(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、各図面において、同一の又は対応する構成については同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
【0019】
なお、下記の実施形態では、EUVL用の反射型マスクブランクについて説明するが、本発明は露光光としてEUV光以外の波長の光を用いる反射型マスクブランクに適用することができる。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態による反射型マスクブランクの断面図である。
図2は、反射型マスクブランクの吸収層の一部を除去してなる反射型フォトマスクの一例の断面図である。
【0021】
反射型マスクブランク10は、基板20上に、EUV光を反射する反射多層膜31、反射多層膜31を保護する保護層32、パターン加工のためのバッファ層33、EUV光を吸収する吸収層34、及び検査光に対する反射率が吸収層34よりも低い低反射層35をこの順で成膜してなる。
【0022】
なお、保護層32、バッファ層33、及び低反射層35は、任意の構成であって、なくてもよい。また、反射型マスクブランク10は、他の機能層を有してもよい。
【0023】
反射型マスクブランク10は、一般的なマスク作製プロセスに準拠してパターン加工され、反射型フォトマスク100となる。例えば、反射型マスクブランク10の表面上にレジスト膜を塗布し、加熱した後、電子線や紫外線による描画を行う。このとき、描画パターンの位置や向きを、反射多層膜31の欠陥の位置などに応じて調整する。続いて、現像・エッチングにより吸収層34や低反射層35の不要な部分、及びレジストが除去されて反射型フォトマスク100を得る。
【0024】
反射型フォトマスク100は、
図1に示す低反射層35、及び吸収層34をパターン加工してなる低反射層135、及び吸収層134を有している。反射型フォトマスク100に照射されたEUV光は、吸収層134のある部分では吸収され、吸収層134のない部分では反射多層膜31で反射され光学系などによって露光材料の表面上に結像される。このようにして、吸収層134のパターンが露光材料の表面に転写される。
【0025】
(基板)
基板20は、反射多層膜31などを成膜するためのものである。基板20の表面粗さを表すRMS(Root Mean Square)は例えば0.15nm以下であり、基板20の平坦度は例えば100nm以下である。基板20の熱膨張係数は、例えば0±0.05×10
−7/℃、好ましくは0±0.03×10
−7/℃である。
【0026】
基板20は、耐薬液性、耐熱性に優れ、熱膨張係数の小さいガラスで構成されることが好ましい。ガラスとしては、例えばSiO
2を主成分とする石英ガラスが用いられる。石英ガラスは、TiO
2を含有するものであってよい。TiO
2の含有量は、例えば1〜12質量%である。なお、基板20は、ガラス以外のシリコンや金属などで構成されてもよい。
【0027】
基板20の裏面21には、静電吸着用の導電層22が成膜されている。導電層22は、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。導電層22の構成材料としては、例えば、Si、TiN、Mo、Cr、CrN、CrO、TaSiなどが用いられる。これらの中でも、導電層22表面の表面粗さが小さいことからチャック面との密着性に優れ、且つ、導電層22のシート抵抗が低いことからチャック力に優れるCrN膜が好ましい。
【0028】
導電層22の厚さは、例えば10〜1000nmである。
【0029】
導電層22の成膜方法としては、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法などが用いられる。
【0030】
基板20の表面23には、反射多層膜31などが成膜される。
【0031】
(反射多層膜)
反射多層膜31は、EUV光を反射する。反射型フォトマスク100において吸収層134のない部分に照射されたEUV光は、反射多層膜31で反射される。その反射率(波長13.5nm付近の光線反射率)の最大値は、例えば60%以上、好ましくは63%以上である。
【0032】
反射多層膜31は、屈折率の異なる複数種類の層を所定の順序で繰り返し積層してなる。例えば、反射多層膜31は、低屈折率層としてのMo層と、高屈折率層としてのSi層とを交互に繰り返し積層してなるMo/Si反射多層膜である。Mo層の厚さ、Si層の厚さ、及びMo層とSi層のペア数は、それぞれ適宜設定されるが、例えば、Mo層の厚さが2.3±0.1nm、Si層の厚さが4.5±0.1nm、Mo層とSi層のペア数が30〜60である。反射多層膜31の厚さは、例えば200〜400nmである。
【0033】
なお、反射多層膜31は、特に限定されず、例えばRu/Si反射多層膜、Mo/Be反射多層膜、Mo化合物/Si化合物反射多層膜、Si/Mo/Ru反射多層膜、Si/Mo/Ru/Mo反射多層膜、Si/Ru/Mo/Ru反射多層膜などであってもよい。
【0034】
反射多層膜31の成膜方法としては、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの成膜方法が用いられる。イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si反射多層膜を成膜する場合、Moターゲットを用いてMo層を成膜する工程と、Siターゲットを用いてSi層を成膜する工程が交互に繰り返し行われる。
【0035】
(保護層)
保護層32は、反射多層膜31の酸化を防止する。保護層32の材料としては、Si、Ti、Ru、Rh、C、SiC、又はこれら元素・化合物の混合物、あるいはこれら元素・化合物にN、OやBなどを添加したものなどが使用できる。
【0036】
保護層32の材料としてRuまたはRu化合物を用いた場合、層厚は1〜5nmと薄くでき、後述するバッファ層33の機能を兼用できるため、特に好ましい。また反射多層膜31がMo/Si反射多層膜の場合、最上層をSi層とすることによって、該最上層を保護層として機能させることができる。この場合、最上層のSi層の層厚は、通常の4.5nmより厚い、5〜15nmであることが好ましい。また、この場合、最上層のSi層上に保護層32とバッファ層33とを兼ねるRu膜またはRu化合物膜を成膜してもよい。なお、保護層32は、必ずしも1層である必要はなく、2層以上であってもよい。
【0037】
保護層32の成膜方法としては、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの成膜方法が用いられる。
【0038】
(バッファ層)
バッファ層33は、反射型フォトマスク100の製造工程における、吸収層34のエッチングプロセス(通常、ドライエッチングプロセス)によって、反射多層膜31がダメージを受けるのを防止する。
【0039】
バッファ層33の材質としては、吸収層34のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまり吸収層34よりもエッチング速度が遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。この条件を満たす物質としては、例えばCr、Al、Ru、Ta及びこれらの窒化物、ならびにSiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3やこれらの混合物が例示される。これらの中でも、Ru、Ru化合物、CrN及びSiO
2が好ましく、CrN、Ru及びRu化合物がより好ましく、保護層32とバッファ層33の機能を兼ね備えるため特にRu及びRu化合物が好ましい。
【0040】
バッファ層33の膜厚は1〜60nmであることが好ましい。
【0041】
バッファ層33の成膜方法としては、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法が用いられる。
【0042】
(吸収層)
吸収層34は、EUV光を吸収する層である。吸収層34に特に要求される特性は、反射型フォトマスク100に形成されたパターンが、EUV露光装置の投影光学系を介してウェハー上のレジスト膜に正確に転写されるように、吸収層34からの反射光の強度、位相を調整することである。
【0043】
この具体的な方法は2種類あり、一つ目は、吸収層34からの反射光の強度を極力小さくする方法であり、吸収層34表面(吸収層表面に低反射層が成膜されている場合は低反射層)からのEUV光の反射率を1%以下、特に0.7%以下となるように、吸収層34の膜厚及び材料を調整する。また2つ目は、反射多層膜31からの反射光と吸収層34表面(吸収層表面に低反射層が成膜されている場合は低反射層)からの反射光の干渉効果を利用する方法であり、吸収層34(吸収層表面に低反射層が成膜されている場合は低反射層)からのEUV光の反射率を15%以下(例えば2〜15%)とし、かつ反射多層膜31からの反射光と吸収層34(吸収層表面に低反射層が成膜されている場合は低反射層)からの反射光の位相差が175〜185度となるように、吸収層34の膜厚及び材料を調整する。吸収層34の厚さは、前述の一つ目の方法の場合、60nm以上であることが好ましく、特に70nm以上であることが好ましい。また前述の2つ目の方法の場合、20nm〜60nmの範囲が好ましく、特に25nm〜55nmの範囲が好ましい。
【0044】
いずれの方法においても、吸収層34を構成する材料としては、Taを40at%以上、好ましくは50at%以上、より好ましくは55at%以上含有する材料が好ましい。吸収層34に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にHf、Si、Zr、Ge、B、Pd、Pt、H及びNのうち少なくとも1種以上の元素を含有することが好ましい。
【0045】
Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaPdN、TaPt、TaPtN、などが挙げられる。ただし、吸収層34中には、酸素を含まないことが好ましい。
【0046】
具体的には、吸収層34中の酸素の含有率は25at%未満が好ましい。反射型マスクブランク10の吸収層34にマスクパターンを形成してEUV用の反射型フォトマスク100を作製する際には、通常はドライエッチングプロセスが用いられ、エッチングガスとしては、塩素ガス(混合ガスを含む)あるいはフッ素系ガス(混合ガスを含む)が通常使用される。
【0047】
エッチングプロセスによる反射多層膜31のダメージ防止目的で、反射多層膜31上に保護層32及びバッファ層33を兼ねるRu層又はRu化合物層を成膜する場合、Ru層やRu化合物層のダメージが少ないことから、吸収層34のエッチングガスとして主に塩素ガスが使われる。しかしながら、塩素ガスを用いて吸収層34のドライエッチングプロセスを実施する場合に、吸収層34が酸素を含有していると、エッチング速度が低下し、レジスト膜のダメージが大きくなり好ましくない。そのため、吸収層34中の酸素の含有率としては、15at%以下がより好ましく、10at%以下がさらに好ましく、5at%以下が特に好ましい。
【0048】
吸収層34の成膜方法としては、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの成膜方法が用いられる。
【0049】
吸収層34は、反射型フォトマスク100の製造工程において、所定のパターンに加工され、吸収層134となる。
【0050】
(低反射層)
低反射層35は、吸収層134のパターンを検査する検査光に対して、吸収層34よりも低い反射率を有する層である。検査光としては、例えば257nm程度または193nm程度の波長の光が使用される。
【0051】
吸収層134のパターン形状の検査は、吸収層134がある部分と、吸収層134がない部分とで検査光の反射率が異なることを利用して行われる。吸収層134のない部分では、通常、バッファ層33(バッファ層33がない場合は保護層32)が露出している。
【0052】
吸収層134がある部分に、低反射層135が積層されていると、吸収層134のある部分と、吸収層134のない部分とで、検査光の反射率の差が大きくなるので、検査精度が向上する。
【0053】
低反射層35は、検査光の波長での屈折率が吸収層34よりも低い材料で構成される。具体的には、Taを主成分とする材料が挙げられる。また、Ta以外にHf、Ge、Si、B、N、H、及びOのうち少なくとも1種以上の元素を含有する。具体例としては、例えば、TaO、TaON、TaONH、TaBO、TaHfO、TaHfON、TaBSiO、TaBSiON、SiN、SiON等が挙げられる。
【0054】
吸収層34上に低反射層35を成膜する場合、吸収層34及び低反射層35の厚さの合計が10〜65nmであると好ましく、30〜65nmであるとより好ましく、35〜60nmであるとさらに好ましい。また、低反射層35の層厚が吸収層34の層厚よりも厚いと、吸収層34でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層35の層厚は吸収層34の層厚よりも薄いことが好ましい。このため、低反射層35の厚さは1〜20nmであることが好ましく、3〜15nmであることがより好ましく、5〜10nmであることがさらに好ましい。
【0055】
低反射層35の成膜方法としては、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの成膜方法が用いられる。なお、検査光として、EUV光を用いることも検討されており、EUV光で検査する場合、低反射層を形成しなくてもよい。
【0056】
(他の機能層)
他の機能層としては、例えばハードマスクなどがある。ハードマスクは、吸収層34(吸収層34上に低反射層35が成膜されており、かつ低反射層35がハードマスクの機能を有していない場合は、低反射層35)の面上に成膜するものであり、前述のドライエッチング速度が、吸収層34及び/又は低反射層35と比べて遅いために、レジスト膜の膜厚を薄くでき、より微細なパターンを作製できる。このようなハードマスクの材料としては、CrN,CrO,CrON、Ruなどが使用でき、その膜厚は2〜10nmが好ましい。
【0057】
(仮基準マーク)
図3は、基板及び基板の表面に形成される仮基準マークの一例の平面図である。
【0058】
仮基準マーク40は、基板20の基準位置を示すマークである。仮基準マーク40は、基板20の表面23に形成されている。反射多層膜31の成膜前に、仮基準マーク40の位置を基準位置として基板20の欠陥の位置を特定し、記録媒体に記録することができる。記録媒体としては、磁気記録媒体、光記録媒体、電子記録媒体、紙などが用いられる。
【0059】
仮基準マーク40は、基板20の表面23に3つ以上(
図3では4つ)形成されている。これらの仮基準マーク40は、同一直線上に配置されていない。各仮基準マーク40が示す基準点(例えば中心点)のうち、1つの基準点が原点となり、原点と他の1つの基準点とを結ぶ直線がX軸となり、原点と残りの1つの基準点とを結ぶ直線がY軸となる。X軸及びY軸は、互いに直交していてよい。このXY座標系を用いて欠陥の位置が特定される。
【0060】
仮基準マーク40は、後工程で使用されない領域(例えば、反射型フォトマスクの製造工程において、パターン加工しない領域)に形成され、具体的には、基板20の外周部に形成されることが好ましい。
【0061】
仮基準マーク40は、基板20の表面23に凹状又は凸状(本実施形態では凹状)に形成される。なお、凸状の仮基準マークについては、第2の実施形態で説明する。
【0062】
凹状の仮基準マーク40は、基板20の表面23の一部を除去して形成される。除去方法としては、レーザアブレーション法、FIB法、ナノインデンテーション法、マイクロマシーニング法(例えば、Rave社製nm450を用いた機械的な微細加工法)、レジストのパターニングとエッチングを用いたリソグラフィ法などが用いられる。特に、FIB法、マイクロマシーニング法、レーザアブレーション法が好適に用いられる。
【0063】
凹状の仮基準マーク40として、基板20の表面23に存在する実欠陥、例えば研磨や洗浄により生じたピットなどの凹欠陥を用いることも可能である。
【0064】
凹状の仮基準マーク40の形状は、平面視にて(基板20の表面23と直交する方向から見て)、例えば
図3に示すように四角形、三角形、円形、楕円形、菱型などであり、側面視にて、例えば
図1に示すように三角形、四角形、半円形、などである。
【0065】
凹状の仮基準マーク40のサイズは、例えば、平面視にて、最大長さが200nm以下、好ましくは70nm以下、さらに好ましくは50nm以下であり、最小長さは10nm以上、好ましくは30nm以上である。凹状の仮基準マーク40の最大深さは、20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下であり、凹状の仮基準マーク40の最小深さは、1nm以上、好ましくは2nm以上である。この範囲のサイズを有する仮基準マーク40であれば、紫外光や可視光を光源に用いた市販の反射型マスクブランクやガラス基板の自動欠陥検査装置(たとえばレーザテック社製M7360など)による検出感度を保つことができ、かつ検出スポットが大きくなりすぎることによる検出位置再現性の劣化が無いため、検出位置の再現性が良い。そのため、基板20の表面23に存在する欠陥位置を十分な精度で特定することができる。
【0066】
凹状の仮基準マーク40は、仮基準マーク40上に成膜される層に転写される。例えば、仮基準マーク40は、
図1に示すように、反射多層膜31、保護層32、バッファ層33、吸収層34、及び低反射層35にそれぞれ転写される。
【0067】
なお、基板20表面の仮基準マーク40はなくてもよい。現状の光学式欠陥検査装置を用いた場合、基板20上に比べ反射多層膜31上の方が、検査感度が高いため、基板20の欠陥も、反射多層膜31上に転写されて、反射多層膜31上での検出が可能となるためである。反射多層膜31を成膜する基板表面に欠陥(例えば、異物、傷やピット)が存在すると、反射多層膜31の周期構造が乱れ、反射多層膜に欠陥(所謂、位相欠陥)が生じる。
【0068】
(基準マーク)
基準マーク50は、反射多層膜31の基準位置を示すマークである。基準マーク50は、反射多層膜31の表面又は反射多層膜31と吸収層34との間に形成される一の層32、33の表面(本実施形態ではバッファ層33の表面)に凹状又は凸状(本実施形態では凹状)に形成される。吸収層34の成膜前に、基準マーク50の位置を基準位置として、反射多層膜31の欠陥の位置を特定し、記録媒体に記録することができる。
【0069】
なお、詳しくは後述するが、基準マーク50の形成面がバッファ層33の表面(又は保護層32の表面)の場合、反射多層膜31の欠陥の位置は、バッファ層33の欠陥の位置(又は、保護層32の欠陥の位置)などとまとめて特定される。
【0070】
基準マーク50は、基準マーク50上に成膜される層(例えば吸収層34、低反射層35)に転写され、反射型マスクブランク10の基準位置を示すマーク(Fiducial Mark)となる。転写された基準マークは、最初に形成される基準マーク50と略同じ寸法形状を有する。転写された基準マークの位置を検出し、記録媒体に記録された情報を参照することで、反射多層膜31の欠陥の位置を知ることができる。
【0071】
図4は、反射多層膜31と吸収層34との間に形成されるバッファ層33の表面に形成される基準マークの一例の平面図である。
図4及び
図1に示す基準マーク50は、バッファ層33の表面に形成されているが、保護層32の表面又は反射多層膜31の表面に形成されてもよい。
【0072】
基準マーク50は、用途に応じた形状に形成される。例えば、基準マーク50は、
図4に示すように、平面視にて(基準マーク50の形成面と直交する方向から見て)十字状に形成されている。1つの直線状部分の中心線と、残りの直線状部分の中心線との交点が基準点となる。
【0073】
基準マーク50は、低倍率の観察で検出可能なサイズであることが好ましく、そのサイズは、反射型マスクブランク10の寸法公差等に応じて設定される。標準的な正方形状の反射型マスクブランクの一辺(152.0mm)の寸法公差は±0.1mmである。この反射型マスクブランクを所定装置(例えば電子線描画装置)にセットする際、例えば反射型マスクブランクの二辺をピンに押し当てて位置決めを行う。このとき、反射型マスクブランク毎に基準マーク50の位置が±0.1mmずれうる。そのため、位置を短時間で検出できるように、基準マーク50は低倍率の観察で検出可能なサイズであることが好ましい。寸法公差が±0.1mmの場合、基準マーク50の平面視での面積は1μm
2〜1mm
2であることが好ましい。十字状の基準マーク50の各直線状部分は、例えば0.2〜10μmの幅W、及び10〜500μmの長さLを有してよく、この場合、基準マーク50の平面視での面積は、3.96μm
2〜9900μm
2である。
【0074】
基準マーク50は、基準マーク50の形成面(本実施形態ではバッファ層33の表面)上に3つ以上形成されている。3つ以上の基準マーク50は、同一直線上に配置されていない。3つ以上の基準点のうち、1つの基準点が原点となり、原点と他の1つの基準点とを結ぶ直線がX軸となり、原点と残りの1つの基準点とを結ぶ直線がY軸となる。X軸及びY軸は、互いに直交していてよい。このXY座標系を用いて欠陥の位置が特定される。
【0075】
基準マーク50は、反射多層膜31のうち、後工程で使用されない領域(例えば、反射型フォトマスクの製造工程において、パターン加工しない領域)に形成され、具体的には、基準マーク50の形成面上の外周部に形成される。
【0076】
平面視において、基準マーク50は、仮基準マーク40から離れた位置に形成されてよい。なお、平面視において、基準マーク50は、仮基準マーク40と重なる位置に形成されてもよく、これについては第5の実施形態で説明する。
【0077】
基準マーク50は、例えば反射多層膜31、保護層32、又はバッファ層33の表面(基板20側と反対側の面)に凹状に形成される。なお、凸状の基準マーク50については、第2の実施形態で説明する。
【0078】
凹状の基準マーク50は、反射多層膜31の一部を除去して形成される。凹状の基準マーク50は、例えば
図1に示すように、バッファ層33の成膜後に、バッファ層33及び保護層32を貫通するようにバッファ層33の一部及び保護層32の一部を除去して形成してもよい。
【0079】
除去方法としては、レーザアブレーション法、FIB(Focused Ion Beam)法、レジストのパターニングとエッチングを用いたリソグラフィ法、ナノインデンテーション法、マイクロマシーニング法(例えば、Rave社製nm450を用いた機械的な微細加工法)などが用いられる。これらの中でもレーザアブレーション法、及びFIB法は、加工に用いるレーザ光や金属イオンよって基準マーク50の底部の材質を変質させることができる。例えば、基準マーク50の底部を酸化又は窒化させることができる。また、Mo/Si反射多層膜の場合、基準マーク50の底部をMoSi化合物に変質させることができる。このように基準マーク50の底部の材質が変質するので、基準マーク50の底部と基準マーク50の周辺とのコントラストが向上する。特に、FIB法は、微細な加工が可能であるので好ましい。
【0080】
凹状の基準マーク50は、エッジが鋭くなるよう、
図1に示すように、基準マーク50の形成面と略垂直な段差面50aと、基準マーク50の形成面と略平行なオフセット面(内底面)50bを有していることが好ましい。
【0081】
凹状の基準マーク50は、反射多層膜31の成膜後に形成されるので、基準マーク50の形成面に転写された仮基準マーク43に比べて、エッジが鋭く側壁角度も急峻になる。
【0082】
これに加えて、凹状の基準マーク50は、基準マーク50の周辺とは所定波長の光(反射多層膜31の検査光)に対する反射率が異なる。検査光としては、EUV光、遠紫外光、可視光などが用いられる。これらの中でも、EUV光は、反射多層膜31の内部まで到達でき、内部まで検査できる。
【0083】
本実施形態の凹状の基準マーク50は、反射多層膜31の一部を除去して形成されるので、基準マーク50周辺の反射多層膜31に比べて、検査光であるEUV光に対する反射率が低くなる。その結果、基準マーク50とその周辺とのコントラストが高くなり、基準マーク50の検出位置の再現性が良くなる。よって、基準マーク50の位置を基準位置として、反射多層膜31の欠陥の位置を精度良く特定することができる。基準マーク50の検査光に対する反射率と、基準マーク50の周辺の検査光に対する反射率の差(絶対値)は、0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましい。
【0084】
図5は、Mo/Si反射多層膜におけるEUV光反射率とMo/Siペア数との関係を示す図である。
図5において、Mo層の厚さは2.3±0.1nm、Si層の厚さは4.5±0.1nm、EUV光の波長は13.5nmである。
図5に示すように、Mo層及びSi層のペア数が少なくなるほど、EUV光の反射率が低くなる。
【0085】
露光時にEUV光の反射率を高めるため、ペア数は30以上であることが好ましく、特に35以上であることが好ましい。一方、ペア数が多くなるほど膜応力が大きくなり反射型フォトマスクの平坦度が悪化するため、ペア数は60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましい。
【0086】
次に、
図5に基づいて、EUV光によってMo/Si反射多層膜を検査する場合の基準マーク50の形成方法について説明する。
【0087】
基準マーク50の形成面がMo/Si反射多層膜の表面の場合、周辺とのコントラストを高めるため、基準マーク50は、Mo層/Si層のペアを2個以上除去して形成することが好ましく、特に5個以上除去して形成することが好ましい。Mo層/Si層のペアは約7nmであるため、基準マーク50の深さは、前者の場合約14nm以上、後者の場合約35nm以上となる。この場合、基準マーク50はその周辺に比べてEUV光反射率が低くなる。
【0088】
基準マーク50の形成面が保護層32(又はバッファ層33)の表面の場合、周辺とのコントラストを高めるため、基準マーク50は、保護層32(又は保護層32及びバッファ層33)を貫通し、さらにMo層/Si層のペアを2個以上除去して形成することが好ましく、特に5個以上除去して形成することが好ましい。この場合、基準マーク50はその周辺に比べてEUV光反射率が低くなる。
【0089】
基準マーク50の形成面の種類に関係なく、基準マーク50の底部の材料は、基準マーク50を加工する際にMo層とSi層の両者が反応して形成されるMoSi化合物であっても良い。EUV光の反射はMo層とSi層との間の屈折率の差によって生じる。Mo層とSi層の両者を反応してMoSi化合物を形成すると、屈折率の差がなくなるので、基準マーク50のEUV光反射率をさらに低くすることができる。
【0090】
次に、
図7及び
図6に基づいて、遠紫外光や可視光によってMo/Si反射多層膜を検査する場合の基準マーク50の形成方法について説明する。
【0091】
図7は、Mo/Si反射多層膜における光反射率とMo/Siペア数との関係を示す図である。
図7において、Mo層の厚さは2.3±0.1nm、Si層の厚さは4.5±0.1nmである。
図7において、線L21は光の波長が190nmのときの関係、線L22は光の波長が257nmのときの関係、線L23は光の波長が300nmのときの関係、線L24は光の波長が400nmのときの関係、線L25は光の波長が500nmのときの関係、線L26は光の波長が600nmのときの関係を示す。
図7は、
図5及び
図6と異なり、ペア毎の光反射率に加えて、一層(0.5ペア)毎の光反射率を示す。
【0092】
図7に示すように、ペア数が10以上の場合、遠紫外光や可視光の反射率は、主にMo/Si反射多層膜の光入射側の表面材料によって変わる。そのため、基準マーク50の形成面がMo/Si反射多層膜の表面の場合、周辺とのコントラストを高めるため、基準マーク50の底部の材料はMo/Si反射多層膜の最上層(基板側とは反対側の層)の材料と異なることが好ましい。例えば、反射多層膜の最上層がSiの場合、基準マーク50の底部の材料は、基準マーク50を加工する際にMo層とSi層の両者が反応して形成されるMoSi化合物であっても良い。この場合、基準マーク50はその周辺に比べて遠紫外光反射率や可視光反射率が低くなる。また基準マーク50の底部の材料は、基準マーク50を加工する際にMo層あるいはSi層が酸化、窒化、酸窒化して形成される、Mo、SiあるいはMoSi化合物の酸化物、窒化物、酸窒化物であってもよい。この場合、基準マーク50はその周辺に比べて遠紫外光反射率や可視光反射率が低くなる。
【0093】
また、
図7に示すように、ペア数が5以下の場合、可視光(L24〜L26)に対する反射率が高くなるので、ペア数が5以下の基準マーク50を形成してもよい。この場合、基準マーク50はその周辺に比べて可視光反射率が高くなる。
【0094】
図6は、Mo/Si反射多層膜における光反射率と光波長との関係を示す図である。
図6において、Mo層の厚さは2.3±0.1nm、Si層の厚さは4.5±0.1nmである。
図6において、線L11はペア数が5のときの関係、線L12はペア数が10のときの関係、線L13はペア数が15のときの関係、線L14はペア数が40のときの関係、線L15はペア数が40のMo/Si反射多層膜上にさらにRu層を成膜したときの関係を示す。Ru層は保護層及びバッファ層を兼ね、Ru層の厚さは2.5nmである。
【0095】
図6に示すように、遠紫外光や可視光の反射率は、Ru層の有無によっても変わる。そのため、Ru層の表面に基準マーク50を形成する場合、基準マーク50とその周辺とコントラストを高めるため、Ru層を貫通する凹状の基準マーク50を形成することが好ましい。基準マーク50の底部の材料はRu層の材料と異なる。この場合、基準マーク50はその周辺に比べて光反射率が高くなったり、低くなったりする。
【0096】
ところで、基準マーク50は、反射多層膜31の成膜後に形成され、反射多層膜31よりも薄い(約1/4程度)吸収層34などに転写される。そのため、転写された基準マーク55は、元の基準マーク50と略同じ形状となるので、検査光(電子線や遠紫外光、可視光、EUV光)による検出位置の再現性が良く、下記(1)〜(2)の効果が得られる。(1)反射型フォトマスク100の製造工程において、電子線描画装置(たとえばNuflare社EBM8000など)やレーザ描画装置、マスクパターン座標測定装置(たとえばKLAテンコール社IPRO5など)、マスクパターン検査装置(たとえばKLAテンコール社Teron610など)は、電子線や遠紫外光によって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。よって、これらの装置は、反射型マスクブランク10の供給元から提供される情報に基づいて反射多層膜31などの欠陥の位置を精度よく検知できる。(2)吸収層34及び低反射層35の検査時に、遠紫外光や可視光よって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。
【0097】
図8は、反射型マスクブランク上に転写された基準マークの断面プロファイルの実施例と従来例を示す比較図である。
図8において、実線は実施例の断面プロファイルを、破線は従来例の断面プロファイルを示す。用いた反射型マスクブランクは、TiO
2をドープした石英ガラス基板上に、反射多層膜としてのMo/Si反射多層膜、保護層及びバッファ層としてのRu層、吸収層としてのTaN層、及び低反射層としてのTaON層をこの順で成膜してなる。この反射型マスクブランクにおいて、実施例の基準マークは、Ru層(厚さ2.5nm)の一部及びMo/Si反射多層膜(厚さ280nm)の一部を除去して、Ru層上に凹状(深さ80nm)に形成され、TaN層(厚さ51nm)、及びTaON層(厚さ7nm)に転写される。一方、従来例の基準マークは、基板上に凹状(深さ80nm)に形成され、Mo/Si反射多層膜(厚さ280nm)、Ru層(厚さ2.5nm)、TaN層(厚さ51nm)、及びTaON層(厚さ7nm)に転写される。
【0098】
図8に示すように、従来例の基準マークに比べて、実施例の基準マークは、反射型マスクブランク上に転写された場合に、より急峻な断面プロファイルを示す。
【0099】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、仮基準マーク及び基準マークがそれぞれ凹状に形成されている。これに対し、本実施形態では、仮基準マーク及び基準マークがそれぞれ凸状に形成されている。本実施形態は、仮基準マークの形状及び基準マークの形状に相違点がある以外、第1の実施形態と同様であるので、相違点を中心に説明する。
【0100】
図9は、本発明の第2の実施形態による反射型マスクブランク10Aの断面図である。この反射型マスクブランク10Aは、凸状の仮基準マーク40Aと、凸状の基準マーク50Aとを有する。
【0101】
(仮基準マーク)
仮基準マーク40Aは、基板20の表面23に凸状に形成されている。反射多層膜31の成膜前に、仮基準マーク40Aの位置を基準位置として基板20の欠陥位置を特定し、記録媒体に記録することができる。
【0102】
凸状の仮基準マーク40Aの形状は、平面視にて(基板20の表面23と直交する方向から見て)、例えば四角形、三角形、円形、楕円形、菱型などであり、側面視にて、例えば
図9に示すように三角形、四角形、半円形などである。
【0103】
凸状の仮基準マーク40Aのサイズは、例えば、平面視にて、最大長さが200nm以下、好ましくは70nm以下、さらに好ましくは50nm以下であり、最小長さは10nm以上、好ましくは30nm以上である。仮基準マーク40Aの最大高さは、20nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下であり、また仮基準マーク40Aの最小高さは、1nm以上、好ましくは2nm以上である。この範囲のサイズを有する仮基準マーク40Aであれば、遠紫外光や可視光を光源とする市販の反射型マスクブランクやガラス基板の自動欠陥検査装置(たとえばレーザテック社製M7360など)による検出感度を保つことができ、かつ検出スポットが大きくなりすぎることによる検出位置再現性の劣化が無いため、マークの検出位置の再現性が良い。そのため、基板20の表面23に存在する欠陥位置を十分な精度で特定することができる。
【0104】
凸状の仮基準マーク40Aは、基板20の表面23に所定の材料、例えばクロムやタンタルなどを積層して形成される。仮基準マーク40Aの材料は、基板20の表面23に成膜された後、リソグラフィ法で除去されてもよいし、基板20の表面23に局所的に堆積されてもよい。後者の場合、堆積したい材料によって適当なガスを選び、白金やタングステンなどの金属化合物(例えばヘキサカルボニルタングステン)や炭化水素化合物(ナフタレンやフェナントレンなど)を含有する雰囲気でイオンビームや電子線を照射することで、金属化合物の分解反応を促進し、局所的に白金やタングステンなどの金属膜を堆積する方法がある。
【0105】
なお、凸状の仮基準マーク40Aとして、基板20の表面23に存在する実欠陥、例えば洗浄や環境由来の表面に付着したパーティクルなどの凸欠陥を用いることもできる。
【0106】
凸状の仮基準マーク40Aは、
図9に示すように、基板20上に順次成膜される反射多層膜31、保護層32、バッファ層33、吸収層34、及び低反射層35に転写される。
【0107】
なお、基板20表面の仮基準マーク40Aはなくてもよい。現状の光学式欠陥検査装置を用いた場合、基板20上に比べ反射多層膜31上の方が、検査感度が高いため、基板20の欠陥も、反射多層膜31に転写されて、反射多層膜31上での検出が可能となるためである。反射多層膜31を成膜する基板表面に欠陥(例えば、異物、傷やピット)が存在すると、反射多層膜31の周期構造が乱れ、反射多層膜に欠陥(所謂、位相欠陥)が生じる。
【0108】
(基準マーク)
基準マーク50Aは、反射多層膜31の表面又は反射多層膜31と吸収層34との間に形成される一の層32、33の表面(本実施形態ではバッファ層33の表面)に所定の材料を積層して凸状に形成される。
【0109】
基準マーク50Aの材料は、基準マーク50Aとその周辺とが異なる光反射率を示すように選定される。基準マーク50Aの材料としては、特に限定されないが、例えば、既存の装置を流用して成膜可能な材料として、反射多層膜に用いられるSi、Mo、吸収層に用いられるTa、Cr、Pt、W、C、又はこれらの酸化物、窒化物などが用いられる。これらの材料を積層して凸状に形成した基準マーク50Aは、その周辺に比べて低いEUV光反射率を示す。基準マーク50の検査光に対する反射率と、基準マーク50の周辺の検査光に対する反射率の差(絶対値)は、0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましい。
【0110】
基準マーク50Aの材料は、基準マーク50Aの形成面上に成膜された後、リソグラフィ法で除去されてもよいし、基準マーク50Aの形成面上に局所的に堆積されてもよい。後者の場合、堆積したい材料に応じて適当なガスを選び、白金やタングステンなどの金属化合物(例えばヘキサカルボニルタングステン)や炭化水素化合物(ナフタレンやフェナントレンなど)を含有する雰囲気でイオンビームや電子線を照射することで、金属化合物の分解反応を促進し、局所的に白金やタングステンなどの金属膜を堆積する方法がある。
【0111】
凸状の基準マーク50Aは、用途に応じた形状に形成される。例えば、凸状の基準マーク50Aは、第1の実施形態と同様に、平面視にて十字状に形成されている。1つの直線状部分の中心線と、残りの直線状部分の中心線との交点が基準点となる。
【0112】
凸状の基準マーク50Aは、基準マーク50Aの形成面(本実施形態ではバッファ層33の表面)上に3つ以上形成されている。3つ以上の基準マーク50Aは、同一直線上に配置されていない。3つ以上の基準点のうち、1つの基準点が原点となり、原点と他の1つの基準点とを結ぶ直線がX軸となり、原点と残りの1つの基準点とを結ぶ直線がY軸となる。X軸及びY軸は、互いに直交していてよい。
【0113】
凸状の基準マーク50Aは、エッジが鋭く側壁角度が急峻となるよう、基準マーク50Aの形成面と略垂直な段差面50Aaと、基準マーク50Aの形成面と略平行なオフセット面50Abを有していることが好ましい。
【0114】
凸状の基準マーク50Aの高さは、基準マーク50A上に成膜される層の種類や厚さに応じて適宜設定される。凸状の基準マーク50Aの高さは、例えば2〜300nm、好ましくは7〜150nm、より好ましくは40〜120nmである。
【0115】
基準マーク50Aは、低倍率の観察で検出可能なサイズであることが好ましく、そのサイズは、反射型マスクブランク10Aの寸法公差等に応じて設定される。標準的な正方形状の反射型マスクブランクの一辺(152.0mm)の寸法公差は±0.1mmである。この反射型マスクブランクを所定装置(例えば電子線描画装置)にセットする際、例えば反射型マスクブランクの二辺をピンに押し当てて位置決めを行う。このとき、反射型マスクブランク毎に基準マーク50Aの位置が±0.1mmずれうる。そのため、位置を短時間で検出できるように、基準マーク50Aは低倍率の観察で検出可能なサイズであることが好ましい。寸法公差が±0.1mmの場合、基準マーク50Aの平面視での面積は1μm
2〜1mm
2であることが好ましい。十字状の基準マーク50Aの各直線状部分は、例えば0.2〜10μmの幅W、及び10〜500μmの長さLを有してよく、この場合、基準マーク50の平面視での面積は、3.96μm
2〜9900μm
2である。
【0116】
凸状の基準マーク50Aは、後工程で使用されない領域(例えば反射型フォトマスクの製造工程においてパターン加工しない領域)に形成され、例えば基準マーク50Aの形成面上の外周部に形成される。
【0117】
凸状の基準マーク50Aは、第1の実施形態と同様に、反射多層膜31の成膜後に形成されるので、基準マーク50Aの形成面に転写した仮基準マーク43A(
図9参照)に比べて、エッジが鋭く側壁角度も急峻になる。これに加えて、凸状の基準マーク50Aは、基準マーク50Aの周辺の反射多層膜31に比べて、検査光であるEUV光に対する反射率が低い。これらの結果、EUV光を用いて反射多層膜31の欠陥を検査するとき、基準マーク50Aとその周辺とのコントラストが高くなり、基準マーク50Aの検出位置の再現性が良くなる。よって、基準マーク50Aの位置を基準位置として、反射多層膜31の欠陥の位置を精度良く特定することができる。また、遠紫外光〜可視光に対する反射率が異なるような材料を選ぶことにより、遠紫外光〜可視光の検査に対しても検出位置の再現性が良い基準マークを作製できる。
【0118】
また、凸状の基準マーク50Aは、第1の実施形態と同様に、反射多層膜31の成膜後に形成され、反射多層膜31よりも薄い(約1/4程度)吸収層34などに転写される。そのため、転写された基準マーク55Aは、元の基準マーク50Aと略同じ形状であり、検査光(例えば電子線、EUV光、遠紫外光又は可視光)による検出位置の再現性が良く、下記(1)〜(2)の効果が得られる。(1)反射型フォトマスク100の製造工程において、電子線描画装置、座標測定装置、マスク外観検査装置は、電子線や遠紫外光によって基準マーク55Aの位置を再現性良く検出できる。よって、これらの装置は、反射型マスクブランク10Aの供給元から提供される情報に基づいて反射多層膜31などの欠陥の位置を精度よく検知できる。(2)吸収層34及び低反射層35の検査時に、遠紫外光や可視光によって基準マーク55Aの位置を再現性良く検出できる。
【0119】
[第3の実施形態]
本実施形態は、上記の反射型マスクブランク10の製造方法に関する。なお、上記の反射型マスクブランク10Aの製造方法も同様である。
【0120】
図10は、本発明の第3の実施形態による反射型マスクブランクの製造方法のフローチャートである。
【0121】
反射型マスクブランク10の製造方法は、基板20を用意する工程S101、基板20の表面23に仮基準マーク40を形成する工程S102、基板20の裏面21に導電層22を成膜する工程S103を有する。また、反射型マスクブランク10の製造方法は、反射多層膜31を成膜する工程S104、保護層32を成膜する工程S105、バッファ層33を成膜する工程S106、基準マーク50を形成する工程S107、吸収層34を成膜する工程S108、低反射層35を成膜する工程S109をさらに有する。各工程S101〜S109の間には、洗浄工程や乾燥工程などがあってよい。
【0122】
基準マーク50を形成する工程S107は、反射多層膜31を成膜する工程S104の後、吸収層34を成膜する工程S108の前に実施されればよく、例えば、保護層32を成膜する工程S105とバッファ層33を成膜する工程S106との間に実施されてもよい。
【0123】
本実施形態の反射型マスクブランク10の製造方法は、基準マーク50を形成する工程を有するので、第1の実施形態で述べた効果を享受できる。例えば、基準マーク50とその周辺とは反射多層膜の検査光に対する反射率が異なり(コントラストがあり)、検査光(例えばEUV光、遠紫外光、又は可視光)による検出位置の再現性が良いので、反射多層膜31の欠陥の位置を精度良く特定できる。また、基準マーク50は反射型マスクブランク10上に略同じ形状で転写されるので、転写された基準マーク55は検査光(例えば電子線、EUV光、遠紫外光又は可視光)による検出位置の再現性が良く、下記(1)〜(2)の効果が得られる。(1)反射型フォトマスク100の製造工程において、電子線描画装置、座標測定装置、マスク外観検査装置は、電子線、遠紫外光、可視光によって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。よって、これらの装置は、反射型マスクブランク10の供給元から提供される情報に基づいて反射多層膜31などの欠陥の位置を精度よく検知できる。(2)吸収層34及び低反射層35の検査時に、遠紫外光や可視光よって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。
【0124】
なお、仮基準マーク40を形成する工程S102はなくてもよい。この場合、仮基準マークとして、基板20の表面23に存在する凹状又は凸状の欠陥が代用される。
【0125】
なお、保護層32を成膜する工程S105、バッファ層33を成膜する工程S106、及び低反射層35を成膜する工程S109は、任意の工程であって、省かれてもよい。また、反射型マスクブランク10の製造方法は、他の機能層を成膜する工程を有していてもよい。
【0126】
また、導電層22を成膜する工程S103は、工程S104〜S109の後に行われてもよく、その順序に制限はない。
【0127】
[第4の実施形態]
本実施形態は、上記の反射型マスクブランク10の品質管理方法に関する。なお、上記の反射型マスクブランク10Aの品質管理方法も同様である。
【0128】
図11は、本発明の第4の実施形態による反射型マスクブランクの品質管理方法のフローチャートである。
【0129】
反射型マスクブランク10の品質管理方法は、仮基準マーク40の位置を基準位置として、基板20の表面23の欠陥位置を特定する第1の特定工程S201を有する。第1の特定工程S201は、仮基準マーク40を形成する工程S102(
図10参照)の後、反射多層膜31を成膜する工程S104(
図10参照)の前に行われる。
【0130】
欠陥の位置を特定する方法としては、例えば基板20の表面23で可視線、紫外線、真空紫外線、軟X線などのスポット光、もしくは電子線を照射あるいは走査し、試験体からの散乱光を受光して、仮基準マーク40の位置及び欠陥の位置を検出する方法などがある。散乱光の代わりに、反射光又は透過光が用いられてもよい。
【0131】
第1の特定工程S201では、基板20の欠陥の位置に加えて、欠陥の種類(例えば、凹状、凸状の別)を特定してもよい。欠陥に関する情報は、記録媒体に記録される。なお、欠陥が無い場合、欠陥が無いという内容の情報が、記録媒体に記録される。
【0132】
また、反射型マスクブランク10の品質管理方法は、仮基準マーク40の位置と基準マーク50の位置との位置関係を検出する検出工程S202と、検出工程S202で検出された位置関係に基づいて、仮基準マーク40の位置を基準位置として特定した欠陥の位置を、基準マーク50の位置を基準位置とする位置に換算する換算工程S203とを有する。換算の結果は、記録媒体に記録される。
【0133】
検出工程S202は、仮基準マーク40の位置、より詳細には仮基準マーク40上に成膜される層(例えばバッファ層33)に転写された仮基準マーク43の位置と、基準マーク50の位置との位置関係を検出する。仮基準マーク40の位置及び基準マーク50の位置を検出する方法は、上記の欠陥の位置を特定する方法と同様であるので、説明を省略する。検出工程S202は、下記の第2の特定工程S204と同時に行われてもよい。
【0134】
なお、検出工程S202を行うタイミングは、特に限定されない。例えば、検出工程S202は、低反射層35の成膜後に、低反射層35に転写される基準マーク55と、同じく低反射層35に転写される仮基準マークとの位置関係を検出してもよい。
【0135】
換算工程S203は、検出工程S202で検出された位置関係に基づいて、例えば第1の特定工程S201で特定された欠陥の位置を基準マーク50の位置を基準位置とする位置に換算する。換算の結果は、記録媒体に記録される。換算工程S203は、検出工程S202の後に行われればよく、そのタイミングは特に限定されない。
【0136】
さらに、反射型マスクブランク10の品質管理方法は、基準マーク50の位置を基準位置として、反射多層膜31の欠陥の位置を特定する第2の特定工程S204を有する。第2の特定工程S204は、基準マーク50を形成する工程S107(
図10参照)の後、吸収層34を成膜する工程S108(
図10参照)の前に行われる。
【0137】
例えば、第2の特定工程202は、バッファ層33を成膜する工程S106の後に行われ、反射多層膜31の欠陥の位置、保護層32の欠陥の位置、及びバッファ層33の欠陥の位置をまとめて特定する。反射多層膜31、保護層32及びバッファ層33は、連続的に成膜されることが多いからである。
【0138】
なお、本実施形態の第2の特定工程S204は、バッファ層33を成膜する工程S106の後に行われるが、本発明はこれに限定されない。例えば、保護層32を成膜する工程S105の前に行われてもよく、反射多層膜31の欠陥の位置は、保護層32の欠陥の位置やバッファ層33の欠陥の位置とは別に特定されてもよい。
【0139】
欠陥の位置を特定する方法としては、例えば試験体の表面(本実施形態ではバッファ層33の表面)でEUV光などのスポット光を走査し、試験体からの反射光を受光して、基準マーク50の位置及び欠陥の位置を検出する方法などがある。
【0140】
第2の特定工程S204では、反射多層膜31の欠陥の位置に加えて、欠陥の種類(例えば、凹状、凸状の別)を特定してもよい。欠陥に関する情報は、記録媒体に記録される。なお、欠陥が無い場合、欠陥が無いという内容の情報が、記録媒体に記録される。
【0141】
反射型マスクブランク10の品質管理方法は、基準マーク50の位置を基準位置として、吸収層34の欠陥の位置を特定する第3の特定工程S205を有する。第3の特定工程S205は、吸収層34を成膜する工程S108(
図10参照)の後に行われる。
【0142】
例えば、第3の特定工程S205は、低反射層35を成膜する工程S109の後に行われ、低反射層35に転写された基準マーク55の位置を基準位置として、吸収層34の欠陥の位置、及び低反射層35の欠陥の位置をまとめて特定する。吸収層34及び低反射層35は、連続的に成膜されることが多いからである。
【0143】
なお、本実施形態の第3の特定工程S205は、低反射層35を成膜する工程S109の後に行われるが、本発明はこれに限定されない。例えば、低反射層35を成膜する工程S109の前に行われてもよく、吸収層34の欠陥の位置は、低反射層35の欠陥の位置とは別に特定されてもよい。
【0144】
欠陥の位置を特定する方法としては、例えば試験体の表面(本実施形態では低反射層35の表面)で可視光、紫外光、EUV光などのスポット光、もしくは電子線を照射あるいは走査し、試験体からの反射光を受光して、基準マーク50の位置及び欠陥の位置を検出する方法などがある。
【0145】
第3の特定工程S205では、吸収層34の欠陥の位置に加えて、欠陥の種類(例えば、凹状、凸状の別)を特定してもよい。欠陥に関する情報は、記録媒体に記録される。なお、欠陥が無い場合、欠陥が無いという内容の情報が、記録媒体に記録される。
【0146】
第1〜第3の特定工程S201、S204、S205で記録媒体に記録された欠陥に関する情報は、反射型フォトマスク100の製造工程で使用される。反射型フォトマスク100の製造工程で用いられる電子線描画装置、座標測定装置やマスク外観検査装置は、反射電子線や反射紫外線を検出して、基準マーク50(詳細には低反射層35に転写された基準マーク55)の位置を再現性良く検出することができ、反射型マスクブランク10の供給元から提供された情報に基づいて、欠陥位置を精度よく知ることができる。
【0147】
本実施形態の品質管理方法は、基準マーク50を利用するので、第1の実施形態で述べた効果を享受できる。例えば、基準マーク50とその周辺とは反射多層膜の検査光に対する反射率が異なり(コントラストがあり)、検査光(例えばEUV光、遠紫外光、又は可視光)による検出位置の再現性が良いので、反射多層膜31の欠陥の位置を精度良く特定できる。また、基準マーク50は反射型マスクブランク10上に略同じ形状で転写されるので、転写された基準マーク55は検査光(例えば電子線、EUV光、遠紫外光又は可視光)による検出位置の再現性が良く、下記(1)〜(2)の効果が得られる。(1)反射型フォトマスク100の製造工程において、電子線描画装置、座標測定装置、マスク外観検査装置は、電子線、遠紫外光、可視光によって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。よって、これらの装置は、反射型マスクブランク10の供給元から提供される情報に基づいて反射多層膜31などの欠陥の位置を精度よく検知できる。(2)吸収層34及び低反射層35の検査時に、紫外光や可視光によって基準マーク55の位置を再現性良く検出できる。
【0148】
なお、本実施形態の品質管理方法は、第1〜第3の特定工程S201、S204、S205を有するが、第2の特定工程S204を有していればよい。反射多層膜31の欠陥の位置が、反射型フォトマスク100の品質に最も影響を与えるからである。
【0149】
[第5の実施形態]
上記第1の実施形態では、平面視において、基準マーク50が、仮基準マーク40から離れた位置に形成されている。これに対し、本実施形態では、基準マークが、仮基準マークと重なるように形成されている。本実施形態は、仮基準マーク及び基準マークの配置に相違点がある以外、第1の実施形態と同様であるので、相違点を中心に説明する。
【0150】
図12は、本発明の第5の実施形態による反射型マスクブランクの断面図である。この反射型マスクブランク10Bは、仮基準マーク40と、基準マーク50Bとを有する。
【0151】
仮基準マーク40は、基板20の表面23に凹状又は凸状(本実施形態では、凹状)に形成されている。凹状の仮基準マーク40として、基板20の表面23に存在する実欠陥、例えば研磨や洗浄により生じたピットなどの凹欠陥を用いることも可能である。
【0152】
基準マーク50Bは、反射多層膜31の成膜後、吸収層34の成膜前に、基準マーク50Bの形成面上に凹状又は凸状(本実施形態では凹状)に形成されている。凹状の基準マーク50Bは、少なくとも反射多層膜31の一部を除去して形成される。よって、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0153】
平面視にて、基準マーク50Bは、仮基準マーク40と重なるように形成されている。即ち、平面視にて、基準マーク50Bの基準点と、仮基準マーク40の基準点とが重なっている。そのため、本実施形態では、反射型マスクブランクの品質管理工程において、仮基準マークと基準マークの位置関係を検出する検出工程S202(
図11参照)、及び検出工程S202に続いて行われる換算工程S203(
図11参照)が不要となる。
【0154】
なお、基準マーク50Bは反射多層膜31の一部を除去して形成するので、基板上面から見たときの大きさが仮基準マーク40の大きさよりも大きいこと、基準マーク50Bの深さが仮基準マーク40の深さよりも深いことの少なくとも片方を満たすことが好ましい。
【0155】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に制限されない。本発明の範囲を逸脱することなく、上記の実施形態に種々の変形や置換を加えることができる。
【0156】
例えば、上記実施形態において、仮基準マークの形状(凹状又は凸状)と、基準マークの形状(凹状又は凸状)との組合せに制限はない。
図13は、
図12の変形例を示す断面図である。この反射型マスクブランク10Cは、凸状の仮基準マーク40Cと、凹状の基準マーク50Cとを有する。凸状の仮基準マーク40Cは、基板20の表面23と略垂直な段差面40Caと、基板20の表面23と略平行なオフセット面40Cbを有している。同様に、凹状の基準マーク50Cは、基準マーク50Cの形成面(バッファ層33の表面)と略垂直な段差面50Caと、基準マーク50Cの形成面と略平行なオフセット面50Cbを有している。平面視において、オフセット面40Cbの輪郭と、オフセット面50Cbの輪郭とが重なっている。この場合、基準マーク50Cの位置で反射多層膜31の厚さがより薄くなるので、反射多層膜31の欠陥検査時に、基準マーク50Cとその周辺とのコントラストがより高くなる。よって、基準マーク50Cの検出位置の再現性がより良くなる。
【実施例】
【0157】
本実施例の反射型マスクブランクを構成する各要素の製造方法について説明する。まず、成膜用の基板として、SiO
2−TiO
2系で、152.4mm×152.4mm平面で厚さ6.3mmのガラス基板を使用した。このガラス基板は、熱膨張率が0.2×10
−7/℃、ヤング率が67GPa、ポアソン比が0.17、比剛性が3.07×10
7m
2/s
2であって、主表面の表面粗さが0.15nm rms以下、平坦度が100nm以下となるように研磨した。
【0158】
次に、ガラス基板の一方の面(裏側の面)には、マグネトロンスパッタリング法により、Crを主成分とする膜を約100nmの膜厚になるように成膜し、シート抵抗が100Ω/□の導電膜を形成した。そして、形成した導電膜によって、平板形状の静電チャックに基板を固定し、導電膜と反対側の表面に、イオンビームスパッタリング法を用いて、Mo膜2.3nmとSi膜4.5nmを交互に成膜することを、50周期切り返して、合計膜厚340nm((2.3nm+4.5nm)×50)となる、反射多層膜(Mo/Si反射多層膜)を形成した。なお、Mo/Si反射多層膜の最上層はSi膜である。
【0159】
Mo膜は、Moターゲットを用いて、Arのスパッタリングガス雰囲気中において(ガス圧:0.02Pa)、700Vの印加電圧により成膜速度が3.84nm/minの条件で、2.3nmの膜厚とした。Si膜は、硼素をドープしたSiターゲットを用いて、Arのスパッタリングガス雰囲気中において(ガス圧:0.02Pa)、700Vの印加電圧により成膜速度が4.62nm/minの条件で、4.5nmの膜厚とした。
【0160】
次に、Ruからなる保護層をイオンビームスパッタリング法により形成した。Ru層は、Ruターゲットを用いて、Arのスパッタリングガス雰囲気中において(ガス圧:0.02Pa)、700Vの印加電圧により成膜速度が3.12nm/minの条件で、2.5nmの膜厚とした。なお、本実施例の反射型マスクブランクでは、保護層としてRu層を用いていることから、とくにバッファ層を形成しない。
【0161】
次に、保護層上に、TaNからなる吸収層をマグネトロンスパッタリング法により形成した。TaN層は、Taターゲットを用いて、ArとN
2との混合ガス(Ar:86vol%、N
2:14vol%、ガス圧:0.3Pa)で、150Wの投入電力により成膜速度が7.2nm/minの条件で、60nmの膜厚とした。
【0162】
最後に、吸収層上に、TaONからなる低反射層をマグネトロンスパッタリング法により形成した。TaON層は、Taターゲットを用いて、ArとO
2およびN
2の混合ガス(Ar:49vol%、O
2:37vol%、N
2:14vol%、ガス圧:0.3Pa)で、250Wの投入電力により成膜速度が2.0nm/minの条件で、8nmの膜厚とした。
【0163】
上記の製造方法に基づく反射型マスクブランクについて、基板若しくは膜形成後の表面上に、下表に示す条件に基づき、各表面に十字の基準マークを形成した。なお、
図4に参照される基準マークの長さLは、下記いずれの例(例1〜例13)においても、500μmとした。
【0164】
【表1】
【0165】
(例1〜例4)
例1〜例4は、ガラス表面に、フォーカスドイオンビーム法を用いて、幅Wが5000nm、長さ500μmの十字型で凹状の基準マークを、その深さ20〜120nmの範囲で変えて形成した。その後、上記製造方法に基づき、反射多層膜、保護層、吸収層および低反射層を形成した反射型マスクブランクを得た。そして、得られた反射型マスクブランクに対して、可視光レーザ光の欠点検査装置(レーザーテック社製、M1350)を用いると、形成した基準マークが検出できたが、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いた際には、基準マーク由来のシグナルが弱く検出が困難であった。
【0166】
(例5〜例8)
例5〜例8は、保護層であるRu層表面に、フォーカスドイオンビーム法を用いて幅W、が5000nm、長さ500μmの十字型で凹状の基準マークを、その深さ5〜80nmの範囲で変えて形成した。なお、Ru保護層は、その膜厚が2.5nmであるので、例5〜例8はいずれも、Mo/Siの反射多層膜も一定の深さエッチングした。
【0167】
その後、上記製造方法に基づき、吸収層および低反射層を形成した反射型マスクブランクを得た。そして、得られた反射型マスクブランクに対して、欠点検査装置(レーザーテック社製、M1350)を用いると、形成した基準マークが検出でき、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いても、基準マークが検出でき、かつマークの検出位置再現性も良好であった。
【0168】
(例9〜例12)
例9〜例12は、ガラス基板表面に仮基準マークを形成し、その後、反射多層膜、保護層、吸収層及び低反射層を形成した。低反射層であるTaON層表面に、表1に示す幅Wにおいて、十字型で凹状の基準マークを、その深さ20〜80nmの範囲で変えフォーカスドイオンビーム法を用いて形成し反射型マスクブランクを得た。
【0169】
そして、得られた反射型マスクブランクに対して、欠点検査装置(レーザーテック社製、M1350)を用いると、形成した基準マークが検出でき、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いても、基準マークが検出でき、マークの検出位置再現性は保護層表面のマークと同等の値を示した。ただし、低反射層上の基準マークを用いる場合、仮基準マークと紐付けされている反射多層膜上の欠点を、低反射層上の基準マークによる座標へ照合する必要があり、この工程により位置精度が悪化する恐れがある。そのため、反射多層膜上に基準マークを形成する場合と比較して位置精度が悪化する。
【0170】
(例13)
例13は、保護層であるRu層表面に、表1に示す幅Wにおいて、十字型で凸状の基準マークを、その高さ80nmで形成する。具体的に、Ru層表面に、マグネトロンスパッタリング法により、Cr膜を80nmの膜厚になるように成膜し、電子線用ネガレジストを塗布して乾燥後、電子線で十字型のマークパターンを形成する。そして、現像工程によって電子線パターンを残してレジストを除去する。その後、ドライエッチングによってCr膜を除去してから、電子線パターン部分のレジストを剥離する。そして、上記製造方法に基づき、吸収層および低反射層を形成した反射型マスクブランクが得られる。
【0171】
そして、得られる反射型マスクブランクに対して、欠点検査装置(レーザーテック社製、M1350)を用いると、形成した基準マークが検出でき、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いても、基準マークが検出でき、基準マークとして有用であることが確認できる。
【0172】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2011年9月1日出願の日本特許出願2011−191057に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。