(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1溶媒と前記第2溶媒は、前記機能層の上面の高さが前記両端部から前記中央部にわたって等しく、且つ、前記機能層の膜厚が前記両端部から前記中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されている、請求項1記載の有機発光素子用インク。
前記第1溶媒および前記第2溶媒は、請求項3に記載された混合比α/βに基づいて定められるそれぞれの体積濃度に対して±15vol%以内である、請求項3記載の有機発光素子用インク。
インクの粘度ηと表面張力σの比(σ/η)をγ とするときに、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換え仮作したインクはγ>1.9であり、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換え仮作したインクはγ<1.9である、請求項1記載の有機発光素子用インク。
前記第1溶媒と前記第2溶媒は、前記機能層の上面の高さが両端部から中央部にわたって等しく、且つ、前記機能層の膜厚が前記両端部から中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されている、請求項15記載の有機発光素子用インク。
第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクの製造方法であって、
前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えたインクを凹部に充填後に乾燥することによって幅が60μmの機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対して上方に位置する形状を成す、前記第1溶媒と、
前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えたインクで機能層を仮作したときと同じ条件下で、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えたインクを凹部に充填後に乾燥することによって幅が60μmの機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対して上方に位置する形状を成し、その沸点と前記第1溶媒の沸点との差が9℃以下である、前記第2溶媒と、
前記機能性材料と、
を準備する第1工程と、
前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒を混合する第2工程と、
を有することを特徴とする有機発光素子用インクの製造方法。
第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクの製造方法であって、
前記インクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm-1)の比(σ/η)をγ とするときに、
前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ>1.9である前記第1溶媒と、
前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ<1.9であり、前記第1溶媒に対する沸点差が9℃以下である第2溶媒と、
前記機能性材料と、
を準備する第1工程と、
前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒を混合する第2工程と、
を有することを特徴とする有機発光素子用インクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一態様に係る有機発光素子用インク、当該インクの製造方法、有機発光素子の製造方法、有機発光素子、有機表示装置、有機発光装置、機能層の形成方法、機能性部材、表示装置および発光装置について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[本発明の一態様の概要]
本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有し、前記第1溶媒は、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対して上方に位置する形状を成す溶媒であって、前記第2溶媒は、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対して上方に位置する形状を成す溶媒であって、前記第1溶媒と前記第2溶媒の沸点は、同等である、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒は、前記機能層の上面の高さが前記両端部から前記中央部にわたって等しく、且つ、前記機能層の膜厚が前記両端部から前記中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されている。
【0018】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒および前記第2溶媒は、有機発光素子の発光領域において、前記機能層の中央部側の膜厚d
Cと、前記機能層の一端部側、他端部側の膜厚d
L、d
Rとの差で下記[式1]の平坦度PIを示した場合に、下記[式2]の平坦度PI
1の絶対値の逆数αと、平坦度PI
2の絶対値の逆数βとで示される混合比α/βに基づき混合されている。
【0019】
PI=d
C−(d
L+d
R)/2 ・・・[式1]
PI:平坦度、d
C:中央部側の膜厚、d
L:一端部側の膜厚、d
R:他端部側の膜厚
α×PI
1=β×PI
2 ・・・[式2]
PI
1:第2溶媒を第1溶媒に置き換えて仮作した機能層の平坦度、
α:平坦度PI
1の絶対値の逆数、
PI
2:第1溶媒を第2溶媒に置き換えて仮作した機能層の平坦度、
β:平坦度PI
2の絶対値の逆数
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒および前記第2溶媒は、上記混合比α/βに基づいて定められるそれぞれの体積濃度に対して±15vol%以内である。
【0020】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒との沸点差は9℃以下である。
【0021】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第2溶媒の沸点は、前記第1溶媒の沸点に比べて高い。
【0022】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、インクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて仮作したインクはγ>1.9であり、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて仮作したインクはγ<1.9である。
【0023】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能層の両端部は、有機発光素子の発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ前記発光領域の12.5%の長さに対応する位置であり、前記機能層の中央部は、それぞれ前記発光領域の中央に対応する位置である。
【0024】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能層はそれぞれ平面視において矩形状を有し、有機発光素子の発光領域の両端は、それぞれその短辺方向に対応する。
【0025】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒はシクロヘキシルベンゼンであり、前記第2溶媒は1−メチルナフタレンであり、前記機能性材料はF8−F6である。この場合、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合比α/βは、28/72〜78/22である。
【0026】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒はヘプチルベンゼンであり、前記第2溶媒は1−メチルナフタレンであり、前記機能性材料はF8−F6である。この場合、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合比α/βは、5/95〜38/62である。
【0027】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能性材料は有機性の発光材料である。
【0028】
本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクは、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有し、前記第1溶媒は、単独で用いたときに、隔壁間に形成される機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対し、上方に位置する形状を成す溶媒であって、前記第2溶媒は、単独で用いたときに、隔壁間に形成される機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対し、上方に位置する形状を成す溶媒であって、前記第1溶媒と前記第2溶媒の沸点は、同等である。
【0029】
本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクは、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクであって、前記インクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて仮作したインクは、γ>1.9であり、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて仮作したインクは、γ<1.9であり、前記第1溶媒と前記第2溶媒との沸点差は9℃以下である、ことを特徴とする。
【0030】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒を混合した状態で、γ=1.9となるように、前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒が混合されている。
【0031】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒は、前記機能層の上面の高さが両端部から中央部にわたって等しく、且つ、前記機能層の膜厚が前記両端部から中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されている。
【0032】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒および前記第2溶媒は、有機発光素子の発光領域において、前記機能層の中央部側の膜厚d
Cと、前記機能層の一端部側、他端部側の膜厚d
L、d
Rとの差で上記[式1]の平坦度PIを示した場合に、上記[式2]の平坦度PI
1の絶対値の逆数αと、平坦度PI
2の絶対値の絶対値の逆数βとで示される混合比α/βに基づき混合されている。
【0033】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒および前記第2溶媒は、上記混合比α/βに基づいて定められるそれぞれの体積濃度に対して±15vol%以内である。
【0034】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第2溶媒の沸点は、前記第1溶媒の沸点に比べて高い。
【0035】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能層の両端部は、有機発光素子の発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ前記発光領域の12.5%の長さに対応する位置であり、前記機能層の中央部は、それぞれ前記発光領域の中央に対応する位置である。
【0036】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能層はそれぞれ平面視において矩形状を有し、有機発光素子の発光領域の両端は、それぞれその短辺方向に対応する。
【0037】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒はシクロヘキシルベンゼンであり、前記第2溶媒は1−メチルナフタレンであり、前記機能性材料はF8−F6である。
【0038】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合比α/βは、28/72〜78/22である。その場合、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒はヘプチルベンゼンであり、前記第2溶媒は1−メチルナフタレンであり、前記機能性材料はF8−F6である。その場合、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合比α/βは、5/95〜38/62である。
【0039】
また、本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの特定の局面では、前記機能性材料は有機性の発光材料である。
【0040】
本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクは、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクであって、前記機能性材料の溶媒として単独で用いたときのインクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、前記第1溶媒を用いたインクは、γ>1.9であり、前記第2溶媒を用いたインクは、γ<1.9であり、前記第1溶媒と前記第2溶媒との沸点差は9℃以下である。
【0041】
本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの製造方法は、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクの製造方法であって、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対して上方に位置する形状を成す、前記第1溶媒と、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対して上方に位置する形状を成し、その沸点が前記第1溶媒の沸点と同等である、前記第2溶媒と、前記機能性材料と、を準備する第1工程と、前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒を混合する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0042】
本発明の別の一態様に係る有機発光素子用インクの製造方法は、第1溶媒と、前記第1溶媒とは異なる第2溶媒と、前記第1溶媒および前記第2溶媒に溶解する、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、を有する有機発光素子用インクの製造方法であって、前記インクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、前記第2溶媒を前記第1溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ>1.9である前記第1溶媒と、前記第1溶媒を前記第2溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ<1.9であり、前記第1溶媒に対する沸点差が9℃以下である第2溶媒と、前記機能性材料と、を準備する第1工程と、前記機能性材料、前記第1溶媒および前記第2溶媒を混合する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0043】
[有機発光素子用インク]
本発明の一態様に係る有機発光素子用インク(以下、単にインクと称する。)は、少なくとも、機能性材料、第1溶媒および第2溶媒を含み、前記第1溶媒と前記第2溶媒とは沸点が同等である。
【0044】
<機能性材料>
機能性材料は、有機発光素子の機能層を構成する材料であり、例えば有機性の発光材料である。有機性の発光材料の好ましい例として、F8−F6(F8(ポリジオクチルフルオレン)とF6(ポリジヘキシルフルオレン)との共重合体)が挙げられる。
【0045】
また、F8−F6以外の機能性材料として、F8、F6等のF8−F6以外のフルオレン化合物、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属錯体、希土類錯体、等が挙げられる(特許文献2参照)。なお、これら化合物や錯体は、単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0046】
機能性材料は、第1溶媒と第2溶媒のそれぞれに完全に溶解する。
【0047】
<第1溶媒>
第1溶媒は、第2溶媒を第1溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対して上方に位置する形状を成す溶媒である。或いは、第1溶媒は、第2溶媒を第1溶媒に置き換えて機能層を仮作した場合に、有機発光素子の発光領域において、前記仮作した機能層の両端部側が中央部側に対して上方に突出する形状を成す溶媒である。或いは、第1溶媒は、単独で用いたときに、バンク(隔壁)間に形成される機能層が、その両端部側の膜厚がその中央部側の膜厚に対して厚く、前記両端部側の上面が前記中央部側の上面に対し、上方に位置する形状を成す溶媒である。
【0048】
第2溶媒を第1溶媒に置き換えて仮作した機能層の具体的な形状としては、例えば凹形状が挙げられる。凹形状とは、例えば上面が凹面であり下面が平面である形状であるが、この形状に限られない。例えば、下面は必ずしも平面である必要はなく、凹面や凸面であっても良いし、凹凸があっても良い。但し、上面は凹面であることが好ましい。
【0049】
ここで、両端部側とは、両端部付近のいずれかの位置、の意味であり、中央部側とは、中央部付近のいずれかの位置、の意味である。したがって、両端部側の膜厚が中央部側の膜厚に対して厚いとは、両端部付近のいずれかの位置の膜厚が中央部側付近のいずれかの位置の膜厚よりも厚い、の意味であり、両端部に近づくほど膜厚が厚くなっているという意味に限定されるものではない。したがって、凹形状は、必ずしも中央部の上面が最下方に位置している必要はなく、中央部といずれかの端部との中間部の上面が最下方に位置した凹形状であっても良い。さらに、凹形状は、両端部から中央部へ向けて漸次下方に下がっている必要はなく、中央部と両端部との中間部において一時的に上方に上がっていても良い。すなわち、必ずしも両端部から中央部へ向けて上面がなだらかに下がっている必要はなく、上面には多少の凹凸があっても良い。
【0050】
第1溶媒に該当し得る溶媒としては、具体例には、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、ヘプチルベンゼン(HB)、メトキシトルエン(MT)、ブチルフェニルエーテル(BPE)、ペンチルベンゼン(PB)、等が挙げられるが、これら溶媒に限定されない。
【0051】
第1溶媒は、インクの粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、第2溶媒を第1溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ>1.9であることが好ましい。なお、γ値の詳細については後述する。
【0052】
<第2溶媒>
第2溶媒は、第1溶媒を第2溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、素子形成予定領域において、前記仮作した機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対して上方に位置する形状を成す溶媒である。或いは、第2溶媒は、第1溶媒を第2溶媒に置き換えて機能層を仮作した場合に、前記仮作した機能層の中央部側が両端部側に対して上方に突出する形状を成す溶媒である。或いは、第2溶媒は、単独で用いたときに、バンク間に形成される機能層が、その中央部側の膜厚がその両端部側の膜厚に対して厚く、前記中央部側の上面が前記両端部側の上面に対し、上方に位置する形状を成す溶媒である。
【0053】
第1溶媒を第2溶媒に置き換えて仮作した機能層の具体的な形状としては、例えば凸形状が挙げられる。凸形状とは、例えば上面が凸面であり下面が平面である形状であるが、この形状に限られない。例えば、下面は必ずしも平面である必要はなく、凹面や凸面であっても良いし、凹凸があっても良い。但し、上面は凸面であることが好ましい。
【0054】
ここで、両端部側および中央部側の意味は上述した通りである。したがって、中央部側の膜厚が両端部側の膜厚に対して厚いとは、中央部付近のいずれかの位置の膜厚が両端部側付近のいずれかの位置の膜厚よりも厚い、の意味であり、中央部に近づくほど膜厚が厚くなっているという意味に限定されるものではない。したがって、凸形状は、必ずしも中央部の上面が最上方に位置している必要はなく、中央部といずれかの端部との中間部の上面が最上方に位置した凸形状であっても良い。さらに、凸形状は、両端部から中央部へ向けて漸次上方に上がっている必要はなく、中央部と両端部との中間部において一時的に下方に下がっていても良い。すなわち、必ずしも両端部から中央部へ向けて上面がなだらかに上がっている必要はなく、上面には多少の凹凸があっても良い。
【0055】
第2溶媒に該当し得る溶媒としては、具体例には、1−メチルナフタレン(1MN)、ノニルベンゼン(NB)、1−エチルナフタレン等が挙げられるが、これら溶媒に限定されない。
【0056】
第2溶媒は、第1溶媒を第2溶媒に置き換えて仮作したインクが、γ<1.9であることが好ましい。なお、γ値の詳細は後述する。
【0057】
[実験および考察]
<単独系インクで形成した機能層の形状>
図1は、単独系インクで形成した機能層の形状についての検討結果を示す図である。機能性材料を各種溶媒に溶解させて単独系インクを作製し、それらインクを使用して形成した機能層の形状を確認した。
【0058】
実験において、機能性材料としてはF8−F6を使用し、濃度1.2wt%のインクを作製した。機能層は、平面視において矩形状かつライン状のものを、短辺方向の幅が60μ、平均膜厚(短辺方向における両端部間の平均膜厚)が80nmとなるように形成した。機能層の形状を示す各グラフにおいて、X軸は機能層の前記短辺方向の幅を示し、Y軸は機能層の膜厚を示す。なお、特に言及しない場合は、他の実験においても、機能層は上記の条件で形成した。
【0059】
図1(a)に示すように、MT、HB、BPEおよびPBを使用した場合は、機能層が凹形状に成り、
図1(b)に示すように、1MNおよびNBを使用した場合は、機能層が凸形状に成った。また、
図1(a),(b)に示すように、また、機能層形成後の放置時間によらず、MT、HB、BPEおよびPBを使用した場合は、機能層が凹形状を維持し、1MNおよびNBを使用した場合は、機能層が凸形状を維持した。
【0060】
以上のように、発明者の予想通り、溶媒次第で、凹形状の機能層だけでなく、凸形状の機能層も得られることがわかった。そして、凹形状の機能層を形成できる特性を有する溶媒(以下、凹形状特性の溶媒)と、凸形状の機能層を形成できる特性を有する溶媒(凸形状特性の溶媒)とを適宜組み合わせれば、凹形状特性と凸形状特性とが相殺しあって、平坦性の良い機能層が得られるとの着想に至った。なお、機能性材料の濃度が薄いときは凹形状の機能層が形成されるが、機能性材料の濃度が濃くなれば凸形状の機能層が形成される溶媒も有り得るが、ここでの凹形状特性および凸形状特性は、完成したインクの機能性材料の濃度での特性である。
【0061】
<溶媒の組み合わせ>
混合系インクを種々作製し、好適な溶媒の組み合わせを検討した。実施例1,2として、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒とを組み合わせ、平坦性の良い機能層が得られた例を紹介する。また、比較例1として、2種類の凹形状特性の溶媒を組み合わせてみたが、平坦性の良い機能層は得られなかった例を紹介する。さらに、比較例2として、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒とを組み合わせたにも拘わらず、平坦性の良い機能層が得られなかった例を紹介する。
【0062】
図2は、実施例1の組み合わせを説明した図である。
図2(a)に示すように、CHBを使用した単独系インクで形成した機能層は凹形状に成った(CHBは第1溶媒に該当する)。一方、1MNを使用した単独系インクで形成した機能層は凸形状に成った(1MNは第2溶媒に該当する)。
図2(b)に示すように、CHBと1MNを使用した混合系インクで形成した機能層は、CHBまたは1MNを使用した単独系インクで形成した機能層よりも、平坦度が高かった。また、所定の混合比(CHB/1MN=70/30)とすることで、極めて平坦性の良い機能層が得られた。
【0063】
図3は、実施例2の組み合わせを説明した図である。
図3(a)に示すように、HBを使用した単独系インクで形成した機能層は凹形状に成った(HBは第1溶媒に該当する)。一方、1MNを使用した単独系インクで形成した機能層の形状については先に述べた通りである。
図3(b)に示すように、HBと1MNを使用した混合系インクで形成した機能層は、HBまたは1MNを使用した単独系インクで形成した機能層よりも、平坦度が高かった。また、所定の混合比(HB/1MN=20/80)とすることで、極めて平坦性の良い機能層が得られた。
【0064】
図4は、比較例1の組み合わせを説明した図である。
図4(a)に示すように、PBを使用した単独系インクで形成した機能層は凹形状に成った(PBは第1溶媒に該当する)。一方、1MNを使用した単独系インクで形成した機能層の形状については先に述べた通りである。
図4(b)に示すように、PBと1MNを使用した混合系インクで形成した機能層は、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒の組み合わせであるにも拘わらず、予想に反し平坦度が低かった。しかも、1MNを使用した単独系インクで形成した機能層よりも突出した凸形状となった。
【0065】
図5は、比較例2の組み合わせを説明した図である。
図5(a)に示すように、CHBを使用した単独系インクで形成した機能層の形状も、HBを使用した単独系インクで形成した機能層の形状も、先に述べた通りである。
図5(b)に示すように、CHBとHBを使用した混合系インクで形成した機能層は、凹形状特性の溶媒同士の組み合わせであったため、混合比に拘わらず凹形状にしか成らなかった。平坦度についての改善もみられず、HBを使用した単独系インクで形成した機能層よりも平坦度が高くなることはなかった。
【0066】
以上、
図2〜
図5に示す結果から、次のことがわかった。まず、実施例1,2の結果から、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒を組み合わせれば、より平坦性の良い機能層が得られ、それらを好適な混合比で混合すれば、極めて平坦性の良い機能層が得られることがわかった。しかしながら、比較例1に示すように、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒を組み合わせであっても平坦度が改善されない場合があり、単に、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒を組み合わるだけでは不十分であることもわかった。また、凹形状特性の溶媒同士を組み合わせても、機能層は凹形状にしか成らなかったことから、同じ形状特性の溶媒同士を組み合わせても、平坦度は改善されないことがわかった。
【0067】
図6は、溶媒の表面張力および沸点を示す図である。
図6に示すように、実施例1で使用したCHBと1MNは沸点が同等であり、また、実施例2で使用したHBと1MNも沸点が同等である。一方、比較例1で使用したPBと1MNは沸点が大きく異なる。このことから、発明者は、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒との組み合わせにおいて、平坦度が改善される場合と、改善されない場合があるのは、溶媒の沸点が影響しているのではないかと考えた。そして、平坦性の良い機能層を得るための条件として、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒を単に組み合わせるだけでなく、それら溶媒の沸点を同等にすることが必要であるとの考えに至った。さらに、沸点が同等の溶媒を実際に混合して検討を重ねた結果、沸点が同等の溶媒を混合した場合は、機能層の形状の変化が混合比の変化に対して連続的になることを見出した。
【0068】
すなわち、凹形状特性の溶媒と凸形状特性の溶媒とを組み合わせることによって、凹形状特性と凸形状特性とを相殺させる、さらに、沸点を同等とすることで、それら溶媒をインクから同時期に蒸発させ、これによって蒸発中の溶媒の組成比を一定に維持し、ひいては特性が相殺しあった状態を維持し、その状態で蒸発を完了させることによって、平坦な機能層を得るとの着想に至った。
【0069】
<平坦度PIによる評価>
発明者は、より平坦性の良い機能層を形成できるインクを得るために、より厳密に平坦度を評価する方法について検討した。そして、平坦度を、機能層の中央部側と端部側との膜厚差により評価することにした。具体的には、中央部側の膜厚値から左右両端部側の膜厚値の平均を引いて、その値を平坦度PIとし、この平坦度PIによって機能層の平坦度を評価することにした。
【0070】
平坦度PIは、上記[式1]に示すように、有機発光素子の発光領域において、機能層の中央部側の膜厚d
Cと、機能層の一端部側、他端部側の膜厚d
L、d
Rとの差で示す。平坦度PIがマイナスの場合、機能層は凹形状であり、平坦度PIがプラスの場合、機能層は凸形状である。また、平坦度PIの絶対値は凹凸の程度を表す。
【0071】
図7は、機能層の両端部および中央部を説明した図である。
図7に示すように、本発明において、機能層(仮作した機能層も含む)の中央部は、発光領域の中央に対応する位置である。機能層(仮作した機能層も含む)の両端部は、有機発光素子の発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ発光領域の12.5%の長さに対応する位置である。具体的には、発光領域の幅が60μmの場合、機能層の両端部は、発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ7.5μmの長さに対応する位置である。なお、発光領域の両端とは、例えば機能層の上面の両端である。
【0072】
さらに厳密に機能層の平坦度を評価するために、平坦度を、機能層の中央部側と中間部との膜厚差によっても評価することにした。具体的には、中央部側の膜厚値から左右中間部の膜厚値の平均を引いて、その値を平坦度PI
Mとし、この平坦度PI
Mによっても機能層の平坦度を評価することにした。
【0073】
平坦度PI
Mは、下記[式3]に示すように、有機発光素子の発光領域において、機能層の中央部側の膜厚d
Cと、一端部側・他端部側と中央部側との中間点における機能層の膜厚d
ML、d
MRとの差で示す。平坦度PI
Mがマイナスの場合、機能層は凹形状であり、平坦度PI
Mがプラスの場合、機能層は凸形状である。また、平坦度PI
Mの絶対値は凹凸の程度を表す。
【0074】
PI
M=d
C−(d
ML+d
MR)/2 ・・・[式3]
PI
M:平坦度、d
C:中央部側の膜厚、d
ML:一方の中間部の膜厚、
d
MR:他方の中間部の膜厚
図7に示すように、本発明において、機能層(仮作した機能層も含む)の中間部は、発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ発光領域の25%の長さに対応する位置である。具体的には、発光領域の幅が60μmの場合、機能層の両中間部は、発光領域の両端から中央部に向かって、それぞれ15μmの長さに対応する位置である。
【0075】
なお、平坦度PIおよび平坦度PI
Mは、機能層の平均膜厚(機能層の端部間の平均膜厚)が80nmの場合の値であり、実際に形成した機能層の平均膜厚が80nmでなかった場合は、80nmの場合に換算した値である。
【0076】
<溶媒の混合比>
第1溶媒と第2溶媒とは、機能層の上面の高さが両端部から中央部にわたって等しく、且つ、前記機能層の膜厚が前記両端部から中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されていることが好ましい。好ましい混合比を得るための検討を行なった結果、平坦度PIの絶対値の逆数比で混合すれば平坦な機能層が得られることがわかった。
【0077】
図8は、混合比α/βを説明した図である。
図8に示すように、第1溶媒と第2溶媒は、上記[式2]の平坦度PI
1の絶対値の逆数αと、平坦度PI
2の絶対値の逆数βとで示される混合比α/βに基づき混合されていることが好ましい。
【0078】
図9は、CHBと1MNの混合比α/βについての検討結果を示す図である。第1溶媒がCHBであり、第2溶媒が1MNである実施例1では、
図9に示すように、CHBと1MNの混合比α/βは、28/72〜78/22であることが好ましく、53/47であることがより好ましい。混合比α/βが28/72〜78/22であれば、平坦度PIを±4nmの範囲内にすることができ、混合比α/βが53/47であれば、平坦度PIを0nmにすることができる。
【0079】
なお、機能層に膜厚バラツキがあると、膜厚の薄い部分に電界集中が生じて通電量が大きくなり、その膜厚の薄い部分が極端に劣化して、有機発光素子が短寿命化することが知られている。そして、膜厚バラツキが機能層の膜厚の10%以内に収まっていれば許容の寿命を得られることもわかっている。実験では機能層の膜厚が80nmであるため、膜厚バラツキが±4nmであれば、有機発光素子の短寿命化を防止できる。
【0080】
図10は、HBと1MNの混合比α/βについての検討結果を示す図である。第1溶媒がHBであり、第2溶媒が1MNである実施例2では、
図10に示すように、HBと1MNの混合比α/βは、5/95〜38/62であることが好ましく、22/78であることがより好ましい。混合比α/βが5/95〜38/62であれば、平坦度PIを±4nmの範囲内にすることができ、混合比α/βが22/78であれば、平坦度PIを0nmにすることができる。
【0081】
実施例1および実施例2の結果から、第1溶媒および第2溶媒は、混合比α/βに基づいて定められる平坦度PIが0nmとなるそれぞれの体積濃度に対して±15vol%以内であることが好ましいことがわかった。そうであれば、平坦度PIを±4nmの範囲内にすることができる。
【0082】
以上のように、第1溶媒を使用した単独系インクで仮作した機能層の平坦度PIと、第2溶媒を使用した単独系のインクで仮作した機能層の平坦度PIとを求めるだけで、平坦性の良い機能層を形成するのに好適な混合比を得ることができる。同様に、第2溶媒を第1溶媒に置き換えて仮作した機能層の平坦度PI
1と、第1溶媒を第2溶媒に置き換えて仮作した機能層の平坦度PI
2とを求めるだけで、平坦性の良い機能層を形成するのに好適な混合比を得ることができる。
【0083】
<溶媒の沸点差>
第1溶媒と第2溶媒の沸点が同等であれば、平坦性の良い機能層を形成することができると述べたが、それら第1溶媒と第2溶媒との沸点差がどの程度の範囲であれば同等と判断できるのかについて検討した。
【0084】
図11は、沸点差が溶媒の蒸発に及ぼす影響を説明した図である。まず、結論から述べると、
図11に示すように、第1溶媒と第2溶媒との沸点差は9℃以下であることが好ましいことがわかった。
【0085】
図11(a)に示すように、第1溶媒と第2溶媒の沸点差が9℃以下の場合、第1溶媒と第2溶媒とが同時期に蒸発するため、第1溶媒と第2溶媒とからなる混合溶媒は、経過時間によらず、蒸発速度は一定であり、トータル蒸発量の増加度合いも一定である。このような場合、乾燥工程における雰囲気環境の制御が簡単であり、平坦性の良い機能層を得易いため、好ましい沸点差であると判定した(「○」と判定した)。
【0086】
一方、
図11(b)に示すように、第1溶媒と第2溶媒の沸点差が9℃を超える場合、第1溶媒と第2溶媒とが同時期に蒸発せず、低沸点の溶媒が先に蒸発してしまうため、経過時間によって、混合溶媒の蒸発速度は変化し、トータル蒸発量の増加度合いも変化する。このような場合、機能層形成時の溶媒組成をインク設計で制御し難く、平坦性の良い機能層を簡単に形成することは容易ではないため、好ましい沸点差でないと判定した(「×」と判定した)。なお、蒸発速度が変化する理由は、第1溶媒および第2溶媒の蒸発において、蒸発開始当初は主に低沸点の溶媒が蒸発するのに対し、時間がある程度経過して低沸点の溶媒が減少した後は主に高沸点の溶媒が蒸発するようになり、そうすると高沸点の溶媒の蒸発速度は遅いため、蒸発速度が変化するのである。
【0087】
図12は、沸点差が機能層の形状に及ぼす影響についての検討結果を示す図である。
図12に示すように、第1溶媒および第2溶媒に該当する溶媒を種々組み合わせてインクを作製し、それらインクから蒸発する溶媒の蒸発速度が一定になるか否かを評価した。その結果、沸点差が9℃以下の場合は、蒸発速度が一定であり、好ましい沸点差であると判定した(「○」と判定した)。沸点差が9℃を超える場合は、蒸発速度が一定でなく、好ましい沸点差でないと判定した(「×」と判定した)。
【0088】
なお、CHBとHBの組み合わせは、沸点差が9℃以下であるため蒸発速度についての判定は「○」であったが、凹形状特性の溶媒同士の組み合わせであるため、平坦性の良い機能層を形成することはできなかった。
【0089】
また、CHBとPT(フェノキシトルエン)との組み合わせは、混合溶媒の蒸発速度は一定ではなかったが、平坦性の良い機能層を形成することができた。これは、一方の溶媒(PT)が高沸点・高粘度の溶媒であるため、先に他方の溶媒が蒸発し終わり、残った高粘度の溶媒の作用により平坦性の良い機能層を形成することができたと考えられる。
【0090】
このように、低沸点の溶媒と高沸点の溶媒とを使用してインクを作製し、インク吐出時はインクを低粘度に維持し、バンク間に充填後は速やかに低沸点の溶媒を蒸発させることによって、インクを一気に高粘度化しインクの流動を抑制することによって機能層の平坦度を高める方法は従来から知られている(特許文献3)。しかしながら、このような沸点差の大きい2種類の溶媒を使用する方法は、同等の沸点の溶媒を使用する方法と比べて、機能層形成時の溶媒組成をインク設計で制御し難く、平坦性の良い機能層を簡単に形成することは容易ではない。
【0091】
本発明の一態様に係るインクは、同等の沸点を有する2種類の溶媒を組み合わせることによって、同時期にそれら溶媒を蒸発させ、平坦性の良い機能層を簡単に形成するものであり、このような技術的思想は、特許文献2に記載の方法のように、あえて沸点差の大きい2種類の溶媒を使用する方法に基づいて容易に想到し得ないものである。
【0092】
さらに、沸点に関して、凸形状特性の溶媒が、凹形状特性の溶媒よりも、沸点が高いことが好ましい。すなわち、第2溶媒の沸点が、第1溶媒の沸点に比べて高いことが好ましい。なぜなら、第2溶媒の沸点の方が高ければ、第2溶媒の方が第1溶媒よりも長くインクに残留する。したがって、機能層の形状が固定される直前まで、第2溶媒の特性が強く反映されることになる。第2溶媒の特性は、機能性材料がインク液溜まりの端部に偏るのを抑制するものであるため、機能層はより平坦になり易い。なお、本願では、沸点差が9℃以下の場合に沸点が同等と判断しているが、その同等とみなす範囲内において、凸形状特性の溶媒が凹形状特性の溶媒よりも沸点が高い場合に、機能層はより平坦になり易いという意味である。
【0093】
<γ値について>
実際に機能層を形成することなく、インクの物性からそのインクを使用して形成した機能層の形状、および平坦度PIを簡単に予想できる方法について説明する。
【0094】
図13は、マランゴニ数を説明した図である。
図13に示すように、マランゴニ数を参照すると、粘度と表面張力が流動性に影響を及ぼすことがわかる。この点にヒントを得て、発明者は、インクの粘度とインクの表面張力に基づいて、機能層の平坦度PIを予想する方法を得るに至った。
【0095】
具体的には、インクの粘度η(mPa・s)とインクの表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)であるγ値に基づいて、機能層の平坦度PIを予想することができる。
【0096】
図14は、γ値と平坦度PIとの関係をまとめた図である。
図14に示すように、インクがγ=0の場合はそのインクで形成した機能層は平坦になり、インクがγ>1.9の場合はそのインクで形成した機能層は凹形状になり、インクがγ<1.9の場合はそのインクで形成した機能層は凸形状に成る。すなわち、γ=1.9を閾値として機能層の形状を凹形状と凸形状とに分けることができる。
【0097】
そして、γ=1.9の場合の機能層は平坦度PI=0nmとなり、γ<1.9の場合の機能層は平坦度PI>0nmとなり、γ>1.9の場合の機能層は平坦度PI<0nmとなる。すなわち、インクのγ値を1.9に近づくほど、平坦性の良い機能層を形成できるインクになる。
【0098】
図15および
図16は、γ値と平坦度PIとの関係についての検討結果を示す図である。 なお、インク粘度ηは、粘度計AR−G2(TA Instruments)を使用して測定した。インク表面張力γは、表面張力計DSA100(KRUSS製)を使用して測定した。
【0099】
図15および
図16に示すように、種々の単独系インクで仮作した機能層、混合系インクで形成した機能層について、γ値と平坦度PIとの相関性を評価した結果、γ<1.9の場合は平坦度PI>0になり、γ>1.9の場合は平坦度PI<0になり、γ値と平坦度PIは相関関係にあることが確認できた。また同様に、γ値と平坦度PI
Mとの相関性について、γ<1.9の場合は平坦度PI
M>0になり、γ>1.9の場合は平坦度PI
M<0になり、相関関係にあることが確認できた。
【0100】
以上のことから、γ=1.9となるようにインクを調整すれば、平坦性の良い機能層を形成できるインクを得られることがわかった。
【0101】
ここで、第1溶媒と第2溶媒は、機能層の上面の高さが両端部から中央部にわたって等しく、且つ、機能層の膜厚が両端部から中央部にわたって等しくなるような混合比で混合されていることが好ましい。そのためには、平坦度PI=0nmとなるような混合比で混合されていることが好ましい。したがって、γ=1.9となるように、機能性材料、第1溶媒および第2溶媒が混合されていることが好ましい。そして、第1溶媒を使用した単独系インクのγ値と、第2溶媒を使用した単独系インクのγ値とから、γ値が1.9となるインクの混合比を算出することが考えられる。
【0102】
<機能層の膜厚の影響>
機能層の膜厚が、γ=1.9を閾値とした評価に及ぼす影響について検討した。
図17および
図18は、機能層の膜厚が平坦度PIに及ぼす影響についての検討結果を示す図である。
図17に示すように、種々の単独系のインクで仮作した機能層、および、混合系インクで形成した機能層について、種々の膜厚の機能層の平坦度PIおよび平坦度PI
Mを評価した。それら結果を、膜厚別にまとめてみると、
図18(a)に示す膜厚80nmの場合、
図18(b)に示す膜厚5nmの場合、
図18(c)に示す膜厚90nmの場合のいずれにおいても、平坦度PIがプラスになるかマイナスになるかの閾値はγ=1.9であった。
【0103】
以上のことから、機能層の膜厚は、γ=1.9を閾値として平坦度PIを評価することには、特に影響を及ぼさないとの結論に至った。厳密には、機能層の膜厚は、少なくとも5nm〜90nmの範囲で、γ=1.9を閾値として平坦度PIを評価することに、影響を及ぼさないことが確認できた。
【0104】
<バンク形状の影響>
これまで説明した実験は、全てラインバンクの有機発光素子を使用して実施したものであるが、ピクセルバンクの場合でも同様の結果が得られるのか確認した。
【0105】
図19は、ピクセルバンクにおける機能層の両端部を説明した図である。
図19に示すように、ピクセルバンクの機能層は平面視において矩形状を有するが、この場合に本実施の形態に係る有機発光素子の発光領域の両端は、機能層の短辺方向に対応し、
図19において「L」および「R」で示す位置が機能層の両端部L,Rである。また、「C」で示す位置が機能層の中央部Cであり、「M
L」,「M
R」で示す位置が機能層の両中間部M
L,M
Rである。実験では、機能層の短辺方向の幅が一定である範囲、すなわち
図19において「P
1」と「P
2」の間の範囲において、機能層の長辺方向の中間である「P
3」の位置で機能層の形状を測定した。
【0106】
図20は、ピクセルバンクにおけるγ値と平坦度PIとの関係についての検討結果を示す図である。
図20に示すように、ピクセルバンクにおいても、ラインバンクと同様に、平坦度PIがプラスになるかマイナスになるかの閾値はγ=1.9であった。
【0107】
[有機発光素子]
図21は、本発明の一態様に係る有機発光素子の各層の積層状態を示す模式図である。
図21に示すように、有機表示パネル110は、本発明の一態様に係る有機発光素子(機能性部材)111上にシール材112を介してカラーフィルター基板113を貼り合わせた構成を有する。
【0108】
有機発光素子111は、RGBの各サブピクセルがライン状またはマトリックス状に配置されてなるトップエミッション型の有機発光素子であり、各サブピクセルはTFT基板1上に各層を積層した積層構造となっている。
【0109】
TFT基板1上には、第1電極を構成する第1アノード電極2および第2アノード電極3がライン状またはマトリックス状に形成されており、それらアノード電極2,3上にホール注入層4が積層されている。ホール注入層4上には、サブピクセルを規定するバンク5が形成されており、バンク5で規定された領域内にホール輸送層6および有機発光層7がこの順で積層されている。さらに、有機発光層7の上には、電子輸送層8、第2電極であるカソード電極9、および封止層10が、それぞれバンク5で規定された領域を超えて隣のサブピクセルのものと連続するように形成されている。
【0110】
バンク5で規定された領域は、ホール注入層4、ホール輸送層6、有機発光層7および電子輸送層8がその順で積層された多層積層構造となっており、それらの積層構造で機能層が構成されている。なお、機能層には電子注入層等の他の層が含まれていても良い。
【0111】
機能層の代表的な構成としては、(1)ホール注入層/有機発光層、(2)ホール注入層/ホール輸送層/有機発光層、(3)ホール注入層/有機発光層/電子注入層、(4)ホール注入層/ホール輸送層/有機発光層/電子注入層、(5)ホール注入層/有機発光層/ホール阻止層/電子注入層、(6)ホール注入層/ホール輸送層/有機発光層/ホール阻止層/電子注入層、(7)有機発光層/ホール阻止層/電子注入層、(8)有機発光層/電子注入層等の素子構成が挙げられる。
【0112】
TFT基板1は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料からなるベース基板上に、アモルファスTFT(有機発光素子ドライブ回路)が形成されたものである。
【0113】
第1アノード電極2は、例えば、Ag(銀)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、またはNiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されている。トップエミッション型の有機発光素子の場合は、光反射性の材料で形成されていることが好ましい。
【0114】
第2アノード電極3は、第1アノード電極2およびホール注入層4の間に介在し、各層間の接合性を良好にする機能を有する。
【0115】
ホール注入層4は、例えば、金属酸化物、金属窒化物、または金属酸窒化物等の金属化合物で形成されていることが好ましい。ホール注入層4が金属酸化物で形成されている場合は、ホールの注入が容易になるため、有機発光層7内で電子が有効に発光に寄与し良好な発光特性を得ることができる。金属酸化物としては、例えば、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、Th(トリウム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Cd(カドミウム)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)、およびLa(ランタン)からLu(ルテチウム)までのいわゆる希土類元素等の酸化物が挙げられる。なかでも、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、CuO(酸化銅)、およびSiO(酸化シリコン)は、特に長寿命化に有効である。
【0116】
バンク5は、例えば、樹脂等の有機材料またはガラス等の無機材料で形成されていることが好ましい。有機材料の例には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられ、無機材料の例には、SiO
2(シリコンオキサイド)、Si
3N
4(シリコンナイトライド)等が挙げられる。バンク5は、有機溶媒耐性を有することが好ましく、また可視光をある適度透過させることが好ましく、さらに絶縁性を有することが好ましく、加えてエッチング処理やベーク処理等がされることがあるので、それらの処理に対する耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
【0117】
なお、バンク5は、ラインバンクであっても、ピクセルバンクであっても良い。ラインバンクの場合、複数のサブピクセルを列ごとまたは行ごとに区切るようにバンク5が形成され、バンク5は有機発光層7の行方向両側または列方向両側だけに存在し、有機発光層7は同列または同行のものが連続した構成となる。一方、ピクセルバンクの場合、サブピクセルごと有機発光層7の全周を囲繞するようにバンク5が形成される。
【0118】
ホール輸送層6は、アノード電極2,3から注入されたホールを有機発光層7へ輸送する機能を有し、例えば、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)や、その誘導体(共重合体など)で形成されていることが好ましい。
【0119】
有機発光層7は、電界発光現象を利用して発光する機能を有し、例えば、本発明の一態様に係るインクに含まれる機能性材料で構成されていることが好ましい。有機発光層7が、本発明の一態様に係る有機発光素子用インク、有機発光素子の製造方法、および機能層の形成方法によるものか否かを確認する方法としては、例えば、有機発光層7中の第1溶媒および第2溶媒の残留量を測定することが挙げられる。
【0120】
一例として、第1溶媒としてCHBを使用し、第2溶媒としてHBを使用したインクを作製し、そのインクを使用してスピンコート法により有機発光層7を形成し、真空乾燥を3分間行い、170℃で30分間ベーク処理して形成された有機発光層7について、その有機発光層7を採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析した結果、CHBの残留量は0.64ng/cm
2であり、HBの残留量は0.48ng/cm
2であった。
【0121】
電子輸送層8は、カソード電極9から注入された電子を有機発光層7へ輸送する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、またはこれらの混合物等で形成されていることが好ましい。
【0122】
カソード電極9は、例えば、ITO、IZO(酸化インジウム亜鉛)等で形成される。トップエミッション型の有機発光素子の場合は、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0123】
封止層10は、有機発光層7等が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成される。トップエミッション型の有機発光素子の場合は、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0124】
以上の構成からなる有機発光素子111は平坦性の良いインクを用いて有機発光層7が形成されているため、発光特性が良好である。
【0125】
[有機発光素子の製造方法]
図22および
図23に基づいて、本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法を説明する。あわせて、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクの製造方法、および、機能層の形成方法を説明する。
図22および
図23は、本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法を説明するための工程図である。
【0126】
まず、
図22(a)に示すような上面が保護レジストで保護されたTFT基板1を準備する。
【0127】
次に、
図22(b)に示すように、TFT基板1を覆っている保護レジストを剥離し、TFT基板1上に、有機樹脂をスピンコートし、PR/PE(フォトレジスト/フォトエッチングでパターニングすることによって、
図22(c)に示すように、平坦化膜1a(例えば厚さ4μm)を形成する。
【0128】
次に、
図22(d)に示すように、平坦化膜1a上に第1アノード電極2を形成する。第1アノード電極2は、例えば、スパッタリングによりAPCで薄膜を形成し、当該薄膜をPR/PEでマトリックス状にパターニングすることによって形成する(例えば厚さ150nm)。なお、第1アノード電極2は真空蒸着等で形成しても良い。
【0129】
次に、
図22(e)に示すように、第2アノード電極3をマトリックス状に形成する。第2アノード電極3は、例えばプラズマ蒸着法でITO薄膜を形成し、当該ITO薄膜をPR/PEによりパターニングすることにより形成する(例えば厚さ110nm)。
【0130】
次に、
図22(f)に示すように、第2アノード電極3の上からホール注入層4を形成する。ホール注入層4は、ホール注入機能を果たす材料をスパッタリングし、PR/PEによりパターニングすることで形成する(例えば厚さ40nm)。なお、ホール注入層4は、アノード電極3上だけでなく、TFT基板1の上面全体に亘って形成する。
【0131】
次に、
図22(g)に示すように、ホール注入層4上にバンク5を形成する。ホール注入層4上においてバンク5を形成する領域は、隣り合う発光層形成予定領域どうしの境界に相当する領域である。バンク5は、ホール注入層4上の全体を覆うようにバンク材料層を形成し、形成したバンク材料層の一部をPR/PEで除去することによって形成する(例えば厚さ1μm)。なお、バンク5は、列方向または行方向にだけ伸長するストライプ状のラインバンクであっても良いし、列方向および行方向に伸長し平面形状が井桁状のピクセルバンクであっても良い。
【0132】
次に、
図23(a)に示すように、バンク5間の凹部に、ホール輸送層の材料を含むインクを充填し、乾燥させることによって、ホール輸送層6を形成する(例えば厚さ20nm)。
【0133】
次に、
図23(b)に示すように、TFT基板1上の全体に亘って、バンク5間の凹部にインクジェット法で本発明の一態様に係る有機発光素子用インクを充填し、充填したインクを例えば雰囲気25℃の減圧下で乾燥し、ベーク処理することによって、有機発光層7を形成する(例えば厚さ5〜90nm)。なお、インクをバンク5間に充填する方法は、インクジェット法に限定されず、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等であっても良い。
【0134】
有機発光層7は、詳細には、以下の第1〜第6工程を順次経ることにより形成される。
【0135】
第1工程では、有機発光層7を形成するためのインクを作製し準備する。インクは、上述した機能性材料、第1溶媒および第2溶媒を準備し、それら機能性材料、第1溶媒および第2溶媒を混合して製造する。それらを混合する際は、まず第1溶媒および第2溶媒を混合して混合溶媒とし、その混合溶媒に機能性材料を溶解させる手順で混合しても良いし、まず一方の溶媒に機能性材料を溶解させ、そこに他方の溶媒を加える手順で混合しても良い。
【0136】
第1溶媒および第2溶媒以外に、インクに第3溶媒が含まれる場合は、機能性材料を第1溶媒および第2溶媒に溶解させた後に第3溶媒を加えても良いし、先ず第3の溶媒に機能性材料を溶解させてから、そこに第1溶媒および第2溶媒を加えても良い。
【0137】
第1溶媒と第2溶媒の混合は、機能層の上面の高さが両端部から中央部にわたって等しく、且つ、機能層の膜厚が両端部から中央部にわたって等しくなるような混合比で混合する。具体的には、例えば、第1溶媒と第2溶媒とを上述した混合比α/βで混合する。
【0138】
第2工程では、前記インクを、インク吐出口を有するインクジェット装置に充填する。
【0139】
第3工程では、第1電極を含む下地層を有する基板を準備する。本実施の形態では、第1アノード電極2、第2アノード電極3、ホール注入層4、バンク5およびホール輸送層6が形成されたTFT基板1がこれに該当する。
【0140】
第4工程では、ホール輸送層6に対し、インクジェット装置からインクの液滴を吐出させる。
【0141】
第5工程では、第4工程により吐出させたインク液滴をホール輸送層6に塗布し、インク液滴膜を形成する。
【0142】
第6工程では、インク液滴膜から、第1溶媒および第2溶媒を蒸発させ、有機発光層7を、その両端部から中央部にわたって、その上面の高さが等しく且つその膜厚が等しくなるように形成する。第1溶媒および第2溶媒は、沸点が同等であるため、同時期に蒸発する。第1溶媒および第2溶媒を蒸発させるタイミングは、雰囲気環境によって制御する。第1溶媒および第2溶媒が同時期に蒸発するため、雰囲気環境の制御が簡単である。なお、同時期には、同時の場合だけでなく、平坦性の良い有機発光層7が得られる混合比を維持可能な程度に多少の時差がある場合も含まれる。
【0143】
次に、
図23(c)に示すように、バンク5および有機発光層7を覆うように、ETL蒸着で電子輸送層8を形成する(厚さ20nm)。
【0144】
次に、
図23(d)に示すように、機能層の上方に第1電極と異なる極性を有する第2電極を形成する(第7工程)。具体的には、光透過性の材料をプラズマ蒸着することによって、電子輸送層8の上からカソード電極9を形成する(厚さ100nm)。
【0145】
次に、
図23(e)に示すように、カソード電極9の上からCVDで封止層10を形成する(厚さ1μm)。
【0146】
以上で、トップエミッション型の有機発光素子が作製される。
【0147】
[有機表示装置]
図24および
図25に基づいて、本発明の一態様に係る有機表示装置(表示装置)について説明する。
図24は、本発明の一態様に係る有機表示装置の全体構成を示す図である。
図25は、本発明の一態様に係る有機表示装置を用いたテレビシステムを示す斜視図である。
【0148】
図24に示すように、有機表示装置100は、有機表示パネル110と、これに接続された駆動制御部120とを備える。駆動制御部120は、4つの駆動回路121〜124と制御回路125とから構成されている。なお、実際の有機表示装置100では、有機表示パネル110に対する駆動制御部120の配置や接続関係については、これに限られない。
【0149】
以上の構成からなる有機表示装置100は、発光特性が良好な有機発光素子を用いているため画質が優れている。
【0150】
[有機発光装置]
図26は、本発明の一態様に係る有機発光装置(発光装置)を示す図であって、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
図26に示すように、有機発光装置200は、本発明の一態様に係る複数の有機発光素子210と、それら有機発光素子210が上面に実装されたベース220と、当該ベース220にそれら有機発光素子210を挟むようにして取り付けられた一対の反射部材230と、から構成されている。各有機発光素子210は、ベース220上に形成された導電パターン(不図示)に電気的に接続されており、前記導電パターンにより供給された駆動電力によって発光する。各有機発光素子210から出射された光の一部は、反射部材230によって配光が制御される。
【0151】
以上の構成からなる有機発光装置200は、発光特性が良好な有機発光素子を用いているため発光特性が優れている。
【0152】
[変形例]
以上、本発明の一態様に係る有機発光素子用インク、当該インクの製造方法、有機発光素子の製造方法、有機発光素子、有機表示装置、有機発光装置、機能層の形成方法、機能性部材、表示装置および発光装置を具体的に説明してきたが、上記実施の形態は、本発明の構成および作用・効果を分かり易く説明するために用いた例であって、本発明の内容は、上記の実施の形態に限定されない。
【0153】
例えば、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクには、第1溶媒および第2溶媒の特性(機能層の形状に関する特性)を損なわない範囲で、機能性材料以外の溶質や、第1溶媒および第2溶媒以外の第3溶媒が含まれても良い。第3の溶媒は、第1溶媒および第2溶媒を第3溶媒に置き換えて機能層を仮作したときに、その仮作した機能層が凹形状を成す溶媒であっても良いし、凸形状を成す溶媒であっても良い。インクには、さらに第4溶媒、第5溶媒、或いはそれ以上の溶媒が含まれていても良い。また、インクには、機能性材料以外の溶質が含まれていても良い。
【0154】
第1溶媒および第2溶媒以外の溶媒が含まれる場合、それら溶媒の沸点は、第1溶媒および第2溶媒と同等である、或いは、第1溶媒および第2溶媒のいずれとも沸点差が9℃以下である、ことが好ましい。また、インクは、完成時にγ=1.9であることが好ましい。
【0155】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、有機発光層を形成するためのインクに限定されず、ホール輸送層、電子輸送層、ホール注入層、電子注入層、ブロッキング層など有機発光層以外の機能層を形成するためのインクであっても良い。さらに、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、有機発光素子用に限定されず、無機発光素子用に利用しても良い。
【0156】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、形状特性を調整済みの単独系インクを複数混合して得られるインクであっても良い。
【0157】
すなわち、上記実施の形態では、単独系インクとした場合に機能層が凹形状に形成される溶媒と、単独系インクとした場合に機能層が凸形状に形成される溶媒とに形成される溶媒とを選択し、それら溶媒の混合比を調整することで好適な混合溶媒を得て、その混合溶媒を使用して平坦形状の機能層が形成されるインクを作製していた。しかしながら、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、これに限らず、複数の単独系インクを個々においてできるだけ機能層の形状が平坦になるように予め調整しておき、それら調整済みの単独系インクを複数混合することで、平坦形状の機能層を形成することができるインクを作製するものであっても良い。
【0158】
具体的には、一方の溶媒のみを用いて形成した機能層における凹凸形状が顕著であった場合、前記機能層の形状が平坦化されるように、前記溶媒の濃度および/または分子量をあらかじめ調整する。そして、前記濃度および/または分子量を調整した一方の溶媒と、他の溶媒とを混合することにより、機能層の形状を平坦化させるという方法が挙げられる。
【0159】
例えば、機能層が凹形状に形成される単独系インクの場合は、インクジェット装置で吐出可能な範囲において、機能性材料の濃度を濃くすることで、機能層を平坦に近づける調整が可能である。また、使用する機能性材料の分子量を大きくすることによっても、機能層の凸形状化を図ることが可能である。一方、機能層が凸形状に形成される単独系インクの場合は、インクの濃度を薄くしたり、機能性材料の分子量を小さくしたりすることにより、機能層を平坦に近づけることが可能となる。
【0160】
さて、上記において機能層の形状とは、インクを塗布後に直ちに乾燥させた場合に形成される機能層の形状を意味している。つまり、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、インクを塗布後に放置しないという条件の下で、平坦な機能層を形成する方法に関するものである。このように、インクを塗布後に放置しない構成であれば、放置時間は不要であるため、その分、有機発光パネルの製造時間を短縮でき、より実用的である。
【0161】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子用インクは、混合溶媒系に限らず、単独溶媒にも適用できる。
【0162】
すなわち、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、機能性材料を溶解する単一の溶媒とを含む有機発光素子用インクであっても良い。この場合、粘度η(mPa・s)と表面張力σ(mNm
−1)の比(σ/η)をγ とするときに、γを1.9に等しい範囲とすれば、上記実施の形態と同様の効果が見込まれる。
【0163】
ところで、単独溶媒系において機能層の形状を調整すること、すなわち、γ値を設定することは、二種類以上の溶媒を用いる混合溶媒系の場合に較べ、一見、困難なように思われる。ここで、表面張力は、インクジェット用インクのような低濃度のインクである場合には、インクに使用している溶媒の表面張力からの変動が微少であるけれども、インク粘度は、濃度および/または分子量の変化に伴って比較的大きく変動することになる。このことより、単独溶媒系において、インク粘度をコントロールすることにより、γ値を1.9付近に調整できる。
【0164】
具体的には、インクについて、インク濃度および/またはポリマーの分子量を調整する。たとえば、機能層が凹形状を有する場合、インク濃度を増大および/またはポリマーの分子量を増大させることにより、インク粘度を増大させ、γ値を1.9付近に調整する。一方、機能層が凸形状を有する場合、インク濃度を低下および/またはポリマーの分子量を低下させることにより、インク粘度を低下させ、γ値を1.9付近に調整する。
【0165】
以上のように、単独溶媒系においても、機能層の形状を平坦化できる。
【0166】
具体的に、上記した単一溶媒系の有機発光素子用インクは、下記の製造方法を用いて製造することができる。
【0167】
すなわち、有機発光素子の機能層を構成する機能性材料と、前記機能性材料を溶解する溶媒を混合し、インクを仮作する第1工程と、前記仮作したインクの表面張力σ(mNm
−1)を求める第2工程と、粘度η(mPa・s)と表面張力σとの比(σ/η)をγ とするときに、インクのγが1.9に等しい値を満たす粘度ηを求める第3工程と、前記求めた粘度ηに基づき、粘度ηとインク濃度との関係から、インク濃度を求める第4工程と、前記求めたインク濃度を満たすように、前記機能性材料と前記溶媒を混合して、インクを調製する第5工程と、を有するインクの製造方法である。
【0168】
なお、
図15に示す結果から、γ値は、混合溶媒系、単一溶媒系のいずれにおいても、1.87よりも大きく1.94よりも小さいことが望ましいと考えられ、この範囲がγが1.9に等しい範囲である。
【0169】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子は、トップエミッション型に限定されず、ボトムエミッション型であっても良い。さらに、本発明の一態様に係る有機発光素子について、上記実施の形態では、有機発光層の発光色については言及しなかったが、単色表示に限らず、フルカラー表示にも適用できる。フルカラー表示の有機発光素子においては、有機発光素子が、RGB各色のサブピクセルに相当し、隣り合うRGBのサブピクセルが合わさって一画素が形成され、この画素がマトリックス状に配列されて画像表示領域が形成される。