特許第5936907号(P5936907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

特許5936907河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置
<>
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000002
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000003
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000004
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000005
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000006
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000007
  • 特許5936907-河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936907
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   G01T1/167 A
   G01T1/167 C
   G01T1/167 H
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-105882(P2012-105882)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234868(P2013-234868A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】立田 穣
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−59196(JP,A)
【文献】 特開2008−025358(JP,A)
【文献】 特開2006−105872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/167
G01T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河口あるいは汽水域に係留したγ線測定器で表層水中のγ線を計数し、
前記表層水の濁度の増加と塩分の減少と表層よりも下の層の水温の低下とのうちの少なくとも2つ以上において、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値とを比較して統計的検定での有意な差もしくは予め定めた基準値との比較あるいは閾値との比較によって、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であると判断されたときの計数率測定値と流れ込んでいない非流入期間の計数率測定値に基づいて前記河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求めることを特徴とする河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法。
【請求項2】
前記表層水の濁度が前記河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ前記表層水の塩分が前記河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に河川から放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であると判断することを特徴とする請求項1記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法。
【請求項3】
水面に浮かび且つ前記γ線測定器のプローブとの間隔が一定に保たれた制風板を前記γ線測定器のプローブの上方に設けて前記γ線測定器のプローブの水深を一定に保つことを特徴とする請求項1又は2記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法。
【請求項4】
装置フレームの前記γ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、前記装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くし、前記表層水中に沈めた整流板によって外洋から沿岸に到達するうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から受けるように前記装置フレームの向きを維持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法。
【請求項5】
前記γ線測定器の計数率測定値を前記表層水の放射能濃度に換算するための濃度換算式を予め求めておき、前記γ線測定器の計数率測定値を前記濃度換算式に当てはめて前記表層水の放射能濃度を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法。
【請求項6】
水中のγ線を計数するγ線測定器と、表層水の濁度を検出する濁度センサと塩分を検出する塩分センサと表層よりも下の層の水温を検出する温度計とのうちの少なくとも2つ以上を含む検出手段と、少なくとも前記γ線測定器及び前記検出手段を河口あるいは汽水域の表層水中に係留する係留手段と、前記検出手段からの前記表層水の濁度の増加と塩分の減少と表層よりも下の層の水温の低下とのうちの少なくとも2つ以上において、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値とを比較して統計的検定での有意な差もしくは予め定めた基準値との比較あるいは閾値との比較によって、河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか否かを判別し、流れ込んでいる流入期間の前記γ線測定器の計数率測定値と流れ込んでいない非流入期間の前記γ線測定器の計数率測定値に基づいて前記河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求める演算手段を備えることを特徴とする河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置。
【請求項7】
前記検出手段は前記表層水の濁度を検出する濁度センサと塩分を検出する塩分センサであり、前記演算手段は、前記表層水の濁度が前記河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ前記表層水の塩分が前記河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に前記河川から前記測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であると判断することを特徴とする請求項6記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置。
【請求項8】
水面に浮かび且つ前記γ線測定器のプローブとの間隔が一定に保たれた制風板を前記γ線測定器のプローブの上方に設けたことを特徴とする請求項6又は7記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置。
【請求項9】
装置フレームの前記γ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、前記装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くすると共に、外洋から沿岸に到達するうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から受けるように前記装置フレームの向きを維持する整流板を設けたことを特徴とする請求項6から8のいずれか1つに記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置。
【請求項10】
前記演算手段は、予め求められた前記γ線測定器の計数率測定値を前記表層水の放射能濃度に換算するための濃度換算式に、前記γ線測定器の計数率測定値を当てはめて前記表層水の放射能濃度を算出することを特徴とする請求項6から9のいずれか1つに記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川から海や湖等に流入した放射性物質に起因する河口あるいは汽水域の放射能または放射能濃度を測定することができる河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電施設等から環境に放出された放射性物質は雨と一緒に地上に降りた後、河川に移動し、最終的に海等に流れ込むことが知られている。したがって、河川が流れ込む河口あるいは汽水域で放射能をモニタリングし、河川から河口あるいは汽水域に流れ込んだ放射性物質を正確に把握することが重要である。
【0003】
なお、水中で使用される放射線測定装置として、例えば特許文献1の水中放射線測定装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−191090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、もともと環境にも放射性物質が存在しており、河川から流入してきた放射性物質を区別して測定する困難である。
【0006】
ここで、仮に、その河口あるいは汽水域の測定場所で昔から放射能のモニタリングが行われており、十分なデータの蓄積があれば、そのデータとの比較によって新たに河川から流入してきた放射性物質の放射能の推定は可能ではある。しかしながら、そのようなモニタリングは行われていないのが普通である。また、仮にそのようなモニタリングが行われていたとしても、河口あるいは汽水域の流れは潮の満ち引きや波風、河川流域での降雨による流量の変化等によって変化しており、モニタリングによって蓄積されていたデータがどのような流れの状態で測定されたのかを正確に把握することができない。そのため、蓄積データを比較の対象として使用することはできず、結局、新たに河川から流入してきた放射性物質の区別に蓄積データを利用することはできない。
【0007】
本発明は、河川から流入してきた放射性物質を、もともと環境に存在していた放射性物質と区別して測定することができる河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および放射性物質の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の河口域における放射性物質の測定方法は、河口あるいは汽水域に係留したγ線測定器で表層水中のγ線を計数し、表層水の濁度の増加と塩分の減少と表層よりも下の層の水温の低下とのうちの少なくとも2つ以上において、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値とを比較して統計的検定での有意な差もしくは予め定めた基準値との比較あるいは閾値との比較によって、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であると判断されたときの計数率測定値と流れ込んでいない非流入期間の計数率測定値に基づいて河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求めるものである。また、請求項6記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置は、水中のγ線を計数するγ線測定器と、表層水の濁度を検出する濁度センサと塩分を検出する塩分センサと表層よりも下の層の水温を検出する温度計とのうちの少なくとも2つ以上を含む検出手段と、少なくともγ線測定器及び検出手段を河口あるいは汽水域の表層水中に係留する係留手段と、検出手段からの表層水の濁度の増加と塩分の減少と表層よりも下の層の水温の低下とのうちの少なくとも2つ以上において、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値とを比較して統計的検定での有意な差もしくは予め定めた基準値との比較あるいは閾値との比較によって、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか否かを判別し、流れ込んでいる流入期間のγ線測定器の計数率測定値と流れ込んでいない非流入期間のγ線測定器の計数率測定値に基づいて河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求める演算手段を備えるものである。
【0009】
流入期間のγ線測定器の計数率測定値は、河川から新たに流れ込んできた放射性物質と、もともと測定場所に存在していた放射性物質の両方に由来するものである。一方、流入期間のγ線測定器の計数率測定値は、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来するものである。したがって、流入期間のγ線測定器の計数率測定値と流入期間のγ線測定器の計数率測定値とに基づいて、河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能と区別して求めることができる。
【0010】
請求項2記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法は、表層水の濁度が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ表層水の塩分が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に河川からの流入期間であると判断するものである。また、請求項7記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置は、検出手段は表層水の濁度を検出する濁度センサと塩分を検出する塩分センサであり、演算手段は、表層水の濁度が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ表層水の塩分が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であると判断するものである。
【0011】
河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる場合には、河川から流入した放射性物質(陸上由来水中懸濁粒子)の増加により表層水の濁度は統計的検定で有意に増加し、河川の淡水の流入により表層水の塩分は統計的検定で有意に減少すると考えられる。したがって、表層水の濁度が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値よりも統計的検定で有意に増加し、且つ塩分が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値よりも統計的検定で有意に減少したか否かによって、河川の水の流入を判別することができる。
【0012】
請求項3記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法は、水面に浮かび且つγ線測定器のプローブとの間隔が一定に保たれた制風板をγ線測定器のプローブの上方に設けてγ線測定器のプローブの水深を一定に保つようにしている。また、請求項8記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置は、水面に浮かび且つγ線測定器のプローブとの間隔が一定に保たれた制風板をγ線測定器のプローブの上方に設けたものである。γ線測定器のプローブと制風板との間隔は一定に保たれているので、制風板を水面に浮かべることで、γ線測定器のプローブと水面との間隔即ち水深が一定に保たれる。したがって、風によって起こされる細波等の比較的波長の短い波によるγ線の測定位置の水深の変動を抑制することができる。
【0013】
請求項4記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法は、装置フレームのγ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くし、表層水中に沈めた整流板によって外洋から沿岸に到達するうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から受けるように装置フレームの向きを維持するものである。また、請求項9記載の汽水域における放射性物質の測定装置は、装置フレームのγ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くすると共に、外洋から沿岸に到達するうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から受けるように装置フレームの向きを維持する整流板を設けたものである。
【0014】
比較的波長の長いうねりを受けると水面の上下動に追従して放射性物質の測定装置全体も上下動する。このとき、装置フレームのうねり進行方向の寸法が比較的長い場合には、図5(A)に示すように、うねりが装置フレームの上を越えることになり、うねりへの追従性が悪くなり、装置フレームと水面との間隔即ち装置フレームの水深の変動が大きくなる。一方、装置フレームのうねり進行方向の寸法が比較的短い場合には、図5(B)に示すように、装置フレームはうねりに追従して(追従性良好)上下動し水深変動は小さくなる。本発明では、装置フレームのγ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くすると共に、整流板を設けることでうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から常に受けるようにしているので、装置フレームのうねり進行方向の寸法が短くなり、装置フレームのうねりへの追従性が向上し、水深変動を抑制することができる。
【0015】
請求項5記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法は、γ線測定器の計数率測定値を表層水の放射能濃度に換算するための濃度換算式を予め求めておき、γ線測定器の計数率測定値を濃度換算式に当てはめて表層水の放射能濃度を算出するものである。また、請求項10記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置は、演算手段は、予め求められたγ線測定器の計数率測定値を表層水の放射能濃度に換算するための濃度換算式に、γ線測定器の計数率測定値を当てはめて表層水の放射能濃度を算出するものである。
【0016】
したがって、流入期間のγ線測定器の計数率測定値と流入期間のγ線測定器の計数率測定値とに基づいて、河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能濃度と区別して求めることができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および請求項6記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置によれば、河川から測定場所に新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能と区別して求めることができるので、河川から河口あるいは汽水域に新たに流れ込んだ放射性物質を正確に把握することが可能になる。
【0018】
また、請求項2記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および請求項7記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置によれば、河川からの測定場所への水の流入を簡単且つ正確に判別することができる。
【0019】
また、請求項3記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および請求項8記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置によれば、風によって起こされる細波等の比較的波長の短い波によるγ線の測定位置の水深の変動を簡単な構成で良好に抑制することができる。そのため、より正確な測定を行うことができる。
【0020】
また、請求項4記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および請求項9記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置によれば、装置フレームのγ線測定器のプローブの軸方向に水平に直交する方向の長さを、装置フレームの前記軸方向の長さよりも短くすると共に、整流板を設けることでうねりを前記軸方向にほぼ直交する方向から常に受けるようにしているので、装置フレームのうねり進行方向の寸法が短くなり、装置フレームのうねりへの追従性が向上し、γ線の測定位置の水深の変動を簡単な構成で良好に抑制することができる。そのため、より正確な測定を行うことができる。
【0021】
さらに、請求項5記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法および請求項10記載の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置によれば、河川から測定場所に新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能濃度と区別して求めることができるので、河川から汽水域に新たに流れ込んだ放射性物質を正確に把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
図2】同測定装置の概略構成を示し、(A)はその正面図、(B)はその側面図、(C)はその平面図である。
図3】濃度換算式を求める概念を示し、γ線の計数率の現場測定(測定器計数値)と放射能濃度の実験室分析値との関係を示す図である。
図4】濁度測定値、塩分測定値、放射能濃度の関係を概念的に示す図である。
図5】外洋から到達するうねりに対する波放射能測定装置の向きの違いによる動きを説明するための図で、(A)は放射性物質測定装置のうねり進行方向の寸法が長い場合の概念図、(B)は放射性物質測定装置のうねり進行方向の寸法が短い場合の概念図である。
図6】同測定装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
図7】同測定装置の第3の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1および図2に、本発明の河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置の実施形態の一例を示す。河口あるいは汽水域における放射性物質の測定装置(以下、単に放射性物質測定装置という)は、水中のγ線を計数するγ線測定器1と、河川から測定場所への水の流れ込みを検出する検出手段2と、少なくともγ線測定器1及び検出手段2を河口あるいは汽水域の表層水3中に係留する係留手段4と、検出手段2の検出結果に基づいて河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか否かを判別し、放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間(本明細書においては単に流入期間とも呼ぶ)のγ線測定器1の計数率測定値と放射性物質を含んだ水が流れ込んでいない非流入期間(本明細書においては単に非流入期間とも呼ぶ)のγ線測定器1の計数率測定値に基づいて河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求める演算手段5を備えるものである。
【0025】
本実施形態では、左右方向に細長い直方体の骨組み状の装置フレーム6に各構成機器類を取り付けて固定することで装置として一体化しているが、これには限られない。ここで、符号23で示すγ線測定器1のプローブ1aの軸方向を前後方向、軸方向23に水平に直交する方向を左右方向とする。装置フレーム6を前後方向に細長い直方体にすることで、装置フレーム6の軸方向23に水平に直交する方向(左右方向)の長さ(前後面の幅)が、装置フレーム6の軸方向23(前後方向)の長さ(左右側面の幅)よりも短くなっている。装置フレーム6は、例えばステンレス鋼製のパイプ又は棒材を枠状に組み付けて溶接等によって固着したものである。ただし、これには限られない。装置フレーム6の4本の縦枠6aにはブイ7が固定されており、河口あるいは汽水域に浮かべた場合に装置フレーム6の上枠6bの高さが水面3aの高さにほぼ一致するようになっている。
【0026】
本実施形態のγ線測定器1は、装置フレーム6に固定された防水ケース8に収容されて固定されている。防水ケース8にはγ線測定器1のプローブ1aを収容する突出部8aが設けられており、プローブ1aを防水ケース8の本体部分から表層水3中に突出させる状態で収容可能である。γ線測定器1のプローブ1aは河川から水が流入した場合に比重の小さい淡水域になる水深に配置される。例えば、水深20cm〜30cmの位置に配置されるが、これに限られない。γ線測定器1としては市販のものの使用が可能であり、測定するγ線のエネルギー等に応じて適宜選択される。γ線測定器1の測定データは制御装置9に供給される。
【0027】
本実施形態では、セシウム134とセシウム137を測定対象の核種としており、β−崩壊後のバリウムが放出するγ線をγ線測定器1で測定する。ただし、測定対象の核種はこれらには限られない。
【0028】
防水ケース8は直方体形状を成し、装置フレーム6の内側に配置され固定されている。防水ケース8の前後方向の寸法および高さ方向の寸法は装置フレーム6の前後方向の寸法および高さ方向の寸法とほぼ同じになっている。一方、防水ケース8の左右方向の寸法は装置フレーム6の左右方向の寸法の約半分になっている。防水ケース8は突出部8aが中央に位置するように装置フレーム6内の片側に寄せて取り付けられており、装置フレーム6内の反対側空間は表層水3で満たされる。この空間に検出手段2が配置される。本実施形態では防水ケース8を水面3aよりも若干下に沈めるようにしているが、防水ケース8の上部を水面3aから浮かび上がらせても良い。防水ケース8の少なくとも天板部分は透明であり、太陽光を透過させる。
【0029】
検出手段2は河川から測定場所即ち放射性物質測定装置の係留場所への水の流れ込みを検出するもので、本実施形態では表層水3の濁度を検出する濁度センサ10と表層水3の塩分を検出する塩分センサ11を使用しているが、これらには限られない。濁度センサ10と塩分センサ11は表層水3中に配置されるように装置フレーム6に固定されている。このとき、濁度センサ10と塩分センサ11の高さをγ線測定器1のプローブ1aの高さに出来るだけ揃えてγ線測定位置の水深と同じ水深の濁度と塩分を測定することが望ましい。濁度センサ10および塩分センサ11としては市販のものの使用が可能である。濁度センサ10および塩分センサ11の測定データは制御装置9に供給されるが、これらには限られない。
【0030】
係留手段4は放射性物質測定装置を測定場所に係留するためのもので、本実施形態では海底に錘で留めた係留ワイヤ(以下、係留ワイヤ4という)を使用しているが、これには限られない。係留ワイヤ4はブイ7に接続されている。係留ワイヤ4は例えば4本設けられており、係留ワイヤ4を四方に向けて張ることで放射性物質測定装置が測定場所から移動したり向きを変えたりするのを防止している。
【0031】
制御装置9は、コンピュータで構成されている。このコンピュータに所定のプログラムを実行させることで、CPUやMPUなどの演算処理装置に演算手段5等が実現される。また、コンピュータの記憶装置12には、予め求められた濃度換算式15が記憶されている。制御装置9は防水ケース8内に収容されて固定されている。
【0032】
濃度換算式15は集計モードが実行される前に予め求められ、記憶装置12に記憶されている。濃度換算式15は、測定場所においてγ線測定器1を使用して測定されたγ線の計数率測定値と、同時刻に採取した測定場所の水を実験室で分析した放射能濃度の分析値とに基づいて求められる。γ線の計数率の現場測定(測定器計数値)と放射能濃度の実験室分析(実験室分析値)を複数時刻の水について行い、図3に示すような比較曲線を作成して濃度換算式15を算出する。例えば、放射能測定装置の測定場所への設置時、測定中の保守時、放射能測定装置の回収時にγ線の計数率の現場測定と水の採取が行われる。ただし、γ線の計数率の現場測定と水の採取が行われるタイミングはこれらに限られない。
【0033】
演算手段5は、測定モードでは、検出手段2の測定データに基づいて河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか(流入期間であるか)否か(非流入期間であるか)を判別する。本実施形態では、検出手段2の測定値と河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値との間に統計的検定で有意な差があるか否かによって判別を行うようにしているが、これに限られない。本実施形態では、検出手段2として濁度センサ10と塩分センサ11を使用しており、濁度センサ10の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ塩分センサ11の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる、即ち流入期間であると判断する。つまり、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる場合には、河川から流入した放射性物質(陸上由来水中懸濁粒子)の増加により表層水3の濁度は増加し、河川の淡水の流入により表層水3の塩分は減少すると考えられるので、濁度センサ10の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度よりも統計的検定で有意に増加し且つ塩分センサ11の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいると判断する。ただし、これらには限られない。
【0034】
ここで、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間とは、例えば河川流域にしばらく降雨がない時等のように河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないことが明らかな期間をいう。河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度および塩分は、放射性物質の測定を開始する前に予め測定されて記憶装置12に記憶されている。河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度および塩分として、複数回の測定値が記憶装置12に記憶されている。なお、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の濁度および塩分として、放射性物質の測定を開始する前に予め測定した値を使用し続けても良いが、放射性物質の測定を開始した後に非流入期間と判断された期間の濁度測定値、塩分測定値を順次追加するようにしても良い。
【0035】
また、演算手段5は、集計モードでは、予め求められたγ線測定器1の計数率測定値を表層水3の放射能濃度に換算するための濃度換算式15に、γ線測定器1の計数率測定値を当てはめて表層水3の放射能濃度を算出する。
【0036】
制御装置9は供給された各種データを記憶装置12に記憶しておく。
【0037】
放射性物質測定装置は独立した電源としてバッテリ18を備えている。バッテリ18は防水ケース8内に収容されて固定されている。バッテリ18は制御装置9や各種センサ類等に作動のための電力を供給する。なお、測定場所が岸に近くバッテリ18を充電可能な場合等には測定しながらバッテリ18を充電するようにしても良い。
【0038】
本実施形態の放射性物質測定装置は、太陽電池パネル19を備えている。太陽電池パネル19を備えることで太陽光を受けて発電しバッテリ18を充電することができるので、容量が小さく小型軽量のバッテリ18の使用が可能になると共に、長期間に亘る測定が可能になる。太陽電池パネル19は防水ケース8内に収容されて固定され、太陽光を最も受ける位置、例えば防水ケース8の透明の上板の裏側に配置されている。なお、バッテリ18の容量が十分である場合等には太陽電池パネル19を備えていなくても良い。
【0039】
本実施形態の放射性物質測定装置は、水面3aに浮かび且つγ線測定器1のプローブ1aとの間隔が一定に保たれた制風板20を備えている。制風板20はγ線測定器1のプローブ1aの上方に配置され、装置フレーム6の上部に取り付けられている。即ち、制風板20は放射性物質測定装置を河口あるいは汽水域の表層水3に浮かべた場合に水面3aと同じ高さになる位置に取り付けられている。本実施形態の制風板20は平板状を成しており、防水ケース8の反対側の位置、即ち防水ケース8に被らない位置に取り付けられている。なお、場合によっては制風板20を設けなくても良い。
【0040】
本実施形態の放射性物質測定装置は、外洋から沿岸に到達するうねりをγ線測定器1のプローブ1aの軸方向23にほぼ直交する方向から受けるように装置フレーム6の向きを維持する整流板22を備えている。ここで、「ほぼ直交する方向」には、「直交する方向」が含まれることは勿論のこと、詳しくは後述する装置フレーム6のうねりへの追従性を要求される程度に確保することができれば「直交する方向」から若干外れた場方向も含まれる。本実施形態では整流板22を左右に1枚ずつ設けているが、これには限られない。整流板22は平板状を成し、装置フレーム6の前後面に固定され、うねりの進行方向(沿岸方向)に向けて延出している。測定場所に係留させている放射性物質測定に最も影響を与える波は外洋のうねりであり、左右の整流板22は沿岸に向けて延出しているので、このうねりを受けた放射性物質測定装置は側面からこのうねりを受ける方向に向きを変える。装置フレーム6の軸方向23に水平に直交する方向(左右方向)の長さはが、装置フレーム6の軸方向23(前後方向)の長さよりも短くなっているので、装置フレーム6のうねり進行方向の寸法は短くなる。なお、場合によっては整流板22を設けなくても良い。
【0041】
本実施形態では、係留手段4は外洋のうねりによって引き起こされた波を一方の側面21で受ける向きに放射性物質測定装置を係留しているが、反対側の側面で受ける向きに放射性物質測定装置を係留しても良い。即ち、前後の向きを逆にしても良い。
【0042】
放射性物質測定装置を使用する測定場所として適しているのは、例えば岸から離れて砕波がなく、河川の影響の大きな内湾(入り江あるいは半島や防波堤に囲まれた海域)等である。ただし、これには限られず、河口域、汽水域であれば使用可能である。
【0043】
次に、放射性物質測定装置を使用した河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法について説明する。河口あるいは汽水域における放射性物質の測定方法(以下、単に放射性物質測定方法という)は、河口あるいは汽水域に係留したγ線測定器1で表層水3中のγ線を計数し、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間の計数率測定値と流れ込んでいない非流入期間の計数率測定値に基づいて河川から流れ込んだ放射性物質の放射能を求めるものである。
【0044】
本実施形態では、測定を開始する前に測定場所において事前調査を行って河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の表層水3の濁度と塩分を複数回測定してそれらの値を予め記憶装置12に記憶しておく。また、本実施形態では、放射能測定装置の測定場所への設置時、測定中の保守時、放射能測定装置の回収時にγ線の計数率の現場測定と水の採取を行って濃度換算式15を求めて記憶装置12に記憶しておく。
【0045】
その後、測定を開始する。先ず、放射性物質測定装置を河口あるいは汽水域の測定場所に浮かべて係留する。このとき、放射性物質測定装置の後面21を沖合に向けて係留し、外洋から沿岸に到達するうねりを後面21に受けるようにする。そして放射性物質測定装置を測定モードにして作動させると、γ線測定器1、濁度センサ10、塩分センサ11が測定を開始する。測定データは制御装置9に供給される。制御装置9は供給された測定データを同時刻のもの同士関連づけて記憶する。測定は予め決定された測定期間継続して行われる。このように、測定は無人で自動的に行われる。
【0046】
例えば、制御装置9は24時間毎にγ線測定器1、濁度センサ10、塩分センサ11から測定データを取得し記憶装置12に記憶する。ただし、これに限られず、例えば12時間毎に測定データを取得し記憶装置12に記憶するようにしても良いし、その他でも良く、測定目的等に応じて適宜変更可能である。
【0047】
そして、測定期間の経過後、作業員が放射性物質測定装置を回収し測定モードを終了させる。その後、放射性物質測定装置を集計モードにして作動させると、演算手段5が測定データの集計を開始する。
【0048】
制御装置9の演算手段5は、予め記憶装置12に記憶されている河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の複数の濁度センサ10の測定値(以下、比較濁度データ群という)と複数の塩分センサ11の測定値(以下、比較塩分データ群という)を参照しながら河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる流入期間であるか否かを判断する。より具体的には、演算手段5は記憶装置12から同時刻に測定されたγ線計数率測定値、濁度測定値、塩分測定値を読み込み、先ず、濁度測定値と比較濁度データ群、塩分測定値と比較塩分データ群の統計的検定を行う。そして、濁度センサ10の測定値が比較濁度データ群よりも統計的検定で有意に増加し且つ塩分センサ11の測定値が比較塩分データ群よりも統計的検定で有意に減少した場合に、河川からの流入期間であると判断し、それ以外を非流入期間であると判断する。
【0049】
そして、演算手段5は、流入期間であると判断された時間のγ線計数率測定値から非流入期間であると判断された時間のγ線計数率測定値を引くことで、河川から測定場所に流れ込んだ放射性物質の放射能を求める。例えば、流入期間であると判断された全ての時間のγ線計数率測定値の平均値と、非流入期間であると判断された全ての時間のγ線計数率測定値の平均値を求め、これらの差を求めることで河川から測定場所に流れ込んだ放射性物質の放射能を算出する。あるいは、一定期間毎に区切りを設けて、その期間毎に流入期間であると判断された全ての時間のγ線計数率測定値の平均値と、非流入期間であると判断された全ての時間のγ線計数率測定値の平均値を求めるようにし、一定期間毎の平均の放射能を求めて放射能の変動を調べるようにしても良い。
【0050】
そして、演算手段5は放射能の算出値を予め求めておいた濃度換算式15に当てはめて放射能濃度を算出する。これにより、河川から測定場所に新たに流れ込んできた放射性物質の放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質の放射能濃度と区別して求めることができる。
【0051】
流入期間のγ線測定器1の計数率測定値は、河川から新たに流れ込んできた放射性物質と、もともと測定場所に存在していた放射性物質の両方に由来するものである。一方、流入期間のγ線測定器1の計数率測定値は、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来するものである。したがって、流入期間のγ線測定器1の計数率測定値から、流入期間のγ線測定器1の計数率測定値を引くことで、河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能と区別して求めることができ、これに基づいて河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能濃度と区別して求めることができる。
【0052】
図4に、濁度測定値、塩分測定値、放射能濃度の関係を概念的に示す。図4では、24時間毎にデータを測定している。濁度測定値が統計的検定で有意に増加し、且つ塩分測定値が統計的検定で有意に減少した時に放射性物質の放射能濃度が増加している。即ち、河川から放射性物質を含んだ水が測定場所に流入することで、濁度測定値が統計的検定で有意に増加し且つ塩分測定値が統計的検定で有意に減少したものであり、河川から流入した水に含まれる放射性物質によって測定場所の放射能濃度が上昇したことが分かる。そして、上昇した放射能濃度と普段の放射能濃度とを比較することで、河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能濃度と区別して求めることができる。
【0053】
本発明によれば、河川から測定場所に新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能濃度を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能濃度と区別して求めることができるので、河川から河口あるいは汽水域に新たに流れ込んだ放射性物質を正確に把握することが可能になる。
【0054】
本発明では、γ線測定器1のプローブ1aの水深の変動を抑えるために、以下の工夫がされている。先ず第1の工夫として、水面3aに浮かび且つγ線測定器1のプローブ1aとの間隔が一定に保たれた制風板20をγ線測定器1のプローブ1aの上方に設けてγ線測定器1のプローブ1aの水深を一定に保つようにしている。γ線測定器1のプローブ1aと制風板20との間隔は一定に保たれているので、制風板20を水面3aに浮かべることで、γ線測定器1のプローブ1aと水面3aとの間隔即ち水深が一定に保たれる。したがって、風によって起こされる細波等の比較的波長の短い波によるγ線測定器1のプローブ1aの水深の変動を簡単な構成で抑制することができる。そのため、より正確な測定を行うことができる。
【0055】
また、第2の工夫として、装置フレーム6のγ線測定器1のプローブ1aの軸方向23に水平に直交する方向の長さを、装置フレーム6の軸方向23の長さよりも短くし、表層水3中に沈めた整流板22によって外洋から沿岸に到達するうねりを軸方向23にほぼ直交する方向から受けるように装置フレーム6の向きを維持するようにしている。ここで、比較的波長の長いうねりを受けると水面3aの上下動に追従して放射性物質測定装置も上下動する。このとき、装置フレーム6のうねり進行方向の寸法が比較的長い場合には、図5(A)に示すように、うねりが装置フレーム6の上を越えることになり、うねりへの追従性が悪くなり、装置フレーム6と水面3aとの間隔即ち水深の変動が大きくなる。一方、装置フレーム6のうねり進行方向の寸法が比較的短い場合には、図5(B)に示すように、装置フレーム6はうねりに追従して(追従性良好)上下動し水深変動は小さくなる。本発明では、装置フレーム6のγ線測定器1のプローブ1aの軸方向23に水平に直交する方向の長さを、装置フレーム6の軸方向23の長さよりも短くすると共に、整流板22を設けることでうねりを軸方向23にほぼ直交する方向から常に受けるようにしているので、装置フレーム6のうねり進行方向の寸法が短くなり、放射性物質測定装置のうねりへの追従性を向上させることができ、プローブ1aの水深の変化を簡単な構成で効果的に抑制することができる。また、水面3aに追従させて放射性物質測定装置を傾斜させることができるので、検出手段2とγ線測定器1のプローブ1aの水深のずれを抑制することができると共に、検出手段2やγ線測定器1のプローブ1aが水上に露出するのを防止できる。これらのため、より正確な測定を行うことができる。
【0056】
しかも、γ線測定器1の検出方向(軸方向23)をうねりの進行方向に対してほぼ直交させることができるので、γ線測定ポイントの水深の変動を抑制することができ、この点からもより正確な測定を行うことができる。
【0057】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0058】
えば、上述の説明では、表層水3の濁度と塩分の両方に基づいて流入期間を判断していたが、流入期間の判断を、表層水3の塩分と表層よりも下の層の水温に基づいて行うようにしても良い。即ち、例えば図6に示すように、検出手段2として塩分センサ11と水温計24を設け、水温計24により得られる水温の低下と塩分センサ11により得られる塩分の低下に基づいて流入期間であるか否かを判断するようにしても良い。
【0059】
水温計24は装置フレーム6の下部又は装置フレーム6から下に延ばした延長部に固定されており、河口域の表層よりも下の層、即ち汽水域(表層)よりも下の海水域の水温を測定する。水温計24の近傍には水深計25が設けられており、水温計24の測定値が表層よりも下の層の水温であるか否かが確認される。水温計24は、例えば水深100cm〜200cmに配置されるが、これには限られない。水温計24および水深計25の測定データは制御装置9に供給され記憶される。
【0060】
また、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の水温(表層よりも下の層の水温)として、複数回の測定値が記憶装置12に記憶されている。
【0061】
演算手段5は、測定モードでは、例えば、水温計24の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の水温よりも統計的検定で有意に低下し且つ塩分センサ11の測定値が河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の塩分よりも統計的検定で有意に減少した場合に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる、即ち流入期間であると判断する。つまり、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる場合には、河川の水の流入により海水の温度は低下し、流れ込んだ水は淡水であるため塩分は減少すると考えられるので、上記条件が満たされた場合に河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいると判断することができる。
【0062】
なお、流入期間の判断を、表層水3の濁度と表層よりも下の層の水温とに基づいて行うようにしても良く、表層水3の濁度と表層水3の塩分と表層よりも下の層の水温とに基づいて行うようにしても良い。
【0063】
また、例えば河口あるいは汽水域に流れ込む河川が複数ある場合等には、表層水3中の流れの方向を検出する流速計27を設けても良い(図7)。流速計27によって測定場所に影響を与えている流れの向きを検出することで、その方向から流れの起源となる河川を特定することができる。
【0064】
また、人工衛星からの信号に基づいて位置計測を行うGPS装置26を設け、位置計測を行いながら放射性物質の測定を行うようにしても良い(図7)。GPS装置26は、例えば防水ケース8内に収容されて固定され、計測された位置情報は制御装置9に供給される。GPS装置26を設けることで、測定場所の位置を正確に把握することができ、測定場所を変えて測定を繰り返し行うことで放射性物質の分布を測定することができる。
【0065】
また、上述の説明では、放射性物質(表層水3)の放射能濃度を求めるようにしていたが、放射性物質の放射能(計数率)を求めるようにしても良い。即ち、γ線測定器1の計数率測定値を濃度換算式15に当てはめる工程を省略し、計数率を求めるようにしても良い。この場合にも、河川から測定場所に新たに流れ込んできた放射性物質の放射能を、もともと測定場所に存在していた放射性物質の放射能と区別して求めることができるので、河川から河口あるいは汽水域に新たに流れ込んだ放射性物質を正確に把握することが可能になる。
【0066】
また、上述の説明では、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか否かの判断を、その時の測定値と、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値とを比較して統計的検定で有意に差があるか否かに基づいていたが、必ずしもこれに限られない。例えば、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間の値に基づいて比較のための基準値を決定し、この基準値との比較によって河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいるか否かを判断しても良い。
【0067】
例えば、濁度については、例えば、放射線の測定を行う前に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間に測定場所の濁度を測定しておき、その測定値に基づいて濁度基準値Stを決定する。例えば、河川流域に降雨がない時に測定場所の濁度を測定し、この測定を複数回行って最大値を濁度基準値Stとする。ただし、これには限られない。
【0068】
また、塩分については、例えば、放射線の測定を行う前に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間に測定場所の塩分を測定しておき、その測定値に基づいて塩分基準値Ssを決定する。例えば、河川流域に降雨がない時に測定場所の塩分を測定し、この測定を複数回行って最小値を塩分基準値Ssする。ただし、これには限られない。
【0069】
そして、例えば、濁度基準値Stと濁度センサ10の測定値との差が予め決定された濁度閾値Lt(例えば濁度基準値Stの5%)に達し(濁度センサ10の測定値が増加)、且つ塩分基準値Ssと塩分センサ11の測定値との差が予め決定された塩分閾値Ls(例えば塩分基準値Ssの5%)に達した(塩分センサ11の測定値が低く)場合に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる、即ち流入期間であると判断するようにしても良い。
【0070】
また、同様に、水温については、例えば、放射線の測定を行う前に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいないと考えられる期間に測定場所の表層の下の層の水温を測定しておき、その測定値に基づいて水温基準値Swを決定する。例えば、河川流域に降雨がない時に測定場所の表層の下の層の水温を測定し、この測定を複数回行って最大値を水温基準値Swする。ただし、これには限られない。
【0071】
そして、例えば、水温基準値Swと水温計24の測定値との差が予め決定された水温閾値Lw(例えば水温基準値Swの5%)に達し(水温計24の測定値が低く)、且つ塩分基準値Ssと塩分センサ11の測定値との差が予め決定された塩分閾値Ls(例えば塩分基準値Ssの5%)に達した(塩分センサ11の測定値が低く)場合に、河川から測定場所に放射性物質を含んだ水が流れ込んでいる、即ち流入期間であると判断するようにしても良い。
【0072】
また、γ線測定器1を上下に2台設け、比重の軽い淡水層のγ線計数率と比重の重い海水層のγ線計数率とを同時に測定し、淡水層のγ線計数率と海水層のγ線計数率との差に基づいて、河川から新たに流れ込んできた放射性物質に由来する放射能を、もともと測定場所に存在していた放射性物質に由来する放射能と区別して求めるようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 γ線測定器
1a γ線測定器のプローブ
3 表層水
3a 表層水の水面
4 係留手段
5 演算手段
6 装置フレーム
10 濁度センサ(検出手段)
11 塩分センサ(検出手段)
15 濃度換算式
20 制風板
22 整流板
23 γ線測定器のプローブの軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7