特許第5939616号(P5939616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939616
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】液晶配向構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   G02F1/1337
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-25141(P2012-25141)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-161043(P2013-161043A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】大園 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福田 順一
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−181515(JP,A)
【文献】 特開2005−352415(JP,A)
【文献】 特開平07−092469(JP,A)
【文献】 特開2001−242464(JP,A)
【文献】 Takehiro Toyooka et al.,Determination of Twist Elastic Constant K22 in 5CB by Four Independent Light-Scattering Techniques,Japanese Journal of Applied Physics,日本,1987年12月,26/12,1959-1966
【文献】 Shahab Shojaei-Zadeh et al.,Role of Surface Anchoring and Geometric Confinement on Focal Conic Textures in Smectic-A Liquid Crystals,Langmuir,米国,2006年10月21日,22,9986-9993
【文献】 大園拓哉, 物部浩達, 清水洋,マイクロリンクル表面上での液晶配向,日本液晶学会討論会講演予稿集(CD−ROM),日本,日本液晶学会,2008年 9月 8日,Vol.2008,3C301
【文献】 大園拓哉, 物部浩達, 清水洋, 山口留美子, 横山浩,可変マイクロリンクルによる液晶配向記憶過程の調査とパターニング,日本液晶学会討論会講演予稿集(CD−ROM),日本,日本液晶学会,2009年 9月 7日,Vol.2009,3C02
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延び、かつ、該一方向と直交する幅方向の断面が曲面の底面を有する溝を用意し、
前記溝の内部のみに、液晶材料を充填し、
前記液晶材料中の液晶分子を、前記溝の内面の形状を利用して非一様配向状態とすると共に、前記一方向において前記液晶分子の配向分布を周期性をもって形成する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項において、
前記液晶分子の配向を、前記液晶材料中において、該液晶材料の前記溝の外部との境界面付近と、該液晶材料と前記溝の内面との液固界面付近とで異ならせる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項において、
前記液晶分子を、前記液晶材料の前記溝の外部との境界面付近において該境界面に対して垂直に配向し、前記液晶材料と前記溝の内面との液固界面付近において該液固界面に沿うように配向する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記溝の溝幅及び溝深さを調整する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記液晶材料として、ネマチック液晶を用いる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項において、
前記液晶材料として、スプレイに対する弾性定数をK11、ツイストに対する弾性定数をK22、ベンドに対する弾性定数をK33とするときに、これらK11,K22及びK33が、
(K11+K33)>2K22
となるものを用いる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項において、
前記ネマチック液晶に対する処理温度を調整する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項5において、
前記液晶材料として、常温ペンチルシアノビフェニル液晶分子を含むネマチック液晶を用い、
前記溝として、溝幅を1ミクロン以上、溝深さを溝幅の0.1〜0.15倍のものを用いる、
とを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項において、
前記液晶材料として、オクチルシアノビフェニル(8CB)をネマチック相の状態で用い、
前記溝として、溝幅を2ミクロン以上、溝深さを溝幅の0.1〜0.15倍のものを用い、
前記ネマチック相の状態の前記液晶材料に対し、スメクチック−ネマチック相転移点から2℃の範囲に保つ温度処理を行う
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記液晶材料として、スメクチック液晶を用いる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記溝として、溝幅を2ミクロン以上、溝深さを溝幅の0.1〜0.15倍のものを用いる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項において、
前記溝として、基板を座屈させることにより形成される複数の溝を利用する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記基板に対する座屈条件を異ならせて、座屈により形成された前記溝の溝幅及び溝深さを調整する、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項において、
前記液晶材料中に、微粒子を混在させる、
ことを特徴とする液晶配向構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向欠陥を含む液晶配向構造を周期的に形成できる液晶配向構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能材料やデバイス技術を開発する上で、微細構造形成プロセスは重要であり、その構造が複雑・微細化するにつれ、そのプロセスに多くのエネルギーが必要となる。しかしながら近年その生産コストや環境負荷を低減させることが強く求められている。一方、自然、特に生体システムでは、様々な機能を実現するための時空間構造が人間の手を介さずに自発的に(時には驚くべき効率で)形成・維持されている。これは自然淘汰の結果、自発的に開発されてきた技術体系といえるが、最近、そのような体系に頻繁に表れる自己組織化の過程とその構造を積極的に学び、人工的な技術に応用し上記課題に取り組まれるようになってきた。
【0003】
このような背景の下、本件発明者は、微小構造体として、表面上での微細な液滴の形状変化及び輸送を制御することができ、その結果、微小液体の操作とマイクロパターニングとを簡便に可能とするものを開発してきた。具体的には、その微小構造体は、特許文献1に示すように、伸縮可能な支持体に密着した表面薄膜の座屈変形に基づき、周期的微細凹凸構造を形成し、その微細凹凸構造の溝部内に毛細管力を利用することで液体を溝内に浸入させるものである。これによれば、その微小構造体において、ミクロンスケールで液体の形状を微細パターン化(マイクロパターニング)することができる。
【0004】
ところで、非特許文献1には、液晶配向構造体として、毛細管の曲面を利用して、液晶分子を非一様な配向構造とするものが知られている。このものにおいては、液晶材料中に配向分布および配向欠陥が形成されることになり、この配向分布および配向欠陥を有する液晶配向構造体は、微細加工技術に基づいた局所配向規制などにより配向分布および配向欠陥の各空間位置を予め特定する必要がなく、自発的に発生するため、容易に多くの液晶配向分布および配向欠陥構造を得られる点において有益な役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−201610号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Meyer, R. B. On theexistence of even indexed disclinations in nematicliquid crystals. Phil. Mag. 27, 405-424 (1973).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記液晶配向構造体においては、配向欠陥や配向分布が存在するものの、その各配向欠陥および配向分布は、規則性までは有しておらず、その配向欠陥および配向分布を制御するために非常に煩雑な逐次的な場所特定プロセスが必要になる。
具体的には、非特許文献1では、ガラスからなる毛細管においてその内面に適切な化学処理を行うことで初めて、配向欠陥および配向分布が生じ、これらの位置や間隔を制御するためには、内面に規則的な構造もしくは規則的な化学処理を施すか、外部から電場、磁場、光、熱などを、場所を特定して作用させる必要がある。また、更に、その特定する空間スケールがミクロンオーダーの場合、そのための構造の作成や処理方法の検討をする必要がある。さらに、複数の毛細管に同様な場所を特定して作用させる場合には、非常に多くの微細プロセスと制御が必要となり、その作製法が確立したとしてもその製造プロセスは効率的ではない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、配向欠陥を含む液晶配向構造を周期的に形成できる液晶配向構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
一方向に延び、かつ、該一方向と直交する幅方向の断面が曲面の底面を有する溝を用意し、
前記溝の内部のみに、液晶材料を充填し、
前記液晶材料中の液晶分子を、前記溝の内面の形状を利用して非一様配向状態とすると共に、前記一方向において前記液晶分子の配向分布を周期性をもって形成する、
ことを特徴とする。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2以下の記載の通りである。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1に係る発明)によれば、幅方向の断面が曲面の底面を有する溝の内部のみに液晶材料を充填することで、その溝内の内面の形状(曲面)を利用して液晶材料中の液晶分子を非一様な配向状態にして、液晶材料中に液晶欠陥を形成できるとともに、溝が一方向に延びることと、その溝幅が有限であることを利用することにより、一方向において液晶分子の配向分布を周期性をもって形成することができる。
すなわち、本発明によれば、配向欠陥を含む液晶配向構造を周期的に形成することができるため、配向規則構造作製における逐次的な場所特定作業を大幅に減少させると共に、その製造プロセス効率を大幅に向上させることができる。またこの場合、液晶材料又は溝内面形状を変えることにより、様々な周期的態様の液晶配向構造体を形成できる。
【0012】
請求項に係る発明によれば、液晶分子の配向を、前記液晶材料中において、該液晶材料の前記溝の外部との境界面付近と、該液晶材料と前記溝の内面との液固界面付近とで異ならせることから、液晶分子の一様配向構造形成を妨げる状態を与え、液晶分子の非一様な配向構造を具体的に実現できる。このため、一方向に延びる溝の下で周期的な配向欠陥を的確に形成できる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、前記液晶分子を、前記液晶材料の前記溝の外部との境界面付近において該境界面に対して垂直に配向し、前記液晶材料と前記溝の内面との液固界面付近において該液固界面に沿うように配向することから、液晶分子の一様配向構造形成を妨げる状態を与え、液晶分子の非一様な構造を、より具体的に実現できる。このため、配向欠陥を的確に形成できる。
また、請求項4に係る発明によれば、溝の溝幅及び溝深さを調整するようにしたため、配向欠陥の周期的な配置を変化させることができ、このことから配向欠陥に関し、周期性の異なる多様な液晶配向構造体を簡単に製造できる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、ネマチック液晶に対応した特有の配向欠陥を含む液晶配向構造を周期的に形成することができる。
また、請求項6に係る発明によれば、前記液晶材料として、スプレイ(広がり)に対する弾性定数をK11、ツイスト(ねじり)に対する弾性定数をK22、ベンド(曲がり)に対する弾性定数をK33とするときに、これらK11,K22及びK33が、(K11+K33)>2K22となるものを用いるようにしたため、欠陥線をジグザグ状に連ならせ、その折れ点を配向欠陥とした配向欠陥の周期的な配列構造(液晶配向構造体)を具体的に得ることができる。
【0015】
請求項に係る発明によれば、前記ネマチック液晶に対する処理温度を調整するようにしたため、ネマチック液晶の各弾性定数(スプレイ、ツイスト、ベンド)を変化させて配向欠陥の周期性に関し、種々の態様のもの(平面視直線的な配置、平面視ジグザグ状の配置等)の配向欠陥の周期的な配列構造(液晶配向構造体)を得ることができる。
【0016】
請求項に係る発明によれば、前記液晶材料として、常温ペンチルシアノビフェニル液晶分子を含むネマチック液晶を用い、前記溝として、溝幅を1ミクロン以上、溝深さを溝幅の0.1〜0.15倍のものを用いるようにしたため、欠陥線をジグザグ状に連ならせ、その折れ点を配向欠陥とした配向欠陥の周期的な配列構造(液晶配向構造体)を、より具体的に得ることができる。
【0018】
請求項9に係る発明によれば、前記液晶材料として、オクチルシアノビフェニル(8CB)をネマチック相の状態で用い、前記溝として、溝幅を2ミクロン以上、溝深さを溝幅の0.1〜0.15倍のものを用い、前記ネマチック相の状態の前記液晶材料に対し、スメクチック−ネマチック相転移点から2℃の範囲に保つ温度処理を行うようにしたため、欠陥線が、溝内面の最下部で溝の一方向に直線状に伸び、その直線状の欠陥線上に周期的に配向欠陥を配置した配向欠陥の周期的な配列構造を具体的に得ることができる。
【0019】
請求項10及び請求項11に係る発明によれば、フォーカルコニック領域と呼ばれるスメクチック液晶に特有な領域が並んだ配向欠陥の周期的な配列構造を得ることができる。
【0022】
請求項12に係る発明によれば、前記溝として、基板を座屈させることにより形成される複数の溝を利用するようにしたため、一方向に延び、かつ、該一方向と直交する幅方向の断面が曲面の底面を有する溝を多数簡単に作成でき、その多数の溝を利用した液晶配向構造体を製造できる。
【0023】
請求項13に係る発明によれば、請求項12に係る発明の基板に対する座屈条件を異ならせて、座屈により形成された前記溝の溝幅及び溝深さを調整するようにしたため、基板における座屈に基づいて発生する複数の溝を利用できるだけでなく、その溝内の配向欠陥の周期的な配置を変化させることができる。
【0024】
請求項14に係る発明によれば、前記液晶材料中に、微粒子を混在させるようにしたため、各配向欠陥が微粒子を捕捉する性質を利用して、周期性を有する配向欠陥に微粒子を安定した状態でそれぞれ保持させることができる。このため、微粒子が周期性をもって配置された液晶配向構造体を簡単に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】マイクロリンクルの各溝に液晶材料を閉じ込めるまでの工程を説明する説明図。
図2】溝内における液晶分子の配向を説明する説明図。
図3】実施例1に係る液晶配向構造体を示す透過型偏光顕微鏡像図。
図4】実施例1に係る液晶配向構造体の内部構造を説明する模式図。
図5図4の5Z−5Z拡大断面図。
図6図4の6Z−6Z拡大断面図。
図7】実施例1に係る液晶配向構造体の内部構造を示す立体的模式図。
図8】マイクロリンクルの溝に閉じ込められた5CBの推測される液晶配向の3次元模式図と+1/2ディスクリネーション付近の液晶配向状況を示す説明図。
図9図8との比較のために、与えられた界面配向条件のみから単純に予想される軸方向への対称性が保たれた構造(実際は現れない)を示す比較参考図。
図10】実施例2に係る液晶配向構造体を示す透過型偏光顕微鏡像図。
図11】実施例2に係る液晶配向構造体の内部構造を説明する模式図。
図12図11の12Z−12Z拡大断面図。
図13図11の13Z−13Z拡大断面図。
図14】実施例3に係る液晶配向構造体を示す透過型偏光顕微鏡像図。
図15】実施例3に係る液晶配向構造体を示す透過型偏光顕微鏡像の説明図(曲線は溝底面(上)と溝断面(下)におけるスメクチック層構造を模式的に表す。)。
図16】実施例3に係る液晶配向構造体の内部構造を説明する模式図。
図17】実施例4に係る周期的液晶配向構造のジグザグ欠陥部分(配向欠陥(特異点))にシリカ微粒子が捕捉された状態を示す透過型偏光顕微鏡像図。
図18】実施例4において、温度を上げて等方相にした場合に、配向欠陥が消えることに基づき微粒子が捕捉状態から開放されることを示す透過型偏光顕微鏡像図。
図19】実施例4に係る周期的液晶配向構造のジグザグ欠陥部分(配向欠陥(特異点))にシリカ微粒子が捕捉された状態を示す模式図。
図20】実施例5に係る周期的液晶配向構造の配向欠陥(特異点)にシリカ微粒子が捕捉された状態を示す透過型偏光顕微鏡像図。
図21】実施例5に係る周期的液晶配向構造の配向欠陥(特異点)にシリカ微粒子が捕捉された状態を示す模式図。
図22】溝幅と溝深さとの比を一定にした下でのジグザグ周期と溝幅との関係を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.本発明の製造方法においては、先ず、一方向に延びる溝を用意する。本件発明者の知見に基づき、周期的に配置される配向欠陥を含む液晶配向構造を自発的に形成させるようにすべく、溝内面(曲面)のもつ境界形状等(曲面、一方向に延びること、溝幅が有限であること等)を利用するためである。具体的には、溝の内面(曲面)により液晶分子を非一様な配向構造として配向欠陥を形成し、溝が一方向に延びること及びその溝の有限性に基づき、その配向欠陥を含む液晶配向構造を周期的に形成するためである。この配向欠陥の周期的配置の形成については、後述の実施例1において具体的に詳述する。
【0027】
(1)前記溝としては、溝幅が1ミクロン以上(好ましくは1〜20ミクロン、より好ましくは15ミクロン)のものがよく、溝深さについては溝幅の0.1〜0.15倍程度のものが好ましい。
【0028】
(2)前記溝としては、例えば、図1左側図に示すように、伸縮可能な支持体に密着した表面薄膜(基板)を座屈変形させることにより形成されるしわ状の微細な溝(以下、マイクロリンクルという)を用いることが好ましい(例えば特開2010−201610号公報参照)。このマイクロリンクル構造はその作製簡便性に加えその微細形状が可変可能だからである。このようなマイクロリンクル表面を作製するに際しては、具体的には、シリコーンゴム弾性体であるポリジメチルシロキサンエラストマーにエンジニアリングプラスチックとして知られる硬いポリイミド薄膜を形成し(基板形成)、異方的な圧縮応力を加えることが行われる。これにより、ポリイミドの膜厚に応じた間隔(数〜数十ミクロンで制御)を有すると共に1方向に溝方向(溝延び方向)が揃った複数のマイクロリンクルが表面一面に自発的に形成される。
【0029】
2.次に、前記溝内に液晶材料を充填する。本件発明者の知見に基づき、周期的な配向欠陥を含む液晶配向分布を自発的に形成させるようにすべく、溝内面の境界形状(例えば滑らかな凹状の曲面)の下での液晶分子の配向状態(非一様な液晶配向状態)を利用するためである。この場合、液晶材料(液晶相)を変えることにより、その液晶材料に応じた様々な態様の周期的な液晶配向構造(様々な配向欠陥の周期的配置)を得ることができる。
【0030】
(1)前記液晶材料(液晶物質)については、液体状態が保たれていれば、特に限定されない。液晶相についても、特に限定されず、ネマチック相、スメクチック相、コレステリック相、円盤状分子からなるカラムナー相、コレステリックブルー相、ツイストグレインバウンダリー相等を用いることができる。
【0031】
(2)前記溝内に液晶材料を充填する方法としては、溝にマイクロリンクルを利用する場合には、図1中央図に示すように、液晶材料を連続的にマイクロリンクル表面に接触させつつ界面を移動させることで(はけで塗るように)被覆し、液晶材料のポリイミド表面上での接触角を適当に調整(具体的には、溝幅で溝深さを割った値が0.1程度の場合、接触角を10〜15度程度に調整(Soft Matter 5, 4658 (2009))する。これにより、図1右図に示すように、溝のみが液晶材料で満たされた状態(液晶材料の閉じ込め状態)を実現できる。
【0032】
(3)前記溝内への液晶材料の充填に伴う、液晶分子の配向に関しては、非一様な液晶配向状態を形成できれば、溝内面の境界付近では、液晶分子の配向状態は、平行配向(容易軸無、及び容易軸有、その方向は溝方向に対して180度の範囲で様々取れる)でも垂直配向でもその中間でもよい。それら配向については表面の材料、表面化学修飾などで調節可能である。同様に、液晶材料の溝外部との境界面(上側境界面付近における液晶分子の配向についても、平行配向、垂直配向、その中間配向などに限定されない。この場合、液晶材料の溝外部との境界面(上側境界面は、気体でもよく、もしくは平面状、曲面状の固体基板を凸部に密着することでセル状にしてもよい。
具体的には、溝内での液晶分子の配向の一例として、図2に示すように、溝内面の境界付近では液晶分子を平行配向(溝内面に沿う配向)させ、溝内の液晶材料の溝外部との境界面(上側境界面においては液晶分子を垂直配向させる態様をとることができる。
【0033】
3.このような本件発明者の知見に基づく液晶配向構造体の製造方法により、溝の延び方向において周期的な配向欠陥を含む液晶配向構造を自発的に形成させることができる。この結果、配向規則構造作製における逐次的な場所特定作業を大幅に減少させることができると共に、その製造プロセス効率を大幅に向上させることができる。
この場合、伸縮可能な支持体に密着した表面薄膜(基板)を座屈変形させることにより形成される多数のマイクロリンクルを溝として利用する場合には、上記液晶配向構造を多数のマイクロリンクルの各溝に同時に発生させることができ、大面積の下での製造を容易にすることができる。
またこの場合(伸縮可能な支持体に密着した表面薄膜(基板)を座屈変形させることにより形成される多数のマイクロリンクルの溝を溝として利用する場合)、その座屈条件等を異ならせるだけで、その溝の溝幅及び溝深さを変えることができるが、そのことを利用して、配向欠陥の周期配置性を変更することができる。
すなわち、溝深さと溝幅との比を一定(溝深さ/溝幅=0.13)とした下で、溝幅を変化させたときにおける配向欠陥の周期(ジグザグ周期)をプロットしたところ、図22に示すように、溝幅が増加するに伴い周期が増加し、溝幅及び溝深さが周期に対して一定の関係を示した。これにより、基板における座屈に基づいて発生する多数のマイクロリンクルを溝として利用できるだけでなく、配向欠陥の周期配置性を変化させることができる溝の溝深さ及び溝幅(上記本件発明者が得た知見)の調整により、配向欠陥が様々な周期配置性となるものを容易に製造できることになる。
【0034】
4.本発明の製造方法においては、前記液晶材料中に、微粒子(コロイド)を混在させることにより、微粒子の周期的な配列構造を自発的に製造することができる。各配向欠陥が微粒子を捕捉する性質を利用して、周期性を有する配向欠陥に微粒子を安定した状態でそれぞれ保持できるからである。
【0035】
(1)具体的に説明すれば、非一様配向構造においては、液晶分子の配向の乱れが存在し、殆どの場合、液晶分子の配向が規定出来ない特異的な微小空間、すなわち配向欠陥が発生する。その部分は液晶弾性エネルギーが非常に高く、コロイドなどの微粒子でその高いエネルギー空間を置き換えることで液晶弾性エネルギーを下げることができるため、結果として微粒子は配向欠陥に安定に捕捉されることになる。これにより、非一様配向構造における周期性のある配向欠陥(欠陥点)に微粒子が安定して配置されることになり、微粒子は周期性をもって配置されることになる。
【0036】
(2)この場合、微粒子は、溝内に液晶材料を充填する前に、その液晶材料中に予め混入しておいてもよいし、溝内に液晶材料を充填した後に、その液晶材料中に微粒子を混入させてもよい。いずれの場合においても、配向欠陥が存在する状態下では、微粒子が液晶材料中に存在もしくは導入した際に、配向欠陥に捕捉されて定着されるからである。
このような液晶配向構造体は、テンプレート、光の回折や屈折を利用した光学素子等として利用することができる。
勿論この場合、微粒子は、溝に存在する液晶材料の厚みや幅よりも小さく、配向欠陥構造を著しく乱さないものであれば特に限定されない。
【実施例】
【0037】
5.以下、実施例をもって、より具体的に説明する。
実施例1(N相 PDS)
【0038】
(1)実施例1は、+1/2のディスクリネーション(欠陥線)をジグザグ状に連ならせ、各折れ点を周期的な配向欠陥の配置点とした周期的な配列構造体(液晶配向構造体)の製造について示している。
(2)(i)この実施例1における製造方法においては、先ず、一方向に延びる溝を用意するべく、前述の複数の溝を有するマイクリロリンクル表面を準備する。上記周期的な配列構造体を自発的に形成させるようにすべく、溝内面(曲面)のもつ境界形状等(曲面、一方向に延びること、溝幅が有限であること等)を利用するためである。
この各溝の溝幅は、好ましい1ミクロン以上(より好ましい1〜20ミクロン)のうち、15ミクロンとされ、各溝深さは、溝幅の0.1〜0.15倍程度とされる。また、液晶分子の配向に関しては、溝内面との境界域において、溝内周方向に該溝内面に沿うように配向させることが行われる。
(ii)次に、このマイクロリンクルの各溝に液晶材料としてネマチック液晶を導入する。このネマチック液晶としては、室温においてネマチック状態を示すこと、広く基礎研究でも用いられること、さらに液晶ディスプレイにおいても主要な含有材料として用いられることを考慮して、シアノビフェニル液晶分子を含む常温ネマチック液晶、より具体的にはペンチルシアノビフェニル(5CB)が用いられる。そして、この5CBは、前述の方法(図1中央図参照)を用いてマイクロリンクルの複数の溝に導入され、各溝のみが液晶で満たされた状態(液晶の閉じ込め状態)が実現される(図1右側図)。
この場合、上記工程を経ると、マイクロリンクル作製中の諸条件により、ネマチック液晶である5CBは溝界面(溝内面との境界面)において面に平行にかつ溝内周方向(容易軸)に配向し、一方で5CBは気液界面において界面に垂直に配向することが分かっている。この曲がった幾何構造と界面配向条件は液晶の一様配向構造形成を妨げるフラストレートした状態(図2)を与えるため、そこに閉じ込められた液晶内部には液晶配向の大きな歪みが誘発されることが予想される。
【0039】
(3)図3図7は、上記製造方法により製造された液晶配向構造体を、ネマチック相を示す温度25℃で偏光顕微鏡にて観察した内容を示すものである。ここで、図3a-dは、上記製造方法により製造された液晶配向構造体の同じ場所を異なる偏光板の組み合わせで観察した透過型偏光顕微鏡像である。この図3a-dにおいて、PとAはそれぞれ試料への入射光および透過光に対する偏光板の向きを示す。Sは鋭敏板の向きを示し、色から液晶ダイレクターの向きを判定できる(偏光顕微鏡において付加的に用いることで、僅かな偏光状態の差を色味によって検知でき、ここでは、ツイスト変形の捩れる方向を別々の色味(図3dでは中央線の濃淡参照)で区別できる)。図4は、図3と同じ場所の液晶分子の配向分布を示す模式図であり、図5図4の5Z−5Z断面図、図6図4の6Z−6Z断面図である。図7は、図3〜5の内容を示す立体的模式図である。図3図7においては、”T”状の釘マークが採用されているが、その“T”状の釘マークは各面に投影したその付近の液晶ダイレクターを示し、釘の頭が各面から飛び出す方向を示す。棒は液晶ダイレクター方向の一部を模式的に示す。
【0040】
(4)図3の結果によれば、溝中心付近では、配向容易軸方向から10−20度程配向が傾いたドメインを示した。またその傾き方向は2種類存在し、それらは溝延び方向に周期的に交互に並ぶ内容を示した。この場合、液晶内部においては、溝の中心線の直上付近で、1/2ディスクリネーション線が周期的にジグザグ状になり、対応して右巻き-左巻きりのツイスト変形が発生することを示した。
すなわち、実施例1に係る液晶配向構造体に関し、溝延び方向に特に予め周期的な構造が無いにも関わらず、周期的な光学パターンが確認でき、これを、鋭敏板を偏光顕微鏡と共に用いることにより、それぞれの場所での液晶配向方向を推測したところ、その方向が容易軸から交互に右巻きおよび左巻きにずれた周期構造をとることが分かった。この結果は、実際の液晶方向が溝底面から上部界面に向うにつれて、それぞれの方向に捩れている(ツイスト変形)ことを示している(図7参照)。
さらに偏光板無しで観察した場合(図7参照)、溝中央にジグザグ状の暗線が確認でき、その周期は右巻き-左巻きりのツイスト変形の周期性に対応していた。このジグザグの各暗線は液晶配向場における+1/2のディスクリネーションと呼ばれるネマチック液晶の一般的な配向欠陥に対応しており、この欠陥の周りでは液晶ダイレクターの大きなスプレイ-ベンド(広がり-曲がり)変形が発生している(図8)。
【0041】
また、この構造は、同じ形状のマイクロリンクルで周期を4−20ミクロンで変えた場合でも観られ、基本的に溝サイズによらない一般的な構造であることも確認できた(図22参照)。さらに、この構造は多数のマイクロリンクルの溝に同時に発生することも確認できた。
【0042】
(5)上記内容を具体的に説明する。
図8は、マイクロリンクルの溝に閉じ込められた5CBの推測される液晶配向の3次元模式図と+1/2ディスクリネーション付近の液晶配向状況を示し、図9は、図8との比較参考のために、与えられた界面配向条件のみから単純に予想される軸方向への対称性が保たれた構造(実際は現れない)を示している。
図9では、溝底面で要請される溝幅方向(x方向)への配向方向のために、液晶ダイレクターのy成分(溝方向)が0のまま上部界面における条件の垂直方向へ変化していく。そのため、この構造ではツイスト変形は存在せず、中心に存在する直線状の+1/2ディスクリネーションがあり、その周りのスプレイ-ベンド変形のみが存在する。
しかし、実際には、図8に示すように、軸方向への対称性が破れた周期構造が発生する。この場合、+1/2ディスクリネーションが溝方向からある角度回転することで実質的なスプレイ-ベンド変形が緩和されると同時に、+1/2ディスクリネーションの下部および周りでのツイスト変形が発生している。
【0043】
(6)本件発明者は、上記内容を考察した結果、多くのネマチック液晶が有する液晶弾性定数について下記関係を有することを見出した。
すなわち、液晶材料としてネマチック液晶を用いる場合、そのスプレイ(広がり)に対する弾性定数をK11、ツイスト(ねじり)に対する弾性定数をK22、ベンド(曲がり)に対する弾性定数をK33とするとき、これらK11,K22及びK33が、(K11+K33)>2K22となるものを用いる必要がある。
これについて、上下に異なる配向によって内部に配向の乱れを余儀なくされた実施例1をもって具体的に説明すれば、次の通りである。
もしK11=K33=K22の場合、溝方向に並進対称性を保ったスプレイ‐ベンド変形のみから構成される欠陥線(ウェッジディスクリネーション)を溝延び方向に平行に、溝中央の中間部分に欠陥中心にして形成することが考えられる。これは、上下の配向条件を満たしつつ内部の配向変形を最小化した構造である。しかし、上記関係式に示すようにK22が小さい場合には、ツイスト変形が他の変形モードに比べ容易であることを意味するので、スプレイ‐ベンド変形を減らし、ツイスト変形が増えるように配向が変わる。これに伴って、溝延び方向に平行であった欠陥線は、その方向をずらすように応答する。しかし、溝中心にあった欠陥線を全て1方向に回転することは、溝の幅の制限(溝幅有限)があり出来ないので、右に回転する欠陥線と左に回転する欠陥線を交互に作ることで(右巻き-左巻きのツイスト状態を交互に出現させることで)、この問題を回避し、結果として、観測された周期構造をなす「ジグザグ状の欠陥線」を形成(自己組織化)する。勿論、そのジグザグの折れ曲がり点は欠陥線のなかでももっとも配向が乱れた部分(配向欠陥)となる。
【0044】
(7)以上の内容から明らかなように、ネマチック液晶を用いた実施例1の製造方法を用いれば、周期的構造を自発的に発生させることができる。
【0045】
実施例2(N相 8CB ST)
(1)実施例2は、直線状の+1/2ディスクリネーション(欠陥線)が境界曲面(溝内面)の最下部で溝方向に直線状に延び、その直線状の+1/2ディスクリネーション上に周期的に配向欠陥を配置した周期的な配列構造体の製造について示している。
(2)実施例2における製造方法においては、実施例1と同様な溝基板を用い、その溝内に、液晶材料としてオクチルシアノビフェニル(8CB)をネマチック相で用いたものを導入した。
この場合、各溝の溝幅は、好ましい2ミクロン以上(より好ましい2〜20ミクロン)のうち、15ミクロンとされ、各溝深さは、実施例1同様、溝幅の0.1〜0.15倍程度とされる。また、温度処理として、スメクチック−ネマチック相転移点から2℃の範囲に保つことが行われる。後述するように、液晶弾性定数に関し、一定の関係を得るためである(段落0046参照)。
(3)図10図13は、実施例2の製造方法により製造された液晶配向構造体を、偏光顕微鏡にて観察した内容を示すものである。その図10図13によれば、ネマチック相のうち高温側(34−39℃)では、実施例1と同様な周期配向構造を示す一方で、低温側(31−34℃)では、同様に下面の配向容易軸からずれた配向ドメインが見られたが、実施例1とは異なる配向構造を示した。
具体的には、実施例2の製造方法により製造された液晶配向構造体は、溝延び方向を通り表面に垂直な面について鏡像対称性を有している。また、欠陥線は、溝延び方向に溝中心を通って存在している。しかし、実施例2においては、溝延び方向に液晶分子の配向方向が入れ替わる構造を取っており、その境界は、実施例1の構造と同様に、配向のゆがみが大きく液晶弾性エネルギーが高い状態となっている。
また、この構造は、温度により液晶弾性定数の異方性が変化したことに由来していると考えられる。このため、この実施例2に係る液晶配向構造を、温度調整により、実施例1に係る液晶配向構造等にも変化させることもできる。温度調整により、液晶の物性が変えて弾性定数を変化させることができるからである。勿論この場合、ネマチック相で用いることを条件に液晶材料自体を変えてもよい。
【0046】
(4)本件発明者は、上記内容を考察した結果、多くのネマチック液晶が有する液晶弾性定数について下記関係を有することを見出した。
すなわち、液晶材料としてネマチック液晶を用いる場合、そのスプレイ(広がり)に対する弾性定数をK11、ベンド(曲がり)に対する弾性定数をK33とするとき、これらK11及びK33が、K33>>K11となるものを用いる必要がある。
具体的に説明すれば、K33が大きいことは、ベンド変形が抑制されることを意味する。よって、スプレイ変形とツイスト変形からなる本構造が安定に発生すると理解できる。この材料(8CB)の場合、温度によってK11,K22,K33のバランスを変化させることができ、この構造はネマチック相における低温領域でK33>>K11となるために安定に形成する。
(5)以上の内容から、実施例2の製造方法を用いても、周期的構造を自発的に発生させることができる。
【0047】
実施例3
(1)実施例3は、層構造を成すスメクチック液晶に特有な、層間隔一定の条件から規定されるフォーカルコニック構造が、周期的に溝延び方向に規則的に配列した構造体の製造について示している。
(2)実施例3における製造方法においては、実施例1,2と同様な溝基板を用い、その溝内に、液晶材料としてオクチルシアノビフェニル(8CB)をスメクチックA(SmA)相で用いたものを導入した。
この場合、各溝の溝幅は、好ましい2ミクロン以上(より好ましくは2〜20ミクロン)のうち、15ミクロンとされ、各溝深さは、実施例1,2同様、溝幅の0.1〜0.15倍程度とされる。また、液晶分子の配向に関しては、溝内面との境界域において、溝内周方向に該溝内面に沿うように配向させることが行われる。
(3)図14図16は、実施例3の製造方法により製造された液晶配向構造体を示すものである。その図14図16によれば、室温におけるSmA状態で、スメクチック層構造の層間距離一定という条件の下で一般によく見られるフォーカルコニック領域が規則的に発生した。その層は3次元的に曲がった複雑な構造を示すが、その並びの溝底面と断面での断面層構造の模式図が図15に示されている。また図16の模式図には線欠陥および面欠陥が示されているが、面欠陥はフォーカルコニック領域間に存在し、また、線欠陥は溝底面に存在する楕円とその一つの焦点を面に垂直通り、液晶内部を通って表面まで延びる曲線を構成し、それらは各フォーカルコニック領域内にそれぞれ存在する。これらの欠陥部位では液晶配向が歪み、液晶弾性エネルギーが高い状態である。このフォーカルコニックドメインは溝に沿って一定間隔で配列構造を示し、また溝の左右に規則的に配列する。勿論、この構造は、スメクチック層構造と境界形状および表面配向の競合作用により自発的に発生した。
【0048】
実施例4
(1)実施例4は、実施例1の液晶配向構造において、液晶材料中に微粒子が混入されている場合を示している。
(2)実施例4の製造方法においては、前述の実施例1における液晶材料としてのネマチック液晶中に微粒子(シリカ微粒子、直径約500nm)が含有されている。この微粒子の含有は、ネマチック液晶を溝内に導入する前でも、ネマチック液晶を溝内に導入した後でもよい。微粒子としては、シリカ微粒子で、直径約500nmのものを用い、そのシリカ微粒子を液晶と微粒子混合物の全体に対して0.5重量%程度分散させた。
(3)図17図19は、実施例4の製造方法により製造された液晶配向構造体を示すものである。その図17図19によれば、上記実施例1の周期的な液晶配向構造の特異点にシリカ微粒子を捕捉する内容を示した。その特異点とは前述のジグザグ状の+1/2ディスクリネーションにおける折れ曲がり点であり、その特異点は、+1/2ディスクリネーションの中でも更に大きな配向変形集中した部分(配向欠陥)である。このため、そのように液晶ベクトル場の歪んだ空間を非液晶である微粒子で置き換えることで系の全エネルギーを下げ、結果として、シリカ微粒子が配向欠陥に安定した状態で捕捉されたものと考えられる。この特異点は周期的に配置しているため、この自己組織化した周期構造を鋳型として微粒子を配列させることができる。
(4)図18は、温度を上げることでネマチック液晶から通常液体に相転移させた場合を示している。これによれば、周期的な液晶配向構造が消滅するが、それと同時に、微粒子の捕捉状態が解消され、微粒子が自由に拡散する様子が確認できた。これにより、微粒子の捕捉制御性が確認できた。
【0049】
実施例5
(1)実施例5は、実施例3の液晶配向構造において、液晶材料中に微粒子が混入されている場合を示している。
(2)実施例5の製造方法においては、実施例3における液晶材料としてのスメクチック液晶中に微粒子(シリカ微粒子、直径約500nm)が含有されている。この微粒子の含有は、スメクチック液晶を溝内に導入する前でも、スメクチック液晶を溝内に導入した後でもよい。微粒子としては、シリカ微粒子で、直径約500nmのものを用い、そのシリカ微粒子を液晶と微粒子混合物の全体に対して0.5重量%程度分散させた。
(3)図20は実施例5の製造方法により製造された液晶配向構造体についての透過型偏光顕微鏡像、図21はその液晶配向分布の模式図を示すものである。その図20図21によれば、上記の第3実施例の周期的な液晶配向構造の特異点(配向欠陥)であるフォーカルコニック領域の楕円焦点部にシリカ粒子が捕獲される内容を示した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の液晶配向構造体は、簡便な作製が要求される微細配列構造作製における鋳型や、より直接的には液晶光学素子、コロイドパターニング技術などに応用できる。
図1
図2
図3
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図6
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図10
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