(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物蛍光体及びこれを用いた発光装置を例示するものであって、本発明は、フッ化物蛍光体及びこれを用いた発光装置を以下のものに特定しない。
【0013】
なお色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。本明細書において、可視光の短波長領域の光は、特に限定されないが400nm〜500nmの領域をいう。
【0014】
上述したように、4価Mnで付活された従来のフッ化物蛍光体は、耐水性に乏しいという問題があった。この原因として、本発明者は、蛍光体粒子表面付近の4価のMnであるMn
4+が、空気中の水分(湿気)に晒されて酸化され、二酸化マンガン(MnO
2)となって黒く着色される結果、輝度が低下していると考えられた。
【0015】
そこで、本発明の実施の形態に係るフッ化物蛍光体は、その組成が後述する一般式で示され、4価Mnの濃度を、蛍光体粒子の内部領域よりも低くした表面領域を有することにより、耐水性を向上するに至った。
【0016】
本実施の形態に係る蛍光体粒子の内部領域では4価Mnの濃度を略均一とし、一方表面領域においては、4価Mnの濃度を表面に近づくほど低くすることが好ましい。これにより、蛍光体自体は4価Mnで付活されたフッ化物蛍光体として、色再現範囲が広いという特性を維持しつつ、蛍光体粒子の表面には4価Mnの存在確率を低下させることで、湿気で表面が溶出してもMnO
2の生成を抑制して黒化を抑え、発光強度の低下を抑制できる。
【0017】
さらに、表面領域に存在する4価Mnの濃度は、内部領域の4価Mn濃度の30%以下とすることが好ましい。
【0018】
さらにまた、フッ化物蛍光体を、蛍光体量の1〜5倍量の純水中に投入して蛍光体粒子表面を溶解させた際の4価Mn溶出量が、0.05〜3ppmの範囲とすることが好ましい。
【0019】
加えて、フッ化物蛍光体を、蛍光体量の1〜5倍量の純水中に投入させた後の、発光強度の維持率を測定した場合に、90%以上であることが好ましい。
【0020】
また前記Mは、Si、又はSi及びGeとすることが好ましい。
【0021】
さらに、可視光の短波長側の光を発する光源と、該光を吸収して赤色に発光する上記のフッ化物蛍光体とを有する発光装置を得ることができる。これにより、4価Mnで付活されたフッ化物蛍光体を用いることで、従来のフッ化物蛍光体よりも色再現範囲が広く、発光特性に優れた発光装置を得ることができる。
(実施の形態)
【0022】
本発明者は、フッ化物蛍光体について鋭意検討を重ねた結果、湿気を含む条件下の信頼性試験において、蛍光体粒子の表面付近に存在する付活剤の4価Mnが、水と反応することによって黒色のMnO
2となり、着色によって発光強度を低下させていると考えられた。このことから、蛍光体粒子の表面付近に、蛍光体粒子の中心側よりも4価Mnの少ない表面領域を有することで、耐水性を向上できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0023】
本実施の形態に係るフッ化物蛍光体は、一般式K
2[M
1-aMn
4+aF
6](ただし、MはTi、Zr、Hf、Si、Ge及びSnから選ばれる少なくとも1種であり、aは0<a<0.2である。)で表される。この蛍光体粒子は、4価Mn以外の構成元素の組成は内部領域と同じであるが、内部領域よりも4価Mnが少ない表面領域を有している。これにより、可視光の短波長側の光に励起されて赤色域に発光する、耐水性に優れたフッ化物蛍光体が実現される。また、発光ピークの半値幅の狭い発光スペクトルを有するフッ化物蛍光体が実現される。
(表面領域)
【0024】
図1に蛍光体粒子71のMn
4+の濃度分布を概略的に示す模式断面図と、この蛍光体粒子の一部71’を拡大した断面図を示す。表面領域は、4価Mnの濃度が内部領域よりも低濃度となる4価Mn低濃度領域を構成する。この表面領域は、二層構造のような明確な界面でもって内部領域と区画されているのでなく、
図1において4価Mnを点で示すように、蛍光体粒子71の表面に向かって徐々に濃度が低下するような態様で形成されている。また4価Mnの濃度変化は、蛍光体粒子の中心側の内部領域73から蛍光体粒子の表面側に向かって一定の比率で徐々に低下するような態様に限られない。すなわち、
図1に示したように、蛍光体粒子71の内部領域73では4価Mnの濃度を略均一としつつ、蛍光体粒子71の表層部分にあたる表面領域72においては、4価Mnの濃度を表面に近づくほど低下するような分布とすることが好ましい。これによって、蛍光体自体は4価Mnで付活されたフッ化物蛍光体として、従来のフッ化物蛍光体よりも色再現範囲が広いという特性を維持しつつも、蛍光体粒子71の表面が湿気の影響で溶出しても4価Mnが存在しない、又は少ないことから、MnO
2の生成を抑制して黒化を抑えられると考えられ、これにより発光強度の低下を抑制できる。なお、
図1に示す表面領域72は、理想的な状態を示すものであり、実際には表面領域72は、蛍光体粒子71の内部領域73の全体を完全に覆うように形成されていなくても足り、このような態様も本発明に含まれる。すなわち、蛍光体粒子71は、耐水性が保たれる程度に、内部領域73の一部が表面領域72から露出している態様も、本発明に包含する。
【0025】
また表面領域に存在する4価Mn濃度は、蛍光体粒子の内部領域の4価Mn濃度の30%以下とすることが好ましい。さらに表面領域に存在する4価Mn濃度は、より好ましくは内部領域の4価Mn濃度の25%以下であり、一層好ましくは20%以下とする。その一方で、表面領域の4価Mn濃度を内部領域の0.5%以上とすることもできる。上述の通り、4価Mn濃度をゼロに近付けることが理想であるものの、4価Mnの少ない表面領域の割合を大きくするに従って、蛍光体粒子表面に発光に寄与しない領域が存在することとなって、却って発光強度が低下してしまうためである。
【0026】
また表面領域の厚さは、蛍光体の粒径にもよるが、平均粒径に対して1/20〜1/50程度とすることが好ましい。例えば、蛍光体粒子の平均粒径は30〜50μm、中心粒径が40〜60μmの場合、表面領域の厚さは1μm以下とする。
【0027】
さらにフッ化物蛍光体は、蛍光体量の1〜5倍量の純水中に投入して蛍光体粒子の表面を溶解させた際の4価Mn溶出量が、0.05〜3ppmの範囲となるように調整する。また4価Mn溶出量は、好ましくは0.1〜2.5ppmの範囲であり、さらに好ましくは0.2〜2.0ppmの範囲とする。これは4価Mn溶出量が少なくなるほど耐水性は向上するが、4価Mnの少ない表面領域の割合を多くするに従って、上述の通り発光強度の低下が大きくなってしまうためである。
【0028】
このような構成によって、水に溶出した際のMn
4+に起因した、MnO
2の生成による着色を伴った発光輝度の低下を抑えることができるため、耐水性の高いフッ化物蛍光体が実現できる。ここで蛍光体一般式中のMは、Si、又は、Si及びGeであることが好ましい。これにより発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができる。
(蛍光体の製造方法)
(1)少なくともMnとFとを含有する溶液と、少なくともKとFとを含有する溶液と、少なくともSiとFとを含有する溶液と、を混合して生成物(蛍光体)を析出させる工程
【0029】
少なくともMnとFとを含有する溶液(以下「溶液A」と称す場合がある。)とは、Mn源を含むフッ化水素酸の溶液である。溶液AのMn源としては、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を用いることができ、中でも、結晶格子を歪ませて不安定化させる傾向にあるCl元素を含まないこと等から、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができることによりK
2MnF
6が好ましい。なお、Mn源のうち、Kを含むものは、K源を兼ねるものとなる。
【0030】
少なくともKとFとを含有する溶液(以下「溶液B」と称す場合がある。)とは、K源を含むフッ化水素酸の溶液である。この溶液BのK源としては、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を用いることができるが、中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さいために安全性が高いことによりKHF
2が好ましい。
【0031】
これらのMn源、K源は、それぞれ1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0032】
少なくともSiとFとを含有する溶液(以下「溶液C」と称す場合がある。)とは、SiF
6源を含有する水溶液である。この溶液CのSiF
6源としては、SiとFとを含む化合物であって、溶液への溶解性に優れるものであれば良く、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6を用いることができ、これらのうち、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。これらのSiF
6源は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0033】
溶液Aのフッ化水素濃度は、通常30重量%以上、好ましくは35重量%以上、より好ましくは40重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは65重量%以下、より好ましくは60重量%以下であることが好ましい。フッ化水素濃度が低過ぎると溶液Aに含まれる付活元素の原料K
2MnF
6が不安定で加水分解しやすくなり、Mn濃度が激しく変化するので、合成される蛍光体中のMn付活量が制御しにくくなることから蛍光体の発光効率のバラつきが大きくなる傾向にあり、高過ぎると沸点が下がるためにフッ化水素ガスが発生しやすくなり、溶液中のフッ化水素濃度が制御しにくくなることから蛍光体の粒子径のバラつきが大きくなる傾向にある。
【0034】
また、溶液BのK源濃度は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは65重量%以下、より好ましくは55重量%以下であることが好ましい。また、K源濃度が低過ぎると蛍光体の収率が下がる傾向にあり、高過ぎると蛍光体粒子が小さくなり過ぎる傾向にある。
【0035】
溶液A〜Cの混合方法としては特に制限はなく、溶液Aを攪拌しながら溶液BおよびCを添加して混合しても良く、溶液Cを攪拌しながら溶液AおよびBを添加して混合しても良い。また、溶液A〜Cを一度に容器に投入して攪拌混合しても良い。
【0036】
溶液A〜Cを混合することにより、所定の割合でMn源とK源とSiF
6源が反応して目的の蛍光体の結晶が析出するため、この結晶を濾過等により固液分離して回収し、エタノール、水、アセトン等の溶媒で洗浄した後、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥することが好ましい。乾燥時間としては、蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はないが、例えば、10時間程度乾燥する。
【0037】
なお、この溶液A〜Cの混合に際しても、前述の蛍光体原料の仕込み組成と得られる蛍光体の組成とのずれを考慮して、生成物としての蛍光体の組成が目的の組成となるように、溶液A〜Cの混合割合を調整する必要がある。
【0038】
(2)上記工程で得られた蛍光体(「表面領域」を形成する前段階のフッ化物蛍光体の粒子を、以下の説明では、特に「蛍光体コア」と呼ぶ。)と、少なくともSiとFとを含有する溶液(以下「溶液D」と称す場合がある。)と、還元剤を含有する溶液と、少なくともKとFとを含有する溶液(上記「溶液B」と区別して、以下「溶液E」と称す場合がある。)を混合して、蛍光体コアの粒子表面に、4価Mnの濃度を、形成される蛍光体粒子の内部領域よりも低くした表面領域を形成して蛍光体粒子とする工程
【0039】
少なくともSiとFとを含有する溶液(以下「溶液D」と称す場合がある。)とは、SiF
6源を含有するフッ化水素酸の溶液である。
【0040】
この溶液DのSiF
6源としては、SiとFとを含む化合物であって、溶液への溶解性に優れるものであれば良く、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6を用いることができ、これらのうち、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。これらのSiF
6源は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
この溶液Dのフッ化水素濃度は通常25重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、また、通常65重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下であることが好ましい。また、SiF
6源濃度は通常3重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下であることが好ましい。
【0042】
還元剤を含む溶液として、過酸化水素やシュウ酸を含有する溶液を利用することもできる。これらのうち、過酸化水素は、本発明の蛍光体の母体に悪影響を及ぼすことなくMnを還元できるという点で、また、最終的に無害な水と酸素に分解するため、製造工程上利用しやすく、環境負荷が少ない点で好ましい。
【0043】
本工程における少なくともKとFとを含有する溶液(以下「溶液E」と称す場合がある。)とは、K源を含むフッ化水素酸の溶液である。この溶液EのK源としては、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を用いることができるが、中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さいために安全性が高いことによりKHF
2が好ましい。
【0044】
溶液D、Eの混合方法としては、蛍光体コアを投入した、SiとFとを含有する溶液Dを攪拌しながら、還元剤を含む溶液およびEを順番に添加する。
【0045】
本工程により得られた生成物を濾過等により固液分離して回収し、エタノール、水、アセトン等の溶媒で洗浄した後、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥することが好ましい。乾燥時間としては、蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はないが、例えば、10時間程度乾燥する。
(発光装置)
【0046】
さらに、このフッ化物蛍光体を、可視光の短波長側の光を発する光源と組み合わせることで、発光装置を得ることができる。例えば、青色発光LEDと、このLEDで励起されて黄色の蛍光を発する蛍光体を組み合わせた白色の発光装置が開発されているが、赤み成分が不足するという欠点がある。そこで、上記フッ化物蛍光体を組み合わせて、光源からの青色光を吸収して赤色の蛍光を加えることで、演色性を高めた高品質な発光装置が実現される。特に、液晶用バックライト用途において、発光ピークの半値幅が狭く、発光強度の高いフッ化物蛍光体を用いるのが好ましい。これにより、より鮮明な赤色を発光する発光装置を提供することができる。
【0047】
次に、このようなフッ化物蛍光体を用いた発光装置について説明する。発光装置は、例えば、照明器具、ディスプレイやレーダ等の表示装置、液晶用バックライト等が挙げられる。本実施の形態に係るフッ化物蛍光体は、特にディスプレイ用途に用いることが好ましい。発光装置の励起光源としては、可視光の短波長領域の光を放つ発光素子を使用することができる。励起光源を蛍光体が含有された封止樹脂で覆う発光装置では、励起光源から出射された光のうち一部を蛍光物質に吸収させずに透過させ、この透過させた光を封止樹脂から外部に放出させることもできる。この外部に放射される光を混色光の一部として有効に利用すれば、発光装置から出射される光の無駄を無くして、高効率の発光装置を提供することができる。
【0048】
発光素子を搭載した発光装置には、砲弾型や表面実装型等種々の形式がある。一般に砲弾型発光装置とは、外部への接続電極となるリードに発光素子を配置し、リードおよび発光素子を被覆する封止部材とから構成されており、封止部材を砲弾のような形状に形成した発光装置を指す。また、表面実装型発光装置とは、成形体に発光素子及びその発光素子を覆う封止部材を配置して形成された発光装置を示す。さらに平板状の実装基板上に発光素子を実装し、その発光素子を覆うように、蛍光体を含有した封止部材をレンズ状等に形成した発光装置もある。
【0049】
一例として、フッ化物蛍光体を用いた発光装置を説明する。
図2は、本実施の形態に係る発光装置の概略断面図を示す。
図3は、本実施の形態に係る発光装置の概略平面図を示す。なお、
図2は、
図3のII−II線における断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
【0050】
発光装置100は、可視光の短波長側の光を発する窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40とを有する。成形体40は第1のリード20と第2のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部が形成されており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は封止部材50により封止されている。封止部材50はエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。封止部材50は発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70を含有している。以下、各構成要素について説明する。
(発光素子)
【0051】
発光素子は、可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。特に、420nm〜485nmの範囲が好ましい。より好ましくは440nm〜480nmに発光ピーク波長を有するものである。これにより、フッ化物蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができるからである。当該範囲の励起光源を用いることにより、発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができるからである。また、励起光源に発光素子を利用することによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。可視光の短波長側領域の光は、主に青色光領域となる。
(発光スペクトル)
【0052】
フッ化物蛍光体は、可視光の短波長側の光を吸収して、励起光の発光ピーク波長よりも長波長側に蛍光体の発光ピーク波長を有する。可視光の短波長側領域の光は、主に青色光領域が好ましい。具体的には400nm〜500nmに発光ピーク波長を有する励起光源からの光により励起され、610nm〜650nmの波長の範囲に発光ピーク波長を有し、その発光スペクトルの半値幅は2nm以上,10nm以下であることが好ましい。励起光源には420nm〜485nmに主発光ピーク波長を有する光源を用いることが好ましく、更に440nm〜480nmに発光ピーク波長を有する光源を用いることが好ましい。
(他の蛍光体)
【0053】
本実施の形態に係るフッ化物蛍光体は、単独で用いることもできるが、他の蛍光体と組み合わせて使用することもできる。他の蛍光体は、発光素子からの光を吸収し異なる波長の光に波長変換するものであればよい。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に付活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。例えば、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、(Y,Gd)
3(Ga,Al)
5O
12:Ce、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu(β−sialon)、SrGa
2S
4:Eu、(Ca,Sr)
2Si
5N
8:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu等である。これにより、種々の色調の発光装置を提供することができる。
【実施例1】
【0054】
以下、実施例1〜9、比較例1に係るフッ化物蛍光体について説明する。表1は、比較例1に係るフッ化物蛍光体の原料の仕込み量を示す。表2は、実施例1〜9に係るフッ化物蛍光体の原料の仕込み量を示す。さらに実施例6に係る蛍光体の発光スペクトルを
図4に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
(比較例1)
【0057】
最初に、蛍光体コアとする比較例1に係るフッ化物蛍光体の作成方法を説明する。本比較例に係る蛍光体コアは、表面領域を形成する前のフッ化物蛍光体の粒子である。まず、表1に示す仕込み組成比となるように、K
2MnF
6を16.25g秤量し、55重量%HF水溶液1000gに溶解し、溶液Aを作成した。一方でKHF
2を195.10g秤量し、それを55重量%HF水溶液200gに溶解させて溶液Bを作成した。また、40重量%H
2SiF
6水溶液450gを秤量し溶液Cを作成した。そして、溶液Aを撹拌しながら溶液Bと溶液Cを同時に加えていき、得られた沈殿物を分離後、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで蛍光体コアである比較例1のフッ化物蛍光体を作製した。
(実施例1)
【0058】
次に実施例1に係るフッ化物蛍光体の製造手順を説明する。本実施例に係る蛍光体粒子は、内部領域と、その内部領域よりも4価マンガン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体の粒子である。表2に示す仕込み組成比になるように、まず40重量%H
2SiF
6水溶液を12.27g秤量し、55重量%HF水溶液150gを加えて溶液Dを作成した。一方でKHF
2を2.66g秤量し、それを55重量%HF水溶液60gに溶解させ溶液Eを作成した。次に、溶液Dを撹拌しながら、30.0gを秤量した比較例1の蛍光体コアを投入した後、還元剤として30重量%H
2O
2水溶液1.5gを加え、溶出したMn
4+をMn
2+に還元することで、フッ化物錯体[MnF
6]
2-の生成を抑制した。還元剤として、本実施例では、過酸化水素(H
2O
2)を採用したが、本蛍光体の製造方法においては、還元剤として過酸化水素に限定されることなく、過酸化水素の他、例えばシュウ酸のような他の還元剤を利用することもできる。
【0059】
[MnF
6]
2-+2H
2O
2→Mn
2++4HF+2O
2↑
この反応により、溶液D中の[MnF
6]
2-をMn
2+とした後に、溶液Eを加えていくことで、比較例1の蛍光体コアに、4価Mnの濃度を、形成される蛍光体粒子の内部領域よりも低くした表面領域を形成した。得られた沈殿物を分離後、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで実施例1のフッ化物蛍光体を作製した。
(実施例2〜9)
【0060】
表2に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外は、実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で実施例2〜9のフッ化物蛍光体を作製した。以上のようにして得られた各フッ化物蛍光体の、発光輝度特性と、耐水評価後の発光輝度特性を、表3に示す。
【0061】
【表3】
(発光輝度測定結果)
【0062】
得られた実施例1〜9、比較例1に係るフッ化物蛍光体について、耐水評価結果に先立ち、通常の発光輝度の測定を行った。比較例1の発光輝度を100%とした際の相対発光輝度は上記表3の通りである。ここから明らかな通り、実施例1、2を除いて、僅かに相対発光輝度が低下している。これは、蛍光体粒子が表面領域を有することで、外部に出力される光の成分の一部が損なわれたためと思われる。
(耐水評価結果)
【0063】
次に、得られた実施例1〜9、比較例1に係るフッ化物蛍光体について、耐水性の評価を行った。耐水評価は、蛍光体5gを純水15g中で1時間撹拌を行った後、分離、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥した後の発光輝度を、耐水評価前の発光輝度と比較することで行った。耐水評価の結果は上記表3の通りである。ここから明らかな通り、表面領域を有しない比較例1では発光輝度が60.4%に低下した一方で、いずれの実施例においても、94%以上の輝度維持率を達成しており、本実施例の有用性が確認された。特に実施例4〜9に至っては、耐水評価試験前よりも高い輝度を示している。これは、蛍光体粒子の表面領域によって、当初は出力光の一部が阻害されていたものが、耐水評価試験によって表面領域が溶出した結果、このような阻害が低減されて、輝度成分が増えたためと考えられる。すなわち本実施例によれば、発光輝度の経時低下を抑制できるばかりか、維持乃至向上させる効果も得られることが確認された。
【0064】
【表4】
(表面組成分析)
【0065】
最後に、得られた実施例1〜9、比較例1に係るフッ化物蛍光体について、純水中に投入し、蛍光体粒子の表面を溶出させた際の組成分析を行うことで表面組成を算出した。溶出組成の評価は、蛍光体5gを、0.5%過酸化水素を含む純水15g中で1時間撹拌を行った後に上澄みを採取し、ICPによる組成分析を行った。実施例1〜9に係るフッ化物蛍光体粒子の表面領域のMn濃度比は、比較例1に係るフッ化物蛍光体の組成分析値を内部組成として算出した。すなわち、実施例1〜9に係る「表面領域/内部領域Mn濃度比」は、「蛍光体表面組成算出値(mol比)」を、蛍光体コアである比較例1の「蛍光体組成分析値(mol比)」で割った値として算出した。各実施例における「内部領域Mn濃度」は、比較例1の蛍光体コアのMn濃度と同じと考えられるためである。蛍光体全体のICPによる組成分析結果と併せた結果は上記表4の通りである。これらから明らかな通り、Mnの溶出量が比較例1では11ppmと突出して多いのに対し、各実施例では0.5〜2.2ppmに抑制されており、Mnの溶出量が少ない、言い換えると二酸化マンガンの生成量が少ないことが裏付けられ、すなわち黒色化が抑制されて輝度維持率の経時低下が少ないことが確認される。