(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940301
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】熱成形用ポリビニルアセタール樹脂
(51)【国際特許分類】
C08L 29/14 20060101AFI20160616BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20160616BHJP
C08F 8/28 20060101ALI20160616BHJP
C08F 16/38 20060101ALI20160616BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20160616BHJP
B29C 47/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
C08L29/14
C08K5/00
C08F8/28
C08F16/38
C08J5/18CEX
B29C47/00
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-545522(P2011-545522)
(86)(22)【出願日】2011年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2011071847
(87)【国際公開番号】WO2012043455
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-217934(P2010-217934)
(32)【優先日】2010年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-228355(P2010-228355)
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-846(P2011-846)
(32)【優先日】2011年1月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-847(P2011-847)
(32)【優先日】2011年1月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】特許業務法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】徳地 一記
(72)【発明者】
【氏名】辻 和尊
(72)【発明者】
【氏名】東田 昇
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
【審査官】
藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−137931(JP,A)
【文献】
特開2002−138107(JP,A)
【文献】
特開2001−089520(JP,A)
【文献】
特開平10−139496(JP,A)
【文献】
特開2004−217763(JP,A)
【文献】
特開2000−281721(JP,A)
【文献】
特開平05−001109(JP,A)
【文献】
特開平02−123103(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/096403(WO,A1)
【文献】
特開平10−330420(JP,A)
【文献】
特開平05−001108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L29/14
C08K5/00−13/08
C08F8/28
C08F16/38
C08F116/38
C08F216/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmであるポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、可塑剤の含有量が10質量部以下である熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比が90/10〜0/100である請求項1に記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルブチラールである請求項1に記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して70〜88mol%である請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤が含まれないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
水分率が0.005〜2%に調整された請求項1〜5のいずれかに記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物からなる成形体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項9】
粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmであるポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、可塑剤の含有量が10質量部以下である熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物を用いて熱成形を行なう成形体の製造方法。
【請求項10】
粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmであるポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、可塑剤の含有量が10質量部以下である熱成形用ポリビニルアセタール樹脂組成物を用いて熱成形を行なうフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形時の安定性に優れ、かつ耐熱性に優れた成形物の提供が可能な熱成形用ポリビニルアセタール樹脂に関する。さらに詳しくは、他の樹脂と混合して高温で溶融成形を行う場合や、より安定な成形、品質が要求される場合等、高い熱安定性が必要とされる成形用途においても好適に使用することが可能な熱成形用ポリビニルアセタール樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドによりアセタール化して製造されており、従来から、自動車のフロントガラス用や安全ガラス用の中間膜、各種バインダー、接着剤等、幅広い分野において使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂は熱安定性が十分ではなく、熱成形用として使用する場合においては、熱分解や熱劣化により、分解ガスの発生や、架橋ゲル化物の発生等を引き起こす場合がある。特に、他の樹脂と混合して高温で溶融成形を行う場合に分解や劣化が起こりやすく、成形物の着色や物性の低下等を引き起こし、長時間、安定して成形を行うことが困難な場合や、要求される品質の製品を得ることが困難な場合がある。
【0004】
そのようなポリビニルアセタール樹脂の成形性を改善する手段として、ガラス中間膜用途等においては可塑剤が配合される場合が多い。例えば、特許文献1〜3においては、ポリビニルアセタール樹脂と各種可塑剤からなる、合わせガラス用中間膜が開示されている。しかし、可塑剤等の配合により成形性は向上するものの、成形物の強度・弾性率や表面硬度が低下する、あるいは、徐々に可塑剤がブリードアウトする等、用途によって好ましくない影響を及ぼす場合がある。また、特許文献4においては、ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤ではなくポリ(ε−カプロラクトン)を配合した、合わせガラス用中間膜が開示されている。しかし、ポリ(ε−カプロラクトン)の配合により成形性は向上するものの、ポリ(ε−カプロラクトン)は融点が低く、耐熱性が低いため、利用範囲が限られる。また、成形物の表面硬度が低下する場合がある。
【0005】
その他、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤等、各種添加剤の配合も検討されているが、ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を根本的に改善するには至っていない。
【0006】
ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を左右する因子としては、原料となるポリビニルアルコール樹脂の重合度、けん化度、変性種および変性量、またポリビニルアセタール樹脂のアセタール種およびアセタール化度、さらには樹脂中に残存する金属残渣や未反応アルデヒドおよび副生物等が考えられ、それらの因子が複雑に絡み合って、分解、架橋ゲル化、着色等の熱劣化が起こっていると考えられている。しかし、これらの因子について、どのような機構で熱劣化が進行しているのかについては明確には理解されておらず、十分な熱安定性を有するポリビニルアセタール樹脂を得ることができなかった。
【0007】
ところで、特許文献5において、インク用バインダー樹脂として、金属イオン濃度が100ppm以下であるアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂が開示されているが、この樹脂を熱成形用として使用した場合であっても熱成形性が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−206741号公報
【特許文献2】特開2001−226152号公報
【特許文献3】特開2008−105942号公報
【特許文献4】特開平7−17745号公報
【特許文献5】特開2002−138107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みて、従来のポリビニルアセタール樹脂の特徴を損なうことなく、熱安定性に優れ、さらには耐熱性に優れた成形物の提供が可能な熱成形用ポリビニルアセタール樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を向上させるべく鋭意検討した結果、用いるポリビニルアルコール樹脂の重合度、けん化度、さらにはポリビニルアセタール樹脂の製造時のアセタール化度、また、残存するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を特定の範囲となるよう制御することにより、熱安定性に優れたポリビニルアセタール樹脂が得られることを見出した。さらに、アセタール化で用いるアルデヒドの構造を制御することにより、耐熱性に優れた成形物の提供が可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに検討し、完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmである熱成形用ポリビニルアセタール樹脂である。
【0012】
そして、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂においては、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比が90/10〜0/100であることが好ましい。
【0013】
そして、本発明のポリビニルアセタール樹脂においては、ポリビニルブチラールであることが好ましい。
【0014】
そして、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して70〜88mol%であることが好ましい。
【0015】
そして、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂においては、可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。
【0016】
そして、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂においては、ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤が含まれないことが好ましい。
【0017】
そして、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂においては、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られたスラリーのpHを6〜8に調整した後に乾燥処理を施して得られたものであることが好ましい。
【0018】
そして、本発明では、ポリビニルアセタール樹脂の水分率は0.005〜2%に調整されていることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明は、前記熱成形用ポリビニルアセタール樹脂からなる成形体およびフィルムを含むものである。
【0020】
さらに、本発明は、粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmである熱成形用ポリビニルアセタール樹脂を用いて熱成形を行なう成形体の製造方法である。
【0021】
そして、可塑剤の含有量をポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して20質量部以下に調整して熱成形を行なうことが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、粘度平均重合度が500〜2000で、けん化度が99.5mol%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化して得られ、アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰り返し単位に対して65〜88mol%で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1〜50ppmである熱成形用ポリビニルアセタール樹脂を用いて熱成形を行なうフィルムの製造方法である。
【0023】
そして、可塑剤の含有量をポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下に調整して熱成形を行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来からポリビニルアセタール樹脂が有する成形物の強度・弾性率や表面硬度、表面の平滑性、透明度等についての物性を損なうことなく、熱安定性に優れ、かつ耐熱性に優れた成形物の提供が可能な熱成形用ポリビニルアセタール樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリビニルアセタール樹脂は、例えば、化学式(1)に表される繰り返し単位を有する樹脂である。
【0026】
【化1】
【0027】
化学式(1)中、nは、アセタール化に用いたアルデヒドの種類の数(自然数)であり、R
1、R
2、・・・、R
nはアセタール化反応に用いたアルデヒドのアルキル残基または水素原子である。k
(1)、k
(2)、・・・、k
(n)はそれぞれR
1、R
2、・・・、R
nを含むアセタール単位の割合(mol比)、lはビニルアルコール単位の割合(mol比)、mは酢酸ビニル単位の割合(mol比)である。ただし、k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n)+l+m=1であり、k
(1)、k
(2)、・・・、k
(n)、l、及びmはいずれかがゼロであってもよい。各繰り返し単位は、化学式(1)に示す配列順序に制限されるわけではなく、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと略記することもある)とアルデヒドとを反応させることによって得ることができる。
【0029】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるPVAは、PVAのホモポリマーは勿論のこと、例えば、他の単量体を共重合した変性PVA、又は、末端変性および後変性により官能基を導入した変性PVAも包括するものである。
【0030】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は500〜2000であり、800〜1700であることが好ましく、1000〜1500であることがより好ましい。PVAの重合度が500未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の力学物性が不足し、特に靭性が不足する場合がある。一方、PVAの重合度が2000を超えると、ポリビニルアセタール樹脂として熱成形する際の溶融粘度が高くなり、成形物の製造が困難になる。
【0031】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から一般式(i)により求められるものである。
【数1】
【0032】
PVAのけん化度は99.5mol%以上であり、99.7mol%以上であることが好ましく、99.9mol%以上であることが特に好ましい。けん化度が99.5mol%未満の場合には、得られるポリビニルアセタール樹脂の熱安定性が十分ではなく、熱分解や架橋ゲル化によって安定な溶融成形を行うことが困難な場合がある。
【0033】
PVAは、その製法によって特に限定されず、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを生産性よく得ることができる点で酢酸ビニルが好ましい。
【0034】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等のオキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類またはそのエステル化物、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。
【0035】
これらの単量体の含有量は、変性PVAを構成する全単位のmol数を100%とした場合、通常は、その20mol%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01mol%以上が上記共重合単位であることが好ましい。
【0036】
本発明で使用するPVAの製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜200℃の範囲が適当である。
【0037】
次にPVAをけん化する際に触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが挙げられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。
【0038】
けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
【0039】
洗浄液の量としては、アルカリ金属の含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0040】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属の含有割合は、PVA100質量部に対して0.00001〜1質量部が好ましく、0.0001〜0.1質量部であることがより好ましい。アルカリ金属の含有割合が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。また、アルカリ金属の含有量が1質量部より多い場合には、得られるポリビニルアセタール樹脂中に残存するアルカリ金属の含有量が多くなり、分解、ゲル化により安定に溶融成形することができない場合がある。なお、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属の含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0041】
次にポリビニルアセタール樹脂の製造方法について説明する。
【0042】
ポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるアルデヒドは特に制限されない。例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらアルデヒドのうち、製造の容易度の観点から、ブチルアルデヒドを主体とするものが好ましい。
【0043】
ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化を、ブチルアルデヒドを主体とするアルデヒドで行って得られるポリビニルアセタール樹脂を特にポリビニルブチラールと呼ぶ。本発明では、ポリビニルアセタール樹脂中に存在するアセタール単位のうち、ブチラール単位の割合(下式参照)が0.9を超えるポリビニルブチラールが好ましい。すなわち、化学式(1)に示すポリビニルアセタール樹脂の構造式において、R
1=C
3H
7(ブチルアルデヒドのアルキル残基)であるとき、k
(1)/(k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n))>0.9であるものが好ましい。
【0044】
ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとの反応(アセタール化反応)は、公知の方法で行うことができる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂の水溶液とアルデヒドとを酸触媒の存在下、アセタール化反応させて樹脂粒子を析出させる水媒法、ポリビニルアルコール樹脂を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドとアセタール化反応させ、この反応液をポリビニルアセタール樹脂に対して貧溶媒である水等により析出させる溶媒法などが挙げられる。
【0045】
上記酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;炭酸ガス等の水溶液にした際に酸性を示す気体、陽イオン交換体や金属酸化物等の固体酸触媒などが挙げられる。
【0046】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度、つまり、アセタール化されたビニルアルコール単位の合計の、全繰返し単位に対する割合(モル%)は、65〜88モル%であり、70〜86モル%であることが好ましく、72〜86モル%であることがより好ましく、75〜84モル%であることがさらに好ましい。アセタール化度が65mol%未満のポリビニルアセタール樹脂は、熱安定性が十分ではなく、また溶融加工性が乏しい。アセタール化度が88mol%を超えるポリビニルアセタール樹脂は、製造が非常に困難であり、アセタール化反応に長時間を要するので製造コストが高くなる。なお、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度(mol%)は、以下の式(ii)で定義することができる。
【数2】
【0047】
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、JIS K6728(1977年)に記載の方法に則って、ビニルアルコールユニットの質量割合(l
0)および酢酸ビニルユニットの質量割合(m
0)を滴定によって求め、ビニルアセタールユニットの質量割合(k
0)をk
0=1−l
0−m
0によって求め、これからビニルアルコールユニットのmol割合(l)および酢酸ビニルユニットのmol割合(m)を計算し、k=1−l−mの計算式によりビニルアセタールユニットのmol割合(k=k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n))を計算し、アセタール化度をアセタール化度(mol%)={k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n)}/{k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n)+l+m}×100によって求めても良いし、ポリビニルアセタール樹脂を重水素化ジメチルスルフォキサイドに溶解し、
1H−NMR、または
13C−NMRを測定して算出しても良い。
【0048】
ブチルアルデヒドでアセタール化された割合は特にブチラール化度と呼ばれる。化学式(1)に示すポリビニルアセタールの構造式において、R
1=C
3H
7(ブチルアルデヒドのアルキル残基)であるとき、ブチラール化度は一般式(iii)で定義される。
【数3】
【0049】
本発明で用いられるポリビニルブチラール樹脂は、ブチラール化度が65〜83mol%であることが好ましく、70〜83mol%であることがさらに好ましい。すなわち、0.65≦k
(1)≦0.83であることが好ましく、0.70≦k
(1)≦0.83であることがさらに好ましい。ブチラール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタール樹脂を用いると、力学特性、特に靭性に優れ、成形物を容易に且つ安価に得ることができる。
【0050】
また、本発明のポリビニルアセタール樹脂には、化学式(2)に表される繰り返し単位を有する樹脂も含まれる。
【0051】
【化2】
【0052】
化学式(2)中、R
3はアセタール化反応に用いた炭素数3以下のアルデヒドに由来する炭化水素基または水素原子、R
4はアセタール化反応に用いた炭素数4以上のアルデヒドに由来する炭化水素基(なお、炭化水素基R
3およびR
4の炭素数は、アセタール化反応に用いたアルデヒドの炭素数から1を引いた整数iとなる。iがゼロのときはR
3は水素原子である。つまり、R
3は炭素数2以下の炭化水素基であり、R
4は炭素数3以上の炭化水素基となる。ここで、R
3およびR
4はあらゆる炭化水素基を含む概念であり、飽和または不飽和であってもよく、これらが環状、直鎖状または分枝状であってもよい。また、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の酸素原子を有する官能基あるいは、その他の原子を有する官能基等で修飾されていてもよい。)、k
(3)は炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合、k
(4)は炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合、lはアセタール化されていないビニルアルコール単位のモル割合、mは酢酸ビニル単位のモル割合である。ただし、k
(4)およびmはゼロであってもよい。各単位は、化学式(2)に示す配列順序によって特に制限されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。
【0053】
次に化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂の製造方法について説明する。化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂は、上述したPVAをアルデヒドと反応させることによって得ることができる。
【0054】
化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられる炭素数3以下のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒドが挙げられる。これら炭素数3以下のアルデヒドは1種単独で、もしくは2種類以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数3以下のアルデヒドのうち、製造の容易さ及び耐熱性の観点から、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)を主体とするものが好ましく、アセトアルデヒドが特に好ましい。
【0055】
化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられる炭素数4以上のアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらの炭素数4以上のアルデヒドは1種単独で、もしくは2種類以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数4以上のアルデヒドのうち、製造の容易さの観点から、ブチルアルデヒドを主体とするものが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられる炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドの組み合わせとしては、製造の容易さ、耐熱性及び力学物性の観点から、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドが好ましい。
【0056】
化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂において、アセタール化されたビニルアルコール単位の合計は、全繰返し単位に対して65〜88モル%であり、70〜86モル%であることが好ましく、72〜86モル%であることがより好ましく、75〜84モル%であることがさらに好ましい。アセタール化されたビニルアルコール単位の合計が全繰返し単位に対して65モル%未満のポリビニルアセタール化樹脂は、熱安定性が十分ではなく、また溶融加工性が乏しい。一方、88mol%を超えるポリビニルアセタール樹脂は、製造が非常に困難であり、アセタール化反応に長時間を要するので製造コストが高くなる。なお、繰返し単位のモル%は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位など)を一繰返し単位として計算されたものである。例えば、化学式(2)に示すポリビニルアセタール樹脂では、全繰返し単位{k
(3)+k
(4)+l+m}に対する、炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル%(k
(AA))が、式:k
(3)/{k
(3)+k
(4)+l+m}×100によって求められ、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル%(k
(BA))が、式:k
(4)/{k
(3)+k
(4)+l+m}×100によって求められ、アセタール化されていないビニルアルコール単位のモル%(k
(VA))が、式:l/{k
(3)+k
(4)+l+m}×100によって求められ、酢酸ビニル単位のモル%(k
(AV))が、式:m/{k
(3)+k
(4)+l+m}×100によって求められる。
【0057】
化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂は、力学物性および耐熱性の観点から、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比は90/10〜0/100であり、80/20〜0/100であることが好ましく、50/50〜0/100であることがより好ましく、40/60〜1/99であることが特に好ましい。このようなポリビニルアセタール樹脂を用いることで、ポリビニルアセタール樹脂が本来有している強度・弾性率や表面硬度、表面の平滑性、透明度などの特長を保持しつつ、力学物性および耐熱性に優れた成形物を得ることができる。
【0058】
ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとの反応(アセタール化反応)は、公知の方法で行うことができる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂の水溶液とアルデヒドとを酸触媒の存在下、アセタール化反応させて樹脂粒子を析出させる水媒法、ポリビニルアルコール樹脂を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドとアセタール化反応させ、この反応液をポリビニルアセタール樹脂に対して貧溶媒である水等により析出させる溶媒法などが挙げられる。
【0059】
アセタール化に用いられるアルデヒドは、すべてを同時に仕込んでも良いし、1種類ずつを別々に仕込んでも良い。アルデヒドの添加順序および酸触媒の添加順序を変えることで、ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアセタール単位のランダム性を変化させることができる。
【0060】
また、上記酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;炭酸ガス等の水溶液にした際に酸性を示す気体、陽イオン交換体や金属酸化物等の固体酸触媒などが挙げられる。
【0061】
化学式(2)で表される繰り返し単位を有するポリビニルアセタール樹脂の総アセタール化度は、JIS K6728(1977年)に記載の方法に則って、アセタール化されていないビニルアルコール単位の質量割合(l
0)および酢酸ビニル単位の質量割合(m
0)を滴定によって求め、アセタール化されたビニルアルコール単位の質量割合(k
0)をk
0=1−l
0−m
0によって求め、これからアセタール化されていないビニルアルコール単位のmol割合(l)および酢酸ビニル単位のmol割合(m)を計算し、k=1−l−mの計算式によりアセタール化されたビニルアルコール単位のmol割合(k)を計算し、総アセタール化度(mol%)=k/{k+l+m}×100によって求めても良いし、ポリビニルアセタール樹脂を重水素化ジメチルスルフォキサイドに溶解し、
1H−NMR、または
13C−NMRを測定して算出しても良い。
【0062】
上述したように、ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合は特にブチラール化度と呼ばれる。また、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合は特にアセトアセタール化度と呼ばれる。さらに、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合はホルマール化度と呼ばれる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒド、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドでアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂において、ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk
(BA)、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk
(AA)、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk
(FA)、アセタール化されていないビニルアルコール単位のモル割合をl、および酢酸ビニル単位のモル割合をmであるとしたとき、ブチラール化度は、式:k
(BA)/{k
(BA)+k
(AA)+k
(FA)+l+m}×100で求められる。アセトアセタール化度は、式:k
(AA)/{k
(BA)+k
(AA)+k
(FA)+l+m}×100で求められる。ホルマール化度は、式:k
(FA)/{k
(BA)+k
(AA)+k
(FA)+l+m}×100で求められる。
【0063】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、けん化度が99.5mol%以上のPVAをアセタール化することにより得られるから、そのビニルエステル単位の含有量は0.5mol%以下である。ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有量は0.5mol%以下であり、0.3mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以下であることが特に好ましい。ビニルエステル単位の含有量が0.5mol%を超える場合は、ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性が十分ではなく、熱分解や架橋ゲル化によって安定な溶融成形を行うことが困難になる。
【0064】
また、アセタール化により重合度が変化することはないため、ポリビニルアルコール樹脂と、そのポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂の重合度は同じである。本発明のポリビニルアセタール樹脂は、重合度が500〜2000のPVAをアセタール化することにより得られるため、その重合度も500〜2000である。ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、800〜1700であることが好ましく、1000〜1500であることがより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の重合度が500未満であると、ポリビニルアセタール樹脂の力学物性が不足し、特に靭性が不足する場合があり、重合度が2000を超えると、熱成形する際の溶融粘度が高くなり、成形物の製造が困難になる。
【0065】
水媒法及び溶媒法等において生成したスラリーは、通常、酸触媒によって酸性を呈している。本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造する際に、該スラリーのpHを6〜8に調整することが好ましく、pHを6.5〜7.5に調整することがより好ましい。スラリーのpHが6より小さい場合には、酸によりポリビニルアセタール樹脂の分解や架橋が起こり、安定な成形品を得ることができない場合がある。一方、スラリーのpHが8を超える場合には、ポリマー劣化が進行し、成形品の着色等を引き起こす場合がある。
【0066】
pHを調整する方法としては、該スラリーの水洗を繰り返して調整する方法、該スラリーに中和剤を添加して調整する方法、アルキレンオキサイド類等を添加する方法などが挙げられる。
【0067】
また、上記の中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物や水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アンモニア、アンモニア水溶液が挙げられる。アルキレンオキサイド類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0068】
次に、残存する触媒や中和剤の残渣、未反応アルデヒドおよび副生物等の影響について説明する。
【0069】
ポリビニルアセタール樹脂中に上記の残渣が多量に残存すると、ポリマー劣化を引き起こし、安定な熱成形を行うことができない場合がある。中でも中和剤として使用される化合物に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属は熱分解を引き起こしやすく、多量に残存すると激しいポリマー分解や架橋ゲル化を引き起こし、安定な溶融成形を行うことができない場合がある。具体的には、ポリビニルアセタール樹脂中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は0.1〜50ppmであり、0.1〜10ppmであることが好ましく、0.1〜1ppmであることが特に好ましい。なお、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.1ppm未満のものは工業的に製造が難しく、洗浄に長時間を要するので製造コストが高くなる。
【0070】
上記の残渣を除去する方法は特に制限されず、洗浄液としては、水および水にメタノールやエタノール等のアルコールを加えた混合液等が用いられ、脱液と洗浄を繰り返すなどの方法が通常用いられる。中でも、ポリビニルアセタール樹脂を中和した後に、水/アルコール(メタノール、エタノール等)の混合溶液で、pHが6〜8になるまで、好ましくはpHが6.5〜7.5になるまで、脱液と洗浄を繰り返す方法が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を効率よく低減でき、本発明のポリビニルアセタール樹脂を安定に製造することができる点で好ましい。水/アルコールの混合比率は、質量比で50/50〜95/5であることが好ましく、60/40〜90/10であることがより好ましい。50/50より水の割合が少なくなると、ポリビニルアセタール樹脂の混合液中への溶出が多くなる場合があり、95/5より水の割合が多くなると、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を効率よく除去できなくなり、本発明のポリビニルアセタール樹脂を得ることが困難になり、安定な熱成形を行うことができない傾向にある。
【0071】
残渣等が除去された含水状態のポリビニルアセタール樹脂は、必要に応じて乾燥され、必要に応じてパウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工され、成形材料として供される。パウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工される際に、減圧状態で脱気することにより未反応アルデヒドや水分などを低減しておくことが好ましい。
【0072】
また、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、水分率が0.005〜2%に調整されていることが好ましく、0.01〜1%に調整されていることがより好ましい。水分率が0.005%未満のものは製造が難しく、過度な熱履歴を経るため、着色を起こすなど品質が低下する場合がある。一方、水分率が2%を超えると、通常の成形方法では安定な熱成形を行うことが困難な場合がある。なお、水分率はカールフィッシャー法で測定することができる。
【0073】
さらに、本発明のポリビニルアセタール樹脂の正弦波振動10Hzおよび昇温速度3℃/min.の条件で測定した主分散ピーク温度Tαは85℃〜125℃であることが好ましく、90℃〜120℃であることがより好ましい。Tαが85℃未満の場合、耐熱性に優れた成形物の提供が難しい場合がある。一方、Tαが125℃を超えると成形加工性が低下する場合があり、使用範囲が制限される場合がある。
【0074】
本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂は、必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、艶消し剤などが配合されていてもよい。なお、得られる成形物やフィルムの力学物性および表面硬度の観点から軟化剤や可塑剤は多量には含まないことが好ましい。
【0075】
本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂に含まれる可塑剤は、ポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、可塑剤が20質量部以下であり、10質量部以下であることが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤が含まれないことがより好ましい。可塑剤が20質量部より多くなると、可塑剤がブリードアウトし、得られる成形品やフィルムに悪影響を及ぼしやすくなる。本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂に含まれる可塑剤としては、一価カルボン酸エステル系、多価カルボン酸エステル系などのカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、有機亜リン酸エステル系可塑剤などのほか、カルボン酸ポリエステル系、炭酸ポリエステル系、また、ポリアルキレングリコール系などの高分子可塑剤も使用することができる。これら可塑剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、可塑化効果に優れている点で、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジn−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールn−ヘプタノエートが好ましい。
【0076】
さらに、耐候性を向上させる目的で紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤の種類は特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、または、トリアジン系のものが好ましい。紫外線吸収剤の添加量は、熱成形用ポリビニルアセタール樹脂に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0077】
本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、粉体形状やペレット形状の成形材料として使用される。そして、この成形材料を用いて、押出成形、射出成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、トランスファー成形、回転成形、パウダースラッシュ等公知の成形方法を行うことによって様々な成形体を製造することができる。
【0078】
さらに、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの公知の混練機を用いて、他の樹脂と溶融状態で混練して用いることも可能である。これら混練機のうち、生産性に優れ、大きなせん断力が得られることから、二軸押出機が好ましい。
【0079】
本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂を他の樹脂との溶融混練に用いる場合、他の樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルおよびその共重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルおよびその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンおよびその共重合体、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート等のポリアルキルメタクリレートおよびその共重合体、ポリオキシメチレンおよびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびエチレン−ビニルアルコール共重合体等を挙げることができる。他の樹脂と混練した場合のポリビニルアセタール樹脂と他の樹脂の合計に対するポリビニルアセタール樹脂の割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の割合が1質量%未満となると、ポリビニルアセタール樹脂が有する物理的性質が得られにくく、ポリビニルアセタール樹脂の配合効果が低下する傾向にある。
【0080】
また、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂は、Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法等の溶融押出成形法または射出成形法により、透明性および力学物性に優れたフィルムおよび成形物を得ることが可能である。特にフィルム状成形体を得るためには、経済性の観点等からTダイ法が好ましく用いられる。
【0081】
溶融押出を行うにあたっての好ましい樹脂温度は、150〜250℃である。溶融押出後は、成形体を急速に冷却することが好ましい。例えば、押し出された直後のフィルム状成形体を冷却ロールに接触させて急速冷却することが好ましい。
【0082】
本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂から得られるフィルムは、単層フィルムであっても良いし、他の樹脂や基材との積層体であってもよい。積層体では、本発明の熱成形用ポリビニルアセタール樹脂から成るフィルムを内層またはその一部に用いてもよいし、最外層に用いてもよい。フィルムの積層数に関しては特に制限はない。
【0083】
積層体の製造方法は特に限定されないが、共押出し法により直接多層フィルムを製造する方法、単層で作製したフィルムを貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0084】
本発明の熱成形性ポリビニルアセタール樹脂は、各種の成形物に適用することができる。用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品やマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓等の機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板等の光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁等の交通関係部品;その他、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスク;パソコン、携帯電話、家具、自動販売機、浴室部材などに用いる表面材料等が挙げられる。
【実施例】
【0085】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
[ポリビニルアセタール樹脂の分析方法]
(1)アセタール化度
JIS−K6728(1977年)に従って測定した。まず、ビニルアルコールユニットの質量割合(l
0)および酢酸ビニルユニットの質量割合(m
0)を後述の方法によって求め、さらに、ビニルアセタールユニットの質量割合(k
0)をk
0=1−l
0−m
0によって求めた。
【0087】
次に、l=(l
0/44.1)/(l
0/44.1+m
0/86.1+2k
0/Mw(acetal)およびm=(m
0/44.1)/(l
0/44.1+m
0/86.1+2k
0/Mw(acetal)を計算によって求め、k=1−l−mの計算式によりビニルアセタールユニットの割合(k=k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n))を計算し、最後に、アセタール化度をアセタール化度(mol%)={k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n)}/{k
(1)+k
(2)+・・・+k
(n)+l+m}×100によって求めた。
【0088】
ここで、Mw(acetal)はアセタール化ユニットひとつあたりの分子量であり、例えば、ポリビニルブチラールのとき、Mw(acetal)=Mw(butyral)=142.2である。
【0089】
また、ブチルアルデヒドとその他のアルデヒドとで共アセタール化した場合は、
1H−NMR、または
13C−NMRを測定し、各々のアセタール化度(mol%)を算出することができる。
【0090】
(2)ビニルアルコールユニットおよび酢酸ビニルユニットの質量割合(l
0およびm
0)
ポリビニルアセタール樹脂約0.4gを共せん付き三角フラスコに正確に量りとり、ピリジン/無水酢酸(体積比92/8)の混合液10mlをピペットで加えて溶解し、冷却器をつけて温度50℃の水浴上で120分間加熱した。冷却後ジクロロエタン20mlを加えてよく振り混ぜ、さらに水50mlを加え、栓をして激しく振り混ぜた後、30分間放置した。生成した酢酸をN/2水酸化ナトリウム溶液でフェノールフタレインを指示薬として激しく振り混ぜながら微紅色をするまで滴定し、その滴定量をa(ml)とする。別にブランク試験を行い、これに要したN/2水酸化ナトリウム溶液の滴定量をb(ml)とし、次の一般式(iv)により求めた。
【数4】
【0091】
一般式(iv)中の、s
1:ポリビニルアセタール樹脂の質量、P
l:純分(%)、F
l:N/2水酸化ナトリウム溶液の力価である。
【0092】
また、ポリビニルアセタール樹脂約0.4gを共せん付き三角フラスコに正確に量りとり、エタノール25mlを加えて85℃で溶解し、N/10水酸化ナトリウム溶液5mlをピペットでよく振り混ぜながら加え、冷却器をつけて温度85℃の水浴中で60分間還流させた。冷却後、N/10塩酸5mlをピペットで加えてよく振り混ぜ、30分間放置した。過剰の塩酸をN/10水酸化ナトリウム溶液でフェノールフタレインを指示薬として微紅色を呈するまで滴定し、その滴定量をc(ml)とした。別にブランク試験を行い、これに要したN/10水酸化ナトリウム溶液の滴定量をd(ml)として、次の一般式(v)により求めた。
【数5】
【0093】
一般式(v)中の、s
m:ポリビニルアセタール樹脂の質量、P
m:純分(%)、F
m:N/10水酸化ナトリウム溶液の力価である。
【0094】
(3)アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量
ポリビニルアセタール樹脂を、白金るつぼ及びホットプレートで炭化し、次いで電気炉で灰化し、残渣を酸に溶解して、原子吸光光度計を用いて測定した。
【0095】
[ポリビニルアセタール樹脂フィルムの分析方法]
(4)YI、可視光線透過率
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U−4100を用い、厚さ100μmのフィルムについて測定した。可視光線透過率は、波長380〜780nmにおける透過率を測定し、JIS−R3106に従って算出した。
【0096】
(5)ヘイズ
厚さ100μmのフィルムについて、JIS−K7136に従って測定した。
【0097】
(6)ブツの数
偏光顕微鏡および蛍光顕微鏡を用い、厚さ100μm、サイズ10cm×10cmのフィルムについて、ポリビニルアセタール樹脂由来のブツの数をカウントした。
【0098】
(7)成形性
熱成形時の溶融樹脂の粘度、得られるフィルムの強度等の観点から、連続して、安定してフィルムを製造することができるか否かの評価を行なった。
【0099】
実施例1
重合度1000、けん化度99.5mol%のポリビニルアルコール樹脂(500g)を純水(5250g)に加熱溶解し、12℃に冷却した後、60質量%の硝酸(365g)とブチルアルデヒド(269g)を添加し、2時間保持して反応生成物を析出させた。その後、反応系を45℃で3時間保持して反応を完了させ、過剰の水でpH=6になるまで洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、水/メタノール=80/20(質量比)の混合液でpH=7になるまで繰り返し洗浄し、水分率が1.0%になるまで乾燥することにより、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。なお、水分率はカールフィッシャー法により測定した。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は76mol%、ポリビニルアセタール樹脂中のナトリウム含有量は5ppmであった。なお、アセタール化度は上で述べた(1)の方法で、ナトリウム含有量は上で述べた(3)の方法で求めた。
【0100】
上記のポリビニルアセタール樹脂を、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル(20mmφ二軸、L/D=28)を用い、シリンダー温度220℃、スクリュー回転数100rpmで溶融押出することにより、ポリビニルアセタール樹脂ペレットを作製した。得られたペレットについて、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル(25mmφ単軸、L/D=28)を用い、幅300mmのTダイより、シリンダー温度およびTダイ温度220℃、スクリュー回転数20rpmで押出成形することにより、厚さ100μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムを作製した。
【0101】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムについて、上で述べた(4)、(5)の方法で、YI、可視光線透過率、ヘイズを評価した結果を表1に示す。また、ペレット投入開始から1時間後および6時間後のフィルムを採取し、上で述べた(6)の方法で、ブツの数をカウントした結果を表1に示す。開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの増加がみられたものの、フィルムの状態は変化なく良好であった。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例2〜4
実施例1で用いたポリビニルアルコール樹脂の代わりに、表1に記載するポリビニルアルコール樹脂を用い、適宜反応条件を調整して表1に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例1と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
実施例5〜10
実施例1で用いたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、適宜反応条件を調整して表1に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例1と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例5および8〜10についてはアセタール化後の反応系を過剰の水でpH=6になるまで洗浄し、次いで水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水/メタノール=80/20(質量比)の混合液で所定のpHになるまで洗浄したが、実施例6では、洗浄水および水酸化ナトリウム水溶液の量を減らすことによってポリビニルアセタール樹脂のスラリーのpHを5に調整した。一方、実施例7では、水酸化ナトリウム水溶液を過剰量用いることによりポリビニルアセタール樹脂のスラリーのpHを9に調整した。
【0105】
実施例11
実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、可塑剤として、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエートを10質量部添加した。可塑剤を添加して得られたポリビニルアセタール樹脂について、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル(25mmφ単軸、L/D=28)を用い、幅300mmのTダイより、シリンダー温度およびTダイ温度220℃、スクリュー回転数20rpmで押出成形することにより、厚さ100μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムを作製した。作製したフィルムについて実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0106】
比較例1〜3
実施例1で用いたポリビニルアルコール樹脂の代わりに、表1に記載するポリビニルアルコール樹脂を用い、適宜反応条件を調整して表1に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例1と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
比較例1については、重合度360のポリビニルアルコール樹脂を用い、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、フィルムの強度が小さく、脆いため、安定に引き取りを継続することができず、連続してフィルムを製造することができなかった。逆に比較例2については、重合度2400のポリビニルアルコール樹脂を用い、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、溶融樹脂の粘度が大きく、Tダイから安定に樹脂を吐出することができないため、引き取りを継続することができず、またトルクも徐々に上昇し、連続してフィルムを製造することができなかった。また、比較例3については、けん化度98.5mol%のポリビニルアルコール樹脂を用い、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が増加し、フィルムの状態が悪化した。
【0108】
比較例4、5
実施例1で用いたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、適宜反応条件を調整して表1に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例1と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
比較例4については、アセタール化度55mol%のポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が大幅に増加し、フィルムの状態が悪化した。また、比較例5については、ナトリウム含有量80ppmのポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が大幅に増加し、フィルムの状態が悪化した。
【0110】
[ポリビニルアセタール樹脂の分析方法]
(8)組成
ポリビニルアセタール樹脂の組成は、
13C−NMRスペクトルを測定することで、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k
(BA))および炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k
(AA))、アセタール化されていないビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k
(VA))、そして酢酸ビニル単位の全繰返し単位に対するモル%(k
(AV))を算出した。
【0111】
(9)主分散ピーク温度(Tα)
株式会社レオロジ製、DVE RHEOSPECTOLER DVE−V4を用いて、長さ20mm×幅3mm×厚さ200μmの試験片を、チャック間距離10mm、正弦波振動10Hzおよび昇温速度3℃/min.の条件で測定し、損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度(Tα)を求めた。
【0112】
実施例12
重合度1000、けん化度99.5mol%のポリビニルアルコール樹脂(500g)を純水(5250g)に加熱溶解し、12℃に冷却した後、60質量%の硝酸(365g)とブチルアルデヒド(216g)およびアセトアルデヒド(27g)を添加し、2時間保持して反応生成物を析出させた。その後、反応系を45℃で3時間保持して反応を完了させ、過剰の水でpH=6になるまで洗浄し、次いで水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、水/メタノール=80/20(質量比)の混合液でpH=7になるまで繰り返し洗浄し、水分率が1.0%になるまで乾燥することにより、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。なお、水分率はカールフィッシャー法により測定した。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は78mol%、k
(BA)/k
(AA)=84/16、ポリビニルアセタール樹脂中のナトリウム含有量は5ppm、主分散ピーク温度Tαは90℃であった。なお、ナトリウム含有量については実施例1と同様の方法で、アセタール化度及び主分散ピーク温度Tαについては、それぞれ上で述べた(8)、(9)の方法で求めた。
【0113】
上記のポリビニルアセタール樹脂を、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル(20mmφ二軸、L/D=28)を用い、シリンダー温度220℃、スクリュー回転数100rpmで溶融押出することにより、ポリビニルアセタール樹脂ペレットを作製した。得られたペレットについて、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル(25mmφ単軸、L/D=28)を用い、幅300mmのTダイより、シリンダー温度およびTダイ温度220℃、スクリュー回転数20rpmで押出成形することにより、厚さ100μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムを作製した。
【0114】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムについて、実施例1と同様の方法で、YI、可視光線透過率、ヘイズを評価した結果を表2に示す。また、ペレット投入開始から1時間後および6時間後のフィルムを採取し、実施例1と同様の方法で、ブツの数をカウントした結果についても表2に示す。開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの増加がみられたものの、フィルムの状態は変化なく良好であった。
【0115】
【表2】
【0116】
実施例13〜15
実施例12で用いたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、適宜反応条件を調整して表2に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例12と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表2に示す。
【0117】
実施例16
実施例12で用いたポリビニルアルコール樹脂の代わりに、表2に記載するポリビニルアルコール樹脂を用い、適宜反応条件を調整して表2に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例12と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表2に示す。
【0118】
実施例17
実施例12で用いたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、適宜反応条件を調整して表2に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例12と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
比較例6
実施例12で用いたポリビニルアルコール樹脂の代わりに、表2に記載するポリビニルアルコール樹脂を用い、適宜反応条件を調整して表2に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例12と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表2に示す。
【0120】
比較例6については、けん化度98.5mol%のポリビニルアルコール樹脂を用い、ポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が増加し、フィルムの状態が悪化した。
【0121】
比較例7
実施例12で用いたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、適宜反応条件を調整して表2に示すポリビニルアセタール樹脂を作製する以外は、実施例12と同様にして、ペレットおよびフィルムの成形、評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
比較例7については、ナトリウム含有量78ppmのポリビニルアセタール樹脂を作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が大幅に増加し、フィルムの状態が悪化した。