特許第5935180号(P5935180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935180
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】押込試験方法および押込試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   G01N3/40 E
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-23641(P2012-23641)
(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公開番号】特開2013-160662(P2013-160662A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳
【審査官】 野田 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084840(WO,A1)
【文献】 特開2009−079924(JP,A)
【文献】 特開2008−082978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00−3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に圧子を押込む、押込試験方法において、
前記圧子に作用する押込荷重と前記圧子の押込量を取得する段階と、
Hertzの弾性理論に基づいて押込荷重を押込量の関数で表したときの係数である柔さ係数および前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点をパラメータとして、前記取得する段階で取得した押込荷重および押込量を前記関数でフィッティングすることにより、前記柔さ係数および前記基準点を算出する段階と
を備える
ことを特徴とする押込試験方法。
【請求項2】
前記関数において、押込量の基準点および柔さ係数は、それぞれ重み係数を乗じて表されており、
前記算出する段階において、押込量の基準点および柔さ係数のフィッティング中の繰り返し計算における修正の大小関係に基づいて前記重み係数が決定される
ことを特徴とする請求項1記載の押込試験方法。
【請求項3】
前記関数において、押込荷重の基準点に重み係数を乗じたものがパラメータとしてさらに含まれ、
前記算出する段階において、押込荷重の基準点およびその重み係数がさらに算出される
ことを特徴とする請求項2記載の押込試験方法。
【請求項4】
前記関数において、試料の厚さ係数に重み係数を乗じたものがパラメータとしてさらに含まれ、
前記算出する段階において、試料の厚さ係数およびその重み係数がさらに算出される
ことを特徴とする請求項2記載の押込試験方法。
【請求項5】
試料に圧子を押込む、押込試験装置において、
押し込む前記圧子に作用する押込荷重の計測部と、
前記圧子の押込量の計測部と、
Hertzの弾性理論に基づいて押込荷重を押込量の関数で表したときの係数である柔さ係数および前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点をパラメータとして、前記押込み荷重の計測部で取得した押込荷重および前記押込み量の計測部で計測した押込量を前記関数でフィッティングすることにより、前記柔さ係数および前記基準点を算出する基準点・係数算出部と、
算出した柔さ係数を用いて前記試料のヤング率を算出するヤング率算出部を有する
ことを特徴とする押込試験装置。
【請求項6】
前記関数において、押込量の基準点および柔さ係数は、それぞれ重み係数を乗じて表されており、
前記算出部は、押込量の基準点および柔さ係数のフィッティング中の繰り返し計算における修正の大小関係に基づいて前記重み係数を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の押込試験装置。
【請求項7】
前記関数において、押込荷重の基準点に重み係数を乗じたものがパラメータとしてさらに含まれ、
前記算出部は、押込荷重の基準点およびその重み係数をさらに算出する
ことを特徴とする請求項6記載の押込試験装置。
【請求項8】
前記関数において、試料の厚さ係数に重み係数を乗じたものがパラメータとしてさらに含まれ、
前記算出する段階において、試料の厚さ係数およびその重み係数をさらに算出する
ことを特徴とする請求項6記載の押込試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な押込試験方法に関する。また、本発明は、前記の押込試験方法を用いる、新規な押込試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の変形などの特性を調べるため用いられる引張試験は、客観性を有する評価方法として一般的であるが、試料などから試験片を切り出す必要性があり、この侵襲性の高さから製品中の素材や生きたままの生体組織への適用が困難である。
【0003】
一方、同様に材料の硬さ計測で一般に使用されている押込試験は、試験片を切り出す必要がないことなどから低侵襲計測が可能となる。この押込試験は、金属材料に対してはHertzの弾性接触理論が高い信頼性を持っている事が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、押込試験は生体軟組織のような大変形を伴う軟材料の構成関係の計測に使用される例がいくつかある(例えば、非特許文献2〜5参照)。
【0005】
しかしながら、上述した押込試験による生体軟組織のような大変形を伴う軟材料の構成関係の計測では、Hertzの弾性接触理論の高信頼性が沢俊行によって示されているが微小変形の範囲内であり、また高谷治らによる生体軟組織への適用はHertzの弾性接触理論と本質的に等価なN値による手法である。また、N値と併せて負荷・除荷過程のエネルギー損失から同定する有馬義貴らの手法も、Hertzの弾性接触理論と同様に半無限体を仮定するもので厚さの影響は考慮されていない。この厚さに関しては、N.E.WATERSの研究報告があるがその影響を示したものであって、応力-ひずみ関係と対応付けた評価には至っていない。さらに非可逆挙動に着目した石橋達弥らによる高分子材料への適用報告があるものの、可逆性の高い軟材料への適用は困難であるという問題がある。
【0006】
この困難な問題に関して佐久間らは、Hertzの弾性接触理論の拡張によって押込試験から厚さの影響を受けずに大変形を伴う軟材料の構成関係に有用なYoung率を計測できる方法を考案示している(特許文献1参照。以下「先願」という。)。
【0007】
この佐久間らの先願は、押込試験から得られる押込荷重と押込量の関係をHertzの弾性接触理論に基づいた式によって評価し、この理論から得られるYoung率を用いて多様な形状の軟材料の柔さを客観的な数値データで表すことができるものである。
【0008】
しかしながら、極めて多様な形状の軟材料の広範囲な柔さを客観的な数値データで表せられる方法であることから、佐久間らの先願に係って作られた装置に関しては、多様な形状の軟材料の広範囲な柔さに係る数値データを高精度に求める試験システムの実現に困難があった。
【0009】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(特許文献2、および非特許文献6〜13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO/2010/084840号パンフレット
【特許文献2】特開2011−137667号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T. Sawa, Practical Material Mechanics, (2007), pp.258-279, Nikkei Business Publications, Inc.(in Japanese)
【非特許文献2】O. Takatani, T. Akatsuka, The Clinical Measurement Method of Hardness of Organism, Journal of the Society of Instrument and Control Engineers, Vol.14, No.3, (1975), pp.281-291. (in Japanese)
【非特許文献3】Y. Arima, T. Yano, Basic Study on Objectification of Palpation, Japanese Journal of Medical Electronics and Biological Engineering, Vol.36, No.4, (1998), pp.321-336. (in Japanese)
【非特許文献4】N. E. Waters, The Indentation of Thin Rubber Sheets by Spherical indentors, British Journal of Applied Physics, Vol.16, Issue 4, (1965), pp.557-563.
【非特許文献5】T. Ishibashi, S. Shimoda, T Furukawa, I. Nitta and H. Yoshida, The Measuring Method about Young’s Modulus of Plastics Using the Indenting Hardness Test by a Spherical Indenter, Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers, Series A, Vol.53, No.495, (1987), pp.2193-2202. (in Japanese)
【非特許文献6】M. Tani, A. Sakuma, M. Ogasawara, M. Shinomiya, Minimally Invasive Evaluation of Mechanical Behavior of Biological Soft Tissue using Indentation Testing, No.08-53, (2009), pp.183-184.
【非特許文献7】M. Tani, A. Sakuma, Measurement of Thickness and Young’s Modulus of Soft Materials by using Spherical Indentation Testing,No.58, (2009), pp.365-366.
【非特許文献8】A. Sakuma, M. Tani, Spherical Indentation Technique for Low-invasive Measurement for Young’s Modulus of Human Soft Tissue,No.09-3, (2009), pp.784-785.
【非特許文献9】M. Tani and A. Sakuma, Evaluation of Thickness and Young's Modulus of Soft Materials by using Spherical Indentation Testing, Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers, Series A, Vol.75, No.755, (2009),pp.901-908.(in Japanese)
【非特許文献10】A. Sakuma, Softness Evaluation of Human Skin by Spherical Indentation imitating Palpation, The 36th Annual Meeting of Japan Cosmetic Science Society, Vol.36, (2011), p.79. (in Japanese)
【非特許文献11】A. Sakuma, K. Tanabe, K. Kawagoe and M. Ogasawara, Evaluation of Thin Soft Tissues by Indentation System imitating Palpation, JSME Annual Meeting, Vol.2011, No.11-1 (DVD-ROM edition), p.J022054, (2011). (in Japanese)
【非特許文献12】A. Sakuma, Y. Zhang, Development of Softness Measurement System imitating Palpation, Chemical Engineering, Vol.57, No.1, p.66-70, (2012). (in Japanese)
【非特許文献13】K. Tanabe, A. Sakuma, K. Kawagoe, T. Shimpo, Evaluation of Mechanical Behaviors of Human Artery by Cylinder Pinching Method, No.11-47, (CD-ROM edition), p.8D45, (2012). (in Japanese)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、柔さ計測のための押込試験方法および押込試験装置は、極めて広範囲な数値データを求められる柔さ計測システムにおいて、柔さに係る数値データを高精度に算出することが困難な点が解決すべき課題となっている。
【0013】
そこで、柔さ計測のための押込試験方法および押込試験装置から、試料の柔さや形状に応じて広範囲な複数の数値データを測定し、極めて多様な形状の試料の広範囲な柔さの数値データを高精度に算出できる方法および装置の開発が望まれている。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な押込試験方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記の押込試験方法を用いる、新規な押込試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の押込試験方法は、試料に圧子を押込む、押込試験方法において、前記圧子に作用する押込荷重と前記圧子の押込量を用いて、前記試料の柔さ係数の算出は、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施することを特徴とする。
【0016】
ここで、限定されるわけではないが、試料のヤング率Eは10Pa〜100MPaの範囲内にあることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、圧子の形状は、球形、平端、あるいは円柱形であることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、球形あるいは円柱形の圧子の直径は1×10-8 〜1 mの範囲内にあることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、算出する基準点・係数のうち少なくとも1つには、重み係数を乗ずることが好ましい。
【0017】
本発明の押込試験装置は、試料に圧子を押込む、押込試験装置において、押し込む前記圧子に作用する押込荷重の計測部と、前記圧子の押込量の計測部と、前記試料の柔さ係数の算出を、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施する基準点・係数算出部と、算出した柔さ係数を用いて前記試料のヤング率を算出するヤング率算出部を有することを特徴とする。
【0018】
ここで、限定されるわけではないが、試料のヤング率Eは10Pa〜100MPaの範囲内にあることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、圧子の形状は、球形、平端、あるいは円柱形であることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、球形あるいは円柱形の圧子の直径は1×10-8 〜1 mの範囲内にあることが好ましい。
また、限定されるわけではないが、算出する基準点・係数のうち少なくとも1つには、重み係数を乗ずることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0020】
本発明の押込試験方法は、試料に圧子を押込む、押込試験方法において、前記圧子に作用する押込荷重と前記圧子の押込量を用いて、前記試料の柔さ係数の算出は、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施するので、新規な押込試験方法を提供することができる。
【0021】
本発明の押込試験装置は、試料に圧子を押込む、押込試験装置において、押し込む前記圧子に作用する押込荷重の計測部と、前記圧子の押込量の計測部と、前記試料の柔さ係数の算出を、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施する基準点・係数算出部と、算出した柔さ係数を用いて前記試料のヤング率を算出するヤング率算出部を有するので、新規な押込試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】球圧子と平面試料の接触状態を示す図である。
図2】実験と算出から得た荷重と押込量の関係を示す図である。
図3】荷重と押込量の関係における押込量の基準点を示す図である。
図4】荷重と押込量の関係における押込量と荷重の基準点を示す図である。
図5】荷重と押込量の関係における押込量の基準点と厚さ係数を示す図である。
図6】球圧子と平坦試料の押込試験を示す図である。
図7】平端圧子と球形試料の押込試験を示す図である。
図8】円柱圧子と円柱試料の押込試験を示す図である。
図9】押込試験機の概略を示す図である。
図10】押込試験装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、押込試験方法および押込試験装置にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
押込試験方法は、試料に圧子を押込む、押込試験方法において、前記圧子に作用する押込荷重と前記圧子の押込量を用いて、前記試料の柔さ係数の算出は、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施する方法である。
【0025】
押込試験装置は、試料に圧子を押込む、押込試験装置において、押し込む前記圧子に作用する押込荷重の計測部と、前記圧子の押込量の計測部と、前記試料の柔さ係数の算出を、前記試料と前記圧子が接触する押込量の基準点の算出と併せて実施する基準点・係数算出部と、算出した柔さ係数を用いて前記試料のヤング率を算出するヤング率算出部を有する装置である。
【0026】
押込試験の評価法について説明する。まず、試料に圧子を押込む押込試験において、試料のヤング率を算出する方法について説明する。
表面が平坦な半無限体試料に対して十分に硬い球圧子を押込むとき、Hertzの弾性接触理論を用いると、図1に示す押込荷重Fと押込量δの関係が以下のように表現される。
【0027】
【数1】
【0028】
ただし、係数Aは次の関係であり、これを以下「柔さ係数」という。
【0029】
【数2】
【0030】
ここで、φ、Eおよびνはそれぞれ球圧子の直径、試料のヤング率(以下、「Young率」ともいう)およびポアソン比(以下、「Poisson比」ともいう)である。
【0031】
このときの柔さ係数Aは、荷重Fと押込量δの関係が押込試験から図2の×印で示すように得られるとき、この×印に合うように式(数1)の係数Aを最小二乗法などで定めることにより、求めることができる。
【0032】
押込試験から式(数1)の係数Aを定める方法として、たとえば非線形最小二乗法を考えると、図2の×印で示す実験データをyi(i=0〜n)で表すとき、解くべき基本式を式(数1)とする。
【0033】
また式(数1)を関数とするF(A)と実験データyiとの誤差riが以下のように表現される。
【数3】
【0034】
この誤差riを全体として最小とする係数Aの修正量ΔAは、以下のように表現される。
【数4】
【0035】
ここで、誤差riの係数Aによる偏微分は以下のように表現される。
【数5】
【0036】
この式(数4)の修正量ΔAを繰り返し用いることにより、図2の太線で表される実験データに最も近い関係の式(数1)を与える柔さ係数Aを得ることができる。
【0037】
さらに図3に示すように、押込試験から得られる荷重Fと押込量δの関係において、試料と圧子の接触点δ0が δ0=0 とならないとき、図3に示す押込荷重Fと押込量δの関係は、試料と圧子の接触点δ0を押込量の基準点として、式(数2)の柔さ係数Aを用いて、以下のように表現される。
【数6】
【0038】
また式(数6)を関数とするF(A, δ0)と実験データyiとの誤差riが以下のように表現される。
【数7】
【0039】
この誤差riを全体として最小とする係数Aと基準点δ0の修正量ΔA, Δδ0は、以下のように表現される。
【数8】
【0040】
ここで、誤差riの係数Aによる偏微分と誤差riの基準点δ0による偏微分は以下のように表現される。
【数9】
【数10】
【0041】
この式(数8)の修正量ΔA, Δδ0を繰り返し用いることにより、実験データに最も近い関係の式(数6)を与える柔さ係数Aと押込量の基準点δ0を併せて高精度に求めることができる。
【0042】
ここで、式(数9), (数10)を用いた柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の修正においては、柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の大小関係などによって修正が不十分となり、求められた数値データの精度が低いときがある。
【0043】
そこで、数値データを高精度で求める目的で、修正する値の大小関係などに対応して、求める値にそれぞれの重み係数を予め乗じて求める方法を考える。
【0044】
図3に示すように、押込試験から得られる荷重Fと押込量δの関係において、試料と圧子の接触点δ0が δ0=0 とならないとき、図3に示す押込荷重Fと押込量δの関係は、試料と圧子の接触点δ0を押込量の基準点として、式(数2)の柔さ係数Aを用いて、基準点δ0と係数Aをそれぞれの重み係数kd、kaを乗じた関係kdδ0’、kaA’に置き換えて、以下のように表現される。
【数11】
【0045】
また式(数11)を関数とするF(A', δ0')と実験データyiとの誤差riが以下のように表現される。
【数12】
【0046】
この誤差riを全体として最小とする係数A'と基準点δ0'の修正量ΔA', Δδ0'は、以下のように表現される。
【数13】
【0047】
ここで、誤差riの係数A'による偏微分と誤差riの基準点δ0'による偏微分は以下のように表現される。
【数14】
【数15】
【0048】
この式(数13)の修正量ΔA', Δδ0'を繰り返し用いることにより、実験データに最も近い関係の式(数11)を与える柔さ係数A'と押込量の基準点δ0'を求めることができ、さらにそれぞれの重み係数ka、kdを乗じて柔さ係数Aと押込量の基準点δ0を求めることができる。
【0049】
ここで、柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の大小関係などによって修正が不十分となるときがある式(数9), (数10)を用いた柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の修正に対して、修正する値の大小関係などに対応した重み係数ka、kdを用いる式(数14), (数15)による柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の修正においては、柔さ係数Aと押込量の基準点δ0の大小関係などによって修正が不十分となる影響を排除することができる。
【0050】
また、数値データを高精度で求める目的で、修正する値の大小関係などに対応して、求める値にそれぞれの重み係数を予め乗じて求める方法は、柔さ係数Aと押込量の基準点δ0を求めるとき以外にも利用できる。
【0051】
図4に示すように、押込試験から得られる荷重Fと押込量δの関係において、圧子の自重などの影響により、試料と圧子の接触点δ0における荷重Fの値F0=0 とならないとき、図4に示す押込荷重Fと押込量δの関係は、試料と圧子の接触点δ0における荷重Fの値F0を荷重の基準点として、式(数2)の柔さ係数Aを用いて、基準点F0, δ0と係数Aをそれぞれの係数kf、kd、kaを乗じた関係kfF0’、kdδ0’、kaA’に置き換えて、以下のように表現される。
【数16】
【0052】
また式(数16)を関数とするF(A',δ0',F0')と実験データyiとの誤差riが以下のように表現される。
【数17】
【0053】
この誤差riを全体として最小とする係数A'と基準点δ0', F0'の修正量ΔA', Δδ0', ΔF0'は、以下のように表現される。
【数18】
【0054】
ここで、誤差riの係数A'による偏微分と誤差riの基準点δ0'による偏微分はそれぞれ式(数14), (数15)で表現され、誤差riの基準点F0'による偏微分は以下のように表現される。
【数19】
【0055】
この式(数18)の修正量ΔA', Δδ0', ΔF0'を繰り返し用いることにより、実験データに最も近い関係の式(数16)を与える柔さ係数A'と押込量の基準点δ0', F0'を求めることができ、さらにそれぞれの重み係数ka、kd、kfを乗じて柔さ係数Aと押込量の基準点δ0、荷重の基準点F0を求めることができる。
【0056】
あるいは図5に示すように、押込試験から得られる荷重Fと押込量δの関係において、試料の厚さが小さいなどの影響により、押込量δに対する荷重Fの上昇が押込量δの1.5乗に比例しないとき、図5に示す押込荷重Fと押込量δの関係は、係数Bを厚さ係数として、式(数2)の柔さ係数Aを用いて、係数B, 基準点δ0と係数Aをそれぞれの重み係数kb、kd、kaを乗じた関係kbB’、kdδ0’、kaA’に置き換えて、以下のように表現される。
【数20】
【0057】
また式(数20)を関数とするF(A',δ0',B')と実験データyiとの誤差riが以下のように表現される。
【数21】
【0058】
この誤差riを全体として最小とする係数A'と基準点δ0',係数B'の修正量ΔA',Δδ0',ΔB'は、以下のように表現される。
【数22】
【0059】
ここで、誤差riの係数A'による偏微分、誤差riの基準点δ0'による偏微分、および誤差riの基準点B'による偏微分は以下のように表現される。
【数23】
【数24】
【数25】
【0060】
この式(数22)の修正量ΔA', Δδ0', ΔB'を繰り返し用いることにより、実験データに最も近い関係の式(数20)を与える柔さ係数A'と押込量の基準点δ0', 厚さ係数B'を求めることができ、さらにそれぞれの重み係数ka、kd、kbを乗じて柔さ係数Aと押込量の基準点δ0、厚さ係数Bを求めることができる。
【0061】
以上いずれの方法においても、求められた係数Aを用いることにより、式(数2)から次の関係でヤング率Eを求めることができる。
【数26】
【0062】
なお、押込試験として以上では図6に示すような表面が平坦な試料に対して球圧子を押込む押込試験を用いて説明したが、押込試験としては図7に示す球形状の試料に対して平端な圧子を押込む押込試験、あるいは図8に示す円柱形状の試料に対して円柱状の圧子を押込む押込試験を用いることができる。
【0063】
また、押込試験から荷重Fと押込量δの関係を求めるため、以上では最小二乗法を用いて説明したが、求める方法としては2次計画法や非線形計画法などの方法を用いることができる。
【0064】
以上に示したように、押込試験から柔さ係数を他の基準点と併せて算出する方法は、試料の大小関係や試験結果の誤差の影響を小さくできるので、複数ある数値データの全てを高精度で求める方法として利用することができる。また、押込試験から大小関係に違いのある複数の数値データを求めるとき、求める複数の数値の大小関係に応じた重み係数を乗じる方法は、求める数値データの大小関係の影響を打ち消すことができるので、複数ある数値データの全てを高精度で求める方法として利用することができる。
【0065】
つぎに、本発明により柔さを求めるための押込試験装置について説明する。たとえば図9に示す押込試験機を用いると、本発明により柔さを求めることができる。この押込試験機にはアクチュエータ1が取り付けられており、このアクチュエータ1にはステージ2が取り付けられている。ステージ2には荷重軸4が取り付けられており、アクチュエータ1をパーソナルコンピュータ(PC)で操作することで荷重軸4の位置を制御する形式となっている。荷重軸4の先に取り付けられた球圧子5に作用する荷重は荷重軸4に取り付けたロードセル3から取得し、押込量は荷重軸4を取り付けたステージ2の移動量として、これをアクチュエータ1から取得する。
【0066】
図10に示すように、押込試験システム17は、押込試験機16のロードセル10から送られてきた荷重値Fおよびアクチュエータ8のポテンショメータ9より得られる押込量δからヤング率を算出するもので、同時に押込試験機16の動きも押込位置・押込量制御部15で制御している。このとき、送られてきた荷重値Fおよび押込量δからは、押込基準点と柔さ係数が基準点・係数算出部12において算出されることとなり、この算出された押込基準点と柔さ係数を基にヤング率がヤング率算出部13において算出されることとなる。これらCPU部11で扱われたデータに関しては、全て記憶装置部14で記録される仕組みとなっている。
【0067】
つぎに、本発明により柔さを求める試験方法について説明する。試験方法は、検査対象へ球圧子を押し込み、この押し込んだ際の押し込み量と反力の関係を数理的に処理するものである。この押し込みによる試験装置としては、上述したように、圧子を試料へ押し込む機構と反力を計測する部分、および演算する部分を備えたものを用いる(図10)。
【0068】
なお、押込み試験に用いる圧子は、十分に硬い圧子に限定されるものではない。このほか押込み試験に用いる圧子としては、硬さが既知の軟い圧子などを採用することができる。
【0069】
なお、押込み試験に用いる圧子は、球圧子に限定されるものではない。このほか押込み試験に用いる圧子としては、平端な圧子、円柱圧子などを採用することができる。
【0070】
なお、柔さを計測する試料の形状は、表面が平坦な試料に限定されるものではない。このほか柔さを計測する試料の形状としては、球形状、円柱形状などを採用することができる。
【0071】
本発明の用途は、試料の柔さ計測に限定されるものではない。このほか本発明の用途としては、試料の内部構造の評価などを採用することができる。試料の内部構造の評価としては、高分子材料内の異物、食品内の異物、乳がん、肝硬変などがある。
【0072】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
試料の柔さを計測する押込試験装置を提供することができる。
本発明に係る押込試験装置は、多様な形状の軟材料の広範囲な柔さをYoung率という客観的な数値で高精度に計測評価でき、その簡便性から多様な分野での応用が期待される。
この効果は、複数の数値データを高精度に求める発明に基づいたものであることから、厚さ係数から求められる試料の厚さを計測する押込試験装置などでも利用することができる。
この効果は、求める数値データを高精度化する発明によるものであることから、試料の内部構造の評価する押込試験装置などでも利用することができる。
【0073】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
1‥‥アクチュエータ、2‥‥ステージ、3‥‥ロードセル、4‥‥荷重軸、5‥‥圧子、6‥‥試料、7‥‥テーブル、8‥‥アクチュエータ、9‥‥ポテンショメータ、10‥‥ロードセル、11‥‥CPU部、12‥‥基準点・係数算出部、13‥‥ヤング率算出部、14‥‥記憶装置部、15‥‥押込位置・押込量制御部、16‥‥、押込試験機、17‥‥押込試験システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10