(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて各実施形態について説明する。
【0015】
以下では、荷電粒子線装置の一例として、荷電粒子線顕微鏡について説明する。ただし、これは本発明の単なる一例であって、本発明は以下説明する実施の形態に限定されるものではない。本発明は、走査電子顕微鏡、走査イオン顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、これらと試料加工装置との複合装置、またはこれらを応用した解析・検査装置にも適用可能である。
【0016】
また、本明細書において「大気圧」とは大気雰囲気または所定のガス雰囲気であって、大気圧または若干の負圧若しくは加圧状態の圧力環境のことを意味する。具体的には約10
5Pa(大気圧)から〜10
3Pa程度である。
【実施例1】
【0017】
本実施例では、基本的な実施形態について説明する。
図1には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
図1に示される荷電粒子顕微鏡は、主として、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体7(以下、真空室と称することもある)、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体121(以下、アタッチメントと称することもある)およびこれらを制御する制御系によって構成される。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と第1筐体7の内部は真空ポンプ4により真空排気される。真空ポンプ4の起動および停止動作も制御系により制御される。図中、真空ポンプ4は一つのみ示されているが、二つ以上あってもよい。
【0018】
荷電粒子光学鏡筒2は、荷電粒子線を発生する荷電粒子源8、発生した荷電粒子線を集束して鏡筒下部へ導き、一次荷電粒子線として試料6を走査する光学レンズ1などの要素により構成される。荷電粒子光学鏡筒2は第1筐体7内部に突き出すように設置されており、真空封止部材123を介して第1筐体7に固定されている。荷電粒子光学鏡筒2の端部には、上記一次荷電粒子線の照射により得られる二次荷電粒子(二次電子または反射電子等)を検出する検出器3が配置される。
【0019】
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、制御系として、装置使用者が使用するコンピュータ35、コンピュータ35と接続され通信を行う上位制御部36、上位制御部36から送信される命令に従って真空排気系や荷電粒子光学系などの制御を行う下位制御部37を備える。コンピュータ35は、装置の操作画面(GUI)が表示されるモニタと、キーボードやマウスなどの操作画面への入力手段を備える。上位制御部36,下位制御部37およびコンピュータ35は、各々通信線43、44により接続される。
【0020】
下位制御部37は真空ポンプ4、荷電粒子源8や光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する部位であり、さらには検出器3の出力信号をディジタル画像信号に変換して上位制御部36へ送信する。図では検出器3からの出力信号を、プリアンプなどの増幅器154を経由して下位制御部37に接続している。もし、増幅器が不要であればなくてもよい。
【0021】
上位制御部36と下位制御部37ではアナログ回路やディジタル回路などが混在していてもよく、また上位制御部36と下位制御部37が一つに統一されていてもよい。なお、
図1に示す制御系の構成は一例に過ぎず、制御ユニットやバルブ,真空ポンプまたは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。
【0022】
第1筐体7には、一端が真空ポンプ4に接続された真空配管16が接続され、内部を真空状態に維持できる。同時に、筐体内部を大気開放するためのリークバルブ14を備え、メンテナンス時などに、第1筐体7の内部を大気開放することができる。リークバルブ14は、なくてもよいし、二つ以上あってもよい。また、第1筐体7におけるリークバルブ14の配置箇所は、
図1に示された場所に限られず、第1筐体7上の別の位置に配置されていてもよい。更に、第1筐体7は、側面に開口部を備えており、この開口部を通って上記第2筐体121が挿入される。
【0023】
第2筐体121は、直方体形状の本体部131と合わせ部132とにより構成される。後述するように本体部131の直方体形状の側面のうち少なくとも一側面は開放面9となっている。本体部131の直方体形状の側面のうち隔膜保持部材155が設置される面以外の面は、第2筺体121の壁によって構成されていてもよいし、第2筺体121自体には壁がなく第1筺体7に組み込まれた状態で第1筺体7の側壁によって構成されても良い。第2筐体121は第1筐体7の側面又はない壁面又は荷電粒子光学鏡筒に位置が固定される。本体部131は、上記の開口部を通って第1筐体7内部に挿入され、第1筺体7に組み込まれた状態で観察対象である試料6を格納する機能を持つ。合わせ部132は、第1筐体7の開口部が設けられた側面側の外壁面との合わせ面を構成し、真空封止部材126を介して上記側面側の外壁面に固定される。これによって、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合される。上記の開口部は、荷電粒子顕微鏡の真空試料室にもともと備わっている試料の搬入・搬出用の開口を利用して製造することが最も簡便である。つまり、もともと開いている穴の大きさに合わせて第2筐体121を製造し、穴の周囲に真空封止部材126を取り付ければ、装置の改造が必要最小限ですむ。また、第2筐体121は第1筐体7から取り外しも可能である。
【0024】
第2筐体121の上面側には、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合された場合に上記荷電粒子光学鏡筒2の直下になる位置に隔膜10を備える。この隔膜10は、荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出される一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能であり、一次荷電粒子線は、隔膜10を通って最終的に試料6に到達する。
【0025】
試料6に到達した荷電粒子線によって試料内部または表面から反射荷電粒子や透過荷電粒子などの二次荷電粒子線を放出する。この二次荷電粒子を検出器3にて検出する。検出器3は荷電粒子が照射された試料面側にあるので、試料表面の情報を取得することができる。検出器3は数keVから数十keVのエネルギーで飛来してくる荷電粒子を検知することができる検出素子である。また、さらにこの検出素子は信号の増幅手段を有していてもよい。本検出素子は装置構成の要求から、薄くて平らであることが好ましい。例えば、シリコン等の半導体材料で作られた半導体検出器や、ガラス面または内部にて荷電粒子信号を光に変換することが可能なシンチレータ等である。
【0026】
図1に示すように第2筐体121の側面は大気空間と少なくとも試料の出し入れが可能な大きさの面で連通した開放面9であり、第2筐体121の内部(図の点線より右側;以降、第2の空間とする)に格納される試料6は、観察中、大気圧状態に置かれる。なお、
図1は光軸と平行方向の装置断面図であるため開放面9は一面のみが図示されているが、
図1の紙面奥方向および手前方向の第1の筺体の側面により真空封止されていれば、第2の筺体121の開放面9は一面に限られない。第2の筺体121が第1の筺体7に組み込まれた状態で少なくとも開放面が一面以上あればよい。一方、第1筐体7には真空ポンプ4が接続されており、第1筐体7の内壁面と第2筐体の外壁面および隔膜10によって構成される閉空間(以下、第1の空間とする)を真空排気可能である。第2の空間の圧力を第1の空間の圧力より大きく保つように隔膜が配置されることで、本実施例では、第2の空間を圧力的に隔離することができる。すなわち、隔膜10により第1の空間11が高真空に維持される一方、第2の空間12は大気圧または大気圧とほぼ同等の圧力のガス雰囲気に維持されるので、装置の動作中、荷電粒子光学鏡筒2や検出器3を真空状態に維持でき、かつ試料6を大気圧に維持することができる。
【0027】
隔膜10の詳細図を
図2に示す。隔膜10は土台159上に成膜または蒸着されている。隔膜10はカーボン材、有機材、シリコンナイトライド、シリコンカーバイド、酸化シリコンなどである。土台159は例えばシリコンのような部材であり、ウェットエッチングなどの加工により図のようにテーパ穴165が掘られてあり、
図2中下面に隔膜10が具備されている。隔膜10部は複数配置された多窓であってもよい。一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能な隔膜の厚みは数nm〜数μm程度である。隔膜に替えて、一次荷電粒子線の通過孔を備えるアパーチャ部材を用いてもよく、その場合の孔径は、現実的な真空ポンプで差動排気可能という要請から、面積1mm
2程度以下であることが望ましい。荷電粒子線がイオンの場合は、隔膜を破損させる事なしに貫通させることが困難であるため、面積1mm
2程度以下のアパーチャを用いる。隔膜10の中心が荷電粒子光学鏡筒2の光軸(
図1中の一点鎖線)の軸上に一致するように隔膜10の位置が調整される。これによって隔膜10と荷電粒子光学鏡筒2の光軸(
図1中の一点鎖線)は同軸に配置される。試料6と隔膜10との距離は、適当な高さの試料台17を置いて調整する。但し、隔膜10部が複数設けた多窓の場合、試料が誤って隔膜に接触して破損する確率が増す。そのため、隔膜10は一か所だけ配置してもよい。
【0028】
隔膜は大気圧と真空を分離するための差圧下で破損しないことが必要である。そのため、隔膜10の面積は数十μmから大きくとも数mm程度の大きさである。隔膜10の形状は正方形でなく、長方形などのような形状でもよい。形状に関してはどのような形状でもかまわない。
図2に示された側、つまり、テーパ部165がある側が真空側(図中上側)に配置される。これは試料から放出された二次荷電粒子を検出器3にて効率よく検出するためである。
【0029】
局所的に大気雰囲気に維持できる環境セルのような従来技術では、大気圧/ガス雰囲気での観察を行うことは可能であるが、セルに挿入可能なサイズの試料しか観察できず、大型試料の大気圧/ガス雰囲気での観察ができないという問題があった。また環境セルの場合、異なる試料を観察するには、SEMの真空試料室から環境セルを取り出し、試料を取り替えて再度真空試料室内に搬入しなければならず、試料交換が煩雑であるという問題もあった。一方、本実施例の方式によれば、第2筐体121の一側面が開放されており、広い大気圧空間である第2の空間12の中に試料6が載置されるので、半導体ウェハ等の大型試料であっても大気圧下で観察することができる。特に本実施例の第2筐体は、試料室の側面から挿入する方式のため大型化が容易であり、従って環境セルには封入できないような大型の試料であっても観察が可能となる。さらに、第2筐体121に開放面があるので、観察中に第2の空間12の内部と外部の間を試料移動させることができ、試料交換を容易に行うことができる。
【0030】
また、液体を満たした隔膜上部に試料を保持する従来技術では、一度大気圧観察を行うと試料が濡れてしまうため、同じ状態の試料を大気雰囲気および高真空雰囲気の両方で観察することは非常に困難であった。また、液体が隔膜に常に接触しているために、隔膜が破損する可能性が非常に高いという問題もあった。一方、本実施例の方式によれば、試料6は隔膜10と非接触の状態で配置されることになるため、試料の状態を変えずに高真空下でも大気圧でも観察することができる。また、試料が隔膜上に載置されないので試料によって隔膜が破損してしまう可能性を低減できる。
【0031】
隔膜を通過した荷電粒子線は大気空間によって散乱される。大気圧下の場合、荷電粒子線の平均自由工程は非常に短い。そのため、隔膜10と試料6との距離はより短いことが望ましい。具体的には1000μm程度以下にする必要がある。しかし、隔膜10と試料6を接近させた時に、隔膜10と試料6が誤って接触すると隔膜10が破損する恐れがある。
【0032】
そこで、本実施例では隔膜10と試料6とが接触を防止する接触防止部材を備える。以下で、接触防止部材に関して
図3を用いて説明する。図では説明の簡略化のために、隔膜周辺部と試料周辺部だけに関して図示している。本実施例では、試料6と隔膜10との間に接触防止部材400が具備される。接触防止部材は試料台から突起するように設けられ、
図3(a)で示すように、接触防止部材400の先端が常に試料6よりも隔膜側に配置されている。そして、
図3(b)で示したように、試料台401の位置を隔膜10方向に接近させた時に、接触防止部材400が隔膜保持部材155に接触することによって、隔膜10と試料6とが接触することを防止することが可能となる。一方で、試料6の高さBは試料に応じて変わることがある。そのため、試料
6の高さ
Bに応じて接触防止部材400の高さAを調整できる調整機構を有する必要がある。そこで、例えば、接触防止部材400はおねじであり、試料台401側をめねじ402とすることにより、接触防止部材400のネジ部を回すことで接触防止部材400の高さAを変更することが可能となる。なお、調整機構は、接触防止部材400における試料と隔膜とが接触する位置を荷電粒子光学鏡筒の光軸方向に移動可能とするものであればよい。
【0033】
試料台401から試料までの距離をBとし、隔膜保持部材155と隔膜10との距離をCとした場合、接触防止部材400を隔膜保持部材155に接触させた場合の隔膜と試料間距離Zは次式となる。
[数式1]Z=(A−B)―C
前述の通り、荷電粒子線の平均自由工程の観点から隔膜と試料間との距離Zは1000μm以下と短いことが望ましい。また、隔膜10と試料6とが接触しないためには次式に従う必要がある。
[数2]Z=A−B>C
隔膜保持部材155と隔膜10との間で真空封じするために真空封じ部材407が具備されている様子を図示している。真空封じ部材407は例えば接着剤や両面テープなどである。もし、前記隔膜保持部材155と隔膜10との間に当該真空封じ部材が存在している場合は、前記距離Cは隔膜保持部材155と隔膜10との真空封じ部材及び隔膜10の厚みを積算した距離となる。
【0034】
各距離A、B、Cが既知でない場合は、試料6が搭載された試料台401と隔膜10が保持された隔膜保持部材155を装置外部などで、レーザや光を用いた高さを測定できる機器を用いてA、B、Cの距離を観測することができる。試料6と隔膜10が常に同じ高さのものを用いるのであれば、一旦、試料台401から接触防止部材400までの距離Aを決定すれば、接触防止部材400を再度調整する必要はない。以上のように、接触防止部材は、隔膜保持部材に接触防止部材を接触した状態とすることで前記隔膜から前記試料の表面までの距離を一定に保つことができるという効果も有する。
【0035】
ここで、試料搭載から荷電粒子線の照射までの一連の流れを示す。初めに、試料台401に試料6を搭載する。次に、めねじ402に接触防止部材400を挿入する。ここで、試料6表面から接触防止部材400上部との距離は[数式1]または[数式2]で示す(A−B)の項となる。前述の通り、距離(A−B)を正確に知りたい場合はレーザや光を用いた高さを測定できる機器を用いて測定あるいは記録する。次に、当該接触防止部材400及び試料6が具備されたままの試料台を隔膜10直下の試料ステージ5上に配置する。次に、試料ステージ5を用いて隔膜10と試料6を接近させることによって、当該接触防止部材400と隔膜保持部材155を接触させる。これにより、荷電粒子線を隔膜10経由で試料6に照射させることが可能となる。なお、荷電粒子線の照射は試料6が接近前に行ってもよい。当該接触防止部材400と隔膜保持部材155を接触すると隔膜保持部材155が動くので、接触したことを荷電粒子線照射による観察で認識することも可能である。
【0036】
図4は接触防止部材400を複数設けた例である。
図4(a)には側面断面図を、
図4(b)には斜視図を示す。
図3では接触防止部材400は一つだけとしているが、
図4のように二か所配置されていてもよい。二か所配置されていることによって、一か所だけ配置されているだけの時と比べて、試料台が隔膜に対して傾いているときなどにより隔膜10と試料6とが接触してしまう確率を減らすことができる。
【0037】
また、
図5のようにボールベアリング406を接触防止部材400上に配置してもよい。この場合、このボールベアリング406が隔膜保持部材155に接触することになる。接触防止部材400の先端にボールベアリング406が配置されていると、接触防止部材400が隔膜保持部材155に接触した状態で、図中横方向や紙面方向に試料を移動させることが可能となる。ここで、試料台と隔膜保持部材155との間の距離(または試料表面と隔膜との間の距離)が接触防止部材400により一定に制限された状態のまま、試料台を荷電粒子光学鏡筒の光軸の垂直方向に駆動可能である構造であれば、ボールベアリングに限定されず、この部材を微調整用部材と称する。接触防止部材400と隔膜保持部材155間との摩擦が少ないのであればこの微調整用部材はボールベアリングでなくてもかまわない。例えば、ポリテトラフルオロエチレンを代表とするフッ素樹脂などの有機物などのうち摩擦係数が少ない材料を使用してもよいし、接触面積を極力小さくすることによって接触防止部材400と隔膜保持部材155との間のすべりをよくしてもよい。
【0038】
また
図6に別の例を示す。
図6(a)には側面断面図を、
図6(b)には斜視図を示す。このように試料台401の外側全体に接触防止部材400を配置してもよい。この場合、例えば、試料台401の外周がおねじになっており、接触防止部材400の内側がめねじにすることにより、試料台401を接触防止部材400に対して回転させることによって、試料6表面よりも高い位置に接触防止部材400を配置することが可能となる。また、前記ねじが緩んで境界403部に位置ずれが発生することに無いように、試料台401と接触防止部材400間にゴム等のずれ防止部材404を配置してもよい。本構成の場合、
図4などと比べて接触防止部材400の部位が大きいために簡単に調整できることが特徴である。また、図示しないが
図6の接触防止部材400の上側にボールベアリング406や突起部材をさらに追加してもよく、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。
【0039】
また、
図7のように接触防止部材400は隔膜保持部材155に具備されていてもよい。この場合には、試料台401の高さを変えると試料台401に隔膜保持部材155に具備された接触防止部材400が接触することになる。この場合は、一般的に市販されている荷電粒子顕微鏡向けの平坦な試料台をそのまま流用することが可能となる。
【0040】
また、図示しないが、接触防止部材400が隔膜保持部材155と接触した時を検知する検知手段を設けてもよい。検知手段としては、例えば、試料台401及び接触防止部材400と隔膜保持部材155との間が非接触の場合は非導通状態としておいて、接触した時に導通させるといった電気的な検知手段がある。また、試料台401及び接触防止部材400と隔膜保持部材155とが接触した時に、前記どちらかの部材が機械的なスイッチを有するといった機械的な検知手段でもよい。
【0041】
また、接触防止部材400は着脱可能とする。試料搭載時または交換時に接触防止部材400と試料が干渉する場合は、接触防止部材400を一旦取り外して、試料を搭載した後、接触防止部材400を再度装着してもよい。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、荷電粒子顕微鏡への適用例について説明する。なお、荷電粒子顕微鏡としては具体的には走査電子顕微鏡、イオン顕微鏡などが挙げられる。以下では、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0043】
図8には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。実施例1と同様、本実施例の荷電粒子顕微鏡も、荷電粒子光学鏡筒2、該荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体(真空室)7、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体(アタッチメント)121、制御系などによって構成される。これらの各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、実施例1とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0044】
隔膜保持部材155は、第2筐体121の上面側、より具体的には天井板の下面側に、真空封止部材を介して着脱可能に固定される。隔膜10は、荷電粒子線が透過する要請上、厚さ数nm〜数十μm以下と非常に薄いため、経時劣化または観察準備の際に破損する可能性がある。また、隔膜10は薄いため直接ハンドリングすることが非常に困難である。本実施例のように、隔膜10を直接ではなく隔膜保持部材155を介してハンドリングできることで、隔膜10の取扱い(特に交換)が非常に容易となる。つまり、隔膜10が破損した場合には、隔膜保持部材155ごと交換すればよく、万が一隔膜10を直接交換しなければならない場合でも、隔膜保持部材155を装置外部に取り出し、隔膜10の交換を装置外部で行うことができる。なお、隔膜に替えて、面積1mm
2以下程度の穴を有するアパーチャ部材を使用できる点は、実施例1と同様である。
【0045】
更に、本実施例の試料台401には前述の接触防止部材400を備える。試料6は試料台401及び接触防止部材400ごと装置外部に取り外すことが可能である。
【0046】
また本実施例の荷電粒子顕微鏡の場合、第2の空間の少なくとも一つの側面(第2筐体121の開放面)を蓋部材122で蓋うことができるようになっており、種々の機能が実現できる。以下ではそれについて説明する。
【0047】
本実施例の荷電粒子顕微鏡においては、第2筐体内に置換ガスを供給する機能を備えている。荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出された荷電粒子線は、高真空に維持された第1の空間11を通って、
図8に示す隔膜10(あるいはアパーチャ部材)を通過し、更に、大気圧または所望の圧力状態やガス状態に維持された第2の空間12に侵入する。第2の空間の雰囲気は大気圧または大気圧と同程度の圧力であって、少なくとも第1の空間より真空度が悪い(低真空度の)状態である。真空度の低い空間では荷電粒子線は気体分子によって散乱されるため、平均自由行程は短くなる。つまり、隔膜10と試料6の距離が大きいと荷電粒子線または前記荷電粒子線照射により発生する二次電子、反射電子もしくは透過電子が試料及び検出器3まで届かなくなる。一方、電子線の散乱確率は、気体分子の質量数に比例する。従って、大気よりも質量数の軽いガス分子で第2の空間12を置換すれば、荷電粒子線の散乱確率が低下し、荷電粒子線が試料に到達できるようになる。また、第2の空間の全体ではなくても、少なくとも第2の空間中の電子線の通過経路の大気をガス置換できればよい。置換ガスの種類としては、窒素や水蒸気など、大気よりも軽いガスであれば画像S/Nの改善効果が見られるが、質量のより軽いヘリウムガスや水素ガスの方が、画像S/Nの改善効果が大きい。
【0048】
以上の理由から、本実施例の荷電粒子顕微鏡では、蓋部材122にガス供給管100の取り付け部(ガス導入部)を設けている。ガス供給管100は連結部102によりガスボンベ103と連結されており、これにより第2の空間12内に置換ガスが導入される。ガス供給管100の途中には、ガス制御用バルブ101が配置されており、管内を流れる置換ガスの流量を制御できる。このため、ガス制御用バルブ101から下位制御部37に信号線が伸びており、装置ユーザは、コンピュータ35のモニタ上に表示される操作画面で、置換ガスの流量を制御できる。また、ガス制御用バルブ101は手動にて操作して開閉してもよい。
【0049】
置換ガスは軽元素ガスであるため、第2の空間12の上部に溜まりやすく、下側は置換しにくい。そこで、蓋部材122でガス供給管100の取り付け位置よりも下側に第2の空間の内外を連通する開口を設けるとよい。例えば図
8では圧力調整弁104の取り付け位置に開口を設ける。これにより、ガス導入部から導入された軽元素ガスに押されて大気ガスが下側の開口から排出されるため、第2筐体121内を効率的にガスで置換できる。なお、この開口を後述する粗排気ポートと兼用しても良い。
【0050】
第2筐体121または蓋部材122に真空排気ポートを設け、第2筐体121内を一度真空排気して若干の負圧状態にしてもよい。この場合の真空排気は、第2筐体121内部に残留する大気ガス成分を一定量以下に減らせればよいので高真空排気を行う必要はなく、粗排気で十分である。粗排気したあとにガス供給管100からガスを導入してもよい。真空度としては10
5Pa〜10
3Paなどである。ガスの導入をしないのであれば、ガスボンベ103を真空ポンプと置き換えても若干の負圧状態の形成が可能である。
【0051】
ただし、生体試料など水分を含む試料などを観察する場合、一度真空状態に置かれた試料は、水分が蒸発して状態が変化する。従って、上述のように、大気雰囲気から直接置換ガスを導入する方が好ましい。置換ガスの導入後、上記の開口を蓋部材で閉じることにより、置換ガスを効果的に第2の空間12内に閉じ込めることができる。
【0052】
上記開口の位置に三方弁を取り付ければ、この開口を粗排気ポートおよび大気リーク用排気口と兼用することができる。すなわち、三方弁の一方を蓋部材122に取り付け、一方を粗排気用真空ポンプに接続し、残り一つにリークバルブを取り付ければ、上記の兼用排気口が実現できる。
【0053】
上述の開口の代わりに圧力調整弁104を設けても良い。当該圧力調整弁104は、第2筐体121の内部圧力が1気圧以上になると自動的にバルブが開く機能を有する。このような機能を有する圧力調整弁を備えることで、軽元素ガスの導入時、内部圧力が1気圧以上になると自動的に開いて窒素や酸素などの大気ガス成分を装置外部に排出し、軽元素ガスを装置内部に充満させることが可能となる。なお、図示したガスボンベ103は、荷電粒子顕微鏡に備え付けられる場合もあれば、装置ユーザが事後的に取り付ける場合もある。
【0054】
このように本実施例では、試料が載置された空間を大気圧(約10
5Pa)から約10
3Paまでの任意の真空度に制御することができる。従来のいわゆる低真空走査電子顕微鏡では、電子線カラムと試料室が連通しているので、試料室の真空度を下げて大気圧に近い圧力とすると電子線カラムの中の圧力も連動して変化してしまい、大気圧(約10
5Pa)〜約10
3Paの圧力に試料室を制御することは困難であった。本実施例によれば、第2の空間と第1の空間を薄膜により隔離しているので、第2の筐体121および蓋部材122に囲まれた第2の空間の中の雰囲気の圧力およびガス種は自由に制御することができる。したがって、これまで制御することが難しかった大気圧(約10
5Pa)〜約10
3Paの圧力に試料室を制御することができる。さらに、大気圧(約10
5Pa)での観察だけでなく、その近傍の圧力に連続的に変化させて試料の状態を観察することが可能となる。
【0055】
次に、試料6の位置調整方法について説明する。本実施例の荷電粒子顕微鏡は、観察視野の移動手段として試料ステージ5を備えている。試料ステージ5には、面内方向へのXY駆動機構および高さ方向へのZ軸駆動機構を備えている。蓋部材122には試料ステージ5を支持する底板となる支持板107が取り付けられており、試料ステージ5は支持板107に固定されている。支持板107は、蓋部材122の第2筐体121への対向面に向けて第2筐体121の内部に向かって延伸するよう取り付けられている。Z軸駆動機構およびXY駆動機構からはそれぞれ支軸が伸びており、各々操作つまみ108および操作つまみ109と繋がっている。装置ユーザは、これらの操作つまみ108および109を操作することにより、試料6の第2筐体121内での位置を調整する。
【0056】
次に、試料6の交換のための機構について説明する。本実施例の荷電粒子顕微鏡は、第1筐体7の底面および蓋部材122の下面に、蓋部材用支持部材19、底板20をそれぞれ備える。蓋部材122は第2筐体121に真空封止部材125を介して取り外し可能に固定される。一方、蓋部材用支持部材19も底板20に対して取り外し可能に固定されており、
図9に示すように、蓋部材122および蓋部材用支持部材19を丸ごと第2筐体121から取り外すことが可能である。なお、本図では電気配線などは省略している。
【0057】
底板20には、取り外しの際にガイドとして使用される支柱18を備える。通常の観察時の状態では、支柱18は底板20に設けられた格納部に格納されており、取り外しの際に蓋部材122の引出し方向に延伸するように構成される。同時に、支柱18は蓋部材用支持部材19に固定されており、蓋部材122を第2筐体121から取り外した際に、蓋部材122と荷電粒子顕微鏡本体とが完全には分離しないようになっている。これにより、試料ステージ5または試料6の落下を防止することができる。
【0058】
第2筐体121内に試料を搬入する場合には、まず試料ステージ5のZ軸操作つまみを回して試料6を隔膜10から遠ざける。次に、圧力調整弁104を開放し、第2筐体内部を大気開放する。その後、第2筐体内部が減圧状態または極端な与圧状態になっていないことを確認後、蓋部材122を装置本体とは反対側に引き出す。これにより試料6を交換可能な状態となる。試料交換後は、蓋部材122を第2筐体121内に押し込み、図示しない締結部材にて蓋部材122を合わせ部132に固定後、必要に応じて置換ガスを導入する。以上の操作は、電子光学鏡筒2内部の光学レンズ
1に高電圧を印加している状態や荷電粒子線源8から電子線が放出している状態の時にも実行することができる。そのため、本実施例の荷電粒子顕微鏡は、試料交換後、迅速に観察を開始することができる。本方式の場合も、実施例1と同様に試料台401上に接触防止部材400を備える。試料6は試料台401及び接触防止部材400ごと装置外部に取り外すことが可能である。
【0059】
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、通常の高真空SEMとして使用することも可能である。
図10には、高真空SEMとして使用した状態での、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
図10において、制御系は
図8と同様であるので図示は省略している。
図10は、蓋部材122を第2筐体121に固定した状態で、ガス供給管100と圧力調整弁104を蓋部材122から取り外した後、ガス供給管100と圧力調整弁104の取り付け位置を蓋部材130で塞いだ状態の荷電粒子顕微鏡を示している。この前後の操作で、隔膜10および隔膜保持部材155を第2筐体121から取り外しておけば、第1の空間11と第2の空間12をつなげることができ、第2筐体内部を真空ポンプ4で真空排気することが可能となる。これにより、第2筐体121を取り付けた状態で、高真空SEM観察が可能となる。
【0060】
以上説明したように、本実施例では、試料ステージ5およびその操作つまみ108、109、ガス供給管100、圧力調整弁104が全て蓋部材122に集約して取り付けられている。従って装置ユーザは、上記操作つまみ108、109の操作、試料の交換作業、またはガス供給管100、圧力調整弁104の脱着作業を第1筐体の同じ面に対して行うことができる。よって、上記構成物が試料室の他の面にバラバラに取り付けられている構成の荷電粒子顕微鏡に比べて、大気圧下での観察用の状態と高真空下での観察用の状態とを切替える際の操作性が非常に向上している。
【0061】
以上説明した構成に加え、第2筐体121と蓋部材122との接触状態を検知する接触モニタを設けて、第2の空間が閉じているまたは開いていることを監視してもよい。
【0062】
また、二次電子検出器や反射電子検出器に加えて、X線検出器や光検出器を設けて、EDS分析や蛍光線の検出ができるようにしてもよい。X線検出器や光検出器は、第1の空間11または第2の空間12のいずれに配置されてもよい。
【0063】
また、試料ステージ5に電圧を印加してもよい。試料6
に電圧を印加すると試料6からの放出電子や透過電子に高エネルギーを持たせることができ、信号量を増加させることが可能となり、画像S/Nが改善される。
【0064】
以上、本実施例により、実施例1の効果に加え、高真空SEMとしても使用可能で、かつ大気圧または若干の負圧状態のガス雰囲気下での観察を簡便に行えるSEMが実現される。また、置換ガスを導入して観察が実行できるため、本実施例の荷電粒子顕微鏡は、実施例1の荷電粒子顕微鏡よりもS/Nの良い画像取得が可能である。
【0065】
なお、本実施例では卓上型電子顕微鏡を意図した構成例について説明したが、本実施例を大型の荷電粒子顕微鏡に適用することも可能である。卓上型電子顕微鏡の場合は、装置全体または荷電粒子光学鏡筒が筐体によって装置設置面に支持されるが、大型の荷電粒子顕微鏡の場合は、装置全体を架台に載置すればよく、従って、第1筐体7を架台に載置すれば、本実施例で説明した構成をそのまま大型の荷電粒子顕微鏡に転用できる。
【実施例3】
【0066】
図11に第3の実施例を示す。以下では、実施例1、2と同様の部分については説明を省略する。
【0067】
本実施例では、荷電粒子光学鏡筒2と接続され
て支持する筐体(真空室)7、大気雰囲気下に配置される試料ステージ5、およびこれらを制御する制御系によって構成される。筐体(真空室)7の下部には隔膜10が配置されている。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と第1筐体の内部は真空ポンプ4により真空排気される。
【0068】
筺体7に具備された隔膜10の下部には大気雰囲気下に配置された試料ステージ5を備える。試料ステージ5には少なくとも試料6を隔膜10に接近させることが可能な高さ調整機能を備える。例えば、操作部204を回すなどして試料6を隔膜10方向に接近させることができる。当然のことながら、試料面内方向に動くXY駆動機構を備えてもよい。本方式の場合も、実施例1と実施例2と同様に試料台401上に接触防止部材400を備える。試料6は試料台401及び接触防止部材400ごと装置外部に取り外すことが可能である。
【0069】
本装置構成の場合、試料を配置する空間が完全な大気空間であるので、前述の実施例と比べて比較的大きな試料でも試料導入及び観察することが可能である。
【実施例4】
【0070】
本実施例では、実施例1の変形例である荷電粒子光学鏡筒2が隔膜10に対して下側にある構成に関して説明する。
図12に、本実施例の荷電粒子顕微鏡の構成図を示す。真空ポンプや制御系などは省略して図示する。また、真空室である筺体7や荷電粒子光学鏡筒2は装置設置面に対して柱や支え等によって支持されているものとする。各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、前述の実施例とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0071】
試料6と隔膜10を非接触にするために試料ステージ5が隔膜上に具備される。つまり、図中試料6下側の試料が観察されることになる。試料ステージ5を操作するための操作部204を使うことによって、試料の図中下側面を隔膜10部に接近させることが可能である。また、前述の実施例と同様に試料台401上に接触防止部材400を備えるため、試料と隔膜の接触防止及び距離制御を行うことが可能である。
【0072】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0073】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0074】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。