特許第5940141号(P5940141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940141亜硝酸アルカリ金属塩を有するレーザー透過性ポリエステル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940141
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】亜硝酸アルカリ金属塩を有するレーザー透過性ポリエステル
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20160616BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20160616BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20160616BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K3/28
   B29C65/16
   B29K67:00
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-505580(P2014-505580)
(86)(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公表番号】特表2014-512441(P2014-512441A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】EP2012056871
(87)【国際公開番号】WO2012143314
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年4月13日
(31)【優先権主張番号】11163122.2
(32)【優先日】2011年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ フォン ベンテン
(72)【発明者】
【氏名】ペーター アイベック
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−521471(JP,A)
【文献】 特開2007−269890(JP,A)
【文献】 米国特許第04349503(US,A)
【文献】 米国特許第06028160(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/03
B29C 65/00−65/82
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性の成形材料であって、主要な成分として、A)とB)の合計100質量%に対して、
A)ポリエステル29〜99.99質量%、
B)亜硝酸のアルカリ金属塩またはその混合物0.01〜3.0質量%、
ならびにさらに
C)さらなる添加物0〜70質量%、ここで、A)〜C)の総計は100質量%である、
を含んでいる前記成形材料の、あらゆる種類のレーザー透過性成形体の製造のための使用であって、成分B)のアルカリ金属が、ナトリウムまたはカリウムである、前記使用
【請求項2】
前記成形体が、少なくとも33%のレーザー透過性(厚さ2mmの成形体について1064nmで測定)を有している、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
成分B)が、NaNO2またはKNO2またはそれらの混合物から形成されている、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のレーザー透過性成形体の、レーザー透過溶接法を用いて成形体を製造するための使用。
【請求項5】
請求項による、または請求項1からまでのいずれか1項に記載の使用によるレーザー透過性成形体を、レーザー吸収性成形体とレーザー透過溶接により結合することを特徴とする、溶接された成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性成形材料であって、主要な成分として、A)とB)の合計100質量%に対して、
A)ポリエステル29〜99.99質量%、
B)亜硝酸のアルカリ金属塩またはその混合物0.01〜3.0質量%、
ならびにさらに、
C)さらなる添加物0〜70質量%、ここで、A)〜C)の総計は100質量%である、
を含んでいる前記成形材料の、あらゆる種類のレーザー透過性成形体の製造のための使用に関する。
【0002】
さらに、本発明は、レーザー透過性成形体の、レーザー透過溶接法を用いて成形体を製造するための使用、このような成形体の製造方法、ならびに多様な適用範囲におけるその使用に関する。
【0003】
前記成分B)は、PETおよび類似のポリエステルのための核形成剤である。例えば、US4349505は、亜硝酸ナトリウムのPETでの使用を記載している。このコンパウンドの光学的特性は試験されなかった。
【0004】
プラスチック成形部材の溶接には、種々の方法が存在する(Kunststoffe 87,(1997),11,1632〜1640)。安定した溶接継目の前提条件は、加熱エレメント溶接(Heizelementschweissen)および振動溶接(例えば、自動車用吸引管の)の広く普及した方法の場合、実際の接合工程の前の接触域内で、接合相手が充分に軟化していることである。
【0005】
振動溶接および加熱エレメント溶接のためのそれとは別の方法として、レーザー透過溶接、特にダイオードレーザーでのレーザー透過溶接が、最近ますます普及している。
【0006】
レーザー透過溶接の基本的な原理は、専門文献に記載されている(Kunststoffe 87,(1997)3,348〜350;Kunststoffe 88,(1998),2,210〜212;Kunststoffe 87(1997)11,1632〜1640;Plastverarbeiter 50(1999)4,18〜19;Plastverarbeiter 46(1995)9,42〜46)。
【0007】
レーザー透過溶接の適用の前提条件は、レーザーから放出されたビームが、まず、使用される波長のレーザー光に充分に透過性があり、本願以下においてレーザー透過性成形部材と呼ばれる成形部材を貫通し、その後、前記レーザー透過性成形部材と接触していて、以下においてレーザー吸収性成形部材と呼ばれる、第二の成形部材によって薄層中で吸収されることである。レーザー光を吸収するこの薄層中で、レーザーエネルギーが熱に変換され、この熱によって、レーザー透過性およびレーザー吸収性の成形部材が接触域で溶融されて、最終的に溶接継目を介して結合される。
【0008】
レーザー透過溶接の場合、通常、600〜1200nmの波長範囲にあるレーザーが使用される。熱可塑性溶着に使用されるレーザーの波長範囲内では、Nd:YAGレーザー(1064nm)または高出力ダイオードレーザー(800〜1000nm)が通常である。以下においてレーザー透過性およびレーザー吸収性という概念が使用されている場合、これらは、常に上述の波長範囲に対している。
【0009】
レーザー透過性成形部材の場合、レーザー吸収性成形部材とは異なり、好ましい波長範囲において高いレーザー透過性が必要であり、それによってレーザービームは、溶接面まで必要なエネルギーで進むことができる。IRレーザー光の透過力の測定は、例えば、分光光度計および積分球光度計で行われる。この測定装置は、透過したビームの拡散した割合をも検出する。波長でだけでなく、現在溶接過程に使用されるあらゆるレーザー波長を含んでいるスペクトル範囲においても測定される。
【0010】
現在、複数のレーザー溶接法の別形が使用者に提供されており、これらの別形は、すべて透過原理に基づいている。例えば、輪郭溶接(Konturschweissen)は、連続的な溶接プロセスであり、レーザービームが、自由にプログラム制御できる継目輪郭に沿って送られるか、または構成部材が、固定して設置されたレーザーに対して動かされるものである。同時溶接では、個々の高出力ダイオードの線状に放出されるビームが、溶接される継目輪郭に沿って配置される。したがって、全ての輪郭の溶融および溶接が同時に行われる。擬似同時溶接は、輪郭溶接と同時溶接との組み合わせである。レーザービームは、ガルバノミラー(スキャナー)を使って、10m/sおよびそれ以上の非常に速い速度で溶接継目の輪郭に沿って送られる。移動速度が速いため、接合範囲は徐々に加熱されて溶融する。同時溶接に比べて、溶接継目の輪郭の変化時に高い柔軟性がある。マスク溶接は、線状のレーザービームが、接合する部分を横切って動かされる方法である。ビームは、マスクによりねらい通りに遮断されて、接合面の溶接箇所にのみ当たる。この方法は、非常に正確に位置が合わせられた溶接継目の製造を可能にする。これらの方法は、当業者に公知であり、例えば"Handbuch Kunststoff−Verbindungstechnik"(G.W.Ehrenstein,Hanser,ISBN3−446−22668−0)および/またはDVS−Richtlinie 2243"Laserstrahlschweissen thermoplastischer Kunststoffe"に記載されている。
【0011】
前記方法の別形に関わらず、レーザー溶接プロセスは、両方の接合相手の材料特性に強く依存している。照射される部分のレーザー透過性(LT)の程度は、時間あたりに導入可能なエネルギー量によるプロセス速度に直接影響を及ぼす。部分結晶性の熱可塑性物質は、通常、大部分が球晶の形のその固有のミクロ構造により比較的低いレーザー透過性を有している。この球晶は、純粋に非晶質の熱可塑性物質の内部構造よりも、放出されたレーザー光を強く散乱させる:後方散乱によって、透過における総エネルギー量が低下し、拡散した(側方)散乱によって、ほとんどの場合レーザービームは拡がり、それにより溶接精度が損なわれる。ポリブチレンテレフタレート(PBT)の場合、これらの現象は特に強く現れて、好適に結晶する別の熱可塑性物質、例えばPAと比べて、特に低いレーザー透過性および高いビーム拡がりを有している。それゆえ、PBTは、その他の特性プロファイル(例えば、優れた寸法安定性および低い吸水率)が、このような適用に非常に魅力的であるにもかかわらず、レーザー溶接される構成部材の材料としてまだ比較的用いられていない。
【0012】
部分結晶性の形態は、確かに一般的に高いレーザー透過性の妨げになっているが、別の特性では利点を提供している。例えば、部分結晶性の材料は、ガラス温度を上回っても機械的負荷に耐えることができ、および一般に非晶質の材料よりも優れた耐化学薬品性を有している。急速に結晶する材料は、さらに、加工において、利点、特に素早い離型性およびそれにしたがって短いサイクル時間を提供する。それゆえ、部分結晶性、急速な結晶化および高いレーザー透過性からの組合せが望ましい。
【0013】
ポリステル、特にPBTのレーザー透過性を高める様々な取り組みが公知である。これらは基本的に、ブレンド/混合物、および屈折率の調整(Brechnungsindexanpassung)で異なっている。
【0014】
ブレンド/混合物による前記取り組みは、レーザー透過性の低いPBTの、レーザー透過性の高いブレンド/混合物相手での「希釈」に基づいている。その例は、以下の文献に記載されている:JP2004/315805A1(PBT+PC/PET/SA+充填剤+エラストマー)、DE−A1−10330722(LTを高めるための、部分結晶性熱可塑性物質と非晶質の熱可塑性物質との一般的なブレンド;特異的に、PBT+PET/PC+ガラス繊維)、JP2008/106217A(PBT+1,4−シクロヘキサンジメタノールを有するコポリマー;LT16%を28%に高める)。ここで、欠点であるのは、マトリックスであるPBTに主に基づいている生成物とは明らかに別の特性を有するポリマーブレンドが不可避的に生じることである。
【0015】
この屈折率の調整の取り組みは、非晶質性および結晶性のPBTならびに充填剤の異なる屈折率に対している。ここで、例えばコモノマーが使用された:JP2008/163167(PBTとシロキサンとからのコポリマー)、JP2007/186584(PBT+ビスフェノールAジグリシジルエーテル)およびJP2005/133087(PBT+PC+エラストマー+高屈折率シリコーン油)が例として挙げられている。これは、確かにレーザー透過性を高めるが、しかし、機械的特性が失われる。充填剤とマトリックスとの屈折率の差は、小さくなってもよい(JP2009/019134(エポキシ樹脂をガラス繊維上に被覆して、繊維とマトリックスとの光学接合を調整)、またはJP2007/169358(高屈折率ガラス繊維を有するPBT)を参照)。しかし、このような出発物質は、その費用が高く、および/または製造プロセスでさらなる段階があるため好ましくない。
【0016】
総じて、透過性の上昇に対して得られた効果も、比較的低く、従って改善に値する。
【0017】
したがって、本発明の課題は、ポリエステルのレーザー透過性を改善することであった。それに応じて、冒頭で定義された成形材料が見出された。好ましい実施態様は、下位クレームから読み取ることができる。
【0018】
成分A)として、本発明による成形材料は、成分A)および成分B)に対して、少なくとも1つの熱可塑性ポリエステルを、29〜99.99、好ましくは98.0〜99.95、特に99.0〜99.9質量%含んでいる。
【0019】
成分A)中のポリエステルの少なくとも1つは、部分結晶性のポリエステルである。成分A)は、部分結晶性ポリエステルを少なくとも50質量%含んでいるのが好ましい。この含分は、(成分A)100質量%に対してそれぞれ)70質量%であるのが特に好ましい。
【0020】
A)〜C)(つまり、Cを含める)からの成形材料100%に対して、この成形材料は、
A)およびB)を30〜100質量%、好ましくは50〜100
C)を0〜70質量%、好ましくは0〜50
含んでいる。
【0021】
上記の参照値の重要な要素は、成分B)の含分が常にポリエステルに対していることにある、それというのは、この比率が前述の範囲内にあるからである。添加物C)は、レーザー透過性に影響を及ぼすことがある。この影響は、実質的にこの添加物の散乱特性および吸収特性によるものである。前記コンパウンドの光学特性は、実質的に本発明によるマトリックス(成分AおよびB)の光学的特性と前記添加物(成分C)の光学的特性とから加算的に構成されている。
【0022】
一般に、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジヒドロキシ化合物または芳香族ジヒドロキシ化合物をベースとするポリエステルA)が使用される。
【0023】
好ましいポリエステルの第一の群は、ポリアルキレンテレフタレート、特にアルコール部分中に2〜10個の炭素原子を有するものである。
【0024】
このようなポリアルキレンテレフタレートは、自体公知であり、前記文献に記載されている。これらは、芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族環を主鎖に含んでいる。芳香族環は、例えば、ハロゲン、例えば塩素および臭素で、またはC1〜C4アルキル基、例えばメチル基、エチル基、i−プロピル基もしくはn−プロピル基、およびn−ブチル基、i−ブチル基もしくはt−ブチル基で置換されていてもよい。
【0025】
これらのポリアルキレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸、そのエステルまたは別のエステル形成する誘導体と、脂肪族ジヒドロキシ化合物との反応により、自体公知の方法で製造することができる。
【0026】
好ましいジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸およびイソフタル酸またはそれらの混合物が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の30mol%まで、好ましくは10mol%以下は、脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸およびシクロヘキサンジカルボン酸で代用されてよい。
【0027】
脂肪族ジヒドロキシ化合物のうち、2〜6個の炭素原子を有するジオール、特に1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびネオペンチルグリコール、またはそれらの混合物が好ましい。
【0028】
特に好ましいポリエステル(A)として、2〜6個の炭素原子を有するアルカンジオールに由来するポリアルキレンテレフタレートが挙げられる。これらのうち、特にポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート、またはそれらの混合物が好ましい。さらに好ましいのは、PETおよび/またはPBTであり、これらは、1,6−ヘキサンジオールおよび/または2−メチル−1,5−ペンタンジオールをさらなるモノマー単位として1質量%まで、好ましくは0.75質量%まで含んでいる。
【0029】
ポリエステル(A)の粘度数は、一般に50〜220の範囲、好ましくは80〜160である(フェノール/o−ジクロロベンゼン混合物(質量比1:1、25℃)中の0.5質量%溶液中で、ISO1628に準拠して測定)。
【0030】
カルボキシル末端基含有率が0〜100mval/kg、好ましくは10〜50mval/kg、特に15〜40mval/kgであるポリエステルが特に好ましい。このようなポリエステルは、例えばDE−A4401055の方法により製造することができる。カルボキシル末端基含有率は、通常、滴定法(例えば、電位差滴定)により測定される。
【0031】
特に好ましい成形材料は、成分A)としてポリエステルの混合物を含んでいて、ここで、少なくとも1つはPBTである。例えばポリエチレンテレフタレートの含分は、好ましくは前記混合物中で、A)100質量%に対して50まで、特に10〜35質量%である。
【0032】
さらに、PETリサイクル材(Rezyklate)(スクラップPETとも呼ばれる)を、場合によりポリアルキレンテレフタレート、例えばPBTとの混合物として使用することは有利である。
【0033】
リサイクル材とは、一般に以下の通りに理解される:
1)いわゆる工業的使用後のリサイクル材:これは、重縮合または加工時の製品屑、例えば射出成形加工でのスプルー(Anguesse)、射出成形加工または押出でのスタートアップ品、または押し出された板またはシートの耳端(Randabschnitt)である。
2)消費者使用後のリサイクル材:これは、利用後に最終使用者によって回収され、後処理されるプラスチック品である。量的にはるかに占めている品目は、ミネラルウォーター、ソフトドリンクおよびジュースのためのブロー成形されたPETボトルである。
【0034】
前記両方の種類のリサイクル材は、粉砕物として、または顆粒状で存在していてよい。後者の場合、原料リサイクル材は、分離および洗浄後に、押出機で溶融されて顆粒にされる。これにより、たいていの場合、取り扱い、流動性および配量性は、さらなる加工工程にとって容易になる。
【0035】
顆粒化されたリサイクル材も、粉砕物として存在するリサイクル材も使用してよく、最大エッジ長は10mm、好ましくは8mm未満である。
【0036】
加工時の(微量の湿分による)ポリエステルの加水分解のため、前記リサイクル材をあらかじめ乾燥することが推奨される。乾燥後の残留含水率は、好ましくは0.2%未満、特に0.05%未満である。
【0037】
さらなる群として、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する全芳香族ポリエステルが挙げられる。
【0038】
芳香族ジカルボン酸として、すでに前記ポリアルキレンテレフタレートで記載された化合物が好適である。好ましくは、イソフタル酸5〜100mol%とテレフタル酸0〜95mol%とからの混合物、特にテレフタル酸約80%とイソフタル酸20%との混合物から前記両方の酸のほぼ当量の混合物までが使用される。
【0039】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、好ましくは一般式
【化1】
[式中、Zは、8個までの炭素原子を有するアルキレン基またはシクロアルキレン基、12個までの炭素原子を有するアリーレン基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子または硫黄原子、または化学結合であり、および、mは、0〜2の値である]を有している。前記化合物は、フェニレン基に、C1〜C6アルキル基またはアルコキシ基、およびフッ素、塩素または臭素を置換基として有していてもよい。
【0040】
前記化合物の基本体(Stammkoerper)は、例えば、
ジヒドロキシジフェニル、
ジ(ヒドロキシフェニル)アルカン、
ジ(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、
ジ(ヒドロキシフェニル)スルフィド、
ジ(ヒドロキシフェニル)エーテル、
ジ(ヒドロキシフェニル)ケトン、
ジ(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、
α,α’−ジ(ヒドロキシフェニル)ジアルキルベンゼン、
ジ(ヒドロキシフェニル)スルホン、ジ(ヒドロキシベンゾイル)ベンゼン
レゾルシノールおよび
ヒドロキノンならびにそれらの核アルキル化または核ハロゲン化された誘導体が挙げられる。
【0041】
前記のうち、
4,4’−ジヒドロキシジフェニル、
2,4−ジ(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン
α,α’−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、
2,2−ジ(3’−メチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、および
2,2−ジ(3’−クロロ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン
ならびに特に、
2,2−ジ(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ジ(3’,5−ジクロロジヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ジ−(4’−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、および
2,2−ジ(3’,5’−ジメチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン
またはそれらの混合物が好ましい。
【0042】
当然ながら、ポリアルキレンテレフタレートおよび全芳香族ポリエステルの混合物を使用してもよい。これらは、一般にポリアルキレンテレフタレートを20〜98質量%、および全芳香族ポリエステルを2〜80質量%含んでいる。
【0043】
当然ながら、ポリエステルブロックコポリマー、例えばコポリエーテルエステルを使用してもよい。このような生成物は、自体公知であり、文献、例えばUS_A3651014に記載されている。相応の生成物は市販もされており、例えば、Hytrel(登録商標)(DuPont)である。
【0044】
ポリエステルとは、本発明によればハロゲン不含のポリカーボネートであるとも理解される。好適なハロゲン不含のポリカーボネートは、例えば、一般式
【化2】
[式中、Qは、単結合であり、C1〜C8アルキレン基、C2〜C3アルキリデン基、C3〜C6シクロアルキリデン基、C6〜C12アリーレン基であり、ならびに−O−、−S−または−SO2−を意味し、およびmは、0から2までのいずれかの整数である]
のジフェノールをベースとするものである。
【0045】
前記ジフェノールは、フェニレン基に置換基、例えばC1〜C6アルキルまたはC1〜C6アルコキシを有していてもよい。
【0046】
前記式の好ましいジフェノールは、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンである。特に好ましいのは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ならびに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
【0047】
ホモポリカーボネートも、コポリカーボネートも、成分Aに好適であり、ビスフェノールAホモ重合体の他に、ビスフェノールAのコポリカーボネートが好ましい。
【0048】
好適なポリカーボネートは、公知の方法で分岐していてよい、つまり、好ましくは、少なくとも三官能性化合物、例えば3つまたは3つ以上のフェノール性OH基を有する前記化合物が、使用されたジフェノールの総計に対して0.05〜2.0mol%組み込まれることにより分岐していてよい。
【0049】
1.10〜1.50、特に1.25〜1.40の相対粘度ηrelを有しているポリカーボネートが特に好適であることが明らかになった。これは、10000〜200000、好ましくは20000〜80000g/molの重量平均分子量Mw(重量平均値)に相当する。
【0050】
前記一般式のジフェノールは、自体公知である、または公知の方法により製造できる。
【0051】
前記ポリカーボネートの製造は、例えば、ジフェノールと、界面法によるホスゲンとの、または均一相における方法(いわゆるピリジン法)によるホスゲンとの反応により行うことができ、それぞれ調節される分子量は、公知の方法で、公知の連鎖停止剤の相応の量により得られる。(ポリジオルガノシロキサン含有のポリカーボネートに関しては、例えばDE−OS3334782を参照)。
【0052】
好適な連鎖停止剤は、例えば、フェノール、p−t−ブチルフェノールであるが、長鎖アルキルフェノール、例えば、DE−OS2842005によれば、4−(1,3−テトラメチルブチル)フェノール、またはDE−A3506472によれば、アルキル置換基内に合計8〜20個の炭素原子を有するモノアルキルフェノールもしくはジアルキルフェノール、例えばp−ノニルフェニル、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−ドデシルフェノール、2−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノールおよび4−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノールも好適である。
【0053】
本発明の範囲におけるハロゲン不含のポリカーボネートは、このポリカーボネートが、ハロゲン不含のジフェノール、ハロゲン不含の連鎖停止剤、および場合によりハロゲン不含の分岐剤から形成されていることを意味していて、例えば、界面法によるホスゲンを使用するポリカーボネートの製造から結果として生じる、わずかなppm量の可鹸化塩素の含量は、本発明の範囲ではハロゲン含有とはみなされない。ppm含量の可鹸化塩素を有するこのようなポリカーボネートは、本発明の範囲ではハロゲン不含のポリカーボネートである。
【0054】
さらなる好適な成分A)として、非晶質のポリエステルカーボネートが挙げられ、ホスゲンは、芳香族ジカルボン酸単位、例えばイソフタル酸および/またはテレフタル酸単位で製造時に代用された。さらなる詳細は、ここでEP−A711810を参照されたい。
【0055】
モノマー単位としてシクロアルキル基を有する、さらなる好適なコポリカーボネートは、EP−A365916に記載されている。
【0056】
さらに、ビスフェノールAは、ビスフェノールTMCで代用されてよい。このようなポリカーボネートは、商標名APEC HT(登録商標)でBayer社から入手可能である。
【0057】
成分B)として、本発明による成形材料は、亜硝酸のアルカリ金属塩またはその混合物を、A)とB)の合計100質量%に対して0.01〜3、好ましくは0.05〜2、特に0.1〜1質量%含んでいる。
【0058】
ポリエステルA)のカルボキシル末端基は、一般に前記塩化合物B)と反応し、ここで、炭酸塩の金属カチオンは末端基に移動する。成分B)の核形成作用は、きわめて低い濃度でさえも検出できる。驚くべきことに、レーザー透過性は、成分B)の濃度が非常に低いと低下し、より高い濃度でようやくレーザー透過性の上昇が達成される。
【0059】
好ましいアルカリ金属は、ナトリウムおよび/またはカリウムである。
【0060】
好ましい塩B)は、亜硝酸ナトリウムおよび/または亜硝酸カリウム、またはそれらの混合物である。
【0061】
前述の無機塩B)の製造方法は、当業者に公知である。
【0062】
成分C)として、本発明による成形材料は、B)および/またはA)とは異なるさらなる添加物および加工助剤を、A)、B)およびC)の合計100質量%に対して0〜70、特に50質量%まで含んでいてよい。
【0063】
通常の添加物C)は、例えば、ゴム弾性ポリマー(多くの場合、耐衝撃性改良剤、エラストマーまたはゴムとも呼ばれる)を40までの量、好ましくは15質量%までの量である。
【0064】
これは、殊に一般的に、好ましくは、以下のモノマーの少なくとも2つから形成されている共重合体である:エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブテン、イソプレン、クロロプレン、酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル、およびアルコール成分中に1〜18個の炭素原子を有するアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル。
【0065】
このようなポリマーは、例えば、Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,Bd.14/1(Georg−Thieme−Verlag,Stuttgart,1961,392〜406ページ)、およびC.B.Bucknallの専攻論文"Toughened Plastics"(Applied Science Publishers,London,1977)に記載されている。
【0066】
このようなエラストマーのいくつかの好ましい種類を以下に挙げる。
【0067】
エラストマーの好ましい種類は、いわゆるエチレンプロピレン(EPM)ゴムもしくはエチレンプロピレンジエン(EPDM)ゴムである。
【0068】
EPMゴムが、一般に事実上、二重結合を有していない一方で、EPDMゴムは、100個の炭素原子あたり1〜20の二重結合を有していることがある。
【0069】
EPDMゴムのジエンモノマーとして、例えば、共役ジエン、例えばイソプレンおよびブタジエン、5〜25個の炭素原子を有する非共役ジエン、例えば、ペンタ−1,4−ジエン、ヘキサ−1,4−ジエン、ヘキサ−1,5−ジエン、2,5−ジメチルヘキサ−1,5−ジエン、およびオクタ−1,4−ジエン、環式ジエン、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエンおよびジシクロペンタジエン、ならびにアルケニルノルボルネン、例えば、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン、およびトリシクロジエン、例えば、3−メチルトリシクロ[5.2.1.0.2.6]−3,8−デカジエン、またはそれらの混合物が挙げられる。ヘキサ−1,5−ジエン、5−エチリデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエンが好ましい。EPDMゴムのジエン含量は、ゴムの総質量に対して、0.5〜50、特に1〜8質量%である。
【0070】
EPMゴムもしくはEPDMゴムは、好ましくは反応性カルボン酸またはそれらの誘導体でグラフト化されていてもよい。ここで、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、ならびに無水マレイン酸が挙げられる。
【0071】
好ましいゴムのさらなる群は、アクリル酸および/またはメタクリル酸、および/または前記酸のエステルを有するエチレンのコポリマーである。さらに、このゴムはさらにジカルボン酸、例えばマレイン酸およびフマル酸もしくはこれらの酸の誘導体、例えば、エステルおよび無水物、ならびに/またはエポキシ基を含んでいるモノマーを含んでいてよい。これらのジカルボン酸誘導体もしくはエポキシ基を含んでいるモノマーは、好ましくは一般式Iまたは一般式IIまたは一般式IIIまたは一般式IV
【化3】
[式中、R1〜R9は、水素または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、mは、0から20までのいずれかの整数であり、gは、0から10までのいずれかの整数であり、pは0から5までのいずれかの整数である]
のジカルボン酸基もしくはエポキシ基を含んでいるモノマーをモノマー混合物に添加することによりゴムの中に組み込まれる。
【0072】
好ましくは、R1〜R9の基は水素であり、mは0または1であり、gは1である。相応の化合物は、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテルである。
【0073】
一般式I、一般式IIおよび一般式IVの好ましい化合物は、マレイン酸、無水マレイン酸、ならびにアクリル酸および/またはメタクリル酸のエポキシ基を含んでいるエステル、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、および第三級アルコールを有するエステル、例えばt−ブチルアクリレートである。後者は、遊離カルボキシル基を有していないが、その反応において遊離酸にほぼ等しく、したがって潜在性カルボキシル基を有するモノマーと呼ばれる。
【0074】
有利には、前記コポリマーは、エチレン50〜98質量%、エポキシ基を含んでいるモノマーおよび/またはメタクリル酸および/または酸無水物基を含んでいるモノマー0.1〜20質量%、ならびに残量の(メタ)アクリル酸エステルからなっている。
【0075】
特に好ましいのは、
50〜98、特に55〜95質量%のエチレン、
0.1〜40、特に0.3〜20質量%のグリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレート、(メタ)アクリル酸および/または無水マレイン酸、ならびに
1〜45、特に10〜40質量%のn−ブチルアクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレート
からの共重合体である。
【0076】
アクリル酸および/またはメタクリル酸のさらなる好ましいエステルは、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびi−ブチルエステルもしくはt−ブチルエステルである。
【0077】
そのほかに、ビニルエステルおよびビニルエーテルをコモノマーとして使用してもよい。
【0078】
前述のエチレンコポリマーは、自体公知の方法によって製造することができ、好ましくはランダム共重合により高圧および高められた温度の下で製造することができる。相応の方法は、一般に公知である。
【0079】
好ましいエラストマーは、乳化重合体でもあり、その製造は、例えば、Blackleyによる専攻論文"Emulsion Polymerization"に記載されている。使用可能な乳化剤および触媒は、自体公知である。
【0080】
基本的に、均一に形成されたエラストマーまたはシェル構造を有するものを使用してもよい。シェル構造は、個々のモノマーの添加順序により決められる;ポリマーの形態も、この添加順序に影響される。
【0081】
ここで、アクリレート、例えばn−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレート、相応のメタクリレート、ブタジエンおよびイソプレンならびにそれらの混合物は、エラストマーのゴム部分の製造のためのモノマーとして、代表的に挙げられているにすぎない。これらのモノマーは、さらなるモノマー、例えばスチレン、アクリルニトリル、ビニルエーテルおよびさらなるアクリレートまたはメタクリレート、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレートおよびプロピルアクリレートと共重合させてよい。
【0082】
エラストマーの軟質相またはゴム相(ガラス遷移温度0℃未満を有する)は、コア、外部シェルまたは中間シェル(2つ以上のシェル構造を有するエラストマーの場合)であってよく;多シェルのエラストマーでは、複数のシェルは、ゴム相からなってもよい。
【0083】
前記ゴム相のほかに、さらに1つまたは複数の硬質成分(ガラス遷移温度20℃以上を有する)がエラストマーの構造に関わっている場合、これらは一般にスチレン、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレートおよびメチルメタクリレートの重合により、主要モノマーとして製造される。そのほかに、ここでは、さらなるコモノマーの比較的少ない含分を使用してもよい。
【0084】
いくつかの場合、表面に反応性基を有する乳化重合体を使用することが有利であると判明した。このような基は、例えばエポキシ基、カルボキシル基、潜在性カルボキシル基、アミノ基またはアミド基、ならびに一般式
【化4】
[式中、置換基は以下の意味を有していてよい:
10は、水素またはC1〜C4アルキル基であり、
11は、水素、C1〜C8アルキル基、またはアリール基、特にフェニルであり、
12は、水素、C1〜C10アルキル基、C6〜C12アリール基、または−OR13であり、
13は、C1〜C8アルキル基またはC6〜C12アリール基であり、これらの基は、場合によりOまたはNを含んでいる基で置換されていてよく、
Xは、化学結合であり、C1〜C10アルキレン基またはC6〜C12アリーレン基である、または
【化5】
Yは、O−ZまたはNH−Zであり、および
Zは、C1〜C10アルキレン基またはC6〜C12アリーレン基である]
のモノマーの併用により導入することができる官能基である。
【0085】
EP−A208187に記載されているグラフトモノマーも、表面の反応性基の導入に好適である。
【0086】
さらなる例として、さらにアクリルアミド、メタクリルアミドおよびアクリル酸またはメタクリル酸の置換されたエステル、例えば(N−t−ブチルアミノ)エチルメタクリレート、(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート、(N,N−ジメチルアミノ)メチルアクリレートおよび(N,N−ジエチルアミノ)エチルアクリレートが挙げられる。
【0087】
さらに、前記ゴム相の粒子は、架橋されていてもよい。架橋剤として作用するモノマーとしては、例えば、ブタ−1,3−ジエン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートおよびジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートならびにEP−A50265に記載されている化合物である。
【0088】
さらに、いわゆるグラフト架橋するモノマー(graft−linking monomers)を使用してもよい、つまり、重合において異なる速度で反応する、2つまたはそれ以上の重合可能の二重結合を有するモノマーを使用してもよい。好ましくは、化合物中で、少なくとも1つの反応性基が、その他のモノマーとほぼ同じ速度で重合している一方で、別の反応性基(または複数の反応性基)が、例えば明らかによりゆっくりと重合しているような化合物が使用される。異なる重合速度は、ゴム中においてある一定の含分の不飽和二重結合を必然的に伴う。引き続きこのようなゴムにさらなる相がグラフト化されると、ゴム中に存在する二重結合は、少なくとも部分的にグラフトモノマーと化学結合の形成下に反応する、つまり、グラフト化された相は、少なくとも部分的に化学結合によってグラフトベース(Pfropfgrundlage)と結合している。
【0089】
このようなグラフト架橋するモノマーの例は、アリル基を含んでいるモノマー、特にエチレン性不飽和カルボン酸のアリルエステル、例えばアリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネートまたはこれらのジカルボン酸の相応のモノアリル化合物である。そのほかに、多数のさらなる好適なグラフト架橋するモノマーがある;より詳細には、ここで例えばUS−PS4148846を参照されたい。
【0090】
一般に、耐衝撃性改質ポリマー中の前記架橋するモノマーの含分は、耐衝撃性改質ポリマーに対して5質量%まで、好ましくは3質量%以下である。
【0091】
以下に、いくつかの好ましい乳化重合体を挙げる。まず、ここで、以下の構造を有している、1つのコアおよび少なくとも1つの外部シェルを有するグラフト重合体が挙げられている:
【表1】
【0092】
40質量%までの量の前記グラフト重合体、特にABSポリマーおよび/またはASAポリマーは、好ましくはPBTの耐衝撃性改質のために、場合により40質量%までのポリエチレンテレフタレートとの混合物として使用される。相応のブレンド生成物は、商標名Ultradur(登録商標)S(BASF AG社の旧Ultrablend(登録商標)S)で入手できる。
【0093】
多シェル構造を有するグラフト重合体の代わりに、均一の、つまり、ブタ−1,3−ジエン、イソプレンおよびn−ブチルアクリレートまたはそれらのコポリマーからの単一シェルのエラストマーを使用してもよい。これらの生成物も、架橋するモノマーまたは反応性基を有するモノマーの併用により製造することができる。
【0094】
好ましい乳化重合体の例は、n−ブチルアクリレート/(メタ)アクリル酸コポリマー、n−ブチルアクリレート/グリシジルアクリレートコポリマー、またはn−ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマー、n−ブチルアクリレートからの、またはブタジエンベースの内部コアと、前述のコポリマーからの外部シェルとを有するグラフト重合体、および反応性基を提供するコモノマーを有するエチレンのコポリマーである。
【0095】
前記エラストマーは、別の通常の方法、例えば、懸濁重合によっても製造することができる。
【0096】
例えばDE−A3725576、EP−A235690、DE−A3800603およびEP−A319290に記載されているシリコーンゴムも同様に好ましい。
【0097】
当然ながら、前述のゴムの種類の混合物を使用してもよい。
【0098】
繊維状または粒子状の充填物C)として、ガラス繊維、ガラス球、非晶質ケイ酸、アスベスト、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、白亜、粉末石英、雲母、硫酸バリウムおよび長石が挙げられる。繊維状の充填物C)は、60質量%まで、特に35質量%までの量で使用され、粒子状の充填物は、30質量%まで、特に10質量%までの量で使用される。
【0099】
好ましい繊維状の充填物として、アラミド繊維およびチタン酸カリウム繊維が挙げられ、Eガラスとしてのガラス繊維が特に好ましい。これらは、ロービングまたはカットガラスとして市販の形で使用されてよい。
【0100】
レーザー吸収性の高い充填剤、例えば炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト、グラフェンまたはカーボンナノチューブは、好ましくは、1質量%未満、特に好ましくは0.05質量%未満の量で使用される。
【0101】
繊維状の充填剤は、熱可塑性物質とさらに良く相溶するために、シラン化合物で表面が前処理されていてよい。
【0102】
好適なシラン化合物は、一般式
【化6】
[式中、置換基は以下の意味を有している:
Xは、NH2−、
【化7】
HO−であり、
nは、2から10までのいずれかの整数、特に3〜4であり、
mは、1から5までのいずれかの整数、特に1〜2であり、
kは、1から3までのいずれかの整数、特に1である]
のものである。
【0103】
好ましいシラン化合物は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、ならびに置換基としてXがグリシジル基を含んでいる相応のシランである。
【0104】
前記シラン化合物は、一般に、(Cに対して)0.05〜5の量で、好ましくは0.1〜1.5、特に0.2〜0.5質量%の量で表面被覆のために使用される。
【0105】
針状の鉱物充填剤も好適である。
【0106】
針状の鉱物充填剤とは、本発明の範囲では、はっきりと際立った針状の特性を有する鉱物充填剤と理解される。例として、針状の珪灰石が挙げられる。好ましくは、前記鉱物は、8:1〜35:1、好ましくは8:1〜11:1のL/D(長さ、直径)比を有している。この鉱物充填剤は、場合により前述のシラン化合物で前処理されていてよい;しかし、前処理は必ずしも必須ではない。
【0107】
成分C)として、本発明による熱可塑性成形材料は、通常の加工助剤、例えば、安定剤、酸化遅延剤、熱分解および紫外線による分解に対する薬剤、潤滑剤および離型剤、着色剤、例えば染料および顔料、可塑剤などを含んでいてよい。
【0108】
酸化遅延剤および熱安定剤の例として、立体障害フェノールおよび/またはホスファイト、ヒドロキノン、芳香族第二級アミン、例えば、ジフェニルアミン、これらの群の種々の置換された代表のもの、およびそれらの混合物で熱可塑性成形材料の質量に対して1質量%までの濃度のものが挙げられる。
【0109】
前記成形材料に対して一般に2質量%までの量で使用されるUV安定剤として、種々の置換されたレゾルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾールおよびベンゾフェノンが挙げられる。
【0110】
無機および有機の顔料ならびに染料、例えば、ニグロシンおよびアントラキノンを色素として添加してよい。特に好適な色素は、例えば、EP1722984B1、EP1353986B1またはDE10054859A1に挙げられている。
【0111】
さらに好ましいのは、10〜40個の、好ましくは16〜22個の炭素原子を有する飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸と、2〜40個の、好ましくは2〜6個の炭素原子を含んでいる、脂肪族飽和アルコールまたはアミンとのエステルまたはアミドである。
【0112】
前記カルボン酸は、1価または2価であってよい。例として、ペラルゴン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、マルガリン酸、ドデカン二酸、ベヘン酸および特に好ましくは、ステアリン酸、カプリン酸ならびにモンタン酸(30〜40個の炭素原子を有する脂肪酸の混合物)が挙げられる。
【0113】
前記脂肪族アルコールは、1価〜4価であってよい。アルコールの例は、n−ブタノール、n−オクタノール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトールであり、グリセリンおよびペンタエリトリトールが好ましい。
【0114】
前記脂肪族アミンは、1価〜3価であってよい。この例は、ステアリルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジ(6−アミノヘキシル)アミンであり、エチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンが特に好ましい。好ましいエステルまたはアミドは、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、エチレンジアミンジステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリントリラウレート、グリセリンモノベヘネートおよびペンタエリトリトールテトラステアレートに相当する。
【0115】
種々のエステルまたはアミドの混合物、もしくはアミドとの組み合わせのエステルも使用してよく、混合比は任意である。
【0116】
さらなる潤滑剤および離型剤は、通常、1質量%までの量で使用される。長鎖脂肪酸(例えば、ステアリン酸またはベヘン酸)、それらの塩(例えば、ステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸亜鉛)またはモンタン酸ワックス(28〜32個の炭素原子の鎖長を有する直鎖の、飽和カルボン酸からの混合物)ならびにモンタン酸カルシウムまたはモンタン酸ナトリウム、ならびに低分子ポリエチレンワックスもしくはポリプロピレンワックスが好ましい。
【0117】
可塑剤の例として、フタル酸ジオクチルエステル、フタル酸ジベンジルエステル、フタル酸ブチルベンジルエステル、炭化水素油、N−(n−ブチル)ベンゼンスルホンアミドが挙げられる。
【0118】
本発明による成形材料は、さらにフッ素含有エチレン重合体を0〜2質量%含んでいてよい。これは、55〜76質量%、好ましくは70〜76質量%のフッ素含量を有するエチレンの重合体である。
【0119】
この例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー、または比較的少ない含分(通常、50質量%まで)で共重合可能のエチレン性不飽和モノマーを有するテトラフルオロエチレン共重合体である。これらは、例えば、Schildknechtによる"Vinyl and Related Polymers"(Wiley−Verlag,1952,484〜494ページ)、およびWallによる"Fluorpolymers"(Wiley Interscience,1972)に記載されている。
【0120】
前記フッ素含有エチレン重合体は、前記成形材料中に均一に分配されて存在しており、好ましくは、0.05〜10μmの、特に0.1〜5μmの範囲の粒径d50(数平均値)を有している。これらの小さい粒径は、特に好ましくは、フッ素含有エチレン重合体の水性懸濁液を使用すること、およびそれらをポリエステル溶融物に加えることにより得ることができる。
【0121】
本発明による熱可塑性成形材料は、自体公知の方法により製造することができ、この方法では、出発成分は、通常の混合装置、例えばスクリュー押出機、ブラベンダーミル(Brabender−Muehlen)またはバンバリーミル(Banbury−Muehlen)で混合されて、引き続き押し出される。押し出された後、押出成形部材は、冷却されて粉砕されてよい。個々の成分を予混合(例えば、塗布、または成分B)をドラムミキサーで混合して顆粒に)して、その後、残りの出発物質を個々におよび/または同じく混合して添加してよい。混合温度は、通常、230〜290℃である。好ましくは、成分B)は、ホットフィードで、または押出機の吸入部に直接添加してもよい。
【0122】
さらなる好ましい作業法によれば、成分B)ならびに場合により成分C)を、ポリエステルプレポリマーと混合し、コンパウンド化して顆粒化してよい。得られた顆粒を、固相中で引き続き不活性ガス下に連続的または不連続的に成分A)の溶融点を下回る温度で、所望の粘度になるまで凝縮する。
【0123】
本発明により使用可能の成形材料は、レーザー透過性成形体の製造に好適である。これらは、少なくとも33%、特に少なくとも40%のレーザー透過性(1064nmで、実施例に記載されている測定方法により、厚さ2mmの成形体について測定)を有している。
【0124】
このようなレーザー透過性成形体は、本発明によればレーザー透過溶接法を用いる成形体の製造のために使用される。
【0125】
レーザー吸収性成形部材として、一般に、あらゆるレーザー吸収性材料からの成形体を使用してよい。これは、例えば、複合剤、熱硬化性樹脂または、固有の熱可塑性成形材料からの好ましい成形体であってよい。好適な熱可塑性成形材料は、使用された波長範囲において充分なレーザー吸収性を有している成形材料である。好適な熱可塑性成形材料は、例えば、無機顔料、例えば、カーボンブラックの添加、および/または有機顔料もしくは別の添加物の添加によりレーザー吸収性である熱可塑性物質が好ましい。レーザー吸収性を達成するための好適な有機顔料は、例えばDE19916104A1に記載の通り、例えば好ましくはIR吸収性の有機化合物である。
【0126】
さらに、本発明の対象は、成形体、および/または本発明による成形部材にレーザー透過溶接法で結合された成形部材の組み合わせである。
【0127】
本発明による成形部材は、レーザー透過溶接法でレーザー吸収性成形部材に持続的かつ安定に取り付けるのに際立って好適である。したがって、これらは特に、例えば自動車、電子工学、通信技術、情報技術、コンピューター、家庭用器具、スポーツ、医学または娯楽の用途の、カバー、ハウジング、付属部品、センサーの材料に好適である。
【0128】
実施例
成分A/1:
粘度数130ml/gおよびカルボキシル末端基含有率34mval/kgを有するポリブチレンテレフタレート(BASF SE社のUltradur(登録商標)B 4500)(VZ(粘度数)は、フェノール/o−ジクロロベンゼン1:1混合物からの0.5質量%溶液中、25℃で、ISO1628に準拠して測定)。
成分B:NaNO2(モル質量69g/mol)。
【0129】
すべてのコンパウンドは、スクリュー直径25mmの2軸スクリュー押出機で製造した。添加物の計量供給は、顆粒と一緒に常温供給で行った。
【0130】
レーザー透過性測定のために、寸法60×60×2mmの射出成形された試料体を使用した。
ウルブリヒトによる透過測定のために、寸法60×60×1mm3の射出成形された試料体を使用した。
ISO527に準拠する引張試験。
ISO11357に準拠するDSCを用いる熱量測定試験、加熱速度および冷却速度20K/min。結晶化ピーク温度Tpcは、第一の冷却過程で求めた。
【0131】
レーザー透過性測定
波長1064nmでのレーザー透過率の測定を、熱起電力測定を用いて実施した。測定ジオメトリーは、以下の通りである:総出力2ワットのレーザービーム(波長1064nmのダイオード励起Nd−YAGレーザー、FOBA DP50)から、ビームスプリッター(Laseroptik GmbH社のタイプSQ2無偏光ビームスプリッター)を用いて、参照ビームを角度90°で出力1ワットで分割した。この参照ビームは、参照センサーに当たった。ビームスプリッターを通過した元来のビームの一部は、同じく出力1ワットの測定ビームであった。この測定ビームを、モード絞り(5.0)によってビームスプリッターの後部で直径0.18μmの焦点に合わせた。焦点の下方に80mmの距離をおいてレーザー透過性(LT)測定センサーを置いた。試験板をLT測定センサーの上方に2mmの距離をおいて置いた。射出成形された試験板は、寸法60×60×2mm3で、エッジゲートを有しているものである。測定は、この板の中央部(2本の対角線の交点)で行った。射出成形パラメーターは、以下の値に設定した:
【表2】
【0132】
測定時間は合計30秒であり、測定結果は最後の5秒で求めた。参照センサーおよび測定センサーの信号は、同時に捉えた。測定の開始は、前記試料の挿入と同時に行う。
透過率およびそれによるレーザー透過性は、以下の式によりもたらされる:
【数1】
【0133】
この測定方法により、レーザー装置の変動および主観的な読み取りエラーは排除される。
【0134】
1つの板について、少なくとも5回の測定からLT平均値を得た。平均値の取得は、それぞれの材料に対して10つの板で実施した。個々の板の測定の平均値から、この材料の平均値ならびに標準偏差を算出した。
【0135】
【表3】
【0136】
透過スペクトル(ウルブリヒト測定)
300〜2500nmの波長範囲において、透過スペクトルをウルブリヒト球測定ジオメトリーで測定した。ウルブリヒト球は中空球であり、その内面は幅広いスペクトル範囲にわたって高度かつ無指向性(拡散)に反射する。ビームがこの球の内面に当たると、このビームは完全に均一に前記球内で分配されるまで多重に反射する。このビームの積分により、入射角、影の形成、絞り、偏光および別の特性によるあらゆる影響が平均化されている。前記球内に取り付けられた検出器は、ウルブリヒト球の構成に応じて拡散透過率だけを記録するか、または指向性透過率および拡散透過率の合計(=総透過率)を記録する。ウルブリヒトアクセサリDRA2500を備えるVarian Cary 5000分光計を、透過モード(試料はビーム源とウルブリヒト球の間)で使用した。総透過率を測定するために、反射開口部を前記試料に対して白色の反射器(Labsphere Spectralon Standard)で閉じた。拡散透過の割合を測定するために、反射開口部を黒色の光トラップで閉じた(DRA2500 Standard Light Trap)。透過率は、入射された放射強度に対して示された。指向性透過率は、総透過率と拡散透過率の差として算出した。指向性透過率は、総透過率に対して示された:
【数2】
【0137】
【表4】
【0138】
1120〜1230nmと1350〜1470nm(どちらも弱い)との間の吸収帯、ならびに1610nm以上(部分的に強い)の吸収帯は、総透過率に影響を及ぼしている。
【0139】
B)を有する試料は、高い直接透過率に連動して総透過値が特に高いことを特徴としている(波長範囲500〜800nmでも)。したがって、この試料は、可視波長範囲でも透過性である。この試料を通して考察される対象物は、鮮明な輪郭でとらえられる(ヘイズ(Haze)が低い)。