特許第5936573号(P5936573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5936573-銅とモリブデンの分離方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936573
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】銅とモリブデンの分離方法
(51)【国際特許分類】
   B03D 1/02 20060101AFI20160609BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20160609BHJP
   C22B 34/34 20060101ALI20160609BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B03D1/02
   C22B1/00 101
   C22B34/34
   C22B15/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-65645(P2013-65645)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-188428(P2014-188428A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】平島 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 優典
(72)【発明者】
【氏名】市川 修
(72)【発明者】
【氏名】笹木 圭子
(72)【発明者】
【氏名】三木 一
(72)【発明者】
【氏名】澤田 満
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−195106(JP,A)
【文献】 米国特許第6427843(US,B1)
【文献】 特開平9−29745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00
C22B 15/00
C22B 34/34
B03D 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含む鉱物とモリブデンを含む鉱物の混合物に、酸素を酸化剤とする雰囲気下でプラズマ照射を行い、前記銅を含む鉱物とモリブデンを含む鉱物の表面にプラズマ処理を施した後、
プラズマ処理後の前記混合物を、アルカリ溶液を添加してpH調整したアルカリ金属塩の水溶液と混合して条件付けし、次いで条件付け後の混合物を浮遊選鉱に付して前記銅とモリブデンを含む鉱物を分離することを特徴とする銅とモリブデンの分離方法。
【請求項2】
前記混合物の銅を含む鉱物が黄銅鉱、斑銅鉱の少なくとも1種以上、モリブデンを含む鉱物が輝水鉛鉱であることを特徴とする請求項1記載の銅とモリブデンの分離方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩の水溶液が、捕収剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の銅とモリブデンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅とモリブデンを含有するポーフィリー型の鉱石を選鉱処理し、銅とモリブデンを分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は電線、熱交換器、建築材料をはじめ幅広く用いられる有価な元素である。
この銅は、黄銅鉱や班銅鉱などの硫化鉱物として硫化銅鉱石中に存在するものが多く、先ず、硫化銅鉱石を採掘し、浮遊選鉱などの選鉱処理によって脈石を分離して品位を向上させた銅精鉱とする。次に、その得られた銅精鉱を、自熔炉などの炉に装入して高温で加熱して不純物をスラグや排ガスとして分離したマットを形成する。次いで、そのマットを転炉や精製炉を経て粗銅に精製してアノードに鋳造し、鋳造により得られたアノードを、硫酸酸性溶液中で電気分解することで高純度な電気銅を電析させる。この電析した電気銅を製品として上記の材料の原料等として供するものである。
【0003】
一方、モリブデンは特殊鋼の合金成分、石油精製の触媒、潤滑剤などに用いられる有価な元素である。
このモリブデンは、輝水鉛鉱などの硫化鉱物として存在し、これを精製して回収される。
【0004】
ところで、ポーフィリー型と呼ばれる銅鉱床をもつ鉱山では、鉱石中に黄銅鉱や班銅鉱に輝水鉛鉱が随伴されて産出される特徴がある。輝水鉛鉱に含まれるモリブデンは、上記のように有価元素であると同時に、輝水鉛鉱が炉で熔解されると、揮発したモリブデンが設備に付着し、腐食を促進するなど好ましくなく、モリブデンを含む鉱石を銅鉱石に随伴して産出する銅鉱山では、採掘した銅鉱石から銅とモリブデンを分離する選鉱処理が欠かせない。
【0005】
従来から、硫化銅鉱石中に含有される黄銅鉱や輝水鉛鉱を分離して銅とモリブデンをそれぞれ回収しようとする際は、工業的な取り扱い性やコストや分離性から浮遊選鉱が用いられることが多かった。
硫化銅鉱物は、一般に浮遊選鉱では比較的浮遊しやすい鉱物になるので、NaHS等の硫化剤を抑制剤として添加することにより黄銅鉱が浮上するのを抑制し、輝水鉛鉱を浮選させて分離される。
【0006】
しかし、一方でNaHSを用いた場合、選鉱条件を設定するのが難しい問題や部分的に酸化した硫化鉱を処理する場合など、鉱石スラリーが酸性を呈する場合には、NaHSを添加したスラリーから硫化水素が発生する危険性もあった。
【0007】
そこで例えば、特許文献1に示すように、浮遊選鉱を複数段で行い、さらに鉱物の表面を酸化する方法が示されてきた。特許文献1に開示される方法は、銅粗選及び銅精選によって得られた銅精鉱に対して更にモリブデン浮選を行い、浮鉱の輝水鉛鉱含有量が約1重量%になった時点で浮鉱をオゾン酸化した後、浮遊選鉱し、モリブデン鉱物を浮鉱として回収することを特徴とするモリブデン鉱物の精製方法である。
【0008】
しかし、特許文献1の方法においては、オゾンによって鉱物中の硫黄まで酸化されやすく、上記のように硫化水素が発生してしまうリスクを負うこととなり、さらにスラリーが酸性を呈することから一部の銅が溶解し、排水への影響が懸念されるなど、必ずしも効率的な方法とは言えなかった。
このため、工業的に容易かつ安全に銅とモリブデンを分離する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−195106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、輝水鉛鉱を随伴する硫化銅鉱石から硫化銅鉱物とモリブデンを含む輝水鉛鉱を、迅速且つ効率良く分ける分離方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような状況に鑑み、上記課題を解決するための本発明の第1の発明は、銅を含む鉱物とモリブデンを含む鉱物の混合物に、酸素を酸化剤とする雰囲気下でプラズマ照射を行い、前記銅を含む鉱物とモリブデンを含む鉱物の表面にプラズマ処理を施した後、プラズマ処理後の混合物を、アルカリ溶液を添加してpH調整したアルカリ金属塩の水溶液と接触して条件付けし、次いで条件付け後の混合物を浮遊選鉱に付してこの銅を含む鉱物とモリブデンを含む鉱物を分離することを特徴とする銅とモリブデンの分離方法である。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明における混合物の銅を含む鉱物が、黄銅鉱、斑銅鉱の少なくとも1種以上、モリブデンを含む鉱物が輝水鉛鉱であることを特徴とする銅とモリブデンの分離方法である。
【0013】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるアルカリ金属塩の水溶液が、捕収剤を含むことを特徴とする銅とモリブデンの分離方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硫化水素の発生する危険性なしに、銅(硫化銅鉱物)とモリブデン(輝水鉛鉱)を分離することができ、さらに酸化度の調整が容易なためにモリブデンの実収率と品位を任意に設定できる。
また、その分離処理は短時間で行うことができるため、設備的にコンパクトで済む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の銅とモリブデンの分離方法における分離フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1の概略フロー図に示すように本発明では、鉱物を空気中など酸素が存在する雰囲気下にあるプラズマ発生装置に装入し、鉱物にプラズマを照射する処理を行って鉱物表面を酸化させる。その後プラズマ処理した鉱物を、pH調整したアルカリ金属塩の水溶液で洗浄し、その後浮遊選鉱する。
【0017】
具体的に本発明の分離方法は、先ず鉱物を酸化する際に、酸素雰囲気下で鉱物にプラズマを照射する処理を行う。このプラズマ処理によって、黄銅鉱及びモリブデン鉱物の表面を酸化する。
その後、アルカリ水溶液で洗浄する。この際、水溶液中に酸素や空気を吹き込みながら洗浄しても良い。
これらの処理によって、黄銅鉱表面は、比較的安定な酸化物、水酸化物で被覆され親水性の性質を示すが、モリブデン表面は、洗浄時間の増大に伴い表面の酸化物が除去され表面を硫黄が被覆するようになり、疎水性となる。
【0018】
プラズマ処理した鉱物を浮遊選鉱に適した状態に条件付けする際に用いる液は、pH調整されたアルカリ金属塩の水溶液を使用する。例えば、NaOHなどのアルカリ溶液によりpH8〜12程度に調整されたKClなどを用いると良い。
【0019】
さらに、浮遊選鉱時に適量の捕収剤を用いることで、鉱物の浮上性を向上させることができ、その際、銅鉱物の黄銅鉱の浮上も増加するが、モリブデン鉱物の輝水鉛鉱の浮上する割合がさらに大きく、その結果、輝水鉛鉱を効率よく黄銅鉱と分離できることになることから、条件付け時の液であるアルカリ金属塩の水溶液に捕収剤を添加して用いても良い。
この捕収剤の添加量は、実鉱石に合わせて適宜調整すれば良いが、具体的な捕収剤としてジチオリン酸塩などがあり、添加量は例えばスラリー1リットルに対して0.1〜0.2μL程度などがある。
【0020】
なお、浮遊選鉱での鉱物の分離程度は実収率で評価でき、親水性の程度は接触角の差で評価できる。
すなわち、モリブデンの場合、含有する輝水鉛鉱と黄銅鉱の実収率の差が大きいほど分離されやすく、接触角の差が大きいほど分離されやすく、疎水性の鉱物は気泡に付着させ浮上鉱物として回収することができる。
【0021】
このプラズマ処理+アルカリ洗浄+浮選分離については、下記のメカニズムによると考えている。
すなわち、プラズマ処理によって、黄銅鉱表面はモリブデナイト表面より強く酸化され、表面の鉄、銅の一部は酸化物となる。その酸化の程度は、プラズマ処理時の強度、処理時間、酸素量によって制御できる。
一方、モリブデナイト表面のMo、Sも強いプラズマ酸化では酸化されるが、強い酸化は必要ではなく、黄銅鉱表面が酸化される程度のプラズマ処理で十分である。
その後、アルカリ水溶液中で洗浄すると、モリブデナイト表面の酸化物は洗浄時間とともに溶解し、硫黄層が表面に現れ疎水性となる。またプラズマ処理によって形成された黄銅鉱表面の酸化物は、比較的安定でありアルカリ洗浄液中でも表面は強い親水性を示す。即ち洗浄中に一部溶解しても銅、鉄イオンは水酸化物沈殿を表面に形成するため親水性を維持することができるためである。
その後、空気をスラリーに導入することで疎水性のモリブデナイトを浮遊させ親水性の黄銅鉱はスラリー中にとどまることで両者の分離が行われる。
【0022】
照射するプラズマの大きさは、出力電力と時間の積分であるため、時間や出力を調整することで、酸化層の厚みを自在かつ精度良く調整でき、その結果浮上する程度を細かく制御でき、この点も全体に吹き込まれるオゾンガスによる酸化と異なるものである。
プラズマ照射時における雰囲気は、酸素を酸化剤として含む雰囲気が望ましく、例えば純酸素雰囲気、不活性ガスとの混合雰囲気などが好ましく、酸素より酸化力の強い酸化剤、例えばオゾンなどを含むのは好ましくない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を、より詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施例で用いた黄銅鉱とモリブデナイト(輝水鉛鉱)の混合したポーフィリー型の鉱石は、南米で産出したものを使用した。
この鉱石サンプルを76〜106μmまで粉砕し、500gを分取して試料とし、プラズマ照射処理を以下の条件行った。
【0025】
プラズマ照射に使用するプラズマ装置は、雰囲気を純酸素雰囲気とし、100Paの圧力になるように、純酸素を流して雰囲気調整をした。
照射するプラズマの出力は、10Wとし、照射時間は3分間を標準とし、1〜10分間で調整した。なお、プラズマ発生装置には、京都電子計測株式会社製、商品名「PA1504型」を使用した。
【0026】
プラズマ処理後の鉱物を、NaOHを加えてpHを9に調整した濃度0.001MのKCl溶液に入れ、捕収剤としてDTP(ジエチルジチオリン酸塩)を添加後、3分間攪拌して条件付けした。DTPの添加濃度は0.7[μl/L]である。
その後、従来から知られている方法を用いて浮遊選鉱に付し、モリブデナイトと銅精鉱を分離した。
【0027】
次いで、鉱物組成は化学分析値と光学顕微鏡を用いて同定し、その組成を用いて算出した黄銅鉱もしくは輝水鉛鉱の物量を元の鉱石中の黄銅鉱もしくは輝水鉛鉱の物量で除した割合を実収率とした。
実収率が高い方が回収率として良いことになるが、2つのものを分離する場合、もう一方の実収率は低い方が良い。すなわち実収率の差が大きいほうが好ましいことになる。
その結果を表1に示す。
【0028】
また接触角は公知の、例えば特開2010−54312号公報に記載された方法を用いて算出した。接触角が大きい方が、表面が親水性であることを示している。
その結果を表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表1に示すように、黄銅鉱と輝塩水鉱の実収率差は42.0%もあり、輝水鉛鉱を黄銅鉱と効率よく分離できる。また、表2に接触角を示したが、差は24.2度あり輝水鉛鉱はより親水化されたことがわかる。
【実施例2】
【0032】
実施例1と同じ鉱物を用い、同じ方法で処理して浮遊選鉱に付した。ただしDTPは使用しなかった。
その結果、黄銅鉱と輝塩水鉱の実収率差は22.4%と実施例1よりは低下したが工業的には実用できる程度に分離できた。一方で接触角は後述の比較例とあまり変わらず、浮上しやすさはあまり改善されていない結果となっている。
【0033】
(比較例1)
実施例1及び実施例2と同じ鉱物を用い、酸化にオゾン発生器で生成した2%のオゾンを含んだ空気を毎分1.7リットル吹き込んだ。
その結果、実施率は黄銅鉱、輝水鉛鉱とも85%を超えるものの、差は1.7%しかなく選鉱で分離することは限界があった。接触角も12度程度と輝水鉛鉱はあまり親水化されていないことを示した。
【0034】
本発明によれば、危険な薬品を使用することなく、輝水鉛鉱と銅鉱物を含んだ鉱物からモリブデンを効率よく分離することが可能となる。
図1