【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[多孔質TiO
2電極の作製]
FTO膜付きの導電性ガラス基板であるFTOガラス基板(LOF Tec7、商品名、日本板硝子社製)を25mm×75mm角に切り出し、最超音波バスを使って50mMの塩酸で5分間、アセトンで5分間洗浄した後、再度、塩酸とアセトンで、それぞれ15分間ずつ洗浄した。洗浄が終わった後、水とエタノールで丁寧に洗い流し、乾燥させた後、18分間、UV−O
3システムにより残った有機物を処理した。そして、UV−O
3処理後のFTOガラス基板を40mMのTiCl
4水溶液の中に入れ、70℃で30分間保持した後、取り出して水とエタノールで洗い流すことにより、FTOガラス基板を作製した。
次に、FTOガラス基板の上に、スクリーン印刷によって、粒子サイズ20〜30nmのTiO
2のペースト(PST−30NRT、商品名、日揮触媒化成社製)を塗布し、乾燥・焼成して、透明層を形成した。この塗布、乾燥・焼成作業は、透明層の膜厚が最終的に9μmになるように3回にかけて行った。
次に、前記透明層の上に、粒子サイズ400nmのTiO
2のペースト(PST−400C、商品名、日揮触媒化成社製)をスクリーン印刷によって塗布し、乾燥・焼成して、膜厚4−5μmの光散乱層を形成させた。次に、こうして作製したTiO
2電極を電気炉に入れて、325℃で5分間、375℃で5分間、450℃で15分間、最後に500℃で15分間、乾燥、焼成させて、FTOガラス基板の上に2層からなる多孔質TiO
2膜を形成させた。電気炉からTiO
2電極を取り出した後、再度、40mMのTiCl
4水溶液の中にTiO
2電極を入れ、70℃で30分間保持した後、取り出して水とエタノールで洗い流した後、使用するまで50mMの塩酸に浸して保存した。使用する際に塩酸から取り出したTiO
2電極はエタノールで塩酸を洗い流してから、ヒートガンを用いて500℃で30分間焼成させた。80℃まで空冷した後、焼成したTiO
2電極を、0.3mMのSG1051色素を含むアセトニトリル・バレロニトリル(1:1)混合溶液に、室温で1時間浸漬させて色素の吸着を行った。色素吸着後、電極を溶液から引き上げ、未吸着の色素を除去するためにアセトニトリルで洗浄した。これにより、SG1051色素をTiO
2粒子に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。
【0041】
[Pt対極の作製]
FTOガラス(LOF Tec7、商品名、日本板硝子社製、厚さmm)を12mm×12mm角の大きさに切り取った。ハンドドリル(U−hobby、商品名、浦和工業社製)でFTOガラスの1つの角から8mm×8mmの位置に直径1mmの貫通孔を開けた。この貫通孔を開けたFTOガラスからガラス片などのゴミを取り除くために水で10分間洗浄した。次に50mMの塩酸で5分間洗浄し、アセトンで洗い流した後にアセトンで5分間洗浄した。この洗浄の後、再び50mMの塩酸とアセトンでそれぞれ15分ずつ洗浄した。洗浄し終わったFTOガラスは水で丁寧に洗浄した後、使用するまで50mMの塩酸に浸して保存した。使用する際に塩酸から取り出したFTOガラスはクリーンボックスに置き、自然乾燥させた後、H
2PtCl
6溶液(1mlのエタノール中、2mgのPtを含む。)を1滴垂らしてFTOガラスに塗布し、ヒートガンを用いて400℃で15分間加熱して、PtをFTOガラスに0.5〜5nm被覆したPt対極を作製した。
【0042】
[色素増感型太陽電池の作製]
前記多孔質TiO
2電極(サイズ:0.25cm
2)とPt対極を互いに向い合せ、それらの間に封止材(メインシール材)としてアイオノマー樹脂からなるホットメルトガスケット(Surlyn1702、商品名、厚さ25μm、デュポン社製)を挟み込み、これを温度250℃で1〜3分間加熱して、前記多孔質TiO
2電極とPt対極を接着した。前記封止材の幅は1mmとし、設けられた開口はTiO
2電極よりも2mm大きいサイズとした。
Pt対極の貫通孔は、ホットシーラーを用いて別の封止材を250℃で1〜3分間加熱して封止した。この封止後、針を用いて当該封止材に貫通孔を開けた。そして、この貫通孔に電解液を1滴垂らし、小さいヴァキュームチャンバーに置き、その電解液を逆真空移入によってセルの中に入れた。最後に、貫通孔をホットメルトアイオノマーにより、温度250℃で1〜3分間で封止し、さらにカバーガラスで封着して、サンドイッチ型の色素増感型太陽電池を作製した。
なお、後述する各測定のセットアップとして、接続部のTiO
2膜を取り除き、電気接触を良くするために、FTOガラスの外端を紙やすり又はフィルムで少し削った。はんだはFTO電極の両方に塗った。はんだの位置は、前記ガスケットの端から1mm外側、すなわち、TiO
2層の端から4mm外側とした。また、散乱光を減少させるために、ブラックプラスチックタイプのマスクを、組み立てたセルに貼った。セル反射防止フィルム(アークトップ、商品名、旭硝子社製)フィルタに貼った。
【0043】
前記電解液には、0.75Mの1−エチルー3−メチルイミダゾリウムヨージド、0.75Mの1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、0.2Mのグアニジンチオシアネート、0.2MのN−ブチルベンゾイミダゾール、0.1Mのヨウ素を含む1−エチルー3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート溶液を用いた。
【0044】
[熱耐久性試験]
SG1051色素を使用して作製した上記色素増感型太陽電池を120℃の恒温炉(AS ONE)に入れ、当該太陽電池の光電特性(開放電圧(open circuit voltage)(V)、短絡電流密度(short circuit current density)(mA/cm
2)、フィルファクター(fill factor)、変換効率(efficiency)(%))の経時変化を調べることにより、色素増感型太陽電池の熱耐久性を評価した。変換効率(%)は、(開放電圧×短絡電流×フィルファクター)/入射光のエネルギーにより求めた。また、SG1051色素の代わりに、Z907色素(Ru(4,4’−ジカルボキシレート−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン)(NCS)
2)を用いて、前記と同様にして作製した色素増感型太陽電池を比較対照とした。これらの結果を
図1〜
図4に示す。
図1は色素増感型太陽電池の開放電圧の経過時間に対する変化を示す図、
図2は色素増感型太陽電池の短絡電流密度の経過時間に対する変化を示す図、
図3は色素増感型太陽電池のフィルファクターの経過時間に対する変化を示す図、
図4は色素増感型太陽電池の変換効率の経過時間に対する変化を示す図である。
【0045】
[光電特性の測定]
色素増感型太陽電池の光電特性は、450Wキセノンランプの装備されたAM 1.5のソーラーシミュレーター(山下電装社製)を使用して、色素増感型太陽電池の電極間の負荷を変化させたときの電流値と電極間電圧をプロットして得られる電流−電圧曲線により測定した。擬似光とAM 1.5の誤差を2%以下に抑えるために、IRカットオフフィルター装備の参照Si光ダイオード(分光計器社製)を使用し、擬似光の出力は100mW/cm
2とした。電流−電圧曲線は、外部バイアスを色素増感型太陽電池に印加し、発生した光電流をデジタルソースメーター(ADCMT)で測定することによって作成した。電圧ステップは10mVに設定した。また、光電流の遅延時間は500msに設定した。
【0046】
[光電特性の評価]
図1〜
図4に示した結果からわかるように、加熱開始より約30時間後までは、Z907色素とSG1051色素をそれぞれ用いた色素増感型太陽電池は同様の光電特性を示しているが、200時間を超えると、Z907色素から作製した色素増感型太陽電池の性能が著しく低下することが判明した。また、SG1051色素においては、500時間程度ならば120℃でも動作することが判明した。これらの結果から、SG1051色素の方が、Z907色素よりも優れた熱耐久性を示すことが確認できた。120℃の高温環境下で、Z907色素は多孔質TiO
2膜から脱離しているが、SG1051色素は相互に重合することで、一部の色素が多孔質TiO
2膜から脱離しても色素同士で結合しているために、多孔質TiO
2膜から完全に脱離することがなかったと考えられる。
【0047】
[色素の吸着力試験]
N719色素(RuL
2(NCS)
2・2TBA:L=2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート、TBA=テトラ−nーブチルアンモニウム) 、Z907色素、SG1051色素がそれぞれ担持された多孔質TiO
2電極について、後述するように、水酸化ナトリウム水溶液(又は水酸化ナトリウム水溶液及びアセトニトリル)による処理の前後の吸光度を測定して、各色素と多孔質TiO
2電極の吸着力の強さを比較検討した。TiO
2電極の吸光度測定は、吸光度測定器で波長(380−800nm)の単色光を照射し、その単色光に対する反射を測定することにより行った。
TiO
2電極の吸光度を測定して、吸光度が減少していれば、色素が脱離していることを示し、吸光度の変化の程度により、色素と多孔質TiO
2電極の吸着力の強さを比較することができる。なお、水酸化ナトリウムは色素をTiO
2表面から脱離することに有効な試薬である。
【0048】
[N719色素の吸着力]
0.5mMのN719色素を含むアセトニトリル/tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶液に、前述と同様にして作製した色素吸着前のTiO
2電極(1cm×1cm角)を20℃で24時間浸漬させることにより、N719色素を多孔質TiO
2膜に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。その後、このTiO
2電極の吸光度を測定した。次に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させた後、水で洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。水酸化ナトリウム溶液への浸漬は、30秒間行った。結果を
図5に示す(横軸は波長で単位はnm、縦軸は吸光度を表す)。
【0049】
[Z907色素の吸着力]
0.3mMのZ907色素を含むアセトニトリル/tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶液に、前述と同様にして作製した色素吸着前のTiO
2電極(1cm×1cm角)を室温で20時間浸漬させることにより、Z907色素を多孔質TiO
2膜に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。その後、このTiO
2電極の吸光度を測定した。次に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させた後、水で洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。水酸化ナトリウム溶液への浸漬は、30秒間行った。結果を
図6に示す(横軸は波長で単位はnm、縦軸は吸光度を表す)。
【0050】
[SG1051色素の吸着力]
0.3mMのSG1051色素を含むアセトニトリル/tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶液に、前述と同様にして作製した色素吸着前のTiO
2電極(1cm×1cm角)を室温で1時間浸漬させることにより、SG1051色素を多孔質TiO
2膜に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。その後、このTiO
2電極の吸光度を測定した。次に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させた後、水で洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。水酸化ナトリウム溶液への浸漬は、30秒間行った。さらに、水酸化ナトリウム溶液への当該浸漬後、アセトニトリルで洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。結果を
図7に示す(横軸は波長で単位はnm、縦軸は吸光度を表す)。
【0051】
[125℃で加熱したSG1051色素の吸着力]
0.3mMのSG1051色素を含むアセトニトリル/tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶液に、前述と同様にして作製した色素吸着前のTiO
2電極(1cm×1cm角)を20℃で1時間浸漬させることにより、SG1051色素を多孔質TiO
2膜に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。その後、このTiO
2電極を125℃で1分間加熱してTiO
2電極の吸光度を測定した。次に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させた後、水で洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。水酸化ナトリウム溶液への浸漬は、30秒間行った。さらに、水酸化ナトリウム溶液への当該浸漬後、アセトニトリルで洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。結果を
図8に示す(横軸は波長で単位はnm、縦軸は吸光度を表す)。
【0052】
[250℃で加熱したSG1051色素の吸着力]
0.3mMのSG1051色素を含むアセトニトリル/tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶液に、前述と同様にして作製した色素吸着前のTiO
2電極(1cm×1cm角)を室温で1時間浸漬させることにより、SG1051色素を多孔質TiO
2膜に担持させた多孔質TiO
2電極を作製した。その後、このTiO
2電極を250℃で1分間加熱してTiO
2電極の吸光度を測定した。次に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬させた後、水で洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。水酸化ナトリウム溶液への浸漬は、30秒間行った。さらに、水酸化ナトリウム溶液への当該浸漬後、アセトニトリルで洗浄し乾燥させたTiO
2電極の吸光度を測定した。結果を
図9に示す(横軸は波長で単位はnm、縦軸は吸光度を表す)。
【0053】
[色素吸着力の評価]
図5〜
図9に示した結果から、SG1051色素は、N719色素やZ907色素とは異なり、水酸化ナトリウム溶液では脱離しないことがわかるが、その後さらに有機溶媒(アセトニトリル)で洗浄するとSG1051色素は脱離することが判明した。さらに、水酸化ナトリウム溶液及び有機溶媒(アセトニトリル)で洗浄する前に、一度250℃で加熱することでSG1051色素間の重合が進み、SG1051色素がより脱離しない状態になることが判明した。本発明のSG1051色素は、多孔質TiO
2電極に強く吸着されているため、色素増感型太陽電池の特性低下の主要因である色素脱離が少なく、したがって、色素増感型太陽電池の熱耐久性を向上させる色素として非常に有用であることが確認された。