(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出ステップでは、前記第2計測ステップで得られた前記ガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度から、前記プラズマ中の電子温度が算出され、当該電子温度を用いて、前記ガスの下方遷移した状態の密度が求められる、請求項1または2に記載の計測方法。
前記アルゴンの励起状態からの下方遷移により生じる発光強度は、777.2nmの光強度であり、前記酸素の励起状態から下方遷移により生じる発光強度は、777nmの光強度であり、
前記プラズマに照射するレーザ光の波長は696.54nmであり、前記ガスの蛍光強度の波長は772.4nmである、請求項5に記載の計測方法。
前記算出ユニットは、計測された前記ガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度から、前記プラズマ中の電子温度を算出し、当該電子温度を用いて、前記ガスの下方遷移した状態の密度を求める、請求項7または8に記載の計測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記LIF法では、発光種(発光する原子の種類)がレーザにより励起される粒子に限られるため、励起される原子の種類の密度が低い場合には、誘起蛍光が微弱になり、十分なS/N比が得られなくなるといった検出感度の問題が生じる。
このように、現在、酸素原子等の不純物原子の密度が低い場合であっても。酸素原子の密度の信頼性のある算出結果を得ることができる方法は、知られていない。
【0006】
そこで、本発明は、生成したプラズマ中に存在する不純物の原子(以降、不純物原子ともいう)の密度を、信頼性を持って算出することができる不純物計測方法、計測装置、及び、この計測装置を用いた成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、プラズマ中の不純物を計測する計測方法である。当該方法は、
プラズマを生成するプラズマ生成ステップと、
前記プラズマ中のガスの励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度と、前記プラズマ中の不純物の励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度とを計測する第1計測ステップと、
前記プラズマにレーザ光を照射して、レーザ光のうち、前記ガスに吸収されることなく前記プラズマを透過した透過光の強度と、レーザ誘起による前記ガスの蛍光強度を計測する第2計測ステップと、
前記第2計測ステップで得られた前記透過光の強度から算出される前記ガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度とを用いて、前記ガスの準安定状態の密度を求め、前記ガスの励起状態からの下方遷移により生じる発光強度と前記プラズマ中の不純物の励起状態からの下方遷移により生じる発光強度との間の発光強度比と、前記密度と、を用いて、前記不純物の密度を算出する算出ステップと、を有する。
【0008】
前記第1計測ステップでは、前記発光強度比が、前記プラズマ中の分布として計測され、
前記第2計測ステップでは、前記ガスの蛍光強度が、前記レーザ光の光路に沿った分布として計測され、
前記算出ステップでは、前記不純物の密度が前記プラズマ中の分布として算出される、ことが好ましい。
【0009】
前記算出ステップでは、前記第2計測ステップで得られた前記ガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度から、前記ガスの準安定状態の密度が求められ、当該ガスの準安定状態の密度から前記プラズマ中の電子温度が算出される、ことが好ましい。
【0010】
前記不純物の密度は、例えば、前記発光強度比と、前記ガスの密度と、前記ガスの準安定状態の密度と、前記電子温度と、前記不純物原子の密度とを関係付けた下記式(4)を用いて算出され得る。
【0011】
【数1】
【0012】
前記ガスは、例えば、アルゴンガスであり、前記不純物は例えば酸素である。
このとき、前記アルゴンの励起状態からの下方遷移により生じる発光強度は、777.2nmの光強度であり、前記酸素の励起状態から下方遷移により生じる発光強度は、777nmの光強度であり、前記プラズマに照射するレーザ光の波長は696.54nmであり、前記ガスの蛍光強度の波長は772.4nmである。
【0013】
本発明の他の態様は、プラズマ中の不純物を計測する計測装置である。当該計測装置は、
プラズマを生成するプラズマ生成容器と、
前記プラズマ生成容器内でプラズマを生成するプラズマ生成ユニットと、
前記プラズマ中の前記ガスの励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度と、前記プラズマ中の不純物の励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度を計測するともに、レーザ光の誘起により発する前記ガスの蛍光の蛍光強度を計測する第1計測ユニットと、
前記プラズマにレーザ光を照射して、レーザ光のうち、前記ガスに吸収されることなく前記プラズマを透過した透過光の強度と、レーザ誘起による前記ガスの蛍光強度を計測する第2計測ユニットと、
前記第2計測ユニットで得られた前記ガスの光吸収係数と前記第1計測ユニットで得られた前記ガスの蛍光強度を用いて前記ガスの準安定状態の密度を求め、前記ガスの励起状態からの下方遷移により生じる発光強度と前記プラズマ中の不純物の励起状態からの下方遷移により生じる発光強度との間の発光強度比と、求めた前記密度とを用いて、前記不純物の密度を算出する算出ユニットと、を有する。
【0014】
その際、前記第1計測ユニットは、前記発光強度比を、前記プラズマ中の分布として計測し、
前記第2計測ユニットは、前記ガスの蛍光強度を、前記レーザ光の光路に沿った分布として計測し、
前記算出ユニットは、前記不純物の密度を前記プラズマ中の分布として算出する、ことが好ましい。
【0015】
前記算出ユニットは、計測された前記ガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度から、前記ガスの準安定状態の密度を求め、当該ガスの準安定状態の密度を用いて、前記プラズマ中の電子温度を算出する、ことが好ましい。
【0016】
前記算出ユニットは、前記発光強度比と、前記ガスの密度と、前記ガスの準安定状態の密度と、前記電子温度と、前記不純物の密度とを関係付けた下記式(4)を用いて、前記不純物の密度を算出することができる。
【0017】
【数2】
【0018】
本発明の他の態様は、前記計測装置を備えた、基板に薄膜を生成する成膜装置である。当該成膜装置では、
前記プラズマ生成容器に、成膜用原料ガスが前記プラズマ生成用のガスとともに導入され、前記プラズマ生成容器に配置された基板を成膜し、
さらに、算出された前記不純物の密度に応じて、前記不純物の密度が低下するように、前記プラズマの生成のための条件を変更する制御装置を有する。
【発明の効果】
【0019】
上述の不純物計測方法、計測装置では、発光分光法により不純物原子の基底状態の密度を求める際に、励起状態と基底状態の密度の関係をより厳密に決定することができるので、生成したプラズマ中に存在する不純物原子の密度を信頼性を持って算出することができる。このため、生成されたプラズマ中の不純物の密度を制御して不純物の混入し難い成膜を行うことができる成膜装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のプラズマ中の不純物の計測方法、計測装置、及び成膜装置の一実施形態について詳細に説明する。
プラズマ中の不純物の計測方法及び不純物の計測装置は、プラズマにより成膜容器の壁材がスパッタされることにより、プラズマ中に不純物の原子が含まれた時、この不純物の原子の密度を計測する方法である。本実施形態では、プラズマ中のプラズマ生成用のガスの発光強度と不純物の原子の発光強度との発光強度比を求めるプラズマ発光分光法と、レーザ光をプラズマに照射したとき、プラズマ中のプラズマ生成用のガスの発する蛍光の蛍光強度を計測するレーザ光誘起蛍光法(LIF法)を用いて、不純物の原子の密度を算出する。
以下の説明では、プラズマ生成用のガスとしてアルゴンガスを例として挙げて説明するが、アルゴンガスに限定されない。少量の添加で成膜プロセスに影響を与えないガスであればよく、例えばヘリウムガスなどの希ガスを用いることもできる。不純物の原子の例として、酸素原子を挙げて説明するが、本発明においては、酸素原子に限定されない。プラズマ発光分光法を行うことができるものであればよく、例えば、フッ素原子や窒素原子を対象とすることができる。
【0022】
(計測方法の概略説明)
本実施形態の不純物の計測方法では、
(A)プラズマ生成用のガス、例えば発光観測用に添加するトレーサガス(以降、単にガスということもある)を用いてプラズマを生成する。
(B)次に、生成したプラズマ中のガスの励起状態から準安定状態への下方遷移(例えば、アルゴンガスであれば、4p’[1/2]
1→4s’[1/2]
O0)により生じる発光強度と、プラズマ中の不純物(不純物原子)の励起状態から準安定状態への下方遷移(例えば、酸素原子であれば、3p
5P→3s
5S
O2)により生じる発光強度を計測する(第1計測)。
(C)さらに、生成中のプラズマにレーザ光を照射して、レーザ光のうち、プラズマ生成用のガスに吸収されることなくプラズマを透過した透過光の強度と、レーザ誘起による前記ガスの蛍光強度を計測する(第2計測)。このとき、レーザ光は、上述したプラズマ生成用のガスが励起状態に励起するような波長が選択される。
(D)第2計測で得られた透過光の強度から求められるガスの光吸収係数と前記ガスの蛍光強度とを用いて、このプラズマ中の前記ガスの準安定状態の密度を求める。さらに、このガスの励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度とプラズマ中の不純物の励起状態から準安定状態への下方遷移により生じる発光強度との間の発光強度比と、求めた前記密度と、及び電子温度と、を用いて、不純物(不純物原子)の密度を算出する。
【0023】
図1は、上記計測方法を実施する成膜装置10の概略構成図である。
図2は、成膜装置10の計測システム30の概略構成図である。
成膜装置10は、プラズマ生成容器である成膜容器12と、サセプタ14と、成膜対象用の基板16と、排気ユニット18と、ガス供給バルブ20と、原料ガス源22と、キャリアガス源24と、プラズマ生成ユニット26と、計測システム30と、制御装置40と、を有する。
【0024】
成膜容器12は、成膜容器12の内部を真空に排気することが可能な真空チャンバであり、例えば1〜100Pa程度に保持される。
サセプタ14は、成膜対象用の基板16を載置し、図示されない昇降機構により、
図1中の紙面上下方向に昇降自在に移動する。
排気ユニット18は、例えばロータリーポンプやターボ分子ポンプを含む、成膜容器12の減圧雰囲気を一定の圧力に維持する他、所望の圧力に調整することができる。
ガス供給バルブ20は、原料ガス及びキャリアガスであるアルゴンガスを所定の流量に調整することが可能なバルブであり、成膜容器12内に原料ガス及びキャリアガスであるアルゴンガスを導入する。原料ガスとして、例えばSiNを成膜する場合、シランガス−窒素ガス、シランガス−アンモニア、あるいは、シランガス−窒素ガス−アンモニアが用いられる。原料ガスが複数種類の場合、原料ガス源22は、複数種類の原料ガス毎に用いられる。キャリアガス源24は、原料ガスを成膜容器12内に導入するとともに、プラズマ生成用のガス、例えばアルゴンガスを貯蔵したガス源である。
原料ガス及びキャリアガスが同時に成膜容器12内に導入され、プラズマ生成ユニット26の動作により、成膜容器12内でプラズマが生成される。すなわち、本実施形態の成膜は、プラズマを用いた成膜(PECVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)である。しかし、本実施形態の成膜装置、計測方法及び計測装置は、所定の原料ガスを基板16に流して、原子層単位で基板上に原料ガスの成分を吸着させ、この後、反応ガスをプラズマで活性化させて基板に吸着した原子層単位の原料ガスの成分の吸着層と反応させて膜を形成するようなプラズマを用いた原子層積層(PAALD:Plasma Assisted Atomic Layer Deposition)に適用することもできる。
【0025】
プラズマ生成ユニット26は、高周波電源26Aと、マッチングボックス26Bと、電極板26Cとを有する。
高周波電源26Aは、例えば13.56MHzの高周波電力を出力する。マッチングボックス26Bは、高周波電源26Aと電極板26Cとの間のインピーダンス整合を行う。電極板26Cは、幅広薄板形状の導体板であり、電極板26Cの一方の端、
図1の例では
図1中の右端から給電される。電極板26Cに高周波電流が流れることにより、高周波の磁場が成膜容器12内に形成され、この磁場の形成により成膜容器12内でプラズマが生成される。成膜容器12内の壁面には、電極板26Cがプラズマに直接晒されず、磁場に影響を与えないように、石英からなる誘電体板26Dが用いられる。電極板26Cの他方の端、
図1の例では
図1中の左端は接地されている。
図1で用いられるプラズマ生成ユニット26は、電極板26Cを用いたICP(Inductively-coupled Plasmas)方式であるが、本発明では、これに限定されない。プラズマ生成ユニット26に、例えばCCP(Capacitively-Coupled Plasma)方式やSWAP(Surface Wave-excited Plasma)方式のような低圧力高密度プラズマ源を用いることができる。
【0026】
計測システム30は、
図2に示されるように、第1計測ユニット32と、第2計測ユニット用光源34と、第2計測ユニット用受光部36と、算出ユニット38と、ディスプレイ41と、プリンタ42と、を有する。第2計測ユニット用光源34と、第2計測ユニット用受光部36とにより、第2計測ユニットが形成されている。
図2は、
図1中のX−X’線に沿って成膜容器12を切断した断面図である。
第1計測ユニット32は、成膜容器12内で生成されるプラズマの発光強度や蛍光強度を画像として撮像するICCD(Intensified Charged Coupled Device)カメラである。第1計測ユニット32は、プラズマ中のアルゴンガス等のプラズマ生成用のガスの励起状態からの下方遷移により生じる発光強度と、プラズマ中の酸素原子等の不純物の原子の励起状態からの下方遷移により生じる発光強度を撮像するともに、後述するレーザ光の誘起により発するアルゴンガス等のプラズマ生成用のガスの蛍光の蛍光強度の像を撮像する。撮像された発光画像及び蛍光画像は算出ユニット38に送られる。
すなわち、成膜容器12には、計測用の窓32Aが設けられ、窓32Aを透過したプラズマの発光及び蛍光を撮像により計測することができるようになっている。第1計測ユニット32は、予め定められた異なる波長帯域の光を透過するようにフィルタ32Bが用いられる。フィルタ32Bが切り替えられることにより、異なる波長帯域の発光及び蛍光の画像をICCDカメラが受光するように構成されている。フィルタ32Bとしては、例えば、干渉フィルタが用いられる。
【0027】
第2計測ユニット用光源34は、プラズマにレーザ光を照射するように構成されている。成膜容器12には、石英等の透明性を有する窓34Eが設けられ、窓34Eを通して、成膜容器12内にレーザ光が入射されるようになっている。
第2計測ユニット用光源34は、レーザ光源ユニット34Aと、反射ミラー34Bと、レンズ系34Cと、入射窓34Dと、を有する。
レーザ光源ユニット34Aは、YAGレーザ、ダイレーザを用いて所定の波長のレーザ光、例えば、696.54nmのレーザ光を出射する。レーザ光は、反射ミラー34Bで反射され、シリンドリカルレンズを組み合わせたレンズ系34Cを通して、一定の幅を有する平行光Lを生成する。平行光Lは、成膜容器12の一方の端に設けられた入射窓34Dを通して成膜容器12内に入り、成膜容器12内のプラズマを照射する。成膜容器12の入射窓34Dと反対側の端には、出射窓36Aが設けられており、プラズマにより吸収されること無く透過した平行光Lは、出射窓36Aを通して第2計測ユニット用受光部36に受光される。
【0028】
第2計測ユニット用受光部36は、光電変換器、例えばPINフォトダイオードやフォトトランジスタ等の光電変換器が用いられ、光電変換器がプラズマ生成用のガスであるアルゴンガスにより吸収されること無くプラズマを透過した特定の波長、例えば696.54nmの透過光を受光するように、光電変換器の受光面の前面にフィルタが設けられる。勿論、第2計測ユニット用受光部36はレーザ光を受光するので、ND(Neutral Density)フィルタや偏光板が用いられて透過光の強度を下げて第2計測ユニット用受光部36は受光する。第2計測ユニット用受光部36の受光により生成された受光信号は、算出ユニット38に送られる。
また、レーザ光をプラズマに照射するとき、第1計測ユニット32は、レーザ光のプラズマへの照射によってプラズマ生成用のガスの原子の発する、所定の波長の蛍光、例えば772.4nmの蛍光画像を受光する。第1計測ユニット32の受光により得られた蛍光画像は算出ユニット38に送られる。
【0029】
算出ユニット38は、第1計測ユニット32で得られたプラズマ生成用のガスの発光画像と、不純物原子の発光画像と、第1計測ユニット32で得られたプラズマ生成用のガスの蛍光画像と、第2計測ユニット用受光部36で得られた受光信号と、に基いて、不純物の原子の密度を算出する。
算出ユニット38は、例えばCPU,メモリを備えたコンピュータによって構成され、上述した機能を発揮するソフトウェアを起動することで形成されるソフトウェアモジュールである。
具体的には、算出ユニット38は、第2計測ユニット用受光部36で受光した透過光の光強度の、プラズマに照射したレーザ光の光強度に対する比を用いて得られるプラズマ生成用のガスの光吸収係数を算出し、この光吸収係数と、蛍光画像とから、プラズマ生成用のガスの準安定状態の密度の分布を算出する。すなわち、算出ユニット38は、第2計測ユニット用受光部36で得られた受光信号の値を、レーザ光の光強度に対応する値を除算することで光吸収係数を得る。レーザ光の光吸収係数は、レーザ光の光路に沿った光吸収の値である。算出ユニット38は、この光吸収係数を用いて、光路中のプラズマ生成用のガスの原子(以降、ガス原子という)の準安定状態の平均化した密度nを下記式(1)に基いて算出する。
【0031】
ここで、lの値は、算出ユニット38の図示しないメモリに予め記憶されており、算出ユニット38は、このメモリに記憶されているlの値を読み出して用いる。
【0032】
また、プラズマ生成用のガス原子の準安定状態からの吸収断面積σ(ν)は、照射したレーザ光の中心波長(より明確には、準安定状態のプラズマ生成用のガス原子が吸収する光の中心波長)ν=ν
0において、下記式(2)になるように定まる。
【0034】
上記式(2)のΔν
dは、準安定状態のプラズマ生成用のガス原子の温度Tとの関係において、下記関係式(3)が成立する。式(3)中のMはプラズマ生成用のガス原子の質量であり、kはボルツマン定数である。
【0036】
このように、算出ユニット38は、式(1)を用いて、プラズマ生成用のガス原子の準安定状態の平均化した密度nを求める。
求めた平均化した密度nは、絶対的な値であり、光路長lに沿ってならした値であるので、算出ユニット38は、平均化した密度nを蛍光画像の光路に対応する各位置における蛍光画像の値に比例して、密度の値に高低を与えることにより、プラズマ生成用のガス原子の準安定状態の密度の分布を生成する。以降この密度nを密度n
1Mと記載する。このとき、密度n
1Mの分布を光路に沿って平均化したとき、平均化した値は、求めた平均化した密度の値になるように規格化されている。これにより、プラズマ生成用のガス原子の準安定状態の密度n
1Mの分布が求められる。
【0037】
また、算出ユニット38は、成膜容器12内に導入されたプラズマ生成用のガスの量を用いて基底状態のガス原子の密度を得る。
算出ユニット38は、基底状態のプラズマ生成用のガス原子の密度と、計測により得られた準安定状態のプラズマ生成用のガス原子の密度n
1Mの各位置における値を用いて、プラズマ中の電子温度の分布を算出する。詳細は、後述する。
算出ユニット38は、得られた電子温度を用いて、下記式(4)を用いて、不純物原子の密度であるn
2を算出する。
【0039】
上記式(4)は、励起状態のプラズマ生成用のガス原子が準安定状態との間で行う発光過程を含む下記式(5)に示すレート方程式と、励起状態の不純物原子が準安定状態との間で行う発光過程を含む下記式(6)に示すレート方程式と、を用い、プラズマ発生中の安定状態では、励起状態のプラズマ生成用のガス原子の密度および励起状態の不純物の原子の密度が一定であることを考慮して、励起状態のプラズマ生成用のガス原子の密度に関する式及び励起状態の不純物の原子の密度に関する式をそれぞれ導出し、この2つの式を用いて、プラズマ生成用のガス原子の発光強度I
1と不純物原子の発光強度I
2の式(下記式(7)、(8))をそれぞれ求め、この比をとることにより、上記式(4)を得ることができる。式(5)、(6)におけるtは時間であり、n
1*は、プラズマ生成用のガス原子の励起状態の密度であり、n
2*は、不純物原子の励起状態の密度である。n
eは、プラズマ中の電子密度である。
【0044】
ここで、発光強度比I
2/I
1は、上述の第1計測ユニット32の計測結果により求めることができる値であり、不純物の発光強度をプラズマ生成用のガスの発光強度で除算した値である。また、k
ex(s)(s=1又は2)、k
ex(1)Mは、算出された電子温度から一意的に値を算出することができる。ここで、k
ex(s)、k
ex(1)Mは、いずれも、下記式(9)、(10)で表される。
【0047】
上記式(9)、(10)において、σ
ex(s)(ν)、σ
ex(1)M(ν)は、既知である。f(ν)はマクスウェル分布関数であり、電子温度が上述したように算出されているので、マクスウェル分布関数も既知である。したがって、k
ex(s)(s=1又は2)、k
ex(1)Mは、いずれも既知の値となっている。一方、式(4)中のg
s、A
ij(s)、A
i(s)、n
1は既知の値である。n
1Mは、上述したように算出ユニット38で既に求められているので、式(4)では、不純物の原子の密度n
2以外は既知となっている。したがって、式(4)に基いて、算出ユニット38は、不純物原子の密度であるn
2を算出することができる。
計測されて得られた発光強度比I
2/I
1は、2つの発光画像の値から求められたものであるので、各位置の値を有する。さらに、プラズマ生成用のガス原子の準安定状態の密度n
1Mも、各位置の値を有する。また、算出された電子温度も各位置の値を有する。このため、算出された不純物原子の密度であるn
2も、各位置の値を有する分布として求められる。すなわち、算出ユニット38は、発光強度比I
2/I
1及び蛍光画像の取得範囲において、不純物原子の密度であるn
2も各位置の値を有する分布として得られる。このような不純物の原子の密度を、算出ユニット38は、分布として、ディスプレイ41あるいはプリンタ42に出力する。
このように、算出ユニット38は、不純物原子の密度を算出することができる。算出された不純物原子の密度は、制御装置40に送られる。
【0048】
制御装置40は、送られてきた不純物原子の密度に応じて、不純物原子の密度が低下するように、高周波電源26Aの高周波電力あるいはガス供給バルブ20におけるプラズマ生成用のガスの供給量などのプラズマの生成のための条件を変更する。具体的には、不純物原子の密度と高周波電力あるいはガスの供給量との間の関係を予め実験等により取得しておき、算出ユニット38から送られた不純物原子の密度分布に応じて、高周波電力あるいはガスの供給量を制御する。これにより、プラズマ中に含まれる不純物の量を低減することができる。
【0049】
(プラズマ中の電子温度の算出)
算出ユニット38は、上述したプラズマ中の電子温度を下記方法により求める。
プラズマ中のプラズマ生成用のガス原子の準安定状態のレート方程式から、プラズマ発生中の安定状態では、準安定状態のプラズマ生成用のガス原子の密度が一定であることを考慮して、準安定状態のプラズマ生成用のガス原子の密度に関する式を導出し、下記式(11)を得ることができる。
ここで、k
dexeは、準安定状態のプラズマ生成用のガス原子と電子との衝突によってプラズマ生成用のガス原子の準安定状態が消滅する反応の速度係数であり、例えば、2×10
−7cm
3/秒、3.5×10
−7cm
3/秒のように既知である(上記2つの値は、異なる準安定状態における値を示している)。したがって、式(11)におけるn
1M、n
1及びk
dexeは既知である。k
ex(1)は、式(9)により表され、σ
ex(1)(ν)は既知であるので、マクスウェル分布関数f(ν)に含まれる電子温度を算出することができる。算出ユニット38は、このように、基底状態のプラズマ生成用のガス原子の密度n
1と、上述した計測により得られた準安定状態のプラズマ生成用のガス原子の密度n
1Mを用いて、プラズマ中の電子温度を算出することができる。
このような電子温度の算出方法については、公知の方法であり、例えば、特許4933860号公報に詳細に記載されている。
【0051】
(不純物原子の密度の算出方法)
図3は、不純物原子の密度の算出方法のフローチャートである。
図3に示す例では、プラズマ生成用のガスとしてアルゴンガスを用い、不純物の原子として酸素原子を用いている。
【0052】
まず、成膜容器12にアルゴンガスを導入してプラズマを生成する。その際、プラズマ中では、石英からなる誘電体板26Dがスパッタされて、誘電体板26Dの成分である酸素がプラズマ中に酸素原子として混入する。この酸素原子は、アルゴン原子と同様に、プラズマ中の電子と衝突して励起され、発光する。
【0053】
第1計測ユニット32は、このプラズマ中の励起状態のアルゴン原子Ar
*及び励起状態の酸素原子O
*の発光を計測する。
図4(a)は、アルゴン原子の遷移の例を示す図である。アルゴン原子は、アルゴン原子の基底状態
1S
0から4p’[1/2]
1に励起し、その後、下方遷移して準安定状態4S’[1/2]
O0に落ちる。このとき、アルゴン原子は、772.4nm]の光を発する。また、アルゴン原子は、アルゴン原子の基底状態
1S
0から4p[3/2]
1に励起し、その後、下方遷移して準安定状態4S[3/2]
O2に落ちる。このとき、アルゴン原子は、772.4nm]の光を発する。
図4(b)は、酸素原子の遷移の例を示す図である。酸素原子は、酸素原子の基底状態3p
2から3p
5Pに励起し、その後下方遷移して準安定状態3s
5S
02に落ちる。このとき、酸素原子は、777nmの光を発する。
【0054】
このように第1計測ユニット32は、異なる波長の発光を計測するために、フィルタ32Bが用いられる。
第1計測ユニット32は、アルゴン原子Ar
*及び酸素原子O
*の発光強度の画像を撮像するので、画像データが算出ユニット38に送られる。算出ユニット38は、同じ位置における画像の値の比を求めることで、アルゴン原子Ar
*及び酸素原子O
*の発光強度比を算出する(ステップS10)。
【0055】
次に、レーザ光源34Aがレーザ光を出射する。このとき、プラズマ中のアルゴン原子はレーザ誘起蛍光を発生する。具体的には、アルゴン原子を、準安定状態4S[3/2]
O2から状態4p’[1/2]
1に励起させるように、696.54nmのレーザ光を出射させる。励起状態である4p’[1/2]
1は一例である。このように、プラズマ中のアルゴン原子を所望の状態に励起させるために、所望の波長のレーザ光を出射できるダイレーザを用いることが好ましい。
照射したレーザ光のうちプラズマを透過した透過光は、第2計測ユニット用受光部36で受光され、この受光により生成された受光信号は、算出ユニット38に送られる。また、第1計測ユニット32は、レーザ光の経路に沿ってアルゴン原子のレーザ誘起蛍光の蛍光画像を撮像する。撮像された蛍光画像の画像データは算出ユニット38に送られる。
【0056】
算出ユニット38は、送られてきた受光信号を用いて、第2計測ユニット用受光部36で受光した透過光の光強度の、プラズマに照射したレーザ光の光強度に対する比であるレーザ光の光吸収係数を算出する。プラズマに照射したレーザ光の光強度は予め所定の強度に制御されており、既知であるので、算出ユニット38は、第2計測ユニット用受光部36で得られる透過光の受光信号から、レーザ光の光強度に対応する値で除算することにより、レーザ光の光吸収係数を算出することができる。
さらに、算出ユニット38は、算出したレーザ光の光吸収係数から準安定状態のアルゴンガスのレーザ光の光路上に沿った平均化した密度を求める。求めた平均化した密度は、絶対的な値であり、光路長lに沿って積分した値であるので、算出ユニット38は、平均化した密度を蛍光画像の光路に対応する各位置における蛍光画像の値に比例して、密度の値に高低を与えることにより、光路に沿った密度の分布を生成する。このようにして算出ユニット38は、アルゴンの準安定状態の原子密度の分布を取得する(ステップS20)。
【0057】
次に、算出ユニット38は、基底状態のアルゴンのガス原子の密度n
1と準安定状態のアルゴンのガス原子の密度n
1Mの分布用い、さらに、式(11)を用いて、プラズマ中の電子温度の分布を取得する(ステップS30)。基底状態のアルゴンのガス原子の密度n
1は、成膜容器12内に導入されたアルゴンガスの量から求められる。
【0058】
さらに、算出ユニット38は、上述したように、式(4)と、アルゴン原子Ar
*及び酸素原子O
*の発光強度比と、算出した電子温度と、基底状態のアルゴンのガス原子の密度n
1と、準安定状態のアルゴンのガス原子の密度n
1Mとを用いて、酸素原子Oの密度n
2を分布として算出する(ステップS40)。
【0059】
図5(a),(b)は、本実施形態の方法により求められたアルゴンを用いたプラズマ中に混在する酸素原子の密度分布の例を示す図である。
図5(a)は、電極板26Cに低電力を与えてプラズマを生成させたときの密度分布であり、
図5(b)は、電極板26Cに高電力を与えてプラズマを生成させたときの密度分布である。概略、低電圧時に比べて酸素原子の密度は上昇するとともに、酸素原子の密度分布にも変化が見られる。具体的には、
図5(a)に示す低電力時、給電側の領域Aで密度が高くなった分布が、
図5(b)に示す高電力時、接地端側の領域Bで密度が高くなっている。このように電極板26Cに与える電力に応じて、酸素原子の密度分布に変化が生じることがわかる。また、
図5(a),(b)に示すように、10
12個/cm
3の密度であっても、安定した分布を算出することができる。
【0060】
図6(a)は、本実施形態、及び、上記従来の方法(“Detection of atomic oxygen: Improvement of actinometry and comparison with laser spectroscopy”)により得られる不純物である酸素原子の平均密度の算出結果を示す図である。
図6(a)に示すグラフの横軸は、電極板26Cに与える電力である。
図6(a)に示すように、本実施形態では、準安定状態のアルゴンの原子からの励起を考慮して不純物である酸素原子の密度分布を算出するので、より正確に求めることができる。
図6(a)では、従来の方法に比べて20%程度高く酸素原子の平均密度が得られる。
【0061】
図6(b)は、長さ15cm、幅7.5cm、厚さ2cmのアルミニウム製の電極板26Cに電力1200Wを与えてプラズマを生成したときの、不純物である酸素原子の密度の分布の算出結果である。
図6(b)によると、密度自体が20%程度高く算出される他、領域Cにおいて、本実施形態の方法では密度が盛り上がる分布を示していることがわかる。一方、従来の方法では、密度の盛り上がりが小さい。これは、従来の方法では求めていない準安定状態のアルゴン原子の密度分布を本実施形態の方法では考慮していることによる、ものと考えられる。これより、本実施形態の方法は、生成したプラズマ中に存在する不純物の原子の密度を、信頼性を持って算出することができるといえる。
【0062】
本実施形態では、アルゴン原子の基底状態
1S
0から4p’[1/2]
1に励起し、その後、下方遷移して準安定状態4S’[1/2]
O0に落ちるときに発する772.4nm]の光、あるいは、アルゴン原子の基底状態
1S
0から4p[3/2]
1に励起し、その後、下方遷移して準安定状態4S[3/2]
O2に落ちるときに発する772.4nm]の光を利用するが、この他に、
図7に示すような、826nmの光を利用することもできる。
図7は、アルゴン原子の遷移の他の例を示す図である。具体的には、アルゴン原子の基底状態
1S
0から4p’[1/2]
1に励起し、その後、下方遷移して準安定状態4S’[1/2]
O1に落ちるときに発する826nmの光を利用することもできる。この場合、レーザ誘起蛍光においても、レーザ光の誘起により、準安定状態4S’[1/2]
O1から4p’[1/2]
1に励起させるような波長のレーザ光を用いるとよい。
【0063】
このように、本実施形態では、不純物の密度がプラズマ中の分布として算出されるので、密度の高い領域を特定することにより、不純物質の発生源を特定することができる。
本実施形態では、プラズマ生成用のガスの吸収係数とこのガスの蛍光強度から、プラズマ中の電子温度が算出され、この電子温度を用いて、プラズマ生成用のガスの下方遷移した状態の密度が求められるので、精度の高い算出結果を得ることができる。
【0064】
成膜容器の装置構成や成膜容器の内壁面の汚れによって、プラズマ中の不純物の混入は変化するので、現状の成膜容器12で生成されるプラズマ中の不純物原子の密度の分布を本実施形態は精度良く算出することができる。このため、現状の成膜容器12において、不純物原子の密度が最も少なくなるように、プラズマ生成時の条件、例えば、電極板26Cに与える電力、あるいはアルゴンガスの成膜容器12への導入量等を操作することができる。
【0065】
以上、本発明のプラズマ中の不純物の計測方法、計測装置、及び成膜装置について詳細に説明したが、本発明のプラズマ中の不純物の計測方法、計測装置、及び成膜装置は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。