(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934047
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】パラジウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20160602BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20160602BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20160602BHJP
C02F 1/54 20060101ALI20160602BHJP
C22B 7/00 20060101ALN20160602BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/44 101A
C02F1/70 A
C02F1/54 K
!C22B7/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-161286(P2012-161286)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-19921(P2014-19921A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】武富 昭人
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭47−044858(JP,A)
【文献】
特開昭55−164044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、パラジウム含有水溶液からのパラジウムの回収方法。
(1)硫酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩、ジチオン酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩から選択される少なくとも一種以上の塩である無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液のpHを0以上2以下に調整する工程、
(2)前記パラジウム含有水溶液に還元剤を添加して、パラジウムを還元する工程、
(3)前記パラジウム含有水溶液に陽イオン界面活性剤を添加し、還元したパラジウムを凝集沈殿させて、パラジウムを回収する工程。
【請求項2】
工程(1)において、無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液中の無機硫黄酸化物の含有濃度が、該パラジウム含有水溶液の体積に対して10〜200g/Lである請求項1に記載のパラジウムの回収方法。
【請求項3】
前記陽イオン界面活性剤が、アンモニウムカチオン系である請求項1又は2に記載のパラジウムの回収方法。
【請求項4】
前記陽イオン界面活性剤の添加量が、該陽イオン界面活性剤投入後のパラジウム含有水溶液全体積に対して該陽イオン界面活性剤の含有濃度が0.5〜100mg/Lとなる量である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のパラジウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムの回収方法、詳しくは、無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有廃液からのパラジウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム(Pd)は、有機合成や排気ガス浄化等の分野において、高活性で実用性の高い触媒金属として広く用いられている。特に農薬、医薬品、香料、染料等の化学製品の製造において、パラジウム触媒は、オレフィン、ケトン、アルデヒド等の水素化やハロゲン化合物、アリル化合物等の水素化分解など、幅広い反応に利用することができることから、有機合成の分野において極めて有用な触媒であり、最も汎用されている遷移金属触媒の1つである。
【0003】
ところで、有機合成においてパラジウム触媒の利用が拡大するに伴い、パラジウム触媒を用いた有機合成後の溶液(廃液)から、いかにしてパラジウムを効率的に回収するかが問題となってくる。パラジウムは貴金属であり、資源的に希少で高価であるため、パラジウムを含む廃液から低コストで効率よく回収することが、パラジウムの再利用及び安定供給の点から極めて重要である。
【0004】
従来、パラジウム含有液からパラジウムを回収する方法としては、溶媒抽出法、イオン交換法、微生物の生体機能を利用する生体濃縮法など、さまざまな方法が知られている。
しかし、水・有機溶媒の抽出を利用する溶媒抽出法は、経済性及び操作性の点から広く採用されてはいるものの、廃液に応じて、抽出能力、抽出速度、耐久性等を総合的に考慮して適切な抽出剤を選択するのが容易ではなく、また、使用した有機溶媒を適切に廃棄処理する必要があるなどの問題点がある。一方、活性炭やイオン交換樹脂等の吸着剤を利用する吸着法は、一般に吸着剤による吸着量が小さく、煩雑な工程が必要であり、また、使用した吸着剤を適切に廃棄処理する必要があるなどの問題点がある。なお、生体濃縮法は、広く実用化するには、コスト等の解決すべき課題が多数あり、さらなる検討が必要である。
【0005】
上記方法以外にも、パラジウムの回収方法については、多くの研究者により各種方法が報告されており、たとえば、比較的簡単な作業でパラジウムを回収できる従来技術として、パラジウムイオンを還元して金属パラジウムを凝集させるパラジウムの回収方法が提案されている。この方法は、パラジウム含有液に還元剤を添加すると、液中に安定して分散しているパラジウムの安定性が失われ、その結果、パラジウムを含む比較的大きな粒子が形成されるという原理に基づく方法である。そのような方法の具体的な例として、特許文献1には、パラジウムないしその化合物を含有するコロイド状態の酸性溶液に、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素、ヒドラジン等の還元剤を添加することによりパラジウムの粒子を形成させて、これを分離回収することを特徴とするパラジウムの回収方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、各種工業の過程において得られるコロイド状態のパラジウムの酸性溶液に対し、アルカリ剤を添加することにより、その溶液を少なくともpH11である塩基性にしてパラジウムの粒子を形成させ、次いでここにノニオン系又はアニオン系の高分子凝集剤を添加してパラジウム粒子の凝集体を形成させて、これを分離回収することを特徴とするパラジウムの回収方法が開示されている。
【0007】
さらに、複雑な処理工程を経ることなく、簡単な操作でパラジウムを還元、回収する技術として、パラジウムが溶解したパラジウム溶液に水素吸蔵合金を作用させることによって、前記水素吸蔵合金に吸蔵されている原子状水素で前記パラジウム溶液中の金属を還元して、前記パラジウムが不溶態化した不溶性パラジウム物質を生成し、前記パラジウム溶液にポリエチレングリコール系の界面活性剤を添加し、この不溶性パラジウム物質を前記パラジウム溶液から分離することで、パラジウムを回収することを特徴とするパラジウム回収方法が特許文献3に開示されている。
【0008】
そのほか、特許文献4には、有機系廃液を燃焼して灰化し一次燃焼灰とした後、この一次燃焼灰を洗浄して一次燃焼灰中の塩類の少なくとも一部を除去して洗浄灰とし、この洗浄灰の浸出処理を行い、浸出処理液に精製処理と還元処理を施すことによってパラジウムを回収することを特徴とする有機系廃液からのパラジウムの回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−32025号公報
【特許文献2】特開2000−313927号公報
【特許文献3】特開2005−281830号公報
【特許文献4】特開2002−327220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各種化学品やその製造原料の有機合成においてパラジウム触媒を用いる場合、合成反応を停止させるために、反応停止剤として亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物がしばしば用いられる。
しかしながら、このような無機硫黄酸化物を用いた有機合成によって生じるパラジウム含有廃液から、前述したようなパラジウムの還元・凝集の原理に基づく従来のパラジウム回収法を利用してパラジウムを回収しようとしても、無機硫黄酸化物が廃液中に多量に含まれているために、パラジウムの還元が十分に進行せず、そのため還元後のパラジウムの凝集が不十分となり、また還元が十分でも無機硫黄酸化物がパラジウムと界面活性剤などの凝集剤との凝集反応を抑制し凝集が不十分となるため、パラジウムの回収率が低下するという問題があった。そこで、亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物が含まれるパラジウム含有廃液から、高い回収率でパラジウムを回収することができるパラジウム回収法の開発が望まれていた。
【0011】
このような状況に鑑み、本発明は、亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物が含まれるパラジウム含有水溶液から、煩雑な作業を必要とすることなく、高い回収率でパラジウムを回収することができる、パラジウムの回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物が含まれるパラジウム含有水溶液においてパラジウムの還元および凝集反応が進行しにくい理由は、廃液中に存在する亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物がパラジウムと強固な錯体を形成していることが原因であると考えた。そこで、かかる錯体の形成を阻止して、パラジウムの還元・凝集が十分に進行するよう、鋭意検討した結果、パラジウムの還元時にパラジウム含有廃液のpHを所定の範囲に調整し、かつ、還元されたパラジウムの凝集を促進させるための陽イオン界面活性剤を添加すると、パラジウムの還元・凝集が十分に進行して、パラジウムを高回収率で回収できることを見出し、この知見を基にさらに研究を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の工程を含むことを特徴とする、パラジウム含有水溶液からのパラジウムの回収方法である。
(1)無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液のpHを2以下に調整する工程、
(2)前記パラジウム含有水溶液に還元剤を添加して、パラジウムを還元する工程、
(3)前記パラジウム含有水溶液に陽イオン界面活性剤を添加し、還元したパラジウムを凝集沈殿させて、パラジウムを回収する工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、亜硫酸ナトリウム等の無機硫黄酸化物が含まれるパラジウム含有水溶液から、煩雑な作業を必要とすることなく、高い回収率でパラジウムを効率よく回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法は、前述したように、工程(1)〜(3)を含むことを特徴としている。以下、各工程について詳細に説明する。
工程(1)について
本発明の方法においてパラジウム回収処理の対象となる液は、無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液、すなわち、無機硫黄酸化物を含み、かつ、パラジウム又はその化合物を含有する水溶液である。無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液としては、たとえば、無機硫黄酸化物を反応停止剤として用いた有機合成後の使用済みパラジウム触媒を含有する廃液が例示される。また、該パラジウム触媒としては、たとえば、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、酸化パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム等の2価のパラジウム化合物;トリフェニルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル等が配位子として配位したパラジウム錯体;パラジウム粉;パラジウム活性炭が例示される。
【0015】
前記無機硫黄酸化物としては、具体的には、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩、ジチオン酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩から選択される少なくとも1種以上の塩が例示される。該無機硫黄酸化物は、通常、有機合成において反応停止剤として用いられている。
【0016】
パラジウム回収処理の対象となるパラジウム含有水溶液において、パラジウムの含有濃度は、特に限定されるものではなく、いずれの濃度でもよい。なお、無機硫黄酸化物を反応停止剤として用いた有機合成後のパラジウム含有水溶液において、パラジウムの含有濃度は、パラジウム金属分で換算して、通常、0.05 〜5g/Lである。
【0017】
パラジウム回収処理の対象となるパラジウム含有水溶液において、無機硫黄酸化物の含有濃度は、特に限定されるものではないが、パラジウムの回収率を向上させる上で、パラジウム含有水溶液の体積に対して10〜200g/Lであることが好ましく、とりわけ、30〜150g/Lであることが好ましい。
【0018】
工程(1)において、本発明の処理対象とされるパラジウム含有水溶液のpHを2以下、好ましくはpH0〜2、より好ましくはpH1〜2に調整する。このようにパラジウム含有水溶液のpHを2以下に調整し還元剤によるパラジウムの還元、さらに、陽イオン界面活性剤を添加し還元されたパラジウムを凝集沈殿させる工程を組み合わせることで、無機硫黄酸化物を含むパラジウム含有水溶液からのパラジウムの回収率を飛躍的に向上させることが可能になる。pHが2を超えると大過剰の還元剤を添加しても還元反応が十分に進行せず、回収率が低下してしまう。たとえば、酢酸パラジウム由来の酢酸は、塩基性水溶液中では酢酸塩を形成して緩衝しているため、パラジウムの還元反応が十分に進行しない。一方、pHが0より低いと、多量の亜硫酸ガスが発生することがあり、また、還元剤が分解してしまい、pH調整後に還元剤を大量に投入する必要が生じるおそれがある。なお、無機硫黄酸化物を反応停止剤として用いた有機合成後のパラジウム含有水溶液のpHは、通常、pH4〜5の範囲である。
【0019】
パラジウム含有水溶液のpHを2以下に調整するためには、pH調整剤を該パラジウム含有水溶液に添加すればよい。pH調整剤は限定されるものではなく、塩酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、炭酸等の無機酸、又はクエン酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、アジピン酸等の有機酸が用いられる。好ましくは、亜硫酸ガスなどの発生を抑制し経済的にも有利なハロゲン化水素酸が用いられる。また、pHの調整の時期的な制限は特になく、還元剤添加と同時であっても還元剤添加の前後であっても良い。好ましくは、還元剤と同時あるいは還元剤添加後にpH調整を行うと還元剤の一部が還元機能を失い過剰の還元剤が必要となる場合があるため、還元剤の添加前にpH調整が行われる。
【0020】
工程(2)について
工程(1)でのパラジウム含有水溶液のpH2以下への調整と、該水溶液に還元剤を添加して、該水溶液中のパラジウムを還元する工程(2)を組み合わせることで高い還元効率が得られる。
使用する還元剤としては、たとえば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等のヒドラジン化合物、水素、アルコール等が用いられる。とりわけ、水素化ホウ素ナトリウムが好ましく用いられる。なお、本発明の処理対象とするパラジウム含有水溶液は、無機硫黄酸化物を含んでいるために、この段階ではまだパラジウムの沈殿はわずかに認められる程度にすぎない。
【0021】
前記還元剤の添加量は、パラジウム金属化合物を金属パラジウムに還元するために必要な理論量の1〜20倍当量の範囲が適当である。
工程(2)における還元処理は、還元剤の種類等によるが、通常常温で行い、必要があれば加熱して行う。常温で反応を行う場合の処理時間は、通常、15〜60分程度である。また、還元剤添加の時期的な制限は特になく、pH調整と同時であってもpH調整の前後であっても良い。好ましくは、pH調整と同時あるいはpH調整前に還元剤添加を行うと還元剤の一部が還元機能を失い過剰の還元剤が必要となる場合があるため、pH調整後に還元剤添加が行われる。
【0022】
工程(3)について
前記パラジウム含有水溶液に陽イオン界面活性剤を添加して、還元したパラジウムを凝集沈殿させて、パラジウムを回収する。該パラジウム含有水溶液中には亜硫酸が残存しており、この残存する亜硫酸は、界面活性剤によるパラジウムの凝集効果を阻害し、パラジウムの凝集を妨げてしまう。この残存する亜硫酸による阻害効果を抑制して、パラジウムを凝集させるためには、陽イオン界面活性剤を添加する必要がある。
陽イオン界面活性剤を添加する前の前記パラジウム含有水溶液のpHは、1〜 7の範囲が好ましい。前記パラジウム含有水溶液のpHが上記範囲にあると、陽イオン界面活性剤による最適な機能が得られ、パラジウムの凝集が促進されて回収率が向上する。また、陽イオン界面活性剤の添加の時期的な制限は特になく、pH調整の前後あるいは同時であっても、還元剤添加の前後あるいは同時であっても良い。好ましくは、界面活性剤の一部が分解する恐れがあるため、pH調整と還元剤添加の後に添加され、より好ましくは、pH調整と還元剤添加の後のパラジウムの還元反応が終了した後に添加される。
【0023】
陽イオン界面活性剤としては、カチオン系、特にアンモニウムカチオン系の界面活性剤を用いるのがパラジウムの凝集効果を高める上で好ましい。陽イオン界面活性剤としては、たとえば、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリル酸エステル、カチオン性ポリメタクリル酸エステル、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩が例示される。特にカチオン性ポリアクリルアミドは、パラジウムの凝集促進作用に優れており、かつ、広いpH領域で使用することができるため好適である。
【0024】
陽イオン界面活性剤の調製は、たとえば、水を入れた容器内に、攪拌機で攪拌しながら陽イオン界面活性剤を投入し、次いで水を加えて所定の濃度に調整し、該陽イオン界面活性剤が溶解するまで攪拌を続けることによって行う。
【0025】
工程(3)において、陽イオン界面活性剤の添加量は、該陽イオン界面活性剤の添加後のパラジウム含有水溶液全体積に対して該陽イオン界面活性剤の含有濃度が0.5〜100mg/Lとなる量であることが好ましい。1〜40mg/Lとなる量を添加することがより好ましい。0.5mg/Lより低いと、パラジウムの凝集促進作用が十分に得られない場合があり、一方、100mg/Lより高いと、液の粘性が高くなりろ過による凝集パラジウムの分離に時間がかかる場合がある。
【0026】
また、工程(3)において、パラジウム含有水溶液中のパラジウム(金属分換算)の重量に対する、前記陽イオン界面活性剤の添加量は、通常、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜6重量%の範囲である。0.05重量%よりも低いと、パラジウムの凝集促進作用が十分に得られない場合があり、一方、10重量%より高いと、液の粘性が高くなりろ過による凝集パラジウムの分離に時間がかかる場合がある。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。なお、これらは例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
酢酸パラジウムを有機反応の触媒として使用する製造工程より排出された水溶液を原液(原液のpHは4〜4.5)として使用し、下記の方法に従って、原液中のパラジウムを回収した。なお、原液には、表1に示す無機硫黄酸化物、及び有機物(約14重量%)が含まれる。
まず、上記原液にハロゲン化水素酸(塩酸)を滴下して、pHを調整した。
次いで、前記pH調整された原液に、12重量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液を還元剤として加え、原液中のパラジウムを還元した。
その後、上記還元後の液に0.2重量%の所定のカチオン性界面活性剤水溶液を加え、5分間攪拌した後、5分間静置して、パラジウムを凝集・沈殿させた。
以上の各処理における各種条件については、表1に示す。なお、表1中、無機硫黄酸化物の濃度は、原液のパラジウム含有水溶液の体積に対する含有重量から算出した。また、カチオン性界面活性剤の添加濃度は、該カチオン性界面活性剤投入後の水溶液の全体積に対する添加重量、及び原液中のパラジウム重量(金属分換算)に対する添加重量から算出し、表1にそれらを併記した。
【0029】
【表1】
アロンフロックCX―213:(ポリアクリル酸エステル(弱〜中カチオン系)、MTアクアポリマー社製、商品名)
アロンフロックCX−100:(ポリアクリル酸エステル(弱〜中カチオン系)、MTアクアポリマー社製、商品名)
アロンフロックA―235:(変性ポリアクリルアミド(中カチオン系)、MTアクアポリマー社製、商品名)
ヘルスフロックN―217:(アクリル酸アミド(ノニオン系)、ウォーターエージェンシー社製、商品名)
【0030】
[パラジウムの凝集]
パラジウムの凝集状態について、目視でパラジウムが全て凝集し沈殿したものを○、パラジウムの凝集沈殿が見られるが一部液中に分散したものを△、パラジウムの凝集沈殿が見られず、全て液中に分散したものを×として評価した。結果を表2に示す。
【0031】
[パラジウムの回収率]
上記凝集後の液を水溶液とパラジウム沈殿とにろ別し、ろ液の水溶液及び原液に含まれるパラジウム金属量を誘導結合プラズマ原子発光分光分析装置(ICP−AES)により測定して、パラジウムの回収率を下記の式で算出した。結果を表2に示す。
パラジウムの回収率(%)=((原液中のパラジウム金属量−ろ液中のパラジウム 金属量)/原液中のパラジウム金属量)×100
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示した結果からわかるように、アニオン系、ノニオン系界面活性剤をそれぞれ使用した比較例1、比較例2では、パラジウムが凝集せず、また、pHを3に調整した比較例3では、パラジウムの凝集は認められたものの、その回収率は74.7%にとどまった。それに対し、本発明の方法に係る実施例1〜7においては、水溶液中のパラジウムが全て凝集沈殿し、その結果、パラジウムの高い回収率(97.1〜98.0%)が得られた。