(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(1)の加水分解性基Xが、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のディスプレイをはじめ、画面のタッチパネル化が加速している。しかし、タッチパネルは画面がむき出しの状態であり、指や頬などが直接付着する機会が多く、皮脂等の汚れが付き易いことが問題となっている。そこで、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落とし易くする技術の要求が年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれている。しかし、従来の撥水撥油層は撥水撥油性が高く、汚れ拭取り性に優れるが、使用中に防汚性能が劣化してしまうという問題点があった。防汚性能の劣化原因のひとつとして、耐熱性が挙げられる。
【0003】
一般に、パーフルオロオキシアルキレン基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、工業的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性であることを意味しており、基材表面に塗布することはできても、その被膜を密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとして、シランカップリング剤が良く知られており、各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基が、空気中の水分などによって自己縮合反応を起こして被膜を形成する。該被膜は、アルコキシシリル基がガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することにより耐久性を有する強固な被膜となる。
【0005】
これらを有するものとして、特許文献1(特開2012−072272号公報)に、下記式を主成分として含むフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物が提案されている。該パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランで処理したレンズや反射防止膜は、滑り性、離型性、及び耐摩耗性に優れるが、耐熱性が十分でない。
【0006】
【化1】
(式中、Rf基は−(CF
2)
d−(OC
2F
4)
e(OCF
2)
f−O(CF
2)
d−であり、Aは末端が−CF
3基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2〜8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1〜6の整数、cは1〜5の整数であり、αは0または1であり、dはそれぞれ独立に0または1〜5の整数、eは0〜80の整数、fは0〜80の整数であり、かつ、e+f=5〜100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性に優れた撥水撥油層を形成することができるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン、該シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
タッチパネルディスプレイ等の表面に被覆する撥水撥油層に長期耐久性を付与させる際、耐熱性が必要である。本発明者らは先に、上述したように、両末端に加水分解性基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを主成分として含むフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を提案している(特開2012−072272号公報:特許文献1)が、該組成物から形成される膜は、耐熱性が十分でない。
主鎖にフルオロオキシアルキレン構造を有し、分子鎖の片末端又は両末端に加水分解性基を含有するポリマーは、これを表面処理剤として用いた場合に、基材と強固に密着し、布等による耐摩耗性に優れるものとなるが、フルオロオキシアルキレン基とアルコキシシリル基との連結基、例えば、−CF
2CH
2−O−CH
2−のエーテル結合等は、耐熱性に劣る。
そこで、本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、上記連結基として、−CF(CF
3)−CON(CH
3)−Ph−(Phはフェニレン基)を用いたフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを含有する表面処理剤が、耐熱性に優れた撥水撥油層を形成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び該シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品を提供する。
〔1〕
下記一般式(1)
【化2】
(式中、Rfは1価又は2価の直鎖のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、bは平均して0〜10であり、Zは独立に
ジオルガノシリレン基、ジオルガノシリレン基相互がアルキレン基を介して結合している基、ケイ素原子2〜10個の直鎖状、分岐状又は環状オルガノポリシロキサン残基、及び該シロキサン残基とジオルガノシリレン基がアルキレン基を介して結合している基から選ばれるシロキサン結合を有してもよい2〜6価の基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に加水分解性基であり、aは独立に2又は3、yは単位毎に独立に1〜5の整数であり、αは1〜5の整数、βは1又は2である。)
で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
〔2〕
前記式(1)のβが1であり、Rf基が下記一般式(2)で示される基であることを特徴とする〔1〕記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【化3】
(式中、p、q、r、sはそれぞれ0〜200の整数で、p+q+r+s=3〜200であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
〔3〕
前記式(1)のβが2であり、Rf基が下記一般式(3)で示される基であることを特徴とする〔1〕記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
【化4】
(式中、p、q、r、sはそれぞれ0〜200の整数で、p+q+r+s=3〜200であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
〔4〕
前記式(1)において
、Rfの分子量が、分岐鎖パーフルオロポリエーテル部分−(CF(CF
3)CF
2O)
b−の分子量より大きい、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
〔5〕
前記式(1)の加水分解性基Xが、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基及びハロゲン基からなる群より選ばれる、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン。
〔6〕
〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。
〔7〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理された物品。
〔8〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理された光学物品。
〔9〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理されたタッチパネル。
〔10〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理された反射防止フイルム。
〔11〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理されたSiO
2処理ガラス。
〔12〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理された強化ガラス。
〔13〕
〔6〕に記載の表面処理剤で処理された石英基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランから形成される被膜は、撥水撥油性が高い。本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤で処理することによって、各種物品に優れた撥水撥油性を付与することができ、熱に対する耐性が高く、長期に防汚性能を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランは、下記一般式(1)で示されるものである。
【化5】
(式中、Rfは1価又は2価の直鎖のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、bは平均して0〜10であり、Zは独立にシロキサン結合を有してもよい2〜6価の基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に加水分解性基であり、aは独立に2又は3、yは単位毎に独立に1〜5の整数であり、αは1〜5の整数、βは1又は2である。)
【0013】
本発明のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランは、1価又は2価の直鎖のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基(−Si(R)
3-a(X)
a)が、連結基−CF(CF
3)−CON(CH
3)−Ph−(Phはフェニレン基、以下同じ。)を介して結合した構造であることを特徴としており、上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基(−Si(R)
3-a(X)
a)が、エーテル結合や、−CF
2−CONH−結合、−CF
2−CONPh−CH
2−結合等を介して連結している場合に比較して耐熱性に優れている。
【0014】
上記繰り返し単位を含むRfとして、βが1の場合、下記一般式(2)で示される1価のフルオロオキシアルキレン基が好ましい。
【化6】
(式中、p、q、r、sはそれぞれ0〜200、好ましくは10〜100の整数で、p+q+r+s=3〜200、好ましくは10〜100であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0015】
上記繰り返し単位を含むRfとして、βが2の場合、下記一般式(3)で示される2価のフルオロオキシアルキレン基が好ましい。
【化7】
(式中、p、q、r、sはそれぞれ0〜200、好ましくは10〜100の整数で、p+q+r+s=3〜200、好ましくは10〜100であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0016】
Rfとして、具体的には、下記のものを例示することができる。
【化8】
(式中、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0017】
また、Rfとしては、Rfの分子量が、分岐鎖パーフルオロポリエーテル部分−(CF(CF
3)CF
2O)
b−(bは平均して0〜10であり、2〜6であることが好ましい。)の分子量よりも大きいことが滑り性の点から好ましい。なお、上記分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析によるポリスチレン換算数平均分子量として求めることができる。
【0018】
上記式(1)において、Zは末端に
【化9】
で示される構造(bは平均して0〜10である)を有するRf基とアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を含む加水分解性シリルアルキル基(−C
yH
2y−Si(R)
3-a(X)
a)とを有する、シロキサン結合を有してもよい2〜6価、好ましくは2〜4価の連結基であり、エーテル結合等の耐熱性が悪い連結基は含まれないことが望ましい。分子中にシロキサン結合を有することにより耐摩耗性、耐擦傷性に優れたコーティングを与えることができる。好ましいZとしては、ジオルガノシリレン基、ジオルガノシリレン基相互がアルキレン基を介して結合している基、ケイ素原子数が2〜10個、好ましくは2〜9個、特に2〜6個の直鎖状、分岐状又は環状オルガノポリシロキサン残基、該シロキサン残基とジオルガノシリレン基がアルキレン基を介して結合している基であり、例えば下記の基が挙げられる。
【0022】
上記式(1)において、Xは互いに異なっていてよい加水分解性基である。このようなXとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0023】
上記式(1)において、Rは、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から3が好ましい。yは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。
また、αは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。
【0024】
上記式(1)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランとしては、下記式で表されるものが例示できる。なお、各式において、フルオロオキシアルキレン基を構成する各繰り返し単位の繰り返し数(又は重合度)は、上記式(2),(3)を満足する任意の数をとり得るものである。
【0027】
上記式(1)で表され、βが1の場合のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの調製方法としては、例えば下記のような方法が挙げられる。
分子鎖片末端に酸フロライド基(−C(=O)−F)を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと、フッ化セシウム、溶剤の1種又は2種以上を混合し、40〜80℃、好ましくは60℃で20〜120分、好ましくは30分加熱した後、20〜60℃、好ましくは25℃で2〜48時間、好ましくは16時間熟成する。この際、溶剤としては、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤を用いることができる。続いて、−25〜−40℃、好ましくは−38℃に冷却後、パーフルオロオレフィンを添加して1〜10時間、好ましくは3時間熟成、更にヘキサフルオロプロピレンオキシドを添加して1〜10時間、好ましくは3時間熟成する。この際、分岐鎖パーフルオロポリエーテル(−CF(CF
3)CF
2O)
b−)の長さはヘキサフルオロプロピレンオキシドの供給量に依存する。ここで、パーフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、オクタフルオロブテン、オクタフルオロイソブテン、デカフルオロイソペンテン、ドデカフルオロイソヘキセンなどが使用できる。その後、ヘプタンと混合したトリメチルクロロシランを添加し、20〜60℃、好ましくは25℃で30分〜3時間、好ましくは1時間混合する。この際、ヘプタンの代わりに、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン等の炭化水素系溶剤が使用可能であり、また、トリメチルクロロシランの代わりに、例えば、トリエチルクロロシラン、ブチルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、トリフェニルクロロシランなどのクロロシランを使用することができる。得られた混合物をろ過した後、有機溶剤層とフッ素化合物層を分離し、減圧下、残存溶剤を留去することで、例えば下記に示すような分子鎖片末端に酸フロライド基(−C(=O)−F)を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。例えば、パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとして、
【化15】
を使用した場合には、下記構造のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。
【化16】
【0028】
次に、上記工程で得られた化合物と、下記式
【化17】
で示されるN−メチル−[3−(ビニルジメチルシリル)]アニリンを酸フロライドに対し、1〜3当量、好ましくは1.2当量フラスコに入れ、トリエチルアミンを混合し、40〜80℃、好ましくは60℃で30分〜5時間、好ましくは2時間反応させる。この際、トリエチルアミンの代わりに、例えば、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、ジエチルイソプロピルアミンなどの3級アミンを使用することができる。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去することで、下記に示す分子鎖片末端に脂肪族不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを得る。この際、炭酸カルシウムの代わりに、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩を使用することができる。
【化18】
【0029】
次に、上記工程で得られた化合物を溶剤、例えば、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンに溶解させ、トリメトキシシラン等の、分子中にSiH基を1個有すると共に、アルコキシ基等の加水分解性基を2個又は3個有するシラン化合物を、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液存在下、40〜120℃、好ましくは80℃で1〜24時間、好ましくは4時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、例えば下記式で示されるような目的の化合物を得ることができる。
【化19】
【0030】
上記式(1)で表され、βが2の場合のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの調製方法としては、例えば下記のような方法が挙げられる。
分子鎖両末端に酸フロライド基(−C(=O)−F)を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーと、フッ化セシウム、溶剤の1種又は2種以上を混合し、40〜80℃、好ましくは60℃で20〜120分、好ましくは30分加熱した後、20〜60℃、好ましくは25℃で2〜48時間、好ましくは16時間熟成する。この際、溶剤としては、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤を用いることができる。続いて、−25〜−40℃、好ましくは−38℃に冷却後、パーフルオロオレフィンを添加して1〜10時間、好ましくは3時間熟成、更にヘキサフルオロプロピレンオキシドを添加して1〜10時間、好ましくは3時間熟成する。この際、分岐鎖パーフルオロポリエーテル(−CF(CF
3)CF
2O)
b−)の長さはヘキサフルオロプロピレンオキシドの供給量に依存する。ここで、パーフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、オクタフルオロブテン、オクタフルオロイソブテン、デカフルオロイソペンテン、ドデカフルオロイソヘキセンなどが使用できる。その後、ヘプタンと混合したトリメチルクロロシランを添加し、20〜60℃、好ましくは25℃で30分〜3時間、好ましくは1時間混合する。この際、ヘプタンの代わりに、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン等の炭化水素系溶剤が使用可能であり、また、トリメチルクロロシランの代わりに、例えば、トリエチルクロロシラン、ブチルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、トリフェニルクロロシランなどのクロロシランを使用することができる。得られた混合物をろ過した後、有機溶剤層とフッ素化合物層を分離し、減圧下、残存溶剤を留去することで、例えば下記に示すような分子鎖両末端に酸フロライド基(−C(=O)−F)を有するパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。例えば、パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとして、
【化20】
を使用した場合には、下記構造のパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。
【化21】
【0031】
次に、上記工程で得られた化合物と下記式
【化22】
で示されるN−メチル−[3−(ビニルジメチルシリル)]アニリンを酸フロライドに対し、2〜6当量、好ましくは2.4当量フラスコに入れ、トリエチルアミンを混合し、40〜80℃、好ましくは60℃で30分〜5時間、好ましくは2時間反応させる。この際、トリエチルアミンの代わりに、例えば、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、ジエチルイソプロピルアミンなどの3級アミンを使用することができる。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去することで、下記に示す分子鎖両末端に脂肪族不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーが得られる。この際、炭酸カルシウムの代わりに、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩を使用することができる。
【化23】
【0032】
次に、上記工程で得られた化合物を溶剤、例えば、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンに溶解させ、トリメトキシシラン等の、分子中にSiH基を1個有すると共に、アルコキシ基等の加水分解性基を2個又は3個有するシラン化合物を、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液存在下、40〜120℃、好ましくは80℃で1〜24時間、好ましくは4時間熟成させる。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、例えば下記式で示されるような目的の化合物を得ることができる。
【化24】
【0033】
本発明は、更に上記フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを含有する表面処理剤を提供する。該表面処理剤は、該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解し、縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
【0034】
表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、フッ素変性カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫、フッ素変性カルボン酸などが望ましい。
加水分解縮合触媒の添加量は触媒量であり、通常、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部である。
【0035】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(1,3−トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフルオライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0036】
上記溶剤はその2種以上を混合してもよく、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン及びその部分加水分解縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶剤に溶解させるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの最適濃度は、処理方法により異なり、秤量しやすい量であればよいが、直接塗工する場合は、溶剤及びフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン(及びその部分加水分解縮合物)の合計100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.05〜5質量部であることが好ましく、蒸着処理をする場合は、溶剤及びフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シラン(及びその部分加水分解縮合物)の合計100質量部に対して1〜100質量部、特に3〜30質量部であることが好ましい。
【0037】
本発明の表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。蒸着処理時の加熱方法は、抵抗加熱方式でも、電子ビーム加熱方式のどちらでもよく、特に限定されるものではない。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、刷毛塗りやディッピングで施与した場合は、20〜200℃の範囲が望ましい。硬化湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1〜20nm、特に10〜20nmである。
【0038】
本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は、前記基板に撥水撥油性を付与することができる。特に、SiO
2処理されたガラスやフイルムの表面処理剤として好適に使用することができる。
【0039】
本発明の表面処理剤で処理される物品としては、カーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品が挙げられる。本発明の表面処理剤は、前記物品に指紋及び皮脂が付着するのを防止し、更に傷つき防止性を付与することができるため、特にタッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなどの撥水撥油層として有用である。
【0040】
また、本発明の表面処理剤は、浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の防汚コーティング、自動車、電車、航空機などの窓ガラス又は強化ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング、外壁用建材の撥水撥油コーティング、台所用建材の油汚れ防止用コーティング、電話ボックスの防汚及び貼り紙・落書き防止コーティング、美術品などの指紋付着防止付与のコーティング、コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング、金型用に離型剤あるいは塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性改質剤又は分散性改質剤、テープ、フイルムなどの潤滑性向上剤としても有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
反応容器に、下記式(I)
【化25】
で表される化合物100g(1.6×10
-2mol)と、フッ化セシウム7.2g、テトラエチレングリコールジメチルエーテル44g、モノエチレングリコールジメチルエーテル14gを混合し、60℃で30分加熱した後、室温で16時間熟成した。続いて、−38℃に冷却後、ヘキサフルオロプロピレンを22分間で29gガス供給し、3時間熟成、更にヘキサフルオロプロピレンオキシドを54分間で16gガス供給し、3時間熟成した。その後、ヘプタン30gと混合したトリメチルクロロシラン12gを添加し、室温で1時間混合した。得られた混合物をろ過した後、有機溶剤層とフッ素化合物層を分離し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(II)
【化26】
で表されるパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー106gを得た。
【0043】
次に、上記工程で得られた式(II)で表される生成物145g(2.3×10
-2mol)と、下記式(III)
【化27】
で表される化合物5.3g(2.8×10
-2mol)をフラスコに入れ、ここに、トリエチルアミン2.8gを添加し、60℃で4時間反応させた。その後、炭酸カルシウムで中和し、溶剤を留去した。得られた生成物をフッ素系不活性溶剤PF5060(住友スリーエム社製)145gと混合し、アルカリ吸着剤であるキョーワード700SL(協和化学社製)1.5gを添加し、室温で1時間撹拌した。その後、ろ過によりキョーワード700SLを除去し、溶剤を留去した。続いて、分子蒸留装置により残存する低沸点成分を取り除き、PF5060 93g、酸吸着剤であるキョーワード500SH(協和化学社製)0.93gを添加し、室温で1時間撹拌した。ろ過によりキョーワード500SHを除去した後、溶剤を留去し、下記式(IV)
【化28】
で表される末端に不飽和結合を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー86gを得た。
【0044】
次に、上記工程で得られた式(IV)で表される化合物40g(7.2×10
-3mol)、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン20g、トリメトキシシラン1.1g(8.7×10
-3mol)、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10
-2g(Pt単体として5.3×10
-7molを含有)を混合し、80℃で4時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去した。続いて、分子蒸留装置により残存する高沸点成分を取り除いたところ、液状の生成物18gを得た。
【0045】
得られた化合物は、NMRにより下記式(V)の構造であることが確認された。
【化29】
【0046】
[実施例2]
実施例1で得られた式(IV)で表される化合物40g(5.3×10
-3mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン10gに溶解させ、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10
-2g(Pt単体として5.3×10
-7molを含有)と、1−[1又は2−(トリメトキシシリル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(HDTMS)1.8g(1.1×10
-2mol)を滴下して、80℃で4時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去した。続いて、分子蒸留装置により残存する高沸点成分を取り除いたところ、液状の生成物25gを得た。
【0047】
実施例2で得られた化合物は、NMRにより下記式(VI)の構造であることが確認された。
【化30】
【0048】
[実施例3]
実施例1で得られた式(IV)で表される化合物40g(5.3×10
-3mol)とテトラメチルシクロテトラシロキサン(環状シロキサンH4)6.4g(2.7×10
-2mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン40gに溶解させ、90℃まで加熱した。その後、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10
-2g(Pt単体として5.0×10
-7molを含有)を滴下して、90℃で3時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去した。得られた生成物をフッ素系不活性溶剤PF5060(住友スリーエム社製)20gと混合し、活性炭であるシラサギAS(日本エンバイロケミカルズ社製)0.80gを添加し、室温で1時間撹拌した。その後、ろ過によりシラサギASを除去し、溶剤を留去したところ、下記式(VII)で表される液状の生成物38gを得た。
【化31】
【0049】
次に、上記工程で得られた式(VII)で表される生成物38g(5.3×10
-3mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン21gに溶解させ、ビニルトリメトキシシラン(VMS)3.6g(2.4×10
-2mol)と塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10
-2g(Pt単体として5.0×10
-7molを含有)を滴下して、80℃で4時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去した。続いて、分子蒸留装置により残存する高沸点成分を取り除いたところ、液状の生成物19gを得た。
【0050】
実施例3で得られた化合物は、NMRにより下記式(VIII)の構造であることが確認された。
【化32】
【0051】
[実施例4]
実施例3で得られた式(VII)で表される生成物35g(5.5×10
-3mol)を1,3−トリフルオロメチルベンゼン18gに溶解させ、アリルトリメトキシシラン(ATMS)4.5g(2.8×10
-2mol)と塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10
-2g(Pt単体として5.0×10
-7molを含有)を滴下して、80℃で2時間熟成し、溶剤及び未反応物を減圧留去した。続いて、分子蒸留装置により残存する高沸点成分を取り除いたところ、液状の生成物17gを得た。
【0052】
実施例4で得られた化合物は、NMRにより下記式(IX)の構造であることが確認された。
【化33】
【0053】
[実施例5]
上記実施例1でヘキサフルオロプロピレンオキシドの添加量を32gとし、同様の反応工程を経て下記式(X)で表される生成物27gを得た。なお、各工程で得られた中間体は全量次工程の原料として使用した。
【化34】
【0054】
[比較例1、2]
比較例1、2の化合物を以下に示す。
【0055】
比較例1:
【化35】
【0056】
比較例2:
【化36】
【0057】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
実施例1〜5及び比較例1、2のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランを、濃度20質量%になるようにNovec 7200(3M社製)に溶解させて表面処理剤を調製した。最表面にSiO
2を10nm処理したガラス(コーニング社製 Gorilla)に、各表面処理剤10mgを真空蒸着し(処理条件は、圧力:2.0×10
-2Pa、加熱温度:700℃)、80℃、湿度80%の雰囲気下で12時間硬化させて膜厚15nmの硬化被膜を形成した。
【0058】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸に対する接触角(撥油性)を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
[滑り性(動摩擦係数)の評価]
上記にて作製したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の動摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
[耐熱性の評価]
上記にて作製したガラスを200℃、250℃に加熱し、室温に冷却した。その後、新東科学社製往復摩耗試験機HEIDON 30Sを用いてスチールウール(BONSTAR#0000)摩耗し、上記に示した撥水撥油性を評価した。上記の操作を、評価結果を硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)が100°以下になるまで行った。結果を表2,3に示す。
測定条件:
荷重 1kg/cm
2
擦り速度・距離 3,600mm/min・20mm
評価環境 25℃、50%RH
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
以上の結果より、エーテル結合を連結基に有する比較例1は耐熱性に劣る。また、末端基に分岐鎖パーフルオロポリエーテルを有する比較例2は耐熱性を有するものの滑り性に劣る。一方、連結基に−CF(CF
3)−CON(CH
3)−Ph−結合、末端基に直鎖パーフルオロポリエーテルを有する実施例は耐熱性、滑り性どちらにおいても優れていた。このように実施例の表面処理剤は、撥水撥油性、滑り性に優れ、且つ耐熱性に優れており、過度に熱せられた環境においても、膜の特性を維持することができる。