(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通常、海底から汲み上げる原油成分には、腐食性ガスである硫化水素が多量に(数10ppm以上)含まれる場合がある。このような硫化水素の含有率が高い原油を、特許文献1のような可撓性流体輸送管で輸送すると、硫化水素がプラスチック内管から径方向に漏えいし、プラスチック内管外周の金属製補強層を腐食させる恐れがある。
【0006】
また、輸送管断面内部に腐食性ガスが滞留する問題がある。このような問題は、特に油田の水深が深い場合には、内圧が大きくなり、流体からの透過ガス量が増加することで問題となる。このように、従来の可撓性流体輸送管は、金属補強層を破壊させる場合がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、可撓性を有するインターロック管と、前記インターロック管の外周側に設けられた第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、前記ガス流層の外周側に設けられた第2の樹脂層と、前記第2の樹脂層の外周側に設けられた補強層と、前記補強層の外周側に設けられた保護層と、を少なくとも具備し、前記ガス流層は、樹脂部材である樹脂条体が前記第1の樹脂層の外周の周方向に隙間をあけて複数配置され、軸方向に螺旋状に設けられ、前記隙間が流路となり、前記樹脂条体は、少なくとも2層設けられ、前記樹脂条体の巻き付け層数は、2の倍数であり、隣接する層間で逆方向に
螺旋状に設けられることを特徴とする流体輸送用可撓管である。
【0009】
第2の発明は、可撓性を有するインターロック管と、前記インターロック管の外周側に設けられた第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、前記ガス流層の外周側に設けられた第2の樹脂層と、前記第2の樹脂層の外周側に設けられた補強層と、前記補強層の外周側に設けられた保護層と、を少なくとも具備し、前記ガス流層は、樹脂部材が隙間をあけて螺旋状に
設けられ
て、前記樹脂部材同士の隙間が流路となり、前記インターロック管の軸方向に平行な断面において、前記樹脂部材の断面幅をEとし、前記隙間の幅をFとすると、F/Eは0.05以上0.1以下であり、前記樹脂部材は、エッジが円弧形状の面取り形状であり、円弧形状部が流路となることを特徴とする流体輸送用可撓管である。
【0012】
第1の発明によれば、ガス流層が設けられるため、内部を流れる流体から発生する腐食性ガスをガス流層内部に流すことができる。このため、腐食性ガスが可撓管の内部に滞留し、これにより補強層を構成する金属部材が腐食することを防止することができる。また、
樹脂部材として樹脂条体を用い、樹脂条体が第1の樹脂層の外周の周方向に隙間をあけて複数配置されて、軸方向に螺旋状(長ピッチ)に設けられることで、樹脂テープを短ピッチで巻きつける場合と比較して、ガスの流路長を短くすることができる。このため、ガスを可撓管の軸方向に移動させることが容易である。したがって、ガス抜きの効果が高い。この場合、少なくとも2層(望ましくは2の倍数の層数となるように)樹脂条体を巻き付け、内外層の樹脂条体の巻き付け方向を逆方向とすることで、可撓管のねじれを防止することができる。
樹脂条体を2層以上巻き付け方向を隣接する層間で逆方向に巻き付けることで、樹脂条体が形成する流路が、樹脂条体の巻き付け位置が多少ずれることで多少狭くなっても、隣接する上層と下層の樹脂条体が形成する流路の交差位置で、流路が上下に繋がるため、流路を確保できるため、樹脂条体は各層の巻き付け方向を逆にして、複数層設けることが望ましい。
【0013】
また、ガス流層の外周に遮蔽層を設けることで、ガス流層を流れる腐食性ガスが、それよりも外周の補強層等へ浸透することを確実に防止することができる。このような遮蔽層としては、金属層を有する複層テープで構成することで、容易に遮蔽層を構成することができる。
【0014】
第2の発明によれば、ガス流層は、隙間を空けて樹脂部材である樹脂テープや条体を螺旋巻きすることで、容易に形成することができる。この場合、樹脂部材同士の隙間がガスの流路となる。さらに、インターロック管の軸方向に平行な断面において、樹脂部材の断面幅をEとし、隙間の幅をFとすると、F/Eを0.05以上0.1以下とする。これによって、隙間が小さすぎることによって、可撓管を曲げた際に隙間が塞がることを防止し、隙間が大きすぎることによって、隙間への第1、第2の樹脂層の食い込み量が大きくなり故障の原因となることを防止することができる。さらに、樹脂部材のエッジを円弧形状の面取り形状とすることで、樹脂材同士が接触した場合であっても、円弧形状部が流路となり、確実に流路を確保することができる。
【0017】
第3の発明は、第1
または第2の発明にかかる流体輸送用可撓管を海底から海上まで敷設し、前記流体輸送用可撓管により、海底から採取した流体を海上まで輸送し、前記流体から発生し、第1の樹脂層を透過する腐食性ガスをガス流層に導入し、前記流体輸送用可撓管の内部の流体の海底近傍から海上までの圧力分布に応じて生じる前記ガス流層の内部の腐食性ガスの圧力分布を利用して、前記腐食性ガスを前記流体輸送用可撓管の海上側の端部から抜き取ることを特徴とする流体から発生する腐食性ガスの抜き取り方法である。
【0018】
第4の発明は、第1
または第2の発明にかかる流体輸送用可撓管と、前記流体輸送用可撓管が接続される海上の浮体施設と、前記流体輸送用可撓管と前記浮体施設との接続部に設けられる端末部と、を具備し、前記端末部には、前記流体輸送用可撓管の前記ガス流層の内部のガスを抜くことが可能なバルブと、前記補強層の内部のガスを抜くことが可能バルブとが設けられることを特徴とする流体輸送システムである。
【0019】
第
3、第
4の発明によれば、海底から海上に至るまでの内部の流体圧力に応じて生じるガス流層内部の腐食性ガスの圧力差により、腐食性ガスを海底部から海上部までガス流層を用いて移動させ、海上部で容易に腐食性ガスを抜きとることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態にかかる可撓管1について説明する。
図1は、可撓管1を示す斜視断面図で、
図2は軸方向断面図である。可撓管1は、主に管体であるインターロック管3、樹脂層4、ガス流層5、遮蔽層7、耐内圧補強層9、軸力補強層11、保護層13等から構成される。
【0023】
インターロック管3は、可撓管1の最内層に位置し、外圧に対する座屈強度に優れ、耐食性も良好なステンレス製である。インターロック管3はテープを断面S字形状に成形させてS字部分で互いに噛み合わせて連結されて構成され、可撓性を有する。なお、インターロック管3に代えて、同様の可撓性を有し、座屈強度に優れる管体であれば、他の態様の管体を使用することも可能である。
【0024】
インターロック管3の外周には、樹脂層4が設けられる。樹脂層4は、インターロック管3内を流れる流体を遮蔽する。樹脂層4は耐油性を有すればよく、例えばナイロン等の樹脂製である。なお、インターロック管3と樹脂層4との間に座床層15aを設けてもよい。座床層15aは、必要に応じて設けられ、インターロック管3の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。すなわち、座床層15aは、例えば不織布のようにある程度の厚みを有し、インターロック管3外周の凹凸のクッションとしての役割を有する。
【0025】
なお、座床層については、必要に応じて設けられるものであり、以下の説明においては座床層を有する場合について説明するが、必ずしも必要なものではないので省くことができる。したがって、以下の図(
図1以外の図)においては、座床層の図示を省略する。
【0026】
なお、インターロック管3の外周に樹脂層4が設けられるとは、必ずしもインターロック管3と樹脂層4とが接触していることを要せず、例えば、座床層15aのような他層が間に挟まれて設けられたとしても、樹脂層4は、インターロック管3の「外周に」設けられていると称する。以下の説明においては、同様にして「外周」なる用語を用いる。
【0027】
樹脂層4の外周には、ガス流層5が設けられる。ガス流層5は、内部にガスが流れる流路が形成されており、ガスが可撓管1の軸方向に対して移動することができる。ガス流層5の詳細は後述する。
【0028】
ガス流層5の外周には必要に応じて遮蔽層7が設けられる。遮蔽層7は、インターロック管3内を流れる流体から生じる腐食性ガスを遮蔽する。なお、遮蔽層7としては、腐食性ガスの浸透を防止するものであることが望ましく、金属テープを有する複層テープや、硫化物トラップ材などの金属粒子を有する樹脂を用いることができるが、このような特殊な構造を有する遮蔽層7に変えて、通常の樹脂のみの樹脂層を用いることもできる。
【0029】
遮蔽層7の外周には、耐内圧補強層9が設けられる。耐内圧補強層9は、主にインターロック管3内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。耐内圧補強層9は、例えば断面C形状または断面Z形状等の金属製のテープ等を互いに向かい合うように、かつ、互いに軸方向に重なり合うように短ピッチ(金属製のテープの幅と巻きつけピッチが略同じ)で巻きつけられて形成される。なお、耐内圧補強層9は、上述のように金属テープが所定ピッチで巻きつけられた構成であり、インターロック管3の曲げ変形や捩れ変形に追従可能である。
【0030】
耐内圧補強層9の外周には、軸力補強層11が設けられる。軸力補強層11は、主にインターロック管3が可撓管1の軸方向へ変形する(伸びる)ことを抑えるための補強層である。軸力補強層11は、平型断面形状の金属製の補強条をロングピッチで(補強条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように)2層交互巻きして形成される。補強条は耐内圧補強層の外周において、周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。軸力補強層11は、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。
【0031】
なお、必要に応じて、耐内圧補強層9と軸力補強層11の間にポリエチレン製の樹脂テープである座床層15bを設けてもよく、また、逆向きに螺旋状に巻きつけられる2層の補強条の間に、座床層15cを設けてもよい。座床層の材料は、強度や耐食性が同様であれば、ポリエチレン以外の他の材料を用いても良い。座床層15b、15cは、補強部材同士が可撓管1の変形に追従する際に擦れて、摩耗することを防止するためである。この場合でも、座床層の有無を問わず、耐内圧補強層9の外周に軸力補強層11が設けられると称する。なお、以下の説明において、耐内圧補強層9と軸力補強層11とを総称して補強層と称する。
【0032】
軸力補強層11の外周には、保護層13が設けられる。保護層13は、例えば海水等が補強層へ浸入することを防止するための層である。保護層13は、例えばポリエチレン製やポリアミド系合成樹脂製等が使用できる。なお、軸力補強層11の外周には、必要に応じて座床層15dが設けられる。座床層15dは、軸力補強層11の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。以上のように、可撓管1を構成する各層は、それぞれ可撓管1の曲げ変形や捩れ変形に追従し、可撓性を有する。
【0033】
次に、可撓管1の製造方法について概略を説明する。まず、あらかじめ製造されたインターロック管3の周囲に、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、座床層15a(
図1)が形成される。座床層15aが形成されたインターロック管3に対し、押出機によって、外周に樹脂を押し出し被覆し、樹脂層4が形成される。
【0034】
次に、
図3(a)に示すように、樹脂テープ供給機から、樹脂層4の外周に樹脂テープ17が供給されて巻きつけられ、ガス流層5が形成される。なお、
図3(a)は、樹脂テープ17を2層巻きつけた状態を示す図(点線は2層目を巻きつける場合における巻きつけ状態を示すもの)である。樹脂テープ17の材質としては、ある程度の硬度とある程度の耐熱性を有すれば良く、例えばフッ素樹脂ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが使用できる。また、ガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。樹脂テープ17は、少なくとも1層(製造性を考慮すると望ましくは2層)螺旋状に巻きつけられる。この際、それぞれの層における樹脂テープ17は、隙間19を空けて螺旋巻きされる。隙間19がガスの流路となる。
【0035】
なお、樹脂テープ17に変えて、樹脂層4の外周に繊維テープ18を巻きつけることもできる。
図3(b)は繊維テープ18を巻きつける状態を示す図である。繊維テープ18は、例えば、ガラス繊維やアラミド繊維、アリレート繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維などが、平織り、綾織り、朱子織り、絡み織りなど種々の方法で織り込まれたものである。繊維テープ18を用いる場合には、繊維テープを構成する繊維素線同士の隙間がガスの流路となる。したがって、繊維テープ18同士の間には隙間は必ずしも必要ではなく、図示したようにラップ巻きしてもよい。なお、以下の説明では、ガス流層として樹脂テープが2層に巻きつけられる例について説明する。
【0036】
図4は、樹脂テープ17が巻きつけられた状態を示す図である。
図4(a)に示すように、樹脂テープ17は、可撓管1の軸方向(図中矢印A方向)に対して角度θで螺旋巻きされる(図中矢印B方向)。
【0037】
図4(b)は
図4(a)のC部における断面図である。樹脂テープ17の幅をD(
図4(a))とすると、可撓管の軸方向に平行な断面における樹脂テープの断面幅Eは、L/sinθとなる。また、可撓管の軸方向に平行な断面における隙間19の幅をFとすると、F/Eは、0.05〜0.1であることが望ましい。隙間19が小さすぎると、可撓管1を曲げた際に、隙間19が塞がる恐れがあり、隙間19が大きすぎると、隙間19への樹脂層4、遮蔽層7の食い込み量が大きくなり、隙間19が塞がれる恐れがあり、また、食い込み量が大きくなると、樹脂層4、遮蔽層7の故障の原因となる可能性があるためである。
【0038】
なお、ガスの流路を確実に確保するためには、樹脂テープ17の厚みGは、0.5mm以上であることが望ましい。薄すぎると、流路の確保が困難となり、厚すぎると、可撓管1の外径が大きくなり、コスト増にもなるため望ましくない。また、樹脂テープ17のエッジはシャープエッジではなく、円弧形状などの面取り形状であることが望ましい。樹脂テープ17同士が接触した場合であっても、円弧形状部が流路として機能するためである。
【0039】
また、樹脂テープ17の巻き付け角度θは製造性を考慮すると85°以上であることが望ましい。
【0040】
次に、ガス流層5の外周に遮蔽層7が形成される。
図5は、遮蔽層7を構成する遮蔽帯21を示す図である。遮蔽帯21は、金属フィルム25が樹脂フィルム23により挟み込まれる複層テープである。ガス流層5が形成された後、遮蔽帯供給機からあらかじめ製造された遮蔽帯が供給される。なお、遮蔽帯は、螺旋巻きされるか、または、遮蔽帯の長手方向がインターロック管3の軸方向と略同方向になるように供給され、フォーミング機内でフォーミングされ、縦巻きされる。以上により遮蔽層7が形成される。
【0041】
なお、金属フィルム25は、フィルム上に薄く加工が容易であるものであり、耐食性に優れるものであれば良い。たとえば、ステンレス、アルミニウム、外面に耐食性の良い材質でクラッドしたクラッド鋼が使用できる。なお、金属フィルム25は例えば0.05mm程度の厚さであり、遮蔽帯21全体としては、例えば0.2〜0.3mm程度であればよい。また、樹脂フィルム23は、樹脂製の部材であり、遮蔽層7の構築時に、金属フィルム25の折れ曲がりや破れ、しわなどの発生を防止できる。
【0042】
以上のようにして遮蔽層7が形成されたインターロック管3は、さらに補強テープ巻き機により耐内圧用補強条である金属条が短ピッチで巻きつけられ、耐内圧補強層9が形成される。金属条は、互いの断面C型の凹部が向かい合うように2重に形成される。その外周には、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、その外周に補強条がロングピッチで巻きつけられる。補強条は、巻きつけ面の周方向に複数並列した状態から、螺旋状に巻きつけられる。さらに最外周に押出機によって保護層13が形成され、所定長さに巻き取られる。以上により、可撓管1が製造される。
【0043】
次に、ガス流層5の機能について説明する。
図6は、可撓管1の断面を示す図である。前述の通り、インターロック管3内には、石油等の流体が流れている。石油等には、腐食性ガスである硫化水素等の腐食性ガスが含まれている場合がある。
【0044】
インターロック管3内部の流体は、樹脂層4によって遮蔽されるため、直接樹脂層4の外周に漏れ出すことはない。一方、腐食性ガスは樹脂層4を透過する恐れがある。特に内圧の大きな部位では、多くの腐食性ガスが樹脂層4を透過する(図中矢印G方向)。樹脂層4の外周には、隙間19を有するガス流層5が形成される。したがって、樹脂層4を透過した腐食性ガスは、ガス流層5に流入する。
【0045】
ガス流層5(隙間19)に流入した腐食性ガスは、隙間19を通り、可撓管1の軸方向に移動する(図中矢印H方向)。なお、隙間19が螺旋状に形成されるため、腐食性ガスは隙間19を螺旋状に移動する。ここで、可撓管1内部の流体圧力は、海底油田等における生産井側で最も高く、海上の石油等の回収部において最も低くなる。腐食性ガスの透過量は、内圧に依存するため、内圧の大きな海底側で最も多くの腐食性ガスがガス流層5に流れ込む。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスの圧力分布としては、生産井側から回収部側に向かって圧力が低下する。また、海底から回収部までの鉛直方向高さに応じた静圧変化を考慮しても、上方である回収部側の圧力は低下する。
【0046】
したがって、ガス流層5に流入した腐食性ガスは、より圧力の低い上方の回収部側に向かって流れる。すなわち、ガス流層5内部での腐食性ガスは、必ず、石油等の回収部側である例えば海上設備側に向かって自然に流れる。このため、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留したりすることがない。
【0047】
なお、ガス流層5の外周に遮蔽層7を形成することで、ガス流層5を流れる際に、腐食性ガスが補強層側にさらに浸透することがなく、確実に腐食性ガスを所望の方向に流して、補強層の腐食を防止することができる。
【0048】
次に、他の実施の形態にかかる可撓管1aについて説明する。
図7は、可撓管1aを示す斜視断面図で、
図8は軸方向断面図である。可撓管1aは可撓管1と略同様の形態であるが、ガス流層の態様が異なる。可撓管1aでは、ガス流層5に代えて、ガス流層5aが設けられる。
【0049】
ガス流層5aは、複数の樹脂部材である平条体(樹脂条)により形成される。樹脂条は、前述した軸力補強層11を構成する補強条と同様に、樹脂層4の外周の周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。すなわち、樹脂条は、樹脂条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように2層交互巻きして形成される。なお、樹脂条の巻き付け層数は、2層である必要はなく、4層、6層・・(2の倍数)であってもよい。この場合、下層側の樹脂条と上層側の樹脂条とは、逆方向に向けて螺旋巻きされる。なお、樹脂条の巻き付け角度は、軸力補強条と略同様の20°〜45°(例えば35°程度)であることが望ましい。
【0050】
図9(a)は、
図8のJ部拡大図である。前述の通り、樹脂条17aは周方向に複数配置される。この際、隣り合う樹脂条17a同士の間には、隙間19が形成される。ガス流層5aでは、樹脂条17a同士の隙間19がガスの流路となる。
【0051】
図9は、ガス流層5aの透視図であり、2層の樹脂条17aが巻き付けられる場合の下層側の樹脂条17aを示す図である(なお、上層側の樹脂条17aは波線で示す)。前述の通り、内部から浸透したガスは、ガス流層5aに導入され、隙間19を通り、可撓管の軸方向に螺旋状に流れる(図中矢印K方向)。この際、複数の樹脂条17aがロングピッチで巻き付けられるため、可撓管1の長さに対して、ガス流路長を可撓管1と比較して短くすることができる。
【0052】
すなわち、可撓管1aによれば、可撓管1と同様の効果を得ることができる。また、可撓管の長手方向に対して、ガスの流路長を短くすることができるため、ガスをより効率良く流すことができる。
【0053】
図10は、石油生産システム30を示す図である。前述の通り、可撓管1(1a)の一方の端部は、海底油田等に設けられる生産井35と接続され、他方の端部が海上の浮遊式石油精製設備31と接続される。前述の通り、生産井35から生産される石油等は可撓管1(1a)内部を通って、浮遊式石油精製設備31まで輸送される。
【0054】
この際、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって、内部の流体の圧力は低下する。したがって、ガス流層5(5a)内部の腐食性ガスの内圧も、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって低下する。したがって、ガス流層5(5a)内部の腐食性ガスを、この圧力差を利用して浮遊式石油精製設備31側に向かって流すことができる(図中矢印I方向)。なお、浮遊式石油精製設備31においては、腐食性ガスは大気に開放してもよく、または、吸引装置で回収してもよい。いずれにしても、可撓管1の端部側から、内部の腐食性ガスを抜き取ることができる。
【0055】
なお、可撓管1(1a)と浮体設備である浮遊式石油精製設備31とは、可撓管1(1a)の端部に形成される端末部において接続される。端末部は、可撓管1(1a)内部を流れる流体を浮遊式石油精製設備31の所定の貯蔵部に輸送するとともに、可撓管1(1a)のガス流層5(5a)の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブが設けられることが望ましい。なお、バルブによって、ガス流層5内部のガスを所定の間隔で開閉して抜いてもよく、または、ガス流層5(5a)内部の圧力が所定値以上となった際に開放してガスを抜いてもよい。
【0056】
また、可撓管1(1a)の補強層(耐内圧補強層11、軸力補強層13)内に浸透したガスを抜きとることが可能なように、補強層の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブをさらに設けてもよい。
【0057】
以上、本実施の形態によれば、ガス流層5(5a)を形成することで、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスが、可撓管1の断面における径方向に透過することで、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留したり、腐食性ガスが補強層に浸透して補強層を腐食させることがない。
【0058】
また、ガス流層5(5a)には、腐食性ガスが流れるガス流路が形成されるため、腐食性ガスを確実に可撓管1に形成された流路に沿ってスパイラル状に結果的に軸方向に移動することで、結果的に軸方向に移動させることができ、可撓管1の端部から抜き取ることができる。
【0059】
また、ガス流層5(5a)の外周側に遮蔽層7を設けることで、より確実に腐食性ガスが補強層に浸透することを防止することができる。
【0060】
特に、複数の樹脂条を周方向に設けてロングピッチで巻きつけることで、ガス流長を短くすることができる。このため、より効率良くガス抜きを行うことができる。
【0061】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。