(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記アノードの露出部に形成された集電部は、酸素含有ガスと燃料ガスとの両方に接触する。このため、集電部には、酸化雰囲気下および還元雰囲気下における高い耐久性が求められる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、集電部にAgを使用した場合、長期間使用すると当該部位でマイグレーションが起き、断線や短絡等の不具合を生じる場合があった。また、Agより高い導電率や優れた耐久性を有する材料として、Pt(Ptペースト)の使用が考えられたが、Ptを使用すると高コストにつながるため好ましくない。したがって、酸化・還元耐久性に優れ、実用的な(比較的安価な)材料からなる集電部を備えた電気化学リアクターセルが求められている。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、集電部において断線や短絡等の不具合が生じ難く、長期に渡り高い反応効率を実現し得る耐久性に優れた電気化学リアクターセル(例えばSOFC)を提供することである。関連する他の目的は、当該セルが複数個相互に電気的に接続されてなる電気化学リアクターバンドルやスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明により、チューブ型のアノードの表面に、固体電解質と、カソードとが順に積層されてなるチューブ型電気化学リアクターセルが提供される。当該チューブ型セルの長軸方向の一の端部には上記固体電解質および上記カソードが設けられておらず、上記アノードが露出している。そして、上記アノードの露出部には、以下の一般式(1):(La
1−xSr
x)(M
1−yFe
y)O
3−δで表わされるペロブスカイト型酸化物からなる集電部が設けられている。上記一般式において、Mは、Tiおよび/またはAlであり、0.1<x≦0.7(好ましくは0.2≦x≦0.6)であり、0<y≦0.9(好ましくは0.1≦y<0.9、好ましくは0.5≦y≦0.8)であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。
【0010】
かかる構成の電気化学リアクターセルは、アノード露出部に上記組成のペロブスカイト型酸化物からなる集電部を備えることで、以下のうち少なくとも1つの効果を奏する。
1)アノード上に集電部を付設することで、電気抵抗を低減することができ、高い反応効率を実現し得る。
2)集電部にAgペーストを使用しないことで、マイグレーションに起因する断線や短絡等の不具合を防止することができ、高い耐久性(特に還元耐久性)を実現し得る。
3)上記酸化物は、構成成分としてBサイトに鉄(Fe)を含んでいるため、少なくとも電気化学リアクターセルの作動温度域(典型的には400℃〜650℃、例えば500℃)において、高い導電性を発揮し得る。したがって、集電部(電子伝導経路)として優れた性能を発揮し得、高い反応効率を実現し得る。
4)上記酸化物は、還元膨張率が非常に小さい(例えば0.4%以下の)ため、還元雰囲気下に曝された場合であってもクラック等が生じ難く、長期使用にも耐え得る高い耐久性を実現し得る。
5)上記酸化物は、熱膨張係数がセルの構成部材(例えばアノードや固体電解質)と近似しているため、例えば作動時の温度域(例えば400℃〜650℃)と停止時の温度域(例えば20℃〜30℃)との間で昇温と降温とを繰り返した場合であっても、熱膨張差によるクラック等の発生を好適に防止することができ、高い耐久性を実現し得る。
6)上記酸化物からなる集電部は緻密な構造を有するため、いわゆる封止部として機能し得、酸素含有ガスや燃料ガスの漏れ(リーク)を好適に防止することができる。このため、高い反応効率を長期に渡り発揮することができる。
7)上記酸化物の緻密化温度は凡そ1100℃〜1500℃であり得るため、セルを構成する部材(例えば固体電解質)に熱的ダメージを与えない比較的低い焼成温度(例えば1130℃〜1450℃)で集電部を形成することができ、高い反応効率を実現し得る。
【0011】
なお、ペロブスカイト型酸化物に関する従来技術としては、特許文献5,6が挙げられる。
また、上記「熱膨張係数」としては、一般的な示差膨張方式の熱機械分析(Thermo
Mechanical Analysis:TMA)に基づく室温〜500℃以上(例えば25℃〜500℃、あるいは25℃〜600℃)の温度範囲にて測定した線膨張の値の算術平均値を採用することができる。上記「還元膨張率」としては、5質量%の還元性ガスを含む窒素雰囲気下(例えば、水素(H
2)5vol%、窒素(N
2)95vol%を含有する還元雰囲気)における熱膨張率E
red(%)と、空気雰囲気(酸素分圧約200hPa(約0.2atm))下における熱膨張率E
air(%)とから、以下の式(I)で算出される値を採用することができる。熱膨張率E
red,E
airとしては、室温から1000℃までの間の体積の増大を測定することによって求めた値を用いることができる。
[{(1+E
red/100)−(1+E
air/100)}/(1+E
air/100)]×100 (I)
【0012】
また、本明細書において「チューブ型」とは、中心部にガスを流入し得る空間を有する筒状のものをいい、典型的には円筒形状あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した楕円形状(フラットチューブ型)のものをいう。また、本明細書において「電気化学リアクターセル」とは、電気化学反応を行う構成ユニット(基本構造体)のことをいう。また、本明細書において「電気化学リアクター」とは、かかる電気化学リアクターセルを構成要素として一つまたは複数個備える反応装置であって、当該セルに備えられた固体電解質の機能を利用する電気化学反応器をいう。すなわち、固体電解質のイオン伝導を利用して電力を発生させる形態のリアクターや、外部から電気化学リアクターセルに電力を加えることによって当該セルを作動させ、酸化物イオンその他のイオンの伝導を利用する形態のリアクターをいう。例えば、固体電解質形燃料電池(SOFC)発電システム、排ガス浄化システム、酸素センサーや二酸化炭素センサー等のガスセンサー、酸素分離膜エレメント(酸素ポンプ)等は、ここでいう電気化学リアクターに包含される典型例である。
【0013】
好適な一態様では、上記一般式(1)において、M元素はアルミニウム(Al)である。Alは優れた電気伝導性を有するため、当該酸化物を含む集電部は、電子伝導経路としてより優れた性能を発揮し得る。また、還元雰囲気下に曝された場合であっても膨張し難いため、より高いレベルで本願発明の効果を発揮することができる。
【0014】
好適な一態様では、上記電気化学リアクターセル(例えばSOFC)の直径が10mm以下(典型的には0.5mm〜10mm)である。好適な他の一態様では、上記電気化学リアクターセル(例えばSOFC)の長軸方向の長さLが10cm以下(典型的には1cm〜10cm)である。セルの直径を上記範囲とすることで、機械的強度を保持しつつ単位体積当たりの表面積を増やすことができ、より一層高い反応効率(発電性能)を実現することができる。また、セルの長さLを上記範囲とすることで、高い集電効果を維持発揮することができ、電気抵抗を低減することができる。
なお、ここで「セルの直径」とは、チューブ形状の外径(Φ)のことをいう。また、「セルの長さL」とは、チューブ型のアノードの表面に固体電解質とカソードとが順に積層され、三層構造を形成している部位の長軸方向における長さ(平均長さ)をいう。
【0015】
また、本発明によれば、上述のような電気化学リアクターセルが上記集電部を介して複数個電気的に接続されてなる、電気化学リアクターバンドルやスタックが提供される。かかる電気化学リアクターバンドルやスタックの作動温度は、例えば650℃以下(典型的には400℃〜650℃)であり得る。例えば電気化学リアクターセルがSOFCの場合、運転温度を一般的なSOFCよりも低くすることで、急速起動性に優れ、低コストなSOFCを実現することができる。これにより、SOFCの使用用途をさらに拡大することができ、例えば、家庭用電源、ポータブル電源、車両用電源等に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、集電部を構成するペロブスカイト型酸化物の組成)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば電気化学リアクターセル自体の構築方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここで開示される電気化学リアクターセルは、チューブ型のアノードの表面に、固体電解質と、カソードとが順に積層されてなるチューブ形状を有する。そして、かかるチューブ型セルの長軸方向の一の端部にはアノードが露出しており、当該露出部にペロブスカイト型酸化物からなる集電部が設けられていることで特徴付けられる。したがって、他の構成要素は種々の用途に応じて任意に備えることができる。例えば電気化学リアクターセルがSOFCである場合、集電部以外を構成する部材(例えば、アノードやカソード、固体電解質の組成)の材質、形状等は適宜決定することができる。
以下、かかる集電部について詳細に説明する。
【0019】
ここで開示される電気化学リアクターセルのアノードの集電部は、以下の一般式(1)で表わされるペロブスカイト型酸化物から構成される。
(La
1−xSr
x)(M
1−yFe
y)O
3−δ (1)
上記一般式(1)における「x」は、このペロブスカイト型構造においてLaがSrによって置き換えられた割合を示す値である。このxの取り得る範囲は0.1<x≦0.7(典型的には0.1<x<0.7、好ましくは0.2≦x≦0.6、例えば0.2≦x≦0.4)である。これにより、還元雰囲気下に長期間曝された場合であっても短絡等の不具合を生じ難い、高耐久性の集電部を実現することができる。
【0020】
また、上記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型酸化物は、そのBサイトにFeを必須構成元素として含有する。これにより、電気化学リアクターセルの使用温度領域下で高い導電性を実現することができる。Bサイトにはまた、Tiおよび/またはAlを必須構成元素として含有する。換言すれば、ここで開示されるペロブスカイト型酸化物の好適例として、(La
1−xSr
x)(Ti
1−yFe
y)O
3−δで表わされるペロブスカイト型酸化物(以下、「LSTF酸化物」という。)や、(La
1−xSr
x)(Al
1−yFe
y)O
3−δ(以下、「LSAF酸化物」という。)が例示される。Bサイトに、Tiおよび/またはAlを導入することによって、還元膨張率の増大を抑制することができる。すなわち、Feと、Tiおよび/またはAlと、の含有割合(モル比率)を調整することによって、耐還元膨張性と導電性とを高いレベルで両立させることができる。なかでも、LSAF酸化物は、例えば400℃〜650℃の温度域において、より高い導電性を有し得ることから好ましい。また、耐還元膨張性と導電性とを両立させる観点から、上記一般式(1)におけるBサイトのM元素とFeとのモル比率を(1−y):yとすると、yの取り得る範囲は0<y≦0.9であり、例えば0<y<0.9であり、好ましくは0.1≦y<0.9であり、より好ましくは0.5≦y≦0.8である。
【0021】
上記一般式(1)におけるδは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。一般に、酸素原子数はペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類および置換割合その他の条件により変動するため、正確に表示することは困難である。このため、電荷中性条件を満たすように定まる値として1を超えない正の数δ(0<δ<1)を採用し、酸素原子の数を3−δと表示するのが妥当であるが、以下では便宜的に3と表示することもある。ただし、当該酸素原子の数を便宜的に3として表示しても、異なる化合物を表しているわけではない。
【0022】
上記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型酸化物としては、市販品を使用しても良く、あるいは従来公知の方法によって製造しても良い。例えば、先ず、目的とするペロブスカイト型酸化物の構成金属元素(すなわち、上記一般式(1)におけるLa、Sr、Tiおよび/またはAl、Fe)を含んだ酸化物、あるいは加熱によって当該酸化物となり得る化合物(例えば、当該構成金属元素の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、水酸化物等)を用意する。次に、これらの原料を目的とするペロブスカイト型酸化物の組成比で混合する。そして、この混合物を所定の温度(例えば1200℃〜1800℃)で焼成し、造粒することで、所望の組成や性状(例えば平均粒径)を有するペロブスカイト型酸化物を製造することができる。
【0023】
ここで開示される電気化学リアクターセルの集電部は、高い導電性を有することが好ましい。これにより、集電部(電子伝導経路)として優れた性能を発揮し得、効率よくアノード電流を取り出すことができる。また、一般に電気化学リアクターは、上述のような電気化学リアクターセルを複数備えており、それらが相互に接合され、セル集積構造体(電気化学リアクターバンドル)を構成している。かかる態様においては、上記酸化物からなる集電部を介して当該セル同士を電気的に(典型的には直列に)接続することによって、高性能(例えば高出力)を得ることができる。このような観点から、集電部の導電率は、電気化学リアクターセルの作動温度域(典型的には400℃〜650℃、例えば500℃)において、例えば5S/cm以上、典型的には10S/cm以上、好ましくは30S/cm以上であり得る。
【0024】
ここで開示される電気化学リアクターセルの集電部は、還元膨張率が低いことが好ましい。これにより、還元雰囲気下に曝された場合であってもクラック等の不具合が生じ難くなるため、長期に渡り使用することができる。このような観点から、集電部の還元膨張率は、通常、0.5%以下であり、典型的には0.4%以下であり、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.25%以下である。このような還元膨張率を有する集電部は、ペロブスカイト型酸化物の上記一般式(1)におけるxおよびyの値(特にはyの値)を上記範囲とすることで好適に実現することができる。
【0025】
ここで開示される電気化学リアクターセルの集電部は、電気化学リアクターセルの構成部材と近似する熱膨張係数を有することが好ましい。両者の熱膨張差を小さく抑えることで、電気化学リアクターセルの作動時において集電部とこれに隣接する部材との界面(接触する部位)で生じ得る歪みやクラック等の不具合を効果的に防止することができる。例えば、例えば電気化学リアクターセルがSOFCである場合、典型的なアノードや固体電解質の熱膨張係数は、凡そ12×10
−6/K〜13×10
−6/Kであることから、集電部の同条件での熱膨張係数は、10×10
−6/K〜14×10
−6/K(例えば11×10
−6/K〜13×10
−6/K)程度であることが好ましい。
【0026】
ここで開示される電気化学リアクターセルの集電部は、緻密な構造を有することが好ましい。これにより、いわゆる封止部としても機能し得、酸素含有ガスや燃料ガスの漏れ(リーク)を好適に防止することができる。ここで開示される電気化学リアクターセルの集電部の形状や寸法は特に限定されないが、緻密性や集電効果の観点からは、集電部の平均厚みを1μm〜10μm(典型的には3μm〜5μm)程度とすることが好ましい。
【0027】
以下、ここで開示されるチューブ型電気化学リアクターの一典型例として、チューブ型SOFCについて図面を参照しつつ説明するが、本発明により提供される電気化学リアクターをかかる形態のものに限定することを意図したものではない。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0028】
図1(a)は、本実施形態に係るチューブ(円筒)型SOFC10を模式的に示す斜視図である。この図に示すように、本実施形態に係るチューブ型SOFC10は、中空部11を囲うチューブ(円筒)形状に形成されたアノード(燃料極)12と、固体電解質14と、カソード(空気極)16とを備えている。チューブ型SOFC10の長軸方向の中央部においては、支持体としてのアノード12と、当該アノード12の外表面に形成された固体電解質14と、当該固体電解質14の外表面に形成されたカソード16とが積層され、三層構造を形成している。また、この例では、固体電解質14の長軸方向の長さはカソード16よりも少し長く、アノード12の長軸方向の長さは固体電解質14よりも少し長い。すなわち、チューブ型SOFC10の両端部13A,13Bにはアノード12が露出しており、さらに当該アノード露出部と隣接する部位であって中央部に近い側には固体電解質14が露出しており、上述のような三層の積層構造とはなっていない。そして、一の端部13Aであってアノード12の露出した部位には、
図1(a)および(b)に示すように、ペロブスカイト型酸化物からなる集電部18が設けられている。ここに示す形態では、集電部18は、アノード12の露出部の表面から固体電解質14の端部および一部表面に渡って帯状に形成されている。これによって当該部位が気密に封止され、酸素含有ガスや燃料ガスの漏れ(リーク)が防止されている。すなわち、集電部18は封止部としても機能し得る。
【0029】
SOFCの運転に際しては、典型的にはチューブ型SOFC10の両端部13A,13Bに一対のマニホールド(送ガス用配管)を配置し、SOFCモジュールを構築する。そして、中空部11に燃料ガス(水素、一酸化炭素、メタンその他の炭化水素ガス等)を、セル外側に酸素ガスや空気等の酸素含有ガスを、それぞれ供給することによって、SOFCとして機能させることができる。
【0030】
アノード12は、ガス拡散性の観点から多孔質膜状に形成されている。アノード12の性状は特に限定されないが、良好なアノード電極性能を得るという観点から、平均厚み(すなわちチューブ壁の平均厚み)を、凡そ1mm以下(典型的には0.5mm以下、例えば0.1mm〜0.5mm)とすることが好ましい。また、発電性能の向上や強度保持の観点から、チューブ形状のアノード12の直径は、凡そ10mm以下(典型的には0.5mm〜10mm、例えば0.5mm〜5mm)とすることが好ましい。
図1(a)に示す例では、凡そ1.9mmである。また、アノード12の長軸方向の長さは、集電効果の(すなわち電気抵抗を低減する)観点から、凡そ15cm以下(典型的には1cm〜12cm、例えば3cm〜7cm)とすることが好ましい。
図1(a)に示す例では、凡そ7cmである。また、アノード12はガス拡散性や還元反応性の向上のために多孔質であり、その気孔率は、20%以上(典型的には30%以上、例えば30%〜50%程度)とすることが好ましい。なお、本明細書において「気孔率」とは、水銀圧入法の測定によって得られる気孔容積Vbを見かけの体積Vaで除して100を掛けることにより算出した値(Vb/Va×100)をいう。
【0031】
アノード12の形成材料は、従来からこの種の電気化学リアクターセルのアノードを構成するのに適するものであればよい。好ましい材料として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等の金属および/または金属酸化物であって触媒として機能し得るものが挙げられる。なかでもNiは、他の金属に比べて安価であり、水素等の燃料ガスとの反応性が十分に大きいことから特に好適な金属種である。あるいは、上記のような金属若しくは金属酸化物と、後述する固体電解質形成材料との複合材料を用いることもできる。好適例として、ニッケル系材料(例えばNiO)と後述する安定化ジルコニアとのサーメットが挙げられる。上記アノード形成材料と後述する固体電解質形成材料との混合比(アノード形成材料:固体電解質形成材料)は、質量比で、例えば、90:10〜40:60(好ましくは80:20〜45:55)程度とすることができる。このような混合比とすることで、電極(アノード)活性とアノード−固体電解質間の熱膨張係数の整合とをより高いレベルで両立させることができる。
好適な一態様では、アノード12(典型的にはアノード12の中空部側壁)に、燃料ガス改質触媒(例えばナノメートルサイズのセリア(CeO
2)や白金(Pt)等)が担持されている。これにより、プロパンやブタンなどを主成分とする炭化水素(例えばLPガス)を中空部11に直接供給した場合であっても、長期に渡り安定的に発電可能なSOFCを実現することができる。
【0032】
アノード12の外表面に配置される固体電解質14は、緻密な酸化物イオン伝導体により形成されている。固体電解質14の性状は特に限定されないが、電気抵抗を低減する観点からは、平均厚みを1μm〜50μm(典型的には1μm〜20μm、例えば1μm〜10μm)程度とすることが好ましい。
固体電解質形成材料としては、酸化物イオン伝導性の高い化合物を用いることが好ましく、例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)のうちから選択される2種類以上の元素を含む酸化物であることが好ましい。好適例として、イットリア(Y
2O
3)等の物質(安定化剤)で安定化されたジルコニア(ZrO
2)、あるいはガドリニア(Gd
2O
3)等をドープしたセリア(CeO
2)が挙げられる。なかでも、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やガドリニアドープセリア(GDC)を好ましく用いることができる。安定化剤やドープ剤の含有割合は特に限定されないが、全体を100mol%としたときに、凡そ5mol%〜10mol%とすることが好ましい。
【0033】
なお、固体電解質14に酸化ジルコニウム系の材料を用い、且つ、後述するカソード16にペロブスカイト構造の酸化物材料を用いる場合には、固体電解質14の表面(固体電解質14とカソード16との間)に、反応抑止層(中間層ともいう。)を備えることが好ましい。これにより固体電解質14とカソード16との界面を安定化することができる。反応抑止層を構成する材料としては、例えば固体電解質14の形成材料として上述したセリウム酸化物を用いることができる。
【0034】
固体電解質14上に形成されるカソード16は、ガス拡散性の観点から多孔質膜状に形成されている。カソード16の性状は特に限定されないが、十分な触媒活性点を得るという観点からは、平均厚みを5μm〜50μm(典型的には5μm〜30μm)程度とすることが好ましい。換言すれば、チューブ型SOFC10の直径(すなわち、アノード12の直径に固体電解質14の平均厚みとカソード16の平均厚みとを加算したチューブの外径(Φ))は、概ねアノード12の直径と同等であり、凡そ10mm以下(典型的には0.5mm〜10mm、例えば0.5mm〜5mm)とすることが好ましい。
図1(a)に示す例では、凡そ1.9mmである。
また、カソード16の長軸方向の長さ(すなわち、チューブ型SOFC10の長軸方向の長さL)は、集電効果の(すなわち電気抵抗を低減する)観点から、凡そ10cm以下(典型的には1cm〜10cm、例えば1cm〜5cm)とすることが好ましい。換言すれば、チューブ型SOFC10の少なくとも一方の端部(典型的には両端部)には、凡そ0.5cm以上(例えば0.5cm〜1cm)のアノード12露出部(カソード16非形成部)を有することが好ましい。これにより、後述する集電部18を安定的に形成することができる。
図1(a)に示す例では、アノード12の長軸方向の長さが凡そ5cmであり、カソード16の長さ(チューブ型SOFC10の長軸方向の長さL)が凡そ3cmであり、当該チューブ型SOFC10両端部にはアノード12露出部がそれぞれ凡そ0.5cm〜0.7cmずつ設けられている。
【0035】
カソード16の形成材料は、酸素のイオン化に活性の高いものが好ましく、特に、銀(Ag)、ランタン(La)、サマリウム(Sm)若しくは他のランタノイド元素、ストロンチウム(Sr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)のうちから選択される2種類以上の元素を含む酸化物であることが好ましい。好適例として、遷移金属ペロブスカイト型酸化物が挙げられる。なかでも、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)系やランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)系のペロブスカイト型酸化物を好ましく用いることができる。より具体的には、LaSrMnO
3ーδ、LaCaMnO
3ーδ、LaMgMnO
3ーδ、LaSrCoO
3ーδ、LaCaCoO
3ーδ、LaSrFeO
3ーδ、LaSrCoFeO
3ーδ、LaSrNiO
3ーδ、SmSrCoO
3ーδ等を用いることができる。また、これら遷移金属ペロブスカイト型酸化物と上記固体電解質形成材料とのコンポジット(複合材料)を用いることもできる。これにより、カソード16の酸化物イオン伝導性を一層向上させることができる。上記遷移金属ペロブスカイト型酸化物と固体電解質形成材料との混合比(ペロブスカイト型酸化物:固体電解質形成材料)は特に限定されないが、質量比で、例えば、90:10〜60:40(好ましくは90:10〜70:30)程度とすることができる。このような混合比率とすることにより、電極(カソード)活性とカソード−固体電解質間の熱膨張係数の整合とをより高いレベルで両立させることができる。
【0036】
アノード12の露出部に設けられている集電部18は、電気伝導性や気密性の観点から緻密に形成されている。集電部18は、実質的にペロブスカイト型酸化物(例えば、LSTF酸化物やLSAF酸化物)から構成され、すでに上述したような性状(例えば、還元膨張率、導電率、熱膨張係数、平均厚み等)を有する部位である。使用に際しては、典型的には当該部位に導電性の部材(例えば、導線)を配置し、これを介して電流の取り出しを行う。ここで開示される技術によれば、アノード12の表面に直接、集電部18を設けることができ、電気抵抗を大幅に低減することができる。集電部18の平均厚みは、例えば1μm〜10μm(典型的には3μm〜5μm)程度とすることができる。また、集電部18の長軸方向の長さLは、集電効果の(すなわち電気抵抗を低減する)観点から、例えば凡そ0.1cm〜0.3cmとすることができる。
【0037】
このようなチューブ型SOFC10の製造方法は特に限定されないが、例えば、先ず、従来公知の手法によってアノード12をチューブ形状に成形した後、アノード12の表面に固体電解質14および集電部18を形成する。そして、固体電解質14の表面に、典型的には反応抑止層(図示せず)とカソード16とを形成する。具体的には、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
【0038】
先ず、アノード形成工程として、上述のようなアノード形成材料に適当なバインダ(典型的にはセルロース系高分子化合物、例えばニトロセルロース)を加えて溶媒(典型的には水)とともに混練し、得られた塑性混合材料(ペースト材料)を押出成形等の成形手法によって所望の管径、管長さ、管厚みのチューブ形状に成形する。成形体は常温で乾燥するか、必要に応じて1000℃以下(典型的には600℃〜1000℃程度)の温度で仮焼する。これにより、気孔率が20%以上(典型的には30%〜50%程度)のチューブ成形体を得ることができる。
【0039】
次いで、固体電解質層の形成工程として、上述のような固体電解質形成材料と適当なバインダ(典型的にはビニル系高分子化合物、例えばポリビニルアルコール)と溶媒(典型的には有機溶媒、例えばターピネオール)とを混合し調製したスラリーをチューブ成形体の外表面に付着させ、所定温度(典型的には1200℃〜1600℃)で焼成する。ここでは、チューブ成形体の少なくとも一方の端部(例えば両端部)に固体電解質層形成用スラリーを付与しないこと、すなわち少なくとも一方の端部(例えば両端部)においてアノードの露出部を確保することが重要である。これにより、少なくとも一方の端部(例えば両端部)にアノード露出部を備えた固体電解質層付きアノード構造体を得ることができる。
【0040】
アノード構造体(チューブ成形体)の表面にスラリーを付着させる方法は特に限定されないが、例えば、従来公知のディップコーティング法、スラリーアスピレーション法、スラリーインジェクション法、ハケ塗り法、スプレー法等を採用することができる。例えば、チューブ成形体を固体電解質層形成用スラリー中に浸漬することによって固体電解質層を形成する場合には、当該固体電解質層を形成したくない部分(すなわち、チューブ成形体の端部の外表面および開口部)をあらかじめ樹脂系接着剤等でマスキングしておき、非マスキング部分のみに固体電解質層が形成されるようにするとよい。形成する固体電解質層の膜厚(コート厚)は、例えば、スラリーの固形分濃度や引き上げ速度によって調整することができる。なお、上述の実施形態ではマスキングによって端部が形成されているが、これに代えて、例えば、固体電解質層付きアノード構造体から、固体電解質の一部を機械加工処理(例えば研削処理や研磨処理)して面出しすることにより、端部を形成してもよい。あるいは、同様の機械加工処理によって寸法調整を行うこともできる。
【0041】
次いで、集電部形成工程として、得られた固体電解質層付きアノード構造体の所定位置(当該構造体の端部であってアノードの露出した部位)に、上述のようなペロブスカイト型酸化物を用いて上記固体電解質層形成用と同様に集電部形成用スラリーを付着させ、所定温度(典型的には1100℃〜1500℃、例えば1300℃〜1450℃)で数時間(例えば1時間〜3時間)焼成する。これにより、固体電解質層および集電部の形成されたアノード構造体を得ることができる。
【0042】
次いで、好適な一態様では、反応抑止層(中間層)形成工程として、上記アノード構造体の外表面であって固体電解質層の形成された部位に、上述のような反応抑止層形成材料を用いてなる反応抑止層形成用スラリーを付与して、所定温度(典型的には1100℃〜1300℃、例えば1150℃〜1250℃)で数時間(例えば1時間〜2時間)焼成する。反応抑止層形成用スラリーの付与は、上記固体電解質層形成時と同様に行うことができる。また、スラリーの付与に際しては、固体電解質層の少なくとも一方の端部(
図1(a)では両端部)に反応抑止層形成用スラリーを付与しないこと、すなわち少なくとも一方の端部(例えば両端部)において、アノードおよび固体電解質層の露出部をそれぞれ確保することが好ましい。
【0043】
次いで、カソード形成工程として、上記アノード構造体の外表面であって固体電解質層(典型的には、固体電解質層および反応抑止層)の形成された部位に、上述のようなカソード形成材料を用いてなるカソード層形成用スラリーを付与して、所定温度(典型的には800℃〜1200℃、例えば900℃〜1100℃)で数時間(例えば1時間〜2時間)焼成する。カソード層形成用スラリーの付与は、上記固体電解質層形成時と同様に行うことができる。
このように、
図1(a)に示すようなチューブ型SOFC10を得ることができる。
【0044】
好適な一態様では、さらに、集電部18上に導電性の部材を配置する(例えば、当該部位に金属製の導線を巻き付ける)。かかる部材は、いわゆるアノード12側の接続端子となり、これを介して電流の取り出しを行うことができる。また、複数個のチューブ型SOFC10を用いて高出力なバンドルやスタックを形成する場合には、かかる部材を介して複数個のセルを相互に電気的に接続することができる。
【0045】
好適な他の一態様では、さらに、チューブ型SOFC10のアノード12の露出部であって集電部18の非形成部の表面に、耐熱性に優れたシール材(例えば市販のシール用ガラスペースト)を付与(コーティング)する。これにより、当該部分を介しての中空部11からセル外部への(あるいはその逆方向)のガスリークを防止することができる。例えばマニホールド等の部材と接合する場合には、当該接合(連結)部分およびマニホールド等の部材からはみ出した部分に上記シール材を付与すればよい。これにより、ガスリークが無い接合部(シール部)を形成することができ、所定のガス(例えば燃料ガス)をセルに供給することができる。
【0046】
次に、上述したチューブ型SOFC10を使用する電気化学リアクターバンドルの好適例を説明する。
図2は、チューブ型SOFC10を複数個備えたSOFCバンドル20の構造を模式的に示す俯瞰図である。
図2に示すように、SOFCバンドル20は、ジョイント管24,26と垂直に
図1に示すようなチューブ型SOFC10が複数本(ここでは6本)配列され、構成されている。ここに示す態様では、(長軸方向の一の端部に設けられた)集電部18がジョイント管24側にくるよう配置されたチューブ型SOFC10Aと、集電部18がジョイント管26側にくるよう配置されたチューブ型SOFC10Bとが交互に配設されている。各チューブ型SOFC10の集電部18には、アノード接続端子となる導電性部材(導線)が巻き付けられている。カソード16の表面であってチューブ型SOFC10の他の一の端部(換言すれば、アノードの集電部18が設けられていない側の端部)には、カソード接続端子となる導電性部材(導線)が巻き付けられている。ジョイント管24側では、チューブ型SOFC10Aのアノード接続端子とチューブ型SOFC10Bのカソード接続端子とがそれぞれ結線されており、ジョイント管26側では、チューブ型SOFC10Bのアノード接続端子とチューブ型SOFC10Aのカソード接続端子とがそれぞれ結線されている。これにより、当該SOFC間が電気的に直列接続されている。
【0047】
ジョイント管24,26は、チューブ型SOFC10間を物理的に離間すると同時に、酸化性のガス(典型的には空気)と還元性のガス(典型的には水素やメタン等の燃料ガス)とを分離する役割を担っている。ジョイント管24,26には、それぞれチューブ型SOFC10の本数だけ接続口24A,26Aが設けられており、当該接続口に各チューブ型SOFC10の両端部13A,13Bが挿入され、接合されている。チューブ型SOFC10と接続口24A,26Aとの接合は、典型的には絶縁性の接合材(例えば上述したようなシール材)を介して行われる。すなわち、接続口24A,26Aに挿入されるチューブ型SOFC10の端部13A,13Bと当該接続口24A,26Aの内壁との間には絶縁性接合材が配置されており、これによりチューブ型SOFC10とジョイント管24,26との間が絶縁されると共に、当該SOFCの端部13A,13Bと接続口24A,26Aの内壁との間(隙間)が気密にシール(封止)されている。
【0048】
ジョイント管24,26を構成する材料としては、少なくともSOFCを作動させる温度条件下において十分な耐熱性を有するものであればよい。例えば、種々の金属材料やセラミック材料を用いることができる。好適例として、ステンレス(各種のSUS)、鉄、銀、ニッケル等の鋼材、あるいはこれら金属を含む合金等が挙げられる。また、ジョイント管24,26の寸法や形状は、チューブ型SOFC10の寸法や数量等によって変動するため特に限定されないが、例えば上述したような寸法(すなわちチューブの直径:0.5mm〜10mm)のチューブ型SOFC10を用いる場合、幅が0.5cm〜3cm程度であり、平均厚みが1mm〜5mm程度のSUSその他の金属製インターコネクトを好適に使用することができる。
図2に示す態様では、幅が1.6cmで平均厚みが2.5mmのジョイント管24,26に、等間隔で、それぞれ接続口24A,26Aが6つずつ設けられている。
【0049】
次に、複数個の上記SOFCバンドル20を相互に接続して集積させた高次構造のSOFCスタックの一例を説明する。
図3は、SOFCバンドル20を複数個備えたSOFCスタック50の構造を模式的に示す斜視図である。
図3に示すように、SOFCスタック50は、複数のチューブ型SOFC10(ここでは
図2に示すようなSOFCバンドル20)を電気的に直列接続して集積化したものである。ここに示す態様では、バンドル内で最も手前側に配置されたチューブ型SOFC10の集電部18が向かって左側にくるよう配置されたSOFCバンドル20Aと、当該集電部が向かって右側にくるよう配置されたSOFCバンドル20Bとが交互に(ここでは各3段ずつ計6段)積層されている。そして、SOFCバンドル20Aのアノード接続端子とSOFCバンドル20Bのカソード接続端子とが互いに結線され、当該バンドル間が電気的に直列接続されている。このようにチューブ型SOFC10を直列に配置することで、発生した電流が当該直列接続構造のチューブ型SOFC10を一方向に流れ、高出力密度(例えば運転温度600℃において、最大出力密度0.5W/cm
2以上)を実現することができる。SOFCバンドル20の積層は、
図3において黒塗りで示すように、例えばジョイント管24とジョイント管26との界面に非導電性(絶縁性)のシール材(例えば絶縁性のガラスを主体とする絶縁性ガラスシール材)を付与し、接合することによって行うことができる。これにより、SOFCスタック50を安定的に保持することができる。
【0050】
図4は、SOFCスタック50にマニホールドを装着した形態を模式的に示す斜視図である。
図4に示すように、典型的には、各ジョイント管24,26集積部分の端部を嵌め込むような状態で、各チューブ型SOFC10の中空部11(
図1(a))に燃料ガスを供給または排出させるマニホールド(送ガス用配管)52,54が取り付けられている。例えば、向かって左側のマニホールド52に外部から適当な燃料ガス(水素ガス等)を供給し、マニホールド52からジョイント管24の接続口24Aを介して、各チューブ型SOFC10の中空部11(
図1(a))に燃料ガスを供給する。各チューブ型SOFC10の中空部11(
図1(a))に供給された燃料ガスは、向かって右側のマニホールド54から排出される。マニホールド52,54自体の材質や構造としては、従来のこの種のSOFCスタックに設けられているものと同様なものを用いることができる。ここに示すSOFCスタック50では、各チューブ型SOFC10のカソード16が外表面に露出しており、大気(すなわち酸素を含む空気)を直接利用可能なよう構成されている。このため、酸素含有ガス(空気)側のマニホールドが不要であり、かかるマニホールドを設置しない分だけ装置のコンパクト化を図ることができる。
マニホールド52,54とジョイント管24,26との接合には、例えば上記絶縁性シール材を用いることができる。あるいは、例えばガスケット(Oリング等)を介在させて機械的に接続することもできる。これにより、両者の界面を気密に封止することができる。例えばガラスシール材は、SOFCの運転温度域に軟化点を有し得、かかる場合、好適な緩衝作用を発揮し得るため、当該接合部位を高い接合(シール)強度で安定的に保持することができる。
【0051】
以上、本発明によって提供される電気化学リアクターの好適例を図面を参照しつつ説明したが、これら電気化学リアクター(ここではSOFC)の作動条件(例えば作動温度や、電気化学リアクターセルに対して供給する燃料ガスの種類、ガス流速等)は、目的に応じて異なり得るため、特に限定されない。本発明により提供される種々の形態の電気化学リアクターは、従来の電気化学リアクターと同様に使用することができる。
【0052】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0053】
(例1〜例13:ペロブスカイト型酸化物)
以下の手順に従って、
図1(a)に示すような形状のチューブ型SOFC10を製造した。すなわち、酸化ニッケル粉末(和光純薬工業株式会社製品、平均粒径:約3μm)および8mol%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末(東ソー株式会社製品、平均粒径:約1μm)に、バインダ(ここではニトロセルロースを使用した。)および水を加えて混練して粘土状にした後、この混練物(アノード形成材料)を押出成形することによりチューブ成形体を得た。このチューブ成形体は、チューブ直径が1.9mm、管壁の厚みが0.5mmであった。そして押し出されたチューブ成形体を長さ5cmとなるようにカットした(以下、かかる5cm長さにカットされた後のものをチューブ成形体という。)。
【0054】
次いで、得られたチューブ成形体の両端部表面(開口面から長軸方向に凡そ0.7cmの範囲の表面)および開口面を酢酸ビニル樹脂で封止した後、この成形体を上記YSZ粉末およびバインダ(ここではポリビニルアルコールを用いた。)と溶媒(ここではターピネオールを用いた。)とを含む固体電解質層形成用スラリー中に浸漬し、当該成形体の外表面にスラリー(固体電解質形成材料)をディップコーティングした。
【0055】
上記酢酸ビニル樹脂の封止を除去した後、上記アノード構造体の長軸方向の一の端部であってアノードの露出した部位に、上記形成した固体電解質層の端部と一部が重なるようにして、表1に示すペロブスカイト型酸化物とバインダ(ここではポリビニルアルコールを用いた。)を含んだ集電部形成用スラリーを塗布し、この複合体を80℃〜100℃で乾燥後、1300℃〜1450℃の温度で凡そ1〜3時間、大気中で共焼成した。
このようにして、チューブ成形体の外表面に膜状の固体電解質(YSZ)層および集電部(平均厚み3μm〜5μm)が形成されたアノード構造体を得た。
【0056】
次いで、得られたアノード構造体の両端部表面(開口面から長軸方向に凡そ1cmの範囲の表面)および開口面を再び酢酸ビニル樹脂で封止した後、上記固体電解質形成プロセスと同様に、10mol%の含有割合でGd
2O
3をドープしたCeO
2(GDC)粉末(阿南化成株式会社製品、平均粒径:約1μm)および上記と同じバインダと溶媒とを含むスラリー中に上記アノード構造体を浸漬し、固体電解質層上にスラリー(反応抑止層形成材料)をディップコーティングした。上記酢酸ビニル樹脂の封止を除去した後、80〜100℃で乾燥し、凡そ1150〜1250℃の温度で1〜2時間焼成することで、反応抑止層(固体電解質層の一部)を形成した。
【0057】
次いで、得られたアノード構造体の両端部表面(開口面から長軸方向に凡そ1cmの範囲の表面)および開口面を再び酢酸ビニル樹脂で封止した。そして、カソード形成材料としてのランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物粉末(第一稀元素化学工業株式会社製品、平均粒径:約1μm)と上記GDC粉末と一般的なバインダ(ここではポリビニルアルコールを用いた。)と溶媒(ここではターピネオールを用いた。)とを混練して、カソード形成用スラリーを調製した。このスラリーを、上記固体電解質膜(具体的には反応抑止層)上に塗布し、上記酢酸ビニル樹脂の封止を除去した後、80〜100℃で乾燥し、900〜1100℃の温度で1〜2時間、大気中で焼成した。これにより、
図1(a)に示すような、外表面に固体電解質層とカソード層とが順に形成されたチューブ型のアノード構造体(チューブ直径1.9mm、管壁の厚み0.5mm、長軸方向の長さL3cm)を得た。
【0059】
<接合処理>
次いで、得られたチューブ型SOFCの両端部をマニホールドと接合した。具体的には、チューブ型SOFCの両端部の開口面から長軸方向に凡そ5mmの範囲の表面、およびSUS430製のマニホールドの開口部に、ペースト状の絶縁性ガラスシール材を塗布した後、SOFCの端部をマニホールドに嵌め込み、800℃で1時間、大気中で熱処理した。これによって、上記接合材(絶縁性接合部)を介在させてチューブ型SOFCとマニホールドとを接合し、SOFCモジュール(例1〜例13)を作製した。
【0060】
(例14)
本例では、集電部にAgを使用した。すなわち、上記集電部の形成において、Agペーストを使用したこと以外は、上記例1〜例13と同様にして、SOFCモジュール(例14)を作製した。
【0061】
<緻密性評価>
得られたチューブ型SOFCの集電部を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察することにより、当該部位の緻密性を評価した。結果を、表1の「緻密性」の欄に示す。なお、表1において、◎×は相対評価である。「◎」は、クラックが無く、緻密性の高かったことを示している。また、「×」は、クラックが認められた、および/または、緻密性が不足していたことを示している。
【0062】
表1に示すように、一般的な導電性セラミックとして知られるLSM酸化物(La
0.6Sr
0.4MnO
3)を用いた例13では、集電部が緻密化していなかった。この理由として、上記焼成温度では、LSM酸化物が焼結し難かったことが考えられる。その一方、LSTF酸化物、STF酸化物、LTF酸化物またはLSF酸化物を用いた例1〜例12では、集電部が十分に緻密化されていた。すなわち、Bサイトに少なくともFeを含む酸化物を用いることで、セルを構成する部材(例えば固体電解質)に熱的ダメージを与えない比較的低い焼成温度で、十分な気密性を有する集電部を形成可能なことがわかった。
【0063】
<還元膨張率の測定>
上記集電部形成用スラリーを用いて所定形状(例えば円板状)にプレス成形して、80℃で乾燥後、大気中で1300℃〜1350℃で1時間焼成することにより、例1〜例13に係るサンプルをそれぞれ作製した。このサンプルを空気雰囲気(酸素分圧約200hPa(約0.2atm))下で室温から1000℃まで維持して、その温度領域におけるサンプルの体積の増加分を測定し、その増加分を室温における体積に対する百分率で表した。これを空気雰囲気下における熱膨張率E
airとした。同様にして、還元雰囲気(水素5vol%、窒素の95vol%を含有する)下におけるサンプルの熱膨張率E
redを求め、これら熱膨張率E
airおよびE
redを、式:[{(1+E
red/100)−(1+E
air/100)}/(1+E
air/100)]×100にあてはめることにより、各サンプルの還元膨張率(%)を算出した。結果を、表1の「還元膨張率」の欄に示す。
【0064】
表1に示すように、一般的な導電性セラミックとして知られるLSF酸化物(La
0.6Sr
0.4FeO
3)を用いた例12では、0.5%以上と還元膨張率が相対的に高かった。これに対して、例1〜例11では、還元膨張率が最大でも0.4%に抑えられていた。すなわち、LSTF酸化物、STF酸化物またはLTF酸化物を用いることで、長期間還元雰囲気下に曝された場合であっても、高耐久性を有する集電部を形成可能なことがわかった。また、LSTF酸化物の組成比に着目すると、Aサイトに比べてBサイトの影響が大きく、Tiの割合が増加(Feの割合が減少)するにつれて還元膨張率が顕著に小さくなることがわかった。
【0065】
<発電試験>
次に、上記作製したSOFCモジュール(例1〜例14)を用いて、運転温度:600℃で発電試験を行った。このときの最大電力密度(W/cm
2)を、表1の該当欄に示す。また、1000時間運転後の状態を該当欄に示す。
【0066】
表1に示すように、集電部にLSF酸化物を用いた例12、LSM酸化物を用いた例13、およびAgを用いた例14では、最大出力密度が0.48W/cm
2以下と相対的に低かった。これに対して、LSTF酸化物、STF酸化物またはLTF酸化物を用いた例1〜例11では、0.53W/cm
2以上と相対的に高い最大出力密度を示した。また、LSTF酸化物の組成比に着目すると、Aサイトに比べてBサイトの影響が大きく、Feの割合が増加(Tiの割合が減少)するにつれて、最大出力密度が高くなることがわかった。より詳しくは、Feの比率が0.5≦y≦0.8を満たす場合に0.55W/cm
2以上の最大出力密度を、Feの比率が0.6≦y≦0.8を満たす場合に0.6W/cm
2以上の最大出力密度を示していた。このことから、主にLSTF酸化物のBサイトを調整することで、導電性と出力密度とを高いレベルで両立し得ることがわかった。
【0067】
また、1000時間後の状態を比較してみると、集電部にAgを用いた例14では、マイグレーションが発生し、短絡していた。また、集電部にSTF酸化物、LTF酸化物、LSF酸化物またはLSM酸化物を用いた例1,例6,例12,例13では、それぞれクラックの発生や、ガスリークによる発熱等の不具合が認められた。LSTF酸化物を用いた例2〜5,例7〜11では、Aサイト(La
1−xSr
x)のSrの比率が高い場合(x≦0.8の場合)を除き、良好な耐久性を示していた。また、Bサイト(Ti
1−yFe
y)の比率に着目すると、Feの比率がy<0.9の場合に、とりわけ耐久性に優れることがわかった。
以上の結果から、一般式:(La
1−xSr
x)(Ti
1−yFe
y)O
3−δにおいて、0.1<x≦0.7(好ましくは0.2≦x≦0.6)、0<y≦0.9(好ましくは0.1≦y<0.9、好ましくは0.5≦y≦0.8)とすることの技術的意義が示された。
【0068】
(例15〜例17:LSAF酸化物)
集電部にLSAF酸化物を用いた場合について検討を行った。具体的には、集電部の形成工程において、表2に示すLSAF酸化物を用いたこと以外は上記と同様にして、SOFCモジュール(例15〜例17)を作製、評価した。結果を、表2に示す。
【0070】
表2に示すように、LSAF酸化物を用いた場合も、LSTF酸化物を用いた場合と同様良好な耐久性を示すことがわかった。また、例えばx,yの値が等しい例8(La
0.6Sr
0.4Ti
0.2Fe
0.8O
3)と例16(La
0.6Sr
0.4Al
0.2Fe
0.8O
3)とを比較すると、BサイトにAlを用いた場合に、還元膨張率がより低く抑えられていた。
【0071】
上述の通り、本発明によれば、断線や短絡、クラック等の不具合が生じ難く、且つ導電性にも優れた集電部を実現することができる。このため、本発明によれば、気密性や耐久性に優れた集電部を有し、長期に渡り高い反応効率を実現し得る電気化学リアクターセル(例えばSOFC)を提供することができる。