(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による廃水処理装置及び処理方法について説明する。
【0019】
本発明の廃水処理装置は、重金属および錯体形成化合物を含む廃水W
0を処理する装置であるが、特に無電解ニッケルメッキなどの無電解メッキ工程から排出される廃水を処理するのに好適である。
【0020】
図1は、本発明の廃水処理装置の一例を示す概略構成図である。この例の廃水処理装置1は、上流側から順に、廃水W
0を下流側に向けて流すポンプP1と、ポンプP1から流れてきた廃水W
0を一旦貯留する貯留手段10と、酸化処理手段20と、不溶化処理手段30と、膜分離手段40と、pH調整手段50とを備えている。
【0021】
本発明の処理対象となる廃水W
0は、例えばメッキ工場等の金属表面処理工場などから発生した廃液(被処理水)であり、重金属、および重金属と配位結合して金属錯体を形成する化合物(以下、「錯体形成化合物」という。)を含む。重金属としては、クロム、銅、亜鉛、カドミウム、ニッケル、水銀、鉛、鉄などが挙げられる。これら重金属は単独で含まれていてもよいが、通常は複数の重金属が混合された状態で含まれている。一方、錯体形成化合物は、重金属のいずれかと配位結合して、重金属原子を中心とする金属錯体を形成する化合物である。錯体形成化合物の例としては、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、シアンおよびこれらの塩等の酸性洗浄成分;EDTA、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、アンモニア(アンモニウム塩を含む)等のアミン類などが挙げられる。なお、金属錯体にはキレート錯体も含まれることから、錯体形成化合物には、酒石酸やEDTAなどのキレート剤も当然に該当する。
なお廃水W
0中には、重金属および錯体形成化合物の他に、洗浄成分や、pH調整成分として界面活性剤、錯体形成化合物以外のルイス酸などが含まれていてもよい。
【0022】
ポンプP1は、金属表面処理工場などから発生した廃水W
0を下流側に向けて流すようになっている。ポンプP1は、廃水処理装置内で廃水W
0を流すための動力を発生させる。
【0023】
貯留手段10は、ポンプP1の下流側に設けられており、ポンプP1から流れてきた廃水W
0を一旦貯留する手段である。貯留手段10は貯留槽11を備える。貯留槽11としては、廃水W
0を貯留できるものであれば特に制限されない。
【0024】
酸化処理手段20は、廃水W
0中の錯体形成化合物の酸化処理するようになっている。この例の酸化処理手段20は、貯留手段10から送られた廃水W
0溜める酸化槽21と、酸化槽21中の廃水W
0に酸化剤と添加する酸化剤添加手段22と、酸化槽21中の廃水W
0の水質を検査する水質計23と、酸化槽21中の廃水W
0を攪拌する攪拌翼24とを備えている。
【0025】
酸化槽21としては、廃水W
0を貯留できるものであれば特に制限されないが、酸化剤によって劣化しにくい材質のものが好ましい。酸化剤添加手段22としては、酸化剤を添加できるものであれば特に制限されない。
【0026】
水質計23は、酸化槽21中廃水W
0の水質を検査するものである。水質を検査することで、酸化剤の添加量の過不足を把握でき、特に、酸化剤の過剰添加を抑制するのに有効である。水質計23としては、酸化還元電位計、酸化剤濃度計などが挙げられる。また、これらの電位計や濃度計に代えて、あるいはこれらと併用して、錯体形成化合物の濃度を測定するための濃度計を用いることも可能である。ただし、錯体形成化合物の濃度を測定するための濃度計は、アンモニアなど濃度測定が可能な錯体形成化合物を含む廃水W
0を処理する場合に用いる。
なお、この例の酸化処理手段20は1つの水質計23を備えているが、水質の検査方法に応じて複数種類の水質計を備えていてもよい。
【0027】
不溶化処理手段30は、酸化処理手段20にて酸化処理した廃水W
0中の重金属を不溶化処理するようになっている。なお、不溶化とは、廃水W
0中に浮遊している重金属を難溶解性化合物(不溶化物)とすることによって析出させることである。この不溶化処理手段30は、酸化処理手段20から送られた廃水W
0を溜める不溶化槽31と、不溶化槽31中の廃水W
0に不溶化剤を添加する不溶化剤添加手段32と、不溶化槽31中の廃水W
0の水質を検査する水質計33と、不溶化31中の廃水W
0を攪拌する攪拌翼34とを備えている。
【0028】
不溶化槽31としては、廃水W
0を貯留できるものであれば特に制限されないが、不溶化剤によって劣化しにくい材質のものが好ましい。不溶化剤添加手段32としては、不溶化剤を添加できるものであれば特に制限されない。
【0029】
水質計33は不溶化槽31中のW
0の水質を検査するものである。水質を検査することで、不溶化剤の添加量の過不足を把握でき、特に、不溶化剤の過剰添加を抑制するのに有効である。水質計33としては、pH計などが挙げられる。なお、この例の不溶化処理手段30は1つの水質計33を備えているが、水質の検査方法に応じて複数種類の水質計を備えていてもよい。
【0030】
膜分離手段40は、不溶化処理手段30にて不溶化処理した廃水W
0を濾過水W
1と膜分離濃縮水W
2に膜分離する手段である。膜分離手段40は、不溶化処理手段30から送られた廃水W
0を溜める膜分離槽42と、膜分離槽42内に設けられた膜モジュール43と、膜洗浄用の散気手段44と、膜分離槽42内の汚泥を排出するための排出手段45と、膜分離槽42と排出手段45との間に設けられた排出弁46とを備える。膜モジュール43にはポンプP2が接続され、散気手段44にはブロワーBが接続されている。
【0031】
膜モジュール43としては、水処理等の分離操作に用いられる中空糸膜モジュール等が挙げられる。中空糸膜モジュールの中空糸の材質としては、セルロース、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、セラミックスなどが挙げられる。
【0032】
膜モジュール43では、ポンプP2により膜分離槽42内の廃水W
0を膜モジュール43の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで廃水W
0を濾過水W
1と膜分離濃縮水W
2とに分離する。そして濾過水W
1は、pH調整手段50に流される。また、散気手段44は膜モジュール43の下方に設けられ、ブロワーBより送気された空気を膜分離槽42内に放出する。これにより、散気手段44から連続的もしくは断続的に散気された気泡が、廃水W
0の液中を通って膜モジュール43に達し、その後、水面から放出される。このとき、濾過膜が洗浄される。
【0033】
pH調整手段50は、膜分離手段40にて膜分離した濾過水W
1のpHを、河川等への放流に適したpHに調整する手段であり、pHを調整された濾過水W
1は処理水W
4として排出される。なお、膜分離手段40によって不溶化物を十分に除去しているので、濾過水W
1のpHを中和しても重金属が再溶解するおそれがない。
【0034】
pH調整手段50は、pH調整槽51と、pH計(図示略)と、酸添加装置およびアルカリ添加装置(いずれも図示略)とを備える。pH調整槽51としては、濾過水W
1を貯留できるものであれば特に制限されない。また、pH計、酸添加装置およびアルカリ添加装置についても、pH調整に用いられるものであれば特に制限されない。
【0035】
以下、上述した廃水処理装置1の作用について説明する。
廃水処理装置1を駆動させてポンプP1を駆動させることによって廃水W
0が上流側から貯留手段10の貯留槽11内に流れ込む。そして貯留槽11が廃水W
0で満たされると、廃水W
0は貯留槽11から溢れでて、貯留槽11よりも下流側にある酸化処理手段20の酸化槽21に流れ込む。酸化槽21内では、攪拌翼24を駆動させながら廃水W
0に酸化剤が添加され、これにより廃水W
0中の錯体形成化合物が酸化処理される。
【0036】
酸化処理で用いる酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、過酸化水素などが挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、またはこれらの混合溶液が好ましく、取り扱い性、入手容易性の観点から次亜塩素酸ナトリウム溶液が特に好ましい。次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、またはこれらの混含溶液を酸化剤として用いれば、酸化反応が速やかに進行しやすくなり、全体の処理速度を速めることができる。また、これらは、EDTA、酒石酸などのキレート作用を有する錯体形成化合物の分解効率が高いことから、後述する不溶化処理工程において錯体形成化合物による不溶化物の凝集阻害を防ぐことができ、不溶化処理をより効率的に行うことができる。また、特に次亜塩素酸ナトリウムまたはその溶液を酸化剤として用いると、後段の不溶化処理工程において生成する重金属の不溶化物の粒子径が大きくなる傾向にある。不溶化物の粒子径が大きい方が、後述する膜分離工程において濾過膜の細孔が閉塞されるのを抑制でき、膜の流束を高く維持できる。さらに、廃水W
0が無電解ニッケルメッキ廃水など、重金属としてニッケルを含む廃水の場合、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の添加によって、溶解しているニッケルイオンがオキシ水酸化ニッケル(NiO(OH))に酸化される。オキシ水酸化ニッケルは、一般的に水酸化ニッケル(Ni(OH)2)と比較して溶解度が低くなるため、高度な廃水処理を行う場合には、次亜塩素酸ナトリウムまたはその溶液が酸化剤として特に好ましい。
【0037】
なお、廃水W
0への酸化剤の添加は、廃水W
0中に含まれる錯体形成化合物を酸化処理することが目的であり、過剰に酸化剤を添加することは、薬品の過剰消費となる。また、酸化剤を過剰に添加すると、残存した酸化剤により、後述する膜分離工程で用いる濾過膜を酸化させるおそれがある。加えて、酸化剤を過剰に添加すると、最終的に発生するスラッジ量が増加する傾向にある。
【0038】
以上のことにより、酸化処理工程では廃水W
0中に含まれる錯体形成化合物を全て酸化した時点で、廃水W
0中への酸化剤の添加を停止することが望ましく、過剰添加を制御するのがよい。酸化剤の添加終了点を検知する方法としては、水質計23を用いた酸化還元電位のモニタリング、酸化剤濃度のモニタリング、錯体形成化合物の濃度のモニタリング、といった方法が挙げられる。
【0039】
酸化槽21内で酸化処理を行っている間もポンプP1は駆動しているので、この間もポンプP1から貯留槽11へ、そして貯留槽11から酸化槽21へ継続的に廃水W
0が注ぎこまれる。そして酸化槽21が廃水W
0で満たされると、廃水W
0は、酸化槽21から溢れでて、酸化槽21よりも下流側にある不溶化処理手段30の不溶化槽31に流れ込む。
【0040】
不溶化槽31内では、攪拌翼34を駆動させながら廃水W
0に不溶化剤が添加され、これにより廃水W
0中の重金属が不溶化処理される。そして不溶化槽31が廃水W
0で満たされると、廃水W
0は不溶化槽31からあふれ出て膜分離手段40の膜分離槽42に流れ込む。
【0041】
不溶化処理手段30では、酸化処理された廃水W
0を不溶化処理手段30の不溶化槽31に移し、不溶化剤を添加して廃水W
0中の重金属を不溶化処理する。不溶化処理の方法としては、水酸化剤を用いた水酸化物法と、硫化剤を用いた硫化物法がある。なお、硫化物法の場合は硫化水素発生のおそれがあるため、不溶化処理としては水酸化物法が好ましい。
【0042】
水酸化物法は、水酸化剤(水酸化物イオン)と対象金属とを反応させ、溶解度の低い金属水酸化物として析出させる方法である。水酸化剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが用いられる。水酸化ナトリウムを用いるとスラッジ発生量が少なくなるためより好ましい。
【0043】
一方、硫化物法は、硫化剤(硫化物イオン)と対象金属を反応させ、溶解度の低い金属硫化物として析出させる方法である。硫化剤としては、硫化ナトリウム、硫化水素などが用いられる。
【0044】
なお、水酸化物法によって不溶化処理を行う場合、重金属は各金属種によって溶解度が最も低くなるpH領域が異なる。そのため、重金属の除去率を高めるために、溶解度が最も低くなるpHになるまで、不溶化剤(水酸化剤)を添加する。その際、不溶化剤の添加量の制御は、水質計33による不溶化槽31中の廃水W
0のpH測定によって行われる。
ただし、廃水処理装置に供給される廃水W
0中の重金属の組成および濃度が、常時一定であることが判明している場合には、不溶化剤を一定量注入することによって制御することもできる。
【0045】
また、同じ重金属であっても、共存する他の成分によって、溶解度が最も低くなるpH領域が異なることがある。よって、実際には処理対象の廃水W
0を用いた事前試験を行い、最も適したpH領域となるように制御することが望ましい。
【0046】
膜分離手段40内では、膜分離槽42内の廃水W
0を廃水吸引ポンプP2により膜モジュール43の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで、廃水W
0を濾過水W
1と、不溶化物の汚泥を含む膜分離濃縮水W
2とに分離する。そして濾過水W
1は、pH調整手段50に流れる。また、膜分離濃縮水W
2は、予め決定された期間毎に排出手段45を通じて膜分離槽42から排出されて脱水手段(図示略)に送られる。そして脱水手段により脱水された後、脱水ケーキ等の産業廃棄物として処理される。また、必要に応じてブロワーBを駆動することによって、膜モジュール43の下方から膜モジュール43に向けて空気を流し、膜モジュール43を洗浄する、所謂曝気を行う。
【0047】
pH調整手段50に流れた濾過水W
1は、pH調整手段50内で水素イオン濃度が調整された後、処理水W
3として排出される。pH調整工程では、濾過水W
1をpH調整手段50のpH調整槽51に移し、濾過水W
1のpHを河川等への放流に適したpHに調整する。特に不溶化処理工程において水酸化物法を用いた場合、通常、濾過水W
1はアルカリ性となっているため中和するのがよい。pHを調整された濾過水W
1は処理水W
3として排出される。
pH調整工程では、中和用のpH調整剤として、塩酸、硫酸、炭酸ガス等の酸などが用いられる。pH調整工程において酸を過剰に添加した場合には、pH調整剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリを添加して、中性領域になるようにpHを再調整する。なお、膜分離工程によって不溶化物を十分に除去しているので、濾過水W
1のpHを中和しても重金属が再溶解するおそれがない。
【0048】
次に、膜分離槽42内の不溶化物の汚泥を含む膜分離濃縮水W
2を排出する方法について詳述する。
【0049】
膜分離槽42内の膜分離濃縮水W
2を排出するためには、ポンプP2及びブロワーBを停止させて、廃水処理装置1による廃水処理を停止させる。その後、通常閉じられている排出弁46を開弁する。また、膜分離濃縮水W
2を排出し終えた後は、排出弁46を閉弁した後、ポンプP2及びブロワーBを駆動させることで膜分離処理を再開する。
【0050】
図2は、廃水処理装置が、膜分離槽内の膜分離濃縮水を排出するときの膜分離槽内のSS濃度の変化の一例を示すグラフである。
膜分離濃縮水W
2を排出する場合、廃水処理装置1は、膜分離濃縮水W
2を排出した後の膜分離槽42内のSS濃度が、予め設定された平均SS濃度に対して所定の割合α以上となるように、膜分離濃縮水W
2の排出量を調整する。そして発明者等の実験によれば、この割合αは、60%であることが好ましい。即ち、例えば、平均SS濃度を10000mg/lに設定した場合、廃水処理装置1は、膜分離濃縮水W
2を排出した後の膜分離槽42内のSS濃度が、6000mg/l以上となるように、膜分離濃縮水W
2の排出量を調整する。
尚、平均SS濃度は、式:膜分離槽42に流入した廃水W
1のSS濃度/(1−膜分離濃縮水W
2の回収率)によって算出され、膜分離濃縮水W
2の回収率は、式:(膜モジュール43による処理量−は膜分離濃縮水W
2の排出量)/(膜モジュール43による処理量)によって算出される値である。
【0051】
また、膜分離濃縮水W
2を排出する場合、廃水処理装置1は、膜分離槽42内のSS濃度が所定の値になったときに膜分離濃縮水W
2の排出を開始する。膜分離槽42内のSS濃度は時間に比例して増加すること、及び膜分離槽42内の平均SS濃度を保つことを考慮すると、所定の値は、平均SS濃度の140%であることが好ましい。この値は、上述した割合αとの関係で、式:(1−α)+1によって算出される値であり、上述したように平均SS濃度を10000mg/lに設定した場合、廃水処理装置1は、膜分離槽42内のSS濃度が、14000mg/lに到達したときに膜分離濃縮水W
2の排出を開始する。
【0052】
膜分離槽42内の膜分離濃縮水W
2の排出を開始するタイミングを決定するためには、膜分離槽42内のSS濃度を常時モニタリングしてSS濃度が予め決定された値(上述の例では14000mg/lに到達したときに排出を開始するようにする。また、膜分離槽42内のSS濃度は、廃水処理装置1の廃水処理量が一定であれば時間に比例して増加するため、膜分離槽42内のSS濃度が予め決定された値に到達する時間を予測して、これに基づいて定期的に膜分離濃縮水W
2を排出するようにしてもよい。
【0053】
また、膜分離濃縮水W
2を排出する量は、式:(廃水開始時のSS濃度−廃水終了時の目標SS濃度)/廃水開始時のSS濃度に基づいて算出される。そして上述の例では、この式に基づいて算出される排出量は57.1%となるので、廃水処理装置1は、膜分離槽42内の57.1%の膜分離濃縮水W
2を排出する。膜分離濃縮水W
2の排出量の調整は、排出手段45の単位時間当たりの排水量を予め算出し、この排出量に基づいて排水時間(排水弁46の開弁時間)を調整するか、膜分離槽42内の水位の変化のモニタリングすることで行われる。
【0054】
そしてこのように、膜分離濃縮水W
2を排出した後にも膜分離槽42内のSS濃度を、予め設定した平均SS濃度に対して所定の割合α以上、好ましくは60%以上に保つことによって、膜分離槽42内のSS濃度が低下しすぎて不溶化物の汚泥が微粒子化し、微粒子化した不溶化物が膜モジュール43に詰まるのを抑制することができる。
【0055】
図3は、廃水処理装置が、膜分離槽内の膜分離濃縮水を排出するときの膜分離槽内のSS濃度の変化の別の例を示すグラフである。
この例では、平均SS濃度が10000mg/lに設定され、割合αが95%に設定されている。この例では、膜分離槽42内のSS濃度が、9500〜10500mg/lの範囲内で変動している。割合αを大きくすると、膜分離濃縮水W
2を排出した直後のSS濃度と、膜分離濃縮水W
2を排出する基準となるSS濃度の差が小さくなり、膜分離濃縮水W
2を排出する頻度が高くなり、廃水処理装置1の稼動時間が短くなってしまう。従って、割合αは、95%以下に設定することが好ましい。このとき膜分離槽内の平均SS濃度は8000mg/l〜50000mg/lであることが好ましい。平均SS濃度が8000mg/l以下であると、槽内のSS濃度が低くなりすぎてしまい不溶化物のフロック形成が不安定になるおそれがあり、且つ引抜された汚泥濃度が低くなるため、後段の汚泥脱水工程での脱水効率が低下してしまう。一方で、平均SS濃度が50000mg/l以上であると、槽内のSS濃度が高くなりすぎて膜表面に多量の不溶化物が堆積してしまい、濾過が不安定になるおそれがある。
【0056】
そしてこのように、平均SS濃度に対する汚泥の排出後のSS濃度の割合αが、0.6〜0.95の範囲内になるよう膜分離槽42内のSS濃度を調整しながら膜分離濃縮水W
2を排出することによって、膜分離槽42内のSS濃度が低下しすぎて不溶化物の汚泥が微粒子化し、微粒子化した不溶化物が膜モジュール43に詰まるのを抑制することができる。また、平均SS濃度に対する汚泥の排出後のSS濃度の割合αが0.95以下となるようにSS濃度を調整することにより、膜分離槽42内のSS濃度が上昇して汚泥排出開始の閾値を超える頻度を少なくし、膜分離濃縮水W
2を排出する頻度を下げることができる。
【0057】
以下、本発明の実施例について詳述する。
以下の実施例1乃至
3並びに比較例1
及び2では、Niを10mg/l含む廃水に、不溶化剤として0.1mol/lに調整した水酸化ナトリウム水溶液を添加して、廃水のpHを10に調整した。そしてポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜(三菱レイヨン株式会社製「ステラポアーSADF」(公称孔径0.4μm、膜面積10m
2)を十枚準備した。そしてこの中空糸膜を用いて、濾過フラックス0.36m
3/m
2/dayで上述の廃水を膜分離処理した。また、実施例1乃至4及び比較例1で用いた膜分離槽の有効容積は、1.2m
3であり、膜モジュールによる濾過推量は、1.5m
3/hrであった。さらに、膜分離槽に流入させた廃水のSS濃度(不溶化物濃度)は、300mg/lであった。不溶化物としてはNiに由来するニッケル水酸化物の他に、鉄やカルシウムなど無機成分の混入があったため、不溶化物濃度としては300mg/lになっていたと考えられる。膜モジュールによる不溶化物の回収率は98%(濃縮率:50倍)であり、排出工程の開始時の膜分離槽内のSS濃度は15000mg/lであった。以上の条件のもと、膜モジュールの差圧上昇率を測定したところ、以下の表1に示すような結果が得られた。
【0059】
表1に示されているように、平均SS濃度に対する汚泥排出後のSS濃度の割合αを0.6以上とすることによって、不溶化物の汚泥が微粒子化するのを防止することができ、膜モジュールの差圧上昇率を低くすることができる。