特許第5940010号(P5940010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940010表面粗化処理銅箔及びその製造方法、並びに回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940010
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】表面粗化処理銅箔及びその製造方法、並びに回路基板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20160616BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20160616BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20160616BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20160616BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C25D7/06 A
   C25D3/38 101
   H05K1/09 A
   H05K3/38 B
   C25D5/50
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-64384(P2013-64384)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-227668(P2013-227668A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73356(P2012-73356)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭利
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−170829(JP,A)
【文献】 特開2005−340382(JP,A)
【文献】 特開2007−059892(JP,A)
【文献】 特開2010−141227(JP,A)
【文献】 特開2010−236058(JP,A)
【文献】 特開平06−237078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理銅箔の少なくとも片面に表面粗化処理層を施した銅箔であって、該銅箔を300℃で1時間加熱し、JIS C 5016−1994の付図4に記載のライン/スペース=1.5mm×1.0mmの回路に加工した後、屈曲速度1500回/分、ストローク長さ20.0mm、曲率半径1.0mmの条件で、IPC屈曲試験(IPC規格TM−650に準拠)を行った結果、耐屈曲回数が11,000回以上であり、かつ、該表面粗化処理層を施した銅箔を300°Cで1時間加熱した後の粗化粒子を構成する銅の平均結晶粒径が0.5μm以上で、表面積比が1.1〜5.0である表面粗化処理銅箔。
ここで、表面積比とは、銅箔の表面に上記粗化処理を行い、その後、上記加熱処理したことより銅箔の結晶組織が粗大化して銅箔の表面積がどの程度変化したかを示す銅箔の表面積の変化の比率を言う。
【請求項2】
前記300℃で1時間加熱した後の当該表面粗化処理銅箔の0.2%耐力が160N/mm2以下である請求項1に記載の表面粗化処理銅箔。
【請求項3】
前記表面粗化処理層の上に、Ni、Zn、Cr、Co、Mo、Pの単体、またはそれらの合金、またはそれらの水和物の少なくとも1種類以上が含まれる表面保護層が形成されている請求項1又は2に記載の表面粗化処理銅箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の表面粗化処理銅箔の製造方法であって、
前記未処理銅箔の少なくとも片面を、チオ尿素、エチレンチオ尿素、または、チオセミカルバジドが0.001mmol(ミリモル)/L(リットル)〜0.1mmol/L添加された電解液で表面粗化処理し、少なくとも片面に表面粗化処理層を有する銅箔を製造する表面粗化処理銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記表面粗化処理層の上に、Ni、Zn、Cr、Co、Mo、Pの単体、またはそれらの合金、またはそれらの水和物の少なくとも1種類以上が含まれる表面保護層を形成する請求項4に記載の表面粗化処理銅箔の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の表面粗化処理銅箔にフィルムを貼り付けてなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲性、可撓性、耐熱性に優れた表面粗化処理銅箔に関するもので、特に耐熱性、可撓性に優れた回路基板、例えばフレキシブルプリント配線板(以下FPCと略す)用に適した表面粗化処理銅箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のFPCは通常2種類に分けられる。一つは、絶縁フィルム(ポリイミド、ポリエステル等)に銅箔を接着樹脂で張り付け、エッチング処理してパターンを施したものである。このタイプのFPCを通常三層FPCと呼んでいる。これに対してもう一つのタイプは、接着剤を使用せずに絶縁フィルム(ポリイミド、液晶ポリマー等)と直接銅箔を積層したFPCである。これを通常二層FPCと呼んでいる。
FPCの主な用途は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用、或いはカメラ、AV機器、パソコン、コンピューター端末機器、HDD、携帯電話、カーエレクトロニクス機器等の内部配線用である。これらの配線は機器に折り曲げて装着し、或いは繰り返して曲げられるような箇所に使用されるため、FPC用銅箔に対する要求特性として、屈曲性に優れていることが一つの重要な特性である。
【0003】
FPC用銅箔には大きく分けて2種類ある。一つは鋳造により製造した銅の鋳塊に圧延加工を施して箔状とした圧延銅箔である。もう一つは電解銅箔である。
これらの未処理銅箔には表面処理が施されている。
【0004】
FPC用銅箔には上述したように屈曲性が要求されるため、従来は圧延銅箔の使用割合が高かった。圧延銅箔はFPC製造時、銅箔とポリイミドの張り合わせ工程で加熱される120〜160℃という比較的低温で焼鈍されて軟化が起こり、屈曲性や伸びが大きくなるという特徴を有するからである。
しかし圧延銅箔は電解銅箔に比較して高価であり、特に12μm、9μmといった薄物になるほど飛躍的にコストが上昇する。これは薄物を作る場合、厚い銅箔を何回にも渡って圧延を繰り返して製造するためである。また圧延で製造される銅箔の幅は通常600mm程度と狭く、FPC製造時の生産性が悪いという欠点がある。
【0005】
これに対して、電解銅箔は圧延銅箔に比べて安価であり、通常1,000mm以上の幅の銅箔を製造することが可能であり、FPC製造時の生産性に優れる利点がある一方、従来の製造方法で製造された電解銅箔は、圧延銅箔に比べ200℃以上に加熱しても焼鈍、軟化せず、屈曲性が悪く、FPC用の銅箔としては使用用途が限られていた。
このような電解銅箔の欠点を解消し、屈曲性に優れた銅箔の開発がなされ(特許文献1参照)、電解銅箔の屈曲性は圧延銅箔と同等レベルまで引き上げられた。
【0006】
一方、近年の電子機器の技術革新は目覚しいものがあり、機器のコンパクト化が進む一方で、これらの機器に用いられるFPCも、それに対応するため、多ピン化、ファインピッチ化が急速に進んでおり、そのような要望を満足させると共にその信頼性を向上させるために、より屈曲寿命の長い銅箔が要求されてきている。
【0007】
上述したようにFPCに要求される特性、あるいは絶縁フィルム(ポリイミド、ポリエステル、液晶ポリマー等)上に、銅箔を張り付けた銅張積層板(以下、CCLと略記することがある)に回路を形成するプリント配線板に要求される特性は、耐屈曲性、可撓性、耐熱性に優れた表面粗化処理銅箔である。
【0008】
FPCに使用する圧延銅箔、電解銅箔は共に、絶縁フィルムとの接着力を上げるために銅箔の少なくともフィルムと接着する面に銅粒をめっきにより付着する粗化処理を施し、もう一方の面は防錆或いは耐熱変色を抑える目的の亜鉛めっき処理、クロメート処理等を施している。
なお、電解銅箔の場合は、通常M面に粗化処理を施し、S面には、通常粗化処理はせず、防錆或いは耐熱変色を抑える目的で亜鉛めっき処理、クロメート処理等を施している。
【0009】
CCL製造時には、この粗化処理面に接着樹脂を介してフィルムを熱圧着させ(三層FPC)、或いは接着樹脂を介さず粗化処理面に直接キャスティング或いは熱圧着法により、絶縁フィルムを積層(二層FPC)してCCLを作成する。
作成したCCLにエッチング法により回路を形成し、回路側に絶縁フィルムのカバーレイを接着してFPCとする。
【0010】
このようにして作成したFPCは折り曲げられて装着され、或いは繰り返して曲げられる箇所に使用される。従って、FPC用銅箔は、屈曲性に優れていることが必要である。
【0011】
なお、屈曲性の評価試験方法としては、JIS C 5016−1994に記載されている耐折性試験、あるいはIPC規格TM−650に記載されている耐屈曲性試験等がある。この内、IPC規格TM−650に記載の耐屈曲性試験は、FPCが使用される実際の曲げモードに近い試験方法と言われており、一般的に使用されている。本明細書における表面粗化処理銅箔の屈曲性試験はこのIPC規格TM−650に記載された試験法方にて測定している。
【0012】
上記のような耐屈曲性試験によりFPCの屈曲試験を行うと、屈曲回数が多くなるに従い銅箔表面から亀裂が入り、その亀裂を起点にして最終的には銅箔が破断する。
亀裂が入る過程を詳細に観察すると、図2に模式図で示すように粗化処理の粒界から先ず亀裂が入り、屈曲を繰り返すことで亀裂は銅箔内部に進行し、図3に示すように箔の破断に至る。
【0013】
この現象について解析を行ったところ、粗化処理で施した粗化粒子は銅箔表面に細かい結晶として箔表面に密集していて靭性が低く、このため粗化処理層の凹凸の谷部が起点となってクラックが発生し(図2参照)、屈曲が繰り返されるに従って起点となるクラックから破断が始まる、との見解を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−236058号公報
【特許文献2】特開平6−237078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記見解に基づき、従来の電解銅箔の屈曲寿命をさらに高めることを目的に鋭意研究し、本発明を完成させた。
本発明は絶縁フィルムと接着する接着性に優れ、かつ、絶縁フィルムと接着後の耐屈曲性に優れるフレキシブルプリント配線板用銅箔を提供することを目的とする。
また、本発明は絶縁フィルムと接着する接着性に優れ、かつ、絶縁フィルムと接着後の耐屈曲性に優れる回路基板、特にフレキシブルプリント配線板用銅箔とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の表面粗化処理銅箔は、未処理銅箔の少なくとも片面に表面粗化処理層を施した銅箔であって、該銅箔を300℃で1時間加熱し、JIS C 5016−1994の付図4に記載のライン/スペース=1.5mm×1.0mmの回路に加工した後、屈曲速度1500回/分、ストローク長さ20.0mm、曲率半径1.0mmの条件で、IPC屈曲試験(IPC規格TM−650に準拠)を行った結果、耐屈曲回数が11,000回以上であり、かつ、該表面粗化処理層を施した銅箔を300°Cで1時間加熱した後の粗化粒子を構成する銅の平均結晶粒径が0.5μm以上で、表面積比が1.1〜5.0である表面粗化処理銅箔である。
ここで、表面積比とは、銅箔の表面に上記粗化処理を行い、その後、上記加熱処理したことより銅箔の結晶組織が粗大化して銅箔の表面積がどの程度変化したかを示す銅箔の表面積の変化の比率を言う。
【0017】
好ましくは、300℃で1時間加熱した後の当該表面粗化処理銅箔の0.2%耐力が160N/mm2以下である。
【0018】
前記表面粗化処理層の上に、Ni、Zn、Cr、Co、Mo、Pの単体、またはそれらの合金、またはそれらの水和物の少なくとも1種類以上が含まれる表面保護層が形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の表面粗化処理銅箔の製造方法は、上記表面粗化処理銅箔の製造方法であって、前記未処理銅箔の少なくとも片面を、チオ尿素、エチレンチオ尿素、または、チオセミカルバジド尿素が0.001mmol/L〜0.1mmol/L添加された電解液で表面粗化処理し、少なくとも片面に表面粗化処理層を有する銅箔を製造する表面粗化処理銅箔の製造方法である。
【0020】
本発明の回路基板は、本発明の表面粗化処理銅箔にフィルムを貼り付けてなる回路基板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面処理銅箔は、絶縁フィルムと接着する接着性に優れ、かつ、絶縁フィルムと高温での接着後の耐屈曲性に優れる回路基板用、特にフレキシブルプリント配線板用の表
面粗化処理銅箔を提供することができる。
また、本発明は絶縁フィルムと接着する接着性に優れ、かつ、絶縁フィルムと高温での接着後の耐屈曲性に優れるフレキシブルプリント配線板用銅箔の製造方法を提供することができる。
更に、本発明は耐屈曲性に優れたフレキシブルプリント配線板(FPC)等の回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の表面処理銅箔を説明するための模式図である。
図2図2は表面処理銅箔にクラックが発生する起点を示す模式図である。
図3図3は表面処理銅箔の破断状態を示す模式図である。
図4】粗化粒子の平均間隔、平均粒径の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、表面処理を施していない電解銅箔、圧延銅箔(以下、未処理銅箔又は単に銅箔と表現することがある)の少なくとも片面に、粒状又は柱状の結晶組織からなる表面処理層が設けられている回路基板(例えばフレキシブルプリント配線板)用銅箔である。
本発明において未処理電解銅箔は、電解銅箔、圧延銅箔いずれでもよく、製箔後の再結晶処理で結晶粒が粗大化する銅箔であれば何れでもよい。
【0024】
図1は表面処理銅箔の結晶組織を説明するための模式図であり、図1(イ)は未処理銅箔1に表面処理を施して粗化粒子2を付着させた状態を示している。この粗化処理した表面処理銅箔を再結晶処理すると、通常の粗化処理方法で粗化処理した表面粗化銅箔は図1(ロ)に示すように銅箔1は再結晶するが粗化粒子2は再結晶しない。
本発明の表面処理銅箔は、図1(ハ)に示すように、粗化処理後に再結晶処理を施すと粗化粒子も銅箔と共に再結晶し、結晶組織が粗大化して銅箔本体と表面粗化粒子とが一体化される。
このように、銅箔本体と表面粗化処理粒子とが一体化して結晶組織が粗大化する。従ってこの銅箔に繰り返し屈曲作用を施し、粗面表面凹凸の凹の部分に応力を集中させても、結晶組織が粗大化して靭性が向上し、亀裂が発生し難く、耐屈曲性に優れ、絶縁基板との接着性に優れる表面処理銅箔となると推考される。
【0025】
通常の粗化処理方法で表面処理した銅箔は表面処理した粒子が再結晶しない、或いはし難いため、銅箔本体の結晶組織が再結晶して粗大化しても表面の粗化粒子は粗大化しない(図1ロ参照)。従って、このような表面処理銅箔に再結晶処理を施しても耐屈曲性を向上させることは望めない。再結晶処理で表面粗化粒子が銅箔本体と共に再結晶し、結晶組織が粗大化することで、初めて耐屈曲性の良い電解銅箔を得ることができる。
なおここで言う通常の粗化処理方法とは、硫酸銅を主成分とし、無機添加剤を添加した浴でヤケめっき処理により行う手法である。無機添加剤として代表的なものはFe、W、Mo、Co、Ni、Crの金属イオンが挙げられる。
【0026】
再結晶処理で結晶組織が粗大化する粒子を施すには、チオ尿素系添加剤を添加した硫酸銅電解液で表面処理することで可能となる。このようにして表面処理を施した銅箔を再結晶処理することで、粗化粒子を構成する銅の結晶組織が粗大化し、銅箔本体と共に粗大化した結晶組織となる。
なお、上記粗化方法は一例であり、本発明においては、前記粗化方法により表面粗化された銅箔に限定されるものではない。
【0027】
銅箔に表面処理を施すめっき処理によっては形成される銅の結晶組織は、そのめっき液組成により柱状の結晶組織となる場合がある。しかし、未処理電解銅箔に施すめっきとしては、柱状組織のめっきは耐屈曲性が必要とされる場合には適さない。その理由は、銅箔に曲げ応力が加わったとき、柱状の結晶組織の場合、柱状の結晶粒界にそって亀裂がはいり、破断する確率が高いためである。
しかし、結晶組織が柱状粗化粒子も、該粗化粒子を再結晶させることで粒状の結晶組織とすることができる場合がある。このような場合には先ず柱状結晶組織の粗化処理を施し、次いで再結晶させて粒状結晶組織とすることができるので、柱状の結晶組織となる表面処理も有効である。
【0028】
本発明の銅箔は、好適には、表面処理銅箔の少なくとも一方の面の表面粗さRz(表面粗度)が0.5〜5.0μmであり、かつ、表面積比が1.1〜5.0の粗化処理層が設けられている。
ここで、表面積比とは、銅箔の表面に上記粗化処理を行い、その後、上記加熱処理したことより銅箔の結晶組織が粗大化して銅箔の表面積がどの程度変化したかを示す銅箔の表面積の変化の比率を言う。
なお、粗化処理および加熱処理を行う前の銅箔の表面、および、粗化処理および加熱処理を行った後の銅箔の表面には凹凸があるから、上記表面積比の算出に際しては、それらの銅箔の表面積を測定した領域を凹凸のない完全な平面として扱う。
前記表面処理銅箔の表面粗度Rzを0.5〜5.0μmとするのは、Rzが0.5μm以下では銅箔表面に張付ける絶縁フィルムとの間で十分な投錨効果が得られず、密着性に乏しいためであり、Rzが5.0μm以上では、配線を形成する際のエッチング時に、根残りが発生しやすくなり、エッチングファクターが低下するため好ましくないためである。
また、前記表面処理銅箔の表面積比を1.1〜5.0倍とするのは、表面積比が1.1倍以下では絶縁フィルムとの間で十分な投錨効果が得られず、密着性に乏しいためであり、5.0倍以上では粗面の粗さが粗く、そこから亀裂がはいる恐れがあるため、好ましくないからである。
【0029】
本発明における再結晶処理は、一般的な再結晶処理方法、例えば任意時間加熱処理する方法で施すことができる。また、再結晶処理としてFPCを製造する際の熱履歴を利用することもでき、例えば、ポリイミドフィルムと積層するための熱履歴として代表的な300℃、1時間を選択して再結晶することも可能である。
【0030】
本発明の銅箔は、300℃×1時間加熱した後の0.2%耐力が160N/mm以下であることが好ましい。0.2
%耐力が160/mm以上では靭性に乏しく、屈曲性が低下する不具合が生じるためである。なお、下限は100N/mm程度である。
【0031】
本発明の表面処理方法はチオ尿素系化合物を添加した硫酸銅電解液で電解処理する。
チオ尿素系化合物の添加量は0.1mmol/L以下、好ましくは0.001〜0.1mmol/Lである。添加量が0.1mmol/Lより多く添加すると粗化粒子の結晶組織が粗大化せず、軟化特性を示さなくなるので好ましくない。添加量が0.001mmol/L未満では、添加剤としての効果が発揮されず、粗化粒子が均一に電着しない。
【0032】
このようにして形成した表面粗化処理層は、250〜350℃で再結晶する。従って、250〜350℃で再結晶処理することで、銅箔本体と表面粗化処理層の結晶組織を一体化させることができる。また、ポリイミド基板と積層する場合のように積層温度が高い銅張積層板(二層構造、三層構造共に)製造時の加熱(例えば300℃×1時間)により再結晶することも可能である。
このように、再結晶して結晶組織が粗大化した銅箔は、FPCに曲げ応力がかかった場合でも銅箔に亀裂が入りにくく、銅箔の屈曲破断に至る屈曲回数が増える。従来手法で作成された粗化処理銅箔に対し、本発明の手法で作成された粗化処理銅箔は、後述するように加熱(300℃、1時間)後の屈曲回数が少なくとも10%増加する。
【0033】
本発明において、表面粗化処理層を施した銅箔の300℃×1時間加熱後のIPC屈曲試験(IPC規格TM−650)による耐屈曲回数は11,000回以上である。耐屈曲回数が11,000回以上と耐屈曲性に優れるのは銅箔表面が再結晶して結晶組織が粗大化し、銅箔に曲げ応力がかかった場合でも亀裂が入りにくく、銅箔の屈曲破断に至る屈曲回数が増えるためである。加熱処理しても再結晶しない結晶組織では、図2図3に示すように粗化粒子を構成する銅の粒界から亀裂が入るため、例えば無機添加剤を添加した粗化処理液で粗化処理した表面処理銅箔では11,000回以上の耐屈曲性を付与することはできない。
【0034】
本発明は、材料力学の観点から、銅箔を繰返して曲げるとき銅箔最外層に最も大きな応力が加わり、最外層の粒界から最初に亀裂が発生することに着目し、このメカニズムによる亀裂発生を抑制するため、最外層に加熱により再結晶する粒界を形成した。加熱後に結晶粒が粗大化(粗化粒子を構成する銅の平均結晶粒径0.5μm以上)することで靭性が向上し、耐屈曲に優れる表面処理銅箔となる。
このように最外層に加熱により再結晶する粒界を形成することで、粗化粒子を構成する銅の平均結晶粒径が0.5μm以上となり、耐屈曲回数が11,000回以上となる表面処理銅箔となる。
このように本実施形態の銅箔を用いたFPC製品は、今後益々厳しい屈曲性が求められるFPC製品に対して長期信頼性・長寿命を確保できる。
【0035】
本発明の表面粗化処理銅箔の表面に表面保護層を設けることで、粗化処理層表面を防錆し、耐熱性を高めることができる。
表面保護層としては表面粗化処理層上に設けることは勿論、粗化処理を施さない方の面にも同様に施すことが好ましい。
表面保護層としては、Ni、Zn、Cr、Co、Mo、Pの単体、またはそれらの合金、またはそれらの水和物の少なくとも1種類以上が含まれる層を施すことが好ましい。
【0036】
以下本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
粗化処理を行う銅箔(未処理銅箔)には、特開2008-13847の製法に順ずる電解銅箔(厚さ=7μm、以下電解銅箔Aと記載)、特開平8−283886の製法に順ずる電解銅箔(厚さ=7μm、以下電解銅箔Bと記載)、及び市販品の圧延銅箔(厚さ=7μm、タフピッチ銅、アズロール箔)を用いた。
【0037】
〈実施例1〜5〉
未処理銅箔は電解銅箔Aを使用し、下記条件で表面粗化処理した。
表面粗化処理は、表面処理浴組成1のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成1:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
チオ尿素=0.001〜0.1mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0038】
〈実施例6〉
未処理銅箔は電解銅箔Aを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成2のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成2:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
エチレンチオ尿素=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0039】
〈実施例7〉
未処理銅箔は電解銅箔Aを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成3のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成3:
Cu=787〜2360mmol(ミリモル)/L(リットル)
SO=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
チオセミカルバジド=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0040】
〈実施例8〉
未処理銅箔は電解銅箔Bを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成4のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成4:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
チオ尿素=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温: 40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0041】
〈実施例9〉
未処理銅箔に圧延銅箔を使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成5のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成5:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
チオ尿素=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃

次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0042】
<比較例1>
実施例1と同じ電解銅箔Aを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成6のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成6:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0043】
<比較例2〜4>
未処理銅箔は電解銅箔Aを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成7のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成7:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
無機添加剤(硫酸鉄七水和物)=0.001〜0.1mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0044】
<比較例5>
未処理銅箔は電解銅箔Bを使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成8のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成8:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
無機添加剤(硫酸鉄七水和物)=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm2
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0045】
<比較例6>
未処理銅箔は圧延銅箔を使用し、下記条件で表面処理した。
表面処理は、表面処理浴組成9のめっき液を使用してM面に2μmの厚さにめっきを行った。
電解浴組成9:
Cu=787〜2360mmol/L
2SO4=205〜2050mmol/L
Cl=424〜1410mmol/L
無機添加剤(硫酸鉄七水和物)=0.01mmol/L
電解条件:
電流密度=20〜60A/dm
浴温:40〜60℃
次いで表面処理した銅箔を300℃で1時間加熱して再結晶処理を行った。
【0046】
粗化粒子を構成する銅の結晶粒径の測定>
実施例1〜9、及び比較例1〜6で作成した再結晶加熱処理を行った銅箔の断面を走査型(SEM)電子顕微鏡で撮影し、ランダムに100個の粗化粒子を選別した。
選別した粗化粒子中に含まれる結晶粒の、長手方向(たとえば、図1(ハ)における矢印A−Aで示した元箔と垂直な方向、すなわち、粗大化した結晶粒の縦方向)の長さの平均値を算出した。結果を表1に記載した。
【0047】
<耐屈曲性評価試験片の作成>
実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した再結晶加熱処理を行った銅箔を、JIS C 5016−1994に記載されているライン/スペース=1.5mm/1.0mmの耐屈曲性試料を作成した。
【0048】
<耐屈曲性試験(IPC屈曲試験)>
実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した再結晶加熱処理を行った銅箔を耐屈曲性評価試験片(FPC)とし、信越エンジニアリング株式会社製FPC高速屈曲試験機SEK−31B2Sにセットし、IPC規格TM−650に規定する条件(屈曲速度1500回/分、ストローク長さ20.0mm、曲率半径1.0mm)で耐屈曲性の測定を行った。測定は、回路抵抗を経時的に測定し、破断するまでの回数をカウントした。
結果を表1に記載した。
【0049】
<0.2%耐力の測定>
実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した再結晶加熱処理を行った銅箔を、長さ6インチ、幅0.5インチの試験片に裁断し、引張試験機を用いて測定した。結果を表1に記載した。
【0050】
<粗化粒子の均一付着性>
実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した銅箔表面を走査型電子顕微鏡で撮影し、図4に示す方法で粗化粒子間の平均間隔を算出し粗化粒子の均一付着性を測定した。
図4(イ)に示すように撮影した写真に対角線を引く。
次いで図4(ロ)に示すように対角線を20μm間隔に区切り、その線にぶつかった、または接した粗化粒子の数及びその粒径を測定した。
測定した粗化粒子の平均サイズを算出した。
20μmから粗化粒子の粒径の合計値を引き、その値を(粗化粒子の数−1)で除し、平均間隔を算出した。
この手法で算出した粗化粒子間の平均間隔が0.5μm以下で、粗化粒子が隙間無く電着していると判断される条件を○とし、平均間隔が0.5μmより大きく、粗化粒子の付着にムラがあると判断される条件を×と判定し、その結果を表1に併記した。
【0051】
<表面積比の測定方法>
「表面積比」は上記のとおり、銅箔の表面に上記粗化処理を行い、その後、上記加熱処理したことより銅箔の結晶組織が粗大化して銅箔の表面積がどの程度変化したかを示す銅箔の表面積の変化の比率を言うが、ここでは、「表面積比」として、実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した粗化処理と、300℃で1時間の加熱処理を行った銅箔表面の50μm×50μm領域の表面積をレーザー顕微鏡で測定し、見かけの面積である2500μmで除すことで算出した。結果を表1に併記した。
【0052】
<ピール強度の測定方法>
実施例1〜9、及び比較例1〜6に示した銅箔に、ニッカン工業株式会社製ニカフレックスCISV−2525(ポリイミドフィルム25μm、接着剤厚さ25μm)を、300℃、40kg/cm、1時間の条件でラミネートし、ラミネート面にFR4基材を貼り付けた。基材に貼り付けた試料をエッチングマシンに挿入し、10mm幅の試験片を作成した。その後、ピール試験機で銅箔を90度方向に40mm引き剥がし、その間の平均ピール強度を測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、本発明の実施形態である実施例1〜9は、再結晶処理することで粗化粒子結晶と銅箔本体結晶組織とが一体化して粗化処理後の粗化粒子を構成する銅の結晶粒径が大きくなっており、屈曲回数も11,000回を超える耐屈曲性を示している。また、300℃×1時間加熱した後の0.2%耐力も160N/mm以下であり、粗化粒
子は均一に付着している。従ってかかる表面粗化処理銅箔は絶縁フィルムとの接着性に優れ、絶縁フィルムとの接着後の耐屈曲性に優れる回路基板を提供することができる。
【0055】
一方比較例1は粗化処理電解液に添加剤を添加しなかったために粗化粒子の均一性に劣り、満足する結果を得ることができなかった。
比較例2〜6には添加剤として硫酸鉄七水和物を用いたが、粗化粒子の再結晶が不足し、従って耐屈曲性が劣り、満足する銅箔を得ることができなかった。
【0056】
表面積比は特にポリイミドとの接着強度(ピール強度)に影響する。未処理銅箔表面に粗化処理を施し、加熱処理して粗化処理面を再結晶することで表面積比とピール強度との変化を検討したが、表1に示すように表面積比が1.5〜3.5の範囲(実質的には1.1〜5.0の範囲)では表面積比が上がるに従ってピール強度も上昇する傾向を示し、比較例との対比においても、粗化粒子の結晶粒径によりピール強度に影響がでないことを確認できた。
【符号の説明】
【0057】
1 銅箔本体
2 粗化粒子
図1
図2
図3
図4