特許第5939573号(P5939573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939573ドナー―π―アクセプター型化合物及び色素増感太陽電池用色素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939573
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ドナー―π―アクセプター型化合物及び色素増感太陽電池用色素
(51)【国際特許分類】
   C07D 409/14 20060101AFI20160609BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20160609BHJP
   H01G 9/20 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   C07D409/14CSP
   C09B57/00 Z
   !H01G9/20 113A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-156964(P2012-156964)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-22079(P2014-22079A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】大山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大下 浄治
(72)【発明者】
【氏名】播磨 裕
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−004206(JP,A)
【文献】 特開2012−043640(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/073541(WO,A1)
【文献】 特開2012−054227(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102372693(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 14/00
H01G 9/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式31で表される、
【化1】

(式31中、Dはアルキル基、nは0〜3の整数を表す。)
ことを特徴とするドナー―π―アクセプター型化合物。
【請求項2】
下記化合物3で表される、
【化2】

ことを特徴とする請求項1に記載のドナー―π―アクセプター型化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドナー―π―アクセプター型化合物を含有する、
ことを特徴とする色素増感太陽電池用色素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナー―π―アクセプター型化合物及び色素増感太陽電池用色素に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電には、これまでシリコンを利用した結晶シリコン太陽電池が使用されている。しかし、シリコンは価格が高く、生産量を確保しにくい。このため、シリコンを使用せず、結晶シリコン太陽電池を製造する際に使用される大型な製造装置を必要とせず、低コストで製造でき、フレキシブルで多彩な色素増感太陽電池が注目されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、一般的に、図6に示すように、ガラス基板11の一面に透明導電膜12が積層され、透明導電膜12の他面に色素が吸着された酸化チタン等の半導体微粒子である金属酸化物層13が形成されている第1電極1と、白金等の金属からなる第2電極2とが、電解質溶液層3を介して対向するように配置されて構成されている。
【0004】
色素増感太陽電池に光照射をすると、まず第1電極1の金属酸化物に化学吸着している色素が光励起し、色素から金属酸化物への電子注入が起こり、色素が酸化される。電子を失った色素は、やがて電解質溶液層13中のヨウ素等から電子を奪って還元され、ヨウ素等は第2電極2から電子を受け取り元に戻る。このようにして色素増感太陽電池は作動する。
【0005】
従って、有機色素は金属酸化物へ容易に且つ強固に吸着しており、電子金属酸化物へより多くの電子を注入できることが好ましい。電子供与基であるドナーと電子吸引基であるアクセプターがπ共役構造を有するπ共役構造部を介して結合しており、可視領域に強い吸収帯を有するドナー―π―アクセプター型色素(以下、「D―π―A型色素」という。)は、色素増感太陽電池用色素として注目されている。そして、π共役構造が分岐しておらず光電変換効率が良好なD―π―A型色素がある(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yousuke Ooyama, Shogo Inoue, Tomoya Nagano, Kohei Kushimoto, Joji Ohshita, Ichiro Imae, Kenji Komaguchi, and Yutaka Harima; "Dye-Sensitized Solar Cells Based On Donor-Acceptor π-Conjugated Fluorescent Dyes with a Pyridine Ring as an Electron-Withdrawing Anchoring Group"; Angewandte Chemie International Edition, 2011, 50, 7429-7433
【非特許文献2】Yousuke Ooyama, Tomoya Nagano, Shogo Inoue, Ichiro Imae, Kenji Komaguchi, Joji Ohshita, and Yutaka Harima; "Dye-Sensitized Solar Cells Based on Donar-π-Acceptor Fluorescent Dyes with a Pyridine Ring as an Electron-Withdrawing-Infecting Anchoring Group", Chemistry A European Journal 2011, 17, 14837-14843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2のD―π―A型色素は、良好な光電変換効率を示すが、更なる光電変換効率の向上を図るべく、金属酸化物への色素吸着量を向上させる余地がある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、金属酸化物への吸着量を向上し得るドナー―π―アクセプター型化合物及び色素増感太陽電池用色素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の観点に係るドナー−π−アクセプター型化合物は、
式31で表される、
【化1】

(式31中、Dはアルキル基、nは0〜3の整数を表す。)
ことを特徴とする。
【0010】
また、下記化合物3で表されることが好ましい。
【化2】
【0015】
本発明の第二の観点に係る色素増感太陽電池用色素は、
本発明の第一の観点に係るドナー―π―アクセプター型化合物を含有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るドナー−π−アクセプター型化合物は、金属酸化物に吸着可能なピリジン含有基及びピリジニウム環含有基からなる群から選択される1種であるアクセプターを二つ備えている。このため、金属酸化物への色素吸着量を向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】D−π−A化合物の構造を示す図である。
図2】D−π−A化合物の金属酸化物への吸着の状態、及び、金属酸化物への電子の流れを示す模式図である。
図3図3(A)は化合物1の吸収及び蛍光スペクトルを示すグラフ、図3(B)は化合物3の吸収及び蛍光スペクトルを示すグラフである。
図4】固体状態の化合物3及び酸化チタンに吸着した化合物3のIRスペクトルを示すグラフである。
図5図5(A)は化合物NI3の固体状態及び酸化チタンに吸着した状態のIRスペクトルを示すグラフ、図5(B)は化合物NI4の固体状態及び酸化チタンに吸着した状態のIRスペクトルを示すグラフである。
図6】色素増感太陽電池の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ドナー−π−アクセプター型化合物)
本実施の形態に係るドナー−π−アクセプター型化合物(以下、D−π−A型化合物ともいう)は、金属酸化物への吸着能を有するアクセプターを一分子中に二つ有している。そして、図1に示すように、ドナー及びπを共有し、π共役構造が分岐していないドナー−π−アクセプター構造を二つ備えている。
【0019】
アクセプターは、電子受容能を有する基であるとともに、金属酸化物への電子注入性及び金属酸化物への吸着能を兼ね備える基である。アクセプターはピリジン含有基及びピリジニウム環含有基からなる群から選択される1種であり、金属酸化物に吸着する機能の高いピリジン含有基が好ましい。ピリジン含有基、ピリジン含有基の窒素が金属酸化物と配位結合する。D−π−A型化合物は、吸着能を備えるアクセプターを二つ有しているため、金属酸化物への吸着量を向上し得る。
【0020】
上述のピリジン含有基としては、例えば、式11〜15で表されるピリジン含有基が挙げられる。なお、式11、12中、R〜Rは水素又は炭素数1〜12の分岐していてもよいアルキル基であり、同一であってよいし、異なっていてもよい。
【化3】
【0021】
πは、エテニル基、ベンゼン環や窒素、酸素、硫黄等を含む複素環の縮合環化合物であって、π共役構造が分岐していない2価のπ共役構造部である。π共役構造の幅が広いと、ドナーからアクセプター方向に電子が移動する際にπ共役構造が分岐してしまい、一部分のπ共役構造しか電子の移動に寄与しなくなり光電変換効率が低いと推測される。このため、ドナーからアクセプターへの電子移動に関与するπ共役構造が分岐していないことが好ましく、ベンゼン環や窒素、酸素、硫黄等を含む複素環が略直線状に縮合環化したものであることが好ましい。
【0022】
πは、π共役構造を有する基であれば特に限定されないが、カルバゾールイル基が好ましい。カルバゾールイル基はピロール環の両側に対称にベンゼン環が縮合された構造である。カルバゾールイル基の場合、D−π−A型化合物は、両ベンゼン環の末端にそれぞれアクセプターが結合する。
【0023】
ドナーは、電子供与基であれば、特に限定されないが、電子を押し出すドナー特性の高いアミノ基を有する基が好ましい。例えば、式21〜式23で表される基が挙げられる。
【化4】
【0024】
上記式中、R、R、R、R10、R11及びR12は水素、炭素数1〜12の分岐していてもよいアルキル基又は炭素数1〜12の分岐していてもよいアルコキシ基であり、同一であってよいし、異なっていてもよい。また、R、R、R及びR10がアルキル基又はアルコキシ基の場合はそれぞれ3個以下であり、アルキル基及びアルコキシ基は同一であってよいし、異なっていてもよい。
【0025】
また、πがカルバゾールイル基のようにピロール環にアミノ基を有している場合では、このアミノ基がドナーとして機能する。このような場合では、別途、上記のドナーを備えていなくてもよい。
【0026】
また、πとそれぞれのアクセプターとの間に、π共役構造が分岐していない2価の有機基が結合されてもよい。2価の有機基は、1〜3個直鎖状に連結していることが好ましい。2価の有機基が2個又は3個結合している場合は同一の有機基が連結していてもよいし、異なる有機基が連結していてもよい。
【0027】
2価の有機基が結合していると、D−π−A型化合物を金属酸化物に吸着させる際、立体障害が緩和され、双方のピリジニウム環含有基等のアクセプターの窒素が、同一方向を向きやすくなる。これにより、双方のアクセプターの窒素が平面状の金属酸化物の方を向くようになり、配位結合によって吸着しやすくなる。
【0028】
また、2価の有機基が結合しているとより長波長側の光を吸収して励起されやすく、色素増感太陽電池の素材として用いる際に好適である。
【0029】
2価の有機基はπ共役構造が分岐しておらず略直線状なので、πと結合されると、πのπ共役構造と2価の有機基のπ共役構造は略直線状になり、π共役構造が分岐しないので光電変換効率がより優れる。
【0030】
2価の有機基としては、π共役構造が略直線状の2価の有機基であれば特に限定されないが、チエニレン基、フリレン基、ピリジレン基、フェニレン基、カルバゾールイル基、エチレン基及びエチニレン基からなる群から選ばれた有機基を含有する有機基が好ましい。
【0031】
上記チエニレン基、フリレン基、ピリジレン基、フェニレン基、カルバゾールイル基、エチレン基及びエチニレン基からなる群から選ばれた有機基を含有する有機基とは、チエニレン基、フリレン基、ピリジレン基、フェニレン基、カルバゾールイル基、エチレン基、エチニレン基及びこれらの有機基が縮環された基であり、チエニレン基が好ましい。
【0032】
D―π―A型化合物の好ましい化合物の具体例として、式31で表される化合物があげられる。
【化5】
【0033】
式31中、Dは、下式41〜43で表される基のほか、水素、アルキル基、ヘキシル基、ベンジル基などである。また、nは0〜3の整数である。
【化6】
【0034】
式41〜43中、Arは、π共役構造が略直線状の2価の有機基である。この2価の有機基としては、チエニレン基、フリレン基、ピリジレン基、フェニレン基、エチレン基及びエチニレン基からなる群から選ばれた有機基を含有する有機基であることが好ましい。また、R、R、R、R10、R11及びR12は、上述の式21〜23と同義である。
【0035】
(色素増感太陽電池用色素化合物)
本実施の形態に係る色素増感太陽電池用色素化合物は上述のD―π―A型化合物からなる。D―π―A型化合物においては、ドナー及びπを共有する二つのD−π−A構造であり、いずれのD−π−A構造においてもπ共役構造が構造上分岐しておらず直線状であるので、ドナーからアクセプター方向に効率よく電子が流れるとともに、アクセプター中の窒素により金属酸化物に容易且つ強固に吸着することができる。このため、D―π―A型化合物は色素増感太陽電池用色素化合物として好適に使用できる。
【0036】
なお、上記色素増感太陽電池用色素化合物の金属酸化物への吸着は、公知の任意の方法を用い得る。例えば、色素増感太陽電池用色素化合物をメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキド、ジメチルホルムアミド、アセトン等の有機溶剤に溶解させた溶液又は分散させた分散液に金属酸化物粒子又は金属酸化物粒子層が形成されたガラス基板を浸漬・乾燥する方法が挙げられる。上記溶液又は分散液の色素増感太陽電池用色素化合物濃度は一般的に1×10−6M〜1Mであり、浸漬時間は1分〜48時間である。又、浸漬温度は常温〜溶媒の沸点の間である。
【0037】
図2に、D―π―A型化合物の一例が、金属酸化物(酸化チタン)に吸着している様子を示している。二つのアクセプターが酸化チタンと配位結合している。D―π―A型化合物が光照射を受けると、光励起し、破線で示すように、ドナーからアクセプター方向に効率よく電子が流れ、アクセプターから酸化チタンに電子が注入される。
【0038】
なお、アクセプターであるピリジン環含有基等の窒素は、水素結合によっても金属酸化物に吸着し得る。水素結合によって吸着した場合、金属酸化物への電子注入が阻害される。本実施の形態に係るD―π―A型化合物では、ピリジン環含有基等のアクセプターを二つ備えているので、ピリジン環含有基等のアクセプターが一つの場合に比べて、配位結合によるアクセプターと金属酸化物との吸着の割合が高まる。また、いずれか一方のアクセプターが配位結合により吸着すれば、金属酸化物への電子注入が可能である。このため、吸着したD―π―A型化合物から金属酸化物への電子注入が損なわれにくく、光電変換効率の向上にも資するものと考えられる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、核磁気共鳴(NMR)は核磁気共鳴装置(バリアン社製、400MR)で測定し、マススペクトル(MS)は二重収束質量分析装置(日本電子社製、SX102型)で測定した。
【0040】
(化合物1の合成)
下記反応式に示すようにして化合物1を合成した。
【化7】
【0041】
3,6−ジブロモ−9−エチルカルバゾール(500mg,1.42mmol)、4−4−ピリジンボロン酸(435mg,3.54mmol)及びテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウムPd(PPh(164mg,0.14mmol)を三つ口フラスコに入れ、Ar雰囲気にし、1M NaCOaq(5ml)、DMF(N,N−dimethylformamide)(15ml)を加え、100℃で11時間反応させた。
反応溶液を乾燥後、ジクロロメタンと水で有機層を抽出した。カラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ジクロロメタン:MeOH=4:1)、再沈殿(良溶媒:ジクロロメタン、貧溶媒:ヘキサン)、再結晶(良溶媒:ジクロロメタン、貧溶媒:ヘキサン)の順に精製を行った。
薄黄色の針状結晶80mg(収率16%)を得た。HNMR、HRMSスペクトルより、化合物1であることを確認した。
【0042】
得られた化合物1のNMRとMSの測定結果は以下の通りであった。
1H-NMR スペクトル(500MHz) Acetone-d6 / TMS
σ=8.82(2H, d, J=1.9 Hz), σ=8.65(4H, dd, J1=4.4 Hz, J2=1.7 Hz), σ=7.95 (2H, dd, J1=8.6 Hz, J2=1.9 Hz),σ=7.82 Hz (4H, dd, J1=4.4 Hz, J2=1.7 Hz), σ=7.78 (2H, d, J=8.6 Hz), σ=4.61 (2H, q, J=7.20 Hz), σ=1.49 (3H, t, J=7.20 Hz)
HRMS スペクトル:HRMS(ESI) : m/z=350.1653 [M+H]+ ; calcd. For C24H20N3: 350.1652
mp. 243-244℃
【0043】
(化合物3の合成)
下記反応式に示すように、化合物2の合成を経由し、化合物3を合成した。
【化8】
【0044】
まず、以下のようにして、化合物2を合成した。
3,6−ジブロモカルバゾール(500mg,1.42mmol)をDMF(10ml)に溶解させ、水素化ナトリウム(102mg,4.25mmol)を少量ずつ加えていくと溶液が透明から黄色へと変化した。
次に1−ヨードブタン(0.8ml,7.08mmol)を加えると溶液の色はしだいに透明になった。
2時間後、反応を終了し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。
その後、0.1M NaOH水溶液、ジクロロメタンを加え、有機層を抽出した。
有機層を濃縮、乾燥後、透明で粘性のある固体(765mg)を得た。
HNMR、HRMSスペクトルより、化合物2であることを確認した。なお、化合物2の精製は行わずに、化合物3の合成に用いた。
【0045】
得られた化合物2のNMRとMSの測定結果は以下の通りであった。
1H-NMR スペクトル(500MHz)
Acetone-d6 / TMS
σ=8.20 (2H, s), σ=7.44 (2H, d, J=8.7 Hz), σ=7.36 (2H, d, J=8.7 Hz), σ=4.20 (2H, t, J=7.0 Hz), σ=1.65 (2H, m), σ=1.21 (2H, m), σ=0.77 (3H, t, J=7.5 Hz)
MS スペクトル:MS(APCI) : m/z=378.9567 [M+H]+; calcd. For C16H15Br2N1: 378.9566
【0046】
続いて、化合物2を用い、以下のようにして、化合物3を合成した。
化合物2(1.00g,2.62mmol)、4−(5−トリブチルスタニル−2−チオフェニル)ピリジン(2.50g,5.55mmol)およびテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウムPd(PPh(151mg,0.13mmol)をDMF(30ml)に溶解させ、90°C、Ar雰囲気下で2時間攪拌した。
反応終了後、反応溶液を水(200ml)に注ぎ、析出した固体をろ過した。
ろ物を乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 CHCl:MeOH=20:1)により分離精製し、その後にジクロロメタンで再結晶を行った。
HNMR、HRMSスペクトルより、化合物3であることを確認した。収量は537mg(収率38%)であった。
【0047】
得られた化合物3のNMRとMSの測定結果は以下の通りであった。
1H-NMR スペクトル(500MHz) Dimethyl Sulfoxide-d6 / TMS
σ=8.27 (2H, d J=1.8 Hz), σ=8.15 (4H, dd, J1=4.5 Hz, J2=1.6 Hz), σ=4.44 (2H, d, J=3.9 Hz), σ=7.42(2H, dd, J1=8.8 Hz, J2=1.8 Hz), σ=7.27 (2H, d, J=8.8 Hz), σ=7.24 (4H, dd, J1=4.5 Hz, J2=1.6 Hz), σ=7.23 (2H, d, J=3.9 Hz), σ=4.01 (2H, t, J=7.0 Hz), σ=1.34 (2H, m), σ=0.87(2H, m), σ=0.44 (3H, t,J=7.4 Hz)
MS スペクトル:HRMS (ESI) : m/z= 542.1716 [M+H]+ ; calcd. For C34H28N3S2: 542.1719
mp. 236-237℃
【0048】
得られた化合物1、3をそれぞれ1,4−ジオキサンに溶解して、それぞれ濃度:2×10−5Mの吸光度測定用試料を得た。得られたそれぞれの吸光度測定用試料を紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−3150)に供給して吸光スペクトルを測定した。
【0049】
また、得られた化合物1、3をそれぞれ1,4−ジオキサンに溶解して、それぞれ濃度2×10−6Mの蛍光測定用試料を得た。得られたそれぞれの蛍光測定用試料を蛍光分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F−4500)に供給し、蛍光スペクトルを測定した。
【0050】
化合物1、3の吸光スペクトル及び蛍光スペクトルを図3(A)、(B)にそれぞれ示す。
【0051】
また、得られたそれぞれの蛍光測定用試料を蛍光量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製、C−9920−01)に供給して蛍光量子収率を測定した。得られた蛍光量子収率と上記吸収スペクトル及び蛍光から読み取った吸収極大波長(モル吸収係数)及び蛍光極大波長を表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
得られた化合物3をテトラヒドロフランに溶解して濃度1×10−4Mの溶液を作製した。得られた溶液に酸化チタンを添加し、25℃で16時間浸漬した後、酸化チタンを取り出し乾燥して赤外線スペクトル(IR)測定用試料を得た。得られた化合物3と、化合物3を用いて得られた試料を用いて、フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、Spectrum−One)で赤外線(IR)スペクトルを測定して結果を図4に示した。
【0054】
また、参考例として、図5に、下式に示したアクセプターとしてピリジン環含有基を一分子中に一つのみ有するD−π−A型化合物である化合物NI3、NI4について、酸化チタンへの吸着前後のIRスペクトルを示している。この化合物NI3、NI4のIRスペクトルは、非特許文献1から引用したものである。
【化9】
【0055】
図4のIRスペクトルに示されているように、化合物3が酸化チタンに吸着すると、1600cm−1付近の吸収ピークが高波数側にシフトしており、これはピリジン環の窒素原子と酸化チタンのチタン原子の間で強固な配位結合を形成していることを示している。従って、このIRスペクトルから、化合物3が酸化チタンに対し、ほぼ配位結合によって強固に吸着していることを示している。
【0056】
一方、化合物NI3及びNI4では、図5に示すように、1600cm−1の吸収ピークが一部高波数側にシフトせず残っている(破線円で囲っている箇所)ことがわかる。この吸収ピークは、配位結合していないことに起因して現れるピークであり、水素結合によるものと考えられる。図4の化合物3の場合では、化合物NI3、NI4における上記の吸収ピークはほぼ見受けられないことから、化合物3においては、アクセプターを2つ備えたことにより、ほぼ配位結合によって吸着することがわかった。
【0057】
続いて、化合物1及び化合物3を用いて色素増感太陽電池を作成し、色素吸着量及び光電変換効率を評価した。
【0058】
FTOガラス板(日本板硝子社製、13Ω/cm)の一面にドクターブレードを用いて酸化チタンペースト(日揮触媒化成社製、PST−18NR)を塗布し、450℃で50分間焼成して厚さ9μmの酸化チタン層を形成した。次に、化合物1及び3を、濃度:1×10−4Mのテトラヒドロフラン溶液に25℃で16時間浸漬した後、取り出し、乾燥して第1電極を得た。第1電極の酸化チタン層に電解質溶液(0.1Mヨウ化リチウム、0.05Mヨウ素及び0.6M1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨードジドのアセトニトリル溶液)を数滴たらし、パラフィルムスペーサーを介して第2電極である白金蒸着ガラス板を積層し、両端をクリップで固定して、第1電極と第2電極の間に電解質溶液層を形成して色素増感太陽電池セルを得た。
【0059】
得られた色素増感太陽電池セルにソーラーシミレータ(旭スペクトラ社製、HAL−302)でAM1.5、100mWcm−2の疑似太陽光を照射(照射面積0.25cm)し、ポテンシオスタガット/ガルバノスタット(北斗電工社製、HA−501G)で電流−電圧曲線を測定した。得られた電流−電圧曲線から短絡電流及び開放光起電圧を読み取り、結果を表2に示した。また、短絡電流及び開放光起電圧からフィルファクター及び光電変換効率を計算して結果を表2に示した。
【0060】
また、表2には、参考例として、上述した化合物NI3、NI4の色素吸着量のデータを掲載している。これらは非特許文献1から引用したものである。
【0061】
【表2】
【0062】
化合物3の色素吸着量が10.8×1016であり、化合物NI3、NI4に比べて2倍以上であり、吸着量が大幅に増大していることがわかる。
【0063】
なお、化合物1の色素吸着量は、NI3及びNI4よりもやや少ない結果となった。化合物1では、カルバゾールイル基の両端にピリジン環が直接結合し、結合間距離が短いことから、両方のピリジン環の窒素が同じ方向、即ち、酸化チタン層を向きにくいことによる影響と考えらえる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るドナー―π―アクセプター型化合物は、金属酸化物への吸着能を有するアクセプターを二つ備えているので、金属酸化物への吸着量を向上し得る。このため、色素増感太陽電池への応用が期待される。
【符号の説明】
【0065】
1 第1電極
2 第2電極
3 電解質溶液層
11 ガラス基板
12 透明導電膜
13 金属酸化物層
図1
図2
図3
図4
図6
図5