特許第5939423号(P5939423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939423ポリマー又はオリゴマー、及びこれを用いた有機エレクトロニクス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939423
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ポリマー又はオリゴマー、及びこれを用いた有機エレクトロニクス素子
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20160609BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160609BHJP
   H01L 51/42 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C08G61/12
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
   H01L31/04 D
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-45744(P2012-45744)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-181103(P2013-181103A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】浅野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】舟生 重昭
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/110642(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040388(WO,A1)
【文献】 特開2008−231419(JP,A)
【文献】 特開2009−267392(JP,A)
【文献】 特表2002−506481(JP,A)
【文献】 特開平06−145386(JP,A)
【文献】 Kim, Seungho et al,Water Soluble Photo- and Electroluminescent Alkoxy-Sulfonated Poly(p-phenylenes) Synthesized via Palladium Catalysis,Macromolecules,1998年,31(4),p964-974
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を含む単位を有し、かつ、
オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基と炭素数2〜20のアルキレン基とを含む基と、
−SOHで表されるスルホン酸基、−POで表されるホスホン酸基、及び−COOHで表されるカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基とを有するポリマー又はオリゴマー。
【請求項2】
請求項1記載のポリマー又はオリゴマー、及び溶媒を含有するインク組成物。
【請求項3】
請求項1記載のポリマー又はオリゴマーの重合物を含む重合層。
【請求項4】
請求項3記載の重合層を有する有機エレクトロニクス素子。
【請求項5】
請求項3記載の重合層を有する有機光電変換素子。
【請求項6】
請求項3記載の重合層を有する有機エレクトロルミネセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー又はオリゴマー、インク組成物、重合層、有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、及び有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を有機太陽電池、有機EL素子、光センサー等の有機エレクトロニクス素子の活性層に用いる検討が活発に行われている。特に、有機半導体薄膜により構成された有機薄膜太陽電池や有機EL素子は、従来のシリコンと比較して、簡便な製法により低コストで製造することができるため、将来の低コスト太陽電池、表示素子、照明素子等として期待されている。
【0003】
例えば、有機薄膜太陽電池としては、ショットキー型、pnヘテロ接合型、バルクヘテロ接合型、p−i−n接合型などが提案されている。特に、p型有機半導体(例えば、ポリチオフェン誘導体やポリフェニレンビニレン誘導体など)と、n型有機半導体(例えば、フラーレン(C60)誘導体など)とをブレンドし、pn接合面をナノオーダで薄膜全体に分散させるようにしたバルクヘテロ接合型は、変換効率が高く、有望な技術として多くの研究がなされている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
有機薄膜太陽電池や有機ELは、有機化合物の薄膜を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有しており、薄膜の形成方法としては、蒸着法と塗布法とに大別される。蒸着法は、主に低分子化合物を用い、真空中で基板上に薄膜を形成する手法である。一方、塗布法は、インクジェットや印刷など、溶液を用いて基板上に薄膜を形成する手法であり、材料の利用効率が高く、大面積化に向いており、デバイスを低コストで製造するのに不可欠な手法である。
【0005】
図1に、塗布法によって形成された有機薄膜太陽電池の一例を示す。1は光電変換層であり、バルクヘテロ接合型の場合は、p型半導体とn型半導体の混合物からなる。2、3は電極であり、少なくとも1つは透明電極である。光電変換層と電極との間には、変換効率を向上させるためにバッファ層4を挿入することができる。なお、5は基板である。
【0006】
有機エレクトロニクス素子を高性能に作製するために、有機層を多層化し、各層における機能を分離する試みがなされている。塗布法を用いて形成された有機薄膜太陽電池や有機ELでは、バッファ層や正孔注入層としてPEDOT:PSSが多用されている。これはPEDOT:PSSが水を、光電変換層や発光層がトルエン等の有機溶剤を溶媒として使用しており、PEDOT:PSSはトルエン等の有機溶剤には不溶であることにより、塗布法によって2層構造を作製することが可能であるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−179802号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hao Xin, Guoqiang Ren, Felix Sunjoo Kim, and Samson A. Jenekhe, “Bulk Heterojunction Solar Cells form Poly(3-butylthiophene)/Fullerene Blends: In Situ Self-Assembly of Nanowires, Morphology, Charge Transport, and Photovoltaic Properties”, Chem. Mater. 2008, 20, 6199-6207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した現状に鑑み、汎用の溶媒を室温で使用し、容易に有機層を多層化することが可能なポリマー又はオリゴマー、及び該ポリマー又はオリゴマーを含有するインク組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、汎用の溶媒を室温で使用することにより容易に形成することが可能であり、かつ、優れた特性を有する重合層、並びに該重合層を有する有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、及び有機エレクトロルミネセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有し、かつ、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基と、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基とを有するポリマー又はオリゴマーを用いることにより、汎用の溶媒を用いて安定的かつ容易に有機層を形成でき、また、重合反応によって有機層の溶解度を変化させることができるために、有機層を塗布法により積層化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を含む繰り返し単位を有し、かつ、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基と、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基とを有するポリマー又はオリゴマー、また、ポリマー又はオリゴマーを含有するインク組成物に関する。
また、本発明は、上記ポリマー又はオリゴマーを含む重合層に関する。
さらに、本発明は、上記重合層を有する有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、又は有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマー又はオリゴマー、及び該ポリマー又はオリゴマーを含有するインク組成物によれば、汎用の溶媒を室温で使用し、容易に有機層を多層化することが可能である。また、本発明の重合層、並びに該重合層を有する有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、及び有機エレクトロルミネセンス素子は、汎用の溶媒を室温で使用することにより容易に形成することが可能であり、かつ、優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機光電変換素子の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ポリマー又はオリゴマー]
本発明のポリマー又はオリゴマーは、芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を含む繰り返し単位(「正孔輸送性を有する繰り返し単位」ともいう。)を有する。正孔輸送性を有する繰り返し単位を有することにより、例えば、ポリマー又はオリゴマーをバッファ層や正孔注入層、正孔輸送層に用いた場合に、隣接した有機層から隣接した電極または有機層へと効率よく正孔を輸送することができる。
【0015】
芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を含む繰り返し単位としては、例えば、下記一般式(1a)〜(6a)、(7a)〜(13a)等が挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31は、それぞれ独立に置換又は非置換のアリーレン基、ヘテロアリーレン基、又はこれらの両方を含む基を表す。ここで、アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団である。
【0018】
また、アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、置換又は非置換であってもよい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。
【0019】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。
【0020】
また、置換又は非置換であってもよいアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、またはこれらの両方を含む基の例を下記構造式(1)〜(30)に示す。なお、下記構造式(29)、(30)におけるl、m、nは、1〜5の整数であり、2〜4が好ましい。
【0021】
【化2】
【0022】
上記一般式(1a)〜(6a)の置換基R〜R10及び(7a)〜(13a)の置換基R並びに上記構造式(1)〜(30)における置換基Rとしては、特に制限はないが、例えば、−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR又はポリエーテルである下記一般式
【0023】
【化3】
(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状若しくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表し(但し、Rが水素原子である場合を除く。)、a、b及びcは、1以上の整数、好ましくは1〜4の整数を表す。)で表される置換基(「−R等の置換基」ともいう。)や、−SOH、−PO、−COOH、−R’−SOH、−R’−PO又は−R’−COOHで表される置換基(「−SOH等の置換基」ともいう。)を挙げることができ、それぞれは同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
これらの置換基のうち、溶媒への溶解性の観点から、上記R〜R10又はRとしては、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は−Rで表されるアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、−ORで表される水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、−SOH、−PO、−COOH、−R’−SOH、−R’−PO又は−R’−COOHで表される基が好ましい。
【0025】
本発明のポリマー又はオリゴマーは、イオン性置換基として−SOH又は−R’−SOHを有する場合、特に溶解性に優れる。また、イオン性置換基が−SOH又は−R’−SOHである場合、ポリマー又はオリゴマーは重合反応性が優れるものとなり、例えば、後述する重合開始剤を用いることなくポリマー又はオリゴマーの重合を行うことも可能となる。
【0026】
−R’−SOH、−R’−PO及び−R’−COOHにおけるR’は、前記−R等の置換基のうち、水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基を表し、例えば、フェニレン基、オキシフェニレン基(−O−ph−)、炭素数1〜22個の直鎖、環状若しくは分岐アルキレン基、オキシ基(−O−)等が挙げられる。R’は、前記Rと同様の置換基を有していてもよい。
【0027】
前記一般式(10a)〜(13a)のX及びYは、それぞれ独立に、前記−R等の置換基のうち、水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。X及びYは、前記Rと同様の置換基を有していてもよい。
【0028】
【化4】
【0029】
上記一般式(10a)のZは、それぞれ独立に、前記−R等の置換基のうち、水素原子を2つ以上有する基から、さらに2つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。Zは、前記Rと同様の置換基を有していてもよい。
【0030】
【化5】
【0031】
また、上記一般式(1a)〜(6a)において、窒素原子に直接結合していないアリーレン基又はヘテロアリーレン基(式中、Ar、Ar、Ar15)は、溶解度や化学的安定性の観点から、フェニレン基、フルオレン−ジイル基、フェナントレン−ジイル基、縮環構造を有する上記の構造式(29)、式(30)が好ましい。
【0032】
また、ポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、正孔輸送性を有する繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基を共重合繰り返し単位として有する共重合体でもよい。
【0033】
共重合体は、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよく、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
【0034】
ポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0035】
ポリマー又はオリゴマーは、スルホン酸基(スルホ基)、ホスホン酸基(ホスホノ基)、及びカルボン酸基(カルボキシル基)からなる群より選択される少なくとも1種の置換基(「イオン性置換基」ともいう。)を有する。イオン性置換基を有するポリマー又はオリゴマーとしては、構成単位として、上述の正孔輸送性を有する繰り返し単位のうち、−SOH等の置換基を有する繰り返し単位を1つ以上有するものが挙げられる。または、イオン性置換基を有するポリマー又はオリゴマーとしては、正孔輸送性を有する繰り返し単位の他に、アリーレン基、ヘテロアリーレン基を共重合繰り返し単位として有し、共重合繰り返し単位が−SOH等の置換基を有するものが挙げられる。正孔輸送性を有する繰り返し単位又は共重合繰り返し単位が−SOH等の置換基を有する場合、各単位における−SOH等の置換基の数は好ましくは1つである。
【0036】
−SOH等の置換基を有する繰り返し単位の割合としては、ポリマー又はオリゴマーの全繰り返し単位(100mol%)に対して、1〜50mol%が好ましく、5〜40mol%がより好ましく、10〜30mol%がさらに好ましい。1mol%以上であれば、溶媒への溶解性向上の効果が得られやすく、50mol%以下であれば、ポリマー又はオリゴマーの極端な極性の変化なく精製が可能である。
【0037】
また、ポリマー又はオリゴマーは、重合可能な置換基として、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、又はメタクリレート基(「重合可能な置換基」ともいう。)を、少なくとも1種以上有する。これらの置換基は、汎用の溶媒への溶解性に加え、反応性や素子特性の観点から好ましい基であり、中でも、オキセタン基が特に好ましい。
【0038】
重合可能な置換基は、ポリマー又はオリゴマーの側鎖として導入されていても、末端に導入されていてもよく、側鎖と末端の両方に導入されていてもよい。素子の特性の観点から、末端に導入されていることが好ましく、末端にのみ導入されていることが特に好ましい。
【0039】
以下、重合可能な置換基が、ポリマー又はオリゴマーの末端に導入されている場合の詳細について説明する。重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、イオン性置換基を有し、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位として上記一般式(1a)〜(6a)のいずれかを有する場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(1b)〜(6b)が例示される。
【0040】
【化6】
【0041】
上記一般式(1b)〜(6b)中のAr32〜Ar68及び置換基R11〜R26は、上記一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31及び置換基R〜R10と同様であるか、または、Ar〜Ar31からさらに1つの水素原子を除去した基であり、Ar32〜Ar68が有する置換基及び置換基R11〜R26のいずれか少なくとも1種のうちの少なくとも1つ以上が、−SOH、−PO、−COOH、−R’−SOH、−R’−PO又は−R’−COOHで表される基である。
【0042】
また、重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、イオン性置換基を有し、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位が上記一般式(7a)〜(13a)のいずれかである場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(7b)〜(20b)が例示される。
【0043】
【化7】
【0044】
上記一般式(7b)〜(20b)中のR、X、Y及びZは、上記一般式(7a)〜(13a)中のR、X、Y及びZと同様であり、R又はX、Y及びZのいずれか少なくとも1種のうちの少なくとも1つ以上が、−SOH、−PO、−COOH、−R’−SOH、−R’−PO又は−R’−COOHで表される基である。Arは、一般式(1b)〜(6b)中のAr32〜Ar68と同様である。
【0045】
上記E〜E12及びEは、前述の重合可能な置換基を含有する基であり、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアミン構造を有する基、これらの2つ以上が連結した基等に前述の重合可能な置換基が1つ以上結合した基である。E〜E12及びEとして、好ましくはオキセタン基含有基であり、例えば、以下の構造を含む基が挙げられる。
【0046】
【化8】
【0047】
汎用の溶媒への溶解性の観点からは、重合可能な置換基を含有する基は、炭素数2〜20、好ましくは5〜10のアルキル基を有する基に前述の重合可能な置換基が1つ以上結合した基であることが好ましい。特に好ましくは、アルキル基を有する基にオキセタン基が1つ結合した基であり、例えば、以下の構造を含む基が挙げられる。nは2〜20の整数であり、好ましくは5〜10の整数である。
【0048】
【化9】
【0049】
上記一般式(1b)〜(6b)において、繰り返し数m+nの数平均は、2以上100以下が好ましく、2以上20以下がより好ましい。mとnの比は、m:n=100:0〜50:50が好ましく、95:5〜60:40がより好ましい。mの割合が小さすぎると、正孔輸送性が低下する傾向がある。また、m+nが小さすぎると製膜安定性が低下し、大きすぎると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる場合がある。
【0050】
上記一般式(7b)〜(20b)において、繰り返し数nの数平均は、2以上100以下が好ましく、2以上20以下がより好ましい。nが小さすぎると製膜安定性が低下し、大きすぎると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる場合がある。
【0051】
ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、1,000以上500,000以下であることが好ましく、1,000以上100,000以下であることがより好ましく、5,000以上100,000以下であることがさらに好ましい。分子量が1,000未満であると製膜安定性が低下し、500,000を越えると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる場合がある。なお、ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの数平均分子量のことである。
【0052】
ポリマー又はオリゴマーの多分散度は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上10.0以下がより好ましく、1.2以上5.0以下が最も好ましい。多分散度が小さすぎると、成膜後に凝集しやすくなる傾向があり、大きすぎると素子特性が低下する傾向がある。なお、ポリマー又はオリゴマーの多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの(重量平均分子量/数平均分子量)の値である。
【0053】
ポリマー又はオリゴマーは、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、ポリマー又はオリゴマーの合成に用いる各モノマー単位が芳香族環を有し、芳香族環同士を結合させたポリマー又はオリゴマーを製造する場合には、ヤマモト(T. Yamamoto)らのBull. Chem. Soc. Jap., Vol.51, No.7, p.2091 (1978)及びゼンバヤシ(M. Zembayashi)らのTet. Lett., Vol.47, p.4089 (1977)に記載されている方法を用いることができるが、スズキ(A. Suzuki)によりSynthetic Communications, Vol.11, No.7, p.513 (1981)において報告されている方法がポリマー又はオリゴマーの製造には一般的である。
【0054】
この反応は、芳香族ボロン酸(boronic acid)誘導体と芳香族ハロゲン化物の間でPd触媒化クロスカップリング反応(通常、「鈴木反応」と呼ばれる)を起こさしめるものであり、所望とする芳香族環同士を結合する反応に用いることにより、本発明のポリマー又はオリゴマーを製造することができる。
【0055】
また、この反応は、一般的にPd(II)塩又はPd(0)錯体の形態の可溶性Pd化合物を必要とする。芳香族環を有するモノマー単位を基準として0.01〜5mol%のPd(PhP)、3級ホスフィンリガンドとのPd(OAc)錯体及びPdCl(dppf)錯体が一般に好ましいPd源である。
【0056】
この反応は、一般的に塩基も必要とし、水性アルカリカーボネートもしくはバイカーボネートが最も好ましい。また、相間移動触媒を用いて、非極性溶媒中で反応を促進することもできる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、アニソール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0057】
ポリマー又はオリゴマーにイオン性置換基を導入するためには、例えば、ポリマー又はオリゴマーの合成に用いる各モノマーとして、イオン性置換基の塩を置換基として有するモノマーを用いればよい。塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。この場合、得られるポリマー又はオリゴマーは、置換基としてイオン性置換基の塩を有しており、その後、イオン交換樹脂を用いてこれらの塩のイオン交換を行うことにより、イオン性置換基を有するポリマー又はオリゴマーを得ることができる。
【0058】
本発明のポリマー又はオリゴマーは、汎用の極性溶媒であるアルコール、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒等、具体的には、ベンジルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド等に室温(例えば、0〜35℃)で溶解するため、劇物の有機溶媒を使用しなくてもよいという利点を有する。
【0059】
[インク組成物]
インク組成物は、上述のポリマー又はオリゴマーと、溶媒とを含有する。インク組成物は、さらに、重合開始剤や、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレンなどの有機溶媒が挙げられる。中でも有機溶媒が好ましく、極性有機溶媒がより好ましい。
【0060】
前記インク組成物において、溶媒に対するポリマー又はオリゴマーの含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1〜30質量%とすることが好ましい。
【0061】
重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に制限はないが、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、光照射によって重合を開始させるもの(「光開始剤」ともいう)であることがより好ましい。
【0062】
光開始剤としては、200nm〜800nmの光照射によって重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に制限されないが、例えば、重合可能な置換基がオキセタン基の場合には、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、フェロセン誘導体が反応性の観点から好ましく、以下の化合物が例示される。
【0063】
【化10】
なお、上記光開始剤においてRは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0064】
また、上記光開始剤は、感光性を向上させるために光増感剤と併用してもよい。光増感剤としては、例えば、アントラセン誘導体、チオキサントン誘導体が挙げられる。
【0065】
また、重合開始剤の配合割合は、ポリマー又はオリゴマーの質量に対して0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜8質量%の範囲であることがより好ましく、0.5〜5質量%の範囲であることがさらに好ましい。重合開始剤の配合割合が0.1質量%未満であると積層化が困難になる傾向があり、10質量%を越えると素子特性が低下する傾向がある。
【0066】
[重合層]
本発明のポリマー又はオリゴマーは、有機薄膜太陽電池、有機EL素子等において正孔輸送または正孔注入に寄与する重合層に好適である。
【0067】
重合層は、上述のポリマー又はオリゴマーを含む層である。重合層中では、ポリマー又はオリゴマーは重合しており、したがって、重合層は重合したポリマー又はオリゴマーを含むものである。具体的には、上述のポリマー又はオリゴマーを含む溶液を、塗布法により所望の基体上に塗布した後、加熱処理、光照射などにより、ポリマー又はオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(硬化)させた層である。溶液としては、上述のインク組成物を用いることが可能である。
【0068】
塗布法は、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で、溶液を所望の基体上に塗布する方法である。
【0069】
塗布法は、通常、−20〜300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができ、また上記溶液に用いる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、上述のインク組成物に用いられる溶媒を挙げることができる。
【0070】
また、塗布後、ホットプレートやオーブンによって加熱することで溶媒を除去してもよい。
【0071】
上記加熱処理は、ホットプレート上やオーブン内で行うことができ、0〜300℃の温度範囲、好ましくは20〜250℃、特に好ましくは80〜200℃で実施することができる。また、上記光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができる。
【0072】
ポリマー又はオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(塗布層を硬化)させることで、重合層の上にさらに光電変換層や発光層等の他の層を塗布形成する場合でも、その塗布液によって重合層が溶解することがないため、当該他の層を塗布法により形成することができる。つまり、塗布法によって多層構造を容易に作製することができ、高効率、長寿命の有機EL素子、有機光電変換素子等の有機エレクトロニクス素子を、低コストで製造することができる。また、重合反応によって熱的安定性を改善することもできる。
【0073】
[有機光電変換素子]
有機光電変換素子には、有機太陽電池や有機光センサーが含まれ、通常、光電変換層、電極、基板を備えている。さらに、変換効率または空気中の安定性を向上させる目的で、バッファ層、電子輸送層などの他の層を1種以上有していてもよい。本発明の有機光電変換素子は、少なくとも上述の重合層を有しており、重合層を光電変換層やバッファ層として使用することができ、バッファ層として使用することが好ましい。以下に有機光電変換素子の構成例について記載する。
【0074】
[光電変換層]
光電変換層は、光を吸収して電荷分離を起こし、起電力を発生するものであれば任意の材料を用いることができる。特に、変換効率の観点から、p型有機半導体と、n型有機半導体とをブレンドした混合物が好ましい。
【0075】
p型有機半導体としては、例えば、オリゴチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のオリゴマーまたはポリマー;ポルフィリン、フタロシアニン、銅フタロシアニン;これらの誘導体が好適に使用できる。
【0076】
n型有機半導体としては、例えば、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)(CN−PPV)、MEH−CN−PPV、それらの−CF置換ポリマー等の−CN基または−CF基含有オリゴマーまたはポリマー;ポリ(フルオレン)誘導体、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体等のオリゴマーまたはポリマー;フラーレン(C60)、[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester(PCBM)、[6,6]-phenyl-C71-butyric acid methyl ester(PCBM)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、キナクドリン等;これらの誘導体が好適に使用できる。
【0077】
光電変換層の形成方法としては、特に限定されず、蒸着法により形成しても、塗布法により形成してもよい。塗布法により形成する場合、有機光電変換素子を安価に製造することができ、より好ましい。塗布法により形成する方法としては、重合層の形成方法で述べた方法を用いることができる。
【0078】
[その他の層]
また、光電変換層以外にバッファ層を有し、さらに電子輸送層などの層を有していてもよい。バッファ層としては、上述の重合層を用いることができ、電子輸送層としては、LiF、TiOx、ZnOx等が一般的に用いられる。
【0079】
[電極]
電極は、導電性を有するものであれば任意の材料を用いることが可能である。電極としては、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、フッ化リチウム等の金属あるいはそれらの合金や塩;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(ITO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加したもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0080】
また、電極は少なくとも一対(2個)設けられるが、少なくとも一方は透明電極である。透明電極は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物;金属薄膜;PEDOT:PSS等の導電性高分子などが挙げられる。
【0081】
電極は、光電変換層内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものであり、正孔及び電子の捕集に適した電極材料を対にして用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極材料としては、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極としては、例えば、Alのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0082】
電極の形成方法は、特に制限はないが、例えば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等を用いることができる。
【0083】
[基板]
基板は、各層を支持できるものであれば任意の材料を用いることが可能である。基板としては、例えば、ガラス等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、塩化ビニル、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、ポリ乳酸等の有機材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料などが挙げられる。また、ガスバリア性の付与のために、酸化珪素や窒化珪素等の無機物を積層してもよい。
【0084】
特に、PET、PEN、PES、PI、PEI、COP、PPS等の有機材料からなるフィルムは、透明性、フレキシブル性を付与でき、好ましい。
【0085】
[封止]
本発明の有機光電変換素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPEN等のプラスチックフィルム、酸化珪素や窒化珪素等の無機物等を用いることができる。
【0086】
封止の方法としては、特に限定されないが、たとえば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等により有機光電変換素子上に直接形成する方法や、ガラスやプラスチックフィルムを接着剤により張り合わせる方法等が使用可能である。
【0087】
[有機光電変換素子の製造方法]
有機光電変換素子の製造方法の一例は、上述のポリマー又はオリゴマーを用い、塗布法により塗布層を形成し、さらに重合可能な置換基を反応させて溶解度を変化させてバッファ層として機能する重合層を形成する過程を含む。
【0088】
また、バッファ層を上記方法で形成した後、光電変換層を形成するが、低いコストで製造できる観点から、光電変換層も塗布法によって製造されることがより好ましい。
【0089】
[有機EL素子]
有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、基板を備えており、さらに、特性向上の観点から、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を1種以上有していてもよい。本発明の有機EL素子は、少なくとも上述の重合層を有しており、重合層を発光層や、正孔注入層又は正孔輸送層として使用することができ、正孔注入層又は正孔輸送層として使用することが好ましい。以下に有機EL素子の構成例について記載する。
【0090】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))、スチルベン、これらの誘導体が挙げられる。蛍光発光を利用するポリマー又はオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0091】
また、有機EL素子を燐光有機EL素子とすることもできる。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M. A. Baldo et al., Nature, vol.395, p.151(1998)、M. A. Baldo et al., Apllied Physics Letters,vol.75, p.4 (1999)、M. A. Baldo et al., Nature, vol. 403, p.750 (2000)参照)。
【0092】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジネート−N,C]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M. A. Baldo et al., Nature, vol.403, p.750 (2000)参照)又はAdachi et al., Appl. Phys. Lett., 78 No.11, 2001, 1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0093】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
【0094】
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0095】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーあってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0096】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2'-dimethylbiphenyl)などが、ポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0097】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、発光層に用いる材料を含む溶液を、重合層の形成方法で述べた方法で塗布することができる。
【0098】
[電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole)(PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。正孔輸送層、正孔注入層としては、上述の重合層を用いることができる。
【0099】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0100】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0101】
[基板、封止]
基板としては、有機光電変換素子に用いられる基板と同様の基板を用いることができる。また、有機EL素子が、有機光電変換素子と同様の封止材料により封止されていてもよい。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0103】
<重合可能な置換基を有するモノマーの合成>
(モノマー合成例1)
【化11】
【0104】
丸底フラスコに、p−ブロモベンジルアルコール(16.4g,0.088mol)、3−(6−ブロモヘキシルオキシメチル)−3−エチルオキセタン(22.2g,0.080mol)をn−ヘキサン320mLに溶解し、ここへテトラブチルアンモニウム−ブロミド(1.29g,4.0mmol)と45%水酸化ナトリウム水溶液80gを加えて9時間加熱還流を行った。反応終了後、水200mLを加えて有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:ワコーゲル(R)C−300HG、移動層:n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製し、無色油状の重合可能な置換基を有するモノマー1を得た(18.4g,収率60.2質量%)。NMRの結果を以下に示す。
1H NMR(300MHz, CDCl3, dppm) ; 0.88(t, 3H), 1.37(m, 4H), 1.59(m, 4H), 1.74(q, 2H)
【0105】
<イオン性置換基を有するモノマーの合成>
(モノマー合成例2)
【化12】
【0106】
丸底フラスコに、3,5−ジブロモフェノール(12.6g,0.05mol)をメタノール50mLに溶解した。その後、水酸化カリウム(3.1g,0.055mol)を加え、溶解したことを確認した後、さらに1,3−プロパンスルトン(6.7g,0.055mol)を加え2時間加熱還流した。反応終了後、白色の沈殿が得られた。沈殿物をろ過によりろ別し、24時間真空乾燥することでイオン性置換基の塩を有するモノマー2を得た(17.5g,収率85質量%)。
1H NMR(300MHz, DMSO−d6, dppm) ; 2.50(m, 4H), 4.43(m, 2H), 7.17(m, 2H), 7.34(m, 1H)
【0107】
[実施例1]
<ポリマー1の合成>
【化13】
【0108】
ジムロート冷却管及び3方コックを取り付けた3つ口フラスコに、4−n−ブチルトリフェニルアミン−4,4’−ジブロニックアシッドビス(ピナコール)エステル(2mmol)、4,4’−ジブロモ−4’−n−ブチルトリフェニルアミン(1.2mmol)、重合可能な置換基を有するモノマー1(0.8mmol)、イオン性置換基の塩を有するモノマー2(0.4mmol)、Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium(0)(0.0125mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(0.020mmol)、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(16mL)、ジメチルホルムアミド(18mL)を入れ、窒素雰囲気下、90℃、2時間加熱撹拌した。
【0109】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をシクロヘキサノンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、シクロヘキサノンに溶解し、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymer(Strem Chemicals社、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymerと不溶物をろ過して取り除き、溶液をメタノールに滴下し沈殿物を得た。前記の再沈殿を4回繰り返し行って精製した。その後、ポリマーをシクロヘキサノンに溶解したポリマー溶液に、あらかじめプロトン型に置換したイオン交換樹脂(オルガノ社、IR120R、ポリマー100mgに対して500mg)を加えイオン性置換基の塩のイオン交換を行った。その後、ポリマー溶液をメタノールに滴下し、重合可能な置換基を有しかつイオン性置換基を有するポリマー1を得た。得られたポリマー1の数平均分子量はポリスチレン換算で5475であった。
【0110】
ポリマー1(4.5mg)をシクロヘキサノン(900μl)に溶解した塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上180℃で10分間加熱して重合反応を行いポリマー層を形成した。加熱後にトルエン溶媒に、表面にポリマー層を形成した石英板を1分間浸漬し、洗浄を行なった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定したところ、98%であった。
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
【0111】
[実施例2]
<ポリマー2の合成>
ジムロート冷却管及び3方コックを取り付けた3つ口フラスコに、4−n−ブチルトリフェニルアミン−4,4’−ジブロニックアシッドビス(ピナコール)エステル(2mmol)、4,4’−ジブロモ−4’−n−ブチルトリフェニルアミン(0.8mmol)、重合可能な置換基を有するモノマー1(0.8mmol)、イオン性置換基の塩を有するモノマー2(0.8mmol)、Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium(0)(0.0125mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(0.020mmol)、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(16mL)、ジメチルホルムアミド(18mL)を入れ、窒素雰囲気下、90℃、2時間加熱撹拌した。
【0112】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をシクロヘキサノンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、シクロヘキサノンに溶解し、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymer(Strem Chemicals社、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymerと不溶物をろ過して取り除き、溶液をメタノールに滴下し沈殿物を得た。前記の再沈殿を4回繰り返し行って精製した。その後、ポリマーをシクロヘキサノンに溶解した溶液に、あらかじめプロトン型に置換したイオン交換樹脂(オルガノ社、IR120R、ポリマー100mgに対して500mg)を加えイオン性置換基の塩のイオン交換を行った。その後、ポリマー溶液をメタノールに滴下し、重合可能な置換基を有しかつイオン性置換基を有するポリマー2を得た。得られたポリマー2の数平均分子量はポリスチレン換算で5380であった。
【0113】
ポリマー2(4.5mg)をシクロヘキサノン(900μl)に溶解した塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上180℃で10分間加熱して重合反応を行いポリマー層を形成した。加熱後にトルエン溶媒に、表面にポリマー層を形成した石英板を1分間浸漬し、洗浄を行なった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定したところ、97%であった。
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
【0114】
[比較例1]
<ポリマー3の合成>
ジムロート冷却管及び3方コックを取り付けた3つ口フラスコに、4−n−ブチルトリフェニルアミン−4,4’−ジブロニックアシッドビス(ピナコール)エステル(2mmol)、4,4’−ジブロモ−4’−n−ブチルトリフェニルアミン(1.2mmol)、イオン性置換基の塩を有するモノマー2(0.8mmol)、Tris(dibenzylideneacetone)- dipalladium(0)(0.0125mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(0.020mmol)、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(16mL)、ジメチルホルムアミド(18mL)を入れ、窒素雰囲気下、90℃、2時間加熱撹拌した。
【0115】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をシクロヘキサノンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、シクロヘキサノンに溶解し、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymer(Strem Chemicals社、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、Triphenylphosphine, Polymer-bound on Styrene-divinylbenzene Copolymerと不溶物をろ過して取り除き、溶液をメタノールに滴下し沈殿物を得た。前記の再沈殿を4回繰り返し行って精製した。その後、ポリマーをシクロヘキサノンに溶解した溶液に、あらかじめプロトン型に置換したイオン交換樹脂(オルガノ社、IR120R、ポリマー100mgに対して500mg)を加えイオン性置換基の塩のイオン交換を行った。その後、ポリマー溶液をメタノールに滴下し、イオン性置換基を有するポリマー3を得た。得られたポリマー3の数平均分子量はポリスチレン換算で7400であった。
【0116】
ポリマー3(4.5mg)をシクロヘキサノン(900μl)に溶解した。この際、室温では溶解しなかったため、窒素雰囲気中、90℃で30分間加熱することで塗布溶液を調製した。この塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上180℃で10分間加熱した。加熱後にトルエン溶媒に、表面にポリマー層を形成した石英板を1分間浸漬し、洗浄を行なった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定したところ、62%であった。
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
【0117】
【表1】
【0118】
本発明のポリマー又はオリゴマーは、汎用の溶媒であるシクロヘキサノンを室温で使用して製膜することが可能であり、さらに、重合させることによりトルエンに溶解し難くなった。本発明のポリマー又はオリゴマーを用いることにより、汎用の有機溶媒を室温で使用し、有機薄膜の積層構造を作製することが可能となった。
【0119】
[実施例3]
<有機光電変換素子の作成>
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、上記で得たポリマー1(4.5mg)、シクロヘキサノン(1.2mL)を混合した塗布溶液を滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、バッファ層(40nm)を形成した。
【0120】
次に、各20mgのP3HTとPCBMを1mLのクロロベンゼンに溶解した混合溶液をスピンコートし、光電変換層を形成した。次に、光電変換層を形成したガラス基板を真空蒸着機中に移し、Al(膜厚100nm)を蒸着し、有機光電変換素子を作製した。なお、バッファ層と光電変換層は互いに溶解することなく積層することができた。
【0121】
得られた有機光電変換素子に、AM1.5G(100mW/cm)の擬似太陽光を照射し、電流−電圧特性(J−V特性)を測定し、エネルギー変換効率を求めた。エネルギー変換効率は0.5%であった。
【0122】
[実施例4]
ポリマー1をポリマー2に変更した以外は実施例3と同様にして、有機光電変換素子を作製した。得られた有機光電変換素子のエネルギー変換効率を実施例3と同様にして評価したところ0.6%であった。
【0123】
[比較例2]
ポリマー1をポリマー3に変更し、加熱して溶解を行った以外は実施例3と同様にして、有機光電変換素子を作製した。光電変換層の形成時に、バッファ層と光電変換層が混ざり合い積層構造が作製できなかった。得られた有機光電変換素子のエネルギー変換効率を実施例と同様にして評価したところ0.05%であった。
【0124】
本発明のポリマー又はオリゴマーを用いて形成されたバッファ層を有する有機光電変換素子は、高効率の素子であり、また、塗布法によって簡便に製造できた。
【0125】
[実施例5]
<有機EL素子の作成>
上記で得たポリマー1をシクロヘキサノン(ポリマー4.5mg/465μL)に溶解し、インク組成物を作製した。ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、インク組成物を3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で210℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(50nm)を形成した。次いで、正孔注入層上に、下記構造式で表されるポリマーA(75質量部)、ポリマーB(20質量部)、ポリマーC(5質量部)からなる混合物のトルエン溶液(1.0質量%)を3000rpmでスピンコートし、ホットプレート上で80℃、5分間加熱し、ポリマー発光層(膜厚80nm)を形成した。なお、正孔注入層と発光層は互いに溶解することなく積層することができた。
【0126】
さらに、ポリマー発光層を形成したガラス基板を真空蒸着機中に移し、上記発光層上にBa(膜厚3nm)、Al(膜厚100nm)の順に電極を形成した。
【0127】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。以後の評価は大気中、室温(25℃)で行った。
【0128】
この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、約5Vで均一な緑色発光が観測された。
【化14】
【0129】
[比較例3]
ポリマー1をポリマー3に変更し、加熱して溶解を行った以外は実施例5と同様にして、有機EL素子を作製した。発光層の形成時に、正孔注入層と発光層が混ざり合い積層構造が作製できなかった。この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、均質な発光が得られなかった。
【0130】
本発明のポリマー又はオリゴマーを用いて形成された正孔注入層を有する有機EL素子は、高効率の素子であり、また、塗布法によって簡便に製造できた。
【符号の説明】
【0131】
1 光電変換層
2 電極
3 電極
4 バッファ層
5 基板
図1