特許第5935751号(P5935751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935751
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】放熱基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20160602BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20160602BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   H01L21/02 C
   H01L27/12 B
   H01L21/265 Q
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-97584(P2013-97584)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-254944(P2013-254944A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-106758(P2012-106758)
(32)【優先日】2012年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】川合 信
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−231506(JP,A)
【文献】 特開2009−076694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/265
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層よりなる複合基板であり、表層(第一層)が単結晶シリコン、ハンドル基板(第二層)が窒化アルミニウム又は炭化ケイ素で構成されており、且つ中間層(第三層)が炭化ケイ素又はダイヤモンド、かつ第二層より熱伝導率の高い材料で構成されていることを特徴とする放熱基板。
【請求項2】
表層の厚さが1〜20μmであり、ハンドル基板の厚さが100〜750μmであり、中間層の厚さが1〜30μmであることを特徴とする請求項1記載の放熱基板。
【請求項3】
単結晶シリコンからなるシリコン層と、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素で構成されているハンドル基板と、炭化ケイ素又はダイヤモンド、かつハンドル基板より熱伝導率の高い材料で構成されている中間層とをシリコン層、中間層、ハンドル基板の積層構造となるように貼り合せた後、シリコン層を薄化して、表層となる第一層(シリコン層)、第三層(中間層)及び第二層(ハンドル基板)の3層の複合材料よりなる放熱基板とする放熱基板の製造方法。
【請求項4】
研削、研磨によりシリコン層を薄化することを特徴とする請求項記載の放熱基板の製造方法。
【請求項5】
イオン注入剥離法によりシリコン層を薄化することを特徴とする請求項記載の放熱基板の製造方法。
【請求項6】
上記貼り合せ前処理として、プラズマ活性化、イオンビーム処理又はオゾン処理を施すことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項記載の放熱基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い放熱性を有するシリコン複合基板からなる放熱基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン半導体デバイスはデザインルールの微細化に伴い、益々その性能が向上している。しかし、その反面、個々のトランジスターや、トランジスター間を接続する金属配線からの放熱が問題となっている。この問題に対応するために、デバイスの作製後にシリコンの裏面を薄化(百−数百μm程度)し、巨大なファンをチップ上に取り付け、放熱を促すものや、水冷チューブをめぐらせたものも出現している。
しかし、実際にシリコンを薄化しても、デバイスが作られる領域(デバイス活性層)は表面から精々数μmであり、これ以外の領域は「熱溜まり」として作用するので、放熱という観点からは効率が悪いと言わざるを得ない。また近年、高性能プロセッサーなどに用いられるSOIウェーハなどはデバイス活性層の直下に絶縁層を介した構造を有しているが、この絶縁層(SiO2)は熱伝導性が極めて悪い物質でもあるので、放熱という観点からは扱いにくい材料である。
放熱という観点からは、デバイス活性層の直下に放熱性に優れた材料を配置することが望ましいと言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高い放熱性を与える放熱基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、以下の2層又は3層構造の基板が高い放熱性を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記放熱基板及びその製造方法を提供する。
〔1〕 3層よりなる複合基板であり、表層(第一層)が単結晶シリコン、ハンドル基板(第二層)が窒化アルミニウム又は炭化ケイ素で構成されており、且つ中間層(第三層)が炭化ケイ素又はダイヤモンド、かつ第二層より熱伝導率の高い材料で構成されていることを特徴とする放熱基板。
〔2〕 表層の厚さが1〜20μmであり、ハンドル基板の厚さが100〜750μmであり、中間層の厚さが1〜30μmであることを特徴とする〔1〕記載の放熱基板。
〕 単結晶シリコンからなるシリコン層と、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素で構成されているハンドル基板と、炭化ケイ素又はダイヤモンド、かつハンドル基板より熱伝導率の高い材料で構成されている中間層とをシリコン層、中間層、ハンドル基板の積層構造となるように貼り合せた後、シリコン層を薄化して、表層となる第一層(シリコン層)、第三層(中間層)及び第二層(ハンドル基板)の3層の複合材料よりなる放熱基板とする放熱基板の製造方法。
〕 研削、研磨によりシリコン層を薄化することを特徴とする〔〕記載の放熱基板の製造方法。
〕 イオン注入剥離法によりシリコン層を薄化することを特徴とする〔〕記載の放熱基板の製造方法。
〕 上記貼り合せ前処理として、プラズマ活性化、イオンビーム処理又はオゾン処理を施すことを特徴とする〔3〕〜〔5〕のいずれか1項記載の放熱基板の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る放熱基板は、高い放熱性を与える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の複合基板の一実施例を示す断面図である。
図2】本発明の複合基板の他の実施例を示す断面図である。
図3】2層構造の複合基板の作製方法の一例を示すもので、(a)は各層を準備した状態、(b)は貼り合せた状態、(c)は第一層を薄化した状態の断面図である。
図4】2層構造の複合基板の他の作製方法を示すもので、(a)は各層を準備した状態、(b)は貼り合せた状態、(c)は第一層を薄化した状態の断面図である。
図5】3層構造の複合基板の作製方法の一例を示すもので、(a)は各層を準備した状態、(b)は貼り合せた状態、(c)は第一層を薄化した状態の断面図である。
図6】3層構造の複合基板の他の作製方法を示すもので、(a)は各層を準備した状態、(b)は貼り合せた状態、(c)は第一層を薄化した状態の断面図である。
図7】本発明の実施例の熱伝導率を示したグラフである。
図8】本発明の比較例の熱伝導率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の放熱基板は、単結晶シリコンを表層(第一層)として2層構造(図1)又は3層構造(図2)を有するものである。
ここで、構造が2層で構成される場合は、シリコン(第一層)1の下の層(第二層)2にシリコンよりも高い熱伝導率のものを配置することである。
構造が3層で構成される場合は、シリコン(第一層)1の下の第三層3の熱伝導率が第一層1よりも高いこと、また、この第三層3の熱伝導率が第二層2よりも高いこと、もしくはほぼ同じ値を有することである。更に、第二層2の熱伝導度が第一層1よりも高いことである。第二層の熱伝導が最も高い理由は、第一層で生じる熱はトランジスター付近で発生することが想定されるので、この熱をチップ面内に均等に伝えることで擬似的に放熱作用を促すことである。
【0009】
両方のケースで第二層・第三層の材料候補はいくつかあるが、半導体用途に用いられるということで、金属材料を採用することは難しい。半導体用途に適する材料としては、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、炭化ケイ素が挙げられる。シリコン、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、SiO2の熱伝導率はそれぞれ以下の通りであり、測定法は、後述するレーザーフラッシュ法による値である。
Si:1.5W/cm・K
ダイヤモンド:10〜20W/cm・K
窒化アルミニウム:1.5〜2.0W/cm・K
炭化ケイ素:2.0〜3.8W/cm・K
SiO2:0.015W/cm・K
【0010】
この中で、SiO2は熱伝導率は極端に悪く、放熱基板用途としては適さないことが分かる。
上記のような積層構造を作る方法はいくつかある。構造が2層構造の場合は、ドナー基板(シリコンウェーハ)となる基板をハンドル基板と貼り合せることによって作製する方法がある。構造が3層基板の場合は、ドナーもしくはハンドル、もしくは双方に第三層となる材料を成膜し、両基板を貼り合せるという方法などである。
【0011】
この場合、シリコン基板は所望の厚さまで薄化したものを使用することができる。第一層となるシリコン層を所望の厚さまで薄化する方法としては、シリコンウェーハを研削・研磨で薄化する方法や貼り合せ前にシリコンウェーハ中にイオン注入を施し、貼り合せた後に剥離を行う方法(イオン注入剥離法、例えばSiGen法などのイオン注入機械剥離法)が挙げられる。
【0012】
ここで、図3は2層構造の作製方法の一例を示し、第一層(Si)1と第二層2とを準備し(a)、これらを貼り合せ(b)、次いで研削、研磨により第一層1を所望の厚さまで薄化する(c)。
【0013】
図4は2層構造の他の作製方法を示し、まず第一層(Si)1の一面からイオン注入領域1ionを形成し(a)、この第一層1のイオン注入領域1ion側と第二層2とを貼り合せ(b)、次いで第一層1のイオン注入領域1ionで剥離し、薄化した第一層(シリコン層)1aが第二層2と積層された複合基板を得る(c)ものである。イオン注入領域1ionの形成方法は、特に限定されず、例えば、第一層1の表面から所望の深さにイオン注入領域1ionを形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の水素イオン又は希ガスイオンを注入する。イオン注入された第一層1表面からイオン注入領域1ionまでの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、薄化した第一層の所望の厚さに対応するものである。また、イオン注入領域1ionの厚さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さが良い。
【0014】
図5は、3層構造の作製方法の一例を示し、まず第一層(Si)1、第二層2、第三層3を準備し(a)、これらを貼り合せ(b)、次いで第一層(Si)1を研削、研磨により所望の厚さまで薄化する(c)。
この場合、第二層2の上に第三層3を成膜し、これと第一層1とを貼り合せてもよく(i)、第一層1に第三層3を成膜したものを第二層2と貼り合せてもよく(ii)、第一層1、第二層2の上にそれぞれ第三層3を成膜したものを貼り合せてもよい(iii)。
【0015】
図6は、3層構造の他の作製方法を示し、まず第一層(Si)1の貼り合せ面側からイオン注入領域1ionを形成し(a)、第一層1のイオン注入領域1ion側と第三層3、第二層2とを貼り合せ(b)、次いで第一層1のイオン注入領域1ionで剥離を行う(c)。この場合、第二層2の上に第三層3を成膜したものと第一層1のイオン注入領域1ion側とを貼り合せてもよく(i)、第一層1のイオン注入領域1ion側の面に第三層3を成膜したものを第二層2と貼り合せてもよく(ii)、第一層1のイオン注入領域1ion側の面と第二層2の上にそれぞれ第三層3を成膜し、これらを貼り合せてもよい(iii)。この場合のイオン注入領域1ionの形成方法、イオン打ち込み深さ、イオン分布厚さは図4の場合と同じである。
【0016】
ここで、第一層の単結晶シリコンの厚さは1〜20μm、特に1〜10μmであることが好ましい。また、第二層の厚さは1〜800μm、特に100〜750μmであり、第三層の厚さは1〜30μmであることが好ましい。
【0017】
なお、本発明は特に上記作製方法に限定されるものではない。また、貼り合せ前に結合強度を増すために、既知の表面活性化(オゾン水処理、UVオゾン処理、イオンビーム処理、プラズマ処理など)のいずれかを施すことも可能である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0019】
[実施例]
実施例として、下記の複合材料の熱伝導率を測定した。測定方法は、レーザーフラッシュ法(JIS R 1611−1997に準拠)である。これは表面の単結晶シリコンにパルスレーザを均一照射して瞬間加熱し、裏面の温度変化を観察することで得られた。複合基板の場合は、基板全体が均一な材料でできていると近似した場合の値である。
・ Si/SiC(Si層は厚さ1.0μm、SiC基板は厚さ625μm)
・ Si/SiC/AlN(Si層は厚さ1μm、SiC層は厚さ1.0μm、AlN基板は厚さ625μm)
・ Si/ダイヤモンド/SiC(Si層は厚さ1μm、ダイヤモンド層は厚さ1.0μm、SiC基板は厚さ625μm)
・ Si/ダイヤモンド/AlN(Si層は厚さ1μm、ダイヤモンド層は厚さ1.0μm、AlN基板は厚さ625μm)
なお、上記複合材料の作製方法は次の通りである。
・Si/SiCについては、上述の図3の方法で作製した。
・Si/SiC/AlNについては、上述の図4の方法で作製した。
・Si/ダイヤモンド/SiC及びSi/ダイヤモンド/AlNについては、それぞれ上述の図6(i)の方法により作製した。
なお、上記のいずれの場合も貼り合せ前に両基板の表面について接合強度を高めるプラズマ活性化処理を施した。
結果を図7に示す。値は下記の通りである。
・ Si/SiC:1.85W/cm・K
・ Si/SiC/AlN:1.75W/cm・K
・ Si/ダイヤモンド/SiC:2.2W/cm・K
・ Si/ダイヤモンド/AlN:1.78W/cm・K
全ての場合で、シリコン単体よりも高い放熱性を有することが確認できた。
【0020】
[比較例]
比較例として、下記の材料の熱伝導率を測定した。測定方法は、上記と同じレーザーフラッシュ法である。これは表面にパルスレーザを均一照射して瞬間加熱し、裏面の温度変化を観察することで得られた。複合基板(SOI)の場合は、基板全体が均一な材料でできていると近似した場合の値である。
・ シリコン(厚さ625μm)
・ SOIウェーハ(SOI層1μm、Box層0.5μm、ハンドルウェーハ625μm)該SOIウェーハは、表面にシリコン酸化膜を形成した単結晶シリコンウェーハであるハンドルウェーハと、イオン注入領域を形成したシリコン基板であるドナーウェーハとをシリコン酸化膜を介して貼り合せた後、イオン注入領域でドナーウェーハを機械剥離させてハンドルウェーハ側にシリコン薄膜を転写して得たものである。
・ 窒化アルミニウム(CVD法により作製:厚さ625μm)
・ 炭化ケイ素(CVD法により作製:厚さ625μm)
結果を図8に示す。値は下記の通りである。
・ シリコン(Si):1.5W/cm・K
・ SOIウェーハ:0.6W/cm・K
・ 窒化アルミニウム(AlN):1.8W/cm・K
・ 炭化ケイ素(SiC):2.3W/cm・K
ダイヤモンドに関しては、バルク基板の入手が難しいため、推定値を下記に記す。
・ダイヤモンド:11W/cm・K
【符号の説明】
【0021】
1 第一層(Si)
1a 薄化した第一層(シリコン層)
ion イオン注入領域
2 第二層
3 第三層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8