特許第5935722号(P5935722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5935722接着フィルムおよびそれを用いたフラットケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935722
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】接着フィルムおよびそれを用いたフラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/02 20060101AFI20160602BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20160602BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20160602BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20160602BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20160602BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20160602BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20160602BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   C09J7/02 Z
   H01B7/08
   H01B17/60 M
   H01B7/34 B
   C09J11/00
   C09J201/00
   B32B27/18 B
   B32B27/34
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-43738(P2013-43738)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-213204(P2013-213204A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-53861(P2012-53861)
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137855
【弁理士】
【氏名又は名称】沖川 寛
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 富也
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−109769(JP,A)
【文献】 特開2007−136914(JP,A)
【文献】 特開2004−107588(JP,A)
【文献】 特開2005−126562(JP,A)
【文献】 特開2002−146027(JP,A)
【文献】 特開平08−060109(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0177330(US,A1)
【文献】 特開2002−042566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
H01B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁フィルムと、
前記絶縁フィルム上に形成される接着層と、
前記絶縁フィルムと前記接着層との間に介在する中間接着層と、を備え、
前記中間接着層が、非ハロゲン系有機溶媒に可溶かつ融点が100℃以上150℃以下の結晶性樹脂である共重合ポリアミドと、非晶性樹脂と、の混合樹脂組成物からなっており、
前記中間接着層は、ノンハロゲン難燃剤を前記混合樹脂組成物100質量部に対して100質量部以上250質量部以下含有することを特徴とする接着フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の接着フィルムにおいて、
前記中間接着層は、さらにカルボジイミド化合物を含有することを特徴とする接着フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着フィルムにおいて、
前記非晶性樹脂の含有量が、前記共重合ポリアミド100質量部に対して10質量部以上80質量部以下であることを特徴とする接着フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記共重合ポリアミドが、沸点140℃以下の炭化水素系溶媒およびアルコール類の混合溶媒に可溶であることを特徴とする接着フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の接着フィルムにおいて、
前記共重合ポリアミドが、トルエンとアルコール類との混合溶媒、またはメチルシクロヘキサンとn−プロピルアルコールとの混合溶媒に可溶であることを特徴とする接着フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記接着層はノンハロゲン難燃剤を含有することを特徴とする接着フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の接着フィルムにおいて、
前記接着層に含まれる前記ノンハロゲン難燃剤は、前記接着層を構成する樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であることを特徴とする接着フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記ノンハロゲン難燃剤がリン化合物、窒素化合物、金属化合物よりなる群から選択される1種類以上の難燃剤であることを特徴とする接着フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記接着層は、沸点が120℃以下の非ハロゲン系有機溶媒に可溶である樹脂からなることを特徴とする接着フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記絶縁フィルムの厚さTa、前記接着層の厚さTb、および前記中間接着層の厚さTcが、Tc>Ta>Tbの関係を満足することを特徴とする接着フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の接着フィルムにおいて、
前記絶縁フィルムが、厚さ9μm以上35μm以下のポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする接着フィルム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の接着フィルムの1対が、平面上に並列に配列された複数の導体を両面から挟んで接着一体化されたことを特徴とするフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着フィルムおよびそれを用いたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、プリンタ、スキャナ等のOA機器、コンピュータ機器、薄型テレビ等のビデオ機器、音響機器、ロボット、超音波診断装置等、様々な電気電子機器の内部配線ケーブルとして、広く用いられている。
【0003】
フラットケーブル110は、図4Aおよび図4Bに示すように、平行に配列した複数の平角導体105を2枚の接着フィルム101の接着層104で挟み被覆したケーブルであって、厚みが薄く、屈曲性に優れた特徴を持っている。フラットケーブル110に用いられる接着フィルム101は、図5に示すように、基材となる絶縁フィルム102と、絶縁フィルム102に形成される接着層104と、を有している。接着層104は、多くの場合、溶剤に溶かした接着剤をウェットコーティングして、乾燥することにより製造される。絶縁フィルム102には、耐熱性および耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチック製のフィルムが用いられる。中でも、市場流通量が多く、価格や供給安定性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが特に好んで用いられる。PETフィルムは、接着剤との密着性を向上させるため、接着剤の塗布される面にコロナ処理やUV処理が施される。
【0004】
上述したように、フラットケーブルは電子機器の内部配線ケーブルとして用いられるため、フラットケーブルはUL規格を満足する必要があり、高い難燃性が求められる。それに対応して、フラットケーブルに用いられる接着フィルムにも高い難燃性が求められる。
【0005】
接着フィルムに難燃性を付与する方法としては、2つの方法がある。1つは、絶縁フィルム自体を難燃化する方法である。この方法は、絶縁フィルムとして、自己消炎性を有するポリイミド樹脂などからなるフィルムを用いる。もう1つは、接着層を難燃化する方法である。この方法は、接着剤に難燃剤を添加して接着層を形成することにより、接着層に難燃性を付与する。上記絶縁フィルム自体を難燃化する方法は、ポリイミド樹脂からなるフィルムが非常に高価であり、特殊な用途においてのみ行われるため、接着フィルムを難燃化する場合には適さない。すなわち、接着フィルムを難燃化する場合、多くは、接着層を難燃化する方法が用いられる。
【0006】
接着層を難燃化する方法の場合、接着層を構成するベース樹脂には、基材となる絶縁フィルムであるポリエチレンテレフタレートとの接着性が特に良好な熱可塑性ポリエステル樹脂が広く用いられる。この熱可塑性ポリエステル樹脂には、非晶性樹脂と結晶性樹脂の2種類がある。
【0007】
非晶性樹脂は、汎用的な有機溶剤に良く溶けることから、一般用途のフラットケーブルの接着層の形成樹脂として広く用いられる。ただし、非晶性樹脂は、耐熱性が低く、耐熱用途に用いることは困難である。非晶性樹脂の耐熱性を向上する方法としては、樹脂に硬化剤を添加し、架橋構造を導入する方法がある。
【0008】
結晶性樹脂は、耐熱性が良好であり、耐熱用途のフラットケーブルの接着層形成樹脂として用いることができる。ただし、結晶性樹脂は汎用的な有機溶剤に溶解しにくいため、塩化メチレンなどの塩素系有機溶剤に溶解されて用いられる。一方、有機溶剤を使用しないで接着層を形成する方法としては、結晶性樹脂を押出機により薄く押出して、接着層を形成する方法がある。
【0009】
なお、関連する技術として、非晶性樹脂に結晶性樹脂を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−159901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非晶性樹脂に硬化剤を添加して接着層に耐熱性を付与する方法は、結晶性樹脂を用いる場合と比較して、耐熱性の点で大きな効果を得ることが困難である。すなわち、硬化剤の添加量が少なく、接着層への架橋構造の導入が少ないと、接着層に十分な耐熱性を付与できなくなる。一方、耐熱性を向上するために硬化剤の添加量を増加させて架橋構造を導入すると、フラットケーブルを製造する際に接着層がホットメルトしにくくなり、十分な接着力を得られなくなる。
【0012】
また、耐熱性を有する結晶性樹脂を用いる場合は、塩化メチレンなどの塩素系有機溶剤で溶解する必要性があるため、人体・環境への悪影響が問題となる。また、結晶性樹脂を押し出して接着層を形成する場合、難燃剤などを含む樹脂は、溶融粘度が高いため、薄く均一に押出すことが困難である。しかも、押出して形成する場合、大掛かりな設備が必要となり、ウェットコーティングと比べて製造コストが高くなる傾向にある。
【0013】
さらに、結晶性樹脂は、接着剤として塗布・乾燥されて接着層となる際に、基材としての絶縁フィルムのカールや反りを生じさせる場合がある。図6に示すように、接着層104に含まれる結晶性樹脂は、結晶化による収縮率が大きいため、絶縁フィルム102に対して大きく収縮する。その結果、絶縁フィルム102が反りかえり、カールした状態の接着フィルム101となる。この接着フィルム101を用いてフラットケーブルを製造した場合、カールが生じ、外観が悪くなる。
【0014】
また、従来においては、絶縁フィルムと接着層との間にプライマー層を必要とする場合があった。このプライマー層は、絶縁フィルムと接着層との接着性を向上させる薄い層であるが、接着性が低下するため難燃剤を添加することができなかった。このため、プライマー層を設ける場合、プライマー層において難燃性が低下するという問題があった。
【0015】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、ハロゲンを含まず、耐熱性、難燃性に優れ、カールの抑制された接着フィルムを提供することにある。また、カールが抑制されて外観の良好なフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、絶縁フィルムと、前記絶縁フィルム上に形成される接着層と、前記絶縁フィルムと前記接着層との間に介在する中間接着層と、を備え、前記中間接着層が、非ハロゲン系有機溶媒に可溶かつ融点が100℃以上150℃以下の結晶性樹脂である共重合ポリアミドと、非晶性樹脂と、の混合樹脂組成物からなっており、前記中間接着層は、ノンハロゲン難燃剤を前記混合樹脂組成物100質量部に対して100質量部以上250質量部以下含有する接着フィルムである。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様の接着フィルムにおいて、前記中間接着層は、さらにカルボジイミド化合物を含有する接着フィルムである。
【0018】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様の接着フィルムにおいて、前記非晶性樹脂の含有量が、前記共重合ポリアミド100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の接着フィルムである。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記共重合ポリアミドが、沸点140℃以下の炭化水素系溶媒およびアルコール類の混合溶媒に可溶である接着フィルムである。
【0020】
本発明の第5の態様は、第4の態様の接着フィルムにおいて、前記共重合ポリアミドがトルエンとアルコール類との混合溶媒、またはメチルシクロヘキサンとn−プロピルアルコールとの混合溶媒に可溶である接着フィルムである。
【0021】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記接着層はノンハロゲン難燃剤を含有する接着フィルムである。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様の接着フィルムにおいて、前記接着層に含まれる前記ノンハロゲン難燃剤は、前記接着層を構成する樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下の接着フィルムである。
【0023】
本発明の第8の態様は、第1〜第7の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記ノンハロゲン難燃剤が、リン化合物、窒素化合物、金属化合物よりなる群から選択される1種類以上の難燃剤である接着フィルムである。
【0024】
本発明の第9の態様は、第1〜第8の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記接着層は、沸点が120℃以下の非ハロゲン系有機溶媒に可溶である樹脂からなる接着フィルムである。
【0025】
本発明の第10の態様は、第1〜第9の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記絶縁フィルムの厚さTa、前記接着層の厚さTb、および前記中間接着層の厚さTcが、Tc>Ta>Tbの関係を満足する接着フィルムである。
【0026】
本発明の第11の態様は、第1〜第10の態様のいずれかの接着フィルムにおいて、前記絶縁フィルムが、厚さ9μm以上35μm以下のポリエチレンテレフタレートフィルムである接着フィルムである。
【0027】
本発明の第12の態様は、第1〜第11の態様のいずれかの接着フィルムの1対が、平面上に並列に配列された複数の導体を両面から挟んで接着一体化されたフラットケーブルである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ハロゲンを含まず、耐熱性、難燃性に優れ、カールの抑制された接着フィルムを得ることができる。また、カールが抑制されて、外観の良好なフラットケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態にかかる接着フィルムの断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるフラットケーブルの製造方法の一工程を示す図である。
図3】本発明の一実施形態にかかるフラットケーブルの断面図である。
図4A】従来のフラットケーブルの製造方法における工程図である。
図4B】従来のフラットケーブルの製造方法における工程図である。
図5】従来の接着フィルムの断面図である。
図6】従来の接着フィルムにおけるカール(反り)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明にかかる接着フィルムの実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる接着フィルムの断面図である。図2は、本発明の一実施形態にかかるフラットケーブルの製造方法の一工程を示す図である。図3は、本発明の一実施形態にかかるフラットケーブルの断面図である。
【0031】
(接着フィルム)
本実施形態の接着フィルムの製造方法は、結晶性樹脂の共重合ポリアミドおよび非晶性樹脂を非ハロゲン有機溶媒に溶解するとともに難燃剤を添加して中間接着層の塗布液を調整する工程と、中間接着層の塗布液を絶縁フィルム2に塗布し、乾燥することによって、結晶性樹脂と非晶性樹脂との混合樹脂組成物からなる中間接着層3を形成する工程と、接着層4を構成する樹脂を非ハロゲン有機溶媒に溶解して接着層の塗布液を調整する工程と、接着層の塗布液を中間接着層3に塗布し、乾燥することによって、接着層4を形成する工程と、を有している。
【0032】
まず、絶縁フィルム2を準備する。
絶縁フィルム2は、接着フィルム1の基材であって、フラットケーブル10においては、導体5を被覆する最表面に位置する部材である。絶縁フィルム2としては、耐熱性、耐薬品性に優れる各種エンジニアリングプラスチック製フィルムを用いることができる。中でも、市場流通量が多く、価格や供給安定性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを好適に用いることができる。絶縁フィルム2の厚さとしては、9μm以上35μm以下であることが好ましい。厚さが9μmよりも薄いと、接着フィルム1の耐熱性が不十分となる。一方、35μmよりも厚くなると、柔らかさがなく折り曲げ性が不良となる。さらに、PETフィルムにおいては厚くなるほど難燃効果が低くなり、燃えやすくなる。なお、PETフィルムは、接着剤(塗布液)の塗布される面にコロナ処理やUV処理が施されて、接着剤との密着性を向上させてもよい。
【0033】
続いて、中間接着層の塗布液を調整する。中間接着層3を構成する樹脂としては、結晶性樹脂の共重合ポリアミドと非晶性樹脂とを用いる。これらの樹脂を非ハロゲン有機溶媒に溶解するとともに難燃剤を添加して中間接着層の塗布液を調整する。本実施形態においては、結晶性樹脂の共重合ポリアミドとして、非ハロゲン系有機溶媒に可溶で、融点が100℃以上150℃以下のものを用いる。
【0034】
ここで、中間接着層3を構成する結晶性樹脂の共重合ポリアミドおよび非晶性樹脂、これらの樹脂を溶解させる有機溶媒についてそれぞれ説明する。
【0035】
結晶性樹脂は、高分子が規則正しく配列する領域を有しており、一般的に、融点よりも低い温度領域であれば、優れた耐熱性を有する。また、結晶の凝集力が非常に高く、優れた耐薬品性(耐溶剤性)を有する。ただし、結晶の凝集力が高いため、乾燥による収縮率が大きい。また、耐薬品性のために、汎用的な有機溶媒(例えば、ハロゲンを含まない非ハロゲン系有機溶媒)に溶解しにくく、溶解させるにはハロゲン系有機溶媒が必要となる。
【0036】
これに対して、非晶性樹脂は、高分子の規則性がない領域を有しており、耐熱性が低い。また、分子配列に規則性がなく、結晶の凝集力が低いため、耐溶剤性も低い。しかし、結晶の凝集力が低く、乾燥による収縮率が小さい。しかも、耐溶剤性が低いため、非ハロゲン系有機溶媒にも容易に溶解性を示す。
【0037】
上述したように、結晶性樹脂は、一般的に、非晶性樹脂と比較して耐熱性の点で優れるが、乾燥による収縮率が大きく、また汎用的な有機溶媒に溶解しにくい。この結晶性樹脂としては、結晶性のポリエチレン、ナイロン、ポリエステル、共重合ポリアミドなどがある。これらのうち、結晶性のポリエチレン、ナイロン、ポリエステルは、非ハロゲン系有機溶媒に溶解しにくく、ハロゲンを含む特定の有機溶媒に溶解させる必要性がある。一方、共重合ポリアミドは非ハロゲン系有機溶媒に対しても溶解性を示す。そこで、本実施形態においては、ハロゲンを含む有機溶媒を使用しないで人体や環境への影響を低減するため、結晶性樹脂としての共重合ポリアミドを用いる。
【0038】
共重合ポリアミドは、例えばジカルボン酸成分とジアミン成分との脱水縮合により生成される。本実施形態で用いる共重合ポリアミドとしては、例えば、重合脂肪酸を含むジカルボン酸(ジカルボン酸の一部または全部が重合脂肪酸からなる)と、ジアミンと、ジオールとから合成されるものがあげられる。上記の共重合ポリアミドとしては、脂肪酸を二量化した炭素数36または44の二量化重合脂肪酸を分子構造内に含有するものが好ましい。この共重合ポリアミドによれば、炭素数が大きく、極性の高いアミド結合を有するため、柔軟性および高い接着性を得ることができる。
【0039】
また、上記結晶性樹脂の共重合ポリアミドは、示差熱分析により測定される結晶融解熱量が5J/g〜35J/gであることが好ましい。結晶融解熱量が5J/g〜35J/gの結晶性樹脂の共重合ポリアミドを用いれば、耐熱性が非常に良く、溶媒に対する溶解性が良好で高い濃度の塗布液を得ることが可能となる。
【0040】
また、上記共重合ポリアミドの中でも、融点が100℃以上150℃以下のものを用いる。融点が100℃よりも低いと、形成される中間接着層の耐熱性を十分に得ることが困難となる。一方、150℃よりも高いと、フラットケーブルを製造する際のラミネート温度が過度に高くなり、絶縁フィルムが熱により変形するおそれがある。また、融点が150℃よりも高い共重合ポリアミドでは、非ハロゲン系有機溶媒に対する溶解性が低くなる。共重合ポリアミドの融点としては、110℃以上140℃以下であることがより好ましい。
【0041】
非晶性樹脂は、上述したように、耐熱性の点で結晶性樹脂に劣るが、乾燥による収縮率が小さい利点を有している。また、結晶性樹脂の共重合ポリアミドを溶解する有機溶媒にも容易に溶解する。非晶性樹脂は、上記結晶性樹脂の共重合ポリアミドに混合されることにより、中間接着層の乾燥による収縮を抑制することができる。
非晶性樹脂としては、非晶性のものであれば特に限定されず、例えば、非晶性ポリエステル、非晶性ポリアミド、非晶性ポリウレタン、または非晶性のゴムなどを用いることができる。
【0042】
このように、本実施形態においては、中間接着層を構成する樹脂として、異なる特性を有する、結晶性樹脂の共重合ポリアミドおよび非晶性樹脂の混合樹脂組成物を用いる。
【0043】
混合樹脂組成物において、結晶性樹脂および非晶性樹脂の混合割合は、結晶性樹脂100質量部に対して、非晶性樹脂が10質量部以上80質量部以下の範囲であることが好ましい。非晶性樹脂が10質量部以上80質量部以下の範囲では、乾燥による収縮率を低減する効果が高く接着フィルムのカールを確実に抑制することが可能であり、高い耐熱性を確保できる。
【0044】
上記樹脂を溶解させる有機溶媒としては、中間接着層3にハロゲンを残存させない非ハロゲン系有機溶媒を用いる。非ハロゲン系有機溶媒は、結晶性樹脂の共重合ポリアミドを溶解できるものであれば、特に限定されない。結晶性樹脂を溶解する溶媒であれば、非晶性樹脂も容易に溶解することができる。非ハロゲン系有機溶媒としては、沸点が、室温において140℃以下であることが好ましい。中間接着層3は、中間接着層の塗布液が絶縁フィルム2に塗布された後に乾燥されて有機溶媒が除去されることで形成される。乾燥に際しては有機溶媒の沸点以上の温度で乾燥されることになるが、用いる有機溶媒の沸点が140℃よりも高いと、乾燥時間が長くなるばかりか熱によって絶縁フィルムの変形を生じさせるおそれがある。
【0045】
非ハロゲン系有機溶媒としては、例えば、トルエンまたはメチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒(非極性溶媒)と、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、またはn−プロパノールなどのアルコール類(極性溶媒)と、の混合溶媒を用いることが好ましい。これは、結晶性樹脂の共重合ポリアミドに対して単独ではほとんど溶解性を示さない炭化水素系溶媒およびアルコール類を混合することで、樹脂の溶解性を向上できるためである。混合溶媒の混合比としては、例えば「トルエン:アルコール類=95:5〜10:90」、「メチルシクロヘキサン:n−プロパノール=60:40〜20:80」の範囲とすることができる。
【0046】
また、中間接着層の塗布液には難燃剤を添加するが、ハロゲンを含まないノンハロゲン難燃剤を添加する。その添加量は、上記結晶性樹脂と非晶性樹脂との混合樹脂組成物100質量部に対して、100質量部以上250質量部以下となっている。添加量が100質量部よりも少ないと、接着フィルムの難燃性を十分得ることが困難となる。一方、250質量部よりも多いと、絶縁フィルムおよび接着層と中間接着層との接着力を十分に保持することが困難となる。
【0047】
ノンハロゲン難燃剤としては、リン化合物、窒素化合物、金属化合物を用いることができる。リン化合物として、リン酸金属塩、リン酸塩、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物を用いることができる。また、窒素化合物として、硫酸メラミン、グアニジン化合物、メラミン化合物、1,3,5−トリアジン誘導体を用いることができる。また、金属化合物として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、硼酸カルシウム、硫化亜鉛を用いることができる。これらのノンハロゲン難燃剤は、単独または2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、中間接着層の塗布液にカルボジイミド化合物を添加することが好ましい。カルボジイミド化合物は、1分子中のカルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも2個有する化合物である。カルボジイミド化合物によれば、形成される中間接着層の共重合ポリアミドおよび絶縁フィルムの活性水素を反応させて、接着力を向上することができる。
カルボジイミド化合物としては、結晶性樹脂の共重合ポリアミドを溶解させる有機溶媒に可溶であるものを用いることができる。このようなカルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トリルカルボジイミド、又はヘキサメチレンジイソシナネート或いは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートから上記の方法で合成して得られるカルボジイミド系化合物やカルボジイミド系化合物の骨格を有する誘導体などがあげられる。
【0049】
カルボジイミド化合物の添加量は、上記混合樹脂組成物100質量部に対して、2.5質量部以上15質量部以下であることが好ましく、5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。カルボジイミド化合物の添加量が2.5質量部より少ないと、中間接着層と絶縁フィルムとの接着性を十分に向上することが困難となる。一方、15質量部よりも多いと、かえって接着性が低下することになる。
【0050】
続いて、中間接着層の塗布液を絶縁フィルム2に塗布し、乾燥することによって、中間接着層3を形成する。
中間接着層3は、絶縁フィルム2と接着層4との間に介在し、耐熱性や難燃性などを有する樹脂層となる。中間接着層3は、非ハロゲン系有機溶媒に可溶な混合樹脂組成物から構成されており、ハロゲンが残存していない。また、中間接着層3は乾燥により収縮が生じるが、結晶性樹脂の共重合ポリアミドに非晶性樹脂が導入されているため、収縮による応力が緩和されている。この結果、絶縁フィルム2はカールの発生が抑制される。なお、中間接着層3においては、含有量の多い結晶性樹脂である共重合ポリアミドに対して、比較的含有量の少ない非晶性樹脂が分散し、分散相を形成しているものと考えられる。
【0051】
中間接着層3の厚さとしては、絶縁フィルム2の厚さよりも厚いことが好ましい。絶縁フィルム2の厚さよりも薄いと、接着フィルムとしての難燃性を得ることが困難となる。中間接着層3の厚さとしては、例えば、13μm以上であることが好ましい。
【0052】
続いて、接着層4を構成する樹脂を非ハロゲン有機溶媒に溶解して接着層の塗布液を調整する。
【0053】
接着層4を構成する樹脂としては、非ハロゲン系有機溶媒に可溶である樹脂であれば、特に限定されず、非結晶性の熱可塑性ポリウレタン、非晶性ポリエステル、結晶性または非結晶性の共重合ポリアミドを用いることができる。これらの樹脂は、本発明の接着フィルムで平型導体を被覆し、フラットケーブルとした際に、導体を構成する銅、錫めっき銅との良好な接着性を有する。この中でも、溶媒可溶性に優れ、導体との接着性も良好な非晶性ポリエステルを特に好適に用いることができる。
【0054】
また、上記樹脂としては、沸点が120℃以下の非ハロゲン系有機溶媒に可溶な樹脂を用いることが好ましい。接着層4を構成する樹脂は有機溶媒に溶解され、接着層の塗布液として調整されて、中間接着層3に塗布される。その後、接着層の塗布液が乾燥されて溶媒が除去されることによって、接着層4が形成される。この過程において、有機溶媒は沸点以上で乾燥されるが、用いる有機溶媒の沸点が120℃よりも高いと、乾燥時間が長くなり、熱によって、下地となる中間接着層3や基材の絶縁フィルム2に変形が生じるおそれがある。このため、接着層4に用いる樹脂としては、沸点が120℃以下の非ハロゲン系有機溶媒に可溶な樹脂を用いることが好ましい。なお、沸点が120℃以下の非ハロゲン系有機溶媒としては、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノールを用いることができる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0055】
接着層4は、中間接着層3と同様にして、ノンハロゲン難燃剤を含有してもよい。ノンハロゲン難燃剤の種類としては、中間接着層に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0056】
また、接着層4における難燃剤の含有量は、中間接着層3の含有量よりも少ないことが好ましい。図3に示すように、接着層4は、フラットケーブル10において、導体5に接着するとともに、耐熱性や難燃性を有する中間接着層3よりも内部に位置し被覆されている。つまり、接着層4は中間接着層3に保護されており、接着層4には高い難燃性が必要とされない。このため、接着層4においては、難燃剤の含有量を低減することによって導体5との接着性を向上することができる。したがって、接着層4に含まれるノンハロゲン難燃剤の含有量は、接着層4を構成する樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましい。5質量部よりも少ないと、接着層4の難燃性を十分に得ることは困難となるが、中間接着層3に十分な難燃性が付与される場合にはその限りではない。一方、100質量部よりも多いと、導体5と密着することになる接着層4の接着力を十分に得ることが困難となる。
【0057】
続いて、接着層の塗布液を中間接着層3に塗布し、乾燥することによって、接着層4を形成し、本実施形態の接着フィルム1を得る。
接着層4は、中間接着層3上に形成される樹脂層であって、フラットケーブル10においては、導体5に接着し、中間接着層3よりも内部に位置する部材である。形成される接着層4の厚さは、絶縁フィルム2の厚さよりも薄いことが好ましい。絶縁フィルム2の厚さよりも厚いと、接着フィルム1としての難燃性を得ることが困難となる。接着層1の厚さとしては、例えば、絶縁フィルム2の厚さを12μmとした場合、18μm以上45μm以下とすることが好ましい。
【0058】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0059】
本実施形態の接着フィルムにおいては、絶縁フィルムと接着層との間に中間接着層が介在している。つまり、従来の接着フィルムにおける接着層が中間接着層および接着層の2層構造となっている。しかも、中間接着層が、結晶性樹脂の共重合ポリアミドおよび非晶性樹脂の混合樹脂組成物からなっている。この構成によれば、結晶性樹脂および非晶性樹脂を含む中間接着層は、乾燥時の結晶化によって結晶性樹脂が大きく収縮するが、混合される非晶性樹脂が収縮にともなう応力を分散・緩和して、中間接着層の過度の収縮を抑制する。その結果、接着フィルムは、中間接着層における収縮が抑制されて、カールが抑制される。
【0060】
また、本実施形態の接着フィルムにおいて、中間接着層は、融点が100℃以上150℃以下の結晶性樹脂の共重合ポリアミドを含むため、耐熱性に優れている。しかも、共重合ポリアミドが非ハロゲン系有機溶媒に可溶であるため、中間接着層にはハロゲンが残存しない。
【0061】
また、本実施形態の接着フィルムは、フラットケーブルにおいて、外側に位置することになる中間接着層と、中間接着層の内側に位置して被覆保護されることになる接着層と、の2層構造となっている。この構成によれば、中間接着層および接着層のそれぞれに含まれる難燃剤の含有量を変更することができる。つまり、高い難燃性が要求される中間接着層には、所定量の難燃剤を含有させる一方、中間接着層と比較して高い難燃性が要求されない接着層には、難燃剤の含有量を低減することができる。そして、難燃剤の含有量の低減にともなって接着層の接着性を向上することができる。すなわち、本実施形態の接着フィルムは、接着層における難燃剤の含有量が限定されないため、含有量を低減することによって、接着層の接着性を向上することができる。
【0062】
また、本実施形態の接着フィルムは、難燃剤としてノンハロゲン難燃剤を含有するため、ハロゲンを含有しない。
【0063】
このように、本実施形態の構成によれば、ハロゲンを含まず、耐熱性、難燃性、および接着性に優れ、カールの抑制された接着フィルムとすることができる。
【0064】
上記実施形態において、絶縁フィルムの厚さTa、接着層の厚さTb、および中間接着層の厚さTcが、Tc>Ta>Tbの関係を満足することが好ましい。中間接着層の厚さTcが薄すぎると、収縮による応力を十分に緩和することが困難となるばかりか、耐熱性や難燃性が低下することになる。
【0065】
なお、本発明において、接着層および中間接着層に、酸化防止剤、銅害防止剤、ブロッキング防止剤、着色剤、増粘剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加水分解防止剤を適宜加えることができる。また、本発明においては、中間接着層が、絶縁フィルムと接着層との接着性を向上させている。このため、従来、接着性の向上に必要とされたプライマー層を必要としない。
【0066】
(フラットケーブル)
次に、本発明の一実施形態にかかるフラットケーブルについて説明する。図2および図3に示すように、フラットケーブル10は、上記で得られる1対の接着フィルム1a、1bの1対が、接着層4a、4bを対向させて、導体5を挟んで一体化されている。接着層4a、4bの一体化は、ラミネートなどにより接着層4a、4b同士を固着する。
【0067】
本実施形態のフラットケーブルにおいては、カールの抑制された水平な接着フィルムの一対が、導体を挟んで貼りあわされ一体化されている。このため、フラットケーブルは、カールが抑制されており、外観の良好なケーブルとなっている。
【実施例】
【0068】
以下の方法および条件で、本発明にかかる実施例の接着フィルムおよびフラットケーブルを製造した。これらの実施例は、本発明にかかる接着フィルムおよびフラットケーブルの一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0069】
まず、中間接着層の塗布液を調整した。中間接着層を構成する樹脂(ベース樹脂)には、結晶性樹脂の共重合ポリアミド(TPAE31、融点114℃、富士化成工業製)と、非晶性樹脂の共重合ポリアミド(TPAE617、融点なし、富士化成工業製)と、を用いた。TPAE31を90質量部、TPAE617を10質量部混合し、これらの混合樹脂組成物(合計100質量部)を、トルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=60:40)に溶解させた。さらに、混合溶媒中に、ノンハロゲン難燃剤であるリン酸金属塩(Exolit OP935、Clariant製)を100質量部、カルボジイミド化合物(V-03、日清紡ケミカル製)を5質量部添加して、表1に示す、中間接着層の組成1の塗布液(接着剤1)を調整した。なお、結晶性樹脂の共重合ポリアミドとしてTPAE31を用いたが、TPAE31の結晶融解熱量は5J/g〜35J/gの範囲であった。また、非晶性樹脂としてTPAE617を用いたが、TPAE617の結晶融解熱量は0J/gであった。結晶融解熱量は、示差走査熱量分析装置(DSC:Differential Scanning Calorimetry)(Q200:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、昇温速度10℃/min、乾燥窒素雰囲気で測定した。
【0070】
【表1】
【0071】
また、上記接着剤1と同様にして、表1に示す組成2〜18の塗布液(接着剤2〜18)を調整した。接着剤2〜18では、結晶性樹脂および非晶性樹脂の種類やその添加量、難燃剤の種類やその添加量、添加剤としてのカルボジイミド化合物の種類、そして、炭化水素系溶媒とアルコールとの混合割合などを適宜変更している。
【0072】
結晶性樹脂としては、DSC装置において測定される結晶融解熱量が5J/g〜35J/gの範囲である共重合ポリアミドが用いられるが、実施例1で用いたTPAE31(融点114℃)の他、TPAE32(融点124℃)、TPAE33(融点106℃)、PA102A(融点146℃)(以上、富士化成工業製)を用いた。
【0073】
非晶性樹脂としては、DSC装置において測定される結晶融解熱量が0J/gである樹脂が用いられるが、実施例1で用いたTPAE617(融点なし)の他、TPAE617C(融点なし、富士化学工業製)などの共重合ポリアミドや、ポリエステルのエリテールUE3500(融点なし、ユニチカ製)、バイロン200(融点なし、東洋紡績製)を用いた。
【0074】
難燃剤としては、実施例1で用いたリン酸金属塩(ExolitOP935)の他、リン酸塩(FP2100J、アデカ製)、1,3,5−トリアジン誘導体(MC-5S、堺化学工業製)、硼酸カルシウム(UBP、キンセイマテック製)、錫酸亜鉛(アルカネックスZS、水澤化学製)、水酸化マグネシウム(キスマ5L、協和化学工業製)、水酸化アルミニウム(ハイジライトH−42S、昭和電工製)を用いた。添加剤としては、カルボジイミド化合物(V-05、V-07、V-09、以上、日清紡ケミカル製)を用いた。
【0075】
上記調整された接着剤1〜18の溶媒溶解性を評価した。接着剤1〜18の溶媒溶解性は、混合溶媒中に、ベース樹脂の固形分濃度が10重量%となるようにベース樹脂を添加したときに、ベース樹脂が溶解したかを評価した。具体的には、室温(25℃)において、炭化水素系溶媒のトルエンとアルコールとの混合比率が5:95〜95:5の範囲内にある混合溶媒に対して樹脂を添加して、樹脂が溶解しない場合を溶媒溶解性不合格(不良)とした。上記接着剤1〜18を評価したところ、樹脂が混合溶媒に溶解したため、溶媒溶解性は良好であることがわかった。
【0076】
また、上記接着剤1〜18からなる樹脂層の耐熱性を評価した。耐熱性は、平滑なアルミ板上に、中間接着層用の接着剤1を塗布し、25μmの樹脂層を形成した。その上から、先端部の長さ3mm、直径1mmの円柱状のアルミ棒を1MPaの圧力がかかるように荷重をかけ、そのまま85℃の恒温槽に24時間保持する。そして、24時間後にアルミ板とアルミ棒間に導通しなければ耐熱性合格とした。
接着剤1から形成される樹脂層の耐熱性を評価したところ、耐熱性に優れることがわかった。接着剤1と同様にして、接着剤2〜18についても測定したところ、いずれの樹脂層においても、耐熱性に優れることがわかった。
【0077】
また、上記接着剤1〜18からなる樹脂層の耐カール性を評価した。耐カール性は、表1に記載の接着剤1〜18からなる樹脂層のカール(反り)を評価した。5cm四方の正方形のPETフィルム(厚さ25μm)上に、接着剤1〜18を塗布厚さが30μmとなるように塗布し乾燥して樹脂層を形成する。形成された樹脂層がカールして、正方形のPETフィルムの対角または対辺同士が触れなければ、耐カール性合格とした。
接着剤1〜18からなる樹脂層の耐カール性を評価したところ、表1に示すように、乾燥されて結晶化することにより収縮するが、収縮にともなう応力が緩和されており、PETフィルムの対角または対辺同士の接触が確認されなかった。以上の評価結果を表1に示す。
【0078】
次に、中間接着層上に形成される接着層に用いる塗布液を調整した。接着層の塗布液のベース樹脂には、ポリエステル樹脂としての、バイロン670(融点なし)、バイロン200(融点なし)(以上、東洋紡績製)を用いた。このベース樹脂をトルエンに溶解し、さらに、ノンハロゲン難燃剤である水酸化マグネシウムのキスマ5L(協和化学工業製)を添加して、接着層の塗布液(接着剤A)を調整した。接着剤Aの調整条件を表2に示す。また、接着剤Aと同様にして、表2に示す組成B〜Dの塗布液(接着剤B〜D)を調整した。接着剤B〜Dは、その樹脂組成や難燃剤、有機溶媒の種類を変更する以外は、接着剤Aと同様に調整した。
接着剤1〜18と同様にして、接着剤B〜Dに含まれるベース樹脂の溶媒溶解性を確認したところ、表2に示すように、いずれも優れることがわかった。
【0079】
【表2】
【0080】
(実施例1)
続いて、中間接着層用の接着剤1、および接着層用の接着剤Aを用いて、実施例1の接着フィルムを製造した。実施例1では、絶縁フィルムとして、厚さ12μmのPETフィルム(ルミラー、東レ製)を用いた。このPETフィルムのコロナ処理表面に、スロットダイコーターを用いて、上記接着剤1を塗布し、温度120℃で乾燥して、厚さ24μmの中間接着層を形成した。形成された中間接着層上に、スロットダイコーターを用いて、接着層用の接着剤Aを塗布し、温度120℃で乾燥して、厚さ4μmの接着層を形成することによって、実施例1の接着フィルムを製造した。接着フィルムの製造条件を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
次に、上記接着フィルムを用いて、フラットケーブルを製造した。本実施例では、導体として、幅0.3mm、厚さ35μmの錫めっき平角軟導体を用いた。この導体を0.5ピッチで50本並列に配置した後、これらの導体の上下面を、1対の接着フィルムの接着層で対向するように配置し、ラミネートして一体化して、本実施例のフラットケーブルを製造した。
【0083】
製造されたフラットケーブルの難燃性および接着性を評価した。
【0084】
難燃性は、UL758AWMに基づき、UL VW−1を実施して評価した。具体的には、フラットケーブルを5本用意して、5本合格したものを◎,3〜4本合格したものを○,1〜2本合格したものを△,全部不合格のものを×とした。実施例1のフラットケーブルは、5本全部合格し、難燃性に優れることがわかった。
【0085】
また、接着性は、端子部について錫めっき平角軟導体の180°剥離試験(引張速度:50cm/min)を行い、剥離強さを測定し評価した。剥離強さが0.7kN/m以上を◎、0.6kN/m以上0.7kN/m未満を○、0.5kN/m以上0.6kN/m未満を△、0.5kN/m未満を×とした。実施例1のフラットケーブルは、剥離強さが0.7kN/m以上で、接着性に優れることがわかった。以上の評価結果を表3に示す。
【0086】
(実施例2〜18)
実施例2〜18では、実施例1の中間接着層の接着剤1と、接着層の接着剤Aと、の組み合わせを変更する以外は、実施例1と同様にして接着フィルムおよびフラットケーブルを製造した。接着フィルムの製造においては、表3に示すように、中間接着層用の接着剤2〜18と、接着層用の接着剤A〜Dと、を適宜組み合わせた。また、中間接着層や接着層の膜厚を適宜変更することによって、実施例2〜18における接着フィルムおよびフラットケーブルを製造した。
【0087】
実施例2〜18で製造されたフラットケーブルの難燃性および接着性を、実施例1と同様にして評価したところ、表3に示すように、いずれのフラットケーブルも難燃性および接着性に優れていることがわかった。なお、実施例1〜18において、難燃性が◎と○とで異なる場合があるが、これは単位体積当たりの可燃物(絶縁フィルム、樹脂)に対する難燃剤の割合が異なるためである。また、実施例17および18は、実施例1〜16と比較して接着性が低下しているが、これは、中間接着層に用いる接着剤において、結晶性樹脂と非晶性樹脂との混合割合、およびカルボジイミド化合物の添加量が異なっているためと考えられる。
【0088】
(比較例1〜4)
比較例1〜4では、実施例1の中間接着層用の接着剤1を、表4に示す組成19〜22の接着剤(接着剤19〜22)に変更しただけで、その他の条件については、実施例1と同様にして、接着フィルムおよびフラットケーブルを製造した。
【0089】
【表4】
【0090】
(比較例1)
比較例1では、表4に示す組成19の塗布液(接着剤19)により中間接着層を製造した。接着剤19は、ベース樹脂として、結晶性樹脂である共重合ポリアミド(TPAE32、融点124℃、富士化成工業製)のみを含有している。この樹脂100質量部を、トルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=80:20)に溶解して、調整した。実施例1と同様に、接着剤19の溶媒溶解性を調べたところ、表4に示すように、この接着剤19に用いられるベース樹脂は溶媒溶解性を示すことがわかった。
【0091】
また、接着剤19からなる樹脂層の耐熱性および耐カール性を調べたところ、耐熱性を有するが、耐カール性を有さないことがわかった。これは、接着剤19には収縮率の大きな結晶性樹脂だけが含まれており、形成される樹脂層は乾燥に際して大きく収縮するため、耐カール性を示さない。この接着剤19を接着フィルムに用いた場合、絶縁フィルムには、接着剤19の収縮にともなう応力によって反りが生じ、製造される接着フィルムはカールした状態となる。
【0092】
また、表5に示す条件で、比較例1の接着フィルムからフラットケーブルを製造した。比較例1のフラットケーブルは、カールの生じた接着フィルムを用いて製造されたため、カールしており、外観が不良であった。また、難燃性には優れていたが、接着性がわずかに低下していた。接着性の低下の原因としては、接着フィルムをラミネートして貼り合わせようとしても、カールした接着フィルムでは導体などとの接着が妨げられるためと考えられる。
【0093】
【表5】
【0094】
(比較例2)
比較例2では、表4に示す組成20の塗布液(接着剤20)により中間接着層を製造した。接着剤20は、結晶性の共重合ポリアミド(PA100、融点84℃、富士化成工業製)80質量部と、非晶性の共重合ポリアミド(TPAE617、融点なし、富士化成工業製)20質量部と、の混合樹脂を、トルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=80:20)に溶解して、調整した。なお、接着剤20には、カルボジイミド化合物は添加しなかった。
実施例1と同様に、接着剤20の溶媒溶解性を調べたところ、表2に示すように、この接着剤20に用いられるベース樹脂は溶媒溶解性を示すことがわかった。また、接着剤20からなる樹脂層の耐熱性および耐カール性を調べたところ、耐カール性を有するが、耐熱性を有さないことがわかった。これは、接着剤20中に含まれる結晶性樹脂の融点が84℃であって、100℃よりも低かったためである。また、比較例2の接着フィルムから製造されたフラットケーブルは、用いられる接着フィルム自体の耐熱性が低いため、耐熱性に劣ることがわかった。
【0095】
(比較例3)
比較例3では、表4に示す組成21の塗布液(接着剤21)により中間接着層を製造した。接着剤21は、結晶性の共重合ポリアミド(TPAE8、融点153℃、富士化成工業製)80質量部と、非晶性の共重合ポリアミド(TPAE617、融点なし、富士化成工業製)20質量部と、の混合樹脂を、トルエンと各種アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)をトルエン:アルコール類=95:5〜5:95の範囲で混合した溶媒に溶解した。しかし、混合樹脂は混合溶媒に溶解せず、接着剤21は溶媒溶解性を満足できなかった。この理由は、接着剤21に含まれる結晶性樹脂の融点が150℃よりも高く、樹脂中の結晶の量が多いため、つまり結晶融解熱量が高い(約40J/g)ためと考えられる。なお、比較例3では、混合樹脂を溶解できず、中間接着層を形成できなかったため、接着フィルム及びフラットケーブルの製造は行わなかった。
【0096】
(比較例4)
比較例4では、表2に示す組成22の塗布液(接着剤22)により中間接着層を製造した。接着剤22は、非晶性の共重合ポリアミド(TPAE617、融点なし、富士化成工業製)80質量部と、非晶性のポリエステルと(バイロン200、融点なし、東洋紡績製)、の混合樹脂を、トルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=80:20)に溶解して、調整した。なお、接着剤22には、カルボジイミド化合物は添加しなかった。
実施例1と同様に、接着剤22の溶媒溶解性を調べたところ、表2に示すように、この接着剤22に用いられるベース樹脂は溶媒溶解性を示すことがわかった。また、接着剤22からなる樹脂層の耐熱性および耐カール性を調べたところ、耐カール性を有するが、耐熱性を有さないことがわかった。これは、接着剤22には耐熱性の低い非晶性樹脂のみが含まれているためである。また、比較例4の接着フィルムから製造されたフラットケーブルは、難燃剤の含有量が100質量部よりも少ないため、難燃性を満足することができなかった。
【符号の説明】
【0097】
1 接着フィルム
2 絶縁フィルム
3 中間接着層
4 接着層
5 導体
10 フラットケーブル
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6