特許第5938219号(P5938219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938219胃排出遅延のための食品用の剤または医療用の剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938219
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】胃排出遅延のための食品用の剤または医療用の剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20160609BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A23L33/175
   A61P1/00
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61K31/198
   A61K31/4172
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-10695(P2012-10695)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-146247(P2013-146247A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100123548
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 晃二
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】最上 おりえ
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 佳緒里
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌代
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/105368(WO,A1)
【文献】 特開2004−352696(JP,A)
【文献】 特開2001−000145(JP,A)
【文献】 特開2006−267098(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044770(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/046746(WO,A1)
【文献】 Gastroenterology, 1972, Vol. 62, No. 4, pp. 528-532
【文献】 Gastroenterology, 1975, Vol. 69, No. 4, pp. 920-927
【文献】 日本内科学会雑誌,1976, Vol. 65, No. 7, pp. 681-684
【文献】 Gastroenterology, 1975, Vol. 68, No. 4, pp. 804-816
【文献】 J. Physiol., 1979, Vol. 291, pp. 413-423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/175
A61K 31/198
A61K 31/4172
A61P 1/00
A61P 3/04
A61P 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリン、トレオニンおよびヒスチジンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分として含有する、急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための食品用の剤。
【請求項2】
アミノ酸の1日当たりの摂取量が0.1〜30gである、請求項1に記載の食品用の剤。
【請求項3】
アミノ酸の含有量が0.2〜100w/w %である、請求項1〜2のいずれかに記載の食品用の剤。
【請求項4】
アミノ酸および製剤化のための補助剤のみを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品用の剤。
【請求項5】
セリン、トレオニンおよびヒスチジンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分として含有する、急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための医療用の剤。
【請求項6】
前記アミノ酸の1日当たりの摂取量が0.1〜30gである、請求項5に記載の医療用の剤。
【請求項7】
前記アミノ酸の含有量が0.2〜100w/w %である、請求項5〜6のいずれかに記載の医療用の剤。
【請求項8】
前記アミノ酸および製剤化のための補助剤のみを含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の医療用の剤。
【請求項9】
急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための食品用の剤を製造するための、セリン、トレオニンおよびヒスチジンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の使用。
【請求項10】
急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための医療用の剤を製造するための、セリン、トレオニンおよびヒスチジンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分とする、胃排出遅延のための食品用の剤、および胃排出遅延のための医療用の剤に関する。
【背景技術】
【0002】
胃内に滞留する時間が長い食餌では、満腹感を持続させる効果があり、いわゆる「腹持ちが良い」ものとして知られている。例えば、食物繊維や脂質を多く含む食品などは、胃内に滞留する時間が長い食餌として知られている。特に、こんにゃく、おから、寒天、ごぼうなどの食物繊維を多く含む食品は、低カロリーでありながら、満腹感を持続できる食餌として知られている。そして、このような食品は、ダイエットや食後高血糖値の管理に有用であることが知られている。
【0003】
糖尿病患者などでは、食後高血糖値を管理することが重要であると考えられている。食後高血糖値を管理するための方法として、インスリン、DPP(dipeptidyl-peptidase)-VI阻害剤、グルカゴン様ペプチド‐1(GLP-1)誘導体、アミリンアナログ類などの投与、グリセミック・インデックス(GI値)の低い食餌の摂取などが知られている。このとき、DPP-VI阻害剤、GLP-1誘導体、アミリンアナログ類では、胃排出の遅延効果や、満腹感の亢進効果もある。また、GI値の低い食餌では、炭水化物が体内でブドウ糖に変換される速度が遅いため、食後血糖値の上昇抑制効果がある。
【0004】
「機能性胃腸症(FD:Functional Dyspepsia)」とは、内視鏡検査などで、胃に潰瘍やがんなどが認められないのに、胃のもたれや痛みを感じる症状のことをいう。こうした症状を、昔には、胃下垂、胃アトニー(アトニーとは、筋肉の緊張が低下するか、または筋肉の緊張がないことを意味し、胃無力症ともいう)と呼び、最近まで、胃けいれん、神経性胃炎、慢性胃炎などと診断してきた。しかし、胃の粘膜に何の異常もないにも拘わらず、胃の粘膜に炎症があるという意味の「胃炎」と呼ぶことは正確ではないという認識から、近年では「機能性胃腸症」と呼ぶようになってきた。
そして、胃では、食後に症状が現れる場合が多く、ROMEIII基準では、機能性胃腸症のサブタイプを食後愁訴症候群(post-prandial distress syndrome;PDS)と心窩部痛症候群(epigastirc pain syndrome;EPS)とに分類している(非特許文献1)。
【0005】
機能性胃症の原因として、これまで、胃排出遅延(delayed gastric emptying)、胃適応弛緩異常(impaired gastric accommodation of food intake)、胃伸展に対する知覚過敏(hypersensitivity to gastric distention)が考えられてきた。このとき、食後愁訴症候群では、胃適応弛緩異常を原因とする食後早期膨満感が重篤な症状として考えられている。
食物が胃から十二指腸に移送されると、膵臓からコレシストキニン(CCK)が分泌され、胃幽門部の運動が低下して、胃排出が抑制される。Kusanoらは、患者の食後症状の程度が胃排出促進とよく相関することを報告している(非特許文献2)。すなわち、患者の多くでは、胃排出遅延よりも胃排出促進の作用を示すことを強く示している。つまり、食後愁訴症候群を改善するためには、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延することが有効であると考えられる。
【0006】
なお、これまでに、胃排出を遅延させるアミノ酸類として、トリプトファン(非特許文献3)、トリゴネラ(trigonella)属の植物に含まれる4−ヒドロキシイソロイシン(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2008/044770公報公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Drossman DA.、The Functional Gastrointestinal Disorders and the RomeIII Process.、Gastroenterology 130 (5)、pp.1377-1390 (2006)
【非特許文献2】Kusano M et al、Rapid gastric emptying, rather than delayed gastricemptying, might provoke functional dyspepsia.、Journal of gastroenterology andhepatology、26 (Suppl 3)、pp.75-78 (2011)
【非特許文献3】Bell FR and Webber DE、Gastric emptying and secretion in the calf onduodenal infusion of tryptophan, tryptamine and 5-hydroxytryptamine、The Journalof Physiology、291、pp.413-423 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延するための食品用の剤または医療用の剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、食経験のある主要なアミノ酸である、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンについて、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する効果を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
具体的には、13C標識した各種アミノ酸を投与した動物の13CO2の呼気排泄量をモニターすることにより、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンが急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分として含有する、急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための食品用の剤、
[2] アミノ酸の1日当たりの摂取量が0.1〜30gである、前記[1]に記載の食品用の剤、
[3] アミノ酸の含有量が0.2〜100w/w%である、前記[1]〜[2]のいずれかに記載の食品用の剤、
[4] アミノ酸および製剤化のための補助剤のみを含む、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の食品用の剤、
[5] セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分として含有する、急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための医療用の剤、
[6] アミノ酸の1日当たりの摂取量が0.1〜30gである、前記[5]に記載の医療用の剤、
[7] アミノ酸の含有量が0.2〜100w/w%である、前記[5]〜[6]のいずれかに記載の医療用の剤、
[8] アミノ酸および製剤化のための補助剤のみを含む、前記[5]〜[7]のいずれかに記載の医療用の剤、
[9] 急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための食品用の剤を製造するための、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の使用、
[10] 急激な胃排出量の上昇抑制および胃排出遅延のための医療用の剤を製造するための、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の使用
からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の剤では、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する効果があるので、腹持ちを良くする効果がある。また、食後の急激な血糖上昇を抑制する効果もあるので、糖尿病患者などの食後高血糖の管理に使用することも可能である。さらに、食後愁訴症候群の改善にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】例1で使用した、胃排出遅延効果の評価方法の概略図である。図中、動物収納容器、呼気貯留容器、呼気移送装置を含む構成となっている。この図では、4個体の呼気を同時に採取し、さらにΔ13CO2測定装置にて、呼気を測定する様子を示す。
図2】20種類のアミノ酸の胃排出遅延効果を示す。図中、*および#は、mean±2SD(平均値±標準偏差の2倍)の範囲が対照群のmean±2SDの範囲と重複しないことを意味する。各群名の横にある括弧内の数字は、各群のn数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更できるものである。
【0016】
本発明の有効成分であるセリン(Serine)は、非必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−セリンのCas No.は、56-45-1であり、その別名は、2-アミノ-3-ヒドロキシプロピオン酸、(2S)-2-アミノ-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ-L-アラニン、(2S)-2-Amino-3-hydroxypropanoic acidである。セリンの略号として、Ser、Sを用いる場合もある。セリンは、水や蟻酸に溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。セリンは、カゼイン、ゼラチン、かつお、大豆、小麦タンパクなどの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。セリンは、糖原性を持ち、ホスファチジルセリンの原料になることが知られている。
【0017】
本発明の有効成分であるシステイン(Cysteine)は、非必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−システインのCas No.は、52-90-4であり、その別名は、(R)-2-アミノ-3-メルカプトプロパン酸、(2R)-2-アミノ-3-スルファニルプロパン酸、(R)-2-Amino-3-mercaptopropanoic acid、β-メルカプトアラニン、チオセリン、ハイチオール、L-(+)-システインである。システインの略号として、Cys、CySH、Cを用いる場合もある。システインは、水に溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。システインは、大豆、小麦タンパク、魚などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。システインの酸化型は、二量体のシスチンである。システインは、含硫アミノ酸の一種であり、糖原性を持ち、爪や毛のタンパク質であるケラチンに多く含まれていることが知られている。
【0018】
本発明の有効成分であるトレオニン(Threonine)は、必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−トレオニンのCas No.は、72-19-5であり、その別名は、(2S,3R)-2-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸、(2S,3R)-2-Amino-3-hydroxybutanoic acid、L-2-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸、L-(+)-トレオニン、L-スレオニンである。トレオニンの略号として、Thr、Tを用いる場合もある。トレオニンは、蟻酸に溶けやすく、水には、やや溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。トレオニンは、カゼイン、ゼラチン、卵、魚、肉、大豆などの様々な素材や食品に多く含まれていることが知られている。トレオニンは、糖原性を持ち、成長促進、脂肪肝の予防などの機能が知られている。
【0019】
本発明の有効成分であるヒスチジン(Histidine)は、必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−ヒスチジンのCas No.は、71-00-1であり、その別名は、(S)-2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロピオン酸、3-(3H-イミダゾール-4-イル)アラニン、(S)-α-アミノ-1H-イミダゾール-4-プロパン酸、グリオキサリン-5-アラニン、L-(-)-ヒスチジンである。ヒスチジンの略号として、His、Hを用いる場合もある。ヒスチジンは、蟻酸に溶けやすく、水には、やや溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。ヒスチジンは、カゼイン、魚、肉、大豆などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。ヒスチジンは、塩基性アミノ酸の一種であり、糖原性を持ち、乳幼児の成長に関係すること、ヒスタミンの前駆体であることが知られている。
【0020】
本発明の有効成分であるリジン(Lysine)は、必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−リジンのCas No.は、56-87-1であり、その別名は、(2S)-2,6-ジアミノヘキサン酸、L-2,6-ジアミノカプロン酸、α-リシン、アミヌトリン、マランジル、L-(+)-リジン、L-リシンである。リジンの略号として、Lys、Kを用いる場合もある。リジン塩酸塩は、蟻酸に溶けやすく、水には、やや溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。リジンは、乳、魚、肉、卵などの動物性タンパク質や豆類などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。リジンは、塩基性アミノ酸の一種であり、抗体、ホルモン、酵素などの構成成分であることや、生体の成長や修復に関与することが知られている。
【0021】
本発明の有効成分であるグリシン(Glycine)は、非必須アミノ酸の1つである。グリシンのCas No.は、56-40-6であり、その別名は、2-アミノ酢酸、α-アミノ酢酸、グリコリキシル、グリココールである。グリシンの略号として、Gly、Gを用いる場合もある。グリシンは、水や蟻酸に溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。グリシンは、コラーゲン、ゼラチン、魚貝類などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。グリシンは、糖原性を持ち、ヘモグロビン、肝臓中の酵素などの構成成分であることや、中枢神経における神経伝達物質であることが知られている。
【0022】
本発明の有効成分であるアラニン(Alanine)は、非必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−アラニンのCas No.は、56-41-7であり、その別名は、(S)-2-アミノプロピオン酸、(2S)-2-アミノプロパン酸、α-アラニン、L-(+)-アラニンである。アラニンの略号として、Ala、Aを用いる場合もある。アラニンは、水や蟻酸に溶けやすく、エタノールには、ほとんど溶けない(第十六改正日本薬局方)。アラニンは、多種のタンパク質などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。アラニンは、タンパク質の構成アミノ酸の一種であり、脂肪の燃焼に関係することや、結合組織の材料であることが知られている。
【0023】
本発明の有効成分であるプロリン(Proline)は、非必須アミノ酸の1つであり、それには、D体とL体とが存在する。L−プロリンのCas No.は、147-85-3であり、その別名は、(2S)-ピロリジン-2-カルボン酸、(S)-2α-ピロリジンカルボン酸、ピロリジン-2α-カルボン酸、L-(-)-プロリンである。プロリンの略号として、Pro、Pを用いる場合もある。プロリンは、水や蟻酸に極めて溶けやすく、エタノールには、溶けにくい(第十六改正日本薬局方)。プロリンは、ゼラチンや皮革などの様々な素材や食品に含まれていることが知られている。プロリンは、糖原性を持ち、コラーゲンや心筋の材料であることが知られている。
【0024】
本発明において、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンは、フリーベースや水和物であってもよく、また、有機酸(酢酸、酒石酸、脂肪酸など)、有機塩基、無機酸(塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸など)、無機塩基(カリウム、ナトリウム、亜鉛など)と塩を形成していても構わない。そして、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、アラニンおよびプロリンでは、D体とL体のいずれを使用してもよい。
【0025】
本発明において、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンは、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンを多く含む食品などから、搾汁、濃縮、精製、結晶化または各種の溶媒で抽出するなどして得ることができる。各種の溶媒として、水や通常に用いられる溶媒、例えば、アルコール類、炭化水素類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、超臨界流体等を単独で、あるいは複数を組み合わせて用いることが可能である。また、微生物で生産したセリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンを用いることも可能である(特許第2574786号公報、特許2578492号公報、特許第3006926号公報、特公平05-001717など)。そして、化学的に合成されたセリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンを用いることも可能である。なお、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンまたはプロリンを多く含む素材や食品を、本発明の剤として用いてもよい。
【0026】
13C標識した各種のアミノ酸を投与した動物の13CO2の呼気排泄量をモニターすることにより、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンが急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延することを確認できた。
【0027】
胃内に滞留する時間が長い食餌では、満腹感を持続させる効果があり、いわゆる「腹持ちが良い」ものとして知られている。例えば、食物繊維や脂質を多く含む食品などは、胃内に滞留する時間が長い食餌として知られている。特に、こんにゃく、おから、寒天、ごぼうなどの食物繊維を多く含む食品は、低カロリーでありながら、満腹感を持続できる食餌として知られている。そして、このような食品は、ダイエットや食後高血糖値の管理に有用であることが知られている。本発明の剤では、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する作用があるため、食事の前後あるいは食事と同時に摂取することにより、腹持ちを良くできる。
【0028】
糖尿病患者などでは、食後高血糖値を管理することが重要であると考えられている。食後高血糖値を管理するための方法として、インスリン、DPP(dipeptidyl-peptidase)-VI阻害剤、グルカゴン様ペプチド‐1(GLP-1)誘導体、アミリンアナログ、α−グルコシダーゼ阻害剤などの投与、グリセミック・インデックス(GI値)の低い食餌の摂取などが知られている。これらの作用として、インスリンの分泌促進、グルカゴンの分泌抑制、炭水化物の消化遅延などを挙げることができる。このとき、DPP-VI阻害剤、GLP-1誘導体、アミリンアナログ類のように、胃排出の遅延効果や、満腹感の亢進効果があるものもある。本発明の剤では、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する作用があるため、炭水化物を含む食事の前後あるいは炭水化物を含む食事と同時に摂取することにより、食後に血糖値が急上昇する現象を抑制することが可能である。また、本発明の剤では、食品に応用できるアミノ酸を有効成分とするため、医薬品のみならず飲食品にも使用することが可能である。
【0029】
「機能性胃腸症(FD: Functional Dyspepsia)」とは、内視鏡検査などで、胃に潰瘍やがんなどが認められないのに、胃のもたれや痛みを感じる症状のことをいう。こうした症状を、昔には、胃下垂、胃アトニー(アトニーとは、筋肉の緊張が低下するか、または筋肉の緊張がないことを意味し、胃無力症ともいう)と呼び、最近まで、胃けいれん、神経性胃炎、慢性胃炎などと診断してきた。しかし、胃の粘膜に何の異常もないにも拘わらず、胃の粘膜に炎症があるという意味の「胃炎」と呼ぶことは正確ではないという認識から、近年では「機能性胃腸症」と呼ぶようになってきた。
そして、胃では、食後に症状が現れる場合が多く、ROMEIII基準では、機能性胃腸症のサブタイプを食後愁訴症候群(post-prandial distress syndrome;PDS)と心窩部痛症候群(epigastirc pain syndrome;EPS)とに分類している(Gastroenterology,130,1377-1556,2006)。
【0030】
機能性胃症の原因として、これまで、胃排出遅延(delayed gastric emptying)、胃適応弛緩異常(impaired gastric accommodation of food intake)、胃伸展に対する知覚過敏(hypersensitivity to gastric distention)が考えられてきた。このとき、食後愁訴症候群では、胃適応弛緩異常を原因とする食後早期膨満感が重篤な症状として考えられている。
食物が胃から十二指腸に移送されると、膵臓からコレシストキニン(CCK)が分泌され、胃幽門部の運動が低下して、胃排出が抑制される。Kusanoらは、患者の食後症状の程度が胃排出促進とよく相関することを報告している(J Gastroenterol Hepatol.,2011,26(Suppl3),75-78)。すなわち、患者の多くでは、胃排出遅延よりも胃排出促進の作用を示すことを強く示している。
通常では、食物を摂取すると、胃底部や胃体部の上部が弛緩し、ここに食物が滞留する。さらに、胃体部の中部以降に蠕動運動が起こり、食物は粉砕・消化されながら、徐々に十二指腸に送られる。食物などにより、胃壁が伸展すると、幽門部付近の機械受容器が刺激されて、満腹感が発生する。また、食物などが十二指腸に移動することで、コレシストキニンが分泌され、胃幽門部の運動が低下して、胃排出が抑制されることで、満腹感が増強する。
実際に胃適応弛緩異常の場合には、胃底部や胃体部上部の弛緩が不十分となり、食物が胃底部に滞留することなく、幽門部に移動するため、早期に満腹感が発生しやすくなる。また、幽門部に移動した一部の食物が早期に十二指腸に移動するので、コレシストキニン分泌を介した満腹感も増強しやすくなる。つまり、食後愁訴症候群を改善するためには、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延することが有効であると考えられる。
本発明の剤では、胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する作用があるため、食事の前後あるいは食事と同時に摂取することにより、食後愁訴症候群を改善する効果がある。
【0031】
本発明において、胃排出を遅延するとは、胃から十二指腸に胃内容物を排出する速度を遅延することをいう。具体的には、13C標識した酢酸を経口投与して、呼気中のΔ13CO2を経時的に測定し、酢酸の投与後から120分間の最高Δ13CO2排泄量(Cmax)、最高Δ13CO2排泄発現時間(Tmax)、およびΔ13CO2測定値-時間曲線の下面積(AUC120min)を算出して、胃排出能を評価することが可能となる。このとき、Tmaxが上昇する現象は、胃排出の遅延を示唆し、AUC120minが上昇しない現象およびCmaxが低下する現象は、急激な胃排出量の上昇の抑制を示唆する。
【0032】
本発明の剤は、食品用の剤と医療用の剤のいずれにも使用することができる。
本発明において、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の配合量は、剤型、症状、体重、用途などによって異なるため、特に限定されないが、あえて挙げるなら、0.2〜100w/w%の配合量に設定することができ、好ましくは0.3〜100w/w%、さらに好ましくは0.4〜100w/w%の配合量に設定することができる。
【0033】
本発明において、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸の一日当たりの摂取量は、年齢、症状、体重、用途などによって異なるため、特に限定されないが、あえて挙げるなら、0.1〜30gの摂取量に設定することができ、好ましくは0.3〜10gまたは0.3〜3g、さらに好ましくは0.5〜3gまたは0.5〜1gの摂取量に設定することができる。
なお、本発明の剤は、従来公知の胃排出遅延の効果がある飲食品や医薬品、あるいはGI値が60以下の食餌の摂取と同時または、それらの摂取の前後と併せて用いてもよい。具体的には、DPP-VI阻害剤、GLP-1誘導体、アミリンアナログ類などを挙げることができるが、これらの例に限定されない。
本発明の剤は、食事の前後あるいは食事と同時に摂取することにより、食事に由来する胃内容物の急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する効果を期待することができる。
【0034】
本発明の剤は、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニンおよびプロリンからなる群の少なくともいずれか1種類又は複数種類のアミノ酸を有効成分として含んでいればよく、前記アミノ酸のみから構成されるものであっても、前記アミノ酸と他の構成成分との混合物であってもよい。本発明の剤は、食品と医薬品のいずれの形態でも用いることができる。
本発明の剤では、例えば、他の構成成分として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの既知の製剤化のための補助剤を挙げることができる。なお、これらは食品あるいは医薬品の製剤技術の分野において通常で用いうるものであればよい。また、これらに適当量のビタミン、ミネラル、有機酸、糖類、アミノ酸、ペプチド類などを配合してもよい。
【0035】
本発明の剤では、例えば、実際の形態として、錠剤(タブレット)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、水剤、懸濁剤、ドリンク剤などによる経口摂取あるいは経口投与を挙げることができる。
本発明の剤では、例えば、特定保健用食品などの特別用途食品、栄養機能食品、栄養補助食品やサプリメントとして直接摂取することにより、または医薬品として直接投与することにより、胃排出を遅延することが期待される。なお、特定保健用食品などの特別用途食品、栄養機能食品、栄養補助食品やサプリメントは、消費者にとって、一般食品と明確に区別しながら、食事に由来する胃内容物の急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延する効果を期待することができる。
【0036】
本発明の剤は、各種の食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品など)に配合して、これを摂取してもよい。前記食品は、例えば、実際の形態として、液状、ペースト状、固形、粉末などを問わない。
【0037】
本発明の剤を配合する食品には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類などを用いることができる。タンパク質として、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、ホエイタンパク質加水分解物、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質などの動植物性タンパク質、これらの分解物、バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖などの各種の乳由来成分などを挙げることができる。カゼインホスホペプチドなどのペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質として、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテルなど)、食物繊維などを挙げることができる。脂質として、例えば、ラード、魚油などに、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油などに、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの植物性油脂などを挙げることができる。ビタミン類として、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などを挙げることができる。ミネラル類として、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどを挙げることができる。有機酸として、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、エリソルビン酸などを挙げることができる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて用いることができ、合成品および/またはこれらを多く含む食品を用いてもよい。これらの食品の形態として、固体でも、液体でも構わず、また、ゲル状などであってもよい。
【0038】
以下、本発明に関して、実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0039】
例1
20種類のアミノ酸について、特開2006-267098や特開2008-051787に記載の方法に準じて、胃排出能を評価した。具体的な方法を以下に示す。
(1)材料および方法
[被検物質]
20種類のアミノ酸(L-Tryptophan、L-Lysine、Glycine、L-Cysteine、L-Serine、L-Alanine、L-Proline、L-Arginine、L-Histidine、L-Threonine、L-Valine、L-Glutamine、L-Asparagine、L-Methionine、L-Glutamic acid、L-Aspartic acid、L-Isoleucine、L-Leucine、L-Phenylalanine、L-Tyrosine)を被検物質として用いた。前記アミノ酸のうち、Lysineには、塩酸塩、Asparagineには、一水和物、他のアミノ酸には、free baseを用いた。
【0040】
[動物実験]
7週齢のSD系雄性ラット(SLC社)を体重に基づいて群分けし(21群、各n=4)、16〜20時間で絶食した(ただし、水は自由摂取とした)。アミノ酸の投与群には、各種のアミノ酸(20種類)を蒸留水に1g/5mlの濃度で懸濁または溶解し、1g/kgの用量で経口投与した。対照群には、蒸留水1g/5mlを経口投与した。各種のアミノ酸または蒸留水の投与から30分後に、13C標識した酢酸を16mg/kg、その投与容量を2.5ml/kgとして、全部の群に経口投与した。酢酸の投与直後から、ラットを個体毎に、デシケーターに入れ、経時的に呼気を採取した。酢酸の投与から70分後までは5分毎に、酢酸の投与から70分後以降には90分後と120分後に、呼気を採取した。比較対照として、アミノ酸の代わりに蒸留水を経口投与した群も設けた。
デシケーター内に排泄された呼気を、速度150ml/minで吸引して、UBiT・POCone専用呼気採取バッグ20(大塚製薬株式会社)に呼気を採取した。具体的には、以下に示す方法により、各時点の開始から1.5分間の呼気を採取した。
【0041】
[呼気採取装置]
容積2Lのデシケーター内に、数mm(ミリメートル)の多数の小孔がある板状の中敷きを設けて、その上にラットを乗せ、ふたを閉めてから、呼気採取口または空気採入口以外の部分から呼気が漏れないように、ふたを固定した。デシケーターの側面開口部(空気採入口)より、シリコンチューブを通し、チューブ開口部の一端をデシケーター内の最下部(動物の体躯以下かつ呼気採取口よりも下部に位置する)に固定して、呼気採取口とした。シリコンチューブには、空気採入口より口径の小さいものを用いた。このとき、呼気採取口から呼気を移送することになる。シリコンチューブの開口部の他端をUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に接続し、デシケーターとUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20の間には、ペリスタポンプ(Master Flex L/S;Cole-Parmer Instrument Company)を接続して、デシケーター内に排泄された呼気を、一定速度の150ml/minで、それぞれ継続的に吸引して、UBiT・POCone専用呼気採取バッグ20に採取した。
【0042】
(2)評価
呼気を採取したUBiT・POCone専用呼気採取バッグ20を、UBiT-IR300赤外分析装置(大塚電子株式会社)に接続したUBiT-IR300専用オートサンプラー UBiT-AS10(大塚製薬株式会社)へ接続し、混合ガス(O2:95%、CO2:5%)を対照として、呼気中のΔ13CO2(‰)(=呼気の13CO2(‰)値から混合ガスの13CO2(‰)値を差し引いた値)を測定した。個体毎に最高Δ13CO2排泄量(以降、Cmaxともいう)、最高Δ13CO2排泄発現時間(以降、Tmaxともいう)および投与後の0〜120分間のΔ13CO2測定値-時間曲線の下面積(台形面積法による。以降、AUC120minともいう)を算出した。実際の評価では、mean±2SD(平均値±標準偏差の2倍)の範囲が対照群のmean±2SDの範囲と重複しない場合を、対照群に比較して、有意な差があると判断した。
(3)結果
対照群のTmaxは、28.8±4.8(平均値±標準偏差)分であった。各種のアミノ酸の前処置による13C酢酸のTmaxの結果は、26〜90分に分布した。対照群よりも有意に高いTmaxを示したアミノ酸を胃排出遅延作用があると判断した。その結果、Threonine、Histidine、Proline、Alanine、Serine、Cysteine、Glycine、Lysine、およびTryptophanに胃排出遅延の作用が認められた。
胃排出遅延作用を持つ医薬品であるアトロピンを投与したときのTmaxは、約40分(J. Breath Res.,3(2009)047003(4pp))であることからも、対照群のmean±2SD(38.4分)以上のTmaxを示すアミノ酸に有効な胃排出遅延の作用があることが支持される。
一方、対照群のAUC120minは、27472±1823(平均値±標準偏差)‰・minであった。胃排出遅延の作用が認められた上で、対照群より有意に高いAUC120minを示したアミノ酸はなかった。
Threonine、Histidine、Proline、Alanine、Serine、Cysteine、Glycine、Lysine、およびTryptophanのCmaxを表1に示す。ThreonineおよびHistidineでは、対照群と比較してCmaxに差がなかった。Proline、Alanine、Serine、Cysteine、Glycine、Lysine、およびTryptophanでは、対照群と比較してCmaxが有意に低下した。
AUC120minおよびCmaxの結果から、Threonine、Histidine、Proline、Alanine、Serine、Cysteine、Glycine、Lysine、およびTryptophanが急激な胃排出量の上昇を抑制することがわかった。
以上の結果から、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延するアミノ酸として、Threonine、Histidine、Proline、Alanine、Serine、Cysteine、Glycine、Lysine、およびTryptophanを選抜することができた。
【0043】
【表1】
【0044】
表中、*は、mean±2SD(平均値±標準偏差の2倍)の範囲が対照群のmean±2SDの範囲と重複しないことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニン、プロリンを有効成分とする、胃排出遅延のための食品用の剤、および胃排出遅延のための医療用の剤に関する。セリン、システイン、トレオニン、ヒスチジン、リジン、グリシン、アラニン、プロリンは、急激な胃排出量の上昇を抑制し、かつ胃排出を遅延するので、腹持ちを良くする効果がある。また、食後の急激な血糖上昇も抑制するので、糖尿病患者などの食後高血糖の管理にも有用である。また、食後愁訴症候群の改善にも応用することが可能である。
図1
図2