【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0041】
(実施例1
(参考例1)) 重合体(A)と無機材料(C)からなる培養機材(重合体(B)を含まない)例。
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
【0042】
[重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液の調整]
溶媒(F)として、メタノール9.8g、重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(2)を調製した。
【0043】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L1)を作製した。
【0044】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0045】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に、上記複合体(X)の分散液(L1)を入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材1を得た。
【0046】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材1を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM(10%血清含有)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を2.0×10
6個/Dish(3.38cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で6日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材1の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は8.6×10
4個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は1.8×10
4個であった。下記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は約82%であった。
式(5) 細胞回収率(%)={低温処理で回収した細胞の数/(低温処理で回収した細胞の数+Trypsin処理で回収した細胞の数)}×100
また、上記培養基材1から回収された骨髄由来細胞の総数(10.4×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(2.5×10
4個)の約4.2倍であった。
【0047】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0048】
この実施例より、重合体(A)と無機材料(C)からなる培養基材(重合体(B)を含まない)が、通常のティッシュカルチャデイッシュに比べ、細胞培養性が高く、また、培養基材表面と細胞間の接着性が低く、低温処理のみで細胞が容易に剥離できることが理解できる。
【0049】
(実施例2) 重合体(A)、(B)と無機材料(C)からなる培養基材例。
[N−置換(メタ)アクリルアミドの重合体(B)の水溶液の調製]
N―イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.7g、水10g、溶液(2)140μl、を混合した後、該溶液を入れるガラス容器の周りを冷却しながら(約10℃)、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し、N-イソプロピルアクリルアミドを重合させた後、更に水を5g添加し、重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を調製した。DIGITAL VISCOMATE粘度計(MODEL VM-100A、山一電機株式会社製)を用いてこの溶液の粘度を測定して、粘度は368mPa・sであった。測定時の溶液温度は24.2℃であった。
【0050】
また、Shodex GPC System−21装置(昭和電工株式会社製)で測定した結果、このポリN―イソプロピルアクリルアミドの重量平均分子量Mwは3.40×10
6であった。測定時の溶媒として10mmol/LのLiBrを含有するN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を使用した。分子量の計算に使用したポリスチレン標準物質としては、STANDARD SH−75とSM−105キット(昭和電工株式会社製)を使用した。
【0051】
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(2)を調製した。
【0052】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(2)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L2)を作製した。
【0053】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0054】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
上記分散液(L2)全量に、N―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を7g添加し、均一に混合した後、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材2を得た。
【0055】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM(10%血清含有)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を2.0×10
6個/Dish(3.38cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で6日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材2の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数12.0×10
4個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は0.7×10
4個であった。下記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は94%であった。
式(5) 細胞回収率(%)={低温処理で回収した細胞の数/(低温処理で回収した細胞の数+Trypsin処理で回収した細胞の数)}×100
また、上記培養基材2から回収された骨髄由来細胞の総数(12.7×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)(比較例1)を用いた場合(2.5×10
4個)の約5.1倍であった。
【0056】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0057】
この実施例より、重合体(A)と無機材料(C)に更に温度応答性を有する重合体(B)を配合させた場合、良好な培養性を有すると同時に、低温処理による細胞の回収率が更に高くなることが理解できる。
【0058】
(実施例3
(参考例3))
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、無機材料(C)としてコロイダルシリカ20質量%水溶液(商品名スノーテックス20、日産化学工業株式会社製)1g(SiO
2=0.2g)、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(3)を調製した。
【0059】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(3)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L3)を作製した。
【0060】
この反応系のRa=0.06、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0061】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
上記分散液(L3)全量に、N―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を1g添加し、均一に混合した後、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材3を得た。
【0062】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材3を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM(10%血清含有)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を2.0×10
6個/Dish(9.8cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で6日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材3の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数6.2×10
4個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は1.1×10
4個であった。下記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は85%であった。
式(5) 細胞回収率(%)={低温処理で回収した細胞の数/(低温処理で回収した細胞の数+Trypsin処理で回収した細胞の数)}×100
また、上記培養基材3から回収された骨髄由来細胞の総数(7.3×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(2.5×10
4個)の約2.9倍であった。
【0063】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0064】
さらに同様に18日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材3の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数7.0×10
5個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は1.2×10
4個であった。上記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は85%であった。
【0065】
また、上記培養基材3から回収された骨髄由来細胞の総数(7.0×10
5個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(2.8×10
4個)の約25倍であった。
【0066】
この実施例より、無機材料(C)としてシリカを用いた場合の培養基材3が良好な培養性と自然剥離による高い回収率を有することが理解できる。
【0067】
(実施例4
(参考例4)) 上記培養基材3による無血清培養例
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材3を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、無血清培地として適量のSTEMPRO LIPOMAX SUPPLEMENT(Life Technologies Japan A1085001)とGLUTAMAX I(Life Technologies Japan 35050061)を含有したStemPro MSC SFMXenoFree(Life Technologies Japan A1067501)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を7.0×10
6個/Dish(9.8cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で7日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材3の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数3.9×10
4個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は9×10
3個であった。下記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は81%であった。
式(5) 細胞回収率(%)={低温処理で回収した細胞の数/(低温処理で回収した細胞の数+Trypsin処理で回収した細胞の数)}×100
一方、同様な無血清培地で、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)(比較例2)を用いて培養したところ、骨髄由来細胞が殆ど培養されなかった。
【0068】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0069】
この実施例より、培養基材3が、完全無血清系の培養でも、良好な培養性と自然剥離による高い回収率を有することが理解できる。
【0070】
(実施例5
(参考例5)) その他の高分子化合物を配合した例。
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.4g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(6)を調製した。
【0071】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(6)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L6)を作製した。
【0072】
この反応系のRa=0.13、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.40(%)<12.4Ra+0.05=1.66
【0073】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
上記分散液(L6)全量に、γ-ポリグルタミン酸(日本ポリグル株式会社製)1gを添加し、均一に混合した後、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材6を得た。
【0074】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材6を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM(10%血清含有)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウスから採取した単核球細胞を2.0×10
6個/Dish(9.8cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で7日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球を除いて、予め冷蔵庫で冷やした冷培地を入れ、10分間静置した後、ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作を10回程行ったところ、大部分の骨髄由来細胞が培養基材6の表面から剥離されたことが観察された。自然剥離された骨髄由来細胞を回収し、更にD-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収して、それぞれ回収された細胞の数を計測したところ、低温処理で自然剥離・回収された細胞数6.4×10
4個で、Trypsin処理で回収された細胞の数は3.2×10
4個であった。下記式(5)により低温処理による細胞の回収率を求めたところ、細胞回収率は67%であった。
式(5) 細胞回収率(%)={低温処理で回収した細胞の数/(低温処理で回収した細胞の数+Trypsin処理で回収した細胞の数)}×100
また、上記培養基材6から回収された骨髄由来細胞の総数(6.4×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)(比較例1)を用いた場合(2.4×10
4個)の約4倍であった。
【0075】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0076】
(比較例1)
市販の直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いて、実施例1と同様にして、血清含有培地を用いてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を37℃で7日間培養して、同様な低温処理による細胞の剥離を行ったが、細胞は殆ど剥離しなかった。更に、D-PBSと0.25% Trypsin‐EDTAを用いて、ディッシュに残った骨髄由来細胞を剥離回収し、細胞数を計測した。細胞の数は2.5×10
4個であった。
【0077】
この比較例より、通常のポリスチレン製ティッシュカルチャデイッシュでは、骨髄由来細胞に対する培養(増殖)性が低く、培養された細胞もディッシュ表面に強く接着し、薬剤(トリプシン)を使用しない場合、容易に剥離することができないことが理解できる。
【0078】
(比較例2) 市販のディッシュで、無血清系での培養例
市販の直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いて、無血清培地として適量のSTEMPRO LIPOMAX SUPPLEMENT(Life Technologies Japan A1085001)とGLUTAMAX I(Life Technologies Japan 35050061)を含有したStemPro MSC SFM XenoFree(Life Technologies Japan A1067501)を適量入れ、GFP遺伝子組み換えマウスから採取した単核球を7.0×10
6個/Dish(9.8cm
2)播種して、5%二酸化炭素中、37℃で7日間培養した。次いで、ディッシュ中の培地及び浮遊している単核球細胞を除いて、新しい培地を入れ、顕微鏡で観察したところ、骨髄由来細胞が殆ど見当たらなかった。
【0079】
この比較例より、通常のポリスチレン製ティッシュカルチャデイッシュを用いて、無血清培地では、骨髄由来細胞はディッシュに接着することが殆どできないため、増殖できないことが理解できる。
【0080】
(比較例3) 重合体(A)のみの(無機材料(C)を含まない)基材の例
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(3’)を調製した。
【0081】
実施例1と同様にして基材(3’)を製造した。実施例1と同様にして、血清含有培地を用いてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を播種し、6日間培養したが、基材(3’)の表面に接着する細胞は殆ど見当たらなかった。
【0082】
この比較例より、無機材料(C)を含まない、重合体(A)のみの基材では、細胞との接着性が低過ぎて、細胞が増殖できないことが理解できる。
【0083】
(参考例) 無機材料(C)を式(1)、(2)の領域を超えた例
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート12.8g、無機材料(C)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)1.6g、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(4’)を調製した。
【0084】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(4’)全量に、前記溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cm
2の紫外線を180秒照射したところ、反応液全体が白色のゲル状物になり、更に多量の水を入れ、攪拌しても、ゲル状物は細かく分散することなく、分散液は得られなかった。
【0085】
この反応系のRa=0.125、無機材料(C)の濃度(質量%)=1.6(%)=12.4Ra+0.05=1.6
この比較例より、無機材料(C)の使用量が式(1)、(2)の領域を超えると、重合により反応液全体がゲルとなり、他の支持体への塗布はできず、培養基材を製造することができないことが理解できる。
【0086】
(実施例6
(参考例6))
実施例1と同じ組成の分散液(L1)を作製し、該分散液(L1)全量に、実施例2のN―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を1g添加し、均一に混合した後、実施例1と同様にして細胞培養基材7を作製した。
【0087】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材7を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にしてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の培養・回収を行った。その結果、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は5.7×10
4個で、トリプシン処理で回収された細胞の数は1.2×10
4個であった。細胞回収率は約83%であった。
【0088】
また、上記培養基材7から回収された骨髄由来細胞の総数(6.9×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(2.5×10
4個)の約2.8倍であった。
【0089】
(実施例7)
実施例1と同じ組成の分散液(L1)を作製し、該分散液(L1)全量に、実施例2のN―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を4g添加し、均一に混合した後、実施例1と同様にして細胞培養基材8を作製した。
【0090】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材8を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にしてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の培養・回収を行った。その結果、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は9.7×10
4個で、トリプシン処理で回収された細胞の数は1.6×10
4個であった。細胞回収率は約86%であった。
【0091】
また、上記培養基材8から回収された骨髄由来細胞の総数(11.3×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(2.5×10
4個)の約4.5倍であった。
【0092】
また、上記低温処理による自然剥離及びTrypsin処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0093】
以上の実施例6、7及び1、2より、培養基材の組成成分にN―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)を含有させ、含有量(B/A)を増加させることにより、低温処理による細胞の回収率が大きく増加することが理解できる。
【0094】
(実施例8) ヒト骨髄単核細胞の培養・回収例
実施例2の細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1のGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の代わりに、ヒト骨髄由来単核細胞CL2M−125A(ロンザジャパン株式会社)を用いること以外は実施例1と同様にして細胞の培養・回収を行った。その結果、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は22.3×10
4個で、トリプシン処理で回収された細胞の数は0個であった(細胞が全て自然剥離した)。細胞回収率は約100%であった。
【0095】
また、上記培養基材2から回収された骨髄由来細胞の総数(22.3×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(8.33×10
4個)の約2.7倍であった。
【0096】
以上の実施例より、感受性の高いヒト由来の骨髄単核細胞に対しても、良好な培養性と高い細胞回収率を示すことが理解できる。
【0097】
また、実施例2の細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、ヒト骨髄由来単核細胞CL2M−125A(ロンザジャパン株式会社)を用いること以外は実施例1と同様にして細胞の培養・回収を行った。回収した細胞表面抗原をフローサイトメーター(ガリオス、ベックマン・コールター株式会社)で解析したところ、CD73陽性細胞は99.2%、CD105陽性細胞は94.4%であり、CD45陽性細胞は0.1%であった。
【0098】
また、実施例2の細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、ロンザジャパン株式会社ヒト骨髄由来単核細胞CL2M−125Aを用いること以外は実施例1と同様にして細胞の培養を行った。R&D Systems・Mesenchymal Stem Cell,Human,Functional Identification Kit(SC006)を用いて培養細胞の骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化能を評価した。骨細胞への誘導培地で培養した細胞は、アリザリンレッド染色で陽性であった。脂肪細胞への誘導培地で培養した細胞は、オイルレッドオー染色で陽性であった。軟骨細胞への誘導培地で培養した細胞は、抗アグリカン抗体を用いた免疫染色で陽性であった。
【0099】
以上の実施例より、ヒト骨髄由来単核細胞を実施例2の細胞培養基材2で培養することで間葉系幹細胞を含む細胞を効率よく培養することができると理解できる。
【0100】
(実施例9
(参考例9))重合体(A)と無機材料(C)からなる培養基材(重合体(B)を含まない)
実施例3と同じ組成の分散液(L3)を作製し、また実施例1と同様にして細胞培養基
材9を作製した。
【0101】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材9を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にしてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の培養・回収を行った。その結果、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は2.0×10
4個で、トリプシン処理で回収された細胞の数は1.4×10
4個であった。細胞回収率は約59%であった。
【0102】
また、上記培養基材9から回収された骨髄由来細胞の総数(3.4×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いた場合(0.6×10
4個)の約5.7倍であった。
【0103】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0104】
(比較例5) B/A>0.7の例
実施例3と同じ組成の分散液(L3)を作製し、該分散液(L3)全量に、実施例2のN―イソプロピルアクリルアミドの重合体(B)の水溶液(PNIPA2)を25g添加し(B/A=0.78)、均一に混合した後、実施例3と同様にして基材5’を作製した。
【0105】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた基材5’を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にしてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の培養・回収を行った。6日間培養したが、基材5’の表面に接着する細胞は殆ど見当たらなかった。
【0106】
この比較例より、重合体(B)の含有量(B/A)が0.7を超えると、基材表面が細胞増殖に適さなくなることが理解できる。
【0107】
(比較例6) C/A<0.03の例
[水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)、無機材料(C)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート3.2g、無機材料(C)としてコロイダルシリカ20質量%水溶液(商品名スノーテックス20、日産化学工業株式会社製)0.4g(SiO
2=0.08g)、水媒体(E)として水100g、を均一に混合して反応溶液(6’)を調製した。
【0108】
この反応系のRa=0.025、無機材料(C)の濃度(質量%)=0.08(%)<12.4Ra+0.05=0.36
実施例1と同様にして基材6’を作製した。該基材のC/Aは0.025であった。
【0109】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた基材6’を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にして、血清含有培地を用いてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球を播種し、6日間培養したが、基材(6’)の表面に接着する細胞は殆ど見当たらなかった。
【0110】
(比較例7)
無機材料(C)としての水膨潤性粘土鉱物Laponite XLGの使用量を0.2から2.4gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして淡い乳白色の複合体(X)の反応溶液(7’)を調整した。
【0111】
この反応系のRa=0.75、無機材料(C)の濃度(質量%)=2.34(%)<0.87Ra+2.17=2.82
また、反応溶液(7’)を用いて、実施例1と同様にして細胞培養基材7’を得た。
【0112】
[骨髄由来細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材7’を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培養日数を7日間から14日間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてGFP遺伝子組み換えマウス骨髄から採取した単核球の培養・回収を行った。その結果、低温処理で自然剥離・回収された細胞数は0個で、トリプシン処理で回収された細胞の数は2.6×10
4個であった。細胞回収率は約0%であった。
【0113】
また、上記培養基材7’から回収された骨髄由来細胞の総数(2.6×10
4個)が、未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)を用いて14日間培養した場合(0.5×10
4個)の約5.2倍であった。
【0114】
また、上記低温処理による自然剥離及びトリプシン処理で回収された骨髄由来細胞を、それぞれ顕微鏡で細胞形態が正常であることを確認した。
【0115】
これらの比較例より、無機材料(C)の含有量(C/A)が少なすぎる(<0.03)と、細胞との接着性が低すぎて、細胞が増殖できないことが理解できる。
【0116】
同様に、C/Aが0.03〜0.7の範囲でも、B/A>0.7の場合は、培養できないケースが生じることが理解できる。
【0117】
【表1】
【0118】
注)TCPS:未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)
【0119】
【表2】
【0120】
注)TCPS:未コートシャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)