特許第5939623号(P5939623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939623高結晶性のaLi2MnO3−(1−a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2系ナノ構造電極材料、および、エレクトロスピニング法によるその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939623
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】高結晶性のaLi2MnO3−(1−a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2系ナノ構造電極材料、および、エレクトロスピニング法によるその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20160609BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20160609BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20160609BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20160609BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/131
   H01M4/1391
   C01G53/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-73836(P2012-73836)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-206685(P2013-206685A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】周 豪慎
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−162685(JP,A)
【文献】 特開2004−288644(JP,A)
【文献】 特表2012−505520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い結晶性を有するaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2固溶体のナノ粒子から構成され、壁厚が数十nmから数百nmの中空状のチューブ形態の構造を有する構造体からなる、高結晶性のaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2系Liイオン電池用正極材料(ここで、上記化学式において、0<a<1、0≦x、y、z≦1であり、かつ、x+y+z=1である。)を導電助剤および結着剤と混合、ペースト化し、これを集電体に圧着させてなる、リチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
レクトロスピニング法によって、固溶体の組成に対応する金属塩と高分子成分を含む前駆体溶液から固溶体前駆体のファイバーを作製し、得られた前駆体ファイバーを高温で焼成することにより、正極材料を製造これを導電助剤および結着剤と混合、ペースト化し、集電体に圧着させることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極の製造方法
【請求項3】
正極として請求項1に記載の正極を用いることを特徴とする、リチウムイオン2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池用の電極材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題が盛んに取り上げられ、持続的発展可能な社会を実現するために、クリーンエネルギーデバイスの開発が活発に行われている。その中で、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車用の蓄電電池開発において、Liイオン電池の研究が注目され、大容量電極材料の開発が特に注目されている。また、車載用に適した高出力型特性の向上も望まれているのが現状である。
近年、Liイオン電池の高出力化のためにナノ電極材料を合成し、これを電池に用いることで高出力型特性が得られることを示す報告が多数ある(非特許文献1)。電極にナノ材料を用いることにより高出力化が得られるのは、電極を構成する固体活物質の粒子サイズをナノ化することにより、Liイオンが複数のナノ粒子間に存在する間隙を通って電極内を容易に移動することができ、また、固体活物質粒子内を拡散する距離が大きく減少することで、短時間で電極内の拡散が可能なためである。
また、Liの固体活物質への脱挿入により電極の体積変化が大きな活物質では、これが電池特性のサイクル劣化を引き起こす要因となっていたが、固体活物質のサイズがナノ化されることによって、電極の体積変化が緩和され、電池のサイクル特性が向上することが期待される。
また、大容量材料の開発においては、aLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体が、大容量正極特性を示すものとして、近年注目されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-285372
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nano active materials for lithium-ionbatteries, Y. G. Wang et al., NANOSCALE 2, 1294-1305, 2010
【非特許文献2】Detailed Studies of a High-Capacity Electrode Material forRechargeable Batteries, Li2MnO3-LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2,N. Yabuuchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 4404-4419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、ナノ材料は、車載用に用いられるような高出力型Liイオン電池用の電極材料として注目を集めている。
しかしながら、多くのナノ粒子は凝集しやすくナノ材料としての特性を発揮しにくいうえ、ハンドリングも困難である。
また、多くのナノ粒子は結晶性が低いことも懸念される。結晶性が低いと、電極材料として用いた場合、安定な充放電電位を示すことが困難である。また、高い結晶性の材料を得るためには、高温での熱処理が通常行われるが、一般にナノ粒子材料を高い温度で熱処理すると、結晶性は向上するが、大きく粒成長もしてしまい、ナノ粒子としての特性が失われる。
本発明者らは、高い結晶性を有するナノ材料として、単結晶ナノワイヤーを電極材料に用いることを研究してきた(特許文献1)が、単結晶ナノワイヤーの電極材料への利用を現実化するためには、単結晶ナノワイヤーを大量に簡易に合成するためのプロセスを開発する必要がある。
また、上述のaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体は、大容量のため、多くのLiの脱挿入が起こり得、電極材料への利用が期待されるが、一方で、多量のLiの脱挿入による体積変化による劣化が懸念されることに加え、初期の充電過程で脱ガスを含む反応が起こり、この反応による活性化が大容量特性の発現に重要であると考えられており、この活性化過程での体積変化もサイクル劣化に繋がる可能性が高い。
したがって、aLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体を電極材料として利用するためには、当該固溶体のサイズをナノ化することで、充放電の際の体積変化を緩和し、サイクル特性の向上を実現することが考えられる。しかしながら、従来の単結晶ナノワイヤーの作製に用いられた水熱法を用いて固溶体のナノワイヤーを作製するのは困難であり、このような固溶体系材料をナノ構造制御する適切な技術は知られていない。
【0006】
そこで、本発明は、aLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体のナノ構造制御を行う方法を見出すこと、そして得られたaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体のナノ粒子を電極材料として利用することにより、サイクル劣化の少ない大容量のリチウムイオン電池を構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エレクトロスピニング法を用いることにより、
aLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体の、高い結晶性を有するナノ粒子が簡単に製造できることを見出し、これを電極材料として用いることで、サイクル劣化の少ない、大容量のリチウムイオン電池を構成できることを見出した。
エレクトロスピニング法は、金属化合物のゾル−ゲル溶液やMOD溶液に高分子を溶かし、電圧を印加することによってファイバー状の前駆体を得る手法であり、これを焼成することでファイバー状の金属酸化物等の材料を得ることができる。
具合的には、本発明のLiイオン電池用電極材料に用いられる固溶体は、
aLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2(ここで、上記化学式において、0<a<1、0≦x、y、z≦1であり、かつ、x+y+z=1である。)の組成を有する。
当該固溶体の組成に対応する金属塩の溶液に高分子成分を加えて、固溶体前駆体の溶液を調製し、当該溶液にエレクトロスピニング法を適用して、固溶体前駆体のファイバーを作製する。
次いで、エレクトロスピニング法によって得た上記固溶体前駆体のファイバーを高温で焼成することにより、高い結晶性を有する上記固溶体のナノ粒子から構成され、壁厚が数十nmから数百nm程度の中空状のチューブ形態の構造を有する材料を作製する。
これを正極材料として用いることにより、高容量電極特性を示すLiイオン電池を作製することができる。
上記方法により得られる固溶体ファイバーは、壁の厚みが薄い中空状であるため、高温での熱処理時において物質の供給がバルクの場合よりも2次元的になり、このため、これを構成するナノ粒子が大きく粒成長をすることが抑制されたものと考えられる。また、当該固溶体ファイバーは、中空状のチューブ形態を構成することによってナノ粒子同士が2次元的に繋がっていることにより、Liイオン電池電極とした場合に、粒子同士の伝導性が向上し、抵抗の増大を避けることができるので、高出力型電池の電極材料に適している。たとえ電極の作成過程等において、当該チューブ状の形態が壊れたとしても、断片的なシートとしてこの2次元的なナノ粒子の繋がりは残ると考えられる。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、具体的には、以下の発明を提供するものである。
〈1〉高い結晶性を有するaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2固溶体のナノ粒子から構成され、壁厚が数十nmから数百nm程度の中空状のチューブ形態の構造を有する1次元構造体からなる、高結晶性のaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2系Liイオン電池用電極材料。
(ここで、上記化学式において、0<a<1、0≦x、y、z≦1であり、かつ、x+y+z=1である。)
〈2〉エレクトロスピニング法によって、固溶体の組成に対応する金属塩と高分子成分を含む前駆体溶液から固溶体前駆体のファイバーを作製し、得られた前駆体ファイバーを高温で焼成することを特徴とする、〈1〉に記載の電極材料の製造方法。
〈3〉〈1〉に記載の電極材料を電極活物質として含有する、Liイオン電池用電極。
〈4〉電極として〈3〉に記載の電極を用いることを特徴とする、リチウムイオン2次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、エレクトロスピニング法を用いることによって、簡易に、高い結晶性を有するaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体系ナノ構造電極材料を作製できる。また、このようにして得られた固溶体系ナノ構造電極材料を正極材料として用いることにより、サイクル劣化の少ない、大容量のリチウムイオン電池を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】エレクトロスピンニングにより得られた前駆体ファイバーのSEM像。
図2】前駆体ファイバーを熱処理して得られた固溶体材料のXRD。
図3】前駆体ファイバーを熱処理して得られた固溶体材料のSEM像。
図4】前駆体ファイバーを熱処理して得られた固溶体材料のTEM像。
図5】固溶体材料を用いたLiイオン電池の電流密度10mA/gでの充放電曲線とサイクル特性。
図6】固溶体材料を用いたLiイオン電池の電流密度30mA/gでの充放電曲線とサイクル特性。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、詳述する。
本発明の電極材料として用いられるaLi2MnO3-(1-a)Li(Nix,Coy,Mnz)O2の固溶体としては、この組成に該当するものであれば特に制限はないが、例えば、
0.5Li2MnO3-0.5LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2固溶体、0.5Li2MnO3-0.5LiNi0.5Mn0.5O2固溶体などが挙げられる。
また、本発明において、固溶体の前駆体溶液に加える高分子成分としては、エレクトロスピニング法によりファイバー化される高分子であれば特に制限はないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエステルなどが用いられる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例および比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら制約されるものではない。
【0013】
実施例1.
酢酸リチウム(0.400M)、酢酸ニッケル四水和物(0.044M)、酢酸コバルト四水和物(0.044M)、酢酸マンガン四水和物(0.178M)、ポリビニルアルコール(1.5g)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(0.05g)をイオン交換水(15ml)、エタノール(4ml)、酢酸(1ml)に入れ、90℃にて1時間エージングし、室温で撹拌することで前駆体溶液を得る。
得られた前駆体溶液を用いて、カトーテック株式会社製ナノファイバーエレクトロスピニングユニットにより20kVの電圧を印加し、0.2mm/minのシリンジ速度で溶液を押し出し、アルミホイルコレクターにファイバーを収集する。100℃において1時間、真空乾燥を行った後、ファイバーをアルミホイルコレクターから剥がす。剥がしたファイバーのSEM像を図1に示す。
剥がしたファイバーを電気炉を用いて800℃、3時間の熱処理を行うことで
0.5Li2MnO3-0.5LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2固溶体系正極材料を得た。図2に得られた材料のXRDパターンを示す。図2のXRDは、固溶体に起因するパターンを示し、シャープなピークから、その結晶性が高いことが分かる。
また、得られた材料のSEM像およびTEM像を、図3図4に示す。図3から分かるように、得られた固溶体は、全体として中空状のチューブ形態を有しており、その壁厚は、図4の上および下の像から見て数十nmから数百nm程度であることが分かる。また、図4の中央の像から、当該壁は、相互に2次元的に繋がった粒子から構成され、一つ一つの粒子は数十nmから100nm程度の径のナノ粒子であることが分かる。
【0014】
実施例2.
実施例1により得られた固溶体系正極材料(75%)と導電助剤であるアセチレンブラック(20wt%)および結着剤のテフロン(登録商標)(5wt%)を混合し、ペースト化を行った。このペーストをAlメッシュ集電体にプレスし、これを電極とした。対極に金属Li、セパレーターにポリプロピレン膜、1MのLiPF6をエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒に溶解した有機電解液を用い、2032型コインセルを不活性ガスであるアルゴンを充填したグローブボックス内で作製した。充放電特性は電流密度10mA/gおよび30mA/gで評価した。
それぞれの電流密度で充放電を行ったときの充放電曲線とサイクル特性を、図5、6に示す。図5中、(a)、(b)は、電流密度10mA/gで充放電を行ったときの充放電曲線とサイクル特性であり、図6中、(c)、(d)は、電流密度30mA/gで充放電を行ったときの充放電曲線とサイクル特性である。
いずれの電流密度においても、最初の充電において、固溶体系の最初の充電に特徴的な4.5V付近のプラトーを有する充電曲線を示している((a)、(c))。また、放電時には、3V付近にショルダーを有し((a)、(c))、200mAhg-1を超える安定した放電容量を示している((b)、(d))。これに対し、従来のLiCoO2やLiMn2O4を電極材料とするLiイオン電池の放電容量は、150mAhg-1程度であることが知られており、本発明の電極材料を用いることにより、大容量のLiイオン電池が得られたことが示される。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の大容量正極材料は、モバイル機器、定置型電源、自動車用電池等様々な用途で利用される電池の正極材料として利用される。
図2
図5
図6
図1
図3
図4