条件によって低下していることを知見した。特にから揚げ等の揚げ物類では、食材を高温の油中に投入して調理するため、スパイス由来の揮発成分が多量に揮発してしまい、調理直後は元より、保温中に香味が著しく低下していた。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1には、スパイスを微粉砕し、24時間以内に酸素非透過性の包装体に充填・封入して酸素非存在下に貯蔵し、開封後所定時間以内に食肉原料に添加する食肉加工品の製造方法が記載されている。また特許文献2には、0℃未満の低温条件下で粉砕した凍結粉砕スパイスが、香味がより強く、香味の持続時間が長いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−168386号公報
【特許文献2】特開2010−051251号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、(1)ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末、フェンネル末、オニオン末、マジョラム末及びガーリック末からなる群から選択される1種以上を50〜90質量%、(2)ナツメグ末、ローズマリー末、パプリカ末、タイム末、セージ末及びオレガノ末からなる群から選択される1種以上を5〜30質量%、並びに(3)オールスパイス末、クローブ末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を5〜30質量%含有するスパイスミックスである。
【0008】
また本発明は、前記スパイスミックスを1〜80質量%含有する加熱調理用調味料、又は前記スパイスミックスを0.1〜10質量%含有する揚げ物用衣材である。
また本発明は、前記スパイスミックス、前記加熱調理用調味料又は前記揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理してなる食品である。
【0009】
また本発明は、前記スパイスミックス、前記加熱調理用調味料又は前記揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理する食品の製造方法であって、前記スパイスミックス、前記加熱調理用調味料又は前記揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間の50%〜95%は、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間である、食品の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
近年の嗜好の多様化等により、スパイスを用いた食品には、より強い香味を有することが要望される傾向にある。特許文献1及び2に記載の技術は、斯かる要望に十分に応えられておらず、また、スパイスの調製・保管作業が簡便とは言い難い。食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いスパイスは未だ提供されていない。
【0011】
本発明の課題は、食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いスパイスミックス、加熱調理用調味料及び揚げ物用衣材を提供することに関する。
【0012】
以下、先ず、本発明のスパイスミックスについて説明する。本発明のスパイスミックスの主たる特徴は、複数種の特定のスパイス末(粉末状の香料物質)が特定量配合されている点にある。斯かる特徴により、本発明のスパイスミックスは、食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いという効果を奏する。同様の効果を謳う特許文献1及び2に記載の技術は、スパイス末の調製(スパイス原料の粉砕)又は保管方法に主たる特徴を有し、それ故に、その調製・保管作業に所定の条件があって作業の簡便さに欠ける。これに対し、本発明では、用いる複数種のスパイス末それぞれ自体は基本的に通常のものと変わらず、それらの配合を工夫することで所定の効果が発現可能になされているので、煩わしいスパイス末の調製・保管作業無しに、強くて持続性のある香味を簡便に食品に付与することができる。しかも本発明のスパイスミックスは、加熱調理に供されることを想定して構成されているため、例えば、食材に適用して加熱調理した場合であっても、好ましい香気成分は飛散されずに保持され、その他の雑味につながる香気成分は飛散されるため、極めて好ましい香味を食品に付与することができる。
【0013】
本発明のスパイスミックスは、(1)ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末、フェンネル末、オニオン末、マジョラム末及びガーリック末からなる群から選択される1種以上を50〜90質量%、(2)ナツメグ末、ローズマリー末、パプリカ末、タイム末、セージ末及びオレガノ末からなる群から選択される1種以上を5〜30質量%、並びに(3)オールスパイス末、クローブ末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を5〜30質量%含有する。前記の各群から2種以上のスパイス末が選択される場合、その2種以上のスパイス末の合計含有量が、当該群における前記範囲内にあればよい。例えば、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末の両方を用いる場合は、これらの合計含有量が50〜90質量%であればよい。これら特定のスパイス末の配合量が前記範囲外では、スパイスの香気成分が早く揮発して香味が足りなくなるか、又は各スパイスのバランスが崩れた香味となり、前記効果は奏されない。これら複数種の特定のスパイス末としては、それぞれ、同名のスパイス末として通常使用されているものを特に制限無く用いることができる。
【0014】
本発明のスパイスミックスにおいて、ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末、フェンネル末、オニオン末、マジョラム末及びガーリック末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは55〜80質量%、さらに好ましくは60〜70質量%である。また、ナツメグ末、ローズマリー末、パプリカ末、タイム末、セージ末及びオレガノ末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。また、オールスパイス末、クローブ末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは10〜20質量%、さらに好ましくは12〜15質量%質量部である。
【0015】
本発明のスパイスミックスには、前記効果をより確実に奏させるようにする観点からさらに、植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を、該スパイスミックス中の全スパイス末100質量部に対して20〜200質量部含有させることができる。植物性蛋白粉としては、大豆、小麦、米等の植物に由来する蛋白質を粉末状にしたものを用いることができる。動物性蛋白粉としては、肉、卵、牛乳等の動物に由来する蛋白質を粉末状にしたものを用いることができる。植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉の両方を含有させると特に好ましい。これら蛋白粉の含有量は、スパイスミックス中の全スパイス末100質量部に対して、好ましくは50〜150質量部、さらに好ましくは70〜100質量部である。
【0016】
本発明のスパイスミックスに配合される前記各成分は、何れも、各種液体原料を固形化するか、又は各種固形原料を粉砕して得られる粉体原料(粉末状物質)である。前記各成分(粉体原料)を得るための固形原料の粉砕方法は、通常の食品原料粉末の製造方法を用いることができ、例えば、回転羽による粉砕、ミルによる粉砕、臼による粉砕、気流式粉砕機による粉砕等が挙げられる。また、前記各成分(粉体原料)の粒子径は、通常のスパイス末に適用可能な粒子径であればよく、例えば粗挽きで250〜1000μm程度、細挽きで20〜300μm程度とすることができる。
【0017】
本発明のスパイスミックスは、前記各成分(粉体原料)を混合することにより製造することができる。粉体原料の混合方法は、通常の食粉原料粉末の混合方法を用いればよい。粉体原料の混合形態としては、例えば、粉体原料を固形原料の粉砕により得る場合には、1)粉砕前の複数種の固形原料をそれぞれ個別に粉砕して複数種の粉体原料を得、該複数種の粉体原料を前記含有量となるように混合する形態でもよく、2)粉砕前の複数種の固形原料を前記含有量となるように混合後、その混合物を粉砕する形態でもよい。
【0018】
本発明のスパイスミックスは、食品に添加することにより、該食品に強くて持続性のある香味を付与することができる。本発明のスパイスミックスが適用可能な食品としては、香味の付与が好ましい食品であれば特に制限はなく、例えば、肉類、魚介類、野菜類及びこれらを用いた各種料理が挙げられ、該料理としては、揚げ物類、焼き物類、炒め物類、蒸し物類、生もの類、ソース類、スープ類を例示できる。本発明のスパイスミックスは、さらに100℃以上で加熱調理する食品、特に150℃以上で加熱調理する食品の風味向上のための香味付与に用いるのが好ましく、とりわけ、食材を肉類とする揚げ物、例えば、トンカツ、から揚げ、フライドチキンに用いるのが好ましい。また本発明のスパイスミックスは、これを添加して調理した調理済み食品を、ウォーマー、ヒーター、温蔵庫等で保温又は加温しながら長時間保持する食品に用いるのが好ましい。例えば、トンカツ、から揚げ、フライドチキン等の調理済みの揚げ物を、ウォーマー内に載置して40〜60℃程度で保温しながら展示・販売する調理済み食品の製造に、本発明のスパイスミックスを用いると、調理後から販売までの間に香気成分が飛散し、食品の香味が低下することを抑制することができるため好ましい。
【0019】
本発明のスパイスミックスの各種食品への添加量は、本発明の効果が期待できる量であればよく、食品の種類や調理から喫食までの時間、香味に対する嗜好の程度等により適宜変更することができる。一般的な添加量としては、添加する食品全量に対して、0.0001〜15質量%、好ましくは0.001〜5質量%程度である。
【0020】
次に、本発明のスパイスミックスを特定量含有する本発明の加熱調理用調味料について説明する。本発明のスパイスミックスは、各種食材を用いた、加熱調理、非加熱調理等の各種調理法による食品に適用が可能であるが、加熱調理食品に用いると、香りがよく立ち昇るため、好ましい。本発明の加熱調理用調味料における本発明のスパイスミックスの含有量は、加熱調理用調味料の全質量中、1〜80質量%であり、好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%である。本発明の加熱調理用調味料が含有し得るその他の成分としては、塩、醤油、発酵調味料、果実調味料等が挙げられる。
【0021】
本発明の加熱調理用調味料は、食材に付着させ加熱調理して食品を得るのに使用できる。食材の加熱方法は特に制限されず、例えば、焼き、炒め、煮る、蒸す、油ちょうの他、電子レンジ、オーブン、スチームコンベクションオーブン、オーブントースター、グリル等の公知の加熱手段による加熱方法が挙げられる。以上の加熱方法の中でも、本発明の加熱調理用調味料が特に効果を発揮し得るのは、油を用いて比較的高温で加熱調理する、油ちょうである。
【0022】
次に、本発明のスパイスミックスを特定量含有する本発明の揚げ物用衣材について説明する。本発明のスパイスミックスは、単独で食材にまぶして用いてもよいが、揚げ物を製造する場合には、衣材に予め本発明のスパイスミックスを配合しておき、これを用いて調理を行うことで、簡便で失敗が少なく揚げ物を製造することができる。本発明の揚げ物用衣材における本発明のスパイスミックスの含有量は、該揚げ物用衣材の全質量中、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.2〜8.5質量%、さらに好ましくは0.2〜6質量%である。
【0023】
本発明の揚げ物用衣材は、本発明のスパイスミックスに加えてさらに、穀粉又は澱粉を含有する。穀粉としては、小麦粉、片栗粉、くず粉、米粉、ライ麦粉等が挙げられ、澱粉としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等の澱粉の他、これらの澱粉に、アセチル化、エーテル化、架橋、酸化、α化等の化工若しくは物理処理を施した澱粉、あるいはそれらの混合物等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉又は澱粉は、本発明の揚げ物用衣材の主原料であり、その含有量(穀粉及び澱粉の両方を含有する場合はそれらの合計含有量)は、該揚げ物用衣材の全質量中、50質量%以上であり、好ましくは65〜95質量%、さらに好ましくは75〜85質量%である。
【0024】
本発明の揚げ物用衣材は、前記各成分(本発明のスパイスミックス、穀粉、澱粉)以外の他の成分を含有していてもよい。この他の成分としては、この種の揚げ物用衣材の製造に通常用いられる原材料の1種以上が挙げられ、例えば、砂糖等の糖類、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、乳化剤、増粘剤、ミネラル、酵素、呈味剤、香辛料を例示できる。
【0025】
本発明の揚げ物用衣材は、前記各成分を混合することにより製造することができる。また、本発明の揚げ物用衣材の形態としては、粉体(まぶし粉)でもよく、あるいは該粉体を水に溶いて得られる液体又は半液体(バッター液)でもよい。
【0026】
本発明のスパイスミックス、加熱調理用調味料又は揚げ物用衣材(以下、これらを総称して、「スパイスミックス類」ともいう)を食材に付着させ、加熱調理してなる食品(揚げ物)としては、例えば、a)まぶし粉の形態の本発明のスパイスミックス類を食材に直接まぶして油ちょうするから揚げ、b)食材を水又は通常のバッター液(本発明のスパイスミックス類を用いていないバッター液)に浸した後、まぶし粉の形態の本発明のスパイスミックス類を該食材にまぶして油ちょうするフライ、c)バッター液の形態の本発明のスパイスミックス類を食材に付着させて油ちょうする天ぷら、d)まぶし粉の形態の本発明のスパイスミックス類を食材にまぶした後、小麦粉を水に溶いた液を該食材に付着させて油ちょうする天ぷら、e)まぶし粉の形態の本発明のスパイスミックス類を食材にまぶした後、該食材を溶き卵に浸し、さらに該食材にパン粉を付着させて油ちょうするカツレツ、f)本発明のスパイスミックス類、水及び油の混合物を食材に付着させて油ちょうするフリッター、等が挙げられる。
【0027】
本発明のスパイスミックス類を食材に付着させ、加熱調理して揚げ物等の食品を得るに際しては、食材の総加熱時間の50%〜95%を、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間とすることが好ましい。例えば、本発明の揚げ物用衣材を用いて揚げ物を製造する場合、本発明の揚げ物用衣材が付着した食材の加熱方法としては油ちょうが選択されるところ、通常通り油ちょうのみを利用するのではなく、油ちょうに加えて油ちょう以外の他の加熱方法を組み合わせることが、スパイスの香味がより持続する点で好ましい。油ちょう以外の他の加熱方法としては、例えば、蒸煮の他、電子レンジ、オーブン、スチームコンベクションオーブン、オーブントースター、グリル等の公知の加熱手段による加熱が挙げられる。
【0028】
本発明のスパイスミックス類が付着した食材の総加熱時間に占める、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合は、好ましくは65〜91%、さらに好ましくは75〜86%である。尚、ここでいう「食材の総加熱時間」は、本発明のスパイスミックス類が付着した食材の総加熱時間であって、付着前の食材の加熱時間(例えば、食材の下茹で時間)は含まれない。
【0029】
油ちょうと油ちょう以外の他の加熱方法とを組み合わせる場合、油ちょうが最後になるように組み合わせると、食品(揚げ物)の表面がカラリとなり良好な外観となるため好ましい。組み合わせの例としては、i)本発明のスパイスミックス類が付着した食材を電子レンジで45秒加熱し、次いで30秒間油ちょうして仕上げる方法、ii)本発明のスパイスミックス類が付着した食材をスチームコンベクションオーブンで3分加熱し、次いで20秒間油ちょうして仕上げる方法、等が挙げられる。加熱の温度や時間は、食品(揚げ物)の種類や食材の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0030】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。尚、実施例2〜4及び18並びに製造例1〜10は参考例である。
【0031】
〔実施例1〜4及び比較例1〜5〕
下記表1の配合で各スパイスミックスを製造した。
【0032】
〔試験例1〕
1枚150gの牛ロースステーキ肉を複数枚用意し、試験対象のスパイスミックス0.5gを、それぞれ2枚ずつ、肉の片面に刷り込んだ。5分後にフライパンに3gの牛脂をのせて加熱し、フライパンが十分に熱せられたところでスパイスミックスを刷り込んだステーキ肉を、そのミックス刷り込み面側を下にして該フライパンにのせ、1分間加熱調理した後、該ステーキ肉を裏返してさらに1分30秒間加熱調理した。焼き上がったステーキ肉の各1枚を切り分け、その調理直後の香りの質とバランスを、10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに焼き上がったステーキ肉の残りの各1枚を、表面温度が約50℃になるようウォーマーで6時間保管し、その後前記と同様に切り分けて10名のパネラーに下記評価基準により香りの持続性を評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
【0033】
〔試験例2〕
100gにカットした鶏もも肉を用意し、試験対象のスパイスミックス3質量部、塩6質量部、小麦粉91質量部及び水100質量部を混合して調製したバッター液を付着させた。バッター液を付着した鶏もも肉を温度175℃の油で4分間油ちょうして、フライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの香りの質とバランスを、10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに残ったフライドチキンを、表面温度が約50℃になるようウォーマーで8時間保管し、同様に10名のパネラーに下記評価基準により香りの持続性を評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表2に示す。
【0034】
<香りの質の評価基準>(試験例1用)
5点:甘くスパイシーで爽やかな香りが強く、肉の臭みも消えており、極めて好ましい。
4点:甘くスパイシーで爽やかな香りがあり、肉の臭みもほぼ消えており、好ましい。
3点:甘くスパイシーで爽やかな香りがあるが、肉の臭みがややある。
2点:甘くスパイシーで爽やかな香りは少なく、雑味のある香気と肉の臭みがあり、やや不良。
1点:甘くスパイシーで爽やかな香りに乏しく、雑味のある香気と肉の臭みが強く、不良。
【0035】
<香りの質の評価基準>(試験例2用)
5点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが強く引き立ち、極めて好ましい。
4点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが引き立ち、好ましい。
3点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りがあるが、脂臭さがややある。
2点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りが少なく、雑味のある香気と脂臭さがあり、やや不良。
1点:甘くスパイシーで爽やかな香りと肉のジューシーな香りに乏しく、雑味のある香気と脂臭さが強く、不良。
【0036】
<香りのバランスの評価基準>(試験例1用)
5点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:焼けた肉の香ばしさとスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0037】
<香りのバランスの評価基準>(試験例2用)
5点:肉と油とスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:肉と油とスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:肉と油とスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:肉と油とスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:肉と油とスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0038】
<香りの持続性の評価基準>(全試験例共通)
5点:調理直後とほぼ同等で、ほぼ完全に香りが持続している。
4点:調理直後に比べるとやや劣るが、十分に香りが持続している。
3点:調理直後に比べると劣るが、香りが持続している。
2点:調理直後に比べて香りが低下しており、やや不満がある。
1点:調理直後に比べて香りが大きく低下しており、不満がある。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1及び表2に示す通り、各実施例のスパイスミックスは、前記(1)〜(3)の3種のスパイス群を全て含有しているため、これら特定の3種のスパイス末のうちの何れかを含有していない各比較例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。以上のことから、スパイスミックスにおいてこれら各評価項目を向上するためには、前記(1)〜(3)の3種のスパイス末が必須であることがわかる。
【0042】
〔実施例5〜13及び比較例6〜7〕
下記表3の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも前記(1)〜(3)の3種のスパイス末を全て含有しているものの、その含有量が前記特定範囲から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。以上のことから、スパイスミックスにおいてこれら各評価項目を向上するためには、前記(1)〜(3)の3種のスパイス末を単に含有するだけでは足りず、各スパイス末をそれぞれ前記特定範囲で配合することが重要であることがわかる。
【0045】
〔実施例14〜20及び比較例8〜9〕
下記表4の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表4に示す。尚、下記表4には、実施例1の結果を再掲した。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも前記(2)のスパイス末の含有量が前記特定範囲(5〜30質量%)から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。
【0048】
〔実施例21〜24及び比較例10〜11〕
下記表5の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表4に示す。尚、下記表5には、実施例1の結果を再掲した。
【0049】
【表5】
【0050】
表5に示す通り、各比較例のスパイスミックスは、何れも前記(3)のスパイス末の含有量が前記特定範囲(5〜30質量%)から外れているため、各実施例のスパイスミックスに比して、香りの質、バランス及び持続性に劣る結果となった。
【0051】
〔実施例25〜34〕
下記表6の配合でスパイスミックスを製造した。試験例2に従い、製造したスパイスミックスを用いてフライドチキンを製造し、評価した。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表6に示す。尚、下記表6には、実施例14の結果を再掲した。
【0052】
【表6】
【0053】
表6に示す通り、実施例26〜30、33及び34のスパイスミックスは、植物性蛋白粉(大豆蛋白粉)及び/又は動物性蛋白粉(卵白粉)を、当該スパイスミックス中の全スパイス末〔前記(1)〜(3)のスパイス末の混合物〕100質量部に対して、20〜200質量部の範囲で含有しているため、表6に示す他の実施例に比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。実施例25、31及び32は、大豆蛋白粉又は卵白粉を含有しているものの、その含有量が適切でないため、目立った効果は認められなかった。大豆蛋白粉及び卵白粉の両方を含有している実施例34が最も結果が良好であった。
【0054】
〔製造例1〜10〕
下記表7の配合で揚げ物用衣材を製造した。使用したスパイスミックスの組成は、ブラックペッパー末〔前記(1)のスパイス末〕80質量%、タイム末〔前記(2)のスパイス末〕10質量%、ジンジャー末〔前記(3)のスパイス末〕10質量%であった。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用い、タピオカ澱粉としては、日本食品化工製の日食ねりこみ澱粉K−1を用いた。各揚げ物用衣材100質量部に対して、水200質量部を混合してバッター液を製造した。打ち粉をした豚ロース肉100gにこのバッター液を絡め、さらにパン粉を付着させ、下記加熱工程A〜Eの何れか1つを行って、とんかつを製造した。
【0055】
・加熱工程A:6分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合0%)
・加熱工程B:2分間油ちょう→8分間スチームコンベクション→2分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合66.7%)
・加熱工程C:1分間油ちょう→10分間スチームコンベクション→1分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合83.3%)
・加熱工程D:0.5分間油ちょう→13分間スチームコンベクション(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合96.3%)
・加熱工程E:3分間油ちょう→3分間スチームコンベクション→3分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合33.3%)
【0056】
〔試験例3〕
調理直後の各とんかつについて10名のパネラーに、香りの質とバランスを下記評価基準により評価してもらうと共に、香りの持続性を前記評価基準により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表7に示す。
【0057】
<香りの質の評価基準>(試験例3用)
5点:とんかつ肉のジューシーな香りが非常に引き立ち、極めて好ましい。
4点:とんかつ肉のジューシーな香りが引き立ち、好ましい。
3点:とんかつ肉のジューシーな香りがあるが、脂臭さがややある。
2点:とんかつ肉のジューシーな香りが少なく、雑味のある香気と脂臭さがあり、やや不良。
1点:とんかつ肉のジューシーな香りに乏しく、雑味のある香気と脂臭さが強く、不良。
<香りのバランスの評価基準>(試験例3用)
5点:肉とソースとスパイスの香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:肉とソースとスパイスの香りがバランスよく、好ましい。
3点:肉とソースとスパイスの香りのバランスがやや崩れている。
2点:肉とソースとスパイスの香りのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:肉とソースとスパイスの香りのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0058】
【表7】
【0059】
表7から明らかなように、(揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間に占める、)油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合が前記特定範囲(50〜95質量%)内にある製造例2、3及び6〜8は、該割合が前記特定範囲外にある他の製造例に比して、香りの質、バランス及び持続性に優れる結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材を食材に付着させ加熱調理する食品の製造方法において、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合の前記特定範囲の臨界意義が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のスパイスミックス、加熱調理用調味料及び揚げ物用衣材は、10℃〜80℃の通常食品を供する温度帯において、食品に簡便に甘くスパイシーで爽やかな香りを付与することができ、食材の香りを引き立てつつ臭みを消し、且つその香りの持続時間が長い。特に食材と共に100℃以上で加熱調理を行った場合には、スパイスミックスに含まれる不要な香気成分は揮発し、食品の香り付けに重要な香気成分を選択的に保持することができる。しかも、加熱調理後に揮発せずに残った香気成分により、加熱調理後の食品を40℃〜80℃程度で2〜10時間といった長時間保温した場合に、該食品に十分に香味を保持させることができる。
【0061】
また、本発明の食品は、本発明のスパイスミックス、加熱調理用調味料又は揚げ物用衣材を用いて加熱調理されているため、香味及び香りが強く且つ香りのバランスに優れ、しかも経時による香味の低下が起こり難い。また、本発明の食品の製造方法によれば、そのような香味に優れた食品が簡便且つ安定的に得られる。