(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に示すような多段トレイ構造の原料容器の場合、各トレイが浅くなるため、運搬時の振動や傾きなどにより、上段のトレイから下段のトレイに前駆体がこぼれ落ちてしまうことがある。前駆体が少なくなったトレイからは十分な昇華量が得られず、その結果、気相原料の供給量が不足して安定した成膜処理が行えず、成膜プロセスの不良を引き起こす原因となる場合がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来の原料容器が有する問題点に鑑みてなされたものであり、原料容器内の前駆体を効率良く昇華させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、被処理体に成膜処理を行うプロセスチャンバへ、原料の前駆体を昇華させた気相原料を供給するための前記前駆体を収容する原料容器であって、前記プロセスチャンバへ連通する開口を有する筐体内に、前記前駆体を収容するトレイ
及び蓋が上下に複数段積み重ねられ、前記各トレイは、キャリアガスを前記トレイ内に取り込む入口およびキャリアガスが前記前駆体の気相原料とともに流れ出て前記開口へ連通する出口を有
し、前記各蓋は、昇降機構により上下方向に移動することが可能であることを特徴としている。
【0008】
上記原料容器において、前記蓋は、前記前駆体の上部を覆い、
前記トレイの上方に移動して当該蓋の直上段のトレイの
底部に接触することができることが好ましい。また、
前記蓋は、前記トレイの下方に移動して前記トレイ内の前駆体の上面に接することができることが好ましい。
【0009】
上記原料容器において、前記蓋は、裏面にメッシュ状のかごを備え、前記かご内に前記前駆体が収容されていてもよい。前記蓋は、前記前駆体と同じ材質で形成されていてもよい。
前記昇降機構はベローズからなるものでもよい。前記前駆体は、金属カルボニル膜の固体状の前駆体でもよい。
【0010】
また、本発明によれば、上記の原料容器の使用方法であって、
前記蓋が下方へ移動した後、前記筐体内の減圧を開始し、前記筐体内が成膜処理時の圧力まで減圧された後、前記蓋
が上方へ移動することを特徴とする、原料容器の使用方法が提供される。この原料容器の使用方法において、前記キャリアガスの供給開始とともに減圧を開始してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、輸送時にトレイの蓋を閉じておくことにより、原料容器が傾いたり揺れたりしても、前駆体がトレイからこぼれるのを防ぐことができる。一方、成膜処理時には、蓋を開放すれば、十分なコンダクタンスを確保しつつ、昇華した気相原料がキャリアガスにより運搬されるので、安定した成膜を行うことができる。すなわち、十分な昇華量を長時間保つことができるので、安定した成膜レートを長時間維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図1は、例えばルテニウム(Ru)金属膜などの薄膜を基板Wに堆積させて成膜する成膜システム1の一例を示す。成膜システム1は、基板Wを支持する基板ホルダ11を有するプロセスチャンバ2を備える。プロセスチャンバ2は、気相原料供給部3を介して原料容器4と連結されている。成膜システム1において、プロセスチャンバ2、気相原料供給部3、原料容器4の温度や後述するポンプの動作等は、制御部5で制御される。
【0015】
プロセスチャンバ2および原料容器4は、気相原料供給部3の途中に設けられたダクト12を介して真空ポンプ6に連結されている。真空ポンプ6は、プロセスチャンバ2、気相原料供給部3、および原料容器4から排気して、プロセスチャンバ2内を、基板W上に薄膜を形成するのに適する圧力に、また、原料容器4内を、前駆体の気相化に適する圧力になるようにする。
【0016】
原料容器4は、成膜原料の前駆体を貯蔵するとともに、前駆体を昇華または蒸発させるのに十分な温度まで加熱するよう構成される。原料容器4内で気相状態になった原料は、気相原料供給部3へ導入される。前駆体は、例えば固体の膜前駆体であり、金属カルボニル、具体的には、例えばルテニウムカルボニル(Ru
3(CO)
12)等が用いられる。その他、前駆体として、例えばレニウムカルボニル(Re
2(CO)
10)や、W(CO)
6、Mo(CO)
6、Co
2(CO)
8、Rh
4(CO)
12、Cr(CO)
6、またはOs
3(CO)
12が含まれてもよい。以下、本発明の実施形態の一例として、固体の前駆体の場合について説明する。
【0017】
原料容器4は、固体の前駆体を昇華させる温度を達成するため、制御部5により温度制御される。原料の前駆体が加熱されて昇華する際、その気相原料をプロセスチャンバ2まで運搬するために、キャリアガスを流す。キャリアガスは、制御部5で制御されるキャリアガス供給部7から、キャリアガス供給管13を通って原料容器4へ送られる。キャリアガスとしては、例えば一酸化炭素(CO)が用いられる。図示していないが、キャリアガス供給部7は、ガス源と、1又は2以上の制御バルブと、1又は2以上のフィルタと、マスフロコントローラとを備えることができる。
【0018】
原料容器4で昇華された前駆体の気相原料は、キャリアガスとともに流れ、気相原料供給部3を通って、プロセスチャンバ2へ流入する。前駆体の気相原料が凝結したり分解したりするのを防止するため、気相原料供給部3は、制御部5によって温度制御される。気相原料供給部3の温度は、例えば原料容器4の温度とほぼ等しい程度に設定するとよい。
【0019】
プロセスチャンバ2の上部に流入した気相原料は、気相原料分散板14を通過して分散され、基板Wの上方の処理室20内に流入する。気相原料分散板14を制御部5によって温度制御してもよい。気相原料分散板14の温度は、例えば気相原料供給部3の温度とほぼ等しいか、または高い値としてもよい。
【0020】
前駆体の気相原料が処理室20へ流入すると、気相原料は、基板Wの表面に吸着し、基板W上に薄膜が形成される。基板ホルダ11は、制御部5により温度制御される。基板Wの温度は、例えば約200℃まで上昇される。また、プロセスチャンバ2の壁面の温度を制御部5で制御し、プロセスチャンバ2内の温度を制御してもよい。
【0021】
以上の成膜システム1において、本発明の原料容器の実施形態の一例について、以下に説明する。
【0022】
図2は、本実施形態にかかる原料容器4の断面図である。原料容器4は、円板状の底板21と、上部にフランジ22aを有する略円筒状の側板22と、側板22上部のフランジ22aに密着され中央に開口30が設けられた天板23とで構成された筐体24を有する。開口30は、
図1に示す気相原料供給部3を介して成膜システム1のプロセスチャンバ2に連通される。筐体24は、熱伝導率に優れた材質、例えばアルミニウム等で製造され、コーティングが施されてもよい。
【0023】
筐体24の側板22の外側には、ヒータ31が取り付けられ、
図1に示す制御部5によって、例えば原料容器4内を80℃に保つように温度制御される。上述のように、原料容器4内が所定の温度まで加熱されると、前駆体が昇華して、前駆体の気相原料が生成される。この気相原料は、気相原料供給部3を通ってプロセスチャンバ2へ輸送される。
【0024】
また、筐体24は、例えば
図2に示すように天板23を貫通するキャリアガス導入口32を有し、
図1に示すように、キャリアガス供給管13を介して、キャリアガス供給部7に、密閉状に連結されている。
【0025】
図2に示すように、原料容器4は、筐体24の内部に、上下方向に積み重ねられた複数段のトレイ41を有する。各トレイ41は、本実施形態では、
図3に示すように、外周壁42と、底部43と、内周壁44を有し、それぞれのトレイ41は、中心部が空洞になっている。これにより、トレイ41を重ねたときに、
図2に示すように、原料容器4の中心部に、縦方向に空洞部25が形成される。最下段のトレイ41は筐体24の底板21に載置され、上段の各トレイ41は、底部43が下段の外周壁42の上端に積み重ねられる。
図2に示すように、各トレイ41の外周壁42と筐体24の側板22との間には、隙間が設けられている。また、各トレイ41の内周壁44の上端と、直上のトレイ41の底部43との間には、後述するキャリアガスの流路を確保するため、隙間28が設けられている。これらの各トレイ41に、成膜原料の前駆体50が収容される。成膜原料の前駆体は、例えば固体の前駆体であり、固体粉末であってもよいし、固体タブレットであってもよい。なお、
図2に示す例では、原料容器4のトレイ41の段数は5段であるが、5段に限るものではない。
【0026】
さらに、
図3に示すように、各トレイ41の外周壁42の上部には、キャリアガスをトレイ41内に取り込む入口としての複数の孔45が形成されている。これにより、キャリアガス供給部7(
図1参照)から原料容器4に向けて供給されたキャリアガスは、ガス導入口32(
図2(a)参照)から原料容器4内に導入され、さらに各トレイ41の孔45を通ってトレイ41内部に入る。そして、前駆体50の上を流れ、トレイ41の内周壁44と直上のトレイ41の底部43との隙間28(出口)を通って、原料容器4の中央に形成された空洞部25に流れる。したがって、前駆体50が昇華されると、キャリアガスが、気相原料とともに、原料容器4の空洞部25に沿って流れ、上部中央に形成された開口30から流出する。キャリアガスがトレイ41内に確実に導入されるために、各トレイ41に収容する前駆体50の量は、外周壁42の孔45の位置よりも下方までとする。
【0027】
各トレイ41には、原料容器4が運搬時等に傾いてもトレイ41内の前駆体50がこぼれ落ちないように、トレイ41の上方を覆う蓋46が設けられている。一方、筐体24の中心の空洞部25には、縦方向に延びる柱体26が設けられ、柱体26を上下方向に昇降させる例えばアクチュエータ等の昇降機構27が、筐体24の底板21の中央に設置されている。各段のトレイ41の蓋46は、
図4に示すように、例えば複数のブラケット47によって、この柱体26に連結される。そして、原料容器4の運搬時等、トレイ41内の前駆体50を昇華させないときには、
図2(a)に示すように、蓋46がトレイ41を閉じる高さとし、成膜処理時には、昇降機構27を作動させて蓋46を上方へ移動させる。蓋46を上げたときには、
図2(b)に示すように、蓋46が直上のトレイ41の底部43に接触するようにする。こうすることにより、トレイ41からの伝熱で蓋46が保温され、蓋46の温度が低下し気相原料が冷えて固化するのを防ぐことができる。なお、柱体26を上下移動させる手段は、アクチュエータに限らず、ネジまたはラッチ構造として手動で行ってもよい。
【0028】
また、本発明の実施形態の一例として、昇降機構27としてベローズを取り付け、ベローズの上端に柱体26を連結してもよい。この場合、原料容器4内が大気圧に保たれているときには、蓋46や柱体26およびベローズ自体の自重により、蓋46が閉じるようにする。成膜処理を行うために原料容器4が減圧され、所定の圧力まで下がると、大気による押し上げ力がこれらの自重を上回り、ベローズが持ち上がって、これに伴い蓋46が持ち上がるようにベローズを設定する。この実施形態によれば、簡単な構造で、特別な操作を行うことなく、原料容器4の使用時に自然に蓋41を開くようにすることができる。
【0029】
以上のように、本発明によれば、原料容器4が運搬時等に傾いても、トレイ41から前駆体50がこぼれ落ちることなく保持されるので、各段のトレイ41の前駆体50の量を一定に保つことができ、長時間安定して効率的に気相原料を供給できる。
【0030】
また、
図5は、本発明の異なる実施形態の例を示す。各トレイ41の蓋46は、トレイ41内の前駆体50に接して前駆体50上面を覆う蓋部61と、トレイ41の内側壁の上方に突出する立ち上がり部62とを有する。原料容器4の運搬時等には、
図5(a)に示すように、蓋部61が前駆体50の上面を押さえることにより、前駆体50の落下だけでなく、傾きを防止することもできる。したがって、トレイ41内の前駆体50の量が偏らず、均一な気相原料の放出が行える。蓋46の開放時には、蓋部61が直上のトレイ41の底部43に接触するようにする。このとき、
図5(b)に示すように、立ち上がり部62が直上のトレイ41の内周壁44よりも内側に位置するように、各段のトレイ41は、上段に向けて徐々に内周壁44の位置が外周壁42側に近づくように形成される。
【0031】
また、
図6は、本発明のさらに異なる実施形態の例を示し、
図7は、
図6の実施形態の蓋46の一部の拡大図である。各トレイ41の蓋46の下方には、メッシュ状のかご63が備えられ、かご63の中にも前駆体50が収容されている。かご63は、トレイ41内に収まる形状および大きさとする。この場合、蓋46を閉じたときには、
図6(a)に示すように、かご63がトレイ41内の前駆体50を押さえ付けることで、前駆体50の偏りを防ぐことができる。蓋46の開放時には、
図6(b)に示すように、蓋46が直上のトレイ41の底部43に接触し、かご63内の前駆体50が、直上のトレイ41の裏面に配置される。そして、キャリアガスが、かご63とトレイ41内の前駆体50との間を通過し、かご63およびトレイ41内の両方の前駆体50が昇華した気相原料をキャリアガスが運搬するため、前駆体50の表面積を、より大きく確保することができる。
【0032】
次に、本発明の原料容器を用いて基板に成膜する手順を、
図8に従って説明する。
【0033】
先ず、成膜システム1のプロセスチャンバ2内に、基板Wを載置する(
図8の工程S1)。次いで、成膜原料となる前駆体50を各段のトレイ41に収容した原料容器4が、成膜システム1に導入される(
図8の工程S2)。
【0034】
その後、原料容器4の加熱、真空ポンプ6による真空引き、およびキャリアガス供給部7によるキャリアガスの導入を、同時に行う(
図8の工程S3)。加熱は、原料容器4内が例えば80℃になるまで行う。真空引きは、原料容器4内が例えば0.1Torr(13.3Pa)になるまで行う。
【0035】
蓋46がベローズに連結されている場合には、原料容器4内が所定の圧力まで減圧されたときに、蓋46が持ち上がる。昇降機構27として例えばアクチュエータ等を用いる場合には、所定の圧力、例えば0.1Torr(13.3Pa)まで減圧された後に、蓋46を開く(
図8の工程S4)。
【0036】
前駆体が昇華し、気相原料が生成されて、キャリアガスにより運搬されてプロセスチャンバ2へ送られる(
図8の工程S5)。プロセスチャンバ内では、気相原料が分解するに十分な基板温度にまで基板が加熱され、基板が気相原料に晒される(
図8の工程S6)。
【0037】
大気圧状態にある原料容器4内を真空引きすると、原料容器4内の圧力が急激に低下し、原料容器4内のガス流速が上昇して前駆体が昇華せずに巻き上がり、プロセスチャンバに吸い込まれてしまう。そのため、従来は、長い時間と手間をかけて徐々に減圧していた。本発明では、トレイ41の蓋46を閉じた状態で真空引きすることにより、前駆体50の巻き上がりを抑制し、迅速な減圧が行える。すなわち、
図9に示すように、成膜処理時の処理圧力に達するまでの時間が、従来の時間t2から時間t1に短縮され、真空引きに要する時間や手間を大幅に低減できる。また、その間のCO導入時間も短縮できるので、使用量を低減でき、大幅なコスト削減効果が得られる。
【0038】
さらに、従来、原料容器を加熱した後、所定の圧力に減圧されるまでの間に前駆体が分解するのを抑制するため、原料容器内をCOで満たしてから真空引きを行っていたが、この場合も、従来は、COに誘導されて、昇華せずに前駆体の粒子が舞い上がって基板上に落ち、均一な成膜が行えないことがあった。本発明によれば、所定の圧力に減圧されるまでは蓋が閉じられているため、昇華していない前駆体の粒子が基板上に落ちることはなくなる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0040】
例えば、前記各実施形態では、蓋46は、各トレイ41の上部を覆うものとしたが、
図10(a)に示すように、トレイ41の内周壁44と直上のトレイ41との隙間を塞ぐリング状の蓋46であってもよい。この場合、開放時には、蓋46は、
図10(b)に示すように、直上のトレイ41の内周壁44の内側に接触させる。
【0041】
また、本発明にかかる蓋46は、トレイ41内の前駆体50と同じ材質で形成してもよい。この場合、例えば
図2の実施形態において、蓋46の開放時に、各段のトレイ41の上下両側に前駆体50が配置され、その間をキャリアガスが通過するため、前駆体50の表面積が大きくなり、効率よく昇華させることができる。
【0042】
本発明において、トレイ41の形状は、
図3に示すように環状でなくてもよい。さらに、トレイ41の内周壁44によって形成される原料容器4の空洞部25は、円柱状でなくてもよい。
【0043】
成膜原料の前駆体は、固体の金属カルボニル前駆体等に限らず、液体の前駆体であってもよい。