【実施例1】
【0023】
図1に、本発明を適用した実施例1の装置の構成と各部の働きを説明する。
【0024】
実施例1の走査電子線装置は、
図1に示すように、電子源1、コンデンサレンズ2、絞り3、ブランキング電極4、偏向器5、ブースティング電極6、対物レンズ7、リターディング電極8、ステージ9、ステージ昇降機10、二次電子検出器11、ウエハ高さセンサ12、光源13、画像処理ユニット14、制御部15から構成され、ウエハ16をステージ9に設置して使用する。
【0025】
電子源1から放出された電子線17は、コンデンサレンズ2により収束し、電子線の一部だけが絞り3を通過し、さらに、ブランキング電極4、偏向器5、ブースティング電極6、対物レンズ7を通過したのち、ウエハ16に照射される。
【0026】
電子線17は、電子源1からウエハ16に至るまでの間に、各電極に印加された電圧による加速と減速を受ける。以下では、各電極に印加する電圧の符号について説明し、電子線の加速と減速について説明する。
【0027】
電子源1には負の電圧、ブースティング電極6には正の電圧、リターディング電極8には負の電圧を印加する。本発明では、電子源1に印加する電圧、すなわち、初期加速電圧18、及び、リターディング電極に印加する電圧、すなわち、リターディング電圧19の値を表現するときには、絶対値で表す。例えば、リターディング電圧が1kVとあれば、リターディング電極に−1kVを印加することを意味する。なお、ブースティング電極6に印加する電圧は正なので、そのまま、表現する。
【0028】
電子源1からウエハ16に至るまでの間に、電子線17は、初期加速電圧18による加速、ブースティング電圧20による加速と減速、リターディング電圧19による減速を受ける。ここで、ブースティング電圧20による加速と減速は相殺するので、初期加速電圧18による加速とリターディング電圧19による減速が正味の加速電圧となる。以下では、初期加速電圧18とリターディング電圧19の差を加速電圧と呼ぶ。
【0029】
ここまで、各部品に印加する電圧と電流について述べたが、電子源1に印加する電圧、すなわち、初期加速電圧18、コンデンサレンズ2に印加する電流、ブランキング電極4の印加電圧22、ブースティング電極6の印加電圧、すなわち、ブースティング電圧20、対物レンズ7に印加する電流、すなわち、励磁電流23、リターディング電極8の印加電圧、すなわち、リターディング電圧19は可変である。また、ステージ9にはステージ昇降機10が設けられており、昇降可能となっており、対物レンズ7の下端からウエハ16の表面までの距離、すなわち、WDが可変となっている。
【0030】
ブランキング電極4と偏向器5の機能について説明する。
ブランキング電極4は、これに電圧を印加することにより、電子線17を曲げ、不要時に電子線の照射をとめるためのものであり、印加する電圧は正でも負でもよい。不要時に電子線の照射をとめることにより、電子線照射によるウエハ16の帯電、汚染、シュリンクが低減できる。なお、ブランキング電極4は、コイルに電流を印加し、磁界により電子線を曲げることによって代替できる。
【0031】
電子線17が偏向器5を通過する際には、偏向器5が発生させた磁場により、電子線17は、曲げられ、ウエハ16の所望の位置に照射される。ここで、偏向器5に印加する電流を偏向信号21と呼ぶ。なお、ここでは、偏向器5に電流を流す電磁偏向を説明したが、電圧を印加する静電偏向でもよい。
【0032】
対物レンズ7を通過する際には、磁界による収束作用を受け、電子線17はウエハ16の表面上で収束する。
【0033】
電子線17をウエハ16に照射すると、ウエハ16から二次電子24が放出される。二次電子24は、リターディング電圧19とブースティング電圧20により加速され、二次電子検出器11で検出される。二次電子検出器11は検出した二次電子の量に応じた信号を発生し、この信号は画像処理ユニット14に送られる。画像処理ユニット14では、偏向信号21と二次電子信号を対応させてSEM画像を構成する。
【0034】
ウエハ高さセンサ12は、光源13から発せられウエハ16で反射された光を受容することにより、ウエハ16の高さを測定する。図中の太い線は光路である。
【0035】
実施例1の装置の電子源1から画像処理ユニット14までの各部品は、制御部15によって統合的に制御される。特に、加速電圧に応じて、初期加速電圧18、ブースティング電圧20、リターディング電圧19、対物レンズ7の励磁電流23、ステージ昇降機10で調整し高さセンサ12で測定したウエハ高さが統合的に制御されることが本発明の特徴である。これら、本発明の特徴となる制御関係を図中に点線で示した。
以上で、装置の構成と各部の働きの説明を終わる。
【0036】
図2は、ステージの昇降によるWDの調整を説明するものである。この調整では、標準WDと実際のWDの許容値が、予め定められており、実際のWDと標準WDの差、すなわち、WD誤差がWD許容値より小さくなる、つまり、WDが許容範囲内に入るようにする。この図の上段では、ウエハ16が低すぎる、つまり、WDが長すぎるときに、ステージの上昇により、WDを許容範囲内にしている。また、この図の下段では、ウエハ16が高すぎる、つまり、WDが短すぎるときに、ステージの下降により、WDを許容範囲内にしている。なお、ウエハはステージに対して固定されているので、ステージが移動すれば、ウエハも移動する。実際のウエハ16の高さは、ウエハ高さセンサ12で測定する。
【0037】
ウエハ16の高さを変えることとWDを変えることは等価であることを補足する。具体的には、ウエハ16を高くすればWDは短くなり、ウエハ16を低くすればWDは長くなる。従って、WDが標準WDとなるときのウエハ16の高さを標準高さと呼び、WD許容値を高さ許容値と言い換えることができる。
【0038】
図3は、ステージの昇降によるWD調整を利用した機械フォーカスを説明するものである。この図では、左から順に、オーバーフォーカス、ジャストフォーカス、アンダーフォーカスの状態であり、WDが短くなっている。オーバーフォーカスの状態ではウエハ16より上で電子線17が収束しており、ジャストフォーカスの状態ではウエハ16の表面で電子線17が収束しており、アンダーフォーカスの状態ではウエハ16の表面ではまだ電子線17が収束していない。なお、この図には、ブースティング電極6が描かれているが、これは、ステージ9と対物レンズ7のどちらが移動しているかを分かりやすくするためのものであり、機械フォーカスの機能には関係ない。また、ウエハ16はステージ9に固定されているので、ステージ9が移動すれば、ウエハ16も移動する。
【0039】
この図に示すステージ9の昇降による機械フォーカスでは、オーバーフォーカスの状態ならばステージ9を上昇させ、アンダーフォーカスの状態ならばステージ9を下降させることにより、WDを調整し、ジャストフォーカスの状態にする。
【0040】
図4では電磁フォーカスと静電フォーカスを大まかに説明し、
図5と
図6では、これらをより詳しく説明する。
【0041】
図4は電磁フォーカスと静電フォーカスを大まかに説明するものである。WD調整後には、WDは許容範囲はいっているものの、電子線17が収束する高さ、すなわち、焦点高さとウエハ16の高さが一致していない。そこで、電磁フォーカスまたは静電フォーカスにより、焦点高さとウエハ16の高さを一致させる。このように、WD調整の後に電磁フォーカスまたは静電フォーカスを行うのは、機械的動作によるWD調整の精度を高めることが困難だからである。
【0042】
図5は、対物レンズの励磁電流23を調整することによる電磁フォーカスを説明するためのものであり、左から順に、オーバーフォーカス、ジャストフォーカス、アンダーフォーカスの状態である。オーバーフォーカスの状態では対物レンズ7の励磁電流23が大きすぎるのでこれを小さくし、アンダーフォーカスの状態では対物レンズ7の小さすぎる励磁電流23を大きくすることにより、対物レンズの強度を調整して、ジャストフォーカスの状態にする。
【0043】
図6は、リターディング電圧19を調整する静電フォーカスを説明するためのものである。リターディング電圧19を調整する静電フォーカスでは、オーバーフォーカスの状態では高すぎるリターディング電圧19を低くし、アンダーフォーカスの状態では低すぎるリターディング電圧19を高くすることにより、ジャストフォーカスの状態にする。
【0044】
図7には、加速電圧に対して、初期加速電圧18とリターディング電圧19、励磁電流23、WDの標準値が記されている。本発明では、ウエハ16の高さ変動に対するフォーカス手段を、粗調整と精調整の2段階に分けており、二重線になっている部分は、ウエハ16の高さ変動に対するフォーカスの粗調整または精調整の一方または両方の手段として用いられる部分である。また、本発明の装置では、
図7に示した加速電圧に対する初期加速電圧、リターディング電圧、励磁電流、ウエハ高さの標準値を記憶させておき、丸のある加速電圧のみで使用する。なお、丸の間の値を補間することにより、丸のない部分の電圧で使用してもよいし、加速電圧の関数としてフィッティングした数式を用いてもよい。ただし、補間やフィッティングを行う場合、その精度が悪ければ、最終的に寸法計測の精度が悪くなる。なお、この説明に用いる加速電圧、3kV、10kV、20kV、30kVは一例であり、発明の内容を数値的に限定するものではない。
【0045】
以下では、
図7を用いて、初期加速電圧18とリターディング電圧19の設定方法、及び、フォーカスの粗調整と精調整の方法が、加速電圧により変わることを説明する。
【0046】
加速電圧3kV以下では、色収差を低減し分解能を向上するために、初期加速電圧を3kVとし、リターディング電圧19で加速電圧を調整することとなる。対物レンズ7の励磁電流23の調整による電磁フォーカスは、大きな高さ変動にも小さな高さ変動にも対応できるので、ウエハ16の高さ変動に対するフォーカスの粗調整と精調整をかねている。
【0047】
加速電圧が3kVを超えると、色収差が減少するので、リターディング電圧19に分解能向上の役割はなくなる。リターディング電圧19は、二次電子検出効率向上と静電フォーカスのオフセットの役割だけとなり、小さなものとなる。対物レンズ7の励磁電流23の調整による電磁フォーカスは、大きな高さ変動にも小さな高さ変動にも対応できるので、ウエハ16の高さ変動に対するフォーカスの粗調整と精調整をかねている。
【0048】
加速電圧が10kVを超えると、励磁電流23が大きくなり、ヒステリシスが大きくなる。従って、対物レンズ7の励磁電流23の調整による電磁フォーカスが不可となり、ステージ9の昇降によりWDを調整する機械フォーカスがウエハ16の高さ変動に応じたフォーカス粗調整とする。また、リターディング電圧19の調整による静電フォーカスがウエハ16の高さ変動に応じたフォーカス精調整となる。
【0049】
加速電圧が20kVを超えると、対物レンズ7の励磁電流23を増やしても、磁気飽和により対物レンズ7のレンズ強度が上がらない。そこで、加速電圧を上げるに従って、ステージ9を下げてWDを伸ばすこととなる。加速電圧が20kV以上でも、対物レンズ7の励磁電流23の調整による電磁フォーカスが不可となり、ステージ9の昇降によりWDを調整する機械フォーカスが、ウエハ16の高さ変動に応じたフォーカス粗調整とする。また、リターディング電圧19の調整による静電フォーカスがウエハ16の高さ変動に応じたフォーカス精調整となる。
【0050】
ここまで、初期加速電圧18とリターディング電圧19の設定方法、及び、フォーカスの粗調整と精調整の方法が、加速電圧により変わることを説明した。以下では、ここまでに述べたフォーカス方法を分類し、加速電圧をフォーカス方法の関係をまとめておく。
【0051】
フォーカス方法を精度に基づいて分類すると、ウエハ16の高さ変動に対応した粗調整と精調整、及び、SEM画像に基づく微調整の3種となる。また、フォーカスの方式で分類すると、電磁レンズの強度を調整する電磁フォーカス、静電レンズの強度を調整する静電フォーカス、WDを調整する機械フォーカスの3種となる。本発明において、電磁フォーカスの具体的手段は対物レンズ7の励磁電流23を調整することであり、静電フォーカスの具体的手段はリターディング電圧19を調整することであり、機械フォーカスの具体的手段はステージ9の昇降によりWDを調整することである。
図3〜6に示すように、電磁フォーカスと静電フォーカスでは、電子線の収束する高さ、すなわち、焦点高さが移動し、機械フォーカスではWDが変化する。
【0052】
加速電圧とフォーカス方法の関係をまとめておく。
加速電圧10kV以下では、ウエハ16の高さ変動に対応したフォーカスの粗調整も精調整も、対物レンズ7の励磁電流調整による電磁フォーカスを用いる。ステージ9の昇降によりWDを調整する機械フォーカスは用いない。ステージ9を昇降するのは、
図7において加速電圧を30kVから3kVに変更した後のように、加速電圧の変更に伴い標準WDが変わったときだけである。
【0053】
加速電圧10kV以上では、ウエハ16の高さ変動に対応したフォーカス粗調整は、ステージ9の昇降によりWDを調整する機械フォーカスであり、ウエハ16の高さ変動に対応した精調整は、リターディング電圧19の調整による静電フォーカスとなる。電磁フォーカスをフォーカス調整の手段として用いることはない。
【0054】
以上のように、加速電圧が10kVを越えると、ヒステリシスが大きくなり、フォーカス方法が大きく変わる。以下では、
図7に示すように、ヒステリシスが大きくなるときの励磁電流を閾励磁電流、また、このときの加速電圧を閾加速電圧と記す。この例では、閾加速電圧は10kVである。
【0055】
以上、加速電圧に応じて、初期加速電圧、リターディング電圧、対物レンズの励磁電流、WDの標準値が変わることを説明した。
【0056】
図8と
図9では、本発明の効果を明らかにするために、本発明を適用しない2つの場合について、本発明を適用した場合と比較しながら説明する。
【0057】
図8では、本発明を適用せず、WDを短くした場合を説明する。この図において、実線は本発明を適用しない場合を示し、点線は本発明を適用した場合である。本発明を適用しない場合は、ステージが昇降しないので、どの加速電圧もWDは一定となっている。そして、加速電圧10kV以上ではヒステリシスが発生し、ウエハ16の高さ変動に対応したフォーカスができなくなる。さらに、加速電圧が20kVを超えると電子線の収束が不可となる。いずれにせよ、パターンの寸法計測はできない。パターンの寸法計測ができるのは、加速電圧が10kV以下である。
【0058】
図9では、本発明を適用せず、WDを長くした場合を説明する。この図において、実線は本発明を適用しない場合を示し、点線は本発明を適用した場合である。本発明を適用しない場合は、ステージが昇降しないので、どの加速電圧もWDは一定となっている。そして、全ての加速電圧において、電子線の収束、及び、ウエハ16の高さ変動に対応した電磁フォーカスが可能となっている。しかし、WDは非常に長いものとなり、分解能は悪くなり、パターン寸法の計測精度は悪化する。
以上で、本発明を適用しない2つの場合の説明を終わる。
【0059】
図10〜13では、加速電圧を変えた時に、初期加速電圧とリターディング電圧、励磁電流、WDの標準値、及び、フォーカスの粗調整と精調整の方法の変化に伴い、二次的に、WDの許容値、励磁電流の補正量、リターディング電圧の補正量、偏向信号強度係数が変わることを示す。これらの値は、初期加速電圧やリターディング電圧と同様に、加速電圧と許容範囲の関係を装置に記憶させることとなる。
【0060】
図10は、加速電圧が10kV以下ではWDの許容値が大きく、加速電圧が10kVを超えるとWDの許容値が小さくなることを示している。この理由は、加速電圧が10kV以下では電磁フォーカスを行うので、WDのズレを電磁フォーカスで大きく補正できるからである。これに対し、加速電圧が10kV以上では、WDのズレを静電フォーカスで補正せねばならず、静電フォーカスでは大きな補正が期待できないからである。以上の理由により、加速電圧によって許容範囲が変わる。なお、ステージ昇降の精度が非常に高い場合、加速電圧にかかわらず、ステージの昇降精度をWDの許容範囲としてもよい。
【0061】
ここで、加速電圧が10kV以下のときにWDの許容値を大きくすることの利点を説明する。WDの許容値を大きくすると、ステージ昇降の精度を粗くすることができる。そして、ステージの昇降精度が粗くてよければ、ステージの昇降速度を上げ、スループットを向上させることができる。
【0062】
改めて、ウエハ16の高さを変えることとWDを変えることは等価であることを補足する。WDが標準WDとなるときのウエハ16の高さを標準高さと呼び、WD許容値を高さ許容値と言い換えることができる。
【0063】
図11は、実際のWDが標準より長いときと短いときの励磁電流補正量が、加速電圧によって変わることを示している。より詳しく説明すると、本発明では、加速電圧が10kV以下で、WD調整後に、ウエハ高さ変動に対するフォーカスの粗調整と精調整を兼ねて、電磁フォーカスを行う。電磁フォーカスの際には、ウエハ高さセンサ12で測定したウエハ16の高さから実際のWDを求め、標準WDと比べて、実際のWDが短ければ励磁電流を大きくし、実際のWDが長ければ励磁電流を小さくする。この電磁フォーカスにおける励磁電流の増減が励磁電流補正量である。ここで、実際のWDと標準WDの差、すなわち、WD誤差が大きいと、励磁電流補正量は大きくなる。また、加速電圧と励磁電流は概ね比例するので、加速電圧が高いほど励磁電流補正量も大きくなる。
【0064】
図12は、実際のWDが標準より長いときと短いときのリターディング電圧補正量が、加速電圧によって変わることを示している。より詳しく説明すると、本発明では、加速電圧が10kVを超えると、WD調整後に、ウエハ高さ変動に対するフォーカスの精調整として、静電フォーカスを行う。静電フォーカスの際には、標準WDと比べて、実際のWDが短ければリターディング電圧を大きくし、実際のWDが長ければリターディング電圧を小さくする。この静電フォーカスにおけるリターディング電圧の増減がリターディング電圧補正量である。ここで、WD誤差が大きいと、リターディング電圧補正量は大きくなる。また、加速電圧が高いほどリターディング電圧補正量も大きくなる。
【0065】
図13は、実際のWDが標準より長いときと短いときの偏向信号強度係数が、加速電圧によって変わることを示している。より詳しく説明すると、本発明では、WD調整の後、電磁フォーカス、または、静電フォーカスを行い、偏向信号強度係数を決定する。偏向信号強度係数は、偏向感度の逆数であり、ウエハ16上で電子線の着地位置を単位長さ移動させるときに偏向器5に印加する電流である。この値により、電子線の着地位置と偏向信号の関係が正確に求まり、高精度な寸法計測が可能となる。加速電圧が高くなると電子線は曲がりにくくなるので、より大きな偏向信号を印加することになる、つまり、偏向信号強度係数は大きくなる。また、WDが短いときにも、偏向信号強度係数は大きくなる。
【0066】
図14〜16は、本発明の装置の機能の一部を示すもので、特に、励磁電流、WD、初期加速電圧、リターディング電圧の標準値、及び、WDの許容値、励磁電流補正量、リターディング補正量、偏向信号強度係数に関連した部分である。以下では、3つの機能、すなわち、第1に、これらの値を表示し修正する機能、第2にレシピ作成時にこれらの値を表示する機能、第3に一枚のウエハの処理中に標準WDが変わるレシピに関して、そのようなレシピが作成されたとき、または、そのようなレシピを実行する際にワーニングを出す機能を示す。
【0067】
図14は、加速電圧から求まる値、すなわち、励磁電流、WD、初期加速電圧、リターディング電圧の標準値、WDの許容値、励磁電流補正量、リターディング補正量、偏向信号強度係数を表示し修正する画面である。この図では、値が存在しない部分はハイフンで示している。値が存在しない部分は、ウエハ高さ設定誤差に対する励磁電流とリターディング電圧の補正量の部分に存在する。この機能は、装置の組み上げや月日の経過によって、表の中の値が変えねばならないときに必要となる。
【0068】
図15は、レシピ作成時に加速電圧を入力した際に、加速電圧から求まる値を表示する画面である。この画面において、ユーザーは、加速電圧の欄は変更できるが、加速電圧から求まる値の欄は変更できない。この機能により、ユーザーは寸法計測の条件を容易に確認できる。
【0069】
図16は、一枚のウエハの処理中に標準WDが変わるレシピに関して、そのようなレシピが作成されたとき、または、そのようなレシピを実行する際に表示するワーニングである。この機能の目的を説明する。WDを変えないレシピに比べて、WDを変えるレシピは実行に時間がかかる。そこで、低加速電圧でトップの寸法計測だけを行いたい時、つまり、WDを変える必要がない時に、ユーザーが誤ってWDの変わるレシピを作成したり実行したりするのを防ぐためである。
【0070】
図17〜24は、本発明の装置の処理を詳しく説明するためのものであり、
図17〜21はフローチャート、
図22はエラー処理で使われるエラー画面、
図23と24はSEM画像の表示に関するものである。
【0071】
図17〜21のフローチャートを説明するに当たり、予め、各フローチャートの関係を説明しておく。
図17は一枚のウエハの処理のフローチャートで、
図18〜21はその詳細である。
図18は一枚の画像を取得する処理のフローチャートで、
図17のフローチャートから呼び出される。
図19〜21は、WD調整、及び、弱励磁電気系補正と強励磁電気系補正の処理のフローチャートで、
図18のフローチャートから呼び出される。以下では、
図19〜21のフローチャートから先に説明し、
図17と
図18のフローチャートを後から説明する。
【0072】
図19は、WD調整の処理のフローチャートである。この処理は、
図2に示したようにWDの高さと標準WDの差、すなわち、WD誤差がWD許容値より小さくなる、つまり、WDが許容範囲内に入るようにする処理である。この処理を開始する時点では、WDの標準値とWDの許容値が決まっている。この処理では、ウエハ16の高さをウエハ高さセンサ12で測定し、実際のWDを求める(S1901)。そして、実際のWDが許容範囲に入るまで、ステージ9の昇降を繰り返す(S1904)。WDが許容範囲入れば(S1902)、WDを記録する(S1905)。所定の昇降回数で、WDが許容範囲に入らなければ(S1903)、エラー処理を行う(S906)。エラー処理においては、
図22に示すように、WDが許容範囲に入らなかった旨のメッセージを表示し、シーケンスを停止する。なお、このWD調整の処理の開始時にWD高さが許容範囲内にあれば、ステージの昇降をすることなく、この処理は終了する。なお、ウエハ16の高さを変えることとWDを変えることは等価であり、標準WDは標準高さ、WD許容値を高さ許容値と言い換えることができるのは、既に説明したとおりである。
【0073】
図20は、弱励磁電気系補正の処理のフローチャートである。この処理では、フォーカスの粗調整と精調整を兼ねて
図5に示した電磁フォーカスを行い、フォーカスの微調整として
図6に示した静電フォーカスを行う。この処理の開始時には、加速電圧とWD誤差が決まっている。はじめに、
図11に示した関係に基づいて、加速電圧とWD誤差から励磁電流補正量を決定し、対物レンズ7の励磁電流を補正する(S2001)。以上で、フォーカスの粗調整と精調整を兼ねた電磁フォーカスは終了である。次に、
図7に示した関係に基づいて、加速電圧から標準リターディング電圧を求め(S2002)、リターディング電極8に印加する(S2003)。その後、電子線の照射を開始し(S2004)、リターディング電圧調整による静電フォーカスを行う(S2005)。この際、計測点ではなく、計測点近くの点の画像で調整してもよい。これにより、測定点の帯電やダメージを減らすことができる。以上で、フォーカスの微調整としての静電フォーカスは終了であり、弱励磁電流電気系補正の処理も終了である。なお、画像信号に基づくフォーカス微調整は電磁フォーカスで行ってもよい。
【0074】
図21は、強励磁電気系補正のフローチャートである。この処理では、フォーカスの精調整とフォーカスの微調整のために、
図6に示した静電フォーカスを行う。この処理の開始時には、加速電圧とWD誤差が決まっている。はじめに、
図7に示した関係に基づいて、加速電圧から標準リターディング電圧を決定する(S2101)。その後、
図12に示した関係に基づいて、加速電圧とWD誤差からリターディング電圧補正量を決定する(S2102)。標準リターディング電圧にリターディング電圧補正量を補正したリターディング電圧をリターディング電極8に印加する(S2103)。以上で、フォーカスの精調整としての静電フォーカスは終了である。その後、電子線の照射を開始し(S2104)、リターディング電圧調整による静電フォーカスを行う(S2105)。この際、計測点ではなく、計測点近くの点の画像で調整してもよい。これにより、測定点の帯電やダメージを減らすことができる。以上で、フォーカスの微調整としての静電フォーカスは終了であり、強励磁電流電気系補正の処理も終了である。
【0075】
図17は、一枚のウエハの処理のフローチャートであり、一枚のウエハの処理を大まかに表したものである。はじめに、ウエハをロードし(S1701)、ステージの水平移動により計測点に移動する(S1702)。レシピに従って加速電圧を決定し(S1703)、SEM画像を取得する(S1704)。加速電圧を変えながらこれらの処理を繰り返し、ひとつの計測点において、全ての加速電圧での撮像が終われば(S1705)、異なる加速電圧で撮像した像を並べて表示する(S1706)。ひとつの計測点での撮像が終われば、ステージ9を水平移動し、次の計測点で、撮像、寸法計測する。これら、ステージ9の移動と計測を繰り返し、全ての計測点の計測が終われば(S1707)、ウエハ16をアンロードする(S1708)。
【0076】
図23と24は、
図17のフローチャートにおけるSEM画像の表示に関するものである。
図17のフローチャートの表示の部分では、
図23に示すように、ひとつの計測点について、異なる加速電圧のSEM画像を表示する。この際、加速電圧の変更に伴い視野がずれた場合は、アライメントマークのSEM画像や予め取得した加速電圧毎の典型的なSEM画像(図示しない)に基づいて、視野ズレを補正するとよい。さらに、
図24に示すように、各加速電圧の画像から抽出した輪郭を重ねて表示してもよい。
以上で、一枚のウエハの処理の説明を終わる。
【0077】
図18は、一枚のSEM画像取得のフローチャートであり、
図17のフローチャートのSEM画像の取得(S1704)から呼び出される。この処理の開始時点では加速電圧が決まっているので、
図7の関係から、初期加速電圧、標準励磁電流、標準WD、WD許容値が決定できる。この処理では、はじめに2つのステップを行う。第1に、加速電圧から初期加速電圧を決定し、初期加速電圧を電子源1に印加する(S1801)。初期加速電圧を早めに印加するのは、電子銃が安定するまでに時間がかかるからである。第2に、加速電圧から標準励磁電流を決定し、対物レンズを消磁した後に、対物レンズに標準励磁電流を印加する(S1802)。ここで、標準励磁電流の印加を早めに行うのは、対物レンズが安定するまでの時間がかかるからである。以下の処理は、閾加速電圧と比較して、加速電圧が高い場合と低い場合で異なる。
【0078】
図18のフローチャートで、加速電圧が閾加速電圧より低い場合には、加速電圧から標準WDとWD許容値を決定し(S1807)、
図19に示したWD調整の処理を行い(S1808)、WDを標準WDから許容範囲内に入れる。この処理は、常に、加速電圧の変更に伴う標準WD変更に対応する役割を果たす。その後、
図20に示す弱励磁電気系調整の処理を行う(S1809)、つまり、フォーカスの粗調整と精調整を兼ねて
図5に示した電磁フォーカスを行い、フォーカスの微調整として
図6に示した静電フォーカスを行う。
【0079】
図18のフローチャートで、加速電圧が閾加速電圧より高い場合には、加速電圧から標準WDとWD許容値を決定し(S1804)、
図19に示したWD調整の処理を行い、WDを標準WDから許容範囲内に入れる。標準WDとWD許容値の決定、及び、調整の処理は、加速電圧が閾加速電圧より低い場合と同じであるが、加速電圧が閾加速電圧より高い場合、WDはフォーカスの粗調整手段であり、
図10に示すようにWD許容値は小さく設定される。WD調整の後には(S1805)、
図21に示す強励磁電気系補正の処理を行う(S1806)、つまり、フォーカスの精調整とフォーカスの微調整のために、
図6に示した静電フォーカスを行う。
【0080】
図18のフローチャートにおいて、弱励磁電気系調整、または、強励磁電気系調整が終わった後には、加速電圧とWD誤差が決定している。加速電圧は
図18の処理の開始時から決まっているし、WD誤差はWD調整の処理時に決まる。
図13の関係に基づき、加速電圧とWD誤差から偏向信号強度係数を求め、さらに、レシピで定めた倍率と偏向信号強度係数から偏向信号の振幅を決め、SEM画像を取得する。その後、電子線照射を停止し、リターディング電圧をゼロVにする(S1810)。さらに、取得した画像を表示し保存する。この処理で、電子線照射を停止するのは、電子線照射によるウエハ16の汚染、帯電などを避けるためである。また、リターディング電圧をゼロVにするのは、後にステージ9の昇降時の放電を避けるためである。
【0081】
以上、一枚のSEM画像の取得の処理が終われば、
図17に示す一枚のウエハの処理に戻り、既に説明したように、加速電圧を変えながら
図18の一枚の画像の取得の処理を繰り返し、ひとつの計測点での撮像が終われば、ステージ9を水平移動し、次の計測点で、撮像、寸法計測をする。これら、ステージ9の移動と計測を繰り返す。
【0082】
ここで、実施例1の走査電子線装置を用いたウエハの孔や溝の上部と底部の寸法計測について説明する。
例えば10kV以下の低加速電圧領域においては、
図7に示されるようにWDを短い値に設定し、ウエハの高さ変動に対するフォーカスの粗調整および精調整を対物レンズの励磁電流調整による電磁フォーカスにより行う。低加速電圧時にWDを短縮することにより、色収差と球面収差を減らし、低加速電圧時の分解能の劣化を防ぐことができ、ウエハの孔や溝の上部を高精度で計測することができる。
例えば10kV以上の高加速電圧領域においては、ウエハの高さ変動に対するフォーカスの粗調整をステージの昇降によりWDを調整する機械フォーカスにより行う。また、フォーカスの精調整をリターディング電圧の調整による静電フォーカスにより行う。フォーカス調整手段として対物レンズの励磁電流調整による電磁フォーカスを用いないことにより、フォーカス粗調整のための励磁連流変更が不要となり、励磁電流変更によるヒステリシスの影響を避けることができ、ウエハの孔や溝の底部を短時間かつ精度良く計測することができる。
例えば20kV以上の更に高加速電圧領域においては、
図7に示されるように、WDを伸ばして、励磁コイルが磁気飽和しない励磁電流とすることにより、磁気飽和の影響を避けることができ、ウエハの孔や溝の底部が計測できなくなるという障害を除くことができる。
【0083】
本実施例の走査電子線装置を用いた寸法計測方法は、電子源と、前記電子源から放出された電子線を偏向する偏向器と、前記電子線を収束する対物レンズと、リターディング電極と、ウエハを設置するステージと、制御部とを有し、前記電子線をウエハに照射しウエハから発生する二次電子を検出することによりウエハのSEM画像を得る走査電子線装置を用いた寸法計測方法であって、加速電圧を変化させてSEM画像を取得する際に、ウエハの孔や溝の上部を計測するために低加速の電子線を用いる場合は、WDを短縮して画像を取得し、ウエハの孔や溝の底部を計測するために高加速の電子線を用いる場合は、ウエハの高さ変動に対するフォーカスの粗調整を、前記ステージまたは前記対物レンズの昇降によりWDを調整する機械フォーカスにより行って画像を取得し、得られたSEM画像から、ウエハの孔や溝の上部および底部の寸法を計測するものである。
【0084】
この走査電子線装置を用いた計測方法において、ウエハの孔や溝の上部を計測するために低加速の電子線を用いる場合は、ウエハの高さ変動に対するフォーカスの粗調整および精調整を前記対物レンズの励磁電流調整による電磁フォーカスにより行う。
【0085】
また、この走査電子線装置を用いた計測方法において、ウエハの孔や溝の底部を計測するために高加速の電子線を用いる場合は、ウエハの高さ変動に対するフォーカスの精調整を前記リターディング電極に加えるリターディング電圧の調整による静電フォーカスにより行う。
【0086】
さらに、この走査電子線装置を用いた計測方法において、ウエハの孔と溝の底部を計測するために高加速の電子線を用いる場合、ウエハを設置した前記ステージの昇降によりWDを伸ばして、前記励磁コイルが磁気飽和しない励磁電流で画像を取得する。